たった一人の三ヵ月戦争


1 :匿名 :2007/11/10(土) 13:30:39 ID:onQHWiL3


これは、とある一国で起きた戦乱の物語。

”アテナ王国”と”反逆軍”の戦争を、

一人の男に視点を合わせて、進んでいく。


その男が見た、戦争とは・・・?

その戦争の中で、男はどう生き延びるのか?


全ては、三ヵ月を生存するために・・・。


2 :匿名 :2007/12/04(火) 17:45:06 ID:onQHWiL3

第一話「戦乙女、終焉に始まる」

「始まりに終わりがあるならば、
   終りに始まりがあるのだろうか・・・?」

今の俺にとっては、考えたくもない言葉だった。だが、
俺の子供時代、戦で戦死した親父の最期の言葉。忘れられない
ハズがなかった。あまりにも弱く、惨めで、愚かで、堕落していると思った。
そんな親父を今も嫌っている、親父が死んだ後でさえ。


「おーいっ!!ヴァルーーーっ!」

ムクッ

「・・・・んむ?カイト、か」

俺の名を呼ぶ者がいる。古くからの親友のカイトだ。
夕日を背に、俺は大地に預けていた体を起こして、目をこすり、
空を見上げて深呼吸をした。いわゆる、居眠りをしていた。
町の丘で居眠りをしていた俺に、カイトは息を荒げながら、
俺の一歩手前まで来て、慌てて話し出す。

「剣の稽古サボって、一体何してるんだよオマエは!
 んことしてるから、いつまでも偉くなれねぇんだよ」

「・・・ほっといてくれ。どうせ俺達みたいな
 雑兵に、上の連中は目などかけやせん。死ぬだけの捨て駒だ」

「お、おまえなぁ・・・。相変わらず現実主義っていうか、
 何て言うか。名前のわりに剣技は弱いし、国への忠誠心も・・・」

「な、名前のことは触れるなっ!
 オマエだって、わかっているだろう。俺が、この名のせいで・・・」

「はいはい、わかっていますよ。ヴァルキリーさん?」

「き、貴様っ!!!」

俺は、顔を真赤に染めてカイトに突っかかろうとする。
それをニタニタ笑いながら避けるカイト。そう、俺の名は
「ヴァルキリー」。有名な戦乙女から取った名だそうだ。
親しい者には皆、「ヴァル」と言わせるようにしている、が・・・。

「お、おいおい!冗談だって、冗談。
 オマエは相変わらずガンコ者だからこまっちまうなぁ」

「例え親しい仲と言えど、言っていいことと悪いことがある!
 貴様は昔からおふざけが過ぎるんだ、自粛しろ」

「へいへい。あっ!いっけね、本題忘れてた。
 おい、聞いたか?海の向こうから、”奴ら”が来たらしいぜ」

「・・・・奴ら・・・・・・?
 ま、まさか・・・・・・・!」

「あぁ・・・・・”達人”の連中だ!」

カイトがようやく、本題を切りだす。カイトが口に出した
「達人」という名を聞いて、俺は顔をしかめるしかなかった。
それは、カイトも同様のことだった。

「っち。王様は何を考えているんだ。海の向こうの
 異人どもを我が国に招くなど・・・・・」

「達人のやつら専用の部隊が組まれるらしいぜ?
 いよいよ、反逆軍との決戦も目の前ってところだな」

「・・・・あぁ」

「達人」と呼ばれる海の向こうから来た新戦力。話によると、
様々な武術に長けた「達人」を集結させた、最強部隊だとか。
そんなわけのわからん奴らが必要なのも、我が国に反旗を上げる
「反逆軍」のおかげだ。

「その達人の奴らを迎えるために、俺達に召集がかかってんだ。
 日が暮れないうちに城に戻ってこいよ」

「・・・・わかっている。くそっ、そんな異国のものに
 尻尾を振るなど、情けないものだ・・・!」

「へいへい。雑兵の俺達が屁理屈いってても無駄なんだろ?
 じゃぁな、絶対に来いよ!」

そういうと、カイトは「うまいこと言ったぜ」と言いたげな
顔をして、城へと向かっていく。少しムカッとしたが、
そんなこともすぐに忘れた。そう、ここまでくればわかるだろう。
俺は、一国の兵士。親父と同じ道を歩いている。あれほど嫌っていた親父の・・・。

タッタッタッ・・・・

「ヴァルキリィイイイーーーー!!
 あてっ!!」

「!!?・・・お、おまえ・・・・・・
 シンシア・・・・」

カイトの次に登場したのは、シンシアだった。俺の許婚だが、
ちょっと抜けた所が多いようだ。それでも、俺はシンシアを愛していた。
シンシアも、俺を愛してくれていた。転んだことも気にせず、
憎らしいほどの笑顔で俺に近づいてくる。

「ねぇ、ねぇ、ヴァルキリー!!
 聞いて、聞いて。凄いことが起きたんだよ!」

「だ、だから、何度も言っているだろう!俺の名を呼ぶ時は、
 ヴァルと呼べ!絶対に、ヴァルキリーなどと言うな!」

「えぇー、めんどっちぃーなぁ。とにかくね!
 アタシ、もしかしたら巫女さんの才能があるかもしれないの!」

「み、巫女?・・・あんな怪しげな役職に目覚めたというのか?
 どういうことだ、説明してくれ」

「うん!!あのね、昨日ね、朝起きて、歯をみがく夢をみたの!
 そしたらね、本当に今日それとまったく同じことが起きたの!!」

「・・・・・・・・・・。
 巫女、だな。才能あるぞ、おまえ」

「ほ、本当!?ヴァルキリーが言ってくれるなら、
 うれしい!!」

どうしようもなく抜けていることを知っているため、ツッコむ
気力など俺にはもう無かった。だが、それでも笑みを絶やさない
シンシアに、俺が癒されているのは事実だった。しばし、
肩を寄せ合って、夕暮れを眺めることにした。

「ねぇ、ヴァルキリー・・・・?」

「・・・何だ?」

「・・・・・ワタシ達、いつ結婚するの?」

「・・・・・・はぁ。ここ最近、ずっと同じセリフだな。
 何度も言うが、後3ヶ月後だ。わかったか?」

「うん!・・・はぁ、あと3か月かぁ。なっがいなぁー。
 ねぇー、ヴァルキリぃー。ちょっと早めちゃおうよぉ」

「な、何を考えているんだ!!許婚の結婚日は、俺とおまえの
 両親が決めたのだぞ!破れるわけがないだろう」

「いいじゃーん。賞味期限を待ってたら、おいしさは
 保てないよぉ?」

「結婚を食品と同じにするなよな!おまえ、結婚まで
 適当に考えているのか!?」

「違うよ!!だって、だってアタシ、ヴァルキリーと早く
 一緒になりたいだけだよ!アタシだってね、アタシだってね、
 ヴァルキリーのこと・・・・・・!!」

「・・・・もう言うな。わかった、わかったよ。
 俺もおまえが好きだ。違う、大好きだ。・・・違う、愛してる。
 ・・・・・・おまえの全てが、欲しい。今すぐにでも・・・」

俺は、そっとシンシアを抱きしめた。俺とて、シンシアと
今にでも結婚したい気持ちは変わりない。だが、今はそういうわけにはいかない。
それを、シンシアも悟ってくれていた。

「・・・・・ねぇ、ヴァルキリー」

「ん?どうした」

「・・・・・・子供、何人つくりたい?」

「・・・・そうだな、3人は・・・・少ないな。
 おまえはどうだ?」

「・・・・・・10人・・・・30人・・・100人。
 かな?」

「・・・おい、欲張りすぎだぞ。神様もそこまで
 俺達に子を授けてくれん」

「・・・・そのうちの20人は、この国を癒すための医者にするの。
 そのうちの40人は、この国の食糧を作るための農家にするの。
 そのうちの30人は、店屋に。最後の10人は・・・・・・」

「・・・・それほど、戦が嫌いか?」

「・・・・・・・・・ぅん・・・・・・ヴァルキリーが、危なくなるから」

「・・・・・死なん。その3ヶ月間、俺は何としてでも生き抜く。
 どんなつらい戦があろうと、どんな窮地に立とうと、
 俺は生き抜く。誓う、この場で、おまえに・・・・!」

「・・・・うん、うん・・・・・・うん!!
 誓ったからね、ヴァルキリー!」

「・・・・・あぁ!!」

ヴァルキリーは、シンシアと誓う。「3ヶ月間を生き抜く」。
それは何とも矛盾しているだろう。戦死を名誉とする兵士が、生き抜くことを
誓う。何ともバカげているだろう。だが、ヴァルは固く、決意をした。
シンシアと別れ、ヴァルは城へと戻っていた。城に戻ると、兵士達が
忙しく歩き回っていた。すると・・・・・。

「あっ!!ヴァル!ようやく来たのかよ。
 もうそろそろ出発だぞ!また御大将に大目玉くらうぞ!
 はやく甲冑つけてこい!」

「あ、あぁ!!」

カイトが、遅れてきたヴァルに怒鳴りつける。ヴァルは急いで、
自分の甲冑を身にまとい、隊列を整えている中へと入っていく。
外は、ポツポツと雨が降っていた。真夜中の、出陣となった。

「これより、海岸付近に赴き、達人殿達を迎えに行く!!
 隊列を乱さず、しっかりとついてこい!
 それでは、出陣っ!!」


「へへっ。大将も機嫌悪いみたいだな。
 そりゃ、自分の階級の上に新参者が来るんだからな。
 ・・・・・ん?おい、ヴァル?どうした」

「(・・・・3か月、か・・・・・・・。
 きっと、きっと何とかなるさ。
 3か月程度など・・・・・きっと・・・・・・)」

3か月の誓い、それを思い出して、再び覚悟を決めるヴァル。
だが、この彼の誓いが、果てしなく困難な道のりになることなど、
彼は知る良しもなかった・・・・・・。


3 :匿名 :2007/12/07(金) 19:19:13 ID:onQHWiL3

第二話「雨と共に、翼を散らせ」

雨がしだいに強くなっていく。海を目指し、ただひたすらに
森の狭き道を渡る数十人の兵の中に、俺はいた。雨にぬれて、
自分が装備している甲冑がキシキシと悲鳴をあげるのが、耳に鳴り響く。

「っけ。こんだけ雨がひどいと、甲冑が拷問器具に
 思えてくらぁ。どうだ、ヴァル。密かに脱ぐ・・・・」

「やめておけ、カイト。敵に遭遇した時、
 一体どうするつもりだ。我慢しろ」

「わかってるよ。それにしても、おまえの甲冑も
 随分、改造されてんなぁ。なんだよ?そのヘルメットにつけてある
 二つの羽は?」

「・・・知らん。親父の形見だ、新しい物を買う金がないんだ。
 贅沢など言っていられん」

愚痴をこぼしながら、ヴァルとカイトはひたすら隊列を
乱さずに歩き続ける。おそらく、ヴァルのヘルメットの二つの羽は、
戦乙女をモチーフにしたのだろう。30分、1時間と時間だけが流れていく。

「・・・・おい、カイト。何か様子がおかしくないか?」

「あぁ?そりゃぁ、おかしくもなるさ。
 こんな蒸し暑い甲冑を着て、ドシャ降りの中を・・・」

「違う!後ろを見てみろ。
 兵の数が明らかに減っている・・・!!」

「な、何!?」

初めに異変に気づいたのは、ヴァルだった。そう、後部を
歩いていた兵の数が減っている。最初のいた人数とは、明らかに違う。
そう、これぞまさしく「襲撃」。それを確認したヴァルは・・・。

「い、いかん!大将、御大将殿ぉおーーーー!!
 大変です、敵が我々に攻撃を仕掛けていますっ!」

「な、何ぃ!?本当か、ヴァ・・・・」

・・・シュ・・・・・

「っ!!こ、これは・・・・・!
 ヴァル、伏せろ!!弓だ、弓が大量に降ってくる!!」

「なっ・・・・!!」

空を見上げたカイトの目に映ったのは、大量の雨と、
そして大量の弓矢。そう、攻撃を仕掛けてきたのだ。
大量の弓矢が、周りの同胞達を次々と仕留めていく。

「ぐぎゃぁあああああああ!!」

「う、うわぁああああ!!」

「い、いかん!!すでに、反逆軍に囲まれていたのか・・・!?
 カイトぉ、いるかぁ、カイトぉお!!」

「い、いる、ここにいるぜ、ヴァル!!
 どうする!?俺達、どうすりゃぁ良いんだよ!?」

「王国まで逃げよう、カイト!!今は命の方が大事だ!
 俺達がここで死ぬことは・・・・・・」

ガサッ

「何をしている、ヴァルキリー、カイトぉ!!
 貴様ら、国王の命令に背き、逃げようというのか!」

「っく!!・・・・お、御大将・・・・・!」

そこは、地獄絵図。悲鳴と共に、次々と倒れていく仲間たち。
弓の嵐は、納まりを知らない。その嵐の中を、逃げようとした
ヴァルとカイトだが、その目の前に、この任務の隊長が立ち塞がった。

「貴様らぁ、お国のために戦え!!そして、死ね!!
 国のために戦い、死ねることを光栄に思わんかぁ!」

「人が死んで栄光を掴む国などに、どこに平和が成し得る!?
 御大将殿、貴方も逃げた方が良い!!」

「へへっ。ってことで、俺達は先におサラバいたしやすっと。
 行こうぜ、ヴァル!!」

「あぁ!!」

「・・・・っぐ・・・この・・・・この、反逆者共がぁあ!!
 地獄へ堕ちろぉおお!!」

「?・・・な、何を!!カイト、危ないっ!!!」

「へ・・・・?」

グザッ

なんとも皮肉であろう。大将が、カイトの背中を容赦なく、叩き斬る。
血を噴き上げて倒れていくカイトを、ヴァルはどうにも動けず、見た。
そして、地面に倒れた同時に、ヴァルは急いで抱きかかえた。

「カ、カイトぉ、カイトぉおお!!
 死ぬな、死ぬな、カイト・・・・・・!!」

「・・・・が・・・・あ・・・・は、はぁ・・・・ぐ、うぅぅ・・・!
 ヴァ・・・・ヴぁるぅ・・・・ヴぁるぅ・・・・!
 お、おっかねぇ・・・・おっかねぇよぉ・・・・・・・!!」

「大丈夫だ、カイトぉ!!おまえは助かる、助かるんだ!
 俺がついている、俺がついているぞ、カイトぉ・・・・・!」

「・・・・は・・・・へは・・・ははっ・・・・・・。
 お・・・・おま・・・・への・・・中で、し、死ね・・・て・・・・
 よ・・・・・よか・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・カ・・・・カイトぉぉお・・・・・・・!!!」

「貴様もこの男と同様、国の命令に背いた罪で、
 処刑する!!覚悟しろぉ!」

「・・・・背を向けた者を・・・・同じ仲間を・・・・
 殺す犬畜生が、何処にいやがるぅうううーーーっ!!!」

ヴァルの中で息絶えていくカイトを、涙をこらえて包むヴァル。
カイトの次に、ヴァルを処刑しようとする大将に向かい、
ヴァルは剣を突き立てる。敵の襲撃にあっているにもかかわらず、
仲間と仲間で、内戦を始めてしまったのだ。

「き、貴様ぁ!!上官に剣を構えるとは、何たる侮辱!
 早々に切り捨ててやるわぁ!!」

「・・・・カイトを殺す輩は、敵だ・・・・・!!
 おまえは、俺が殺す!!」

お互い、剣を取り合って、戦いを始める。剣のぶつかりあう
金属音が、雨の音と共に空中に散っていく。何度もぶつかりあう剣。
だが、圧倒的にヴァルが不利であった。体格、腕力でも。そして、ついに・・・。

キィイイインッ!

「っぐ!!お、俺の、剣が・・・・・・・!」

「フンッ!!貴様程度がこの俺に勝てると思っているのか!?
 身の程を知らぬ愚か者めぇ、死を持って成敗いたす!!」

「(や、やられるっ・・・・・・・!!)」

グザッ!!

残酷にも、その恐ろしいほどの生々しい音は、ヴァルにも聞こえた。
ヴァルの顔面が、真っ赤に染まる。その瞬間、すべてが終わったのだと、
そう悟った。だが、しかし・・・・・。

「・・・・・う・・・・・あ、あぁ・・・・?
 お、俺は・・・・・死んで、ない・・・・・・?
 違う・・・・む、無傷だ!!」

「・・・が・・・・ガハッ・・・・・
 ば、バカ、な・・・・・この、俺、がぁ・・・・・・・!」

バタンッ

「!?・・・・た、大将が、斬られている・・・・?
 俺じゃない、一体誰が・・・・・!!」

ザッ・・・

「・・・・・・・・・・へぇ」

「?・・・・だ、誰だ。誰だ!!そこにいるのは・・・・!」

「・・・・・・気に入った、オマエのこと・・・」

ドガッ!!

斬られていてのは、大将だった。後方に倒れていく大将の後ろに、
誰かが見える。おそらく、そいつが大将を切った犯人であろう。
いや、違う。ヴァルを救った張本人にであろう。その者に殴られ、
ヴァルは気絶してしまう・・・。

そして、次に目を覚ました時、

俺がいた場所は・・・・・・・・。

「・・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・・。
 ここは・・・・・・牢屋、か・・・・・・・・・」

気がつけば、そこは牢屋。ねずみや害虫共がひしめきあっている、
クソ以下の場所。そう、俺は捕まった。ここは、反逆軍の陣地。
3か月生き延びることを誓った俺に、早くも試練の時が来た瞬間だった。


4 :匿名 :2007/12/18(火) 22:03:08 ID:onQHWiL3

第三話「光を拒絶し、檻の中で」


「た、大変だぁーー!!来客を迎えに行った兵が
 全滅したらしいぞぉーーー!!」

ザワザワッ

その報告は、すぐに町に広まった。「達人」を迎えに行った
ヴァルを含めた隊は、反逆軍の襲撃を受け、全滅。
そして、当然、彼女の耳にもその情報が入ってくる。まだ、雨が降り続ける中で・・・。

「そ、そん、なぁ・・・・・・!
 ヴァ、ヴァルキリーが・・・し・・・死んじゃった、の?」

「はぁ、はぁ・・・シ、シンシア!!
 聞いたか!?ヴァルが・・・・・・・・」

「う、あ、あぁ・・・・ロ、ロトぉ・・・
 ロトぉ・・・・!!ヴァルキリーが、ヴァルキリーがぁ・・・・!!」

ただひたすら、涙がこぼれおちる。何も考えられなかった。
頭の中は、死んだヴァルのことで頭がいっぱいだった。
そんなシンシアのもとに、「ロト」というヴァル達と同い年の
青年が駆け寄る。

「・・・・仕方ないよ、シンシア。
 これが、戦争なんだ。ヴァルはもう死・・・・・」

「・・・・・生きて、る・・・・きっと、生きてる!!
 ヴァルキリーは生きているよ!」

「!?・・・シ、シンシア!言っただろう!
 ヴァルは・・・・・!」

「3か月、絶対にヴァルキリーは生き抜くって約束した!!
 絶対に、ヴァルキリーは生きている!アタシは、それを信じる!」

「(・・・・ッチ・・・・)
 そう、だな。ヴァルは生きているかもしれないな。
 待っていよう、二人で・・・・」

「(ヴァルキリー・・・・アタシ、信じてるから・・・・!)」

何か、不穏な気配を漂わせるロトという青年、はたして、
彼は・・・。そして、ヴァルが死んだとの情報を信じず、ただひたすら
ヴァルの生存を信じるシンシア。そのころ、当の本人のヴァルはと言うと。
甲冑を脱がされ、どこか見知らぬ薄暗い牢屋の中にいた。

「(・・・・・・ここは、反逆軍の住処か・・・・・・。
 なぜ、俺は生かされている?・・・・・・いや、違うな・・・・。
 たっぷりと、情報を絞り出してから殺すという魂胆か・・・・)」

ゴソッ

「あっ、いたいた!生きてるよね?・・・・ん?
 生きてる?返事してっ!」

「・・・・・・あ・・・・・」

「生きてたぁー!!はいっ、今からちょっと治療するから、
 暴れないでね」

「(・・・何だ、このガキは・・・・?)」

突如として現れた、金髪の10歳前後の子供。どうやら、
ケガをしているヴァルを治療してくれているようだ。なぜ、
このような子供が反逆軍にいるのか、ヴァルは自分が死の淵に
立たされているのにも関わらず、それが気になった。

「・・・・なぁ、ひとつ、尋ねていいか?」

「はい?簡単なことなら、いくらでも答えるよっ」

「・・・なぜ、オマエのような子供が反逆軍にいる?
 オマエも、ここに捕えられた捕虜なのか?」

「ううん。オレね、ここの部隊の隊長の
 弟なんだ。だからさ、無理やりでも連れてこられちゃって・・・」

「・・・・もう一つ、尋ねる。今から殺す囚人を、
 なぜ治療する?」

「ははっ。幸運だよ、兄ちゃん。その隊長が、アンタを
 気に入ったんだって。もうすぐすれば、アンタの今後の会議が
 行われる。そこでヘタなこと言わなきゃ、助かるよ」

「・・・・・助かる、か・・・・・・・。
 (3か月、生き抜くことを誓った・・・・だが、俺は・・・。
 自分の誇りを汚してまで、そうと生きることは・・・・)」

ヴァルは、悩んだ。ハッキリ言うとお国への
忠誠心などみじんも無かった。だがそれでも、自分の男としての
誇りは人一倍にあった。女のために、男を捨てるか。
それが、気がかりでしかたなかった。

「よし!!できたっ。これでとりあえず治療はすんだから、
 あんまし動いちゃダメだよ?」

「・・・・悪い、な。・・・・
 フ、フフッ・・・・・・」

「?・・・ど、どうしたの?兄ちゃん」

「・・・・気分が、悪いだろ?憎い敵国の兵をこうまで
 生かしてやるのだからな、その隊長とかのせいで・・・・。
 今にでも、俺を殺してやりたいだろう」

「ううん!!オレ、案外、兄ちゃんのこと好きだよ!」

「っ!?・・・・な、何・・・・?」

「オレさぁ、あんまし敵とか味方とかで人を区別したくないんだよねぇ。
 それに、兄ちゃんは何か・・・・何だろう、とにかく!
 すっげー奴な気がする!!」

「(・・・・知力も、武術も、体力も部隊の中で最下位の
 俺に、何を期待する・・・・・・)
 あぁ、わかったよ。・・・・・名前、聞いていいか?」

「うん。オレね、レオって言うんだ。兄ちゃんは?」

「・・・・・・ヴァル・・・・・・。
 ヴァルだ、よろしく」

レオという子供は、無邪気にヴァルに接してきた。これが
大人であれば、こうもいかないであろう。それを思うと、ヴァルは
やるせ無い気持ちになった。そして、次の日。ヴァルの運命の日ともいえる
会議が行われる。狭いテントに集まる3人の幹部。そして、その中央にヴァルが。

「これより、このアテナ王国の兵への裁判を行う!
 何か、意見があるものはいるか?」

「・・・うぇーい!意見、アリアリだぜ」

「サイン、か。述べてみよ」

「何でこんなクソッタレ野郎を生かさなきゃいけねぇんだよ!?
 俺達の敵は、こいつらなんだぜ!?いくら隊長の命令だからって、
 んなことゆるされるかよ!!」

「うむ。副隊長、貴方は何か意見がありますかな?」

「・・・・・・・すべては、隊長の判断に委ねる・・・・」

「お、おいおい、副隊長!!いいじゃねぇか、こんなクズ!!
 今すぐにでも殺しちまえばよぉ!」

ヴァルは、密かに人物を観察していた。テントの中にいるのは3人。
この裁判を取り仕切っている裁判長が一人、そして自分を糞のように
罵倒するサインという男、最後に副隊長と呼ばれる眼帯の男、だ。

「ふむ。それでは、敵兵の方。貴方の今後の所存を
 聞きましょう」

「・・・・・・俺は・・・・・俺、は・・・・・・。
 生きたい・・・・・何としてでも、生きたい・・・・・!!」

「っけ!そりゃ、そうだろうよ。敵に捕まれば、
 誰だって命乞いするに決まってらぁ!おい、クソッタレ野郎。
 尋ねるぜ?オマエはその自国の誇りを捨て、なぜそうまで生きたい?」

「・・・・・・語る必要、無し・・・・・・。
 生きる理由など、誰が知り得よう・・・・・」

「こ、このブタ野郎!!おい、副隊長!!
 オラァ、こいつをぶっ殺すぜ!!」

「・・・・・・・・・俺は、知らん・・・・」

「へ、へへっ・・・・あの世で、強情張ってな・・・・!!
 死・・・・・・!!」

バタンッ

「何をしている!!!」

ヴァルは、答えなかった。女のためと言うのが、恥と思ったのだろうか。
いや、そんな簡単なものではないだろう。だがそれが、サインの
気分を損ねてしまったようで、ヴァルが窮地に立たされる。その時、
もう一人、テントの中に入ってくる。何と、それは・・・・。

「その者は私が命を貰い受けた!その者の命は
 私にあると言ったハズだ、サイン!!貴様・・・・
 隊長の命に背くというか・・・・・・!」

「た、た、隊長ぉ!!め、滅相もないでござんすよぉ!
 へ、へへっ。ちょっと、脅かしてやっただけですって」

「・・・・フンッ。その台詞、前も聞いたような気がするがな。
 ほらっ、大丈夫か?」

「(どうやら・・・・こいつが、隊長らしいな・・・・・。
 顔は見えんが、相当の厳格者・・・・・)」

テントに入ってきたのは、この部隊の隊長だった。その隊長と
やらは、ひどくヴァルをかっているらしい。裁判をそっちのけで、
ヴァルを無罪とする。そして、ヴァルを何処かへ連れていこうとした時・・・。

ムニュッ

「(?・・・・ムニュ?何だ?この柔らかいものは・・・・。
 こ、こ、これ、はぁああ・・・・!!!)」

「っ!!て、敵兵!!貴様、何処に触っている!!」

「(こ、こ・・・・こいつ、女、だとぉ・・・・・・!?)」


5 :匿名 :2007/12/27(木) 12:54:16 ID:onQHWiL3

第四話「絶望の手招き、そして鬼の到来へ」

反逆軍の一味に捕えられた俺は、隊長に気に入られたらしく、
命は助かることとなった。だが、その隊長とやらが問題だった。
どうやら、女性らしい。隊長は自分のテントへと、俺に手錠をしたまま
招き入れた。

「・・・フフッ。気味が悪いだろ?
 なぜこうまでして、私がオマエを助けるのか」

「・・・・気味が悪い?俺は、この状況でいつ死ねるか
 わからん身だ。冷汗びっしょりだよ、いつも」

「そうか。早速だが、オマエに折り入って話がある。
 オマエ、私達の仲間になれ」

その言葉に、俺は驚くしかなかった。それと共に、その隊長の
女が俺と同い年のような顔立ちというのにも、驚くしかなかった。
俺は数秒考え、答えをだす。

「・・・・・断る」

「貴様・・・・自分の立場がわかっているのか?
 私が、生かしてやっている。犬が主人に背くのか?」

「・・・・・俺は、犬などではない。
 勝手に情けをかけてもらってもこまるだけだ。
 俺とて、一兵士。死ねる覚悟はできている・・・・・!」

「・・・・ッチ、面倒な奴だ・・・・・。
 だが、私はおまえを気に入っている。そのナメ腐った態度を含めて、な。
 ますます、オマエが欲しい・・・・・!」

「(・・・・こいつ、本当に女か・・・・・?
 こいつの目、強暴な男が、弱い動物をいたぶろうとする目・・・!
 狂人、か)」

ヴァルは決して、退かなかった。たとえ、そこが絶望的な窮地であろうと。
おそらく、死ぬのも時間の問題であると悟ったのだろう。
死ねるのなら、勇ましく。男のわずかながらのプライドだろう。

「そこで、だ。尋ねることがいくつかある。
 答えてもらおうか」

「・・・・・・・ある程度、ならばな」

「・・・・あの夜、なぜ雨の中をおまえらは
 海岸に向かって歩いていた?」

「・・・・・そう、か・・・・オマエらは、知らないか。
 フ・・・・フフッ・・・・・・」

「何が、おかしい・・・・?」

「・・・・気づいた。どうやら、俺がオマエらに忠告する立場に
 なったらしいからな。オマエらは、終わりさ」

「・・・・・犬無勢が、何を言う・・・・!!」

「・・・・達人、だ。戦闘に長けた達人集団が、ここを狙ってくるだろう。
 一人でもここを襲撃すれば、ものの数分のうちに・・・・全滅、さ」

「達人?」

俺は、素直に質問に答えた。俺はただの一般兵、そんな上層部しか
知りえない極秘情報など知りえるはずもなかったからだ。
その点では、気が楽だった。隊長と呼ばれる女は、「達人」という名に
食いついてくる。

「ただの噂に過ぎんが、その計12人の達人と呼ばれる者達は、
 1000の兵士を一人で凌駕してしまうほどと聞く・・・・。
 曰くは、人を超えた超人なる存在、”達人”らしい・・・・・・」

「・・・・フンッ。そんな宗教の類の者などは構わん。
 おまえの国も、堕ちるところまで堕ちたということだな」

「・・・・・・甘く、見ない方が良い・・・・」

「・・・なぜだ?」

「・・・・・俺を助けた礼として言う、ここの部隊の人数はどれくらいだ?」

「・・・・おまえに言う必要はない。雑兵如きが、
 馴れなれしいぞ」

「・・・・どれくらいだと聞いている・・・!」

「・・・ッチ、相変わらずだな。ここの頭角を前にしてその態度。
 殺してと言っているとしか思えん。・・・・・
 数にして、およそ140」

「・・・・・・死ぬな、その100・・・・・
 残る40・・・・逃げだすな・・・・・」

「・・・・フンッ!ほざけよ、勝手に!
 もう良い!貴様は牢屋に戻っていろっ・・・・・・。
 そうだ、名を聞いてなかったな」

「・・・・・・ヴァル・・・・忘れてもらっても、構いやしない」

「・・・・忘れんよ、オマエはもう私の仲間なのだからな。
 私はエレク。忘れてもらったら、処刑ものだぞ」

そう言うと、ヴァルは外で待っていた一味に再び牢屋へと
戻されてしまう。ヴァルは「達人」について、ほとんど何も知らない。
だが、何か不穏な空気を漂わすことだけは、体で感じていた。
そのころ、アテナ王国の宮殿内では、到着した「達人衆」が王と対面をしていた。

「ほぉ・・・。そなた達があの有名な達人とやらか。
 そちらの代表よ、前に出ろ」

「・・・・はい」

「質問がある。ワシにはいまいち、お主らの力量がわからん。
 強いとは噂で聞いておる。じゃが、ワシは・・・・・」

「・・・・そうですね、王様。ならば、我々に何か
 任務をご要請下さい。・・・聞く話、我らを迎えにまいった
 この国の兵士が反逆軍の一味に襲われたようで・・・・」

「ほぉ。そやつらを、おまえ達で始末してくれると・・・?」

「・・・御冗談を。一人・・・一人で十分でございます。
 害虫駆除などに、我々達人達が赴くなど・・・・」

「ひ、一人で何百という反逆軍の一部隊に立ち向かうというのか!?
 その言葉に、偽りはないのだな!?」

「・・・・そんなゴミみたいな人数に勝てぬ達人、
 死んだ方がマシでございます。いかがしましょう、王様」

「・・・・・うむ、わかった。その反逆軍一部隊の迎撃、
 お主らにまかせる!」

「・・・・御意」

その自信、それは自分の強さを過信したものではない。そう、
感じているのだ。ここに集まった兵、そして王さえも、この達人達の、
異様な殺気を。例えるならば「悪魔」。12人の達人達は、
その場で話し合う。

「さて、聞いての通りだ。害虫駆除に向かってくれるものを
 選びたい・・・・・・と言っても、誰もいきたがらないだろう。
 だから、ゲームにしよう」

「?」

「・・・選ばれた者が所定時間内にどれだけの害虫を駆除できるか。
 多くを刈り取った者が、この12の真の強者・・・・!」

「・・・・・おもしろい、その先陣。このオレ様が
 切らせてもらう」

「ほぉ、ゴルザか。良いだろう、開始は攻撃されてから
 10分。その間に多くの人数を殺せ」

「・・・・グフフッ。やっとオレ様が貴様らの頂点に立てる。
 達人衆のトップはこのゴルザ様だ!せいぜい指をくわえて待っていろ」

「・・・・・奴を選んだのは、間違いだったか・・・?」

達人達が提案した「殺人ゲーム」。その最初の挑戦者となった
「ゴルザ」。果たして、彼らの実力とはいかに・・・。
そのころ、相変わらず反逆軍の一味に捕えられているヴァルは、
牢屋でどうしようもなく身動きがとれずにいた。そんなヴァルの所に誰かがやってくる。

「おっす、兄ちゃん!」

「レオ。どうした?何か用事か」

「囚人に用事なんて作りたくないけどさ、オレ、暇なんだぁ。
 話し相手になってよ」

「・・・・・・。まぁ、構わん。
 なにを話す?」

「うーん。兄ちゃんの恋人とのキ・・・・」

「おやすみ、レオ」

「じょ、冗談だよぉ、兄ちゃん!」

ヴァルにとっても、こんな敵地な中で少しでも心休まることが
あるのならば、そこにすがりつきたい気持ちだった。しばし、
レオと共にくだらない話を続けるヴァル。

「ハハッ!兄ちゃんって、本当につまんねー人生送ってるね!」

「・・・・悪かったな。この戦乱の世をどう送れば、
 たのしい人生になるのか、俺が知りたいくらいさ」

「もー!兄ちゃんって、すぐに真面目な話になんだよぉ。
 まっ、ここいらの薄汚れた連中と話すよりかは楽しいけんね!」

「そんなことよりも、もう夜だぞ。
 おまえのような子供は、ゆっくりと寝・・・・」

ドカァアアアアアアアアン!!!

「っぐ!!な、なんだ・・・・・!?」

これが、ヴァルにとって初めての事件となる。大地を揺るがす大きな
爆発音。耳に響き渡る破裂音、そしてわずかばかりの人々の悲鳴。
真っ暗な夜が、一瞬にして地獄の赤へと染まる一瞬だった。

「グフフッ・・・・見つけたぞ、害虫共ぉ・・・・!」


6 :匿名 :2008/01/09(水) 19:47:37 ID:onQHWiL3

第五話「奈落に堕ちし、戦乙女」

ドカァアアアアンッ!!

