ホームレス・キッズ


1 :サナ :2008/02/14(木) 23:57:15 ID:mmVcVeP4

ワケありも
お気楽ものも
面倒くさがりやも
陽気なのも
陰気なのも
良いのも悪いのも

みんなみんな

ここに集まる

それがホームレス・アリー


2 :サナ :2008/02/15(金) 00:40:24 ID:mmVcVeP4

第1話

あたしはここで何をしてるんだ
何でここにいなきゃいけないんだ
逃げたい
どこか遠くへ行きたい

彩夏がそう思わない日はなかった



「お姉、ホントに行っちゃうんだね」
「うん、ごめんね。あたし一人逃げて。」
「ううん。あたしもできるだけ早くここ出るから、気にしないで。」
「ありがと、彩夏。」

石崎彩夏、14歳、中学3年生。
石崎沙紀、18歳、大学1年生。
この姉妹は、ある「女」に支配されていた。
しかし4月、沙紀はその檻から解放されることとなった。

「女」とは、二人の父の再婚相手である。
石崎澄香、38歳。旧姓川島。
愛のない結婚だった、と姉妹は考えていた。
二人の母、石崎春江 の死後、父、石崎信は変わってしまった。
笑うこともせず、ほとんど話すこともなく、ただただ春江の写真を眺めては涙を流したり、ただ呆然としているだけの毎日だった。
そんなとき、家政婦であった澄香はそんな父の弱い心につけ込み、見事信の妻の座を獲得した。もちろん、最初は心優しい女性のように誰もが思っていた。信を気遣い、慰め、同じく傷ついていた娘達にも優しく接した。
そんな彼女は、信の突然の死から急変した。
ショックで人格が変わってしまったというより、信がいなくなってその本性をさらけ出した、といった感じだった。
考えることは金の事ばかり、ホストクラブに通っては、父の遺産をバンバン使っていった。彩夏や沙紀を無理やり金持ち学校に入らせ、うざったいくらい厳しくしつけ始めた。
とうとう我慢の糸が切れた沙紀は大学進学を機に、ひとり暮らしを始めることとした。
彩夏は羨ましくて仕方がなかった。
今まで何度も、いや毎日、澄香のいる家から逃げ出したいと考えていたとはいえども、家から出て独りで生きてゆける自身がなかった。なんと情けないことだろう。

「じゃあね、お姉。アパートたまに遊びに行くから。・・・あいつの許しを得られたらだけど・・・」
「ん、待ってるね。」
澄香は見送りにもいなかった。まだ寝室でモーニングコーヒーを飲んでいる時間だった。
「じゃ・・・」
そう申し訳なさそうにつぶやくと、沙紀は残り少ない荷物をかかえて門を出ていった。
その後姿から嬉しさが感じ取れたのは、おそらく勘違いではないだろう。
長年耐えてきた澄香の束縛からやっと解放されたのだ。
「いいなぁ・・・」
彩夏には、そう言うしかできなかった。


自分の部屋に戻ると、彩夏は力が抜けたように床に座り込んだ。
これから、すくなくともあと3,4年は、この家で澄香と一緒に過ごさなければならない。
「やだ・・・あぁぁぁぁ・・・」
自然と涙があふれてきた。
もう彩夏は精神的にかなり参っていた。
唯一の味方ともいえた姉も、もういない。
低いうめき声を上げながら泣いた。

「何事?うっるさいわねー。あれ?沙紀はもう行ったの?お早いこと。」
澄香がノックもせずに部屋に入ってきた。
「・・・おはようございます・・・」
「ん。ねえちょっと、家政婦さん帰っちゃったからあんたがコーヒー淹れてくれる?」
「・・・」
「返事は?へ・ん・じ・」
「・・・・・はい」
こうやっておとなしく従うしか、できるかぎり平穏に暮らす術はなかった。

台所でコーヒーを淹れながら、もう既に姉がいないのを激しく寂しがっている自分に気付いた。まだ出て行ってから10分も経っていないというのに。
いつもだったら、こうしてコーヒーを淹れる時、姉がスッと横に立って作業を手伝ってくれるのに。空いたスペースがなんだか広く感じられた。

