赤酸漿の鬼武者


1 :シルヴァイン :2008/08/17(日) 09:42:43 ID:ocsFWDYe

赤酸漿帰一(あかかがち きいつ)と言う名をもった、
どこの男にも負けぬ鬼武者の刀で爽快ぶった切りアクション。

十九を奪い、第二十の瞳を開け。


2 :シルヴァイン :2008/08/17(日) 09:45:14 ID:ocsFWDYe

赤酸漿の鬼武者・開始点

男が部屋へ入ってきた。
それを迎えた漆黒の髪を持つ、四十を過ぎたころの男は笑んで迎える。
部屋へ入ってきた男は盾と矛とを持っていた。

矛盾

己の名を表すように。
迎えた男は右腕を動かし、座るように指示。
「どうだった矛盾。意気揚揚と勝負してきたか?」
「…いえ。病葉の下っぱ共は、どうも骨がありません。
俺が少し暴れただけで、すぐに尻尾巻いて逃げました」
ふん、と迎えた男は面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「ああ、面白くねぇ。上等な戦がしてぇもんだ…
矛盾、お前の口直しだ。付き合ってやるから一戦やろうじゃねぇか?」
そう言って立ち上がるのを、矛盾と呼ばれる男は追う。
「待って下さい族長様…まだ鍛錬場は不軍達が…」
「族長様じゃねぇ。長刀と名で呼べと言ったはずだぞ。
唯一無二お前だけは…族長と呼ぶなといったはずだ。」
そう言われ、矛盾は暫く思案。
どうしていいか迷った後、まあ近くには誰もいまい、と思い言った。
「長刀様。何処で戦するつもりです?」
「庭だ庭。そこらの。何、俺とお前の勝負だぞ?木の一つも傷つけまい?」
そう言えば、矛盾は困ったように笑った。
「仕方がありませんな。我ら戦場の族長様は」
既に、対した男の手にはあった。
長い、刀が。
戦場長刀は、戦場矛盾と共に庭へ出た。
楽しく、愉しく遊ぶために。


戦場一族、それは大戦勝利族の一つ。
戦場一族、それは現代まで一度も魔道具を奪われていない、奇異なる一族。
戦場一族、それは
それは、十九族中最強と畏れられる戦闘一族。






太古の魔道士、筒井筒井筒〔つついづつ いづつ〕。
とんでもなくふざけた名をしたこの男は、期待に違わずとんでもなくふざけたものを遺した。
十九の、恐ろしい力を秘めた魔道具。
剣であったり刀であったり宝珠であったりするそれら

そして、第二十番目の《瞳》を。

筒井筒井筒の遺した十九の魔道具。
有するは十九の《族》。


さあ奪い合いなさい
さあ戦いなさいと神が唆す。
さあ殺しなさいと天が命じる。
さあ十九を手に入れろと己が叫ぶ。



二十番目の瞳を開き、この天下を手に入れ、十九族の頂点に立つは

何れか。





赤酸漿の鬼武者  アカカガチ ノ オニムシャ
第一斬『いくさばと ちしぶき』


3 :シルヴァイン :2008/09/08(月) 23:03:16 ID:scVcxAQD

赤酸漿の鬼武者・1-1

鬱蒼とした森の中を、駆ける女性がいた。
武者然とした出で立ち、濃紅の着物にやや淡い色合いの袴。
それに腰に一本の刀。
特に大きなものではなく、彼女の体躯に合わせたものだろう
髪は総髪に結いあげられた漆黒、ぎらりと光る瞳は刃と同じ銀。
彼女は女にしては背が高く、百七十センチを少し超えていた。
そのストライドを生かし、跳ねるように森の中を駆けてゆく。
追うのは漆黒の衣を着た敵。
待て、などと無駄な言葉を叫ぶ訳でもなく、ただ無言で追ってくる十数人。
――――後少し。
一人心の中で呟く。
もう少し、もう少しで彼女の帰るべき場所へとたどり着けるのだ。
「ッ!?」
しかしそれを遮るように正面、黒の姿が木の上より襲来。
「逃げ切られては困るのだ」
「…………」
頭か、と彼女は思考。その襲来に足を止めれば、すぐに合わせて六人が取り囲む。
反射的に手を腰の刀へやった。突破できるか否かとの問いではない。
ただ
――――何が何でも突破せねば!!
刀を抜こうとした時だった。
一瞬の音に彼女は手を止める。