「た、隊長!!大変です!」

「どうした!?この爆発音は一体何だ・・・・!」

爆発音が冷めやらぬ場で、慌てた様子の部下が隊長こと
エレクのもとに駆けよる。そして、エレクは直観する。
「敵の襲撃にあった」と。そこまでは考えられた。そこまで、は・・・。

「て、敵です・・・!!敵が、うちの爆薬庫に火を
 放ちやがって・・・・・」

「ッチ!敵は何人だ!これだけの騒ぎが起こっているんだ、
 それなりの人数が・・・」

「・・・・そ、それが・・・・・
 ひ、一人・・・・・なんです・・・・・」

「な、何ぃ・・・!?」

それを聞いて、驚くとともに、今までとは打って変わって
冷汗がにじみでた。たった、たった一人でここまで騒ぎを起こさせた。
それに、この様子ではまだ捕まっていない。たった一人で、
自分の何百という兵と戦っているのだ。その戦闘下では・・・。

「ひ、ひぃいいい!!だ、誰かたす・・・・ぐぎゃぁあああ!!」

「フウンッ!!!・・・・これで、9人目。
 ぬぅううりゃあああ!!出て来い、害虫共ぉおお!!
 達人衆が一人、腕力の達人、ゴルザが相手だ!!」

「な、な、なんだあの巨人!!つけている甲冑も、
 とんでもねぇぞ!」

「ば、化け物だぁあ!!こ、殺されるぅう!!」

「火、火だぁ、火を消せぇええーーー!!」

やはり、襲撃をかけたのはゴルザだった。ゴルザはその巨体を
生かし、腕力の達人へと上り詰めた男。まとう甲冑も、厚く・おぞましく、
まさに「怪物」と例えるのにふさわしい。手に持った巨大な斧で、
次々と反逆軍の兵を斬り殺していく。そんな中、牢屋にいるヴァルは・・・。

「な、何だ!?外で一体、何が起こっているんだ・・・!」

「はわわわっ!!アテネの奴らが攻めてきやがったのか!?
 ど、どうしよう、兄ちゃん、オレ、どうしよう!」

「・・・・っく・・・に、逃げろ、逃げるんだ!!
 この近くに町がある!そこまで逃げろ!」

「だ、ダメだよぉ、オレ、反逆軍の一員だもん!」

「人間の一人じゃないのか!?」

「で、でもぉ・・・・でもよぉ・・・・・!!」

外で何が起きているか、まったく把握できずに焦るヴァル。
自分はこんな状況にもかかわらず、牢屋につかまっている。
そんな悲惨な自分を呪いながらも、一緒にいるレオの心配をする。
そのころ、戦闘中の外では・・・・。

「っく!!何だ、あの岩の塊は・・・・・!
 甲冑をまとった悪魔か・・・!?」

「隊長・・・・!」

「ふ、副隊長!戦況報告をしろ!一体どうなっている!?
 あいつは一体、何者だ!?」

「・・・・・犠牲者20名程度・・・・火薬庫に火をつけられ、
 火が充満しています・・・・武器庫にも、被害が・・・・!」

「ッチぃ!!戦力を削ぎに来たのか・・・!
 いや、違う。たった一人で、この部隊を壊滅させる気か!!」

「あの甲冑、まるで矢を通しません。・・・・いや、剣も通じない!
 ・・・・どうします、隊長・・・・・!?」

「・・・・・くそっ!!・・・・魔物、めが・・・・!」

達人の一人、ゴルザの腕力に成すすべなく斬られていく。
その上、ゴルザの重装な甲冑によって、武器はまるで効かない。
最悪の一歩手前。情けなくも、たった一人によってこの部隊は、
全滅させられそうであった。そんな時にもかかわらず、ヴァル達は相変わらず・・・。

「だ、だから、早く逃げろと言っているだろう!
 オマエまで殺されてしまうぞ!」

「で、でも、姉ちゃんもまだ戦ってるんだ!
 オレはまだ、逃げられないよ!」

「く、くそぉ・・・・融通の効かん、子供だ・・・」

「ど、どうしよう、外では苦戦してるみたいだし・・・・・・。
 あっ!!そ、そうだぁ!!兄ちゃん、ちょっとオレ、行ってくる!!」

「お、おい!何所に・・・・・・・・。
 に、逃げた、のか?・・・・良かった、逃げたようだな・・・・」

何か気づいたように急に何処かへと行ってしまったレオ。
その姿を、安堵するような眼差しで見送るヴァル。
思えばヴァルは、敵地に捕まり、そこで死ぬ。つまり、戦死だ。
父親と同じ結末を迎えることを皮肉に思った。

「(っち・・・・結局、親父と同じ死に方か・・・。
 後悔などはせんが、だが、しかし・・・・・
 俺は、もっと抗いたかった・・・・自分の人生に)」

ガガガガッ

「ん?・・・・何だ、この音は・・・・・。
 っ!!レ、レオ!!何をしているんだ!」

「うぅ〜〜んしょぉ!!に、兄ちゃん、持ってきたよぉ!」

何か金属音を引きずる音がする。そこに目をやると、自分の
甲冑を無理やり引っ張っているレオの姿があった。
その様子から、この先のことを予想することができたヴァル。
溜息をついて、レオを怒鳴る。

「レオっ!!逃げろと言っているだろう!」

「はぁ、はぁ・・・。に、逃げるなんて、まっぴらゴメンだよ!
 兄ちゃん、これ、兄ちゃんの甲冑だろ!?
 戦って・・・・・戦ってくれよ!!」

「じょ、冗談を言うな!俺はアテナの国の兵士だぞ!
 よもや敵の反逆軍のために剣を使うなど・・・・・!」

「このままじゃ、兄ちゃんだって何もできずに死んじゃうんだよ!?
 ねぇ、おねがい!助けて、助けて、兄ちゃん!!」

「そ、そんなこと・・・・・・。
 お、俺一人で、どう戦えと言う・・・・・?」

レオは、ヴァルに甲冑をまとって戦ってもらいたいらしい。
涙をこらえて、必死に訴えるレオに対し、ヴァルは冷静に対応する。
だが、冷静になればなるほど、その考えは変化をしていく。
そう、このまま・・・・。

「(・・・・・確かに、このままでは犬死だ・・・・。
 3か月を生き残るなど、叶わぬ夢・・・・・・・。
 ・・・・・・・・戦う時は、今か・・・・・・!)」

「に、兄ちゃん・・・・・?」

「・・・・・俺は、俺に情けをかけた隊長と、おまえのために戦う!!
 それを了承する上で、俺は俺のできる力を尽くしてみせる!」

「に、兄ちゃん!!」

「レオ!!手錠をはずせ、甲冑を、甲冑を俺に着せてくれっ!
 もう時間はない!」

「う、うん!!」

ヴァル、決意をする。すべては、三か月の誓いのために。
そこには、戦闘が終わったら早々に逃げられるという考えもあったからだ。
レオはヴァルの手錠をほどき、甲冑を着せる。二つの羽を備えた、
戦乙女を模った甲冑を、まとう。

「えぇーと、右肩の防具は・・・・う、うーんとぉ・・・
 ど、どう付ければ良いんだ?」

「は、早くしろ!!敵がこないうちに、装着しなければ・・・・」

ドカァアアアアアアンッ!!!

「な、何っ!!!」

甲冑を着せるのに、戸惑うレオ。それをはやし立てるヴァルだが、
ついに、敵の魔の手がここまで押し寄せてきてしまう。
牢屋の一部が、粉々に壊されてしまう。あたりに充満する砂埃。
そして、その中から現れたのは・・・・・。

「グフフフ・・・・・27人目、見つけたぞぉ!」

「(こ、こいつ・・・・・達人の一味!?)」 


7 :匿名 :2008/01/17(木) 17:41:47 ID:onQHWiL3

第六話「快楽なまでの、死の遊戯」

唐突。甲冑もまだきちんと装着していない中、腕力の達人、ゴルザに
見つかってしまうヴァル。ゴルザの狙いは、ヴァルへと向けられる。
ヴァルは急いで、戦闘態勢を取ろうとするが・・・。

「こいつ、でかい!!まさか、達人の一人だと言うのか!?
 反逆軍をたった一人で襲撃に来たというのか・・・!」

「ほぉ。反逆軍の分際で、それほど見事な甲冑をまとっているとはな!!
 気に入らん、その翼の甲冑ごと粉砕してやるわぁああ!!」

「ま、まずい!!(冗談ではないぞ!!相手は達人!?
 そんなの、勝てるわけが・・・・・・・!
 ん?・・・・お、おい、ちょっと待ってくれ・・・・・!)」

反逆軍を襲撃しにきたのが、達人の一人だと知り焦るヴァル。
ゴルザもようやくまともな相手と対峙できて、満足気のようだ。
その巨体に相応する巨大な斧で、ヴァルに襲いかかる。
そんなピンチの最中、ヴァルはあることに気付く。

「お、おい!!レオぉおおーーー!!
 武器は・・・・俺の武器は、何処だ!?」

「えっ・・・・あ、いっけねぇー。ごめん、兄ちゃん!!
 素手で何とかして!」

「なっ・・・・・!!!
 じょ、冗談だろう・・・・・!!」

「ふぬりゃあああああああ!!」

「!?、く、来る・・・・・!?」

ズバアアアアンッ!!!

武器が無い。甲冑に気をとられていたヴァルは、その事実に
ようやく気づく。だが、当然のように相手はそんなことおかまいなしに
攻撃をしてくる。その斧の一撃はまさに、大地を裂く獣のような力。
亀裂が、地面を走る。

「ぐぅう!!・・・・な、なんて一太刀だ・・・・!
 地面に亀裂が走っている!!こ、こんなのをまともに受けたら、
 一撃で・・・・・・」

「逃がさんぞぉおお!!翼の甲冑ぅううーーーー!!」

「く、くそぉお!!誰か、誰か俺に武器を貸せぇーーー!!
 このままでは・・・・このままではぁ!!」

逃げ回るしかないヴァル。逃げ回りながら必死に武器を貸せと叫ぶ。
その姿はまさに、狂ったダンス。基本、甲冑などを装着していては
そう自由はきかない。だがやはり、巨体なゴルザの甲冑に比べ、
ヴァルの方が幾分かは素早さが上をいった。それが、生命線であった。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・!!
 し、死ぬ!!・・・・殺される、このままでは・・・・!!」

「ちぃ!!ちょこまかとしやがって、この害虫がぁあ!!
 正々堂々と戦わんかぁあ!!」

「ど、どうする!?どうすれば良い!?
 まもとに戦っても・・・・・勝ち目は、無い・・・・・!!
 どうする・・・・・どうする・・・・・!?」

斧の一太刀を寸前の所で避けるヴァル。その激しい運動量と、
一瞬、一瞬の死の恐怖で、ヴァルの体中は大量の汗で覆われていた。
体力が切れた瞬間、集中力が切れた瞬間、命を狩られる。
恐ろしかった、あまりにも。その様子を、離れた場所で見る反逆軍の隊長。

「お、おい!!副隊長、あの巨人と戦っている
 甲冑の兵士・・・・まさか、あいつ・・・・・!!」

「・・・・・捕虜のようです・・・・・。
 だがしかし、このままでは奴も・・・・・・・!」

「・・・・あいつを・・・あいつを、死なせるわけにはいかん!!
 副隊長、援護しろ!!奴を救出する!」

「!?た、隊長、何を・・・・・・・!!」

戦っているヴァルを見て、無謀にも助けに走りだす隊長のエレク。
そのころ、ヴァルはもう死の一歩手前。体力はもう限界。
その付きまとう死の恐怖で、避けるための足も震えが邪魔をする。
目を一杯に開き、逃げることを意識しつつ限界で避ける。

「はぁ・・・はぁ・・・・・・!!
 だ、だめだぁ・・・・やら、れる・・・・・!!
 ころ・・・・殺される・・・・・!!」

「動きが鈍ってきたな、翼の甲冑!!
 腕力の達人、ゴルザの栄養となることを光栄に思うが良い!!」

「(あ、足が痙攣して・・・・もう、無理はできん・・・!!)
 や、やめ、ろぉ・・・・やめろぉ・・・・!!
 俺は、俺は・・・・・味方・・・・だ・・・・・・!」

「聞こえん!!天にその続きの語りを聞いてもらえ!!」

「し・・・・・死ぬぅ・・・・・・!!」

カコンッ

「ぬぅ?・・・・誰だぁあ!!我の最大の祝福を邪魔する輩はぁああ!!」

ヴァル、絶対絶命のその時、ゴルザの背後で何か情けない音がする。
それは、ゴルザの分厚い甲冑にはじかれた矢の音だった。
矢を放った先には、この反逆軍部隊の隊長、エレクがいた。

「く、くそぉ!!やはり、ただの矢ではあの甲冑を貫けない・・・!?」

「(・・・・う、うぅ・・・・・・・。
 バ、バカ、な・・・・・あの、反逆軍の隊長が・・・・
 お、俺を・・・・三度、助けた、だと・・・・?)」

「貴様ぁあああ!!それほど死を望むのであれば、その望み、かなえてやろう!!
 27人目は貴様だぁああ!!」

「い、いかん!!・・・・狙いが奴に変更した!?
 に、逃げろぉおおーーー!!おまえでは・・・・・人間では、奴を倒せないっ!!」

「そ、そんなことわかっている!!だ、だがぁ・・・・・!」

「死して、己が存在を地に埋めたてろぉおおおお!!」

「や、やられる・・・・・!!」

ゴルザの標的が、エレクへと変更する。狩りを邪魔され、ゴルザは
機嫌が悪かった。怒り心頭のゴルザは、その勢いのままエレクへと
斧を振り斬ろうとする。誰も、助けはこない。ヴァルも、動けない。
残る結末は、死のみ。だが・・・・・。

ピーッ!!ピーッ!!

「・・・・ッチ。もう10分経ったというのか。
 運がいい奴だ。だが、明日、これとまったく同じ時。
 再び、相まみえよう。ガッハハハッハッハッハ!!」

「(こ、攻撃を、してこない・・・・・・!?
 な、情けを、かけられたのか・・・・・・・・!!)」

「た、助かった、の、か・・・・・・・・。
 (あの隊長も、死んではいないようだ。
 それにしてもなぜ、奴は突如として攻撃を止めたんだ・・・?)」

いきなり、二人に背を向け去っていくゴルザ。その恐怖から、
誰もゴルザの無防備な背中を攻撃しようとは思わなかった。
それは、ヴァルとエレクも同じこと。攻撃すれば、死ぬ。
それだけが、暗黙の了解だった。くやしそうに、エレクが地面をたたく。

「く、くそぉ・・・・くそぉお!!何をしている、オマエら!!
 奴は背を見せているのだぞ、殺せ、殺すんだ!
 今のうちに、殺さなければ・・・・」

「で、でも隊長ぉ。あんな化け物に適うわけがぁ・・・」

「お、おまえが行けよ」

「ふ、ふざけんな!俺はまだ死にたくねぇよ!」

「っく!!役に立たぬ畜生共めっ!
 このまま敵に情けをかけられたまま、みすみす逃がして・・・」

「待てっ!!エレクッ!」

「っ!!・・・・ほ、捕虜。わ、私の名を呼ぶな!!
 隊長と呼ばなければ、貴様の首、地面に叩きつけるぞ!!」

「・・・・・・安心しろ・・・・・」

「?・・・・あ、安心、だと・・・・?」

「・・・・・その情けとやら、明日まで伸ばされただけ。
 オマエの命、明日、刈り取られる・・・・・・。
 いや、違う。ここにいる全員・・・・・奴に、殺される・・・・・!」

ヴァルの言葉に、その場は静まり返る。一言も、話す者はいない。
ただ、ゆっくりと、荒い呼吸を整え、思考をもう一度開始させる。
そして、気づくのであった。「このままでは、殺される」と・・・・。


8 :匿名 :2008/01/26(土) 11:31:14 ID:onQHWiL3

第七話「秒針の如き、戦慄の闇」

ゴルザの襲撃により、エレク率いる反逆軍の部隊は壊滅状態。
その戦いに巻き込まれてしまったヴァル。猶予は一日。
このままでは、達人のゲームの餌食。そんな事件の翌朝、
アテナの王宮では、ゴルザが機嫌良さそうに他の達人達に話しかけていた。

「グフフフッ!!聞けぇえ、俺は昨日の晩で26匹退治した!
 今夜行って、全滅させてやろうかぁあ!!」

「・・・ほぉ、それは称賛に値することだな、ゴルザ。
 だが、たった一日でそれ程度。おまえにしては、本当に良くやったな」

「貴様ぁああああ!!俺を愚弄する気か!!
 ッチ、あの翼の甲冑で手間を取らなければ・・・・!」

「?・・・・翼の甲冑・・・?」

「フンッ!!貴様になど関係ないわ!今のうちにほざいてろ!
 そして明日、我が全員殺した時、くやしがっていればいい!!
 グフフフフフッ!!」

「・・・・・ッチ、力だけの俗物め・・・・」

ご機嫌そうなゴルザを、やや嫉妬気味の眼差しで見る達人達。
だがしかし、それが現実実があるのだから仕方がない。
このまま何もしなければ、ゴルザの言うとおり、エレクの部隊は
全滅してしまうであろう。だが、そうさせないためにもエレク達は・・・。

「よし、集まったな。副隊長、サイン。
 これより、被害報告と先日現れた大男に対する会議を始める」

「・・・・・・・隊長、れいの・・・・」

「ん?あぁ。連れてきてくれたのか」

「?お、おい、副隊長と隊長さんよぉ。俺に隠れて、
 一体何をしてたんだよ?れいのって、何だよ?」

「・・・・・中に入れてくれ、副隊長」

「・・・・・了解・・・・」

ガサッ

エレク、副隊長、そしてサインは先日起こった事件についての
話し合いをしていた。サインは元副隊長としての権威として、
この位に立っていた。そして、何かきまずそうな顔をして、
副隊長がある男をテントの中に入れる。その人物とは・・・・。

「なっ!!!た、隊長、副隊長!!
 こ、これは、どういうこったい!?
 あのブタ野郎、敵の兵隊だぜ!!」

「わかっている、騒ぐな!!・・・・・・
 なぜ、貴様がここに呼ばれたか・・・・わかるな、ヴァル・・・?」

「・・・・大方、な」

やはり、連れてこられたのはヴァルだった。なぜ、ヴァルが
これほど重要な会議に出席を余儀なくされたのか。その理由は、
本人も悟ることができていた。

「・・・・俺に、協力を要請したいのだろう?
 悪いが、断る。あの時の戦闘は、恩義を返したまで。
 もう、恩義はない。どうせ、今日死ぬことに変わりはない」

「言葉を慎め!!私たちはやられたりなどせん!!
 ・・・・・・なぁ、聞け、ヴァル」

「・・・・甲冑など、くれてやる。貴様が戦えば良い。
 俺はもうゴメンだ。あんな化け物と戦うなど・・・・・」

「テ、テメェ!!隊長に向かって貴様だとぉ・・・・!」

「黙っていろ、サイン!!・・・・そうはいかない。
 言ってみれば、私達の部隊は田舎部隊さ。
 わかるか?ヴァル。この意味が・・・・・・」

「・・・・・正式な戦闘訓練をしていない雑兵の集まり、ということか?」

「あぁ。反逆軍なんだ、反逆の心さえあれば、誰でも入れる。
 それが、このザマだ。・・・・・おまえしか、あの甲冑を扱えない。
 おまえしか、まともに戦えないのだ!!」

「・・・・断る!!いい加減にしてくれ!なぜ、
 俺が敵のために命を削る!?」

「生きたいとホザいていたのは、どこの犬だ!!
 ・・・・これは、機会だよ、ヴァル。戦って、勝てば・・・
 私たちは、おまえを素直に解放する」

「っ!!!」

ヴァルは、驚いた。不機嫌そうな顔が、一気に驚きと笑みをまぜた
ような表情になる。解放される。敵の地から、生きて。
だが、ここで有頂天にならないのがヴァルの良い所。
すぐに、顔をしかめる。

「・・・・反逆軍が、ミスミス俺を逃がす?
 とんだお人好しになったものだな」

「・・・・こちらだって必死なんだ。
 明日を生きるために、命をかけているんだ。
 術は、選ばない。・・・・・・どうする?ヴァル」

「・・・・・・・・・・・・・。
 (どうする?確かに、この機会を逃せば俺は・・・。
 それこそ、惨めに死ぬ運命。ならば、この気に賭けるのも、
 また最良の選択か・・・・)」

「おい!!答えろって言ってんだろ、ブタ野郎!!」

「言葉を慎め、サインッ!!私の前だぞ、そんな言葉を・・・・」

「・・・・・了解した。おまえの提案、のってやる・・・・!」

「っ!!・・・・ほ、ほぉ、ついに決断したか、ヴァル。
 その返事、待っていたぞ」

ヴァル、決断。反逆軍と共に、腕力の達人、ゴルザを倒すという
案に協力するのであった。その返事を聞いて、少し笑みをこぼすエレク。
サインはますます不機嫌そうな顔になったが。

「・・・・よし、これより本題に入るぞ。
 ヴァル、おまえも聞いておけ」

「・・・・あぁ」

「副隊長、被害報告をたのむ」

「・・・・御意。先の戦で、死者は27名。負傷者は13名。
 しかし、負傷者に至っては特に重症の者はいません」

「ッチ・・・。たった一晩で、たった一人の男によって、
 140いる中の27が殺されたのか・・・・・。
 ヴァル、あの大男について知っているか?」

「・・・・恐らく、達人の一人。見たままの感じで言うと、
 筋力が異常なまでに発達している、パワー系の達人。
 その身に合った斧を武器としていたが・・・・・」

「んなこと、オレでもわかってんだよブタ野郎!!
 テメェの意見なんざ、聞いちゃいねぇんだよ!」

「サイン!!貴様は黙っていろ!
 ・・・・それと、副隊長。問題なのは、その次なのだろう?」

「・・・・はい。昨夜の火事によって、爆薬物はすべて消滅。
 弓矢も残ったのは50本、剣も使えるのは15本。
 ・・・・・防具にいたっては、何ともいえません」

「っ!!ちょ、ちょっと待て、エレクッ!!
 な、なんだ、この状況は!達人を相手にするというのに、
 戦う準備もまともにできていないだと!?」

それは、希望をみた瞬間に訪れた、圧倒的、絶望。
正規な兵隊もいなければ、武器もままならない。まさに、ドン底。
その状態で、達人という一種の怪物を相手にするのだ。
それも、ヴァルを中心に。ただ、震えあがるしかなかった。その現実に。

「・・・わかっている、わかっているさ!!
 だが、それでも私たちは戦わねばならんのだっ!」

「なぜ逃げようとなどという答えは導かれない!?」

「・・・・伝達を送ってある、もう何日も前に・・・。
 返事は、簡単だった。すぐに、救援に向かう・・・・・。
 それだけだった、だから、私たちは救援が来るまでここを動かん!」

「ッチ!!強情な女めっ!貴様、隊長としてそれで良いのか!?
 武器もままならいままで、どう戦う!?
 あの化け物と、どうやって雑魚以下の兵達で立ち向かう!?」

「だから、それを今から考えるのであろう!!
 副隊長、サイン!!何か、良い案は浮かばないのか!?」

「・・・・う、うーん。で、でしたら、隊長!!
 残りの兵を掻き集めて、一斉に攻撃をすれば・・・・」

「・・・・意見とやらをするぞ、サインとかいう奴・・・・。
 おまえ、バカか?」

「あ、あぁあ!?ブタ野郎のくせに、俺に突っかかるたぁ・・・・」

「相手は一人だぞ!?わかるか!?この意味が・・・・・!!
 いくら奴の体系が大型とはいえ、一度に攻められる人数は
 4、5人程度。そう・・・変わらん、変わらないんだ、人数など!!」

「う、うぅ・・・・・!!」

そう、まさにヴァルの言うとおりであった。数で攻めるという策、
これはいとも簡単に破綻する。言葉では良い響きの「一斉に攻める」だが、
実際にやってみると、攻撃するのはその中の4、5人だけ。
後の者は攻撃している者が邪魔で、後ろで突っ立ていることしかできないのだ。

「じゃ、じゃぁ、テメぇが何か案をだしやがれっ!!
 威張り腐ってんじゃねぇぞ、ブタ野郎!」

「そう、だな・・・。だが、俺達の考える枠がすでに奴の罠だ」

「?・・・どういうことだ、ヴァル?説明してくれ」

「奴らは達人だ、つまり・・・・・・いや、言い方を変えよう。
 副隊長とやら、尋ねる。アンタなら、奴とどう戦う?」

「・・・・・・・奴は、あの巨体・・・・・
 動きがトロい・・・・・そこを、突く・・・・・・!」

「それが、ダメなんだ。恐らく、奴らは自分の短所も
 武器として使ってくるだろう。俺達みたいな雑魚が、
 そこを盲点だと思い、攻めてくるのを口を開けて待っている・・・・!」

「・・・ッチ!!根拠の無い説明だが、いやに説得力があるな。
 ならばヴァル、私達はどう戦えば良いのだ?
 それをおしえてくれ!」

「・・・・今どうしろと言われても、どうにもできん。
 だが、奴が気づかぬような策・・・・いや、罠を張らなければ!!
 わずか1%でも奴が油断してくれるその一瞬に・・・すべてを、賭けるしかない!」


9 :匿名 :2008/02/09(土) 11:33:01 ID:onQHWiL3

第八話「滑稽な束の間、震える世界で」

達人、ゴルザを倒すべくエレク・ヴァル・サイン・副隊長の
4人がテント内で話し合う。時間が、時間がない。だがしかし、
それでも一向に良い案は浮かばない。焦りだけが、時間の流れを
川の流れのように流れていく。

「隊長!!こうなったら、このブタ野郎を生贄にして、
 その隙に奴の背後から・・・・・」

「言っているだろう、サイン!奴は達人だぞ・・・・。
 喰われる・・・・・喰われるぞ、そんな小さな策。
 奴の餌食だっ・・・・・!」

「・・・・・違う、発想が、違うんだ・・・・・」

「?、ど、どうかしたのか?ヴァル」

「・・・・なぜ、オマエらは攻撃のことだけしか考えない?
 なぜ、回りの環境から有利に物事を運ぼうと思わない?」

「だ、だが!!そんな悠長なことを言っていられる時間は、
 私達にはないことぐらい、オマエだって・・・・!」

「・・・・焦るな・・・・!!焦れば、焦るほど、奴の思う壺だ。
 考えろ、見ろ、語れ・・・・!!そこから、何かを生み出すんだ!
 それしか、もはや勝利の道はない・・・・!」

ヴァル本人とて、焦っていた。だが、隊長ことエレクとサインは
もう限界点を突破状態。唯一、冷静な副隊長だが、彼もまた心底では
震えているだろう、その危機に。

「あぁ、わかっている、わかっているさ!!
 クソッ!!そうだ、そうやって地道に勝つ確率を高めれば良い!
 そんなころには、私達は奴のエサだよ!ヴァルっ!!」

「落ち着けと言っているだろう!!俺は、協力している身だぞ!
 ここで言い争っている場合じゃない!」

「こんな・・・・こんな状況で、落ち着けるわけないだろう!!
 どうやって、どうやってあの化け物を倒す!?」

「た、隊長ぉ。ちょ、ちょっと冷静になられた方がぁ・・・・」

「うるさい!!!くそっ!・・・・・
 あの巨人が、武器庫に火などかけなければ・・・・・!!」

「・・・・そう愚痴っていても仕方ないだろう。それよりも・・・・。
 ん?そういえば、気になっていたんだ。よく、火事が
 広範囲に広がらなかったな。どういうことだ?副隊長」

「・・・・・・近くに、海岸がある・・・・・・
 そこから、水を持ってきただけだ・・・・・・・・」

「そ、そうか。(そういえば、俺も海を目指して歩いていたんだったな。
 そうか・・・・海、か・・・・。ま、待てよ・・・これは、使える!!)」

この時、ヴァルの頭に光が過る。この停滞している地域から
海までは、さほど遠くない。いや、極近い。走れば、行って帰ってきて
10分程度で済むだろう。それが、ベストだった。ヴァルは、
勢いよく3人に話し始める。

「そうだ、海だ、水だ!!そうとなれば、残っている
 兵士を全員使って、水を大量にここに持ってくるんだ!」

「お、おい、ちょっと待てよブタ野郎!!
 勝手に一人で暴走してんじゃねーぞ!」

「・・・・まずは、地形だ!!地形から、有利に運ぶ!
 ここら一帯に水を大量にまき、ぬかるみ・・・ドロの地形にする!
 わかるか?この意味が・・・・」

「そ、そうか!奴の重量の巨体+ドロの地面・・・・・!
 奴の動きは、それこそ鈍くなる!!」

「そうだっ!それに、奴の所持している武器は斧!
 攻撃する際に、かなり足場にふんばる力を必要とするハズ!
 ドロのおかげで、奴の力を八分程度に抑えることができる・・・!」

「・・・・・・だが、それだけで・・・・・・
 奴に、勝てるのか・・・・・・・・?」

「っ!!!・・・・・そ、そう、だな・・・・」

ドロの地形、甲冑を装備するならなおさら。戦い憎い状況を
自ら作り出すことによって勝機を見出そうとするが・・・・。
副隊長の言葉が、ヴァルの策に釘を打ち込む。
黙り込んでしまうヴァル。

「・・・・た、確かに、ヴァルの作戦は良い線だ。
 だが、勝てる根拠がない。奴がその地形で弱い証明がない。
 ・・・奴が油断するという事実も、存在しない・・・・」

「く、くそったれぇえ!!結局、俺達はぁ、
 何もできずにただやられるのかよぉお!」

「(・・・・いや、地形の考えは間違いじゃない。
 甲冑を装備すれば、誰だって戦い難くなるに決まっている。
 だが、やはり・・・・勝てる一瞬・・・・・・
 奴を刈り取る一瞬が・・・・無い・・・・・・・!)」

「・・・何か、何かもっと策はないか!?ヴァル!
 オマエならばまた何か良い案を出してくれるのだろう!?
 なぁ、言え!!言うんだ、ヴァル!」

「うるさい・・・うるさい!!俺だって、考えている!
 油断・・・・そうだ、奴を油断させることができれば・・・!!」

「・・・・・・油断とは・・・・・思いがけないから、油断と言う・・・・。
 それを適えるには、まさに・・・・・自身から、思いがけずの発想を・・・・
 導くしか、あるまい・・・・・・」

「?・・・・ふ、副隊長?」

ヴァルまでもが、その波にのまれてしまう。「混乱」という、
大波に。その時、そんな3人を静めるかのように副隊長が、
言葉を発する。その言葉を聞いて、一度深呼吸をして、
考え出すヴァル。

「・・・・・油断は・・・・起こるものじゃない・・・
 起こすものか!!そうか、ならば、待てよ・・・・・・!」

「お、おい、ブタ野郎!!何一人でわかったような口してんだよ!
 俺にも・・・・」

「えぇい、うるさい、黙れ!!・・・・待てよ、地形が・・・・
 そうだ、それで奴は・・・・・いける・・・・・いけるぞ!!」

「ヴァ、ヴァル!!私にも何が何だかまったくわからんぞ!
 隊長を差し置いて一人で、独断に走ることはゆるさん!!」

「・・・・一つ、尋ねる!このテントの布・・・・・
 丈夫か?」

「あ、あぁ?・・・・そ、そりゃぁ、まぁな。
 それなりのものは使っているつもりだが・・・」

「よし・・・よし、いける!!ならば、早くにも
 作戦を実施しよう!」

「だ、だから、このブタ野郎!!さっきも言ったとおり、
 テメェだけが自己完結してんじゃねぇよ!」

油断は、起こすもの。その言葉に、ヴァルはひらめく。
相手に隙を見せる一瞬を作る、わずかな可能性を用いた策を。
不思議そうに、エレクとサインはヴァルの方を見る。
少し興奮気味のヴァルがその内容について話し始める。

「つまりだ、率直に言ってしまうと、奴を転ばせるんだ!」

「こ、転ばせる?何を言うかと思えば、ヴァル。
 もっとこう、戦術的に高度なものは・・・・・」

「おまえは、何を勘違いしている!?今は、もう地獄の目の前だぞ!?
 見た目カッコ良さに一喜一憂している時ではないんだぞ!
 勝つためなら・・・生きるためなら、無様になれっ!!」

「わ、わかっている!!ただ少し、戯言を述べたまでだっ!
 いちいち隊長の私に向かってそんな偉い口を叩くな!
 早く内容を説明しろ」

「よし。さっき話したドロの件。これを、オトリに使う。
 そのドロの下に、このテントの布を敷いておくんだ。
 これで、もうだいたいわかるだろ?」

「わ、わかるかよ!!もっと詳しく説明しやがれっ!!」

「・・・・泥という地形、まさに不安定な滑りやすさ。
 そこで、地面が急に動き出してみろ・・・・・・
 奴の巨体とて、必ず、不意を突かれ転倒する・・・・・!」

「そ、そうか。つまり、ヴァル。奴に気付かれぬように
 布をドロの下に弾き、頃合いを見計らってその布を一斉に巻き上げる!
 ・・・それで、奴は転倒する!」

ヴァルの策、これが吉と出るか凶と出るか。だが、迷っている
時間は無かった。ヴァルを含めこの4人には、もう策を練っている
時間など存在しない。4人は一斉に立ち上がり、視線を
一つへと集める。

「良し、今からヴァルの策を採用し、実行に移す!!
 副隊長は60程度連れて水を運びに行かせろっ。
 サインはこのテントの布をはがし、地面にひかせる!いいな!?」

「了解!」

「それでは、実行に移せぇ!!」

そう言うと、エレクの威勢の良い声につられて副隊長とサインは
テントから出ていく。残ったヴァルと隊長。この作戦、肝心なのは
やはりヴァルだろう。ヴァルがどれだけ、ゴルザの猛攻を耐えられるか・・・。
だが、そんなヴァルは・・・・。

「く、くそぉ・・・。俺が要の作戦だろう。
 何でまた、牢屋に入らなければならない・・・・・!」

「ゆるしてくれ、ヴァル。オマエが逃げ出しては、
 作戦も何も無いからな。それに・・・おまえのことを快く思っていない
 者も大多数だ。うろちょろしていたら、背中をいつ刺されるかわからんぞ」

「・・・・わかっている。せめて、剣だけでも
 振らせてもらいたいものだがな」

「・・・・・無理だな。それより、ヴァル。
 手を出してみろ」

「ん?」

ヴァルは、やはり捕虜の身としての待遇を受けていた。例え、
この反逆部隊に力を貸しているとはいえ、ただの一般兵がそれを
知るハズもなく、安全を守るためにも牢屋にいるということしかなかった。
そんなヴァルに、エレクは何かを差し出す。

「こ、これは・・・・・おに、ぎり・・・・?
 おまえ、この米・・・・・!!」

「・・・・・今は体力を十分に溜めておけ。
 私はな、ヴァル。やはり、何もできん隊長なのだよ・・・・。
 これでしか、役に立てん。だから、食え。一粒残さず」

「・・・・あ、あぁ。なぁ、やはり俺はわからん。
 なぜ、おまえが俺にここまでしてくれるのか・・・・」

「・・・・考えなくて良い。何も言うな、考えるな、読み取るな。
 おまえは、私にただ忠実に従っていれば良い」

「・・・わかったよ。だが、エレク・・・・」

「?、なんだ?」

「・・・・・・もし来世というものがあるとしたら、
 今度は味方として出会いたいものだな、エレク・・・・・。
 牢屋の中でしか満足に話せんなど、悲しいからな」

「・・・・言うな。言ったら、くやしいだけだろう。
 勝てよ、ヴァル」

「・・・・あぁ」

そう言うと、ヴァルは一生懸命、エレクに手渡されたおにぎりを
ほおばる。その様子を見て、すっと女性の笑みをこぼすエレク。
一方的な、信頼。エレクの一方的な信頼なのだが、それがヴァルにも
友情として伝わった。戦争中の、また悲惨なひとときだった・・・。


10 :匿名 :2008/02/28(木) 16:38:24 ID:onQHWiL3

第九話「我、戦乙女」

夜が近づいていくる。もう、日が落ちてしまう。その光景は
いつもと同じ、同じなのだが、その景色を見て不安になるシンシア。
ヴァルと3ヶ月間生き残る約束をしたその地で、身を震わせ、祈る。
その時、誰かがやってくる。

「シンシア!!こんな所にいたのかい?
 夜間の外出は危険だよ」

「・・・・・ロト・・・・ロト、私、怖いの・・・・!
 ヴァルキリーが・・・・ヴァルキリーが、危ないの・・・・!」

「?だ、だって、シンシア。ヴァルはもう・・・・」

「違う、違う、生きてる!!ヴァルキリーは生きてる!
 けど、けど危ないの・・・・ヴァルキリーが、死んじゃう・・・・!」

「(くそっ・・・・まだ、死人に心をゆるしているのか)
 わかった、わかったよシンシア。でも夜は危ない、
 家に帰ろう」

「・・・・う、うん・・・・・・。
 (ヴァルキリー・・・・なぜ、何で・・・・・?
 何で、こんなに胸が苦しいの?一体、何が起こっているの・・・・?)」

不安を隠せないシンシア。それをやはり、不気味な眼差しで
見るロト。シンシアの予感は的中していた、なぜならヴァルは・・・。

そして、夜が来た。逃れられようのない戦いが、待ちうける。
皮肉に言うならば、これぞ戦いの醍醐味。この一回、たった一回。死ぬか生きるかだけの
単純な駆け引き。それを、無し得なければいけない。牢屋の中で、
ヴァルは黙々と甲冑を装備する。すると、そこに誰かがやってくる。

