破壊前線


1 :akiyuki :2013/04/28(日) 22:09:15 ID:P7PitFPG

 深夜のテンションで、書きたいものを書きたいように書いてみるだけの企画、続行中。


2 :akiyuki :2013/05/03(金) 21:37:21 ID:P7PitFPmPk

5月2日の夜


 家から300メートルのところにできたフランチャイズでない、謎のコンビニエンスストア『坂本』


 勉強の息抜きに、ちょっとコンビニまで出歩く癖が最近ついてしまった。



 連休初日を、与えられた宿題の処理に使ったところで、無性にアイスが食べたくなり、財布と携帯と玄関のポケットに入れて、家を出る。

 いってきますは言わない。

 父は仕事から帰ってこないし、母は木星に向かって飛び立ったまま帰ってこない。
 妹は吸血鬼になってしまってから家に帰ったためしはないし、家の世話をしてくれている家政婦さんは、夕食を用意してくれてもう帰路についている。

 いってきますは、言わない。


 玄関の鍵を閉め、自転車で行こうと思った矢先。


女郎屋敷(じょろうやしき)

 彼の姓を口にするものがいた。

 待ち構えていたかのように、いや、待ち構えていたのだろう。


 彼の友達が、立っていた。

 家の前に、魔女の姿をした少女が一人立っている。

「田沼? 何してんの?」
「暇でしょ? 深夜徘徊一緒にしましょう?」

 コミュニケーションをとる努力の一切を放棄した彼女の物言いに、人のいい彼は断らない。

 
「……んじゃ、コンビニ行くけど、行くか?」
「モチのロンで行くわ」
「その、黒いローブにツバ広帽に、箒担いで?」
「モチのロンで」
「……補導されても知らないぞ」
「できるものなら、ね。さ、行きましょう。自転車でしょ?」

 嫌な予感がした。

「お前、どうやって行く気? あんまり箒で飛んでついてくるのは目立つからやめてほしいのだけれど」
「え? 私飛べないわよ」
「その箒、何?」
「気分でるから」

 頭痛がしてきた。

「じゃ、俺の自転車の後ろに乗ってくか」
「大丈夫、自前があるから」

 目を凝らして、よくみると、彼女の隣には自転車が一台。

「26インチ。暗くなると勝手にライトがつく、電動アシスト機能付の最新型」
「魔女がなんで僕よりいい自転車に乗ってるんだよ」
「私の家、お金持ちだから」
「お前、なんで魔女してんだよ」

 彼女は、田沼らっこは、首を傾げて考えて、そして答えた。

「……趣味?」


 あ、駄目だ。まじめに相手しちゃ駄目だ。

「自転車出してくるから、待ってろ」


 連休初日から、ろくなことにならなそうな夜であった。


3 :akiyuki :2013/05/04(土) 22:53:25 ID:P7PitFPHWJ

5月3日の夜


「お前、その服」
「やっぱりわかる?」

 今日も今日とて、深夜に定期的にコンビニに行ってしまう少年の家の前で、魔女は待ち構えていた。

 こいつ、他にすることないのだろうか。


 しかし、少年とて、彼女にかまってもらわなければ、私生活はモノクロであることを考えれば、どっちもどっちなのかもしれない。

 少女は、今日も魔女の格好である。

 しかし……。

「なあ、田沼。そのローブ、やっぱり昨日着てたのとは違うよな。なんか色が少し明るい」
「わかるのね」

 確かに、色彩が少し明るくて、帽子のデザインも若干変わっている。


「同じ衣装を何着も持ってるのかと思ってた」
「昨日のとはメーカーが違うの」
「……メーカーって、それ既製品」


 今日は、自転車ではなく、ゆっくりと歩きながら、夜道を歩く。


「お前は、連休どこかに行ったりしないのか?」
「明日の夜、日本魔女会議未成年の部があるから」
「……え、何それ」
「明日の夜、日本中の未成年魔女がこの町に集まるの」

 
 コメントに困る。
 すると、彼女の方から質問。

「そんな女郎屋敷は何もないの? せっかくの休みでしょう」
「ないよ、明日、従姉妹が遊びに来るくらいかな」
「へぇ、父方の? 母方の?」
「それ、そんなに大事なこと?」
「大事よ、あなたのお母様の血筋なら、『魔女』かもしれないじゃない。なら、お近づきになれるかも……」
「こよりはそんないかがわしいものとは関係ないよ」
「へぇ、こよりちゃんって言うのね」
「……」


