メイドさんを呼ばないでっ!


1 :日原武仁 :2007/12/14(金) 02:48:04 ID:kmnkzJxn

 お約束と少しばかりの痛さのあふれた作品を目指します。


2 :日原武仁 :2007/12/14(金) 02:51:18 ID:kmnkzJxn

そんな、始まり。

 『執事・メイド法』というものがある。
 もちろんこれは略称だ。雇用に関するなんたらかんたらという法律法律した正式名称があるけれど、そんなくだらないことは覚えてないし、ここでは必要の無い事だ。
 元を辿れば、超少子化・高齢化に伴う人的介護に関する法律だったのだが、拡大解釈の繰り返しと、何も理解していない偏ったブームのおかげでいつの間にか『ある一定以上の床面積の住居に住む者は使用人を雇用しなければならない』というもの変わり果てていた。
 背景には世界的な景気の向上や貧富の格差の是正などの社会的な情勢も大きく絡んでいるのだが、俺に言わせればピンポイント的な票数の獲得に動いた二代目ボンボン政治家の人気取りであり、バレンタインデーが菓子業界の陰謀であるのと同様に、メイド産業界の強烈な後押しによる企て以外の何物でも無いと思っている。
 しかも、これが総じて受けがいいのだから今の日本は何かが間違っていると感じるこの頃だ。
 俺にはメイド属性なんてないから、少し前までは「ふーん、そうか。大変だネェ」くらいで済んでいたのだが……この度、かねてからの念願であった夢を実現した事により、否応無くこのふざけた法律の攻撃を受ける事になった。
 今から二週間前、街の郊外に洋館風の、いかにもな屋敷を買った。
 流行りのIT企業の社長とか、デイトレーダーとか、資産家の息子なんて肩書きは俺にはないし、ましてや青年実業家なんかでもない。
 俺はただの漫画家だ。生み出す作品が全てがたまたま大当たりしただけに過ぎない、しがないイラスト描きだ。
 気付けば通帳の残高が莫大な金額になっていたので、税金対策にと先にも述べた通り、小さい頃からの憧れだった洋館風の屋敷を思い切って購入したのだ。
 二LDKのマンションからこの屋敷に引っ越して、二階にある自室のベランダから噴水のある広い庭を眺めた時は感無量だった。やり遂げたんだと心底思ったね。交通事故で死んじまった両親に見せて、孝行したかったなぁ……と、少しだけ涙がこぼれたのは秘密だ。
 なんて、柄にも無くセンチメンタルな気分に浸っていたら、一台の黒塗りのバンが正面玄関に乗り付けてきた。
 そして思い出す。俺が雇わなければならないメイドさん達が今日やって来ることを。
 俺の屋敷は法律上、少なくとも四人以上のメイドさんや執事を雇用しないといけないらしい。執事よりはメイドさんだよなぁ、と適当に思いながら専門家や担当の人と話し合ったり、履歴書やプロフィールを見たりと色々面倒な手続きの末に選んだメイドさん達が到着したようだ。
 引っ越して早々だというのに、休む暇もない。本当、イマドキのお役所は仕事が早い。ちょっと前じゃ考えられないくらいの迅速っぷりだ。
 執事やメイドの斡旋は、基本的には全て国や地方公共団体が行う。法律で定めてあるとは言え、役所に年金課や住民課に混じって『メイド課』とか『執事課』なんていうプレートがぶら下がってる様を初めて見たときは、タチの悪い悪夢かと思ったもんだ。
 逆に言えば、それだけメイドなり執事なりのステイタスが上がったということでもある。どちらも国家資格だし、国際ライセンスまであるほどだ。厳しいご奉仕社会を生き抜き、勝ち抜くために品質保証は時代の必須、ということだろうか?
 そんなことをぼんやり考えながら階段を降り、迎えるために玄関を開けた。
 そこに立っていたのは五人の男女。一人は何度も会って打ち合わせをした役所の五十代の男性で、その後ろには様々なメイド服に身を包んだ四人の女性……て、ちょっと待て! 事前に写真で見た人と全員違うんですけれど……!?
「いやー、すいませんねぇ」
 役所の男性――名前は確か……犬飼さんだったかな?――が柔和な笑顔で言ってくる。
「前にご紹介したメイドさん達なんですがね? ちょっとこちらの手違いでダブルブッキングしてたんですよ。調べてみたら向こうさんの方が一時間早かったものでして……」
 暑い訳でも汗が出ている訳でもないのに、犬飼さんは無意味に顔をハンカチで拭きながらそんなことをのたまってくれる。
「彼女達が代わり、ですか? こっちに何の説明も無く……?」
 不信感を大量にまぶして聞くと、犬飼さんは頭を下げた。
「申し訳ありません。本来ならば事前にご説明申し上げるのが筋ではありますが、なにぶん期限も迫っておりましたし……」
 そしてちらり、と俺を見る。
 ぐっ……! 期限のことを言われると、俺としては何も言い返すことが出来ない。なぜなら、メイドさんを雇うための手続きをしたのは一週間前であり、それは同時に『執事・メイド法』に定められたメイド着任期限締め切り日の一週間前だったからだ。
 つまり、今日の段階でメイドを雇っていなければ法律違反となり、罰せられてしまう。つくづくふざけた法律だよ、まったく!
「ですが、ご安心下さい。彼女達の能力は折り紙付きですので」
 詳しくは彼女達からお聞き下さいと言い残し、犬飼さんはバンに乗り込むとまるで逃げるように帰ってしまったのだった。