「・・・・に、兄ちゃん・・・・」

「ん?レオか。その様子からして、作戦の詳細をおしえにきて
 くれたようだな。こちらの作業は構うな、話をしてくれ」

「・・・・う、うん。まず兄ちゃんが、奴を一人で待ちうける。
 そこで、奴がバランスを崩しそうな体制をとったら、
 隊長の指示に従って、周りにいる奴らが一斉に地面に敷いてある布を引っ張る・・・」

「それで、奴が転倒した隙を狙って皆で一斉にとびかかる・・・
 って所だろ?」

「!!・・・・う、うん。でも、でもよぉ、兄ちゃん!!
 こんなことでしか、俺達は生きられないの!?
 なんで、戦わなきゃ、生きられないの・・・・・!?」

「・・・・・レオ・・・・」

「やめよう、やめようよ兄ちゃん!!
 兄ちゃんだって、死んじゃうよ!相手は、人間を遙かに超えた化け物なんでしょ!?
 オレ、オレぇ・・・ようやくできた友達、死なせたく、ないよぉ・・・・!」

「・・・・・なぁ、聞けよ、レオ。
 俺な、ここに捕まえる前に・・・・親友、殺されたんだ」

「!?・・・・ご、ごめん、兄ちゃん、そんなつもりじゃ・・・・」

「・・・・それも、味方にな」

「えっ!!?」

レオは、今にも泣きじゃくりそうな顔で、牢屋越しのヴァルに
必至に訴える。だが、ヴァルは何処か気の抜けた表情のまま、
一向に動かない。すると、甲冑を装備をするのを止めて
語りだす。

「・・・・お国のために、死ななければならんらしい。
 ただそこに生まれたという理由だけで、俺の運命は決まっていた」

「に、兄ちゃん・・・・・」

「・・・・・親友も、それだけのことだった。
 今、考えてみるとな。だけどな・・・・今の俺は違う!!」

「え・・・?」

「俺は、俺のために戦っている!!俺は、自分の意思で、人生を切り開いている!
 何か知らん何かのためじゃない、俺が生きるために戦っている!!
 初めて・・・俺は、戦士として戦える・・・・・・・。
 カイトも、きっとそんな俺を見ていてくれる・・・・・・」

「・・・・兄ちゃん、・・・・兄ちゃん、でも!!
 死ぬことが良いなんて、そんなの無いよ!!」

「・・・・そろそろ、時間だな・・・・・・。
 レオ、行け。作戦が始まる・・・・」

「兄ちゃん、嫌だよ、オレ、こんなの嫌だよぉ!!
 このままずっと兄ちゃんに会えないなんて、そんなの、そんなの・・・・!!」

「・・・・・レオ・・・・・俺、ヴァルじゃない・・・・・。
 ヴァルキリー・・・・ヴァルキリーって、言うんだ」

「え、えぇ!?ヴァ、ヴァル、キリー・・・・・・?」

「・・・・・・随分、弱く、根性もない・・・・いや、女でもないが・・・。
 戦乙女。戦という名の聖地に、舞い降りてみせる・・・・・!」

「に・・・兄ちゃん・・・・・!!」

ヴァル、決意。それはまさに戦乙女、ヴァルキリー。自分の名に
誇りを持った一瞬だった。そして、ついに時満ちる。
ちょうど、ゴルザが襲撃をかけてきた時刻とほぼ合致。
ヴァルは甲冑を纏い、牢屋の中で待っていた。死刑執行人が迎えにくるのを。

「・・・・ふ、ふふっ・・・・何が、戦乙女、か・・・・。
 足がガク震るの奴が・・・・偉そうに言うもんじゃないな・・・・。
 ・・・・・・くそっ・・・・・・こ、怖い・・・・・・!」

コツッ、コツッ・・・

「・・・・怖い、怖い・・・・・・・!!
 死が、怖い!!俺は、どうなってしまう?俺の体は、意識は、どうなる・・・?
 くそっ、くそっ、くそっ!!・・・・・ダメだ・・・・恐ろしい・・・・!!」

バタンッ

「・・・・捕虜。そろそろ作戦開始時刻だ。
 おまえの剣はそこにある。それを取って、牢屋のカギをはずしておいてやるから
 早く持ち場に行け」

「・・・・・・・あ、あぁ・・・・・・・。
 (押さえろ、殺せ!!・・・・恐怖を、斬り殺せ!!
 戦う・・・・戦え・・・・・・行け、歩け、進め・・・・・!!
 シンシア・・・・俺に、力を貸してくれぇ・・・・!)」

ゆっくりと、立ち上がり、進みだすヴァル。歩いている途中、
足の震えは止まっていた。自分が選んだ道は、この一本道。
死ぬか、生きるかだけの方程式。進む、暗闇の中心を。
外に出たヴァルは、案内された場所へと向かい、そこに座り込む。

「ッチ・・・・テントの中央で、ぬけぬけと一人で待ち構えるか・・・。
 まさに、死にたいと言っているようなものだな」

・・・・・・・・

「(・・・・・静寂がこれほどまで怖いと思ったことは、無い・・・。
 俺を、殺す。ただの沈黙すら、俺を圧殺する・・・・・・。
 落ち着け、呼吸を整えろ、恐れるな、怖がるな・・・・・・・!)」

ヴァルは一人、テントの中央でしゃがみこんでいる。恐れながら、
死にそうになりながら。その様子を周りから見守っている
エレク・サイン・副隊長達は。

「・・・・まだ、来ないようだな。ッチ、この間は嫌だな。
 副隊長、布を引き抜く準備はしっかりと整っているんだな?」

「・・・・・御意。言うことはありません。
 ・・・・・・あの捕虜が、時間稼ぎをできればの話ですが・・・・」

「不吉なことを言うな!!今は、あいつを信じるしかないんだ。
 あいつが終われば、私達も終わりだっ!」

「で、でも隊長ぉ。あのブタ野郎に・・・・・・。
 あ・・・・あぁ・・・・あっ・・・・・・・・・・!!
 き・・・・来た・・・・・・来やがったぞぉおおおーーーーーー!!」

最初は、サインの悲鳴ともとれる叫び声からだった。その声に、
周りは騒然とする。そして、来る、腕力の達人、ゴルザ。
この反逆部隊を皆殺しにするため、今日も舞い降りる。
それに対抗するは、弱き戦乙女、ヴァルキリー。

「・・・・・来たか・・・・・・!!」

「グフフフッ!!翼の甲冑ぅ!!今日の先陣は
 貴様からだぁあ!!昨夜の恨み、晴らさせてもらうっ!!」

「・・・・・もう、恐れてなどいられない・・・・!!
 やる・・・・やってやるぞ!!正規軍で培った力、見せてやる!!」 


11 :匿名 :2008/03/09(日) 20:03:01 ID:onQHWiL3

第十話「愛し殺戮の、限りなる空虚」

ペチャ、ペチャッ・・・

「グフフフッ!!貴様、一人のみかっ!!
 差し詰め、俺様の生贄とでも言うものかっ!」

「(・・・・戦うな、対抗しようと考えるな・・・・!!
 戦えば、負ける!!俺がすべきことは、一つ・・・・・・!
 一瞬・・・・・油断の一瞬を、作り出す!)」

ぬかるんだ地面を、ゴルザがのしのしと歩み寄ってくる。
その威圧感、まるで巨大な象に立ち向かっていくような、心境。
知らず知らずのうちに震える、剣を握るヴァルの手。ここで、ヴァルが
思うことは一つ。自分は「受け」。ただ、それだけ。でなければ、死ぬ。

「さぁ、開始時刻だぁ・・・・・!!
 貴様からたいらげてくれるわぁあ、翼の甲冑ぅうーーーー!!!」

「っ!!(く、来るっ・・・・・!!)」

電車。そう、まさに近代でいう電車。ヴァルは一瞬、それと同じ
感覚にとらわれた。自分が挑むべき存在は、止まらぬ戦機、電車。
立っていれば、そのままミンチ。立ち向かっても、肉が飛び散るだけ。
すべきことは一つ。ただひたすら、逃げるのみ。

ガキィイイイン!!

「くぅう!!」

「んぬぅううう!!貴様ぁあああ!!
 なぜ、戦わんっ!逃げるな、俺様と戦えぇえーーー!!」

「(好き勝手を言うっ・・・・・・!!
 くそっ、このぬかるんだ地面・・・・・!
 奴は知らず知らずのうちに、沈んでいっているが・・・・
 俺も・・・・動きづらいことは、同様・・・・・・!!)」

あくまで、「逃げる」。ゴルザは知らない。自分の動きがいつもの
10分の2程度、鈍いことを。その隙をついて、ヴァルは一瞬、一瞬、
命からがら逃げ惑う。時に足を使い、時に剣を使い、あらゆる方法で、
ゴルザの猛攻を対処する。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・!!
 (く、くそぉおっ!!お、恐ろしい、恐ろしい・・・・・!
 一瞬で、一瞬で・・・・死ねるっ!!
 自分が今、本当に生きているかすらも、わからない!!)」

「ぐぬぅうううう!!ちょこまかとしおってぇえ!!
 早急に逝って、神とやらを拝んでくるがいぃいーーー!!」

ヴァルは、これほど戦闘が恐ろしいと思うことは無かった。
気を抜けば、真っ二つ。自分が知らないうちに、胴体と脳が切り離されている。
恐ろしい。冷汗で、もう体中はビチョビチョ。甲冑にまとわりつく
泥の冷たさも、まるで感じさせない。そのころ、様子を伺うエレク達は。

「副隊長!!まだ、まだなのか!?
 もうこちらの作戦を開始しても・・・・・!」

「・・・・いえ、駄目です・・・・・・・!
 まだ、まだあと少し・・・・・・・」

「だが、ヴァルはもうもたない!!このままでは、死んでしまう!
 奴が死んでは、作戦も何も無いのだぞ!」

「・・・・まだ・・・・まだ少し・・・・・・!」

こちらとて、手に汗握る思いでヴァルが戦っている様子を見ていた。
ヴァルが死ねば、作戦は破綻。すなわち、自分達の終りを意味する。
焦るのも当然であった。だが、あえて、「待ち」。
その間に、ヴァルはもう戦闘の構えなど忘れたかのように、無様に逃げていた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・!!
 (い、息がっ・・・で、・・・でき・・・ないっ・・・・・!!
 く、苦しい・・・・・か、甲冑を・・・・ぬぎ、たい・・・・・!)」

「グフフフフッ!!動きが鈍ってきたぞぉお、翼の甲冑!!
 ドロの地形を使わせたことは褒めてやろう!
 だが、その程度の知恵では俺様に勝てんっ!!」

「(バ・・・バレて、いたのかっ・・・・・・・・!
 だ、だが・・・・・もう一つの、罠に・・・・・・・
 奴は・・・まだ、気づいてない・・・・・・!!)」

呼吸困難。当然、甲冑を纏って激しい運動をしているのだから
疲れるのは当たり前。だが、今回はそれに「恐怖」をプラスする。
「死」という、最大の疲労剤。荒々しい呼吸の中で、ヴァルは
自分の作戦を再び、思い起こしていた。

「(ま、待て、よ・・・・・・・・。
 そう、だ・・・・・こ、このままじゃ、ダメだっ・・・・・!!
 や、奴が・・・大振りを、する、一瞬・・・・・・!!
 これを、作らなければ・・・・・・・!)」

「さぁあ、そろそろお遊戯の時間も終わりだぁああ!!」

「(・・・・その、ためには・・・・・・・
 そのためにはっ・・・・・・・・・!!)」

ガキィイイイインッ!!

ヴァル、思考。その考えの答えを導き出したと同時に、鈍い金属音の
ぶつかる音が響く。ヴァルの右手に、衝撃が走る。剣が、無い。
ゴルザの斧によって、剣を吹き飛ばされてしまったのだ。
その場にしゃがみ込む、ヴァル。

「グフフフフッ!!!お偉いさんは言うっ!!
 武器を持たぬ者は、殺すなとなっ!
 ・・・・・それが、どうしたぁああ!!俺は、殺す!!
 殺したいから、殺す!!故に、今のオマエを全力で殺すっ!」

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・。
 ひ・・・・・・ひ、・・・・・・・・け・・・・・・・」

「あぁあああ!?何を言っているっ!
 死者の懺悔など、俺様は聞きたくも・・・・・・」

「・・・・ひ・・・・・けぇ・・・・・・・・。
 ひ・・・・ひ・・・・・ひけぇえええーーーーーーーっ!!!」

そう、これだった。ヴァルはわざと、自分の剣を相手に吹き飛ばさせた。
そこで、ゴルザが過ちを犯す。ヴァルを殺す優越を、選んでしまった。
殺す楽しみに、時間を費やしてしまった。これこそ、油断の一瞬。
ゴルザが斧を振り上げようとすると同時に、ヴァルは叫ぶ。そして・・・。

「っ!!今だ・・・・・・隊長・・・・・・!!」

「よしっ!!全員、布をひけぇえーーーーーーっ!!
 全力で、思いきり、引き抜けぇえーーーーー!!」

「おぉおおおおおおおっ!!!」

ドコォオオオオオオオッ!!!

「ぐぬぅうう!!?な、なんだぁあ、これはぁあああ!!」

まさに、ゴルザからしてみれば、突然の天変地異。地面が動き出した。
当然、武器を振り上げている最中なのだから、転倒するのは必然。
それに付け足し、一瞬の思考回路停止状態。これが、最高だった。
ゴルザの困惑する一瞬が、すべての勝敗を分けた。近くにいた兵が、一斉に飛び掛かる。

「敵は転倒したぁあ!!全員、襲いかかれぇええーーーーーー!!!」

「うぉおおおおおおーーーーーっ!!!」

「な・・・何ぃいい!?こ、これは、罠だとぉおおお!!?」

不可能、それは事実なる不可能だった。分厚い甲冑を着た者が、
すぐに立ち上がれるハズもなく、それに下半身が寝転がったまま戦うことなど、不可能。
回りからやってくる兵士達に、成す術なく、襲われるゴルザ。
決着は、あまりにもあっけなかった。

「うらぁあ!!死ね、この野郎っ!!」

「このクソったれ野郎め!!ブっ殺してやるっ!!」

「死ねっ!!死ね、死にやがれっ!!」

グザッ、グザッ、グザッ・・・・・

柔らかくも、裂ける音が、ただヴァルの耳に聞こえた。ヴァルは
起き上がり、ゴルザに群がっている兵士達を見る。罵声を上げながら、
恐らくもう死んでいるであろうゴルザに、攻撃を繰り返す兵達を、
ヴァルはどうしようもなく、見つめた。すると、エレクが寄ってくる。

「お、おい!!ヴァル!大丈夫なのか!?
 意識は、あるんだな・・・・?」

「・・・・・・・・・・・あぁ・・・」

「ふぅ。おまえのおかげだっ!!あの大男を、倒すことができた!
 まったく、一時はどうなるかと・・・・・・。
 ?・・・ヴァル、どうした?何処かをケガしているのか?」

「・・・・・・・・・・・。
 エレク、見ろよ・・・・・不思議だろ・・・・・・。
 みんな、人を殺して・・・・・うれしがっている・・・・・」

「・・・そ、それがどうした!?おまえはいきなり何を言う!!
 これは戦争なんだぞ!!敵の兵を殺すのが、最大の祝福!
 そんなことを言うのは、何も知らんガキだっ!!」

「・・・・・わかっている・・・・わかっているさ・・・!
 だが、だが・・・・!!俺は、それでも・・・・・・・
 一瞬でも、奴と・・・・・・戦った、男なんだ・・・・・・・!」

「・・・・そんなの・・・・そんなの分かるかっ!!
 そんな理屈、分かってたまるか!!死ぬか、生きるかだっ!
 死んだ奴は、もうゴミ以下でもない!!考えるな、ゲスのことなど、もう考えるな!」

「・・・・・虚しい・・・・虚しい・・・・・・・!!
 俺は・・・・俺は、戦いが・・・・・・虚しいぞ・・・・・・・!」

ヴァルは、何故か涙した。その虚しさに。やっていることは、同じなのだ。
だが、ヴァルは悲壮感を覚えた。そんなヴァルを見て、エレクは
怒鳴り散らす。まだ、ゴルザを殺す音は、終わらない・・・・・。


12 :匿名 :2008/04/04(金) 22:14:26 ID:onQHWiL3

第十一話「奈落の底の遊戯」

ゴルザを倒したその日、ヴァルは牢屋で横になっていた。
ケガは特にしていない。だが、それよりも心の傷が癒えてはいなかった。
ミンチになったゴルザの姿を思い浮かべ、ヴァルはやるせなかった。
そこに、誰かがやってくる。

「・・・・に、兄ちゃん・・・・・」

「?・・・・レオ。どうした?オマエも味方の連中と
 お祝い騒ぎでもしないのか?」

「・・・・・・お、オレ・・・・・・・
 ひ、人が・・・死ぬとこ・・・・は、初めて、見た・・・・・」

牢屋の外では、戦いに勝った者が、酒を飲み、肉を食べ、
歌を歌い、騒ぎまわっていた。その声は、嫌でも耳に入ってくる。
そんな中で、レオはヴァルのいる牢屋へとやってきた。
体を震わせながら。

「・・・・そうか。俺も・・・・・
 戦闘で、あれほど怖かったのは、初めてだ・・・・」

「・・・・・・敵も、悪魔に見えた・・・・・。
 け、けど・・・・・に、兄ちゃんも・・・・・・・・・・」

「・・・・・・レオ、こっちに来い」

「?」

パシィッ!!

鈍い音が、牢屋の中に響き渡る。レオの頬は、赤く腫れあがる。
ヴァルは、レオに手を上げたのだ。あれほど冷静なヴァルが珍しく。
感情を表に出したのだろうか。突然のことに、何も考えられず、
その場に棒立ちのレオ。

「・・・・・そんなこと言っていて、どうする?
 オマエは、自分の命も、自分で守ろうとしないのか・・・・?
 オマエは戦わずして、自分の命を捨てるというのか・・・?」

「・・・・・・で、でもぉ・・・・・・でもぉ・・・・!!
 み、みんな・・・・・同じ、人間だろぉ・・・・・・!!」

「・・・・俺も、そう思った。だから、オマエを殴った。
 わかるか?・・・・・・・・なぁ、レオ。・・・・・俺は、死ぬ」

「えっ!!?」

「・・・・・・俺もそう思っている、だからこそ、俺は死ぬだろう、いつか。
 その甘い気持ちを捨てきれないから、俺は必ず戦闘で死ぬ。
 だが、おまえは違う!!・・・・・おまえは、生きろっ!
 生きるためには、非道になれ!・・・・人を、捨てろ!!」

「に・・・兄ちゃん・・・・兄ちゃぁん・・・・・・・
 う、うわぁあああああーーーーーっ!!」

「・・・・大丈夫。ゆっくり、ゆっくりで良い・・・・・・。
 あわよくば、オマエが大人になるまでに、戦争が無い世界が良いな・・・・・」

レオは、ただ泣くしかなかった。ヴァルは、つらかっただろう。
だが、こうでも言わないとレオは戦わないであろう。だからこそ、
ヴァルはここで厳しく言った。ゴルザとの戦闘で、ヴァルは
自分に欠けている重大なものを、見つけてしまった・・・・・。


そのころ、アテナの国の城の中では。一向にゲームから帰って
こないゴルザを、無意味に待ち続ける達人達の姿があった。
誰もがこの時、悟った。だが、口にはしなかった。
「ゴルザが死んだ」と・・・・・。

「・・・・・ゲームに飲まれたようだな、ゴルザは。
 情けない、達人衆の面汚しめ・・・・・・・。
 記録は26。次は誰がいく?」

「・・・・・・・・ク・・・ククッ・・・・・
 ぼ、僕が・・・・い、行こう・・・・・・・・」

「・・・ほぉ、ジュウイチ。君が行くのか・・・・・。
 ゴルザの件がある、これ以上、王に失態を晒すわけにいかん。
 必ず、ゲームを成功させろ」

「・・・・ク・・・・ククッ・・・・・・・
 りょ、了解・・・・・・・」

不気味な笑みをこぼし、ジュウイチと呼ばれる達人の一人がまた、
ヴァル達の脅威となるべく、城を発とうとしていた。彼らは、悲しまない。
いや、逆に憎んだ。仲間のゴルザを。これが、達人。最強と言われた者達である。
そのころ、アテナの城の城下町では・・・・。

「・・・・シンシア、まだ起きているのかい?」

「っ!!ロ、ロト・・・・・・!
 未婚同士の男女が夜遅くに出会うことは、禁止されているハズよ!!」

突然、シンシアの家にこっそりと入ってきたロト。シンシアは
き然とした態度で、ロトを家から追い払おうとする。例え親しい仲と
言えど、未婚の男女の密会は禁止されていたのだ。特に、
許婚をされたシンシアともなれば。

「なぁ、シンシア・・・。まだ、死んだヴァルのことを
 想っているのかい?」

「・・・・い、生きてる・・・・・ヴァルキリーは、死んでない!!
 ヴァルキリーは死んでなんか・・・・・・」

「・・・・・そんな君をみて、ヴァルは喜ぶ奴かい?」

「っ!!・・・・そ、それは・・・・・」

「苦しむ君の姿を見て、ヴァルは天国で本当に微笑んでいられるかい?
 君が彼のことを忘れないのは自由だ。だけどね・・・・。
 彼が望むのは、君の幸せだったハズだ。そのことを、もう一度思い出すんだ」

「う、うぅ・・・・・ヴァ・・・ヴァルキぃー・・・・・
 ヴぁるきりぃ・・・・・・・・!」

「(フフフッ・・・・・もう少し・・・・後、もう少し・・・・・!)」

密かに、微笑するロト。シンシアは、涙を流し、空を見上げる。
そこには決して、ヴァルはいない。わかっている、わかっていることだが、
シンシアもまた、ヴァルが生きていることを信じきれなくなってきていた。
そんな時、当の本人、ヴァルはと言うと、依然、牢屋にいたが・・・・。

「・・・・もう、寝たか?ヴァル」

「?・・・・エレク。ずっとオマエを待っていたんだ。
 さぁ、早く逃がしてくれ。約束したハズだ、俺を逃せ!!
 俺はもう、こんな所にいたくない!」

「・・・・・その、ことなんだがな・・・・・・。
 オマエを・・・・・逃がすわけには、いかない」

「っ!!!」

ヴァルを訪ねたのは、エレクだった。エレクもまた、騒ぎに
疲れた表情をして、淡々とヴァルの問に答えた。だが、その答えた
内容は、あまりにも理不尽。ヴァルの顔はみるみる真っ赤になり、
噛みつく勢いで、エレクに詰め寄る。

「じょ・・・・・冗談じゃないぞっ!!
 約束が違う!!俺はこの通り、達人の退治に協力した!!
 なぜだ・・・・なぜ、逃がしてくれない!」

「私達は、オマエが必要なんだ!!恐らく、また達人の連中は
 ここを襲ってくる!その時、オマエがいなければ、
 我々は全滅する!」

「勝手なことを!!俺に敵に利用されて死ねというのか!?」

「そうだっ!!我々のために、死ね!!
 死ぬんだ、ヴァルっ!!」

「っぐ!!・・・・・オマエだけは・・・・・・
 オマエだけは・・・・・信じていたのに・・・・・・・!!」

「っ!!!・・・・・そ、それは・・・・・」

ヴァルの言葉に、戸惑いを隠せないエレク。ヴァルとは
対照的な、少し寂しげな表情をして、顔をうつむける。
ヴァルは、何も考えられなかった。命を顧みずに戦ったのは、すべて
このため。だが、それが叶わぬ夢となった今、ヴァルは怒るしかなかった。

「わ、私だって・・・・・私だって、オマエとの約束は守りたい!!
 だが、私だって命が惜しい!!わざわざ、生きる確率を上げる何かを、
 手放すようなことはしたくない!」

「・・・・わがまま・・・・・・自分勝手だっ!!
 おまえはさきほどの戦いの時、何をしていた!?
 命令をしていただけだろう!それなのに、命が惜しいだと・・・!?」

「・・・うるさい・・・・・黙れ、黙れっ!!
 犬は主人に従え!!貴様など、犬同然ということを忘れるな!!」

「・・・・こ、このぉ・・・・・・!!」

「・・・・・もう一つ、言っておく・・・・・・。
 オマエのあの独特な甲冑。敵のもとで戦っていると知らされていないと思うか?」

「っ!!・・・そ、それは・・・・・」

「・・・・おまえの帰る場所は、もう無い。
 そのことを、肝にめんじておけ、ヴァル・・・・・」

「・・・・っぐ!!・・・・・う、うぅ・・・・・・・・!!」

「・・・・ヴァル。私だけは、オマエの味方だ・・・・」

エレクの言葉に、ヴァルは沈黙した。そう、ヴァルの翼の甲冑はまさに
独創的。そんな目立つ甲冑が、敵の反逆軍の元で戦っている報告が、
されていないワケが無かった。ヴァルにはもう、居場所は無かった。
牢屋を出て行こうとするエレク。だが、そこに・・・・・。

「・・・・隊長ぉ。あのブタ野郎と、何を話していたんですかい?」

「っ!!・・・・サイン。貴様には関係ない。
 さっさと散れ」

「・・・・・・やっぱし、隊長のお気に入りとなりゃぁ、
 俺達とは態度も違うんですかねぇ・・・・?」

「き、貴様っ!!・・・・・二度と、そのようなことを言うな。
 死にたくなければな・・・・・・!」

「へへっ・・・分かってますよ、隊長」

「・・・・・ヴァルの飯、オマエが担当だ。
 しっかりと与えてやれ」

「・・・・えぇ、おまかせあれ・・・・・・」


13 :匿名 :2008/04/25(金) 18:22:02 ID:onQHWiL3

第十二話「夢と踊れ」


 ・・・・・ねぇ、アナタ・・・・私ね、子供ができたの・・・・
      ・・・・けどね、けどね・・・・・・・・・・・・

ゴルザとの戦闘から一週間が経った日の深夜。エレク率いる反逆軍の部隊は、
まったく動かず。いや、動くわけにはいかなかった。味方からの援護が
来るまで、ただ辛抱強く、待ち続けるしかなかった。だが、事件は
起きる。始まりは、そう、今日この一瞬から・・・・・。

「うぅ〜〜、寒いぃ。こんな日に見張りの当番回ってくるなんて、
 ついてねぇぜ。さて・・・・今やってやる奴と、交代してくっか」

冷えた夜。だらしなさそうな男が、ボロボロになった剣を持って、
見張りの交替ために、外を歩いていた。そして、見張りの
所定位置まで行くと・・・・・・。

「ん?誰もいねぇのか?くそっ、先にかえり・・・・・・・・。
 う・・・・うぁ・・・・・うわぁあああああああーーーーーーっ!!!」

・・・・・・・・

・・・

・・


これが、最初の悲鳴。新たなる戦いの火ぶたが切って落とされた瞬間だった。
翌朝、エレク・副隊長・サインはテントの中に集まり、緊急会議を
行っていた。その内容は当然・・・・。

「くそっ!!一体、どういうことだ・・・・・!!
 副隊長、一体何があったのか詳しく説明しろっ!」

「はい・・・・。昨夜、何者かによって、11名が殺害・・・・。
 凶器はいずれも、弓矢・・・・・正確に急所を捕えており、即死です」

「じゅ、11人!?・・・って、ことはよぉ。
 前の達人の時に、26・・・・今回で、11・・・・・
 い、今いる兵は、たった102人になっちまったってのか!?」

「うるさいぞ、サイン!!今はそんなことを気にしている暇ではない!
 副隊長、これはやはり・・・・」

「・・・・・達人、の可能性が高いです・・・・・・・。
 それも、弓矢を使う・・・・・前のとは正反対の、遠距離・・・・・!」

「遠距離型か・・・!くそっ、暗殺には好都合というワケか!!
 ついに・・・二人目の達人が襲来して来たか・・・・・!」

来るべき、二人目の達人。どうやら、ジュウイチがようやくこのエレクの
部隊を見つけ出したらしい。その知らせは、あっと言う間に部隊内に
広がった。そしてそれは同時に、兵士達に恐怖を、絶望を植え付けた。
当然、その知らせはヴァルの元にも・・・。

「兄ちゃん!!大変、大変だよぉお!!
 昨日の夜、味方の兵隊が・・・・・・・・!」

「・・・・11人、弓矢で殺されたんだろ?
 外で話してる奴らの会話を聞いた。また達人が来たのか・・・」

「ど、ど、どーしよぉ!!夜、一人でトイレに行けないよぉ!
 兄ちゃん、今日だけでも良いから一緒に・・・・!」

「・・・・真面目に考えろ。それにしても・・・11人、か。
 何か引っ掛かるな・・・・」

「?・・・ど、どうしたの、兄ちゃん?」

「・・・・なぜ奴らは、一度に攻めてこない?前の達人の時もそうだ。
 この場所はわかっているハズ。だが、奴は相変わらず、
 一人で攻めてきた・・・・・・」

朝から、レオがヴァルの牢屋へと騒ぎ立てていたようだ。そんな
慌ただしいレオや周囲とは打って変わって、ヴァルは、「静」。
物の見方を、別の方面から考えていた。なぜ、達人達は
一人で挑んでくるのか?なぜ、アテナの国の兵達を投入してこないのか?

「そうだ・・・・まるで、何か・・・俺達を、利用しているかのように。
 奴らは、一体何を考えているんだ・・・・・?
 俺達を何に利用している・・・・?」

「む、難しいこと言ってても、わかんないよぉ。
 ・・・あっ!!そういえば、姉ちゃんから頼まれてたんだ!
 兄ちゃんをテントに連れて来いって」

「・・・・そうか。ならば、すぐにでも・・・・うっ!!」

「に、兄ちゃん!?」

一人、考え込むヴァル。まさか、達人衆が自分達をゲームのおもちゃに
使っていようなどとは、到底、考えられなかった。レオに連れられ、
牢屋から出ようとした矢先、突然、ヴァルは目の前が真っ白になり、
地面に手をつける。

「っぐ!!・・・・」

「に、兄ちゃん、大丈夫!?」

「・・・・だ、大丈夫、だ・・・・・・・。
 それより、早くテントに向かおう」

「う、うん」

すぐに立ち上がり、レオに笑顔を見せると、ヴァルは再び
歩き始める。どう見ても、ヴァルの様子は何処かおかしかった。
だが、レオはそれをどうすることもできなかった。
そして、ヴァルはエレク達のいるテントの中へと到着する。

「おぉ!!ヴァル!ようやく来たのかっ。
 早速だが、昨夜の事件の詳細を・・・・・・」

「大方、わかっている・・・・。それよりも、
 その犯人については詳しくわからないのか?」

「・・・・副隊長と話し合ったのだが、今回も一人のようだ。
 殺した人数、そして使われた弓の材質で・・・一人と特定できた」

「一人、か・・・。弓矢を使う、達人・・・・・。
 だが、おかしいな・・・・・」

「あぁあ!?このブタ野郎!!てめぇはいつも、
 俺達の出した案に文句たれやがって!!」

「貴様は黙っていろと言っただろう、サインッ!!
 ・・・・・どうした?ヴァル」

「・・・・前回の達人と同様。おかしい点が一つある。
 奴らは超人的な力を持っているハズ、だが決して、大量に殺そうとはしない」

遅れて到着してきたヴァル。そして、再び4人で会議を始めることに。
相変わらず、サインはヴァルに殺す勢いで噛みつくが、それを
エレクによって邪魔される。だが、そんな悠長な中でも、ヴァルは
考えていた。この不可解な点について。

「・・・・副隊長。貴方はどう考える?
 なぜ、奴らは俺達を一斉に殺しにはかからないのか・・・・」

「・・・・・・わからない・・・・・・・。
 だが、理由があることは確か・・・・前回の奴も、今回の奴も同様。
 ・・・・・言うなれば、規則なるものがあるかもしれん・・・・・」

「規則、か。あながち、正しい意見だな。
 (やはり、何かある。奴らが一人ずつ攻めてくること、
 そして一度に全員を殺さないこと・・・・)」

「お、おい、ヴァル!!確かに、それも重要かもしれん。
 だが今は、目先のことを追っていても仕方が無いっ!
 今回の弓矢の達人をどうにかせねば!!」

「・・・・そう、だな。この件はひとまず置いておくとして、
 昨夜襲ってきた達人についての対策、俺なりに考えてみた」

達人達のやっているゲームについて、一つ、一つ、糸を
手繰り寄せていくヴァル。だが、ここではエレクが正論。そんな
答えが出ない空想を述べていても、どうにもならないのだ。
そして、ようやく本題に入ることに。

「弓を使っているからして、当然、高い位置から射ていると思われる。
 つまり、ここら一帯の木の上だ」

「・・・ということは、何か?ここら一帯の木々一本、一本に、
 罠を張れというのか?ヴァル」

「話を最後まで聞け!そんなことをしても、奴に気づかれるのが落ちだ。
 そうとなれば・・・・副隊長。ここの回りの木々は、どのくらいの
 間隔で立っている?」

「・・・・・ほとんど、同じ間隔・・・・・・・。
 ここは、森・・・・・木々は密集している・・・・・・。
 奴が土台と使うには・・・・・好都合だ・・・・・・」

「・・・・ほぉ。ならば、こうする。
 ここを中心として北方面から、木々を一定の間隔にそって、
 丸い円を描くように、A1〜A50にエリア分けする」

「エ、エリア分けぇ!?そんなこと、何になるってんだよ!!
 このブタ野郎!!」

「・・・・前回の作戦と同様。誰かが中心に立ち、犠牲となる。
 その弓が放たれた方向を、あらかじめ設定しておいたエリア、
 A1〜A50の中から言い当てる」

「そうかっ!!そして、放たれたブロックに向かって、
 一斉に弓矢を放つというわけか!!」

一見、ヴァルの考えだした案は理に適っていると見える。
だがこの作戦、穴は多し。その犠牲となる者を、達人が狙うとも
限らない。だが、それでも彼らはその作戦を信じた。信じるしかなかった。
生きるために、もう余計なことを言う暇など無かったのだ。

「・・・・・だが、問題がある・・・・・・。
 そうなれば、大量の弓を使う・・・・・・・・」

「そ、そうか!!おい、ブタ野郎!いいか!?
 俺達にはなぁ、もう弓矢は50本も無ぇんだぞ・・・・!」

「だからっ!!この作戦は、一度きり・・・・・・!
 失敗したら、そこで終わり・・・・・死だ・・・・・!!」

「っぐ!!・・・ふ、ふざけんなぁ・・・・ふざけんなぁ!!
 んな不安定な作戦で、俺達の生死が決められてたまるかぁあ!」

「今の状況を見ろっ!!俺達は、明日にでも死ねるっ!!
 ・・・今死のうと、明後日死のうと、変わり無い・・・・・!
 達人と戦うのだ・・・・・死を前提に、考えろ・・・・!!」