 
 コンビニエンス坂本が見えてきた。

「坂本はなんで土曜日にジャンプ置いてるんだろう」
「今週合併号よ」
「あー、そうか」
「ところで、女郎屋敷」
「ん?」
「私、明日箒で空を飛ぶ許可をもらえるかもしれないの」
「……飛べたのか?」
「もしよかったら、後ろ乗ってみる?」


 すごく、興味あった。


4 :akiyuki :2013/05/06(月) 21:45:22 ID:P7PitFPHWJ

5月6日の夜


 連休を利用して、家族で毎年利用している温泉宿から帰ってきた蔵王(ざおう)真砂(まさご)は、家に帰り荷物を置くと、四日ぶりに携帯電話の電源を入れた(旅行先が圏外だったので切っていた)。


 着信15件。


 それも、全部同じ人物、同級生で親友の女郎屋敷(じょろうやしき)(てつ)からである。
 あわてて折り返し電話を入れると、「今すぐきて欲しい」と言うので、みやげのまんじゅうを一つつかみ、女郎屋敷邸へと行くのであった。



 彼の家で待っていたのは、背が低く目つきが鋭いため、まるで子鬼のような印象を受ける鉄と、そして、何故か風呂上がりで肌を上気させた、これまた同級生の田沼らっこであった。


「……、真砂。誤解しないで欲しいのだが、田沼の家が昨日全焼してな。昨日から俺の家に泊まってるだけなんだ」




 閑話休題



 とりあえず、居間に上がり説明を聞く。

 たどたどしい鉄の釈明と、あまり説明の上手でないらっこの証言から、真砂はあらましを理解した。

「つまり、田沼さんは魔女なわけね」
「そこ、納得してくれるんだ」
「そこを納得しないと話が進まないからね」
 
 自分で持ってきたまんじゅうをつまみながら、話を整理する。


「魔女ってのは、それなりに数がいて、勢力を作ってる。で、田沼さんは無派閥で、趣味で魔女をやってた」
 
 らっこが頷く。

「けれど、困ったことに、それぞれの派閥が、田沼さんを自分たちの陣営に引き込もうとやっきになってる。なぜなら、田沼さんはこの世でただ一人、『箒で空を飛ぶ』魔法を受け継いだ最後の魔女だから。で、その秘密を奪おうとした過激グループが田沼さん家を燃やしたわけね」

 鉄を見やる。

「で、鉄の家に匿ってもらってるわけね」

 鉄が頷いた。


 真砂は頭をかいて、宙をみる。

「うーん、どこから突っ込めばいいのだろうか」

「仕方ないだろう。女郎屋敷家は、魔女保護機構が定めたこの町で唯一の魔道被害者擁護施設なのだから」

「うーん、その衝撃的事実にも、どうコメントしたものか」


「とりあえず、魔女保護機構と魔道局、そして日本魔女会議が事態を収拾するまで、らっこを家に置くことになった。それで、ぜひとも蔵王家に頼みたいことがある」

「あ、やっぱり何か面倒事押しつけられるの?」

「たぶん、この町の顔役である蔵王家に、話を持ち込む連中が多いと思うが、田沼が俺の家に隠れてること、黙っておいて欲しい。どうせ、いざ捜索となったら、実働部隊を指揮するのはお前だろう、若頭領」

 真砂は腕を組む。

「ごまかすくらいはどうにでもなるけれど、しかし、鉄。それなら僕も言わなければならないことがある」

「……なんだ」

 真砂は、神妙な顔で

「匿ってるなら、軒先に女物の下着を干すのは、自重しなよ」

 鉄が、後ろに控える同居人に叫んだ。

「田沼ぁ!」

 あせったように、少女は反論する。

「し、仕方ないじゃん、今日洗濯日和だったから……」



 そして、三人が騒いでいる、その家の、玄関先。



 
 刺客がすでに、到着していた。

 


5 :akiyuki :2013/05/12(日) 16:32:05 ID:tDVcxmseu3


 人と異なる力を持ち、その力によって、人と違う生き方を自ら選んだ者を、総称して魔女と呼ぶ。
 魔女としての在り方を通そうとする行為を魔道と呼ぶ。
 黒い服を着て、使い魔を呼び、妖しげな言葉を使う女は、確かにいた。

