慕情の代償


1 :E.H :2008/07/13(日) 11:38:54 ID:n3oJtJPH

イノセンスのハスリカ小説。
リカルドの額に傷ができたわけ的なものをほうりこんでみた。

ハスタ同盟・テイルズファンの皆様方へ愛をこめて。


2 :E.H :2008/07/13(日) 11:39:50 ID:n3oJtJPH

それでも奴を護りたかった (1)

 砂煙と共に、足元に銃弾が撃ち込まれる。
 それを合図にして奴は防護壁代わりに積んであった物資の陰から飛び出した。
 「エクステルミ! 戻れ!」
 張り上げた声は激しい銃声にかき消されて奴の耳まで届かない。いや、単に奴が聞く気が無いのかもしれない。とにかく奴は敵兵の真っ只中に躍り込んだ。
 あんな中にひとりで飛び込んでいくなどあまりにも無謀だ。無謀すぎる。援護射撃をしようとライフルの照準を敵兵のひとりに合わせたとき、別方向からの射撃を受け俺は咄嗟に身を屈めた。
 銃声がやんだ。
 物資の箱の陰から顔を出すと、奴もこちらを振り向くところだった。
 まだ幼さの面影が残る顔と白いシャツの胸元を血に染めて、奴は俺に満足そうな笑顔を向けた。奴の足元には血を振りまいて絶命した兵士達の死体が幾つも転がっていた。
 「…エクステルミ」
 俺は物資の陰から出て、血の付着した三叉槍を振り回している奴に近づきながら言う。
 「んー? 何ぃ?」
 「部隊命令は絶対だ。必ず守れと言っただろう」
 うーん、と奴は三叉槍を構えたまま大きく伸びをして、
 「でもまあ結果的に良かったんだからいーでしょ」
 よくない。
 俺はお前の身を案じて言っているのだ。
 しかしそんな事を言ったところで奴にはきっと通じまい。
 奴の年齢は17。俺は22だ。並ぶとわずかに俺のほうが背が高いがほとんどかわらない。あと数年もすれば長身の俺を奴は追い抜くだろう。
 奴はこの傭兵部隊で最年少にも関わらず、ここ数日の戦闘でかなりの活躍をしていた。
 たまには誉めてやろうと口を開きかけたその時、
 一発の乾いた銃声が鳴り響いた。
 驚きに目を見開いた奴の姿が消える。――いや違う、奴の身体は宙を舞い、背後に口をあける峡谷へと落下した。
 「エクステルミ!!」
 叫び、頭がものを考える前に動いていた。
 奴を追って峡谷に身を躍らせ、空中で奴を抱きかかえながら自分の身体が下になるよう重心を移動させた。
 耳の横で風が鳴っている。
 こいつは絶対俺が守る。
 硬い岩肌から奴を庇おうと奴の身体に回した手に力を込めた瞬間、背中に強烈な衝撃を受けて俺は意識を失った。


3 :E.H :2008/07/13(日) 11:54:17 ID:n3oJtJPH

それでも奴を護りたかった (2)

 意識が戻ってきたとき、何かが俺の胸の上に乗っていた。
 「…?」
 首をあげ、俺の上に乗っているものの正体を確かめようとすると、身体の芯に激痛が走った。
 思わず呻きを漏らす。
 岩角に打ち付けた背中がひどく痛む。それにくわえ、身体の上に乗っているモノの重み。
 なんなんだ一体。
痛みをこらえながらもう一度首を上げてそれを見た。
視界の隅にピンクの髪がうつった。
(! まさか…)
厭な予感が的中した。
奴だった。

我が目を疑った。俺は悪い夢を見ているんだと思いたかった。
けれど胸の上の重みは紛れもなく本物で、目の前の出来事も現実だった。
奴は堅く目を閉じてぴくりとも動かない。
顔に傷はない。綺麗なままのまるで眠っているような安らかな表情。
動けない俺の上で、奴は俺の胸に身体をあずけるようにうつ伏せに倒れていた。
(そんな…)
落下中、気を失う寸前の感覚が甦る。
奴がしがみついてくる感覚。落ちる恐怖に強張った腕。
地に叩きつけられる直前まで奴は俺を信じていてくれたのだ。
軽い。泣きたくなるほど軽い。そう思ったら本当に涙が溢れてきた。
「…ハスタ…っ」
無意識のうちに、いつもは呼ばないファーストネームで奴の名を呼んだ。

「…まだ死んでなんか、…ないんだポン」

「…!!」
奴が…顔をあげた。
「リ…カルド氏…オレ、どう…なったの?」
夢ではない。動いている。俺と言葉を交わしている。何でもいい。何でもいいから話すんだ。
「大丈夫だ。まだ生きてる、安心しろ」
良かった。
「よかった…」
奴は俺の胸に顔をうずめた。柔らかな髪が押し付けられ、その感触が服越しに俺に伝わってくる。
傭兵になってから幾つもの死と直面してきた。
自分が生み出す死。
自分がさらされる死。
傭兵になってから死はより一層身近なものとなっていた。
今までどうして死に悲しむことが無かったのだろう。

ありがとう。
ありがとうハスタ。
ありがとう生きていてくれて。
俺はもう一度奴を強く抱き締めた。


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