「・・・・・・最後に、もう一つ・・・・。
 その生贄とやら・・・・・誰がやる・・・・・?」

「へっ!!そんなの決まってんだろ、前と同じ、
 コイツにやってもらうんだよ!!当たり前だっ!」

「サインッ!!まだヴァルがやると決まったワケでは無い!!
 そうなれば、貴様にやらせ・・・・・」

「・・・・黙れ・・・・・黙れっ!!
 良いっ!俺が、やるっ!!・・・・前の達人が使用していた
 あの重装な甲冑、それを俺の甲冑に組み込ませるっ!」

「そ、そうか。それで、防御面に関しては段違いに固くなる!!
 だ、だが・・・・・身動きが、まるで取れなくなるぞ。
 良いのか、ヴァル?」

「・・・・・・やるしか、無いのだろ・・・・・?
 どうせ・・・・・帰る身のない、俺だ・・・・・・・。
 もう・・・・関係など、無いっ・・・・・・!!」

「ヴァ、ヴァル・・・・。(おかしい・・・・。
 いつも冷静なヴァルが、これほどまでに自我を抑えきれていない・・・)」

ヴァルは、自暴自棄になりつつあった。だが、これはただ単に、
自分の帰る場所が無いという理由だけではなかった。もう一つ、
もう一つの理由が、すべてを作用していた。そのもうひとつの理由が、
まさかの破滅に導くことなど、この時、誰も予想していなかった・・・・。


14 :匿名 :2008/05/11(日) 20:20:50 ID:onQHWiL3

第十三話「愛に導かれし憎悪」

ここは、アテナ本城の一室。今、「ゲーム」を終えたジュウイチが
報告をしに達人衆の元へ帰ってきた頃だった。ジュウイチは、
相変わらず、不気味な微笑を浮かべて、少し自慢げに今日の収穫を
語りだす。

「ク・・・ククッ・・・・よ、予定、通り・・・・・
 じゅ、11人・・・・・・た、倒した・・・・・」

「・・・フフッ。君はやはり11なのだな。その名前に
 誇りを持っているのか、皮肉なのかは知らないが・・・・。
 明日は、22人になっているということだな?」

「・・・ク・・・・ククッ・・・・・・・。
 あ、あぁ・・・・・そ、その通り・・・・・・・」

「・・・精々、ゲームを楽しむことだな。
 どうやら、君でこのゲームは終わりそうだ。
 何となく・・・・・予感がするよ」

ゲーム、人間を殺すゲームを楽しむ達人衆。あまりにも、恐ろしく、
簡単に言い放つその言葉。誰が誰を殺しても罰せられないこの世界に、
その言葉は、あまりにも恐怖だった。強き者が、殺しを遊びにする。
恐ろしい、世の中だった・・・・・。


そのころ、エレクの部隊では。外ではヴァルの言った通り、
A1〜A50にエリア分けを取り決めるために、残っている兵全員が
召集され、エレクを先頭に、説明されていた。そんな時に、
ヴァルは牢屋の中で、ゴルザの甲冑を改造して、自分の甲冑に組み込ませる作業をしていた。

「はぁ・・・・はぁ、はぁ・・・・・・・う、うぅ・・・・。
 い、いかん・・・・・・・」

ギィイイイ・・・・

「・・・・・・・調子は、どうだ・・・・・・?」

「?・・・アンタは、副隊長。珍しいな、貴方がここに来るなんて。
 いや、それ以前に・・・俺に話しかけるなんて」

何処か様子がおかしいヴァル。だが、それをわかってやれる者は
いなかった。その時、牢屋のドアを開ける音がする。そこにいたのは、
副隊長だった。副隊長は普段、無口なため、謎な感じがした。
ヴァルは不思議そうに、副隊長を見上げる。

「・・・・まぁ、来てくれて有難い。
 甲冑を組み込むのを手伝ってくれ」

「・・・・・・・了解した・・・・・・・」

たった一言。「了解した」と言うと、また無言で、副隊長は
黙々と甲冑の改造を始める。特に話すことは無かった。
話したいことも無かった。だからこそ、ヴァルも口を開かなかった。
だが、ようやくヴァルにも気になる点が見つかった。

「そういえば、副隊長。貴方の名前を聞いていなかった。
 なんという名前なんだ?」

「・・・・バイロ・・・・・・・・」

「バイロ、か。・・・・・とはいえ、副隊長の方がしっくりくるな。
 なぁ、そこにある部品を取ってくれないか?」

「・・・・・・・・・」

「お、おい?どうした?アンタの右手の近くに・・・・・・・。
 ま、まさか・・・・・アンタ・・・・・・・」

「・・・・・・あぁ・・・・右目は、置いてきた・・・・・・・」

その言葉に、ヴァルは固まった。副隊長の右目は、無かった。
だがそれ以前に、「置いてきた」という言葉に、何故か恐怖した。
いや、何かとてつもない意志を感じた。ヴァルは再び、
黙り込んでしまう。すると・・・・。

「兄ちゃぁあーーーん!!
 またビビってると思って、オレが来て・・・・って、アレ?
 副隊長もいるじゃん!!」

「?、レオ。あぁ、副隊長にも甲冑の改造を手伝ってもらっているんだ。
 人手が足りなくてな・・・」

「へへっ。兄ちゃん、前みたいにビビってないみたいだね!
 オレ、安心しちゃった!」

「・・・・・あぁ・・・・俺も、知らんが・・・・なぜか、震えないんだ。
 ・・・怖くない・・・・・全然・・・・死の恐怖が、襲ってこない・・・・。
 まるで・・・・今にも、死ぬかのようだ・・・・」

「へ、へぇ・・・・?」

「・・・・・レオ。外に少し大きめのネジがあるハズだ。
 持ってきてくれないか?」

「あっ・・・う、うん!!了解っ!」

ヴァルの言葉に、疑問をもちつつも、レオはネジを取りに行ってしまう。
そう、ヴァルはまるで恐怖しなかった。前回と同様、いや、前回よりも
死ぬ確率が高いかもしれないのに、まるで、心の底から、恐れることは無かった。
すると、いきなりヴァルが笑いだす。

「フフッ・・・・。副隊長、アンタも・・・・
 子供に好かれるようだな。意外だ」

「・・・・・・・・・助けた、だけだ・・・・・・」

「助けた?・・・あぁ。俺達の軍との戦闘で、レオを・・・・」

「・・・・・・違う・・・・・・・・。
 味方から、助けたんだ・・・・・・・・・」

「!?・・・・ど、どういう、ことだ・・・・?」

副隊長の言った言葉に、ヴァルは戸惑った。副隊長は、レオを
味方から救った。その事実に、ヴァルは困惑するしかなかった。
ヴァルは、真実を追求するべく、副隊長にさらに尋ねる。

「・・・・・・ここらの連中は・・・・・飢えている・・・・・。
 ガキですら・・・・・性の欲求の的だ・・・・・・・」

「っ!!!・・・・・レ、レオを・・・・・
 あんな子供、襲ったのか!?」

「・・・・・・・・だから、俺が助けた・・・・・・・。
 襲った奴らは、処刑してある・・・・・・隊長の命令でな・・・・・」

「・・・・っく!!バカなっ・・・・・・!!
 あんな幼い子供を・・・・ゆ、ゆるせん・・・・・・!!」

「・・・・・・・皆、光を求めている・・・・・・・。
 その方向が・・・・・性の快楽へと変わってしまっただけ・・・・・。
 だが・・・・・俺はそれでも、ゆるさんっ!!!」

「!?・・・・・・ふ、副隊長・・・・・?」

「っ!!・・・・・・い、いや・・・・・何でも、無い・・・・・」

それは、突然の「衝撃」。普段、物静かな副隊長が、その話題に
何かを感じたのか、怒り、いや憎しみを吐き出すように、怒鳴る。
ヴァルは、驚いた表情で、止まるしかなかった。その様子を見て、
ようやく我に返った副隊長は、焦るように甲冑の改造にとりかかった。

「何かあ・・・・・・い、いや・・・・・。
 (副隊長の過去に何があろうと、今の俺に何が関係しよう・・・。
 変な情を受けるのも、何かと厄介だ・・・・)」

「・・・・・・・守る者が・・・・・いるんだな・・・・・」

「!!?な、なにを、いきなりっ!!
 ま、守る者・・・・・だと・・・・・・!?」

「・・・・・・その様子からして、女か・・・・・・。
 初めての尋問の時・・・・・おまえの”生きたい”と言った言葉から、
 ・・・・・読み取れた・・・・・・」

「うっ!!・・・・・うぅ・・・・・・・・・。
 ・・・・・嘘とは、言えん・・・・・・。
 俺は、許婚の女と、生きると約束した・・・・・・・」

「・・・・・?・・・・・・した?
 なぜ、過去の扱いになっている・・・・・・・?」

「・・・・・もう、無理だ。国は、俺を裏切り者だと思っている。
 それに、シンシアも俺がもう死んだと思っている・・・・。
 過去・・・・過去なんだ、その約束は・・・・・・」

「・・・・・・シンシア、か・・・・・・。
 良い名だな・・・・・・」

「あっ!!・・・・そ、それは、そのぉっ・・・・・!!」

「・・・・・・・自然に名前が出てくる・・・・・・。
 それはまだ、おまえがその者を愛している証拠・・・・・・。
 脳裏に焼き付いている、証拠・・・・・あきらめるな、時が来るまでな・・・」

ヴァルは、赤面した顔を隠しつつ、作業に没頭した。だが、
副隊長の言葉を考えるたび、悲しくなった。それほど愛した者、
それほど結婚した者、だけど、今はもう、会えない。
今の現状を見返し、ヴァルは、泣きたくなった。

「・・・・・こっちは、だいたい完了した・・・・・・。
 そっちはどうだ・・・・?」

「あ、あぁ。こちらも終わった。副隊長、すまないが、
 早速着せてくれないか?これほど強化した甲冑、
 着るのも手間がかかりそうなんでな・・・・・・」

「・・・・・・了解した・・・・だが、良いのか・・・?
 中途半端な改造のままで・・・・・」

「良いんだ。この甲冑の強化版は、これっきりにしたい。
 次の戦闘の際は、元の甲冑に戻す」

「・・・・敵に応じて、甲冑を変化させるのか。
 ・・・・・・なかなか、考えたな・・・・・・・」

ヴァルは、完成した強化版の甲冑を、副隊長に着せてもらうことに。
その重武装のため、一人で着ることは不可能。それと共に、短時間で
着るということも不可能であった。無言で、副隊長は
ヴァルに甲冑を装着させていく。

「・・・・・・なぁ、副隊長・・・・・・・・。
 貴方にも・・・・・・いたのかい・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・。
 ・・・・あぁ・・・・・・妻が一人、な・・・・・・・」

「(・・・・・やはり、貴方も過去なんですね・・・・・)」

「・・・・・・・・・誰かを思う気持ち、忘れるな・・・・・・。
 ・・・・そうすれば、きっと・・・・・・思う気持ちが、力になる・・・・」

「・・・・・・あぁ・・・・」

ヴァルはやはり、聞けなかった。副隊長の妻に、何があったのか。
聞いたら、戦えないと思ったからだ。そう、まるで、自分が副隊長と
同じ運命を辿っているように思えたから、余計に、黙った。
そして、決戦の夜が来る・・・・・・。


15 :匿名 :2008/06/01(日) 21:19:04 ID:onQHWiL3

第十四話「狂い踊る敗北者達」


時は満ちた。暗く、静寂の続く空間の中心に、ヴァルは一人、
重装備の甲冑を纏い、立っていた。不思議に、怖くは無かった。
ただ、今後起こるだろうことだけを考えていた。
死ぬ気がしなかった。いや、もう・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・

「(・・・・・・静か、だな・・・・・・・・。
 弓を使う達人・・・・・狙われれば、間違いなく、即死だな・・・・)」

ヴァルはこの時、死を了解していた。弓を使う達人の的となるのだから、
当然、即死は免れないであろう。そんなに重装備を駆使したところで、
相手は、達人。必ず、一発で仕留めてくるだろう。だが、ヴァルは
静かだった。あまりにも、静かだった。その様子を、周りから眺めるエレク達。

「・・・・副隊長。達人は素直にヴァルを狙うと思うか?」

「・・・・・・わかりません・・・・・・・。
 だが、我々の策を見通した上で・・・・・狙ってくる・・・・・。
 そうも、考えられます・・・・・・」

「・・・・ナメている、ということか。クソッ、それが
 根拠の無い話だとしても、やはり腹立たしいな」

「・・・・・・それより、隊長・・・・・・・・。
 あの男を・・・・・・今ここで殺して、良いのですか・・・・・」

「?・・・な、何を言っている。あれほどの重装備なのだぞ?
 死ぬハズが無いだろう。・・・そ、そうだよな?副隊長」

「・・・・・・・不可能です。作戦が順調に進むのであれば、
 それは奴の死を意味します・・・・・・言い換えれば・・・・
 奴が死ななければ、作戦は成功しません・・・・・・」

「なっ!!・・・・・なんだとぉお・・・・・・!!」

エレクは、表情が歪める。知らなかった、未熟だった。ヴァルが
死ぬとは、まるで思っていなかったのだ。エレクはもう、どうしようもできず、
くやしそうな顔で生贄に立つヴァルを、見つめる。
ヴァルは、待っていた。ずっと、ずっと。静かな中で、自分の死を・・・・。

「(・・・・・まだ、来ないのか・・・・・・・・。
 もう、良い・・・・・・死なせて、くれ・・・・・・・・・。
 俺に・・・・・生きろというのが・・・・・拷問だ・・・・・・・・)」

ヴァルは、苦しかった。死にたがっていた、その極限状態に。
自分のあまりの惨めさに、死ぬしかなかった。「死」を直前にして、
ヴァルは昼間とは打って変わって、死にたがる。闇が、さらにヴァルを
極限に追い込んだのだ。

・・・・・・・・・

「(・・・・・つか・・・・れた、なぁ・・・・・・・・・。
 シ・・・・・・シン・・・・・シあ・・・・・・・・・?
 そ、・・・・そこ・・・・に、・・・・いるの・・・・か、い・・・・・・?)」

バタンッ

それは、あまりにも突然。突然すぎた。ヴァルはいきなり倒れてしまう。
その様子を見たエレク達は、困惑、混乱、恐怖。何が起こったのか、
まるで把握できなかった。ただ、ヴァルが倒れた。

「!?ふ、副隊長!!ヴァルが・・・・ヴァルが倒れた!!
 攻撃、されたのか!?どういうことだ!?奴が弓を放った方向など・・・
 いや、弓が発射された軌道すら見えなかったぞ!」

「・・・・どういう、ことだ・・・・・・!?
 いや・・・・違う・・・・・あいつは、攻撃されていない・・・・・?
 敵の仕業ではない・・・・・・・!?」

ザワザワッ

「お、おい!!どういうことだよ!?作戦が違うじゃねぇか!!」

「ど、何処から攻撃してきやがったんだ!?」

「う、うわぁあああああ!!ば、化け物、化け物だぁあああ!!」

錯乱。交差する、錯乱の連鎖。ヴァルが倒れた姿を見て、敵の攻撃だと
思ってしまったのが、発端。うずをまく、混乱の波。皆が恐怖した。
「見えない何かで、攻撃された」と。まさに、神が掛り、オカルト類のもの。
だが、それでも人々はその現象を信じた。混乱という、証言者の名のもとに。

「ひ、ひぃいいいいい!!!い、嫌だぁああ!!
 お、俺は、ここでじっとして殺されるなんて、ゴメンだぁああ!!」

バッ・・・!!

「バ、バカっ!!頭を出すなっ!!隊長命令だっ!
 今すぐに所定地に・・・・・・・・!」

ズサッ・・・・・・・!

「・・・・・・い・・・・・・いてぇ・・・・・・・・・」

バタンッ・・・・・

流石、そうと言うしかなかった。頭を出した最中、その一瞬をついて、
神に操られているとも言うほど弓矢は正確に、男の頭を貫く。
血も出さずに、その場に倒れる。その姿を見れば、もう、その場は混乱の乱舞。

「うわぁあああああああ!!こ、今度は、弓だぁああ!!
 達人の奴が、襲ってきたぞぉおお!」

「も、もう、何が何だかわからねぇえええ!!」

「た、助けてぇ・・・・助けてくれぇええーーーー!!」

ザワザワザワッ・・・・!!

「お、落ち着けぇえ!!逃げるな、逃げるなぁあーーーー!!
 敵は私達を狙っている!!慌てるな、混乱するな、動くなっ!!」

エレクの叫びが、虚しくも空中に消える。兵士達は、誰も
その言葉に耳を貸そうとしない。何が起こったのか、わからない。
ヴァルが見えない何かに、殺された。仲間の一人が、弓矢で殺された。
わからない、わからない。恐怖、恐怖だった。

「く、くそぉおお!!こうなったら、弓をブッ放してやるぅ!!
 死ねぇ・・・・死ねぇえーーーー!!」

「はぁ、はぁ・・・!!お、俺も、戦わないで死ぬなら、
 戦って死んでやるぅ!!何処だぁ・・・・出てきやがれぇえーーー!!」

パシュッ、パシュッ・・・・・!

「や、やめろ・・・・何を、している・・・・・・・。
 やめろぉおおーーーー!!弓を撃つのを、やめろぉおーーーー!!
 ・・・やめろ・・・やめろぉ、やめろぉ・・・・・・・!!
 わ、私の命令を・・・・私の命令を聞けぇえーーーーー!!」

・・・・・・・

・・・・

・・

その後は、地獄だった。惨敗。いや、惨敗以上の敗北。
当てはまる言葉のない、敗北。弓はほとんど底を尽き、そして、
達人によって、再び11人の犠牲者が出た・・・。


翌日。悲惨を言わざるをえない昨日の夜とは打って変わって、
空は晴天。まるで、天が皮肉を言っているかのようにも思える天気。
死体がまだ転がる中で、エレクは一人、テントの中で
絶望に打ちひしがれていた・・・・。

「・・・・・・・ふ・・・・ふふっ・・・・・・ふふふ・・・。
 お、終わり、だ・・・・・もう、何も、かも・・・・・・・・・。
 ふふ・・・・・あははは・・・・・・・・」

「・・・・・・隊長、被害報告に来ました・・・・・」

「?・・・・あぁ、副隊長。言えよ、勝手に」

「・・・・・昨夜の戦闘で、犠牲者11名。いずれも、弓矢で即死。
 ・・・・・・・その際に使われた、我々の弓・・・・・47本のうち・・・・
 回収され、再利用できるのを含めて・・・・・7本です・・・・・」

「・・・・・・そうか・・・・・あぁ、そうだな・・・・。
 昨日は、まさに大決戦だった・・・・・私の戦闘の中で、
 これほど凄まじい戦闘は無かったよ・・・・はは・・・・ハハハッ・・・・!」

エレクは、ただ笑うしかなかった。その絶望的な状況に。
明日に、生きる希望を見出せなかった。狂ったような表情をして、
淡々と副隊長の報告を聞く姿は、壊れた人形、いや、壊れた人間。

「・・・・・・・もう一つ・・・・・・
 重大な報告が・・・・・・・」

「?・・・・何だ・・・・?」

「・・・・・・ヴァルは、生きています・・・・・・」

「っ!!!・・・な、何だと・・・・・・・!?
 ヴァ、ヴァルが、生きているというのか・・・・・・・!」

「・・・・だ、だが、しかし・・・・・・・」

「・・・?」

ヴァルはやはり、生きていた。敵に殺されたとばかり思っていたエレクは、
ようやく笑顔を取り戻す。だが、副隊長から次に聞かされた言葉に、
エレクの表情は一変する。エレクは、走った。その話を聞いて、すぐさま走った。
そう、サインのもとに。サインは、疲れ果て、地べたで寝ていた。

「サ・・・・サイーーーーーーーーーンッ!!!」

「?・・・あぁ、隊長。やっぱり、隊長も生きて・・・・」

ドゴォオオオオオッ!!

「うぐぅあぁあ!!・・・・い、痛ぇ・・・・・・。
 い、いきなり何をするんですか、隊長・・・・・・・!!」

「貴様、貴様ぁ、貴様ぁああーーーーーーっ!!!
 一週間、ヴァルに何も食糧を与えなかったのかっ!!」

「・・・・へ、へへっ・・・・・あぁ、そのことですかい・・・・」

「副隊長が報告してくれたっ!!ヴァルの体は、もうボロボロだったと!!
 立っていることが・・・・骨が浮き出ないことが・・・・
 不思議だと、言ってくれたぁあ!!」

エレクは、サインにいきなり殴りかかる。そして、胸グラを掴み、
吠える。サインは、悪びれが無い顔をして、エレクの話を適当に言い逃れようとする。
エレクは、もう怒りの頂点。今にでも、サインを殺しそうな勢いで、
攻め続ける。

「なぜ、なぜだぁあ!!なぜ、飲み水すらやらなかった!!
 貴様、我々がヴァル無しで生きていけると思っているのか!!」

「・・・・じゃぁ、言わせてもらいますけどね・・・・。
 アンタの自分勝手で、敵兵を擁護させるなんざ、こっちが迷惑なんだ!!
 アンタは、隊長としての自覚がねぇえ!」

「・・・・言いたいことは・・・・それだけかぁ、サインっ・・・・!!」

「・・・・・へ、へい・・・・・」

「・・・・・・覚えていろ、サインッ・・・・・・!!!」

エレクは、目でサインを殺していた。殴り殺し、ミンチに、滅多刺しに。
サインは最後に少し、エレクの気迫は押され、尻ごみをする。
そんなサインを突き飛ばし、エレクは立ち去る。向かった場所は・・・・。

「・・・・・・ヴァ、ヴァル・・・・いるか・・・・?」

「?・・・・あぁ、エレクか・・・・・・」

「・・・・・す、すまない。私の目が行き届かなかったせいで、
 おまえに酷い仕打ちを・・・・・・」

「・・・・ふ・・・・・ふふっ・・・・・・・」

「?・・・ど、どうした?ヴァル・・・・」

「・・・・おまえに・・・・裏切られたと、思ってた・・・・・。
 だから、俺も半ば、自暴自棄になっていた・・・・・・。
 死にたい、とな・・・・・・・・」

「・・・・ヴァ、ヴァル・・・・・・・!!」

「・・・・・牢屋で・・・・ネズミを喰うのは・・・・
 も、もう・・・・・ゴメンだぜ、エレク・・・・・・・・・」

「う、うぅ・・・・・うぅうう・・・・・・!!
 ヴァル、ヴァルッ!!・・・おまえを、死なせるものか・・・・・!
 もう、おまえを孤独になど、させてなるものか・・・・・・!!」

エレクは、横たわっているヴァルに泣きすがる。ヴァルはネズミを食していた。
それで、命を繋いでいた。彼は、本当に、どん底の、どん底にいたのだ。
ヴァルは、安心した。エレクが、自分を裏切っていないのを知って。
ヴァルの目からは、涙が一粒、流れ出た。


16 :匿名 :2008/06/22(日) 19:53:01 ID:onQHWiL3

第十五話「愛の閃光」

「兄ちゃん!!オレがわざわざ、兄ちゃんの看病に来たよ!
 いっぱい、喜んでいーよっ!」

「・・・・・レ、レオか。すまない・・・・それよりも、
 もっと・・・・水が、欲しい・・・・」

「了解っ!!兄ちゃんは、そのままにしてるんだよ!」

ヴァルは、牢屋とは違う別小屋で休まされていた。とは言っても、
その小屋の環境は最悪の一言。そう、ここは「死体置場」だったのだ。
ヴァルの回りには、昨日、犠牲になった者たちの遺体が並んでいた。
レオが元気よく出ていったのを見て、安心してまた寝ようとするヴァルだが・・・。

「・・・ヴァ、ヴァル?・・・・起きているか・・・・?
 看病に来てやったぞ。お世辞程度に喜んでくれ」

「エ、エレク?・・・・・ふ・・・・フフッ・・・・・
 ハッハハハハハッハハッハッハッ!!」

「な、何を笑う、ヴァル!!この私が看病とてできぬと笑うのか!!
 確かに、私は隊長として何もできないかもしれんが・・・・!」

「ハハッ・・・・違う・・・・・・・・。
 おまえとレオ・・・・言っていることが、まったく同じで、笑っただけだ・・・。
 まったく、病人を・・・・笑わせるな」

「む・・・そ、そうか。だが、今後そのような無礼はするな!!
 隊長としての威厳がある。言葉に気をつけろ・・・・・!
 ・・・・だが、安心したよヴァル」

「・・・・?・・・・」

「・・・・ようやく・・・・おまえの本心の笑顔が見れた・・・・」

そう言うと、エレクもニコっと笑い、ヴァルの体をゆっくりと
持ち上げる。どうやら、ヴァルに何かを伝えに来たらしい。
ヴァルはその様子から、すぐに悟ることができた。
再び、「作戦」が始まるのだと・・・・。

「・・・・死体と寝るのは・・・・居心地が悪いな、さすがに・・・・。
 体の方は、飯を大量にくったせいか・・・・良くなってきているが・・・・。
 ・・・・・・・また、実行するのか・・・・?」

「・・・・・あぁ。今夜また、奴が攻めてくるだろう。
 だから今度こそ、奴を倒す!!作戦は変えん。
 恐らく、それほど詳細な作戦の内容は、奴に気付かれていないハズ・・・・」

「・・・・・あぁ、分かった・・・・・・・。
 何とか、戦えるよう、俺も体をつくっておく・・・・・・」

「!?、な、何を言っているんだ、ヴァル!!
 オマエは動けないだろう!・・・・生贄となるのは・・・・副隊長だ」

「な、何!?・・・・副隊長、だと・・・・・?」

ヴァルは驚いた。自分がまた生贄になると覚悟していたその気持ちを
裏切られたこともあるが、その後の言葉、副隊長が生贄になるという
ことに驚くしかなかった。

「ど、どういうことだ!?なぜ、副隊長が・・・・・!」

「・・・・自分から率先してきたんだ、私も反対したのだがな・・・。
 どうやら副隊長は、生贄ではなく・・・・自分で、奴を倒す気らしい」

「・・・・・た、倒す、だと・・・・・・?
 む、無理がある!!最悪でも、一回は奴の攻撃を受けなければならない!
 そうしなければ位置は掴めない・・・・だが、その一回の攻撃は・・・・!!」

「分かっている!!・・・・だが、どうしようもない!!
 副隊長は・・・・倒す気でいる・・・・・私に、どうしろという・・・・?
 あれほど強固な男を・・・・どう止めろという・・・・?」

「・・・・・っく・・・・・・」

ヴァルは、沈黙した。何故、副隊長が率先したのかは分からない。
だが、何故か伝わってきた。副隊長は、何かを成し遂げようと、越えようとしている。
その語らない言葉に、ヴァルは気づけたからこそ、沈黙した。
すると、ふと、ヴァルは思い出す。

「・・・・そういえば、気になっていたのだが・・・・
 副隊長の奥さん・・・・・・・」

「・・・・・あぁ、そのことか・・・・・・・・・。
 副隊長の奥さんはな・・・・・・その・・・・なんだ・・・・」

「?」

「・・・・・・・・アテナの軍が攻めてきた時に・・・
 アテナの兵達が、副隊長の目の前で・・・・無理やり・・・・・・・・・・・・」

「っ!!!・・・・ま、まさ、か・・・・・・・
 そ、そんな・・・・・そんなぁ・・・・・!!」

「・・・・副隊長は、無理やり見せられたらしい・・・・・・。
 妻が、数人の兵士に辱められる様を・・・・・・・・・・」

「・・・・・う、うぅ・・・・・・・・・」

「・・・・・・・まだ、続きがあるんだ・・・・・・・。
 それでも、二人は逃げたらしいんだ・・・・・何処か遠く、平和の土地へ・・・・。
 だけどな・・・・・・」

「・・・・・ど、どうしたんだ・・・・?」

「・・・・・赤ちゃんが、できたらしい・・・・・・・。
 お腹の中に、な・・・・・・・・・だが・・・・・・・・・」

「・・・・あ・・・・あぁあ・・・・・ま、まさか・・・・・!!」

「・・・・・・・副隊長の子じゃ、無かったらしい・・・・・・。
 翌日、奥さんは・・・・・子を腹に宿したまま・・・・自殺したらしい」

ヴァルは、涙すら出なかった。ただ、胸を巨大な槍に刺された気分だった。
とてつもなく、痛くて、辛くて、苦しくて。だけど、感じれない。
その衝撃を、共感できない。ヴァルは、頭を抱え込んで、副隊長をおもった。
エレクは、つらそうな表情で、話を続ける。

「・・・・・それから、すぐだ・・・・・・。
 副隊長が・・・・・鬼のような顔をして・・・・・
 反逆軍に入隊したのは・・・・・・」

「・・・・・・そ、そう・・・・なのか・・・・・」

「・・・・・・・・もう一つ・・・・・。
 おしえておこう、ヴァル・・・・・・・・」

「え・・・・?」

「・・・・・副隊長の右目、あれはな・・・・・・・」

ヴァルは、その続きを聞いた後、目が覚めた。いや、起きざるをえなかった。
自分が、このまま寝てはいられないと思った。だが、ヴァルの体は、
その意思とは反対に、動くことを拒む。ヴァルは、何もしてやれない
自分に、腹が立った。

そして、夜が来た・・・・・

情景は、昨日とまるで変わらない。そう、情景のみは。だが、
人々の心の景色は、まさに地獄。鬼が人を喰らい尽し、まさに、
もう目の前まで鬼が迫ってくる様。後ろは、もう無い。前を進むのみ。
数少ない弓を持ち、広場の中心に、一人立つ副隊長。

「(・・・・・・・・アイラ・・・・・俺は、死ぬかもしれん・・・・。
 だが・・・・・俺はここで断つ・・・・・・・・・・!
 憎しみの想いを・・・・復讐の心を、ここでなぎ払う・・・・・・。
 気づけてやれなかった・・・・・おまえへの想いに変えるために・・・・・)」

副隊長、今、誓う。遙かかなたへと消えてしまった妻と、子のために。
復讐を消すために、男は弓を持ち、ただひたすら、待ち続ける。
その様子を、傍から見るエレクとサイン。

「・・・・隊長、副隊長は・・・・本当に、一人で達人を
 倒す気でいるんですかい?・・・・・」

「・・・・・知らん。確率的には、絶望的なのは承知の上だ。
 だが、副隊長とて弓の使いは一流・・・・・・!」

「・・・・ま、まぁ、それでも、いざって時は、
 敵の居場所でも分かれば良いんですしね・・・・・」

「サイン・・・・・・ナメた口を叩くな・・・・。
 もう、ほざくな。おまえの死ぬ気の言葉など、聞いていて反吐が出る」

「っぐ!!(・・・・ッチ・・・・執念深い女が・・・・!)」

エレクは、ただ信じるしかなかった。副隊長の、弓の腕に。
隣で、嫌悪をあらわにしているサインなど、気にも留めずに。
そのころ、ヴァルは相変わらず、死体と共に横になっていた。

「(・・・・・・この作戦が失敗すれば・・・・もう、終わりだな。
 今度こそ・・・・・本当の・・・・・・・・・・・。
 くそっ・・・・何かもっと、勝率高めるなにかがあれば・・・・)」

・・・ブーンッ・・・・

「ん?くそっ、ハエか!!あっちに行け・・・・・・!
 し、死体に、たかっているのか・・・・・・・・。
 悲惨だな。あっちは、心臓を一突き・・・・こっちは頭を・・・・・ん?」

ゴソゴソッ

「・・・・こ、これはぁ・・・・・・!!
 ま、待てよ・・・・・昨日、殺されたのは11人・・・・・!!
 ・・・奇数・・・・・・奇数か!!そうか、分かったぞ・・・・・!!」

ヴァル、ここにきて、ひらめく。死体の死因を見て、あることに
気づいたのだ。動かない体を無理やり動かし、必死に、はいつくばって、
外に出ようとする。伝えることは、ただ一つ。伝える者は、ただ一人。
副隊長に、副隊長に、ただ一言を・・・・!ヴァルは、必死に、はいつくばる。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・・・!!
 (副隊長、副隊長、副隊長・・・・・・・・・!
 死ぬな、死ぬな、死ぬんじゃない・・・・・!)」

   ・・・・・・副隊長の右目、あれはな・・・・・・・
    ・・・・・・奥さんの墓に、置いてきたらしい・・・・・

「(死なせる、ものか・・・・・・・!!
 貴方を、死なせるものかぁ・・・・・・・・!!)」

  ・・・・・・・奥さんを、これ以上危険にさせないよう・・・・
     ・・・・・・自分の目を見張りに、置いてきたらしい・・・・

「ふく・・・・・ふくたい・・・・ちょう・・・・・・!!
 ふ・・・・ふく・・・・・副隊長ぉおおおおおーーーーーーーっ!!!!」

ヴァルは、叫んだ。エレクの話を思い出しながら、叫んだ。
自分の体が、壊れるようだった。自分の声で。だが、ヴァルは叫び続けた。
副隊長の、副隊長の妻の、副隊長の子供のために・・・・・。
その声は、確かに、副隊長に届いた。

「っ!!・・・・・・この、声・・・・・・・・!
 ヴァ・・・・・ヴァル・・・・・・・・?」

「はぁ、はぁ・・・・・あ、頭だぁ・・・・・頭を隠せぇええーーーー!!
 奴の・・・・奴の狙いは、アンタの頭だぁああ・・・・・!!
 や、奴は・・・・・一人ずつ、交互にぃ・・・・心臓と、脳みそを狙っているぅ・・・!!」

「な、何だと・・・・・頭を、狙っているだと・・・・・・!?」

パシュッ!!

同時。それは、達人のジュウイチが、焦ったなのかもしれない。
ヴァルの言葉のすぐに、弓矢が副隊長に向かって発射される。狙いは、頭部。
ヴァルは気づいた。敵が脳と心臓を交互に狙っていることに。
最後に殺されたのが兵が、「心臓」。もう、迷うことは無かった。
弓矢が、副隊長に突き刺さる・・・・・!

「ぐぅう!!!・・・・・っく・・・・・・・
 と、とめ、たぞ・・・・・・・・止められた・・・・・・・!!」

まさに、間一髪。副隊長は、何とか頭部に狙ってきた弓を
右手で防ぐ。血がしたたれる右手を使い、副隊長が、弓を構える。
それを見たエレクが、叫ぶ。

「ふ、副隊長が、右手で防いだ・・・・・・!!
 聞けぇえ、副隊長!!奴の弓の軌道は・・・・・・
 Aの34・・・違う!!Aの35、Aの35だ!!討てぇえええーーーーーー!!」

ザッ・・・・・!

「Aの35・・・・・・・・・!!
 アイラ・・・・・・愛してくれ、この一矢を、俺と共に・・・・・・・!!」

パシュッ!!