「ぐぁっ!?」
「な…に…!?」

一瞬の音は風を切り進む音。
ひょう、との音を残し十数本の矢が飛来してきたのだ。
一発で彼らの刀を弾き、怯んだところを、心の臓を射抜く。
無駄も隙もない、高尚な弓術だった。

全ての敵が倒れ伏すと、ようやく『それ』は弓を携えて現れた。
痩身に、燃える赤の羽織、漆黒の衣、合わせた灰の袴。
空色のきつい瞳、黒曜を宿した長髪。
腰にある豪奢な金飾りの、赤い刀。
彼女は彼のその姿を認めると、すぐに拱手の礼を取った。
対する彼は頷き一つ。
「ご助力、感謝致します」
「気にするな………病葉〔わくらば〕の雑兵など、大した手間でもない」
つい、と不機嫌そうな瞳が細くなる。
「帰一〔きいつ〕、新たな任務を命じよう。
それこそ今お前を早急に呼び戻した理由だ。
…………長い、長い任務になるやもしれんが」
彼女はあくまで冷静に、淡々と答える。
「なんなりと。この身は族長様の為に捧げたものです」
やや満足げに頷くと、男は彼女…帰一に立てと命じ、森の奥へと歩を進めた。
その方向にあるのは、帰一の目指していた帰る場所…
赤酸漿〔あかかがち〕一族の里だ。
帰一もまた彼の背を追って歩く。
「…………一度家へ帰り、長旅の準備ができたら明透〔あけすけ〕と共に館へ来い。
長い話を、聞かせよう。この世界と、私達についての」
帰一は一度、はいと返事をして、そのまま彼の後ろに従っていた。


4 :シルヴァイン :2008/09/09(火) 21:34:58 ID:scVcxAQD

赤酸漿の鬼武者・1-2


「おや、きいちゃん」
森が開け、帰一の目の前に広がるのは久方ぶりに帰るふるさと。
自分の家へと歩を進めれば、すぐに出迎えた恰幅のいい女性。
隣に住む鎹〔かすがい〕と言う名の彼女は、族長付きの武者となり家を空けることが
多くなった帰一の家を傷まないよう世話してくれている女性だ。
帰一は彼女を認めると、鋭かった視線を和らげる。
「毎度お世話になります。ただいま帰還致しました」
鎹はそんな言葉が聞きたいんじゃないよ、と少し怖い声で言った後で、破顔一笑。
「まったく…アンタは何度言ってもだね。ちょっとここを出るたびに男前になってくんだから」
その言葉に帰一は苦笑。男前と言われても、帰一は女だ。
ただ少し…男よりも肝が据わった武者ではあるが。
「ほらほら!こういう時は、ただいまだろ?」
「………ただいま。鎹さん」
帰一がこうして迎えてくれる存在に感謝しながらそう言うと、鎹も目をしならせて笑った。
しかし、と帰一は告げねばならないことを思い出す。
「せっかく帰って来たが、すぐに出なければ。
族長様に先ほど力添えを頂いた時に、『任務の為に呼び戻した』と言われた。
旅の支度をして明透と共に館へ来るようにと」
館がどこか言及する必要もない。赤酸漿の里、美しい竹藪の向こうに存在する紅い館。
代々の族長とその家族、それらの世話をする者たちが住まう館だ。
帰一が昔、暮らしていた館。
「そうかい…明透は白峰〔しらみね〕で寛和山〔かんなさん〕へ行ったよ。
アンタの草薙〔くさなぎ〕なら追いつけるだろうさ」
鎹の助言に帰一は素直に頷くと、懐から出した革製の黒い手袋を口と手を駆使して両手に装着する。
「ありがとう。まずは明透を捕まえることにするよ。支度はその後だ」
指を折ると、口へ持っていく。
その為に奇妙なくぼみをもって作られた手袋は彼女の送る息で、高く天を割る音を響かせた。
天を二人、同時に仰ぐ。
刹那、黒く大きな影が空を覆ったかと思うと、天へと突きだした帰一の腕を、鋭い爪を持った
竜が彼女の体躯を支え天へと運んだ。身体の色は漆黒。
飛竜の力強い腕に助けられ、帰一は自分の体を飛竜の背へと乗せる。
この世界における長距離移動、及び連絡手段の主流は戦闘にも利用される頭のよい竜達である。
この草薙は帰一の所有する移動用の竜、飛竜だ。
それほどの重量には耐えられないが、天空を駆ける速度は帰一が有する他のどの飛竜よりも早い。
帰一は鱗のびっしりと埋める頭を撫でて言った。
「ごめん。お前も疲れてるだろうけど急いで。族長様がお呼びなんだ。
明透と白峰を探してほしい」
帰一の声に応えるように一度竜は吠え、二枚の翼を軽くはためかせ天を駆ける速度をさらに上げた。