     ◇               ◇

「メイド筆頭。コードネーム《冷たい計算機(コールドカリキュレイター)》。久遠寺 京華(くおんじきょうか)です」
 中肉中背の身体に長袖で足元まで覆うスカートというスタンダードなメイド服。髪はショートで、ガラス細工のように繊細な美貌なのに、無表情なのはどこか勿体ないと思う。
「メイドナンバーツー。コードネーム《紅い空(クリムゾンスカイ)》。蒼月 絆(そうげつきずな)と言います」
 モデルのように長身な体躯はスタイルがよく、それに合わせたのか胸を強調し、足を長く見せるかのようにスカートは短く、メイド服も全身にぴったりしていた。髪は腰に届くくらいに長くて、清楚とも妖艶とも言える容貌は見ていてクラクラきてしまいそうだ。
「メイドさん番号三番! コードネーム《肉切り包丁(ミートカッター)》。咲逆 みらい(さきさかみらい)ちゃんでーす!」
 小柄な全身からは元気が溢れ、魔法少女みたいなフリフリのメイド服に腰にさした二振りの刀が良く似合っている。両側で結んだ長いツインテールに可愛いとしか言い様の無い顔を見ていると、思わず頭を撫でてしまいたくなってくる。
「メイド其の四。コードネーム《闇(ダークネス)》。剣那 澪(けんなみお)……」
 高くも低くもない身長に、腕や足をむき出した動きやすそうなメイド服。長めの前髪に目元が隠れて全体像は分からないけれど、整ったおとがいや薄い笑いを浮かべる赤い唇がどことなく扇情的な印象で、思わずドキドキしちゃいます。
 以上が、家にやってきたメイドさん達なんだけど――
 ……ゴメン、無理。俺の笑顔はここまでです。
 コードネームってなにさ! なんでみんなメイド服バラバラなのさ! 
 久遠寺さんの俺を見る目は恐いし、蒼月さんは過剰に色気がありすぎるし、みらいちゃんの腰の刀はごつくて明らかに殺傷用だし、剣那さんの薄ら笑いが不気味すぎるんですけど……!
 渡されたプロフィールを見る限り、彼女達は全員S級国際ライセンス保持者で能力優秀なのはよく分かった。けど……明らかにみなさん、一癖も二癖もある方々ばかりですよね!
「ご主人様」
 すっ、と。
 久遠寺さんが音も無く一歩前に出る。思わずビクッと身体が引きつってしまうのが情けない。
「誰を選ばれますか?」
「……は? 選……ぶ?」
 突然言われた言葉に、俺はきょとんとしてしまう。
「ご主人様の伴侶です」
 伴侶? それってあれか。奥さんとか女房とか、いわゆる結婚相手ってやつ……?
「わたしたちはそのためにやって参りました」
 淡々と、機械が音声を再生するように久遠寺さんは言葉を続ける。
「ご主人様に仕え、ご奉仕し、ご寵愛を賜るためにやって参りました」
「な、な、な……なんで!? 何のために!?」
 いきなりの超展開に俺はついていけず、思わず上げた大声は上擦り、裏返っていた。
「それはまだ言えません。そうなっている、ということだけを覚えておいて下さいますように」
 久遠寺さんは深く頭を下げ、上げると同時に残りの三人に身体を向けた。
「絆さんはお掃除を。みらいさんはお食事の準備を。澪さんはお庭の整備を。それでは、ご奉仕開始です」
「了解しました」
「はーい!」
「……喜んで」
 返事をし、部屋を出て行く三人。
「それではご主人様。御用がありましたらお呼び下さいませ」
 深く頭を下げ、おそらくは彼女達を呼ぶためのものだろう銀色の小さなベルを残し、最後に久遠寺さんが部屋を出て行った。
 え? 何? これは……何かのドッキリですか? 
 ……あー、これはあれだ。夢だ。うん、そうだ。本当の俺はまだベッドの中にいるんだ。きっとそうだ。うんうんそうだ。だから寝よう。次に起きたらきっと違う世界が待ってるはずだ。うん、そうだ。きっとそうに決まってる。
 砂漠で砂金を探すような、そんな気分で俺はソファに倒れ込むと目を閉じた。
 起きたら世界が元に戻ってますようにと、そう願いながら。