副隊長は、隊長に指示されたエリアを聞き取り、そして
弓を放つ。アイラを、自分の妻に祈って。辺りが、静まり返る。
そんな中、副隊長だけがその場に座り込む。弓を見つめ・・・・・。

・・・・・・・・・・

「・・・・・・・アイラ・・・・・・俺はまだ・・・・
 おまえと・・・・・・子の元には・・・・・いけんらしい・・・・・・・」

・・・・・・・ドサッ!!・・・

何かが落ちる音がする。それは、エレク達にとっては、歓喜の、
祝福の音。副隊長は、空を見上げ、妻と子に語る。
次の瞬間、周りの兵達が一斉に喜び、飛び出すのであった・・・・。


17 :匿名 :2008/07/20(日) 20:15:31 ID:onQHWiL3

第十六話「破滅のそよ風」

現在地、アテナ本城の一室。そこは、達人達が体を休める部屋。
だが、今、彼らは休んでいる暇など無かった。誰もが難しい顔をして、
来るハズの無い何かを待っていた。分かっていた、分かっていたことだった。
もう、ジュウイチは・・・・・。

「・・・・・・また、死んだのか。情けないものだな。
 これでは、王の信用を落としているだけだ」

「・・・・これ以上、面を汚すわけにはいかねぇ。
 俺が、名誉挽回してきてやる・・・・・!」

「・・・・・レップウ。君が行くのか・・・・・。
 だが、まだジュウイチが死んだという根拠は・・・・」

「・・・・生きていれば、俺が殺す。ゲームの報告もできぬ奴は、
 死ぬしかない。改めて俺が、ゲームの対応者になる!」

「・・・・・分かった。行ってくれ、レップウ。
 今の所、ゴルザが最高記録だ。もう、獲物も無くなってきているぞ・・・」

「関係ない。俺が全滅させれば、すべてが丸くおさまる!!
 ・・・・・・達人の名に、これ以上不名誉をおしつけるわけにはいかん!」

次の達人、動きだす。名は「レップウ」。果たして、彼の
持つ達人的な能力とは・・・。達人衆もまた、ゆっくりと、
極限へと追い詰められていた。彼らとて、必死。お互いが、お互い殺すため、
生き残るため、必死だった。

そのころ、アテナ城の城下町では。何も知らぬ町人達が、
昼をのんきに満喫していた。そんな中、一人の女性が、やはり
難しい表情をして今日も、約束の地へと来ていた・・・・。

「(ヴァルキリー・・・・・やっぱり貴方は、もういないの・・・・・?
 貴方は・・・・願ってくれるの、アタシの幸せ・・・・・。
 アタシは、アタシは・・・・・・・・・!)」

「・・・・・俺も、ヴァルに祈っていいかな」

「!?・・・・ロ、ロト・・・・・・・」

現れたのは、ロト。この男が何を考えているのか、
もう分かってきたであろう。この男の狙いは、「シンシア」。
しつこく彼女を付け回し、彼女を自分のものにしようとしているのだろう。
だが、シンシアはそれに気付けなかった。

「・・・・なぁ、シンシア・・・・・・・。
 俺、耐えられないんだ・・・・・・」

「?・・・・ど、どうしたの・・・・・?」

「・・・・シンシアが苦しむ姿、もう耐えられない・・・・・!!
 シンシアは、どうすれば笑える?どうすれば、幸せになってくれる!?
 ・・・・俺は、・・・・俺は、何もできないのか・・・・・!」

「ち、違うよ、ロト!!・・・・・・ありがとう。
 ロトがそんなに心配してくれて・・・・・うれしい」

「・・・・・・シンシア、聞いてくれ・・・・・・!
 今、すぐに答えろとは言わない・・・・・・。
 俺に・・・・・シンシアの笑顔を、作らせてくれ・・・・・・!」

「え・・・・?」

「・・・・確かに、ヴァルのことが気になっているのは承知さ。
 けど、ヴァルだってそんなこと望んでいるワケがない・・・・・!
 俺は、ヴァルの気持ちにも答えてやりたいんだ・・・・・・!
 死んだヴァルの望み・・・・叶えて、やりたい・・・・友として・・・・!!」

「ロ・・・・ロト・・・・・・」

「もちろん、君に好意を持っている!!・・・・君を、愛す自信がある。
 ヴァル以上に・・・・・君を、幸せにしたい・・・・・!
 それが、あいつへの償いだと思う・・・・・・・!!
 ・・・・・・ゆっくりで良い・・・・・考えてくれ、シンシア・・・・・」

「ロ、ロト・・・・・・ア、アタシ・・・・アタシ・・・・・!!」

「(クククッ・・・・・・クククッ・・・・・・・!!
 順調、順調すぎる!!・・・・落ちる、落ちるぞ、シンシアは・・・・・!!)」

密かに、笑みを浮かべるロト。巧みに言葉を使い、シンシアを
自分の女にしようと、企む。シンシアの気持ちは、揺れていた。
もう、時間の問題であることは確か。このままでは・・・・・・。

そんな時、エレク率いる反逆部隊は、ジュウイチの襲撃から
一夜明けても、まだその勝利の甘美に酔っていた。だが、それも
外の話。ヴァルはやはり、薄暗い牢屋の中で治ってきた体を休ませていた。
そんなヴァルの元へ、レオがやってくる。

「よっす、兄ちゃん!!ねぇ、ねぇ!!
 昨日の戦い、見た!?副隊長、すっげーカッコ良かったぁ!」

「っふ・・・・・あぁ、そうだな。
 めちゃくちゃ、カッコ良かったな」

「な、なんで鼻で笑うんだよぉ!!いーよーだぁ!
 治療してる副隊長に、兄ちゃんが鼻で笑ってたってチクっちゃうもん!」

「っく!・・・・お、おまえ、だんだん性格が捻くれてきたな。
 まったく・・・・・・・・・・・ん?・・・・あ・・・あぁ・・・・あ・・・・・!」

「?、に、兄ちゃん?」

レオと、冗談まじりの会話を楽しむヴァル。これも、体力が回復してきた
証拠であろう。だが、その時、突如としてヴァルに異変が起きる。
何もない所を一点に見つめ、口を大きく開け、何かをつぶやきはじめる。
不思議に思うレオ。

「・・・・・・・・シ、シンシア・・・・・シンシアだ・・・・・・。
 お、おまえが・・・・何で、ここに・・・・・・」

「へ、へぇ・・・・?ど、ど、どうしたの、兄ちゃん!
 いきなりわけわかんないよ!兄ちゃん、起きろぉーーー!誰もいないよぉ!?」

「はっ!!・・・・・・あ・・・・いや、何でもない・・・・。
 つ、疲れて、夢を見たらしい。すまないな」

「もぉーー!!彼女のことを夢で見るなっての。
 生きてれば、きっと夢じゃなくて、現実でも会えるよ!」

「・・・・・そう、だな。子供に励まされるなんて、俺もまだまだだな。
 それより、レオ、おまえ・・・・」

バタンッ!!

「お、おい、ブタ野郎!!いるか、ブタ野郎っ!!」

疲れ、疲れなのだろう。ここ数日間の死とのプレッシャー、そして
極限の空腹状態が、今ここで、一気にヴァルにのしかかってきた。
それが、原因。そうだと、ヴァルは思うしかなかった。すると、
サインが勢いよく、牢屋に入ってくる。

「ん?・・・・貴様、サイン・・・・・。
 俺に何の用だ・・・・・」

「い、いやがるのか!!おらっ、隊長命令だ、はやく来い!!」

「な、何なんだ、一体!!お前はなぜそうまでして、
 俺をせかす・・・・・・!」

「え、援軍だ・・・・・反逆軍の、援軍が来たんだ・・・・・!!」

「な、何・・・・・!?」

あまりにも、唐突。援軍が来た。その報告に、ヴァルは驚いた。
まず、最初の感じたのが「恐怖」。自分は、このまま用済みになる。
殺されてしまうという、恐怖。次は、「救済」。エレクが話を通して、
自分を逃がしてくれるかもという、安堵。ヴァルとサインは、エレクのいるテントへと入る。

「エ、エレクッ!!援軍が来たというのは・・・・・・・。
 な、何だ?・・・・この、女は・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・・よぉ、来たのか、ヴァル。サイン、戸を閉めろ。
 誰にもこの話が聞かれないようにな」

「ちょ、ちょっと待て、エレク!!俺は、援軍が来たと聞いた!
 だが、ここにいるのは、たった一人の女だけではないか!」

「うるさいっ!!!・・・・・黙れ、黙れ、ヴァル!!
 犬が主人に吠えるな!」

「!?・・・・・エ、エレク・・・・・一体、どうした・・・・?」

エレクのテントにいたのは、一人の女性。二十歳前後の、か弱そうな女。
まさか、これが援軍なハズがない。ヴァルは、知りたかった。
「援軍」は何処にいるのか。そして、なぜエレクが激怒しているのか。
答えは、すぐにわかった。

「・・・・ふ・・・・フフッ・・・・クククッ・・・・・!
 そこの女が・・・・・持ってきれて、くれたよ・・・・・。
 反逆軍の総司令部が・・・・我々に送った通知をね・・・・・・」

「つ、通知?・・・・・ど、どういうことだ・・・・?
 なぜ兵を送ってこなかったんだ?・・・・ま、まさ、か・・・・・・!」

「・・・・・あぁ、そうだよ!!そこの耳が聞こえない女が、持ってきてくれた!!
 私達の部隊に、価値は無い!!援軍は、遅れない、とな!!」

「なっ・・・・・!!!」

ヴァルは、驚くしかなかった。援軍は、来ない。その事実に、
ただ、驚いた。サインに至っては、驚くという表情は無かった。
あるのは、圧倒的、絶望。あまりにも、先の無い未来。絶望の、明日。
泣きたくても、泣けなかった。

「ククッ・・・・本当に、おもしろい・・・・おもしろいよ・・・・!
 そこの女も、邪魔になって伝達要員として使われたんだろうさ・・・・・。
 邪魔者同士、仲良くしろとな・・・・・・!!!」

「・・・・・じゃ、じゃぁ・・・・これから、どうするんだ・・・・・?
 このままここにいても、助けは来ない!!
 来るのは、達人・・・・・俺達を殺す、殺人鬼共だけだぞっ!」

「分かっている、分かっているさ!!だが、どうしろという・・・・・!?
 私は・・・・・もう・・・・・・耐えられない・・・・・・!
 疲れた、疲れたよ、ヴァル・・・・・・」

「・・・・・そ、そん、な・・・・・・何て、ことだ・・・・・・・」

そこにいる者に、絶望の風が吹く。誰も、話せない。誰も、口を
開けない。望みのない未来に、あまりにも救い用のない自分に、
憐れむしかなかった。虚しさと、怒りと、暗闇だけが、
永遠と、辺りを包みこんだ・・・・。


18 :匿名 :2008/08/31(日) 19:47:03 ID:onQHWiL3

第十七話「蝕む微笑」


「う・・・うぁあ・・・・シ、シンシア・・・・・・
 シンシア、行くな・・・・・行くなぁ・・・・・・・・!
 ダメだ・・・・・・シンシアぁああーーーーーーーっ!!!」

これは、夢などではない。真夜中にヴァルは、今日もまた、叫ぶ。
「シンシア」と。目を真っ白にさせて、見えない何かを見て、叫ぶ。
その声を聞いて、困惑するのはエレクであった。エレクのテントで、
副隊長と共に、ヴァルの奇声を聞いていた。

「・・・・また、か。一体・・・・どうしたというのだ・・・・・!!
 ヴァルは、どうなってしまったのだ・・・・・・!?
 狂ったように、叫び続ける、毎日、毎日・・・・・・・!」

「・・・・・恐らく、夢遊病の幻覚症状だと思われます・・・・・。
 牢屋という閉鎖空間・・・・それが過剰のストレスとなり・・・・。
 恐らくは・・・・・・」

「くそぉ、くそぉ!!私は、奴に何もできんというのか・・・・!
 副隊長、ヴァルの正気を取り戻しに行ってくる・・・」

「・・・・・隊長、まだ少し、報告が・・・・」

ヴァルは、錯乱していた。ここに来て、その病状が一気に爆発した。
ここ2、3日の間、ヴァルは毎晩、幻覚に悩まされていた。
見えないシンシアを見て、叫んでしまう。誰かに呼ばれれば、ようやく
正気に戻ることができる。

「・・・・・・現在、生き残っている兵は91名・・・・・。
 弓矢はほぼ底をつき・・・・・食糧も、無くなってきています・・・・・」

「・・・・・・それに加え、援軍は来ない、だろ?
 フフッ、こうも崖っぷちだと、笑えてきてしかたないな。
 ・・・私達は・・・・・何のために、戦っているのだろうな、副隊長・・・・・」

「・・・・・・我々は、隊長を信じております・・・・・・。
 生かすも、殺すも・・・・・貴方の指示一つです・・・・・・」

「・・・あぁ、分かっているよ。(そうだった・・・・・
 いつのまにか・・・・私の意思は、変わっていた・・・・・。
 反逆軍の志を掲げることから・・・・・ただ、生きることに・・・・)」

あまりにも救いのない状況に、エレクは何もできずにいた。
援軍が来ないということは、まだ他の兵には伝えていなかった。
いや、伝えられるハズが無かった。エレクは沈んだ顔で、
ヴァルの元へ行く。

「シンシアぁあ、シンシアぁあーーーーーー!!
 出してくれぇ・・・・俺を・・・・俺をここから出してくれぇええ!!」

「・・・・ヴァル・・・・・ヴァル・・・・・!
 私は・・・・私は、おまえしか・・・・・・・・・!!
 なのに、・・・・・なのに・・・・・・・!!」

「シンシアァーーーーーーッ!!」

「・・・・・ヴァル・・・・・・ヴァルっ!!!
 目を覚ませっ!!私は・・・・私は、シンシアなどでは無い!
 私は・・・・私は、エレク・・・・・エレクだっ!!」

狂ったように、叫び続けるヴァルを、涙を流しながらみつめる
エレク。最後の希望も、この状態。エレクは、ヴァルの胸グラを掴み、
必死にヴァルを現実へと引き戻そうとする。必死に、必死に・・・・。
すると・・・。

「・・・う、うぅ・・・・・、あ、あぁ・・・・・・・?
 エ、エレク・・・・・お、俺は・・・・・・・」

「っ!!・・・・ヴァ、ヴァル・・・・・・!
 正気に、戻ったんだな・・・・・!?」

「こ、これは・・・・・・・・・・・。
 お、俺は・・・・・また、やっちまったのか・・・・・・・?
 また・・・・くそ、くそぉ・・・・・・くそぉお・・・・・・・!!」

正気に戻ったヴァル。ヴァル自身も、自分がやってきたことを
ある程度は記憶していた。だからこそ、余計に惨めで、醜悪だった。
ヴァルの幻覚症状は一時的なものにしろ、彼の精神は、もう限界だった。

「・・・・良い、良いんだ、ヴァル。
 おまえも辛いのを我慢するな。私だって、私だって・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・。
 なぁ、エレク・・・・・たのむ・・・・・たのむ・・・・・!!
 逃げない、逃げないから・・・・・ここから出してくれ!!
 もう、牢屋は嫌だっ!!ここにいては、いつかは頭がイカれてしまう!!」

「・・・・・・・でき、ない・・・・。
 ここが、一番安全なんだ。おまえに外に歩いてもらわれては、
 指揮が下がる・・・・・おまえの命だって危険にさらされるっ!!」

「・・・・なら・・・・なら俺をこのまま、ここで死ねというのか!?
 このままじゃ、この幻覚症状が進行して、本当に・・・・本当に・・・・
 俺は・・・・人間じゃ、無くなっちまう・・・・・・!!」

「・・・・・・・何とか、する・・・・・。
 だから・・・・だから・・・・・・たのむよ、ヴァル・・・・・!
 おまえだけでも・・・・私を、イジメるな・・・・・・・・!」

「・・・・・エ、エレク・・・・・・・・」

エレクにはもう、怒る気力など無い。ただ、崩れ落ちていくエレクを見て、
ヴァルは、黙る。誰もが、限界であった。誰もが、窮地だった。
絶望の一言が、すべてを物語る・・・・。

次の朝、アテナの城下町。人々が朝から威勢よく、物売りに励む。
まさに、平和そのもの。家計が苦しい者が多数、だが、それでも、
笑顔が絶えない場所だった。その一人に、シンシアもいた。
朝早くから、買い物に来ていたのだ。だが、シンシアは買い物に集中することはできなかった。

「(・・・・どうしよう・・・・・・・。
 ロトが言ってくれたことは、うれしい・・・・・。
 けど、私は・・・・私は・・・・・・・・・!!)」

「・・・・・やぁ、シンシア」

「っ!!ロ、ロトっ!!」

「・・・・・・やっぱり君は、悩んでいるんだね。
 すまない、ヴァルが死んだという時なのに・・・・・
 俺はまた、君を悩ませるようなことを言ってしまった・・・・・」

「ち、違うの!!そうじゃ、ないの・・・・・・。
 でも・・・・でも!!私も、わからないの・・・・・!
 どうすれば良いのか・・・・・わからないの・・・・・・!!」

「・・・・・・・・明日の7時。中央広場で君を待つよ。
 そこで、すべての答えを出そう、シンシア・・・・・・・」

「ロ、ロト・・・・・・・」

いつものように現れたのは、ロトであった。ロトは明日、決着をつける
つもりらしい。悩んでいるシンシアの姿を見て、少し笑みをこぼしながら、
その場を去っていく。果たして、シンシアの出す答えとは・・・・。

そんな頃、ヴァルのいる反逆軍でも、皮肉なくらいの輝かしい
朝日が、彼らに降り注いでいた。ヴァルは昨日のことで寝られず、
ボロボロになりながら起きていた。すると・・・。

「おはよぉお、兄ちゃん!!」

「?・・・・レオ。おまえは今日も、元気が良いな。
 うらやましいよ・・・・」

「へっへー!!今日はスッゲーお客さんがいるんだぁー!!
 ほらぁ、ヤエ姉ちゃん!!」

「・・・・ヤ、ヤエ姉ちゃん・・・・・?
 っ!!・・・あ、貴方は・・・・・伝達を届けにきた・・・・・・」

「・・・・・・・コクッ」

レオが連れてきたのは、自分達に絶望の知らせを届けにきてくれた
女性だった。名はヤエ。やはり耳が聞こえないためにか、
何も喋ろうとはしなかった。

「・・・・それで。このヤエという女性が、どうしたというのだ?
 それに、あまり女性を連れて回らない方が良い。ここは腐った連中の・・・・」

「だからだよぉ、兄ちゃん!!姉ちゃんがさぁ、
 いつまでも自分のテントには置けないからって、
 兄ちゃんの牢屋に一緒に住ませろだって」

「な、何ぃい!!?・・・・・・・・い、良いか・・・・?
 とりあえずだなぁ、俺も男なんだぞ・・・・・・・?」

「?、だって、兄ちゃんには恋人いるんでしょ?
 だったら大丈夫!ヤエ姉ちゃんもうれしいよねっ!」

「・・・・・・・コクッ」

「(な、何なんだ、この女?・・・・・感情をまるで出さないじゃないか)」

「それに、ヤエ姉ちゃんは耳が聞こえないから、
 兄ちゃんの幻覚症状だって全然、気になら・・・・・・・。
 あっ・・・・ゴ、ゴメン・・・・・・」

「っ!!・・・・・い・・・・いや・・・・・・・・」

ヴァルは、その言葉を聞いて、顔を歪ませる。こんな幼い子供にさえ、
迷惑をかけている。ただ、自分が恥でならなかった。牢屋という、
逃げられない空間の中で過ごし続ける。気が狂わないわけがなかった。
けれど、また、やってくる。そう、夜が・・・・・。

・・・・・・・・・

・・・・

・・

「う・・・・うわぁあ・・・・・シン、シア・・・・・・・
 シンシアァアアアーーーーーーッ!!!」

そして今日もまた、ヴァルは幻想に叫ぶ。幻想に浮かぶシンシアに向かい、
必死に自分の声を届かせようと、叫ぶ。回りなど、見えるわけがない。
見えるのは、シンシアだけ。叫ぶ、叫ぶ、叫び続ける・・・・・!
無様なほどに、惨めなほどに・・・・。

「はぁ、はぁ・・・・・・兄ちゃん!!
 おねがいっ、兄ちゃん!!目を覚ましてっ!」

「シンシア、シンシア、シンシアぁああーーーー!!
 出せぇえ・・・・ここから、出せえええええーーーーーーー!!」

「に・・・・兄ちゃん・・・・・・!!
 おねがい・・・・・・意識を、取り戻して・・・・・・
 兄ちゃん、お願いだよぉおおーーーーーーっ!!」

ヴァルのどうしようもない状態に、レオも一生懸命になって
どうにかしようと頑張る。すると、ようやく、ヴァルの叫び声が止む。
それは、ヴァルが正気に戻った証拠。ゆっくりと、レオの姿を見つめるヴァル。
震えて、小さくなっているレオを、見つめる。

「う、うぅう・・・・・兄ちゃん・・・・・
 目を・・・覚ましてぇ・・・・・・兄ちゃぁあん・・・・・・!」

「っ!!・・・・う・・・・くぅう・・・・・ぐうぅう・・・・・・!!
 俺はぁ・・・・・俺はぁ・・・・俺はぁああ・・・・・!!
 くそぉ・・・・・・死に、たい・・・・・・!」

「に、・・・・兄ちゃん?・・・・起き、たの・・・・・・?
 兄ちゃんに・・・・・戻ったの・・・・・・?」

「・・・・・あぁ・・・・・・!!
 戻った、戻ったぞ、レオ・・・・・・・・・!
 ふ、フフッ・・・ふふ・・・・・・・・・!!
 ・・・・・ちきしょう・・・・・どうすれば、良いんだ・・・・・・・・・」

ヴァルは泣きながら、レオの体を抱きかかえる。自分でも、どうしようもない。
笑いながら、泣きながら、自分に問いかけるヴァル。治らない、
幻覚症状が一向に、治らない。もしかしたら、このままずっと・・・・。
だが、まだヴァルは知らなかった。その様子を、遠くから見ている者がいることなど・・・。


19 :匿名 :2008/09/28(日) 19:24:16 ID:onQHWiL3

第十八話「破滅の夜に吹きたる・・・」

ツンツンッ、ツンツンッ

「痛てて・・・・・・・・ん?
 ヤ、ヤエ・・・・・お、俺を、起こしてくれたのか?」

「・・・・・・・コクッ」

朝。ヤエは相変わらずの無表情で、ヴァルを起こすためにオデコを
ツンツンと叩く。何か不満げに感じながらも、ゆっくりと起き上がるヴァル。
やはり、ヴァルは慣れなかった。耳が聞こえない女性と共に生活するなど、
何もかもが未知数すぎたのだ。

「・・・・今度は、体を揺すって起こしてくれ。
 毎度、額を叩かれたら、たまったものじゃない・・・」

「・・・・・・コクッ」

「分かってくれれば良いんだ・・・・・・・。
 ?・・・・わ、分かる!?お、おまえ、今、俺の言葉を理解したのか!?」

「・・・・・コクッ」

「だ、だって、おまえは俺の言葉が聞こえないハズじゃ・・・・。
 って、何をしているんだ、おまえは・・・・・」

「・・・・・いぃいーーー・・・・・」

何と、ヤエはヴァルの言葉を理解していた。当然、ヴァルの
声が聞こえていることはないだろう。だがしかし、彼女は聞こえる
というのだ。ちゃんと、それに応じて、応答もしている。
すると、ヤエは自分の口を両手で横に開く。不審な行動かと思いきや、それは・・・。

「・・・・そ、そうか。おまえ・・・・・・
 俺の口の動きで、読み取ったのか・・・・・・!?」

「・・・・・・コクッ」

「・・・・・と、とんでもない、奴だな。
 口の動き方なんて、人によって微妙な違いだってあるハズなのに。
 観察力、というべきものなのか・・・・」

「・・・・いぃいーーーー・・・・・」

「わ、分かったから、もうその口はやめろ。
 ・・・・意思疎通ができぬわけじゃ、無いんだな。
 なぁ、ヤエ・・・・聞いてもいいか?」

「・・・・・・・コクッ」

何と、ヤエは相手の口の動きを読んで、それを文字に置き換えて
理解していたのだ。その読唇のあまりにも超人的な能力に、驚くしかないヴァル。
耳が聞こえないヤエ。だが、彼女にも立派な器官があるのだ。
すると、ヴァルは急に、しんみりした顔でヤエに話しだす。

「・・・・・おまえは、行方不明になった男を・・・・
 いつまでも、愛し続けることはできるか・・・・・?」

「?・・・・・・・・うぅうーー・・・・・」

「・・・すまん、何を言おうとしているのか、分からん。
 でも・・・・これは、やはり・・・俺自身が答えを出すしかないようだ。
 ・・・そう・・・・この戦争が、終わった時に・・・・・」

「・・・・・・コクッ」

「・・・・・すまない、ヤエ。俺はもう少し、寝させてもらう。
 ・・・起きていても、悲しくなるだけなのでな・・・・」

「?・・・・・・・コクッ」

ヴァルは、悲しそうな顔をして、また寝てしまう。うなずくか、うめき声しか
上げれないヤエではやはり、何も相談はできなかった。ヴァルは、
やはり一人だった。逃れられない、一人。そして、逃げられない、幻想。
ヴァルは、深い眠りへと着く・・・・・。

・・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「兄ちゃん・・・・起きて、兄ちゃん!!!
 早く、早く、目を覚まして、兄ちゃん!!」

聞こえてくるのは、レオの悲鳴にも似た大声。その声に、ヴァルは
起きざるをえなかった。何か、尋常ではないことが起きている。
そう、感じたからだ。

「!?・・・・ど、どうした、レオ!!
 お、俺はまた、幻想に・・・・・・・・・!」

「ち、違うんだ、兄ちゃん!!
 敵だ・・・・・・敵が、襲ってきたんだよぉ!!」

「な、何っ!!」

ヴァルが起き上がり、外を見ると、もう夕方。敵が襲ってくるのには
絶好の時間帯。そして、気づく。耳を澄ませば、聞こえてくる。
兵隊の悲鳴と、わめき声、そして、血の流出音。襲われている。
達人が、3人目の達人が襲来してきたのだ。外では、まさに惨状。

「ひ、ひぃいいいい!!た、助けてくれぇえ・・・・・ぐわぁああ!!」

「残り5分・・・・・記録は19・・・・・!!
 へへっ、このまま行けば、ゴルザの記録に並べるぜっ!!」

その達人は、あまりにも理不尽であった。理不尽で、貧相であった。
手にもつは、ナイフのみ。あとは、何も無い。甲冑も纏わなければ、
弓も、銃も持たない。恐るべき、野生。ナイフ一つのみで、
次々と殺しているのだ。だが、その原因は、彼の最大の特徴である、ある「もの」が原因だった。

「副隊長!!これは・・・・一体、どういうことだ!?
 奴は、手にナイフしか持っていないのだぞ・・・・・!!
 なのに・・・・なのになぜ、剣を持つこちらは勝てない!?」

「・・・・・・隊長、よくご覧下さい・・・・・・・!
 奴の、足・・・・・・いや、速度・・・・・!」

「そ、速度、だと・・・・!?」

「・・・・・遠くから見れば、さほど速く見えないが・・・・
 実際は、相当、速いっ・・・・・・・・・!
 ・・・・奴は紛れもなく、俊足の達人・・・・・・!!」

「しゅ、俊足、だとぉ!?・・・・・くそっ・・・・・!!
 こんな時に限って、弓矢が不足しているなどぉ・・・・・・!
 接近戦では、奴の思う壺というわけではないか!!」

「・・・・このままでは、隊長・・・・・・・・!
 兵が、皆殺しにされます・・・・・・!」

「っぐ!!・・・・・ヴァル、ヴァルはまだなのか・・・・・!!
 あいつの甲冑があれば、あんな小さなナイフごときに
 負けるハズがない!!・・・・・ヴァル、何をしている、早く、早く・・・・!!」

そう、この達人の武器は、「足」。いや、スピード。遠くから見れば、
それほど早く見えない。だが、近くで戦っている者からすれば、
もう、彼は「残像」の領域。見える、見えるのだが、それは「残像」。
残像と本体の見分けがつかないほどの、流星。そのころ、ヴァルは・・・。

「レオっ!!早く、俺に甲冑を着せろっ!
 時間がないっ!」

「わ、わ、分かってるよ、兄ちゃん!!
 じゃぁ、兄ちゃんは足の部分をおねがいよっ!」

「あぁ!!
 ・・・・・・あ・・・・・・あぁ・・・・・あ・・・・?」

「?・・・・・・に、兄ちゃん?どしたの・・・・?
 は、早く、装着しなきゃ!!みんなが・・・・・・・・」

突然、それは突然だった。いきなり、ヴァルの動きが止まる。
いや、何かに気をとられていたというのが、正解であろう。
初め、レオには何が起きているか、わからなかった。だが、次の瞬間、気づく。
そして、焦る。焦るしかなかった。

「ま、まさ、か・・・・兄ちゃん・・・・・・・!!」

「・・・・シ、シンシア・・・・・シンシアが、いる・・・・・!
 待て・・・・待ってくれ・・・・・・俺も、俺も行く・・・・
 シンシアぁ・・・・・シンシアぁあああーーーー!!」

「う、嘘、だろぉ・・・・・・!?
 こんな、こんな時に、幻覚・・・・・・・・・!?」

最悪の事態、来る。ヴァル、この土壇場で、幻覚症状が再発してしまう。
しかも、牢屋から出た状態。今のヴァルを止められるのは、
子供のレオではあまりにも非力だった。そして、ヴァルは、外へと出てしまう。
そんなことも知らないエレク達は・・・。

「ちぃ!!まだ、まだか、ヴァル・・・・・・!!
 このままでは、本当に・・・・・・!」

「っ!!!・・・・・・た、隊長・・・・・・・。
 あそこに・・・・・ヴァル、が・・・・・・・・・」

「?、ヴァ、ヴァルがいるのか?良し!!
 これで、何とか持ちこたえることが・・・・・!」

「違う・・・・・・違う、見て下さい・・・・・・・!!
 ヴァルは・・・・・・幻覚状態・・・・・!
 ・・・・・・逃げようと、しています・・・・・・!」

「な、何ぃっ!!?」

エレクと副隊長は、どうしようもない絶望を感じる。ヴァルのたどたどしい
動きから、間違いなく、幻覚症状にかかっている状態だと察することができた。
二人の頭の中は、真っ白になる。ヴァルが、逃げる。ヴァルは、
相変わらず、見えないシンシアを追い求め、森の深くへとさ迷う。

「シンシアぁ・・・・シンシアぁあ・・・・シンシアぁあ・・・・・!!
 俺は・・・・俺は、ここだぁ・・・・ここにいるぞぉお・・・・!」

ヴァルの存在など、達人は気づくハズもない。逃げているのだから。
戦う気配すらなく、殺気も帯びていないのだから。エレクはその姿を見て、
目の前の戦いのことなどに気にも止めず、外に飛び出そうとしていた。

「た、隊長・・・・・・何を・・・・・・・!!」

「ヴァルが・・・・ヴァルが、行ってしまう・・・・・!!
 ヴァルを連れ戻さなければ!!私達には、ヴァルが必要なんだっ!!
 ヴァルを・・・・ヴァルを、連れ戻してくる!!」

「駄目です、隊長・・・・・・・!!
 危険・・・・・危険です・・・・・・・!
 今行けば・・・・・・達人の、餌食・・・・・・!」

「やめろぉお、離せぇ、離せぇえ、副隊長ぉおーーーーー!!
 ヴァルぅぅ、ヴァルぅうううーーーーーー!!
 戻ってこぃい!!戻ってこぉおおーーーーーーーいぃ!!」

副隊長が、必死にエレクを押さえつける。虚しくも、ヴァルは消えていく。
森の彼方へ。ヴァルは、反逆部隊から、結果的に、逃れることとなった。
果たして、ヴァルはどうなってしまうのだろうか・・・・?

空は、暗い。現在、7時。アテナの城下町の中央広場では、
一人の女性が、誰かを待っていた。その様子は、まるで、
恋人を待つかのような女性。すると・・・・。

「やぁ、シンシア!!遅くなってゴメン」

「う、うぅん。良いの・・・・・・。
 それより、私・・・・・私、ね・・・・・・ロト・・・・・」

「・・・・・今、もう一度、言わせてもらうよ、シンシア・・・・。
 俺は、君を守りたい。死んだヴァル以上に・・・・
 いや、違う!!・・・・死んだヴァルともに、君を守りたい!」

「っ!!・・・・・ヴァ、ヴァルキリーと・・・・一緒に・・・・・?」

「あぁ。君からヴァルは、離せないよ。だから、
 俺はヴァルの意思を受け継いで、君を守る・・・・・・!
 ・・・・たのむ、シンシア・・・・・・・・!
 ヴァルと共に、俺を、信じてくれ・・・・・・・・!!」

ロトの言葉に、動揺を隠せないシンシア。「ヴァルと共に」という言葉が、
頭から離れなかった。ヴァルとは離れるわけではない、ヴァルを
裏切るわけではない。そう、自問自答を繰り返す。

「(・・・・私は、ロトに断るつもりでここに来た・・・・・。
 けど、けどっ・・・・!どうして・・・・・・?
 今の言葉に・・・・・私は・・・・・温かみを、感じる・・・・・!!
 ヴァルキリー、私、私・・・・・・・・・!!)」

シンシアの心は、揺れる。揺れて、揺れて・・・。そして、ついに、
シンシアは決断する。ロトの顔を一直線に見る。ロトはそのシンシアの
表情を見て、確信する。

「・・・・・き、決めたわ、私・・・・・・・」

「・・・・あぁ、聞かせてくれ、シンシア・・・・・。
 (ふふ・・・・クク・・・・・ハハハッハッハッハッハ!!
 最高、最高だぜ!!ここまで、うまく良くとはな・・・・・・!
 悪いな、ヴァル!おまえの許婚、俺がかわいがってやるよ・・・・・!!)」

「私・・・・私・・・・・・・・!!
 あ・・・・・・貴方と・・・・・・・・・!」

・・・ザッ・・・・・・・!!