5 :シルヴァイン :2008/12/22(月) 23:43:11 ID:mcLmLiPA

赤酸漿の鬼武者・1-3

暫く天空を行くと、眼前に濃緑色の身体をした、帰一の乗る草薙より一回り大きな飛竜が見えた。
よく見知ったその姿に、帰一は左手でしっかり草薙の身体をつかんでおいてから
右手を口元へ持っていき、強くその音を鳴らした。
ピイイと響き渡ったその音に、騎乗する男の影が振り向く。
直ぐにだれだか分かったのだろう、相手は飛竜、白峰の速度を落として寄せてきた。
濃紺の男にしてはやや長い髪、瞳も同じく青がかった黒。
痩身に帰一と同じように武者の装束を纏っているが、色の系統は正反対、青い色彩だ。
彼が白峰に指示し、空に停止する状態を作ったので帰一もそれにあわせた。
「帰ってきたんだな、帰一」
「ああ」
嬉しそうに顔をほころばせた彼、明透に対して帰一はそれほど嬉しそうでない。
それに疑問を覚えたか、彼は直ぐに問いただした。
「どうかしたか?何か悪い事でも…」
「かも、な。族長様が急な任務があるのだと、私を突然呼び戻した。
お前と共に旅支度をして館へ来るようにと」
「帰ってきて早々か。忙しいよなぁお前も」
ふっ、と帰一は微笑。
「当然だろう。族長様の懐刀となったのだから」
帰一と明透とは共に、一族の《傍武者》として働く族長の側近である。
その二人が族長直々に呼び出しを受けるのだから、何かあると思うのが当然で、屋敷への到着が遅れるなど以ての外。
故に明透と帰一は共に飛竜を走らせて、
それぞれの家へと一度帰還、旅支度をし、族長の屋敷前で再び落ち合う事とした。

簡単な旅支度をして、刀の調子を見て、腰に帯びた刀《啄木鳥》〔きつつき〕に加えて脇差の《合歓》〔ねむ〕、啄木鳥よりやや短く軽い《鳳》〔おおとり〕
を荷へ加える。鎹に一言声をかけてから、帰一は館の方へと向かって歩き出した。
意識して体の疲労を確かめるが、昨晩ゆっくり眠れた事もあって問題になるほど疲れてはいない。
寧ろ昂揚感すらあった。病葉の残党退治の任からわざわざ書竜を使い呼び戻され、同僚の明透と共に旅支度をした上で
館に呼ばれるとあっては
(当然…大きな仕事に違いあるまい…族長様のお役に立てる……!)
ただその一心で帰一の足は揚々と竹林へと踏み入れて行く。


6 :シルヴァイン :2008/12/22(月) 23:44:26 ID:mcLmLiPA

赤酸漿の鬼武者・1-4

赤酸漿、と帰一が称したのは生まれてすぐにではない。
六つの年、帰一と家族は“無所属”で、この竜頭島〔りゅうずとう〕に程近い、本島南端付近で暮らしていた。
そして、力でこの地にある他の十八族を抑えつけ天下を己が物にと画策する、病葉〔わくらば〕一族の襲撃を受けたのだ。
病葉が持つ秘宝…《七鎖函》〔しちくさりのはこ〕に収められた宝石によって魔術を操る彼らの襲撃を受けたその地は
一瞬で焦土と化し、多くのものが殺された。帰一は、父に命じられて、高い木の上に上っていたので助かった。
絶対に、降りてきてはいけないよ。
そういった父は、母と共に、炎に照らされ真っ赤に燃える眼下で敵の凶刃を受けて血を噴き出し、死んだ。
その一部始終を目の当たりにして、帰一は己の身体が震えるのを止められなかった。
不思議なことに、涙は出なかった。悲鳴も出なかった。ただひたすらに身体が震えたのだ。
見つかったら、殺される。
極限の恐怖の中、一瞬だけ、手足から力が抜けてしまった。
あ、と思ったときには遅い。
小さな身体は、今立ち去ろうとした病葉の背後にどさりと重い音を立てて、落下した。
気づかぬはずがない彼らが振り返る。地に伏せたまま、彼女は彼らの瞳の輝きを今もはっきりと覚えている。
ころされる
叫びが、出ないまま、凶刃が近づく。
その時だった。
炎よりも鮮烈な真っ赤な羽織を着込んだ、身なりの良い男が帰一の前に立ち、静かに連中へ向かっていったかと思うと、
次の数瞬には、三人の男の首が落ちていた。
男は帰一に背を向けたままで一度刀を振って血を落とし、いつの間に抜いたのか知れぬその刀を腰へ戻すと、
振りかえった。しゃがむ、帰一の、小さな子の髪を引っつかんで顔を上向かせる。
帰一は、今でも全て、鮮明に覚えている。
男は、面白くもなさそうに言った。
「生き残ったのは、どうやらお前だけだ。その生、この私が拾うてやろう」
だから、覚えろ、刻み付けろと言葉は続いた。
生涯忘れ得ぬ絶対の名を告げる言葉が。
「私の名は、赤酸漿鋭利。お前は今から、《赤酸漿》となれ。
《赤酸漿》は、先程お前の二親を殺した、憎き敵と相対する一族」
初めて、口の端を歪めて男、鋭利が笑った。
「お前は、生きたいか?生きたいのならば、私と共にこい」