 結局、寝ても覚めても世界は変わらず、四人のメイドさんは俺の側にいるという事実は覆し様の無い現実だった。
 俺は漫画家だ。クリエイターだと大袈裟に言うつもりはないけれど、それでもやっぱり夢を売る仕事だと思ってる。
 みんなが羨むような生活は無いかもしれない。みんなが憧れるような毎日ではないかもしれない。
 描こうじゃないか。魅せようじゃないか。
 四人のメイドと一人の主人の、何でも無い日常を。
 これから起こる、由無きことを――綴ろうじゃあないか。 
 俺はまなじりを決し、ポケットからメモ帳を取り出すと素早く書き込んだ。
 『メイドさんを呼ばないでっ!』と。


3 :日原武仁 :2007/12/17(月) 22:59:41 ID:kmnkzJxn

そんな、ある日。

「くぎみんに会えなくて私寂しかったんだよー」
「えー? ホントかなぁ……? リョーコ、ゲストの人と結構楽しそうにしてたじゃなーい」
「そんなことないよぉ〜。私はくぎみん一筋だもん」
 なんて。
 スピーカーから流れるウェブラジオを聞きながら、俺は頭の中の映像を絵コンテとして紙に描き取っていく。
 今やってるのは週刊連載用のものでなく、年に二回あるビッグイベントの冬用の同人誌だ。題材は《戦姫円舞曲》。ラノベに端を発し、数ヶ月前からコミック化され、来月からアニメが始まるという――漫画家の俺が言うのもアレだけれど――絵に描いたようにメディアミックス展開している小説だ。制作会社はスタッフ全員作画ジャンキーじゃないかと思わせる、神作画の作品を次々と生み出すことでここ最近名前を売ってきたところなので外れる事はないだろう。アニメ誌や公式HPを見ても原作の雰囲気を損なわず、かつアニメらしい手法を取り入れているようなので今から放映が楽しみな作品だ。
 製本の関係上、原稿は実質二週間で完成させなければならないのだけど、前々から描きたかったやつだしネタもあるから余裕で間に合うだろうことは確実だ。いつもあの印刷屋さんには無理を聞いてもらっているから、たまには期日通り出さないとバチが当たっちゃうからな。
 シャーペンを原稿用紙に走らせながら、二千部刷ろうか三千部にしようか考えていると、
「ご主人様。よろしいでしょうか?」
 ノックの音と、控え目だけどドア越しにもよく通る声が俺の耳に届いた。
「どうぞ。開いてるよ」
 椅子ごと身体を扉へ向け、マウスを操作してパソコンから流れるラジオを一時停止にする。
「失礼します」
 扉を開け、一礼してから入ってきたのは蒼月さんだった。
 蒼月 絆(そうげつきずな)。『ある一定以上の床面積の住居に住む者は使用人を雇用しなければならない』という、天下の俺的悪法、『執事・メイド法』によって雇わなければならなくなった四人のメイドさんのうちの一人だ。
 モデルのように長身な体躯はスタイルが良く、それに合わせたのか胸を強調し、足を長く見せるかのようにスカートは短く、メイド服も全身にぴったりしていた。髪は腰に届くくらいに長くて、清楚とも妖艶とも言える容貌は見ていてクラクラきてしまいそうな女性だ。
「何か用?」
 部屋に入り、彼我の距離にして三メートルのところで佇む蒼月さんに声をかける。
「用、と言いますか……許可を頂きたく思いまして」
 どこか言いにくそうな、奥歯に物の挟まったような口調の蒼月さん。
 ハスキーと言うか、張りのある――例えるなら戦災復興部隊の隊長のような声の蒼月さんに、こう弱気で恥らうような声音を出されると変に心臓がドキドキしてしまう訳ですが。