 今も、少しいる。


 戸籍が整備され、法によって保護された現代日本に取り残された魔女達は、自分たちを守るために組織を作った。お互いの救済と監視のため。魔女の、魔女による、魔女のための茶会。『日本魔女会議』と言う。


 魔女は大抵正体を隠す。隠さないバカもいる。だが、大抵は人の目から隠れる。何しろ、人と違う生き方をするということは、他人を害する危険も含んでいるのだから。だから、魔女でない人間は、魔女を恐れる。疑問を持つ。魔女を、魔女のままでいさせていいのか? その回答として部局が作られた。管轄不明。官庁の、官庁による、魔女でない人のための軍団。【魔道局】という名だけが、知られる。


 魔女である少女と、魔女を憎む少年がいた。二人と、同時に親友だった男がいた。少女と少年が争い、一通りの悲喜劇が起きた後、これから続くであろう人間と魔道の関係を良好なものにする方法について考えた男がいた。日本魔女会議を統合し、国の魔女政策に抵抗する少女だった魔女と、魔道局を統括し魔女狩りを続ける少年だった役人。二人の間に入ろうとして、失敗した男は、とりあえず、二つの勢力の争いで被害を受けた人々を、助けるグループを立ち上げることにした。人でも、魔女でも、とりあえず、助けることにした。魔道被害者支援団体。そして、気が付いたら最強の武闘派となってしまっていた。魔女保護機構<SJK>



  魔女と人が交わると、大抵何かが壊れる。

 壊れてしまえばいいと思う魔女もいるし、壊させないと決意する大人もいる。
 治すことはできないだろうかと、悩む子供もいる。



 箒で空を飛べる、世界で最後の魔女。

 その身を獣に変える術を、捨てることができなかった娘。

 破壊にアイデンティティを持ったがために、社会から廃絶された彼女。

 人界と魔道とを器用にわたり切った老女。

 人としての寿命を、平安に置いてきてしまった少女。

 血を吸う鬼にさせられて、自暴自棄の妹。

 魔道に突っ込んだ片足を、抜こうと努力する女子中学生。

 強いが故に、引き返すことができない女王。

 
 

 

 梅雨の話をしてみよう。
 日本列島は周囲上空を4つの乾湿寒暖の区別ある気団によって覆われている。
 その気団のバランスによって四季の空はそれぞれの色を持つ。
 梅雨は、春も終わり、夏に移行しようとする日本の真上で、温気団と冷気団が衝突することによって発生する。
 同程度の勢力を持つ気団がぶつかりあい、温度差によって生じた水分が、地表に降り注ぐ。
 いつまで経っても勢力争いにけりがつかず、その境界線上では、長い長い雨の時節が始まるのだ。

 二つの気団がぶつかるその境界を、梅雨前線と私たちは呼んでいる。





 それにちょうど見立て合わせて

 魔女と魔女でない者と、それに否応なく巻き込まれるすべての物語を総称して 

 私は、破壊前線と呼んでいる。


 主人公、女郎屋敷鉄は、その三組織全てと関係のある女郎屋敷の長男である。家族はみなそれぞれの事情で家におらず、実質、この屋敷を差配している。
 彼の元には、人とは違う生き方を選んだ者達が多く寄り付く。


 ゆえに、破壊前線、その最前線である。


 


6 :akiyuki :2013/09/21(土) 17:59:27 ID:onQHQJocQA

南瓜の魔女

 女郎屋敷鉄の交友関係は広いのか狭いのかわからない。

 知り合いは多いし、困った時に頼る連絡先は多く知っている。

 しかし、放課後に遊んだり、暇な時にメールでやり取りするような友人はいない。

 「友人」というカテゴリに入るものがいるとすれば、まずは小学校時代からの腐れ縁である蔵王真砂と、夜中コンビニに行く途中に出会ってから、つるむことの増えた田沼らっこくらいである。


 珍しいことに、今朝は登校中に真砂と出会い、鉄は並んで歩いて高校へと向かっている。
 背が低く、にらんでいるわけではないがこわばった眼つきが特徴的な鉄と、丸々と太っていつもにこにこした巨漢の真砂が並んでいると、小鬼と大仏の組み合わせのようである。