竹林を抜けて、明透と合流した帰一は、彼と共に館へ踏み入れた。
「お帰りなさいませ。赤酸漿帰一様、青筧明透〔あおびゆ あけすけ〕様」
「族長様は奥の間におられます」
頭を下げるのは族長付の年嵩三十程の傍女中達だ。
皆一様に、揃いの赤い衣と前掛けを纏っている。
ありがとう、と礼を言って履物を揃え、一人に案内をされて奥へと入った。
今こうして二本の刀を差している帰一もまた、以前はこの中の一人だった。
赤酸漿の族長に拾われ離島、竜頭島の中央へ位置するこの里へ来てから、
帰一は籍上で族長、鋭利(えいり)の養女となった。
帰一には多くの女中が付き、身の振り方、日常の雑事を教え込んだ。
元は帰一、屋敷女中として育てられ、ゆくゆくは髪を結い前掛けをつけてこの屋敷で働くはずだったのだ。
いつかは館に出入りする男の中の誰かの家へ嫁ぎ、夫を支えて一生を終える…。
それが彼女に用意された未来のはずだった。


7 :シルヴァイン :2009/01/01(木) 20:41:44 ID:mcLmLiPA

赤酸漿の鬼武者・1-5

女中達によって静かに開けられた襖、帰一と明透は膝をつき拝礼の姿勢を取る。
「赤酸漿帰一、参上致しましてございます」
「同じく、青筧明透参りました」
「楽に。長い話だ」
間髪いれず飛んできた声には少し掠れが混じっていて、帰一にはその理由の判断がつきかねたが、
族長の言に顔を上げると理由がわかった。
彼は数人の女中を呼んで、上の着物を脱ぎ按摩をさせていたらしい。
それで帰一達が来たので止めさせ起き上がる段階で声が掠れたのだろう。
よっぽど満足したらしく長く息を吐くと、礼を言って女中達を下がらせた。
族長、鋭利は着物を取ると、何やらにやりと笑みを湛える。
「帰一」
「は」
「着せ掛けてくれるか」
帰一は己の耳を疑い、眼をやや開いたが、すぐに思い直すと、短く了承の答えを返して
族長の傍へ寄った。着物に帯を受け取ると、失礼しますと声をかけて彼の着付けを始める。
「いつぶりになる。このようなことをするのは」
「……五年…六年ぶり程かと」
そうか、と何やら鋭利はしみじみと頷く。
「……そうか。お前が…」
つい、と視線が上へと逃げる。
「…もう、十九になったか…お前が女中のままでいたならば、こんなに私が気を病むこともなかった」
「族長様?」
終わりました、と言うと、鋭利は一度頷き居住まいを直す。
帰一も仕事を終えたので、明透の隣へと戻った。
思い悩むように、鋭利は溜息を吐く。
広い空の色をした瞳が、真摯に帰一を見据えた。
「………帰一。ここまで私は、お前を相当厳しく育てた。だがな…
籍の上だけでの子だと思ったことは、一度も無い。
義理の子ではあるが、親が真実の子にかける心と相違無い心を持ってきたと思っている」
「存じております」
帰一にとってみれば、彼は父というより先に族長様だった。
厳格で清廉潔白な一族の長であった。
だが、彼が向けてくれる慈しみの心は、確かに感じていた。
それにしても、突然族長様らしくないことをおっしゃるのだな、と思い、
しかし努めて冷静にあろうとする。が、しかし鋭利は口の端を歪めて笑った。
「私らしくもないか、帰一」
「……な、なんでも御見通しなのですね。恐れ入りました」
くっくっく、と短く笑って、鋭利は告げる。
至極寂しそうにである。
「その娘を、戦場へ送り出そうというのだ。帰ってこられるかも分からぬ、戦場に。
この父を恨むか、帰一よ」
間髪いれず、凛と帰一は返した。
「何故恨みましょうか《父上様》。我が身はあの時より、父上様の為にあります。
私は父上様の力となり、目となり、手足となりたいといつも願っておるのです」
父上様、そう鋭利を呼んだのも、これもまた何年ぶりの話になろうか。
父と呼ばれた鋭利は予想外の事に、思考が停止する。
と、頭上から声が無遠慮に降り注いだ。
「男前だ、男前に育ったもんじゃないか鋭利。お前さんの自慢の娘はよ?
ってことだが明透よ、帰一がここまで腹が据わってるんだ。
お前も当然行くだろう?」
「全一(ぜんいつ…)」
目を眇めた鋭利に構う事無く、男は横へと腰を下ろす。
鋭利とは反対に青い羽織、逞しい体つきをした男である。
「ぞっ族長様!」
慌てて明透は頭を下げて平伏。
男は青筧全一〔あおびゆ ぜんいつ〕。青筧一族を率いる族長である。