「・・・できました。」
「ありがと。・・・・ゲッ」
一口飲んだかと思うと、澄香はいきなりコーヒーを吐き出した。
「モーニングコーヒーには砂糖は入れないでっていっつも言ってるでしょ?!」
そう怒鳴ると、流しにカップごと投げ込んだ。
カップは鈍い音をたててかけた。

殺意。

いつも感じる感情が、いつもより強く感じられた。
気付くと、包丁を強く握り締めている自分がいた。

殺意が膨れあがってきた。

「くそっ・・・」
「何その口のききかた。あたしに向かってそんな言葉吐くんじゃないわよ。」
「殺し・・・たぃ・・」

その言葉を絞りだすと、彩夏は包丁を持ったまま澄香の方を向いていた。

「あああぁああぁああぁあぁぁ!!!!!」

カランという音を立てて、包丁が床に転げ落ち、彩夏はその場でうずくまって震えていた。

我慢できない、我慢できない。

近づいてきた澄香を突き飛ばすと、上着だけはおって家を飛び出した。
後ろの方で「待ちなさい」と叫ぶ澄香の声は、外に出ると同時に風にかき消された。

いいようのない開放感、解放感。

「戻ってきなさい!!!」

ううん

もう戻らない。


3 :サナ :2008/02/15(金) 21:02:46 ID:mmVcVeP4

第2話

勢いで出てきたが、彩夏には特に行き先もなかった。
学校には金持ちのワガママな人々しかいなく、元は庶民の彩夏と気が合う者などいるはずもなかった。よって彩夏には「友達」と呼べる人もいないのだ。

「ふう・・・どこいこう・・・」

あてもなく街中をさまようのは、正直不安だった。
しかし澄香の束縛から解き放たれて太陽の下でのびのびと歩きまわれるのは、彩夏にとってこの上なく素敵なことだった。いつも見る建物が、人々が、空が、雲や道端に落ちているゴミでさえもキラキラして見えた。

上着のポケットに手を突っ込むと、数千円ほどの現金が入っていた。
気付くと駅前にいたので、とりあえずあるだけの金で、できるだけ遠くへ行こうと考えた。
何度も何度も乗り換えをしては知らない線に乗り、もう自分が一体どこにいるのか、どれほど家から遠のいたのかも分からなくなった。
しかしまだ金はあったので、どんどん乗り換えをしては進んだ。

「ここどこだー?」

夕方になり、もう太陽も沈もうとしていた。
数十円になった残金をポケットにしまうと、駅を出てしばらく歩きまわった。
何県なのかもよくわからない。見たことも聞いたこともない地名ばかりが看板に載っていて、少し恐くなった。
寝床はどうしよう。
遠くへ行くことばかり考えていたせいで、食費のことを考えていなかった。
水もなく、気付くとかなり腹も減っていた。

春といえども、夕時の風はひんやりと冷たい。
彩夏は上着のボタンを留め、少し身震いをした。

これからどうやって生きていこう。
なにをすればいいのだろうか。
何処へ行けばいいのだろうか。
次第に解放感よりも恐怖の方が勝ってきた。
我慢してあのまま家に留まっていた方がよかったのではないか、とまで考えていた時だった。
がしっと勢いよく肩をつかまれたと思ったら、いきなり押し倒された。


4 :サナ :2008/02/21(木) 21:55:44 ID:mmVcVePA

第3話

「ひっ・・」
「おまえさん、かぁーじゃないのん・・・おじさんと遊ぼうね、ねっ」
明らかに酔っ払った中年の男が立っていた。
彩夏はあわてて手を振り払うと、ダッシュで逃げようとした。

「おっとぅーちょっと待ちな」
「やっ・・・」
強い力で手首をつかまれた。振りほどけない。
「やだっ・・・」

「ちょーっとオッサン、なーにしてんの」

ちょっと低めの、女の声がした。
・・・と思ったら、何者かが勢いよく中年男の頭を蹴った。
「ぅわっ!!」
中年男は酔っ払っていたせいもあって、すぐに倒れて動かなくなった。
死んだかと思い、彩夏は少しヒヤッっとしてしゃがみこんで男の顔を覗き込んだ。
男はいびきをかいて寝ていた。
ほっとすると彩夏は立ち上がり、そこに立っている、彩夏と同じか少し年上ぐらいの女の子をまっすぐ見つめた。