「許可? 今さら俺に許可を請うようなことってあったっけ?」
 不純に高鳴る胸の鼓動を表情には一切奥尾にも出さず、俺は腕を組んで首を捻った。
 屋敷のことに関しては、さすがに百パーセントと言う訳ではないが、九割以上のことは好きなようにしていいとメイドさん達には言ってある。だから、改まって許可を求められるようなことが思い付かないんだけど……?
 不思議そうな顔を浮かべる俺をどう思ったのか、蒼月さんは小さく、目立たない程度のため息をついてから俺を真正面から見据えた。吸い込まれそうな、黒真珠のような瞳が俺を射抜く。
「許可を頂きたいのはご主人様のお部屋の掃除をすることです」
「俺の部屋?」
 意外な申し出に思わずきょとんとし、次いで周囲を見回す。
 ベッドの上には読みかけの雑誌やいつか読もうと思っているラノベや漫画や資料が積み上げられ、二個ある大きな本棚のひとつにはプラモやフィギュアが並べられ、残りのひとつには哲学書から漫画まで雑多な種類の書籍や資料で埋めつくされ、TV近辺には初期家庭用ゲーム機から最新のハードが金属製のラックに収められ、その近くにある六個のカラーボックス全てにゲームソフトやCD、DVDに資料で埋まっているし、床も様々な資料で元のフローリングが見える部分はほとんどない。ぱっと見れば確かに散らかっているけど、埃が積もっていたりするわけでもない。掃除はそんなに必要無いと思うけどな。
「ご主人様はクリエイターであらせられるので、私どものような凡人非才の身にはそのお考え、感性が計れない事は理解しております。ですが……」
 蒼月さんは腰を屈め、床に置かれた資料のひとつを拾う。その時、スカートの隙間から微妙に見えそうになった下着から目を逸らしてしまった俺はチキンですか?
「このデパートのチラシ広告は必要の無いものと思うのですが」
「いるって。それに書いてある価格は大きな資料だよ」
 価格の動きこそ物価の流れであり、もっとも分かりやすい経済の指標に他ならない。それが無料で、しかもビジュアル付きで手に入る広告は何とも得難い資料だ。
「こちらのクッキーの空き箱などは……」
「小物入れに使うかもしれないじゃないか」
「こちらのデニムの切れ端は……」
「布の織り方や構造を知るのに役に立つよ」
 などと、様々な資料――例えば輪ゴムの束やラムネのビー玉や包装紙など――についての使用用途及び存在・保管理由を簡潔に明解に説明した結果、最終的に蒼月さんはなぜか諦めたように嘆息した。
「分かりました。このことについては私ども四人全員を交えて改めて話すことに致します」
 蒼月さんはそう言って頭を下げ――普段なら頭を上げた後、くるりと背を向けて部屋を出て行くのが、今日はなぜかその場で静かに佇み……それどころか一歩俺へと近付いてきた。
「……まだ何か用?」
 そこはかとない嫌な感覚を背筋に感じながら、訊く。
「特に用はございません。ただ……」
「ただ?」
「二人っきりだと思いまして」
 そう言って、また一歩距離を縮める蒼月さん。
「久遠寺筆頭は買い物で外出中。咲逆料理長は自室にてお昼寝――いえ、瞑想中。剣那庭師は裏山の整備に出ております」
 そして、蒼月さんはまた一歩、前へと進む。
「多少の声や物音は大丈夫です」
 大丈夫!? 大丈夫って何が!? 蒼月さんが? それとも……俺が?
「ですからご主人様――」