8 :シルヴァイン :2009/01/01(木) 20:43:38 ID:mcLmLiPA

赤酸漿の鬼武者・1-6

青筧と赤酸漿とは、もともと独立した二つの一族であったのだが、
過去に行われた大戦、《赤酸漿、青筧、病葉、戦場、節季五族大戦》…俗称《三勢大戦》によって
最大勢力・病葉との敵対が顕著になった赤酸漿・青筧が同盟を組んだことから、
こうして大戦が収まったあとも共に、離島である《竜頭島》にて暮らしているのだ。
大戦で同盟を組んだその張本人達である全一と鋭利とは互いの為なら首をはねられても
構わないというほどの堅い絆で結ばれていた。

二人の族長が揃い、任務の話があるというのだからそれは大変な話なのだろうと帰一は
何度目か心を引き締める。それは明透も同様のようで、部屋に張り詰めた空気が流れた。
おもむろに口を開いたのは鋭利だった。
「さて…では、話そう。我等赤酸漿、青筧、そして残る十七族全てが背負った…生まれながらの運命について」
綿々と言葉は続く。
「何故十九の民族が存在するのか?何故族長が存在し、何故病葉は他族を滅ぼそうとするのか?
その答えを、話そう。私が、私と全一がお前達に下す任務について」

まずは何から話したら良いか…と鋭利は暫く沈黙。
事の起こりの順序に従い話すことにした。
「……昔、途方も無い昔。この世界には魔術が溢れていた。それは二人とも知っていよう。
昔、この世界の魔術は結構に完成された、学問として成立したものだった。
だが何事かが起こったのだ。何事が起こったのか私達に知る術はないが、
何事かが起こり…そしてこの世界は魔術を喪った」
全く話が掴めないといった顔をしている二人に、言葉を続ける。
「しかし…魔術は一切が喪われた訳ではなかったのだ。
当時、最高と呼ばれ神とも謳われた魔術師がいた。彼の名は…」
言い淀んだ鋭利の言葉に笑いを零したのは隣の全一だった。
面白く堪らないといった顔で鋭利と、前に座った二人を見る。
「告げろ、告げてやれよ鋭利。恐らく俺達の歩む未来を願い、喜劇を望んだであろう男の名だ。
ふざけた偽名にしか思えないその名を」
ふん、と鋭利は一度鼻を鳴らす。
「…喜劇を望んだ、か。……その男の名は、筒井筒井筒(つついづつ いづつ)と言う。ふざけた名だろう?
ともかくそんな、世界一の男が謎掛けと共に十九の魔術をかけた道具、
魔道具と石版の窟、そして《瞳》を遺したのだ」
「瞳?」
それは、と訊き返す帰一に、一度鋭利は頷く。
「井筒はこの世界の、どんな基準で選んだのだかは知らないが…
とにかく選ばれた十九人の人間に、己の魔術の粋を結して作り上げた魔道具を授け、
劣化しないよう魔術で加工した洞窟内、設置した石版に文字を刻み、瞳を作り、そして、没した。
井筒の死をもってこの世界は魔術を喪い、かつて存在した他の世界へ渡るという術もまた喪った」
さて、これからが本題だ、と声をより低く、真剣にする。
「井筒の死後、入った洞窟でバラバラに十九人が見たもの、そして、私と全一とが実際に見たものは、
このような文字が刻まれた石版だった」
朗々と、声が響く。