ロトが悪笑し、シンシアが一大決心をする最中、運命の風、吹きたる。
最初に気付いたのは、シンシア。言いかけた言葉を言えず、
ただそこに立ちつくす。その異変に気づく、ロト。ロトは、何が
起こったのか、まるでわからない。

「・・・・あ・・・・あぁあ・・・・・・!!
 そ、そんな・・・・・・まさか・・・・・・・・!」

「?・・・・ど、どうしたんだい?シンシア、いきなり・・・・。
 後ろに、何かいる・・・・・あ・・・・・あぁあ・・・・・・・・!!
 (バ、バカな・・・・・なぜ、なぜ、おまえが・・・・・・!!
 なぜ、おまえがここにいる・・・・・・!?)」

「ヴァ・・・・ヴぁるきりぃ・・・・・・・
 ヴァルキリィイイーーーーーーッ!!!」

「・・・・・・シ・・・・シンシア・・・・・・・?
 ・・・・シン・・・・・・・シンシアぁあああーーーーーーっ!!」

歯車は、ゆっくりと動き出す。幻覚を追ってさ迷ったヴァルは、
本当に、シンシアと巡り合うことに成功した。二人は抱き合い、
そして喜び、笑い、泣いて・・・・。2度離さぬよう、
ガッチリと、お互いを抱きしめ合った。


20 :匿名 :2008/11/02(日) 18:21:01 ID:onQHWiL3

第十九話「凍える骨」

朝が来た。俺の体は、いつもと違う。ずっと、空気の毛布を
被っていたあのころと、地面で害虫がうごめいていたあの頃と、
違っている。俺の上には、温かい毛布がある。いや、毛布だけじゃない。
この気持ちは・・・・・・そう・・・・。

「ヴぁるきりぃいいいーーーーーっ!!
 朝ご飯だってばぁあっ!!」

「!!?・・・・・シ、シンシア・・・・・!?
 シンシア・・・・・は、ハハッ・・・・・シンシア・・・。
 こ、こっちに来てくれ・・・・・」

「?、ど、どうしたの?ヴァルキリー」

ヴァルが起きた場所は、シンシアの家の中。ヴァルは、それがまだ
現実とは思えなかった。つい昨日までは、地獄の底にいた。
明日死ぬかもわからない、そして劣悪な環境での生活。全てが、地獄だった。
だが、今は違う。こうして、目の前にシンシアもいる。ヴァルは、両手をシンシアの頬にあてる。

「ちょ、ちょっとぉ、ヴぁるきりぃ!!
 アタシのほっぺを触ってぇ・・・・・・あっぷっぷでもしたいの?」

「・・・・・フフッ・・・・ハハハッ・・・・。
 良かった・・・・おまえが、いる・・・・・・・・。
 これは、現実だ・・・・俺は、おまえと、また巡り会えた・・・・・!」

「・・・・・うん。アタシとヴァルキリー、出会えたよ。
 もう、何回も会えないと思ったけど・・・・・会えた・・・!
 本当に・・・本当に・・・・ア、アタシ・・・・・!!」

「・・・・泣こう、シンシア。俺も、ずっと泣いていなかった。
 今は、泣きたい。いっぱい、いっぱい泣いて・・・・・
 泣くのが疲れ、腹が減ったら、朝飯にしよう・・・・・・・」

「う、うん・・・・・うん、ぅん・・・・・・・!!
 ヴァ・・・・ヴぁるきりぃいいーーーーーっ!!」

ベットに寝ているヴァルに、シンシアは泣きすがる。ようやく、
二人は出会えた。とは言え、離れていた期間はたった一か月間程度。
だが、その一か月があまりにも濃すぎた、死を感じすぎた。それを
洗い流すように、二人は泣く。そしてようやく泣きやみ、朝飯にする。

「?・・・きょ、今日の朝ご飯は・・・・・えーっと・・・・
 ハンバーグ、か・・・・?」

「違うよ、もー!!ヴァルキリーったら冗談も言うようになって!
 これは、間違いなく卵焼きでしょ!」

「(・・・・間違いなく、間違える)
 ま、まぁ、とりあえず食べるか・・・・・」

「ちょ、ちょっと待ったぁ、ヴァルキリー!!
 ”いただきます”が、まだだよ!?」

「・・・・・ふ・・・・・ふふ・・・・・・。
 ハハハハッハッハッハッハッ!!」

「?・・・・ど、どーしたの?ヴぁるきりぃ・・・」

「い、いや・・・・・おまえのそのボケたというか、抜けているというか・・・
 とにかく、久し振りに見て・・・・笑っちまっただけだよ」

「わ、笑うことないじゃんかぁ!!とにかく、
 いただきますっ!!・・・・・はい、ヴァルは?」

「・・・・い、いただきます・・・・」

ヴァルとシンシアは、ようやく朝飯につく。幸せ、幸せすぎた。
ヴァルは、笑みが絶えなかった。あまりの幸せに、戸惑いを隠せない。
シンシアの一つのやさしさにも、動揺してしまう。それほど、
ヴァルは切羽詰っていたのだ。

「フフッ♪ぜぇったーいに、おいしいんだからぁ・・・・!
 パクッ!!・・・・・・・・んべぇえ・・・・ま、まずい・・・・・」

「シ、シンシア!!大人にもなって、口から食べたものを出すな!!
 ほ、ほら、拭いてやるから・・・!」

「ゴ、ゴメンね、ヴァルキリー。ヴァルキリー、きっと
 良いお嫁さんになれるね!」

「・・・・・・・・・・・・。あぁ、そうだな、良い嫁さんになるよ。
 ほらっ、さっさと食べようぜ」

「う、うん!!・・・・・・ねぇ、ヴァルキリー・・・・?」

「ん・・・・?どうした?」

「・・・・・なんかね・・・・・幸せっ・・・・・!!」

「・・・・・あぁ。俺も、幸せだ。幸せすぎて、もう、
 どうにかなっちまいそうだよ・・・・この朝飯だけでも、俺は・・・・・
 ・・・・・どれだけ・・・・・・この一瞬を、望んだことか・・・・・・・」

「・・・・アタシ達、もう離れることないよね?
 もう、ずっと一緒だよね?・・・・・ううん・・・・違う・・・・・。
 ・・・・アタシ、ヴァルキリーのこと、逃げようとしても逃さないからね!!」

「ッフ・・・・それは、恐ろしいことだな」

ヴァルは、そっと微笑む。信じられないほどの、当たり前の日常。
それが、ヴァルにはあまりにも素敵すぎた。心が躍る、まるで
激しく華麗に踊るカルメンのように。ヴァルとシンシアは、
幸せの一瞬をかみしめながら、朝食をとる。

そのころ、アテナの本城では。「ゲーム」を終えて帰ってきた
レップウの姿があった。レップウは帰ってくるたび、すでに
顔は「してやったり」。自慢げに、自分の今日のゲームスコアを
語りだす。

「聞いてくれよ、俺が一日で倒した数・・・・・
 28・・・・28だぜ!?ゴルザの記録、そしてジュウイチを超えた!
 俺が一日でトップだぜ!」

「・・・ほぉ。さすがは、レップウだな。
 その分なら、君できっちりとゲームをクリアできそうだ。
 期待しているぞ、レップウ」

「・・・・・レップウ”様”、だろ?
 ゲームの勝者は達人の頭になれる・・・・忘れてねぇだろうな?」

「・・・・・気をつけろ、レップウ。
 今の君には、お決まりの敗北者の優越が感じられる・・・。
 ククッ・・・死ねば、おもしろいのにな」

「・・・・勝手にホザいてな。テメェが言いだしたことだ、
 キッチリ守ってもらうぜ。誰も、俺に逆らうことはゆるさねぇ・・・!」

レップウは、睨むような眼差しで、自分達を臨時で指揮する者を
見る。まるで、自分の意見を押しつけるように。第一、達人は
一つの長所を最大限まで活かした戦闘のプロ。そんなプロが複数集まれば、
対立はまぬがれない。最強は、二人は必要ないのだから。

「・・・それより、レップウ。
 おまえは見たのか?ゴルザの言っていた、翼の甲冑をやらを」

「あぁ?・・・いや、んなもんは見てねぇ。甲冑どころか、
 まともな武器も、防具も・・・・いや、戦術すらもド素人だったからな。
 本当に、あんな奴らが達人二人を殺したとは思えねぇ」

「ふむ・・・。(翼の甲冑が、ゴルザやジュウイチを苦しめていたと
 思っていたが。そうではないのか・・・・・・。
 はて・・・・・ならば、なぜ二人は殺された・・・・?)」

密かに、考え込む。達人が二人も殺されたとなれば、それ相応の
実力を伴った者が存在するか、またや奇策に長けた指揮官がいるのか。
考えれば考えるほど、また、達人達も深みにハマッていた。
レップウが、部屋から出て行こうとすると、誰かの声がする。

「・・・・ホッホッホ。小僧、ちょっと待ちなされ」

「あぁ?・・・誰だ、ジジイ。テメェに小僧呼ばわりされるたくねぇな。
 この顔、覚えておけよ。いずれ、この達人衆のリーダーになる奴の顔だ!
 まぁ、ジジイには覚えてらんねぇかもしれんがな・・・・!」

「・・・・・ワシはのぉ、少々、占いに凝っていてのぉ。
 お主・・・・・死ぬぞ」

「・・・・・・クソジジイ、俺が死ぬだと・・・・?
 へへっ、だから何だ?俺が死ぬのが怖いと思ってんのか、あぁ!?」

「・・・・・・さぁな。ワシは、死ぬと言ったまで。
 怖いと言いだしたのは・・・・ほれ、お主の方からじゃぞ?」

「・・・・・覚えておきな、ジジイ・・・・・。
 俺はいつだって一番だ、一番すら俺だ・・・・!!」

「・・・・ホッホッホ・・・・・精々、ゲームの結果を楽しみにしておるよ」

謎の老人達人に宣告されるレップウ。だが、レップウは気にも
止めずに部屋を出てしまう。老人は、微笑する。そのあまりにも、
若すぎる彼に。

夜が、やってきた。アテナの城下町に、火が灯る。家の一つ、一つの
光がまるで、町全体の一本のろうそくのように。シンシアの家で、
ヴァルは、シンシアに語っていた。今まであったことを。
友人を殺されたこと、反逆軍に捕えられ、戦わさせられていたことを。

「そ、そうだったんだ・・・・・ヴァルキリー、ずっと闘ってたんだね。
 敵の所で、無理やり戦わさせられていたんだね・・・・・」

「・・・・生きる、ためだった。戦わなければ、死んでいた。
 ・・・・・・だが、だが、聞いてくれ、シンシア!
 ・・・・あ、あいつらだって・・・・・悪い、わけじゃない・・・・・」

「?」

「・・・・お、俺を捕えていた反逆軍の一部隊・・・・
 悪い奴らじゃ、無いんだ・・・・・・・。
 いや、それもごく一部の連中だけだが・・・・だが・・・・・!!」

「・・・・うん、アタシも、そう思う・・・・。
 本当だったら、殺されちゃうハズだもんね・・・・・。
 アタシも、良い人達がいたんだと・・・・思うよ・・・・・」

「(・・・・エレク、レオ、副隊長、ヤエ・・・・・・。
 おまえらは・・・・・まだ、戦っているのかい・・・・・?
 まだ・・・・・地獄を見ているのか・・・・・?)」

ヴァルは、窓から空を見る。そこには、夜空しかうつっていない。
だが、遠くから想う彼らは、恐らく、今日も戦っているのだろう。
達人の、容赦ない襲撃を受けて。そう思うと、ヴァルは少し、憂鬱になった。
そして、就寝の時間となる。

「(・・・幻覚が、来ない。恐らく、シンシアがいるせいか・・・。
 何とか、克服はできそうだな)」

「・・・・ねぇ、ヴァル。また・・・どっか行っちゃったり、しないよね?」

「・・・・・・俺は、もう国から末梢された存在。
 存在事態が、消えている男だ・・・・・居場所は、ここしかないよ」

「ぅん・・・・・うん、うんっ!!
 そうだよねっ!ヴァル・・・また明日、アタシが朝食作ってあげるからね!
 今度は、絶対においしく作るんだからぁ!」

「・・・・・あぁ、楽しみにしてるぜ、シンシア」

「・・・・じゃぁ、おやすみ、ヴァル」

「・・・・・・おやすみ、シンシア・・・・・・。
 (居場所、か・・・・・エレク、見てくれよ・・・・・。
 ここが・・・・俺の居場所だ・・・・・俺は、一人ぼっちじゃない・・・・・。
 俺には・・・・・・帰る場所が、あったぞ・・・・・)」

ヴァルは、ソファーにフトンをかけて、寝る。しかし、ヴァルは
しばらく寝れなかった。反逆軍にいたころの、いつ襲撃されるかの緊張感で。
それと、今、戦っているであろうエレク達を思って。
そのうち、ヴァルは寝ていた。身を震わせながら。


21 :匿名 :2008/12/14(日) 20:04:02 ID:onQHWiL3

第二十話「愛と哀」

「じゃぁ、ヴァルキリー、アタシ買い物してくるから
 留守番よろしくね!」

「あぁ。余計なものは買わないようにな」

「うん!!じゃぁ、行ってきます」

「あぁ、いってらっしゃい」

そう言うと、シンシアは朝早くから買い物に出かける。笑顔で、
シンシアを見送るヴァル。そして、ヴァルは家に一人、残されることとなった。
ヴァルがシンシアの家に来てから二日。ヴァルは幸せだった。
だが、その様子を影から見る者など、知る良しも無かった・・・・。

「(・・・・俺は、どうかしていた・・・・。
 俺がこれほど贅沢をしていて・・・祝福を感じて良いかと思っていた。
 だが、違う・・・・これが、普通・・・・・これが、当たり前じゃないか。
 俺の人間としての常識が、欠けていたのか・・・・・)」

トントンッ

「っ!!・・・・」

家を叩くものがいる。ヴァルは、一瞬、動揺した。シンシアは
一人で生活している。ここにヴァルがいるというこは、誰にも
知られてはいない、知れてはいけない。ヴァルは息を潜めて、
ドアの前の客人が帰るのを待つが・・・・。

「(音を出すな・・・・・俺がここにいるのを、悟られていかん。
 ここは、待つしかない・・・・ただ、静寂を守って・・・・・・)」

「・・・・・・ヴァル・・・・・いるんだろ?
 開けてくれ・・・・・」

「っ!!(こ、この声は・・・・・・!!
 ロ、ロト!・・・・・そうか、あの時、広場で見られていた・・・!!)」

「・・・・・開けてくれよ、ヴァル・・・・・。
 大切な話があるんだ」

「・・・・・・・・・・。あぁ、分かった」

訪問者は、ロトだった。ヴァルは、シンシアと再会した場所で、
同時にロトにも見られていたことを思い出した。このまま
ドアの前で自分の名前を連呼させるわけにもいかず、ヴァルは
仕方なく、ロトを家に入れる。

「・・・久し振りだな、ロト。昔からの喘息はよくなったのか?」

「いいや。だが、そのおかげで、兵役も免れたのだからな。
 ・・・・そんなことは、どうでも良いんだよ、ヴァル」

「一体、何の用だ・・・・ロト・・・・」

「・・・・・なぁ、ヴァル・・・・・・・。
 おまえ・・・・・・反逆軍に、捕まってただろ・・・・?」

「っ!!!」

ヴァルは、固まった。目を大きく開けて、手に力を入れる。
バレている。その焦りが、ヴァルの体を熱くさせていた。
元来、ヴァルとロトはあまり良い関係ではない。ただ、幼馴染というだけで。
それに、ヴァルは知らないが、ロトはシンシアを・・・。

「・・・・・図星、みたいだな。おかしいと思ってたぜ。
 一か月、行方不明で死人扱いだったおまえが・・・突然、帰ってきたんだからな。
 そうなりゃ、答えは一つ・・・・敵の拘束、これしかあり得ない」

「・・・・だから、何だ?俺はこうして帰ってきた。
 すべてが元通りに戻ったハズだ・・・・・!」

「・・・・・・ヴァル・・・・・・
 俺な・・・・・・シンシアのこと、愛してんだ・・・・」

「っ!!な、何を言っている!!
 シンシアは、俺の許婚だぞ!貴様はそれを知っていて何を・・・・」

「シンシアが、敵のスパイと結婚して幸せになれると思っているのか!?」

「なっ!!・・・・何だとぉお・・・・・!!」

ヴァルは、驚きと怒りが頭の中で交差した。初めに来たのは、驚き。
「スパイ」と呼ばれたこと。いつかは言われると、覚悟していた。
自分は、疑われるかもしれないということを。次に来たのは、激怒。
ようやく得た幸せを、また引き裂かれてしまうから。

「そうだろ!?十分・・・・・十分すぎるほど、怪しいだろ!!
 敵に一か月も拘束されて、無事に帰されるだぁ・・・・・?
 そんなに敵が甘かったら、戦争なんてなってねぇんだよ!」

「じゃぁ何処に、俺がスパイだという証拠がある!?」

「こっちも聞こう!!おまえがスパイじゃないという証拠が何処にある!?
 ・・・・・おまえだって、一人の兵士だ・・・・・
 分かっているハズだ!敵に捕まった兵士の行く末を・・・・・!」

「っぐ!!・・・・違う・・・・・違う!!
 俺は、スパイじゃない!!俺は、この国を裏切ってなどいない!」

「いいや、裏切った!!おまえは、裏切ったんだ!!
 敵の捕虜め、さっさと自白しろっ!」

「き・・・・貴様ぁああああーーーっ!!!」

ヴァルはロトに殴りかかろうとする。だが、寸前のところで、止まる。
ここは、あくまでシンシアの家。もし、騒ぎが大きくなり、
人が集まってヴァルの存在が知られれば、こまるのは、
誰でも無い、シンシアだからだ。

「ロ・・・・ロトぉおお・・・・・!!
 き、貴様ぁああ・・・・・・・!」

「・・・・・それと、もう一つだ・・・・。
 おまえも、シンシアを愛してるんだろ・・・・・?」

「・・・それが、どうしたぁ・・・・・!!」

「・・・・だったら、もうシンシアに近づくな。
 許婚だが何だか知らんが、オマエはシンシアとは一緒になれないんだよ」

「!?、お、おまえはさっきから、一体何を・・・・!!」

「おまえだって、バカじゃない!!・・・・・分かるだろ?
 もし、ここにオマエがいるのがバレたら・・・まず、国がオマエを捕まえる。
 そして、オマエのスパイ容疑の取り調べに入るだろう・・・」

「・・・・っぐ・・・・!!」

「当然、無実を立証できないおまえは有罪・・・・。
 そうなれば、おまえをかくまっていたシンシアはどうなる?
 ・・・・同罪、同罪なんだ!!シンシアも、有罪判決を受けるっ!」

「っ!!・・・・・う、うぅ・・・・・!」

ロトの言うことをは、あまりにも正論すぎた。だから、
ヴァルは自分の言葉をみつけることはできなかった。いや、
見つけることなどできるハズがない。正論に太刀打ちできるのは、正論。
今のヴァルに、正論など考えられなかった。歯を噛み締め、話を聞くヴァル。

「・・・・まぁ、これはちょっとした脅迫だと思っても良い。
 ・・・・・・おまえが消えなきゃ、俺が密告する・・・・・・どうだ?」

「!!・・・・ぐ・・・・・ぐぅ・・・・・!!
 わ、わかった・・・・・わかったから・・・・・・!
 ゆるして、くれ・・・・・ゆるしてくれぇえ、たのむぅ・・・・・!!」

「・・・・・どうなるだろうなぁ。敵の兵をかくまっていたとなれば、
 どんな罰が下されるのだろう・・・・禁固、10年・・・・・。
 その間に、そこらの腐った兵隊共に、随分おもちゃにされると思うがな」

「うぅ・・・・・うううぅ・・・・・・・!!
 たのむ、たのむぅ!!・・・・・ゆるして、ゆるしてくれぇ・・・・!!
 黙って、黙っててくれぇえ!!これ以上、俺から幸せを奪わないでくれぇえ・・・!!」

「シンシアの幸せ、おまえ自身の幸せ、いったいどっちを取るんだ!!
 今のシンシアの生活を壊すも生かすも・・・・おまえしだいなんだ!!」

「・・・・・う・・・・うぅう・・・・・あぁ・・・・・う・・・!」

ヴァルは、泣きじゃくった。あまりにも、残酷すぎる運命に。
いや、そんな軽いものではない。ようやく、ようやく手に入れた幸せすら、
はく奪されてしまう自分の運命を、呪った。ヴァルは情けなく、
惨めに、永遠と泣き続ける。

「・・・・・シンシアは、俺がもらう・・・・!!
 残念だったな、ヴァル・・・・・始めから、こういう運命だったんだよ」

「・・・・やめて・・・やめてくれぇえ・・・・・!
 たのむぅ・・・・俺は・・・俺は、シンシアをずっと・・・・・!」

「・・・・明日までに消えなきゃ、俺が通報する。
 あばよ、ヴァル・・・・・シンシアのことは、任せろよ・・・。
 フフッ・・・ハハハッ・・・・ハーッハハッハッハッハッハッ!!」

「う、うぅう!!・・・・ひ、酷い・・・・酷ぃい・・・・・!!
 あ、あんまりだぁ・・・・あんまりだぁあ・・・・・・!
 俺が・・・俺が、一体何をしたというんだぁあーーーーーーっ!!」

高笑いをするロトとは逆に、ヴァルは絶望の淵。去っていくロトのことなど
気にも留めず、ただ、一人そこに立ちつくしていた。自分の意思を
取り戻せたのは、30分後。気がつくと、手に筆を持ち、
紙に必死に何かを書いていた。

「・・・・・・く・・・くそぉ・・・・・・くそぉ・・・・。
 ちきしょう・・・・・ちきしょう、ちきしょう・・・・・・・・!
 何で・・・なんで、こんなっ・・・・・こんなぁ・・・・・!
 くそぉ・・・シンシアぁ・・・・愛している、愛してる・・・・愛してる・・・・・!!」

涙を流しながら、精一杯に、紙に何かを書くヴァル。一人で
ブツクサとつぶやきながら、一生懸命に、震える手で、身ぶるいする体で
執筆する。それから、数十分が経った・・・・・。

・・・・・・・・・

・・・・・

・・

「たっだいまぁーー!!すっごいよぉ、ヴァルキリィー!!
 今日ね、こーんな大きいカボチャが、一個・・・・・・。
 ・・・・?・・・・・あ、あれぇ?・・・・ヴぁるきりぃー・・・?」

そこに、ヴァルの姿は無かった。シンシアは、急いでヴァルを探す。
だが、何処を探しても、何処を探しても、ヴァルは見つからない。
しだいに、恐ろしいことを思い始める。ヴァルが、何処かに行ってしまったと。

「そ、そんなぁ・・・・う、嘘、だよね・・・・・・?
 ヴァ、ヴァルキリィー?・・・・か、かくれんぼなんて、ダメだよ?
 ・・・ヴァ・・・ヴぁるきりぃ・・・・ヴァルキリィイイイイーーーーっ!!」

シンシアは、叫ぶ。泣いて、叫んで、混乱して、苦しんで・・・。
突如として消えてしまったヴァルのことを思い、死にたいほどの
悲しみに包まれる。そして、いつか、テーブルに置手紙が
置いてあることに気付くであろう。いつか・・・・・・。



「  貴方の幸せを、愛しています   ヴァルキリー   」


22 :匿名 :2009/01/18(日) 21:21:47 ID:onQHWiL3

第二十一話「風を討て」

「・・・・・はぁ・・・・もう、終わりかなぁ・・・・」

ツブやくのは、レオだった。ここ数日、達人の「レップウ」に襲撃を
たて続けに受けていたのだ。だが、どうしようもない。打開策見つからないのだ。
部隊の指揮は、落ちていた。兵は皆、あきらめ、絶望していた。
その時、レオの前に、誰かが止まる。

・・・ザッ・・・

「・・・・・・・・・久し振り、だったな。レオ」

「?・・・・え・・・・・えぇ・・・・・・・?
 あ、あぁあ・・・・・・あぁあーーーーーっ!!!」

見上げた先に、見つけたものは。レオは、その人物を見て驚くしかなかった。
驚いて、驚いて、喜んで。その「男」の訪問はすぐに部隊中に知られる
こととなった。当然、その知らせは隊長であるエレクのもとにも。
息を切らした様子のサインが、エレクの部屋へと駆け込む。

「た、隊長!!た・・・・大変です・・・・・!!」

「・・・・何だ、サイン。また、誰かが争っているのか・・・?
 もう、放っておけ。この状況だ、皆、限界なんだ・・・・」

「ち、違うんです!!・・・あ、あいつが、帰ってきたんです・・・・!!
 あのブタ野郎が、帰ってきたんですっ!!」

「っ!!!」

そう、帰ってきた。ヴァル、ヴァルキリーが帰ってきた。
その知らせを聞いて、エレクは心臓の止まる思いだった。
すると、サインの後ろから、副隊長と共に、誰かがテントの中に
入ってくる。それは、まぎれもなく・・・・。

「隊長、見張りが見つけましたこの男・・・・・・・
 無事に・・・・・・連れてきました・・・・・・・・」

「あ・・・・あぁあ・・・・・・・!!
 お、おまえ・・・・・おまえぇえ・・・・・・・!」

「・・・・・良い、休暇を取らせてもらったよ、エレク。
 また、戻ってきた・・・・・戦いの中へ・・・・・・・!」

ヴァル、再び、戦いの渦へ。エレクの元へと戻ってきたヴァル。
エレクは動けなかった。ただ、うれしいような、悲しいような、
驚いているような、すべてが入り混じった表情を繰り返し、落ち着く。

「・・・・さぁ、まだ達人の対策は練っていないのだろう?
 早く、作戦会議をしよう」

「な、何言ってやがるブタ野郎!!テメェにそんなことを
 堂々と言える資格があんのかよ!良いかぁ!?テメェは、逃亡・・・・」

「だから、何だっ!!俺は、戻ってきただろう・・・・・!
 考えろっ!!こうしてバカな男が帰ってきた、
 ならば死ぬまでコキ使ってやろうとな・・・・・・!」

「っぐ!!・・・・こ、このブタ野郎・・・・・!
 口も達者になりやがってぇ・・・・・」

「・・・ヴァ、ヴァルの言うとおりだ!!今は、その罪は
 保留にしておく!それより、達人の作戦を練るぞっ!」

「良し。副隊長、とりあえず・・・・被害報告と、その新手の
 達人についての詳細をおしえてくれ」

「・・・・・・了解した・・・・・・・」

ヴァルが戻ってきたことで、やはり、少なからず場は
活気に満ちる。戦闘の要が復活する、それはわずかな希望を示していた。
副隊長に、現在の被害と、今襲撃してきている達人についてを
問うヴァル。

「・・・ここ数日で、51人が殺害された・・・。
 死因は皆、鋭利なナイフで急所を斬られてだ・・・・・・。
 ・・・・だが、一撃じゃない・・・・複数の箇所を斬られた後だ・・・」

「ナイフ、か。確かに、小型な分だけに殺傷能力を一撃で
 期待するにはできんということか・・・・・・。
 また、は・・・・・相手の苦痛を眺めるのが、好き・・・・とも思えんな」

「・・・・相手の詳細としては、その速さ・・・・・。
 俊足と言える速度で、相手を疾風の如く斬りつける・・・こちらとしては、成す術無しだった」

「ちょっと待て。なぜ俺の甲冑を使わなかった?
 俺の甲冑を使えば、いくらかはその攻撃を防ぐことが・・・」

「む、無理を言うな、ヴァル!!あれはおまえの甲冑!
 サイズだって違ってくる・・・・それに、言っただろう、この部隊は寄せ集め!
 甲冑なんて使いこなせるわけがない!」

「そう、か・・・・」

相手の詳細はについては、かなりの細かいところまで調べる
ことはできていた。だが、それを打破できることができない。
知ったから、どうする?知れた上で、その答えに行くことができないのだ。
ヴァルも難しい顔で考え込む。

「・・・・エレク。おまえは一体、どういう作戦を取ったんだ?
 まさか、俺がここにいない間、何もせずにいなかったわけではあるまい」

「・・・わ、分かっているさ!!犬が偉そうに、口を聞くな!!
 奴の俊足を消すために、我々はゴルザの作戦を服用した!
 つまり、ドロの地形にしたんだ・・・・!」

「・・・・で、その結果はどうなったんだ?」

「・・・地形が悪いと悟ると、奴は平気で甲冑を切り離した。
 フンッ、お自身の速さによほど自信があるからだろうな。
 結局、こちらもドロのおかげで普段の数倍、鈍くなり・・・・・この様さ」

「っ!!そ、そうか・・・・足を鈍らせる策が通じんか・・・・・」

どうやら、エレク達も独自に作戦は行っていたらしい。
だがそれは、自分達に百害あって一利なしのものだった。
少々、焦り気味のヴァルは、必死になって頭を冷静に保とうとする。
考えて、考えて、考えて・・・・。

「・・・・奴の俊足を殺す手・・・・・!
 それが見つからない限りは、何を言い合っていてもダメだ・・・!」

「おいブタ野郎!!テメぇ、偉そうなこと言っておいて、
 何も考えは用意してねぇのか!!」

「うるさい、黙れっ!!・・・・考えている、考えているさ!!
 どうする・・・・・どうする・・・・・!?」

分からなかった。どうすれば良いのか、ヴァルには
何も思いつかなかった。過ぎていくのは、時間だけ。
ただ、無駄に、ゆっくりと、早く、時間だけが過ぎていく。
すると・・・・・。

「・・・・・うぅううーーー・・・・・」

「?・・・ヤ、ヤエ!!私の寝室から出るなと言っただろう!
 早く戻れっ!」

「ん?・・・副隊長、ヤエはエレクのテントで生活しているのか?
 俺がいた時は、牢屋だったが・・・」

「・・・・・・おまえがいなくなって・・・・また、戻っただけだ・・・・。
 それ故、今度はまた・・・・・おまえと共に、牢屋住まいだ・・・・」

「・・・・・うぅうーーーー・・・・・」

「ま、またワケのわからん落書きをしおって!!
 私の物は勝手にあさるなっ!!くそっ!・・・・・
 せっかくの手紙に、グチャグチャの絵をかきおって・・・・!」

「(?・・・・おかしいな。ヤエは決して、知恵遅れしてるわけじゃない。
 なのになぜ・・・・あんな幼稚なマネをする・・・・・?)」

ヤエは、エレクの手紙にグチャグチャの落書きを書いていた。
それを見て、怒るエレク。だが、ヴァルの言うとおり、ヤエの知能は
自分達と同じ。そんな愚かな行動をするとは思えない。
ヴァルは、数枚の紙を持ってうなるヤエを見つめる・・・。

「・・・・・・・・・・・待てよ・・・確か、ヤエは記憶力が・・・・・。
 ま、まさかっ!!!・・・・・エレクッ!!」

「っ!!な、何だ、急に大声で・・・!」

「ヤエは、襲撃してきた達人との戦闘を見ていたか!?」

「?・・・・そ、そんなことを知ってどうする。
 いきなり分けのわからんことを・・・・」

「良いから、答えろっ!!」

「わ、わかったよ!!・・・・恐らくだが、見ているハズだ。
 戦闘中は、悲鳴と絶叫の連鎖だ。このテントの隙間からでも、見ているだろう・・・」

「そうか・・・・・そうか、分かったぞ!!
 エレク!!ヤエが落書きをした紙はこの一枚じゃないハズだ!
 全部、持ってきてくれ!」

「な、何ぃ?ヤエの落書きなどで、私達の命が助かるというのか!?
 達人を倒す術が見つかるというのか!?」

「そうだっ!!良いから早く、持ってきてくれっ!!」

それは、あまりにも驚異、意外だった。ヤエの無駄な落書きに、
達人を倒す糸口がある、ヴァルは何かに気づいていた。
決して、喋ることのないヤエが伝えたかった、「言葉」を。
そして、エレクはヤエが前にも書いていた紙を2枚、持ってきた。

「こ、これだ。たいして、落書きの内容は変わっていない。
 何か、丸い円をグチャグチャに書いてあるだけだ・・・・それがどうした?」

「・・・・・気づかないか?この絵の特徴・・・・。
 そうだな、副隊長・・・・その達人は、どうやって殺しているんだ?」

「・・・・・・・複数の傷痕を作り、そして・・・・
 最後に、急所を斬りつける・・・・・・・」

「そう・・・・その、複数の傷痕・・・・・・。
 つまり、その攻撃をするためには、一体どうする?エレク」

「そ、そんなの簡単だろう!!つまり、相手を翻弄すれば良い!
 奴はあの俊足だぞ!相手を翻弄することなど・・・・・・
 あ・・・・あぁ・・・・ま、まさか・・・・・・!!」

「そうだっ!!翻弄するために、奴はどういう行動をとるか・・・?
 簡単だ、その俊足で、獲物の周りを回ってだ・・・・・・!!」

そう、まさにその通り。ヤエが伝えたかったのは、このこと。
俊足の達人は、相手が切り刻まれるのを楽しむかのように、複数の傷痕を作る。
どうやって?答えは簡単。その相手の回りを高速で移動し、相手を
翻弄して、その隙に攻撃する。それを、ヤエは見ていた。

「ま、待て!!じゃぁ、おまえはこういうのか・・・!?
 ヤエの書いていた、この落書きは・・・・奴の動いていた軌道を書いていたと!?」

「ヤエは洞察力に長けている!!それは、立証済みだ・・・!
 そうだ、奴の円形型の移動パターンを・・・ヤエは記憶し、紙に書いていたんだ!!」

「ちょ、ちょっと待ちやがれ、ブタ野郎!!
 ・・・・だから、何だ!?それを知って、どう生かすよ!?」

「っく!!知恵の弱い奴め・・・・・!
 副隊長、何か火を起こすものを持っていないか!」

「?・・・・・・あぁ・・・・・マッチなら・・・・・」

「よしっ!!皆、ここに集まれ。あぶり出てくる・・・・!
 そう、これこそ奴の弱点、急所が・・・・!!」

ヴァルは副隊長からマッチを借り、火をつける。ヴァルは右手に
マッチを、左手にヤエの書いた紙を3枚重ねて持つ。
エレク・サイン・副隊長・ヤエは不思議そうにそのヴァルの
指示に従う。これぞ、ヴァルの考えた勝利の方式の第一式。

「見ろ・・・ヤエの書いた3枚の紙を、重ねる・・・・。
 そして、そこに火を・・・いや、明かりをつけて見ると・・・・!」

「あ、あぁあ・・・・!!ヴァ、ヴァル、これは、まさか・・・!!」

「そうだ・・・この3枚の紙に描かれた奴の軌道の、重なる線・・・・・!
 それこそ、奴自身も知らない癖!俺達の、勝利の可能性!!」

「そ、そうか・・・!この3枚の紙に書かれた線で、3重になっている所は、
 つまり、ワンパターンっ!!奴の・・・・・弱点、か・・・・!!」

「つまり・・・・・あった!!ここだっ!!
 上を西として、南南西!この位置が、奴のワンパターンの場所だっ!」

「・・・・・・そこを攻撃すれば・・・・・活路が見える、ということか・・・。
 考えたな・・・・・・だが、問題はここからだ・・・・・・」

「そ、そうだ!!ヴァル!確かに、奴の移動のワンパターン場所は
 見つかった!だが・・・・それから、どうする・・・・!?
 奴は、俊足なんだぞ!?狙って、攻撃できるような奴じゃない!」

「?・・・・おまえは何を言っている、エレク。
 そんなの、簡単さ。・・・・・あの、金属の板を使おう」

「な・・・・何ぃ・・・・・!?」

そう、確かに敵の行動パターンに弱点があるのはわかった。
だが、それからどうする?そのワンパターンを克服するべく、
達人の俊足。捉えられるハズなど無い、ハズだが・・・・・。

「お、おい、ブタ野郎!!意味がわからねぇんだよ!
 あの金属の板で・・・・どうしようってんだ!」

「・・・・俺が生贄となり、俺の目の前にその金属の板を埋めておく。
 つまり、奴が俺の回りを一周するごとに、金属音がするハズだ・・・・
 それで、一周の時間を計算し、・・・・そうだな、およそ3週目で辺りで、攻撃をする!」

「攻撃・・・。つまり、奴のワンパターンポイントへの、攻撃か!
 たった3週で・・・・一周の時間を計り、そして・・・
 そのワンパターンポイントへの移動時間も計算できるのか・・・・?」

「・・・・やるしか、ない。3週じゃないと・・・・・
 俺は・・・・・恐らく、死んでいる・・・・・・」 


23 :匿名 :2009/10/07(水) 15:56:52 ID:o3teQ3Pn

第二十二話「斬るべき音」

「・・・ヴァルを残して、全員、作戦の準備にかかれ。
 副隊長は兵に作戦を説明し、サインは金属板を埋めてこい・・・」

「?、お、おい、エレク!なぜ俺だけが・・・・」

「・・・・この場で、貴様が逃げ出したことの処罰を行う。
 覚悟しておけ」

「っ!!」

エレクの指示従い、ヴァルを残して他の者たちはエレクのテントから
離れて、作戦の準備へととりかかる。残されたヴァルとエレク。
逃げたのしたのは、事実。また戻ってくるなど、死にたいといっているとしか
思えなかった。

「ヴァル・・・私はおまえが帰ってきて、素直にハイそうですかと
 言って、やさしく歓迎する女でないことぐらい知っているな?」

「・・・あぁ。それなりの処罰は受けるつもりでいた。
 まぁ、作戦の支障をきたさない程度に・・・」

ドゴォオオオオッ!!

「っぐ!!お、おまえ・・・い、いきな・・・」

ドゴッ!!