 話すごとに近付いてくる蒼月さんとの距離は今や三十センチにまで縮まっている。妖艶なまでの美貌に、恥らうような微笑を浮かべる蒼月さんから俺は魅入られたように目が放せない。艶かしい唇から紡がれる言葉に逆らえない。漂う甘い香りに脳のどこかが痺れていく……
「さあ、襲って下さいまし」
 それは甘い誘惑だ。抗い難い甘美な毒だ。全てを投げ打ち飛び込んで、絶対に後悔はしないと思わせるほどの……
「――何をなさっているのですか?」
 蒼月さんの豊かな胸に触れようと、腕を伸ばしかけた瞬間。全てを凍らすほどに冷たい声が耳朶を打った。
 はっ、と我に返り、慌てて声のした方を見やる。
 そこに――わずか十センチの鼻先に、無表情に佇む久遠寺さんがいた。
「うわっ!」
 思わず仰け反り、その反動で椅子からずり落ちて床に尻餅をついてしまう。
 一体いつの間に部屋に入ってここまで近付いたのか。いきなりに強烈な存在感を放ち始めた彼女の名前は久遠寺京華(くおんじきょうか)。中肉中背の身体に長袖で足元まで覆うスカートというスタンダードなメイド服。髪はショートで、ガラス細工のように繊細な美貌なのに常に無表情を貫き通す、どこか勿体ないと思わずにいられないメイドさんだ。
「久遠寺筆頭。お早いお帰りですわね」
 蒼月さんは驚く事も悪びれる風も無く、さらりとそんなことを言う。
「もう一度聞きます。何をなさっているのですか?」
 無表情ゆえに厳しく、全てを凍てつかせるがごとき視線でもって久遠寺さんは蒼月さんを詰問する。
「別に何も。ただ、ご主人様に襲って頂こうと思いまして」
 大の大人でも失神してしまうんじゃないかと思う視線もどこ吹く風。蒼月さんは肩をすくめながら、だけど堂々と言い放つ。
「……そうですか」
 久遠寺さんは目を軽く伏せ、やれやれと言わんばかりに小さく首を振った。
 そうだ、久遠寺さん。二度とこんなことが起きないように、起こさないようにガツンと言ってやって下さい!
「分かりました。では……わたくしも参加する事にしましょう」
 ちょっと待てぇー! なんでそうなる!? 今の流れならきっちり厳しく厳格厳重に注意する場面だろう!?
「それではご主人様――」
 無表情のまま俺を見る久遠寺さん。
「――いざ、甘美なる楽園へ」
 蠱惑な笑いを口元に浮かべる蒼月さん。
 ヤバイ! これはヤバイ。全てにおいてこれはヤバイ!
「ま、待った! と、とりあえず話し合おう。話せば分かる!」
 じりじりとにじり寄る二人へ、俺は床に座ったまま後ずさりながら叫ぶ。
「いいえ、ご主人様。問答……」
「無用です!」
 言うや否や、二人は俺に飛び掛ってきた!
「いぃぃやぁぁぁー!」
 渾身の叫びは空しく宙に響くだけだった……

     ◇           ◇

 ……事の顛末を話せば、青年誌っぽいことはあったけど、最終的に成人向け雑誌な展開にはならなかった。俺の精神力が回復したらあの逃走劇を書くことも……いや、ないな。あれは忌まわしき記憶として封印させて下さい。
 奇跡に等しい、神にまで高まった瞬発力でメイドさん二人から間一髪で身をかわし、屋敷中を逃げに逃げた末の精神力をすり減らす交渉の結果――力強く、けれど優しく抱きしめながら額にキスをすることで事無きを得たのだった。
 さて、問題です。これから俺はどうなるんだろうね? そして、どうすればいいと思う? 解答してくれる人、待ってます。 


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