「『十九の魔道具を纏め、十九の頂点へ立て
 
 全ての力を持ち得る者 全ての業を赦せる者

 全ての強さ凌ぐ偉大な者よ
 
 十九の魔道具をこの一間に集めよ
 
 さすれば第二十の瞳は開かれん
 
 その時汝は知るであろう この世界の真実を

 その時汝は知るであろう この世界の穢れを

 その時汝は得るであろう この広き天下の全て、手中へと』」
 
ふ、と息をついて続ける。
「そして、その前に台があり第二十の瞳と思しき…真紅の宝玉が置かれていた。
もう言わずとも分かるだろう。十九の魔道具を得た彼ら彼女らは、それぞれこの世界の穢れが気になる者、
天下を欲する者、それぞれの思惑から仲間を集め、互いに魔道具を奪い合うようになって、
魔道具は子々孫々へと受け継がれた…十九は、この世界の十九族だ。
我等赤酸漿が受け継ぐは、赤の刃持つ刀『ホオヅキ』」
「俺達青筧が受け継ぐのは、青の刃持つ刀『アオビユ』、ってそういうことだ。
鋭利と俺がお前達に命じようとしている事、分かるか?分かるだろう?」
くくく、そう全一は笑う。
「こうしてお前達に真実を話し、下す命など一つだ。
残り十七族から、交渉でも交換でも血で血を洗う闘争でも何をしても構わない。
何が何でも、魔道具を持ちかえって来い」
二人は二人とも一瞬呆然とし、しかし、と明透がまず言った。
「一つ、なぜ今まで、俺達や皆は魔道具や、一族の成因を知らなかったのですか。
二つ目、他族の人間はどのぐらいの人が知っているのですか。
三つ目に、何故、俺達にそのような大きな仕事を?」
答えよう、と鋭利は頷く。
「一つは、無用な闘争を防ぎ安定を保つ為。
私と先代、先々代の族長は魔道具のことなど気にせず安定した生活を、民にさせたかった。
そして、その考えは青筧も同じだった。事態が穏やかなら、このままずっと何も知らせずいるつもりだった。
第二は、我等赤酸漿・青筧は一般の民は勿論、高位の武者も知らん。
今の時点では私、全一、お前達、そして近衛の障(さわり)のみが知っている。
最も我等と敵対する病葉は、幹部クラスから民に至るまで全員が知っており、天下を
一族の物にせんと戦っている…他の一族に関しては適宜話そう。
三つ目は……私と全一が、ずるいからだ」
「替わりが効くから、ですね」
帰一が静かにいった。冷たい声の割には、表情に変化はない。
「若い私達はそこそこの腕はあるけれど、替わりが効かないほどではない。
障さん、他にも有力な武者を残しつつ、しかし程ほどに力がないと頼りない」
「その通りだ。私と全一とは三日三晩の話し合いでそう決めた。
お前達を犠牲にしても、十九の魔道具を集めようと。
今や病葉の威は強大なものとなり、先日ある一族の魔道具が奴等に奪われもした。
これ以上血が流れるのを防ぐ為にも、早急に魔道具を集め瞳を開こうと。
何より…この世界の真実と穢れとが、気になるのだ」
自嘲の笑みを、浮かべる。
「行ってくれるか、帰一、明透。
限りなく勝算の低い戦いだ。ずるい、自分で動く事ができず動かない古狸達に代わって、
仕事を成しに行ってくれるか」
「参ります」
「行きましょう」
答えは二人ほぼ同時に返った。
そうか、行ってくれるか、と鋭利は静かに返して、一度頷いた。立ちあがる。
「鍛錬場へ行くぞ。まずは『ホオヅキ』と『アオビユ』が持つ魔術の力を見せる。
そしてニ、三、話をした後で早速旅立ってもらおう…
まずはそう、《一番簡単だろう》と思われる戦闘集団・戦場一族の里へ」


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甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.