 小鬼と大仏は、同時にあくびをした。

「しかし、眠いね。鉄は昨日寝たの?」
「寝ていない。真砂が帰った後、後片づけして、結局寝れなかった。また、別の魔女が襲ってくるかもしれないと思うと」
「偉いね、田沼さんはそんなの気にせずぐっすり寝ただろうに」
「なんでわかった? いや、わかるよな、あいつそういうキャラだし」
「鉄がいたから、安心して寝れたんだよ」
「別に何にもうれしくない」
「すごいことだよ。だって、田沼さんは突然家を焼かれて、誘拐されそうになって鉄を頼ってきたのだろう。なのに、その鉄の家にまで南瓜包丁持った頭のおかしい魔女が襲ってきたなんてなったら、眠れなくて当然だよ」
「……」
 いつもと同じにこにこ顔で真砂は続ける。
「よっぽど、鉄の隣は安心できるんだね」
 いつもの真顔で鉄は答えた。
「いや、あいつは別室でぐっすり寝てた。俺のベッド、断りもなく使ってな」
「……」
「『枕が変わると寝付けない』とか文句言ってたくせいに、熟睡だ」
「……よっぽど、鉄の家は安心できるんだね」

 あまりフォローになっていない気がした。


「おはよう、女郎屋敷くん、蔵王くん」
 並んで歩く二人の後ろから、少女の声がする。
 振り返ると、びっくりするくらい特徴のない女の子がこちらに向かって駆けていた。

 同級生の南牟礼(みなみむれ)愛子(あいこ)は、いつもと同じ、何の変哲もない笑顔で、二人にあいさつした。
「おはよ」
「おはよう」
「ああ、おはようござい」
「蔵王くん、どうして「ます」が抜けるの?」

 いつものように声を掛け合い、教室に向かおうとして、愛子は二人の眼の下の隈に気付く。
「あれ、二人ともなんだか寝むそうだね、どしたの?」
「ああ、それはだな……」
 どうやってごまかそうかと言葉に詰まった鉄をしり目に、にこにこ顔で真砂が答えた。
「昨日、鉄の家に変質者が現れたんだ」
「あ、おい」
 鉄は真砂をさえぎろうとして、そもそも、本当のことを話しても信じるわけがないか、と放っておくことにした。

「黒のホットパンツにチューブトップだけの露出魔で、何故か顔にはハロウィンでしか見ない、中身を刳り抜いたドテカボチャを被っていてね、刃渡り30cmくらいのかぼちゃ包丁を振りまわすちょっと頭のおかしい変質者だったよ」

「……へー、すごいね」
 真砂特有の冗談と受け取ったのか、驚いているのか驚いていないのかわからない反応を示した愛子にそれ以上語らず、愛子もそれ以上訊かず、三人は登校を続けた。


「やあみなさん、おはよう」
 なんだか聞いたことのある声がした。
 沙人がもう一度後ろを振り返ると、そこには見知った人影があり、鉄は苦虫をかみつぶし、真砂は苦笑し、愛子は、いつも通りの笑顔でそれを迎えた。

 田沼らっこは、学校指定のセーラー服に着替えて、登校中だった。

「お前、なんでそのとんがり帽子脱いでこなかった」
「日差し、強いじゃん。第一、私魔女だし」
「魔女じゃねーよ、今のお前は、ただの、女子高生だ」

 突然テンションの上がった鉄を見ながら
「本当、鉄って田沼さんに突っ込み入れてる時は生き生きしてるな」
 その光景を見ながら、愛子も無感動に
「あの帽子、どこで売ってるんだろう」
 
 
 己の感性のままに生きる青少年達は、自由だった。


7 :akiyuki :2013/09/22(日) 00:39:48 ID:onQHQJocQA

その日の夕方


 頭がおかしいというより、おかしい頭をしていたのだろう。

 柊高校。一年一組の教室。放課後。

 誰も彼もが下校した時間。
 
 この教室には二人だけ。

 いや、この建物自体に二人しかいない。

 まだ、日も沈んでいない時間帯に、学校の中に人の気配がないというのも、不健全な話だが。

 魔女ならば、人払いの術くらい、茶飯事なのである。


 柊高校。一年一組の教室。放課後。


 黒のホットパンツにチューブトップという露出の多い格好で、何故か顔にはハロウィンでしか見ない、中身を刳り抜いたドテカボチャを被った魔女が、刃渡り30cmくらいのかぼちゃ包丁を、女郎屋敷鉄に向けていた。