殴打。エレクは容赦なくヴァルを殴り続ける。その殴った感触から
ヴァルは分かった。間違いなく本気の拳だと。何発も、何十発も、
顔に、腹に、胸に、殴られ続けた。ヴァルもヘトヘトになって、
エレクもヘトヘトになった時・・・。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。
 い、いき、なり・・・・殴る、ことも・・・あるまい・・・。
 せめて・・・・・予告、だけでも・・・・しろ・・・・・!」

「・・・これで、私と同じだ・・・。
 今の拳が、その予告無しに突然逃げられた、私の痛みだっ!!
 貴様に・・・犬に、私の痛みがわかるかっ!!」

「・・・・・・ふ・・・・・フフッ・・・・・。
 相変わらず・・・女っ気の無い・・・女、だな・・・。
 おまえ、らしいよ・・・」

「・・・今後の逃亡は死罪につながると思え!!
 いくらおまえとて、もう特別扱いなどせん!
 ・・・覚悟しておくんだな、ヴァル・・・!」

「あ、あぁ・・・」

「・・・もう行け!!さっさと作戦の準備をしろ!」

「・・・あぁ」

「・・・・・・・・・。
 ・・・ちょ、ちょっと待て!」

「?・・・・な、何だ・・・・?」

「・・・・そ、その・・・・・・・・あ、あれだ・・・・・。
 シ・・・シン・・・シアとか、言う奴に・・・会ったのだろ。
 ど、どうなった・・・・・?」

「・・・・・・・ここに戻ってきた・・・・・これで、わからないか?」

「っ!!・・・そ、そうか。もう良い、牢屋に戻れヴァル!
 甲冑でも整備していろ」

ヴァルは、悲しそうな顔をして、最後のエレクの問に答える。
エレクに殴られた場所をすすりながら、ヴァルはトボトボと
牢屋へと戻っていく。自分の、帰るべき場所へ。
何か卑屈そうな、悲しみの眼差しで、牢屋の目の前に立っていると。

「兄ちゃぁあーーーーーんっ!!」

「!?レ、レオッ!!」

「もぉ、何処行ってたんだよぉおーー!! 
 オレね、オレね、めちゃくちゃ心細っかったんだよぉ・・・・!」

「・・・・ッフ。素直に心配してくれるのは、おまえだけだよ、レオ。
 さぁ、また牢屋の中にでも入ろうかな」

「あっ!!ほらっ、兄ちゃん、オマケ付き!」

「・・・・・・うぅうーーー・・・・・」

「・・・・ヤ、ヤエ・・・戻って、きたのか・・・・」

牢屋に来て早々、レオに抱きつかれるヴァル。感情を出して、素直に
ヴァルのことを心待ちにしてくれたレオが、ヴァルは愛おしく思った。
それが、救いだった。レオが、ヤエを連れてきていたということは
予想外だったが。ヴァルは牢屋の中に入り、甲冑を布で拭く。

「へへっ。こーいう地味な作業も、3人でやると
 何か楽しいねっ!」

「・・・だからと言って、手は抜くなよレオ。甲冑を
 ちゃんと磨いてくれよ。ほらっ、ヤエもここをもっと丁寧にだな・・・」

「・・・・・いぃいーーーー・・・・・・」

「あぁ、そうだ。よく、磨いて・・・・しっかり、磨いてだな。
 今日の戦闘に・・・・」

ガシャアンッ!!

「うわぁあ!!に、兄ちゃんーっ!
 いきなり甲冑を落とさないでくれよぉ、ビックリするじゃんかぁー」

「す、すまない!!な、何でも無いんだ、何でも・・・・」

「!!・・・・に、兄ちゃん・・・・手、震えてる・・・・」

突然、持っていた甲冑を落としてしまうヴァル。そして、レオは気づく。
ヴァルの手が、小刻みに震えていることを。それを見て、子供ながらに
悟る、ヴァルは、恐怖している。死ぬことに、戦うことに恐怖していることを。

「・・・・ふ・・・・フフッ・・・・・・。
 こ、こんなことなら・・・・ずっと、幻覚を見続けて・・・・
 頭をイカれさせちまった方が、良かったよ・・・・正常な状態が、恨めしいよ・・・・」

「・・・・だ、大丈夫・・・・大丈夫だよね、兄ちゃん!?
 きっと、きっと勝てるよね!?・・・・作戦、凄いの立てたんだろ・・・?」

「・・・・・あぁ、立てた。だが、確率なんてあったもんじゃない。
 つねに、死と隣り合わせ・・・・くそっ・・・・・くそっ・・・・・!!
 恐怖が・・・・・抑えられん・・・・・こ、怖い・・・・・!!」

「・・・・・・に、兄ちゃん・・・・・・」

震えるヴァルをよそに、幼いレオは何もできなかった。今の自分では、
子供の自分ではどういった言葉をかけてやれば良いのか、わかれなかった。
だが、それが正しかった。今のヴァルは、ただ震えるだけ。恐怖に・・・・。

そして、夜が来た・・・・・。

いつものように、ヴァル、いや生贄となる者が広場の中央で
敵をじっと待ち構える。今までは、何とか達人達がその生贄を攻撃
してくれたから作戦がうまくいったようなものの、今回に限って
相手がこっちの誘導に乗らない可能性だって十分あった。傍から、様子を伺うエレク達。

「副隊長、ヴァルの考えだした策・・・・。
 果たして、うまくいくだろうか・・・・」

「・・・・わかりません・・・・ただ、今回の作戦は特殊・・・・。
 全て、奴にかかっています・・・・・奴の潜在能力というものを
 信じるしかありません・・・・・」

「・・・・ヴァル・・・・くそっ、やはり私は何もできんというか。
 結局、最後はヴァルに一人任せか・・・・・・!
 情けない、情けない・・・・・!!」

「・・・・・・だが、信じられることも必要・・・・・・。
 その者に命を賭けられる勇気・・・・・それもまた、作戦成功への一部です、隊長」

「・・・そう言ってもらえると、ただ助かる。
 ヴァル・・・・私は、おまえを信じているぞ・・・・・!」

一人、ヴァルに望みを託すエレク。そのヴァルは、一人、
息を荒げながら、その時を待っていた。来るべき、戦いの時。
命の取り合い。こちらが不利なのは百も承知。だが、戦わなければいけない。
自分を守るため、自分の唯一の場所を守るため。

「・・・・はぁ・・・はぁ・・・・・・・ふぅ・・・・。
 (呼吸を、乱すな・・・・・呼吸の乱れは、筋肉の硬直・・・・。
 感覚を研ぎ澄ませ・・・全ての音に敏感に反応できるように・・・・)」

まさに、秒単位の勝負。ヴァルが敵の一周の移動時間を計算できなければ、
そこで終わり。おそらく、作戦が見破られるか、その間にヴァルが
力尽きるかで、全てが終わるだろう。依然、辺りを静寂が包む。

・・・・・・・・・

「(・・・・・いつ・・・・くる・・・・・?
 もう、どれくらいの時間が経ったんだ・・・・・・?
 ちぃ!・・・・生きた・・・・心地が、しない・・・・・・・)」

・・・・・・・・・ザッ・・・・・

「・・・・・・・へぇ、テメェが翼の甲冑かぁ。
 その構え、正規の兵士と見た・・・!」

「!!?(な、何ぃい!?こいつ、いつのまに・・・・・!!)」

それは、あまりにも突然。突然すぎる、襲撃。不意を突かれたのは、
ヴァルだけではない。回りに隠れて様子をうかがっていた者達全員が、
不意を突かれた。そして、誰もが思った。「速い」と・・・。
エレクは困惑を隠せない。

「なっ!!い、一体、これはぁ・・・・!!?
 ふ、副隊長!!なぜだ、なぜ誰も奴が接近してくるのを気付けなかった!!」

「・・・・み、見ての通りです・・・・・・。
 言えることは、ただ一つ・・・・・速すぎた・・・・・・
 あまりに奴が、速すぎたということだけです・・・・・・・!」

「っく!!こちらは何十人といるんだぞ・・・・・!?
 なのに、誰一人して、奴の存在に気付けなかったのか・・・・!?
 奴の影すら、感じることができなかったというのか・・・・・!」

「た、隊長!!・・・・・奴が・・・・ヴァルに攻撃を開始しています・・・!」

「な、何!!い、いかん・・・・ヴァルも恐らく、急な襲撃に
 困惑しているハズだ!!まずい・・・・こんな状況では、
 奴の一周時間を計算するなど・・・・・・・・!」

焦るエレク、副隊長。そう、「速すぎた」としか言いようがない。
誰の目にも、達人の移動してきた経緯を見つけることができなかった。
そして、襲撃の始め。敵は、ヴァルに攻撃を仕掛ける。小さいナイフを持って、
ヴァルを斬りつける。だが、意外。意外なのは、ヴァル。何と、ここにきて冷静なのだ。

「(焦るな、焦るな、焦るなっ・・・・・・!!
 急な襲撃は、奴の俊足を考えれば当然のこと・・・・!
 問題はこれから先・・・・・!)」

「っけ!!甲冑来て、攻撃を防いだつもりか・・・・?
 甲冑だって、中の肉を攻撃できる隙間なんざぁ、いくらだってあるんだよ!」

スパァアッ!!

「ぐぅう!!・・・・き、斬られた・・・・・!?
 (こいつ・・・本当に、甲冑のわずかな隙間をぬって攻撃してくる!
 い、いかん・・・・時間が、無い・・・・・!!)」

敵は小さいナイフで、あえて攻撃を続ける。それが、誇りという
ものなのだろう。だが、それで十分だった。甲冑の隙間をぬって、
ナイフの刃が次々とヴァルの肉体を切り刻んでいく。
だが、そこに光明が照る。

「ハハハハッハッハ!!どうしたぁ、どうしたぁ!!
 突っ立ってるだけかぁ?翼の甲冑!」

「ちぃい!!(み・・・・見えないっ!!近くにいるならば、尚更っ!!
 いや、目が変に奴の姿を捉えようとしているせいで・・・・・
 残像と本体との区別がつかない!!・・・・・どうする、どうする・・・・!?)」


・・・・・・・カンッ・・・・

「っ!!!(き、聞こえたっ・・・・!!金属音・・・・・!
 奴はやはり、俺の回りを回っている・・・・・・・・!
 焦るな、焦るなっ!!・・・・耳を澄ませ、もう一度・・・・・!!)」

じょじょにボロボロになっていくヴァルの体。甲冑の隙間からは、
ヴァルの血が流れ出ていた。もう、限界。立っているのも限界という
寸前で、ヴァルの耳が、ようやく捉えだす。勝利への道、
生存への可能性を・・・。

・・・・・・カンッ・・・・


「(聞こえるっ!!いや、単発に聞こえては意味はない・・・・!
 2回・・・そう、2回連続・・・・・・・!!
 奴の一周の時間を計算できるぐらいの・・・・・・)」

・・・・・・カンッ・・・

「(き・・・・聞こえた!!今ので、恐らく一周の時間は
 1秒もかかっていない・・・いや、一秒近く・・・・・・!!
 違う、1秒だっ!1秒!!これが、奴の一周の時間・・・・・・!)」

・・・・・カンッ・・・・・・

「(・・・・わかるのは、奴が時計の反対回りだということ!!
 そして、一周の時間が約1秒と分かれば・・・・・!
 俺の真正面が西!!つまり・・・・・・!!)」

・・・・・・カンッ・・・・・

「そろそろ息の根を止めて、スコアの記録更新させてもらうぜ!!
 翼の甲冑ぅう!!」

「(つまり、それは・・・・・・・!!
 金属音がした直後、一瞬!!それが南南西・・・・貴様の、ワンパターンポイント・・・
 知らず知らずの、急所への攻撃のタイミング!!)」

ヴァル、決着の時。すでにヴァルの体も傷つき、朽ちる寸前。
自分の目の前の方角が西。つまり、金属音が西にあると考え、
南南西は西のかなり近く。金属音がした直後、ここが、南南西と考えるべき。
多少のズレはヴァル自身の計算で済ませるしかなかった。そして・・・!

・・・・・・カンッ・・・・

「っ!!そこだぁあああああーーーーーっ!!!」

ガキィイインッ!!

金属音の音共に、剣を南南西に振り上げる。時が、止まる。
景色が、動きを止める。すべてが静寂に包まれる。
そう、何も音はしない。敵の動く音すら・・・・・・。

「・・・・あ・・・あぁあ・・・・・・・・?
 ・・・う、嘘・・・・・だ、だろ・・・・・・・・・」

バタンッ・・・

「・・・はぁ・・・・はぁ、はぁ・・・・・・・・・。
 た、倒、した・・・・・た・・・・倒したぞぉお・・・・・・!!」

ヴァルは、声を張り上げて喜んだ。倒した、そう、あの達人を
倒したのだ。次の瞬間、周りにいた兵達も一斉に歓声を上げる。
だが、このヴァルの喜びにはもう一つ、原因があった。
そう、「倒した」。決して、ヴァルは「殺して」はいなかった・・・。


24 :匿名 :2009/10/18(日) 19:57:27 ID:PmQHQHVk

第二十三話「許されざる死」

ここはアテナの城下町。その町の一つの家で、一人、悲しみに暮れる女性がいた。
女性は手に持った手紙をもったまま、枯れた涙の代わりに、
ため息を何回もつく。何も、考えられなかった、これが、現実なのか、
ヴァルがいたことが夢なのか、わからなかった。

「・・・・・どこに・・・・どこに、行っちゃったの、ヴァルキリー・・・?
 何で・・・・急に、いなくなっちゃったの・・・・・?
 ずっと・・・・ずっと、一緒にいるって・・・・・約束、したのに・・・・!」

ヴァルと約束したことを、嘆くシンシア。だが、シンシアが
いたからこそ、ヴァルがここまで生き残れたのも事実。それには
感謝をしなければならないのだが、再びシンシアとヴァルを引き離したのも、
その生き残れた根本が原因。そのシンシアの様子を、覗く者が一人・・・。

「(ククッ・・・ヴァルの登場は意外だったが、俺はそれを利用できた!
 良い方向へと持ち込めた!・・・・・シンシアは、確実に俺のもの!
 良いエサだったよ、ヴァル・・・・!)」

一人、微笑するロト。ヴァルとシンシアとの再開と別れが、
彼にとって都合の良い展開となったのだ。笑わずにはいられなかった。
果たして、シンシアはどうなってしまうのだろうか・・・・。


一方、エレク率いる反逆軍部では。今、エレクのテントで
幹部達だけの極秘会議が行われていた。集まっているのは、
エレク・副隊長・ヴァル、そして・・・・・レップウ。
そう、昨夜戦った達人。ヴァルが生かしておいた敵だった。

「・・・・・副隊長、今の我々の戦況を説明してくれ。
 ・・・・この・・・・地獄の一歩手前の、状況をな・・・・・」

「御意。・・・・・現在、残っている兵はちょうど40・・・・。
 弓矢は2、3本程度・・・・・食糧もほぼ底をつき・・・・・・
 ・・・・明日の生活もできるかどうか、ギリギリの状態です・・・・・」

「・・・・そうか。なぜ、こんなことになっているのだろうなぁ。
 私はな、不思議でたまらないよ・・・・・何でだ・・・・・・・?
 ・・・・・・・おまえらのせいだよっ!!敵の駒、達人衆のなっ!!」

そう言うと、ヴァルはカッと鋭い眼差しで、敵の達人、
レップウを睨みつける。だが、レップウは動かない、動じない。
淡々とした態度で、エレクに言い返す。

「・・・・・・殺したければ、殺せば良い。
 俺に貴様の愚痴をぶつけるために、生かしているわけでもないだろう・・・?」

「口の聞き方に気をつけろ!!・・・簡単に死ねると思うなよ、
 貴様はここで、ゆっくりと痛めつけてやる・・・・・!
 人間としての、理性を失うまでな・・・・・!!」

「待て、エレクっ!!・・・・・この達人とやらには、聞きたいことが
 山ほどある。まだ殺すわけにも、拷問をするわけにもいかん。
 ・・・・・質問がある、達人・・・・・」

目の前にいる達人を前にして、怒りをあらわにするエレク。当然すぎた、
このレップウによって、最大規模の被害、51人もの犠牲者が出たのだ。
エレクは今にでも彼を殺そうという勢いだった。それを制するのは、ヴァル。
前の戦いで致命傷こそ受けなかったものの、包帯でグルグル巻きの体で、話し始める。

「・・・・・まずは、前々からの疑問だ。
 オマエらは・・・・俺達を利用して、一体何をしている・・・?」

「・・・・・っへ・・・・・勘付かれてたのか。
 反逆軍にも、ちったぁ頭のキレる奴がいるじゃねぇか・・・」

「・・・・気づかない方がおかしいだろう。不自然すぎる。
 ある程度時間が経てば撤退する、そして必ず一人で襲ってくる・・・・。
 おまえら・・・・一体、何をしている・・・・?」

「・・・・・俺は、達人衆の一人だ。決して敵に口は開けねぇ!!
 例え敗北しても、その誇りだけは捨てるわけにはいかねぇんでな・・・・!」

「(・・・・見た目とは違い、やはり達人・・・・相当、口が堅いな)
 ・・・わかったよ、ならおまえの名だけも聞こう」

「・・・・・・レップウ・・・・・」

名前を、素直に答えるレップウ。いや、言い方が悪いであろう。
名前だけしか、答えようとしないレップウ。彼の口を割るには、
相当のことが必要だと、ヴァルはこの時感じた。

「レップウ、か。おい、エレク。しばらくこの男を牢屋で
 預からさせてもらう」

「な、何ぃ!?そいつは今すぐに処刑する!!
 情報を聞き出せぬのなら、こいつにもう用はないっ!
 すぐに5体不満足にして、拷問を・・・・・・」

「焦るなっ!!・・・・まだ、情報が聞き出せないと決まったわけじゃない。
 それに、達人を捕えることなど、もう2度とできんだろう・・・・!
 今は機会だ、焦るな!・・・・時間をかけていけば良い・・・・!」

「・・・・っぐ!!3日だ・・・・3日だけ、時間をやる!!
 それ以上は生かしておくことはゆるさん・・・・・!
 そいつに51人も殺されたんだ・・・・私だって、今すぐにだって殺したいさ!!」

「・・・・わかった、その3日で何としてでも、口を割ってみせる。
 何としてでも、な・・・・」

そう言うと、ヴァルはレップウを連れて牢屋へと向かう。ヴァルはやはり、
レップウを昔の自分と重ねていた。敵に捕らえられ、今ここにいる自分と。
だから、なぜか本能がレップウを助けようとしていた。
牢屋につき、一緒の牢屋へと入るヴァルとレップウ。

「・・・・俺の名は、ヴァル。おまえの名はレップウか。
 中々良い名だな」

「・・・・・・ッケ。俺をカバってくれたのは感謝するが、
 俺は何も言わねーぜ。敵なんかと、話すのも心外だぜっ!!」

「・・・・・だったら、ここで拷問され、
 死んでもいいのか?それが、貴様の生きる誇りなのか・・・・!?」

「そうだっ!!俺の誇りは、達人!!全ての頂点になること!
 俺はいつだって1番だ、1番すら俺だっ!!」

「(な、何だ、こいつ・・・?やけに、自尊心が高い奴だな・・・)
 ともかく、だ。無駄死にしたくないならば・・・・」

「これは無駄死にじゃねぇ!!俺は、戦った!
 戦って、死ぬ!これは名誉だ!・・・・最高の、死に方だ・・・・!
 もうこれ以上、俺に話しかけんな。敵と話すのは、反吐が出る!」

「ッチぃ!!・・・・俺もアテナの兵士だと言うのに・・・・」

「!!?・・・・お、おまえ・・・・・アテナの、兵士、なのか・・・・?」

レップウはやはり、達人。その忠誠心もかなり鍛えられていた。
このままでは、口を割れずに簡単に3日など経ってしまうだろう。
あきらめそうなその時、ヴァルの一言に、レップウが食いつく。
目を輝かせて、ヴァルを見つめる。

「あ、あぁ?・・・・とりあえず、な。
 敵に捕らえられ、今はこんな状態だが・・・・・・」

「・・・・・・きょ・・・・・きょう・・・・・・」

「?・・・・きょ・・・?」

「きょ・・・・・兄弟よぉおーーーーーーっ!!!」

「!!?きょ、兄弟!?」

あまりにも突然の言葉に、ヴァルは驚くしかなかった。
レップウはさっきとは打って変わって、子供のようにヴァルに
うれしそうに抱きつくのだから。

「そうかぁ!!兄弟!おまえも反逆軍と戦い、そしてここに堕ちたのか!
 そして、敵に力を貸しているフリをして、この基地の情報を
 掻き集めてる、ってことだな・・・・!」

「な、何ぃ!?・・・・な、何でそんなこと・・・・」

「隠さなくて良いんだぜ、兄弟!その証拠に、俺を殺さなかった!
 普通はそんなことしねぇ!」

「・・・・い、いや、それはだな・・・・・・」

「兄弟なら別だ!何でも俺に聞けよ、いくらでも答えてやっからな!
 ほらっ、どんどん質問してきな!」

「・・・あ、あぁ。まずはだな、さっきも質問したように、
 なぜ達人達は・・・・」

「あぁ、それな。・・・・俺達よぉ、ゲームしてんだ」

「ゲ、ゲーム・・・・?」

ここで、ヴァルはようやく知ることとなる。自分達が、達人達の
ゲームの駒として扱われていることに。それは、あまりにも残酷。
人の死を、あたかもゲームの駒が倒されるだけのことのように扱う、
人間の考えとは思えない、非道。

「10分以内に、どれだけこの部隊の獲物を殺せるか・・・。
 それをゲームとして争ってたんだ。それで、1番の奴には
 達人の中で・・・・・」

「そ、そんなことで・・・・・そんなことでっ!!!
 そんなことで、俺達はあれほど、地獄をみたのか・・・・・!?
 あれほど、人間を殺せたのか・・・・・・!?」

「お、おいおいっ、兄弟。俺に噛みつくなよ・・・。
 仕方ねぇんだ、この国の王への信用の問題でもあったんだ。
 堪忍してくれよ」

「・・・・そ、そんな言葉で・・・・・・
 そんなことで・・・・・ゆるされる、わけがない・・・・・!!
 っぐ!!・・・・ゆるせ、ない・・・・・ゆるせない・・・・・・!!」

「・・・なぁーよぉ、兄弟。でも、これが戦争じゃないのか・・・?
 上の連中なんて、兵士をそれぐらいしか思っていない。
 じゃなきゃ、人に武器なんて持たせるか・・・・?」

「・・・・わかっている・・・・・わかっているさ・・・・・!!
 だが・・・・くそ・・・・くそぉ・・・・くそっ・・・・・・・・!!
 吐き気が、してくる・・・・・!」

ヴァルは、怒った。あまりにも人の命を粗末に、ゴミ程度にしか
思えない者達の、悪しき心に。ヴァルは、怒りで何も
考えられそうになかった。そんなヴァルを、レップウは
心配そうに見つめるが・・・・。

「・・・・・いぃいーーーー・・・・・」

「うわぁああ!!・・・・な、何だ、この女・・・・・!?
 お、おい、兄弟っ!こいつは何者だぜぇ・・・・?」

「・・・・ヤエ・・・・耳の聞こえない、女だ・・・・・・。
 イタズラするなよ・・・・」

「わぁーってるよ!!へぇ、そうかぁ・・・・。
 耳が聞こえないってか・・・・じゃぁ、このペチャパイー!!
 って言っても、怒らねぇんだな!」

「っ!!・・・・・うぅううーーーー!!」

「いぃ!?・・・きょ、兄弟!嘘は良くないぜ!
 こいつ、絶対聞こえてた!間違いなく、俺を恨んでるぜ!」

「・・・・ヤエは、記憶力がズバ抜けている。俺達の口の動きで
 言葉を理解している。・・・・それに、今回の戦いのオマエの敗因は、
 その女だ。ヤエが、おまえの行動パターンを記憶していた」

「こ、こんな女に俺は負けたってのかよぉ・・・・。
 ッケ、中々やるじゃねぇか、ヤエちゃんよぉ・・・・!」

「・・・・・いぃいいーーー・・・・・!」

「く、くそ、カワイくねぇな、この女・・・・。
 勝ち誇った顔してやがるぜ」

牢屋なのに、いっそう明るくなるばかりのヴァル達。レップウは
ヤエをからかって楽しんでいるが、やはりヴァルはゆるせなかった。
自分達の命をゲームに置き換える者達のことが。
場所は変わり、エレクのテント内。副隊長と二人で、何かを話しているようだ。

「・・・・隊長・・・・・・本当に、あの作戦を実行するのですか・・・?」

「・・・・・あぁ。もう守ってばかりではダメだ。
 それに、この場所からも移動せねばならん・・・・。
 ならば、今がチャンスだ・・・・・!」

「・・・・・・了解、しました・・・・・・」

「・・・・良し、ヴァルを連れてこい・・・・・・・。
 アテナ城下町の襲撃作戦を、決行する・・・・・・・!!」


25 :匿名 :2009/11/01(日) 22:09:59 ID:ommLueui

第二十四話「人間を探して」

「な、何だとぉ・・・・・!!」

ヴァルは、声を上げた。そして、驚き、怒り、混乱した。場所は、
エレクのテントの中。エレクに呼ばれたヴァルは、次の作戦について
聞かされたところだった。そう、「アテナ城下町襲撃作戦」について。
エレクを殺す勢いで、ヴァルはエレクに食らいつく。

「どういうことだっ!!なぜ、関係の無い町を襲う・・・・!?
 戦は、戦っている者同士がやっていれば良いことだろう!」

「そんな言い訳、偽善、偽善者の言い分だっ!!
 黙っておまえは私の命令に従え、ヴァルっ!」

「っぐ!!・・・・・どいつも、こいつも・・・・・!!
 なぜ、人の命を・・・・そう、簡単に・・・・・・!」

「・・・・・なぁ、ヴァル、聞いてくれ。
 別に、町を襲撃して住民を皆殺しにするなんてことはしない。
 ただ少し、財貨・食糧を奪うだけだ。おまえの体が良くなり次第決行する、良いだろう?」

「・・・・その財貨で・・・・その食糧を奪って、死ねる人間だっている!!
 この戦争下だぞ!?どこの町も貧困に喘いでいるに決まっているだろう!
 なのに、それを俺達が武力で制するだと・・・・!?」

「・・・・ッチ、おまえの心配はそんな奴らのタメじゃないだろう!!
 貴様の恋人を案じて反論しているだけだろう!違うか、ヴァル!」

「!!・・・・・そ、それは・・・・・・」

エレクの言ったことは、図星だった。確かに、ヴァルはそんな
人の身勝手さに飽きれはてて怒ったのも当然、あるだろう。
しかし、やはり心配事は一つ。城下町に一人暮らしをしているシンシアのことだった。
ヴァルは、黙りこんでしまう。

「・・・・・作戦を説明する。生き残っている40人の兵士の中の
 25人で町を襲撃する。作戦成功の要は・・・・速さだ!
 迅速に襲撃し、金品・食糧を奪取する・・・!」

「・・・・・・ッチ・・・・およそ、どれくらいなんだ?
 その襲撃時間は・・・・」

「・・・目安は、5分。5分の間に、襲撃から奪取、そして
 逃亡をこなす。これが大まかな作戦内容だが・・・・・
 おまえを呼んだ理由はもう一つある」

「?・・・・何だ・・・・・」

「おまえはその城下町に住んでいたのだろ?
 ならば、城下町の店などの配置について詳しく説明してもらおう。
 何も無い民家を襲っても、一文無しだからな・・・・」

「・・・・っぐ・・・・・くそぉ、くそぉお・・・・・・!!
 おまえは・・・・そこまでして、生きたいか・・・・・・
 どうなんだ・・・・・答えろ、エレク・・・・・!」

「・・・・あぁ、生きたい・・・・・生きいよ、ヴァル!!
 これは、戦争だ!!もう、我々は死の一歩手前!
 食糧は底をつき、兵士の体力も精神も、限界だ!・・・・ここしかない!
 犠牲にしてこそ、人間は生きられる・・・・!」

エレクの言い分は、戦争を前提にすれば正しいことだろう。
だが、それでもヴァルはその言葉に頭をうなずくことはできなかった。
ヴァルとてアテナの一般兵だった。だが、戦争をこうまで
直視しては、反論せずにはいられなかった。

「・・・・襲撃に成功すれば、まだ生きる希望に繋がる・・・!
 ここから移動するための財力だって蓄えられる・・・・!
 私は、何も間違っていない・・・・間違ってなどいない!!」

「・・・・・・・エレク・・・・・・」

「何だっ・・・・・!!」

「・・・・・俺に・・・・・孤独だった俺に・・・・
 おにぎりを渡してくれたオマエは・・・・・何処に行った・・・・?」

「っ!!!・・・・だ、黙れ・・・・黙れ、黙れよぉお!!
 犬が吠えるな、噛みつくな!!貴様は犬だろ!?
 主人に従っていろ!」

「・・・・・・・人間が・・・・消えて、いくか・・・・・。
 わかった。店の配置についておしえよう・・・」

ヴァルは、悲しそうな顔をしながら、説明する。エレクは、
間違っていない。隊長としてなら。達人の襲撃で、兵士達の精神は
限界。それに加え、食糧もほとんど無くなる。この最悪の状態を
抜け出すには、同じ人間を犠牲にするしかなかった。そのころ、牢屋では。

「それでなぁ、俺がマリアちゃんに告白したらよぉ・・・
 何て言われたと思うよ?」

「・・・・・うぅうーーーー・・・・」

「そうなんだよぉ、”ふざけないで、アナタなんて嫌い!”
 だってよぉ!!俺の儚い少年時代だったぜ」

「・・・・いぃいーーー・・・・」

「な、慰めてくれてんのか、ヤエちゃん?
 ペチャパイは好のみじゃねぇが、うれしいぜ・・・」

「・・・・うぅうーーーーっ!!」

「じょ、冗談だって、冗談!!ヤエちゃんにはぁ、
 冗談通じねぇぜ」

ギィイイ・・・・

「ん?おぉ、兄弟!!帰ってきた・・・・
 って、・・・・お、おまえ・・・・誰だ・・・・・?」

「こ、こっちの台詞だよ!!お、おまえ、誰だ!
 兄ちゃんを何処にやった!」

ヤエと和気藹々と雑談をしているレップウ。すでに低の低の劣悪環境にいる
彼らは、今のこの状況がどれほど酷いか、分かっていなかった。
そんな時、誰かが牢屋に入ってくる。それはレオだった。
お互い、戸惑う二人。

「に、兄ちゃん!?あいつの弟か・・・・・?
 ってか、んなことより何でこんな所にガキが・・・・」

「おい、おまえっ!!兄ちゃんを何処にやったんだよぉー!」

「あいつは、おっかねぇオッサンに連れてかれちまったよ。
 あとちょっとで、帰ってくると思うぜ」

「じゃ、じゃぁ、オマエは一体誰だ!」

「・・・自己紹介は、子供から言うもんだぜ?」

「え、えぇ!?そうなの・・・・?
 じゃ、じゃぁ、オレから。オレはレオ!この部隊の隊長の弟!」

「(こ、このガキ、おもしれぇ・・・・)
 へぇ、レオか。俺はレップウ。そうだな・・・ヴァルと
 同じ目的を持った仲って所かな」

「っ!!そ、そうなんだ!!
 じゃぁ、レップウも良い奴なんだねぇー!」

「よ、呼び捨てかよ・・・」

自己紹介をしあう二人。お互い、少し勘違いをしている部分があるが、
とりあえずそれがうまい具合に平衡を保っていた。
レオは、レップウをヴァルの知り合いだと思いこむと、
急にレップウに心を開く。

「じゃぁ、レップウも兄ちゃんみたいに戦ってくれるの?
 オレ達を守るためにさ!」

「う、うーむ。こー見えても俺はよぉ、世界で一番強いんだ。
 だから、滅多なことじゃ戦えねぇんだ。
 ほらっ、言うだろ?大いなる力には、大いなる責任が・・・・何たらかんたらって」

「?よくわかんないけど、レップウは役立たずってことだよね!」

「う!!こ、このガキ、俺の実力を知らねぇな・・・」

「へへっ。でも、話相手がふえ、て・・・・・・」

ガクッ

「!?、お、おい、レオ!!どうした・・・・!?」

話をしている最中、いきなり体をよろけるレオ。レオが倒れる
寸前で、レップウがレオを抱き抱える。レオは目をうつろげにして、
抱えられているレップウの目を見る。

「ご、ごめん・・・ちょっと、疲れちゃった、だけ・・・・」

「(違う!!ちょっとの問題じゃねぇ・・・!
 何だ?・・・・何で、レオはいきなり・・・・!!)」

「は、ははっ・・・・・また、寝よう、かな・・・・・」

「っ!!・・・・・・・・・・レオ・・・・。
 おまえ・・・・いつ、飯食った・・・・・?」

「え、えぇ・・・・・?き、昨日、かな・・・・・。
 わ、忘れ、ちゃった・・・・」

「・・・・・っく!!失敬するぞ、レオ!!」

「っ!!?、レ、レップウ、何・・・!!」

バサッ!!