「あぶねー所だったなぁ!」
「・・・どうも。」

そう静かに言うと、彩夏はすこし頭を下げてから歩き去ろうとした。

「ちょっとまったぁー!!」

気付くと、少女は彩夏の目の前に立っていた。あまりの動きの速さに、彩夏は驚いた。

「あんた、家出中だろう。だいたい分かるんだよなー!なんつーの?オーラみたいな・・・「家出オーラ」!!あははっ」

いきなり大声でしゃべり始めた少女を、彩夏はただ見つめるしかなかった。
よくみると、少女はたいそうな美人で、しかしどこか薄汚く、服もボロボロのジーパンに袖が破けそうなTシャツを着ていた。髪の毛もボサボサで、せっかくの美貌が台無しだった。それに男らしい言動が、さらに彼女の美しさを台無しにしていた。

「あのう・・・あたしに何か?」
「うんまぁ、あんた行くアテないでしょ?」
「えっ・・・ありますよっ!!」
咄嗟に嘘をついてしまった。
「バーカ。そんくらいあたしにはわかるんだよっ!食いモンと寝る所ぐらいならあっから、飢え死にしたくなけりゃついてこい!」

そういうと、少女は彩夏に背を向けて歩き始めた。振り返って彩夏がついてくるか確認したりもしない。
彩夏は少し迷ったが、あわてて少女の後を追った。正直、なんでついていってるのかは自分でも分からなかった。危ない所を助けてもらったとはいえ、どこの誰かも分からない人にノコノコついていってる自分が、自分ではないような気さえした。
だが今の彩夏には他に選択肢がなかった。そのまま一人でさまよっていても、また酔っ払いにからまれるか、補導されるかのどちらかだった。今はとにかく、この謎めいた少女を信じてついていくしかなかった。


5 :サナ :2008/04/12(土) 15:35:35 ID:mmVcVePA

第4話

「あのぉー・・・どこまでいくの・・・行くんですか?」

もう20分以上歩き続けていた。
同じ質問を4回ほどしたが、少女は一向に返事をしてくれない。

「あのー・・あのー・・せめて名前とか教えてくれませんかー・・・」

ダメモトで質問を変えてみると、いきなり少女は振り返ったので驚いた。

「人様に名前を聞くときは、まず自分から名乗るもんだぜっ!特にあたしみたいな美女に名前聞くときはなぁっ!!はははは!」
「は、はぁ・・・石崎彩夏・・・です。」
「その『です』ってのはどーにかならない?!
 ・・・『アヤカ』か。あたしはミキだ!よろしくなっ!」
「はぁ・・・よろしく・・」

会話が終わると、ミキは再び無言で歩きはじめた。
彩夏はあわててついていった。

それからさらに10分くらい歩いた頃だっただろうか。
森の中に入り、さらに歩き続けると・・・ボロボロのテントみたいなものが5・6個あった。

「おい!てめーらっ!!ミキ様のお帰りだよっ!とっとと起きろっ!」

ミキが大声を張り上げると、テントの中でなにかが動く気配があった。
よく見ると、周辺の木々の上にも何かがいる。
彩夏は急に恐くなった。

「ミキおかえりですっ!」

「だーっ!!おっせーよ、ミキ!!」

「まーた誰か拾ってきたのかい?」

あちらこちらから、様々な声が聞こえてきた。

「な・・・なに?ここ・・」

彩夏は逃げ出したくてたまらなくなった。
今更ながら、得体の知れない人についてきてしまった自分の愚かさを恨んだ。
少しづつ後ずさりする彩夏に気付いたのか、ミキがいきなり腕をつかんできた。

「ぃやっ・・・!」
「なーに恐がってんだよ。別にとって喰ったりしないからさぁー・・」
ミキがあきれたように微笑むのが、薄暗い中ぼやぁっと見えた。

「安心しな。ここにいるのは皆あんたの同類だよ。」
「ど・・・同類?」

「あぁ。ようこそっ、ホームレス・アリーへ!!!」


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.