 昨晩、鉄の自宅の窓ガラスを蹴破り、部屋中を荒らして帰った不審者。

 らっこをさらおうと、いや、最後には殺そうとした、最早敵としか言えない。魔女。

 それが、どうして自分を襲っているのだろう。

 
 どこで間違えたのだろう。

 やはり靴箱に入っていた差し出し人不明のラブレターなんて見え見えの罠にはまったのがいけなかったのだろうか。
 しかし、仕方ないじゃないか。

 仕方ないじゃないか、としか、言いようがない。



 昨日と同じ格好で、撃退してやった時と同じ格好で、同じ武器でカボチャを被った魔女は鉄に刃物を向けている。
 鉄の左腕を切り裂いた時についた血液が、刃面を伝う。


「ちょっと、おま、いくら魔女だからって、ノータイムで刃傷沙汰ができるって、おかしいだろう。お前ん所の派閥は、どういう教育してんだよ」

『そういうことができるように、教育されたんだよ』

 正体をばらさないためにだろう。変声機でも通したようなくぐもった声である。

 女らしい体つきを見せつけ、顔には妖怪のようなマスク。そして気持ち悪い声。

 ああ、なるほど、正体不明だ。

 けれど、中身はまだまだだな。


 敵と会話してしまうところなんて、付け入る隙じゃないか。

「しかし、なんで南瓜なわけ。派手すぎるだろ」

『ただ正体隠せばいいってわけじゃないからね。演出が必要なんだ。ただの不審者じゃなくて、びっくりするくらいにおかしな者に化けるのさ。そうすることで、私は実際におかしなカボチャお化けになることができる』

「奇抜な格好だけれど、結構スタンダードな理論だな。……っていうか、その南瓜どうやってここまで運んだんだよ」
 まさか、被ったままここに持ってきたのか。
『部活の鞄の中に隠してきた』
「ああ、剣道部の防具入れる袋なら、入るわな。何しろ面が入るんだから。」
『今日は風邪引いたってことで、休んだけどね』
「うん……」

 しかし、付け入る隙どころではなくなっている。

「なあ、南牟礼。そこまで変装して襲うってことはさ、普通正体って隠すものなんじゃないか? なんでお前そんなに正体ばらしてんの?」

 南瓜の魔女こと、南牟礼愛子は、何を考えているのかわからない、南瓜頭を少し傾げて見せた。

『わからない?』
「まさか、冥途の土産に教えてやる系の台詞を吐くつもりじゃないだろうな」

 南瓜は、無言で刃物を振り上げた。

 こんちくしょう。

『動かないで、楽に、終わらせるから……』
「うるせえ、全力で逃げるにきまってるだろ、お前を人殺しになんかできるか!」
『優しいんだね』
「そもそも、なんで俺を殺すとかいうことになってるわけ!」
『上からの指示だから』
「なんだそりゃ! お前、上から死ね言われたら死ぬのかよ」
『死ぬよ』
「……は?」
『私の家系は、四代前から魔女してるんだけどね、私のご先祖様が、今の派閥の長のご先祖に殺されかけたんだって。忠誠を誓うことで、命を助けてもらって以来、代々つかえているのさ。そして、そんな契約も時間が経てば経つほど、濁っていくんだろうね。最初はただの主従だったけれど、代を経るごとに扱いは悪くなって、今や私は、まあ、女王様の道具なんだよ』
「……。わかった。お前が自主性を奪われる立場に立たされていること。友達だろうと殺せと言われたらこばめないのは、まあ仕方ないんだろう。で、なんで俺を殺そうぜって結論になったんだ」