その尋常ではない様子のレオを見て、レップウはある一つの答えに
たどり着こうとしていた。レップウは、レオのきている服を
無理やり脱がす。すると、そこに見えたのは、あまりにも
過酷すぎる現実だった。

「な・・・・何だ、この、体・・・・・・・。
 こんな・・・こんなの、人間じゃ・・・・・!!」

「み、見ないでよ、レップウ・・・・恥ずかしいじゃん・・・・」

「う、うぅ・・・・・っく・・・うぅう・・・・!!
 どうなっているんだ・・・・ここは一体、どうなっているんだ!!
 おまえ、なぜ飯を食わねぇ!?飯を食わねぇと、大っきくなれねぇんだぜ!?」

「・・・・・だ、だから・・・・・昨日・・・・・
 木の実を・・・・・た、食べたって・・・・・」

「っ!!・・・・く、くそぉ・・・・何だよ、これ・・・・。
 ちっきしょう・・・・・ちっきしょぉおおーーーーーーっ!!!
 俺は、何が一番だ・・・・強くなって、なんになるってんだぁああ!!」

「レ、レップウ・・・・?」

「達人が何だってんだ!!達人になったって、強くなったって、
 こんな幼いガキも救えねぇ・・・・・・!!
 虚しい・・・・・惨め・・・・・惨め過ぎる・・・・・!!」

レップウは、頭を抱えてうずくまる。レオの痩せ細った体を見て、
今までの自分を思い返す。強さだけを求めて、何を得たかを考えようとしない自分を。
そして、今ここには、こんな小さな体で必死に戦っている者がいることを。
現実を見たレップウ。そのころ、ヴァルは・・・。

「・・・良し。大方、作戦の段取りが組み立てられたな。
 作戦決行は明日だ。副隊長、もう行っていいぞ」

「・・・・・御意・・・・」

「・・・・ヴァル、おまえはちょっとここに残れ」

「?」

エレクは、ヴァルにここに残るように命令し、副隊長だけを
帰した。二人きりとなる、ヴァルとエレク。ヴァルは、やるせなかった。
自分の生まれた町を売っているようで、やりきれなかった。

「・・・・おまえ、私が嫌になったか?」

「・・・?・・・・・嫌だから、どうなる?
 おまえを嫌えば、町の襲撃を止めさせられるのか・・・?」

「・・・・・・なぜ、おまえは私にそう歯向かう・・・!!
 おまえの命を救ったのは私だ!!おまえを擁護するのも、私だ!!
 おまえを見ているのだって・・・・・!」

「・・・・・感謝、しているさ・・・・・。
 だから、だからこそ!そんな恩人が、戦争なんていう
 クズにのまれていくのを見たら、カッとなっちまうんだ・・・!!」

「・・・・・・・ヴァル・・・・ヴァル・・・・・!!
 たのむ・・・・私を・・・私を、人間として救ってくれ・・・!
 つらい、つらいよ・・・・・おまえにまで見捨てられた私は、もう、人形だよ・・・」

「・・・・・・わかっている、俺だっておまえを救いたい。
 ・・・・救って、やりたいさ・・・・・・・」


26 :匿名 :2009/11/08(日) 23:10:41 ID:PmQHQHr7

第二十五話「輝かしき獄中の月」

「レップウが・・・帰ってこないな。どうやら奴も、
 口先だけの男だったらしい」

ここは、アテナ本城の一室。達人衆が集う部屋。だが、彼らにはもう
余裕や慢心は無かった。これで、達人が殺されたのは計3人。
ゲームをやっているつもりが、逆に、自分達も殺されているという
洒落にならない状況。そんな中、一人の老人が、立ち上がる。

「ホッホッホ・・・。まぁ、そうカッカするでない。
 もう奴らの戦力もだいぶ減っている・・・・潰す時は、今じゃよ」

「・・・・リュウセイ。貴方が行ってくれるのか?」

「・・・・・良い所取りをして悪いが、そうさせてもらおう。
 もはや、口だけの若い奴らに任せておれんのでな」

「・・・・貴方で終わらせることを、願う。
 本当に、な・・・・」

達人の代表者は、部屋を出ていくリュウセイという名の老人を見つめる。
もう、自分達とて後がないこと悟っていた。これ以上失態を犯せば、
王の信頼も皆無に等しくなる。もう、ここで決めるしかない。
ゲームを成し遂げようとする彼らの誇りが、また、彼らを苦しめていた。


そのころ、エレクの反逆部隊では。浮かない顔をしたヴァルが、
牢屋へと戻ってこようとしていた。ヴァルが牢屋に戻ってくると、
そこには、顔を歪ませて、何かをひたすらに堪えているレップウの
姿があった。

「?・・・・どうした、レップウ?そんな顔をして」

「きょ、兄弟!!・・・・・なぁ・・・・兄弟・・・・。
 こりゃぁ一体、どういうことだよ!?何で、ガキがこんな所にいる!?
 何で、ガキがあんなに・・・・痩せ細って・・・・・・!!」

「っ!!・・・・レ、レオが・・・・どうしたんだ・・・・?
 体が痩せ細っている!?どういうことだ、詳しく説明しろっ!!」

「あのレオってガキ、完全に栄養失調だ!!
 死ぬ・・・・死んじまうよ、あんな小さい体じゃ・・・・!」

「レ、レオが・・・・・そんな・・・・・・!!」

ヴァルは驚くしかなかった。ヴァルとて、レオが栄養失調だと
言うこと、痩せ細っていることなど、初めて知ったのだから。
くやしそうに、悲しそうに語るレップウの表情に、ヴァルもまた
本気になった。

「いくら兄弟でもゆるせねぇ!!確かに、ガキは敵の仲間さ!
 けど、けどよぉ・・・・・また、子供なんだぜ・・・・・!?
 何でそれを知ってて、助けようとしねぇ!!」

「俺だって同じ意見だ!!だが・・・・だが、この状況でどうしろという!?
 達人という特別地位にいたおまえに、何がわかる!?」

「うるせぇ・・・うるせぇよ!!
 俺は、俺はレオにミルクを飲ませてやるんだ!!
 約束・・・・約束した!戦争終わったら、ミルクをいっぱい飲ましてやるって!!」

「俺だって、戦争が終わる前からレオを救ってやるつもりだ!!
 だからいつも飯の半分はレオにやっている!!」

「お、俺だって、今日からレオに半分やってやるつもりだぜ!!」

「俺は今後もそのつもりだ!!例え、戦争が終わったとしても、
 レオが大人になるまで面倒を見る!」

「俺なんか、レオがジジババになるまで面倒みちまうぜ!!」

「っく!!お、俺は・・・・・・・・・・・?・・・・・。
 フフッ・・・・・ハハッ・・・・ハハハハッハッハッハ!!」

「?」

ヴァルとレップウのどなり声が、牢屋の中に響く。だが、そのうち、
ヴァルは突然笑い出す、腹を抱えて。そんなヴァルの様子を、
レップウは不思議そうに見る。

「な、何でいきなり笑いだすんだよ、兄弟!!」

「ハハッ・・・・・俺達、言い争いに、なってない・・・・。
 結局、どちらも同じ目的だ・・・・それを叫び合っているだけ・・・
 バカみたいだな」

「・・・・へ?・・・・へへっ・・・・ハーハッハッハッハッハ!!!
 そりゃぁ、傑作だぜ!!そうかぁ、そうだよなぁ!!
 俺達の目的は一つ!レオを助けること、大人にさせることだよな!」

「あぁ。・・・驚いたよ、正直。達人の中にも、
 こんなに人を想える奴がいるなんて・・・・・・」

「・・・へへっ、そりゃぁないぜ兄弟!俺は、何だって頂点さ!
 俺はいつだって一番、一番すら俺だぜ!」

「・・・・ッフ・・・・おかしな、奴だな・・・・」

ヴァルは気づいた。結局、二人の考えることは同じだということに。
確かに、それまでの考え方の過程は違う。生き方は違う。すべてが
異なっている二人だが、今ここで、同じ目的を持っている。
それが不思議で、可笑しくて、うれしくてたまらなかった。

「・・・なぁーよぉ、兄弟。レオにいっぱい食い物食べさせた後は
 どうすんよ?」

「?・・・戦争が、終わった後の話か?・・・・・。
 そうだな。ゆっくり寝て、職業でも探しに・・・・」

「お、おいおい!!そりゃぁねぇぜ兄弟!!
 もっと騒ごうぜ!そうだっ、俺の馴染みの飲食店があんだよ!
 そこの娘さんがまたカワイくてよぉ!」

「・・・その娘さんに告白するために、
 俺に協力してもらいと・・・?」

「バッ!!!・・・・・・・・・その通りです。
 さっすが、兄弟!わかってるねぇ。そうだ!それからアレもしようぜ!
 ボート乗り!」

「ボート乗り?海を渡るための小型の船か?
 俺は、その扱い方をしらん」

「俺がおしえてやるぜ、兄弟!!・・・・って、俺も知らねぇや。
 ッハッハッハッハ!!二人でズブ濡れにでもなろうぜ、兄弟ぃ!!」

二人は、くだらない話を永遠と続けた。なぜか、息があった。
まったく、まったく違いすぎる二人なのに、目的が同じとなると、
すべてが噛み合ったかのように、すぐに友情が芽生えた。
そのうち、ヴァルは暗い表情をする。

「それでよぉ、町一番美人のシンディちゃんが何て言ったと思う?
 それがよぉ・・・・・!!」

「・・・・・なぁ、レップウ・・・・」

「ん?どうした、兄弟」

「・・・・・俺達・・・・・何で、戦争以外で出会えなかったんだろうな・・・・」

「っ!!!・・・・・・そ、それは・・・・・」

その突然のヴァルの言葉に、レップウは言葉を詰まらせる。
何と言っていいかわからない、何と返せばいいかわからない。
どの言葉を選んでも、帰ってくるのは「皮肉」だとわかっていたから。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

二人は、沈黙した。そして残酷な運命を呪った。戦争など無ければ、
もしかしたら二人は普通の若者として町で出会っていたのかもしれない。
だが、今は戦争下。今すぐにもでも死ねる。そんな、悪夢とも言える
中で二人は、出会った。望まない、未来の中で・・・。すると、レップウの口が先に開く。

「・・・・・・・喧嘩、しようぜ」

「?・・・・・なぜだ・・・・?」

「・・・・・・・聞くなよ・・・・・。
 俺から、殴るぜ・・・・・・?」

「・・・・・・・・・。・・・・・・あぁ・・・。
 あまり、本気を出すなよ」

「・・・・・あぁ・・・・・わかってるぜ、兄弟」

レップウは、ヴァルに殴りかかる。ヴァルもまた、レップウに殴りかかる。
二人は、縮めようとしていた、抗おうとしていた。こんな腐った時代に
生まれてきた、自分達の友情を。二人は、殴り続けた。
それが終わったのは、1時間後。ぐったりした様子で、二人は寝そべる。

「・・・・・・・なぁ、兄弟・・・・・・・。
 ・・・・あれ、嘘なんだろ・・・・・・・・・」

「・・・・?・・・」

「・・・・・アテナのスパイって奴・・・・・・。
 兄弟・・・・・おまえは、何者なんだ・・・・・・?」

「・・・・・・そう、だな・・・・・・。
 戦乙女・・・・・」

「?・・・・せ、戦乙女・・・・?」

「・・・・・あぁ、戦乙女・・・・・ヴァルキリー・・・・。
 戦いに奇跡をもたらす者・・・・・・らしいな・・・」

「・・・・へ、へへっ・・・・・そりゃぁ、いいぜ・・・・・。
 兄弟・・・・・今日は月が綺麗だなぁ・・・・・」

「・・・・・牢屋からじゃ、月は見えないがな」

「・・・・おいおい、兄弟。たのむぜ・・・・・」

二人は、クスっと笑い合う。これが、彼らの誓い合い。
自分の名をあかすヴァル。果たして、レップウがその意味を
わかっているかどうか不明だが。腫れた頬をすすりながら、
二人は、いつまでも見えない空を見上げた。

そして、時は来る・・・・・。

翌日 午後11時30分 場所:アテナ城下町森林

今、エレク率いる25人の反逆部隊の兵士は、アテナ城下町の
森林に身を潜めていた。全ては、略奪作戦のために。
その中には当然、ヴァルの姿もあった。もしものために、
ヴァルは殿で戦闘を行うため、甲冑を身にまとっていた。

「・・・よし、いいか聞け。副隊長率いる班は向かって左に散開。
 サイン率いる班は向かって右に散開。私の班はそのまま突っ込む。
 説明した通りの店だけ襲え。後は時間のロスになる」

「・・・・・隊長・・・・・・。
 あの捕えた達人、始末しなくて良かったのですか・・・・?」

「・・・案ずるな、副隊長。もう奴は動けんよ。
 それに、ヴァルが色々と面倒なことをしてくれたようだからな」

「・・・・・・・・」

「・・・・話を戻すぞ。いいか、無用な攻撃は一切認めん。
 相手が反撃した時のみ、攻撃をしろ」

「と、とは言っても隊長ぉ。俺達の武器って、
 この太い木の棒ですぜぇ?ほ、本当にうまくいくんですか?」

「黙れ、サイン!・・・民間人程度ならば、どうにかなる!
 こちらはもう、武器は底をついている。我慢だ、我慢しろ・・・!」

「・・・・・隊長、そろそろ・・・・・・」

「あぁ。・・・・よし、準備はいいな?おまえら。
 襲撃作戦を、決行するぞ・・・・!」


27 :匿名 :2009/11/23(月) 00:14:37 ID:m3knVHuDPD

第二十六話「過去、未来を刺す」

「・・・・まだ、迷いがあるようだな・・・・」

「?・・・ふ、副隊長」

作戦待機中、皆、息をひそめて作戦決行を待つ中、密かに副隊長が
ヴァルに話しかける。副隊長にはやはり、わかっていた。
ヴァルの迷いが。当然、当たり前すぎる。今、襲うべき場所に
恋人がいるのだから。永遠に、一緒になれないとわかった恋人が。

「・・・・・・ち、違う。俺が不安なのは、
 作戦の内容だ。第一、わざと大声を出して襲撃しなくても良いハズだ」

「・・・気づかれる襲撃と・・・・静寂の襲撃とでは、まったく異なる。
 前者は、恐怖の連鎖・・・声が近づけば、誰でも困惑する。
 だが、後者は静寂な分、わずかな冷静の判断を生み出させる・・・」

「・・・・・・それに、なぜエレクにだけ弓を持たせる?
 俺と副隊長以外は、皆、そこらの木の棒なのに・・・・・」

「・・・・仕方ないだろう・・・・
 まともに使える武器はほぼ皆無、ゴミでも利用するしかあるまい」

ヴァルは疑問に思っていた。襲撃を掛ける際、大声を出しながら
町を襲うという作戦に。動と寂。それが人の心理に溶け込む要素を、
エレクは理解していた、だからこそ、わざわざ気づかれるよう、
恐怖させるよう、困惑させるよう、そうした。

「・・・・・・・問題は、それだけか・・・・・?」

「・・・・・・・・くそ・・・・・・くそぉ・・・・・!!
 俺は、襲えない!!長年育った故郷に、剣を向けるなど、できない!!
 よもや、シンシアが生ける町を襲撃するなど・・・・!」

「・・・・・・俺達が生きることと・・・・・
 故郷が存在すること・・・・・どちらが大事だ・・・・・?」

「っ!!・・・・っぐ、だ、だがぁ・・・・・・!!
 ・・・・副隊長・・・・俺は・・・どうすれば良い・・・?
 町を・・・シンシアを・・・俺は一体、どうすれば良いんだ・・・!?」

「・・・・・気づけ、おまえの自身の心に・・・・・。
 そして、自身で奪え・・・おまえの、未来を・・・・・・。
 おまえが望むのであれば、その恋しき者も望むこと・・・そうじゃないのか?」

「・・・・・・・副・・・・隊長・・・・・・!」

ヴァルは、苦しみ、悩む。シンシアが望むことは、自分が望むこと。
後は、それを信じられるかどうかの問題。ヴァルの迷いが晴れぬまま、
時、満ちる。エレクは、空に浮かぶ、満月を見上げる。
そして、決意を固める。

「よし・・・・・・時は、熟した・・・・・・・!!
 これより、アテナ城下町襲撃作戦を行う!!
 皆の者ぉ、準備はいいかぁ!!?」

「おぉおおーーーーーっ!!!」

エレクが、声を張り上げる。もう、息をひそめる必要など無い。
これより5分の間、彼らは城下町を一時的に支配するのだから。
計25人の生き残った反逆軍兵士達が、一斉に立ちあがる。
そして、ついに・・・・。

「作戦は変わらず、己に言われたことを忠実に実行しろっ!!
 ゆくぞ・・・・・・全員、突撃ぃいいいーーーーーーっ!!!!」

「うぉおおおおおおーーーーーっ!!!!」

そして、今宵、アテナ城下町は5分間の地獄を垣間見ることとなった。
エレク率いる反逆部隊が、一斉にアテナ城下町に攻め込む。
その騒ぎ声は、寝静まっていたアテナ城下町を、一斉に叩き起こした。
そして、次の瞬間、聞こえてきたのは、まぎれもなく悲鳴。

バリィイイイイインッ!!

「キャ、キャァアアアーーーーーーーーーッ!!」

「うわぁああああ!!た、助けてくれぇええええ!!」

「は、反逆軍の連中だぁああ!!」

「お母さぁああーーーーーんっ!!」

交差する、悲鳴。そして、悲鳴が恐怖を、連動させる。城下町の
町民全員が凍りつく、恐怖という名の下に。そこは、建物を破壊する音、
ガラスが割れる音、人の悲鳴、全てが入り混じった、地獄の混合曲。

「うぉおおおおおおお!!
 邪魔だ、邪魔だぁ、どきやがれぇええーーーー!!」

「へ、へへへっ!!た、食べ物だぁ・・・・・!!
 こ、こんなにたんまりとありがやがる・・・・・・!」

「お、おい!!こっちには宝石もあるぜ!!
 こんな田舎町にゃぁ、もったいねぇぜ!」

食糧を、金品を、財貨を、ただ欲望のまま武力で強奪する反逆軍。
その様子を、ヴァルは何もできずに、ただ情けなく立ちつくしていた。
これが、現実。生きるために誰かを犠牲にする。この強奪により、
明日、生きることがきでぬ者がいるだろう。そう思うと、ヴァルは余計、滑稽だった。

「・・・・これが・・・・・これが、戦争なのか・・・・・?
 大人が、子供の命を奪い・・・・・・
 戦いもしない者の養分を奪い取るのが・・・・戦争なのか・・・!?
 こんなの・・・・・・・こんなのっ・・・・・・・・!!」

ヴァルはしだいに、涙を流した。あまりの情けなさ、ふがいなさに。
本当に正しいことを知っていながら、それを行えない自分に、
この世の中に、ヴァルはただ泣くしかなかった。
そのころ、シンシアはと言うと・・・・。

バリィイイイイイインッ!!

「キャァアアッ!!・・・・ど、どうしたの・・・・!?
 い、一体、何が起こってるの・・・・・・!?」

シンシアは家に一人、隠れていた。だが、やはり目覚めてしまう、この悪夢に。
悲鳴という目覚ましによって。窓から外の様子を伺う。
そこには何者かの手により、荒らされていく町の様子がうつっていた。
震える体を抑えるシンシア。

「ど、どうしよう、どうしよう、どうしよう・・・・・・!!
 助けて・・・・・助けて・・・・・ヴァルキリー・・・・・・・!!」

ガチッ・・・・ガチッ・・・・・

「(な、何?この、音・・・・・・・・。
 変な、金属音みたいな・・・・・違う、この音・・・甲冑・・・・・!
 甲冑の装備を着て、歩いている足音・・・・!)」

シンシア、気づく。何か、おかしな音がすることに。この非常事態に
その異様な音に気づけたシンシア。そして、その音のする方向を
味方のアテナ兵だと信じ、ゆっくりと目で追う。そこにいたのは・・・・・。

「っ!!!・・・・あ、あの・・・・・あの甲冑・・・・・・!!
 あ・・・・あぁあ・・・・・・ヴァ・・・・ヴァルッ・・・・・・・!!」

シンシアは、動いていた。いいかけた言葉も置き去りにして、
体は、外へ。甲冑の足音がする場所へと。作戦自体は、まさに
大成功とも言えるほどの順調振り。残り時間、2分半で、
ほとんどの作業が終わっていた。そのころ、ヴァルはやはり、たじろいでいるしかなかった。

「くそ・・・・くそ、くそぉっ・・・・・・・!!
 ここで・・・・・この場で俺の町を荒らしている奴を斬れぬ俺が、不甲斐ない・・・・!!
 なぜ・・・なぜ、こんな者達のために・・・・俺は・・・・・!」

・・・タッタッタ・・・・・・

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・。
 ヴァ・・・・・ヴぁる・・・きりぃい・・・・・・・・・
 ヴァ・・・・・・ば・・・・・・ヴぁるきりぃいいいーーーーっ!!!」

「っ!!!・・・・・シ・・・・・シン・・・シア・・・・・?」

そして、運命はまた、この二人を巡り合わせる。シンシアは外に飛び出し、
ヴァルの元へ、動いていた。甲冑で顔を隠しているものの、シンシアは
それがヴァルだとハッキリとわかった。驚いて、動けないヴァル。

「ヴァルキリー・・・・・ヴァルキリーでしょ!?
 何で・・・何で急にいなくなっちゃったの!?
 な、何で・・・・・何で、こんなことするの・・・・・・!?」

「っ!!!・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・ち、違う・・・・そうじゃない・・・・・・!!
 私が言いたいのは・・・・・・こんな、ことじゃない・・・・・!
 ヴァルキリー・・・・好き、愛してるの・・・・・離れるのは、もう嫌だよっ!!」

「っ!!!」

「おねがいヴァルキリーっ!!私、別に反逆軍にいても構わない!
 だから・・・・・だから、もう・・・・・私を一人にしないで!!
 私を・・・・・一人ぼっちに・・・・しないで・・・・・!!」

「・・・・シ・・・・シン・・・・シ・・・あぁあ・・・・・・!!」

ヴァルは、最初、何も言えなかった。自分を隠したかったのだろう。
だが、シンシアの本音を聞いて、ヴァルは顔はもうクシャクシャになった。
自分が望むこと、それは、愛する者も望むこと。顔を涙でいっぱいにして、
ヴァルは、ゆっくりと甲冑のヘルメットを脱ぐ。

 ・・・・・気づけ、おまえの自身の心に・・・・・・・。
 そして、自身で奪え・・・・・おまえの、未来を・・・・・・

「そ・・・・そうだ・・・・・・俺は・・・・・俺は・・・・・
 おまえ、しか・・・・・おまえ、しかぁあ・・・・・・!!」

 ・・・・おまえが望むのであれば・・・・・
   またその恋しき者も望むこと・・・・そうじゃないのか?

「シ・・・シンシア・・・・・シンシアぁああああーーーーっ!!!
 俺は、俺はここだぁあ!!俺はここにいるぞおぉーーー!!」

「ヴァ・・・ヴぁるきりぃ・・・・・ヴァルキリィイイーーーーーッ!!!」

「(もう、離れたくない!!おまえと、離れてなどたまるか!!
 神に背きようと、俺は、シンシアを奪う!!
 例え、そこが地獄の底だろうと・・・・俺は、シンシアしかいないっ!!)」

ヴァルは、気づいた。自分に必要なもの、自分が生きるために
必要な者、そしてシンシアに必要な者。それは、お互いがただ
一緒にいること、ただそれだけ。シンシアは、ヴァルの元に駆け寄る。
そのとき、何も知らないエレクはと言うと・・・。

「良しっ!!時間も余るくらいだっ!
 作戦は、大成功だっ!!後は、ヴァルの奴を・・・・・・。
 ヴァ・・・ヴァル?・・・・どうしたんだ、あいつ・・・・・?」

エレクは、ヴァルを見る。すると、そこにはただ無防備に
ヘルメットを取って、棒立ち状態のヴァルがいた。
エレクには、何が起こっているのか、まるで分らない。
その間に、ヴァルはようやく辿り着いた幸せを、今かと、待ちかまえていた。

「ヴァ・・・・ヴぁるきりぃいいいーーーーーー!!」

「シ・・・シンシアぁあああーーーーーー!!
 (これで・・・・・・これでやっと、俺は・・・・・・!!
 シンシア・・・・おまえと・・・・おまえと・・・・・・・・!!)」

・・・・ザッ・・・・・

「な、何をしているんだ、ヴァルは・・・・・?
 ?・・・・・あ、あれはっ!!な、何者が、ヴァルに接近している!!
 いかん、奴は無防備だっ!!私が援護しなければ・・・・・!」

エレクが遠くから見れば、そうとしか見えなかった。ゆっくりと、
弓矢を構えるエレク。そんな危機迫るエレクと対照に、
あとちょっと、あともう少しで、シンシアを抱ける。
そのわずかな位置で、ヴァルは・・・・・・。

「(シンシア・・・・・俺は、もう・・・・・・
 おまえを絶対に・・・・・・離さない・・・・・・・・!!)」

ガサッ!!

「ヴァルゥーーッ!!伏せろぉおおーーーーーーーっ!!」

「!!?エ、エレ・・・・・・!」

パシュッ・・・・・!!

エレクには、見えなかった。そして、ヴァルにも何が起きているのか、
まるで分らなかった。エレクの放った弓は、綺麗に、的を射た。
そう、ヴァルに接近してくる者を、正確に。
崩れ落ちていく、シンシア。

・・・グザッ・・・・

「うぅっ!!・・・・あ・・・・あっ・・・・っぐ・・・・・うっ・・・
 ヴぁ・・・・ヴぁる・・・・き・・・・き・・・り・・・い・・・・・・」

「あ・・・・・あ・・・・あぁ・・・・・あ・・・・・・?
 シ、シン・・・・・・・・シア・・・・・・・・・?
 シ・・・・・・シンシアぁあああああーーーーーーーーっ!!!!」


28 :匿名 :2009/12/13(日) 14:17:27 ID:m3knVFVDVD

第二十七話「眩い闇」

「はぁ、・・・・はぁ、はぁ・・・・・・」

一人、暗闇の森の中を歩いているのは、レップウだった。
丁度、ヴァル達が城下町を襲撃し始めた所、その時、レップウはなぜか
森をさ迷っていた。ヴァルに斬り付けられ、今だに回復していない
胸の傷を抑え、ひたすら、歩く。

「(くそ・・・・くそっ・・・・・。
 逃げねぇ。俺は逃げたりなんか、しねぇぜ。
 誰が、誰が逃げるもんかってんだぜ・・・!)」

レップウは、何か悩んでいる顔をして、よろよろと歩く。
なぜ、レップウが一人でいるのか?なぜ、牢屋を脱獄できたのか?
それは、ほんの数十分前の出来事。そう、ヴァルを含んだ
25人の反逆軍兵が作戦に向かった直後の出来事だった・・・。

「レップウ!!起きてる!?」

「むにゃぁ?あんだよぉ、レオじゃねぇか。
 せっかくボインちゃんの夢見てたのによぉ。
 腹でも減ったのか?」

「ううん!!ほらっ、これ!」

「?・・・そ、それって、鍵じゃねぇか!!」

場所は、牢屋。熟睡していたレップウを、レオは何か慌てた様子で
起こす。レオに手にあったのは、この牢屋の鍵。つまり、レオは盗んだのだ。
レオがなぜ焦っているのかは、理解したレップウ。だが、そのカギを
何に使おうとしているのかまでは把握できなかった。

「な、何でオマエが鍵を持ってんだ・・・!?
 怖いからって、おまえも俺達と一緒に寝たいってのか?」

「ち、違うよぉ!!ほらっ、ヤエ姉ちゃんも起こして!
 レップウ、逃げて、ここから逃げて!
 姉ちゃん達がいない今がチャンスだよ!」

「!!?」

レップウは、驚いた。初めに感じたのは、喜びではなく、まさかの悲しみであった。
こんな子供が、自分を心配してくれている。まだ自分の数十年も生きていない
子供が、大人の自分の身を案じている。それに、哀れみを感じ、
自分が非常に憎く感じた。レップウは、顔を歪ませ、怒鳴る。

「ふ、ふざけんなっ!!俺はここから出ねぇ!
 早くカギを戻してこい!バレたら、大変なことになるぞ!」

「レップウ!!ガキだからって、無茶しちゃいけないのかよぉ!
 ガキだからって、人を救っちゃいけないのかよ・・・!」

「!!・・・ち、違う、違う、レオっ!
 おまえは正しい。けど、おまえはまだ子供、子供なんだぜ?
 自分を犠牲にする年じゃねぇ」

「レップウ!!オレ、レップウのこと大好きだよ。
 兄ちゃんも、ヤエ姉ちゃんも。けど、このままじゃ皆、死んじゃうよ。
 ここにいちゃ、生きれないよ・・・誰も・・・!」

「!!!」

「オレはここに残るよ。姉ちゃん、たった一人の家族だから。
 だから、レップウ!ヤエ姉ちゃんを連れて、逃げて!
 自分の家族の元へ・・・自分のお父さんやお母さんの所へ、戻って!」

「レ、レオ、おまえ・・・・。
 くそ・・・くそっ、涙を溜めている奴が言う台詞かよぉ・・・!」

レオは自然に、涙を溜めていた。その時、レップウは理解した。
このレオの勇気ある行動の裏側の、巨大な闇、恐怖を。
けれど、レオは実行した。大切な人を守るために、友達を助けるために。
レップウは、動きを止めた。

「・・・・・・・こ、怖い・・・怖いよ、本当は。
 オレも逃げたい、こんな所から・・・。
 けど、けどさぁ。これが戦争、なんでしょ?」

「!!せ、せん、そう・・・・?」

「オレがいれる場所は、反逆軍の所だけ。
 暗い、闇の中だけ・・・・。
 もうオレ、帰れる場所・・・無いんだ、レップウ」

「・・・・・・・・・・・。
 わかった、俺、逃げるぜ。俺がヤエを担ぐ!
 レオ、早くカギを開けてくれ!」

「う、うん!」

レオの本音を、ただじっと、静寂の中で、聞きとるレップウ。
だが、彼の中で、ゆっくり、ゆっくりと作られていく。
自分が正しいと思う、道が。敵や味方など関係なく、ただ、
自分が信じる道が。レオは牢屋の鍵を開ける。その扉からヤエを抱えたレップウが出てくる。

「っぐ!!く、くそぉ。ヤエちゃん、中々重いぜぇ。
 そんじゃ、早いとこズラかるか」

「がんばって・・・・生きてね、レップウ」

「・・・あぁ。ただし、おまえとセットでな!!
 俺はオマエを連れていく!ガキを残すなんざぁ、できるかよぉ!」

「!!で、でも、レップウ・・・・オレぇ!」

「ついて来い、レオ・・・!ガキのまま死んでいいのか!?
 俺は達人だ!城に戻れば、それなりに良い待遇を受けられる!
 おまえだって、救える!!」

「う、うぅ・・・・・・」

レオは、考え込む。レップウは、レオの目を真っ直ぐに見つめる。
もう、迷いなど無い。レップウは、ただレオを助けたい。
その一心で、誓った。レオを守りぬきたいと。だが・・・・。

「ご、ごめん・・・ごめんよ、レップウ。
 けど、けど、やっぱり・・・・・
 帰ってくる兄ちゃんや姉ちゃんを、放っとけないよ・・・!」

「!!・・・どこまで、どこまで・・・おまえは・・・!
 戦争がここまで憎いと思った日は、ありゃしねぇえ!!」

「レップウ・・・・・行って、行って!!
 早く逃げて!!そろそろ身回りの兵が来るよ!」

「・・・・・・・っく・・・・・・・・!
 なら・・・逃げねぇ・・・・・・!!」

「え、えぇ・・・・!?」

「俺は逃げねぇ!!ありったけのミルクを持って、ここに戻ってくる!
 待ってろ、分かったな!?腹空かして、夢見て、待っていやがれ!
 俺が・・・俺がオマエのために一っ走りしてくる!!」

「レ、レップウ・・・・!」

「ヤエちゃんはここに置いてく!俺はすぐに帰ってくる!
 それまで、絶対に寝てんじゃねぇーぜ!!」

「う・・・うぅ・・・・う・・・・・・・うん!!」

レップウは、その俊足で、牢屋を飛び出て暗き夜の外に飛び出す。
そして、時は再び、最初の場面に戻る。そこには顔を歪ませ、
歩いているレップウの姿があった。

「はぁ、はぁ・・・・はぁ・・・・・・・・。
 く、くそぉ・・・・・くそぉ・・・・・・・・!
 ミルクを・・・・ミルクを・・・・持って行ってやるんだ・・・・!」

何か、悲鳴のような、苦痛のような声を上げ、ただひたすら歩く。
アテナの本城を目指し、歩き続ける。目の前にはもう、本城が
見えていた。たがここにきて、レップウは動じた。

「・・・・・ミルク・・・・ミルクを・・・・
 レオに・・・・レオに、やるんだろ・・・・・・?
 あぁ・・・ありったけのミルク・・・・持っていってやるんだ・・・・!」

自問自答、それを繰り返すレップウ。一人になった、そして
解放された。この心理的状況から、レップウは、人間としての
生きる意志に見出されてしまった。

「・・・・・ちき、しょう・・・・ちきしょうぉ・・・・・・!!
 戻りたくねぇ!!・・・・・あんな所、戻りたくねぇ・・・・・!
 レオは助けてぇ・・・助けてぇけど・・・・戻ったら、殺されちまうよ・・・・!!」

レップウは、くやし泣きした。戻りたくない。その言葉を
何度も連呼しながら。一人だけとなったレップウの心は、
先ほどとは打って変わって、ガラスの心。熱い闘志は、かなたへと消えてしまった。

「すまねぇ・・・・・すまねぇ、レオ・・・・・・!!
 俺は・・・・俺は、戻れない・・・・・戻りたくねぇ・・・・!!
 くそぉ・・・・情けねぇ、情けねぇ・・・・・・・・・すまねぇ、レオぉ・・・・・・!」

レップウ、決断。ここにきて、レップウは戻らない、そう、固く心に
決意した。やはり自分の命が惜しかった。確かに、不条理過ぎる。
戻れば、ただミルクをレオに与えるだけ。自分の命の保証はまるで無い。
もしかしたら、あんな薄汚れた場所で餓死する可能性だってあるのだ。

「はぁ、はぁ・・・・・はぁ・・・・・・。
 し、城・・・だ・・・・・・ようやく、着いた・・・・・」

レップウは、ようやくアテナ本城へとたどり着く。だが、彼の心は
「達人」に戻っていた。レオを助けたいという、正義の心ではない。
達人として、反逆軍としての心に。レップウが城に戻ってきたことは、
すぐに城中に伝わった。やはり、最初に彼を迎えたのは、達人衆だった。

「・・・・・やぁ、レップウじゃないか。
 死んでなかったのか。どうした?死ににきたのか?」

「はぁ、はぁ・・・・うるせぇ・・・・・・。
 こうして俺は生きて戻ってきた・・・・!
 ゲームは、続行されてんだよ・・・・・!」

「おまえにもうゲームの権利は無い。
 そして、達人としての権利もな。まぁ、だが・・・・・
 おまえが新記録を打ち立てたのも事実だ」

「あ、あぁ・・・・?」

「嫌みや、ひがみでオマエを死刑にしたとなれば、我らの信用も堕ちる。
 新たなゲームの対応者、リュウセイが全滅させてきたその時に、
 オマエを死刑にするよ」

「!?・・・・ま、まさか・・・・・・・
 もう、新しい達人を送りこんだのか!?」

それは、当然、当たり前のことだった。だがやはり、レップウは驚き、
後ろめたい気持ちになった。そう、今ごろレオ達は・・・・。
今現在、城の中は静かだった。恐らく、まだ城下町が襲われている
ことを知らされていないのだろう。静寂だけが、レップウを包み込む。

「だから、何だ?オマエはゲームを失敗させたんだ、当然だろう。
 本当に厄介なことをしてくれるよ、オマエは・・・」

「っぐ!(くそっ、わかってる、分かってるさ。
 ちきしょう、神様。どうか、頼む・・・・!
 レオだけは逃がしてやってくれ・・・・レオ、だけは・・・・・!!)」

悲痛な願い。レップウのささやかなる、最後の正義の意思。
もう、自分はレオとは関係ない。だが、これが最後。
最後と思い、神にレオの助けを求めた。

「ふぅ・・・。まったく、どうしてくれようか。
 このままでは、我が祖国からも我々は追い出されてしまうかもな。
 最悪、逃げることにもなるかもしれんしな・・・」

「っ!!!に、逃げる、だって・・・・・・!?」

「?」

レップウは、反応した。達人の「逃げる」という言葉に。レップウは
強く反応した。そして、じょじょに体が熱くなってくるのを
肌で、心で感じた。

「(そうだ・・・・逃げる、だって・・・・・!?
 レオには・・・・・レオにはもう・・・・・・
 逃げる場所すら・・・・ねぇじゃねぇか・・・・・・!!)」

「?・・・・どうした?レップウ」

「(なのに・・・・なのに、図体ばかりでけぇ大人が
 子供を守ってやらねぇで、自分の逃げ道ばかり探してやがる・・・!!
 クズだ・・・・クズすぎる・・・・・俺は、その一人なのか・・・・・!?)」

レオは、ここで気づいた。気づいたと同時に、レップウの目に
火が灯る。それは、まぎれもなく黄金の輝きを持った、
人の目。生きること繋ぐ、大人の、男の目。レップウは、駆けだした。

「おい、レップウ。何処に行く?」

「・・・・・・自分の、信じた道だ・・・・・」

「?、何だって・・・?」

「・・・・・トイレだよ!!」

レップウは走る。傷ついた体で、必死に走る。トイレとは、まったく
正反対の方向へと。そのころ、エレクの反逆軍部隊は、案の定、
リュウセイの襲撃にあっていた。その場に残っている兵は15人。
戦えるわけがなかった。

「うわぁあああ、命、命だけは・・・・・・がはぁっ!!」

・・・・ザッ・・・・・

「ふむぅ。少々、数が少ないのぉ。レップウの奴が
 殺したとは思えん。どういうことじゃ?
 まぁ、後々分かるじゃろ。今の所、記録は5・・・・!」

リュウセイ。彼は外見だけで言うと、かなりの年配の達人。
だが、侮るがたし。その強さは、達人の中でも上位を争うほど。
そんな中、レオは一人、物陰でじっと息を潜め、隠れていた。

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・こ、怖い、怖いよぉ・・・・・!
 助けて、助けて・・・・・姉ちゃん・・・・
 兄ちゃん・・・・・・レップウ・・・・・・・!!」

ガサッ

「・・・・ほぉ。こんな所に、子供がいるとはのぉ。
 じゃが、容赦はせん。記録がかかっておるのでなぁ・・・・」

「っ!!!(み、見つかった・・・・!!)」

レオ、見つかってしまう。リュウセイに服を掴まれ、
無理やり外へと放り出される。震えるレオの体。
この時、レオは直観した。「自分は死ぬ」のだと・・・・。

「6人目と行こうかのぉ・・・・・!」

「(し、死ぬ・・・・誰か、・・・誰か、助けてぇ・・・・!!!)」

・・・・・・・・・・・

「(・・・・・・・・・・・・・・。
 ?・・・・あ、あれ?・・・・・オレ、生きてる・・・・?
 何も・・・・・されてない・・・・・?)」

「っぐ!!わ、若造・・・・!!貴様ぁ・・・・・!!」

「テメぇ・・・ガキ殺すために、ジジイまで生きてたのかよぉ!!」

「あ・・・・あぁ・・・・・レップウ・・・・・!!!」


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.