『田沼さんが、世界でたった一人、箒で空を飛ぶことのできる魔女だってことは知ってるでしょう』

「ああ、なんか人間国宝なんだろ」

『世界中の魔女がその魔法を奪おうとしているから。それを匿う魔女保護機構の手先を殺すのは、自然じゃないかな』

「なんでそんなに空飛びたいんだ? ぶっちゃけ、魔女って箒使わなくても飛べるんだろ?」

『箒で飛ぶのは、この世に生きる魔女すべての憧れだから』

 あいた口が塞がらない。

「マジで言ってるのか」

『大マジ。観念に生きる魔女だからこそ、そういうものに命かけるんだよ』

 最後にごめんね、と呟いて愛子が近づいてくる。


 切られたショックと恐怖で、足がすくむ。

 どうしようか、死にたくない。


 命のやりとりとか、そういうのが嫌で、そういうことをさせるのが嫌で、魔女保護機構に家を提供までしたのに。

 なんで最前線で血ぶちまけてるんだろうか。


 というか、まさか高校に入ってから知り合った友達になれるかもと思っていた南牟礼愛子が、こんな狂人だったなんて。

 考えがまとまらず、ぼうと敵をみやると。


 刃先が震えているのが見えた。

 南瓜の魔女の指先が、震えている。

 南牟礼愛子の露出した肌から血の気が引いているのがわかる。

 南瓜のマスクの隙間から、涙らしきものが垂れた。



 くそ、木坂の馬鹿鉄と呼ばれたころを思い出す。

 友達を見損なっていた。どう見ても嫌がってるじゃないか。

 俺が、俺がどうにかしてやらないと。


「み、南牟礼!」

 彼女は止まらない。

「う、そ、その」

 彼女は刃の届く距離まで近づいた。

「だから、あれだ」

 刃物を、突き立てる構えをとって

「田沼に頼んで、箒の後ろに乗せて飛ばせてやるからさ、殺すのちょっと待ってくんない?」

 ぴたりと、止まった。


8 :akiyuki :2013/09/23(月) 00:30:06 ID:onQHQJocQA

その日の夜


 草木も眠る丑三つ。

 眠らない少女が二人。

 眠れない少年二人。

 空に、一つの影。



『いやっふうー』

 南牟礼愛子ははしゃいでいた。

 地上三十メートル。

 箒にまたがる黒いローブの魔女。田沼らっこ。

 時速二十キロメートルで、飛行する人間がいた。

 その箒、らっこの後ろにまたがって、一緒に空を飛んでいる。

 楽しくて、仕方がない。

「愛子ちゃん、気分はどう?」
『最高! こんな、空を飛ぶのがこんなに楽しいなんて!』

 つい昨日まで刃物を振り回していた相手とは思えない様で、二人は飛ぶ。





 地上零メートルの位置で、その宙返りとか蛇行、二回転ひねりを見物しているのは、左手を三角巾で吊った鉄と、真砂であった。
「おおー、飛んでるね。すごいなあ、魔女って初めて見たよ」
「実を言うと、俺も飛ぶのをみるのは初めてだ」
「ん? でも鉄。君の話だと、今までも魔女を匿ってきたなら、飛行魔女も見てきたんじゃないの?」
「基本、追われてたり、負傷した奴らだからな、夜中とは言え人の町の上空を飛びまわるような阿呆はいなかったよ」
「鉄、あの二人、飛ぶの止めさせた方がいいんじゃない?」
「しかし、満足するまで飛ばせることで、俺の命は助かる約束だからなあ」
「それも、なんとかするよ。実は、今日の夕方、日本魔女会議のお偉いさんが内の屋敷に来てね、田沼さんと、あの、南牟礼さんを引き渡せって言ってきたらしいんだ」
「俺の家の話なのに、なんでお前ん家に」
「一応町の顔役だし、南牟礼、魔女会議の刺客が屋敷を襲った時、僕も居合わせたからね、『蔵王』が一枚噛んでるとでも勘違いしたんじゃない?」
「済まない、俺の問題に、巻き込んでしまった」
「馬鹿だなあ。こういうことに首を突っ込むのが『蔵王』なんだから、気にする必要はないよ。まあ、親父も爺さんも、魔女なんてはじめて扱うから、眼を丸くしてたよ。魔女ってあれなんだね。メイド服にとんがり帽子なんてあざとい格好するんだね」
「帽子って、大事なのかな」
「でも、うちのメンバーを見てみると、格好にはこだわりがあるみたいだね」

 いかにも魔女風な黒づくめの長身少女と、小柄な体に似合わないドテカボチャを被った少女が空から降りてきた。

「堪能した?」
『堪能した!』

 お前、そんなキャラだったっけ? と言いたくなるくらい、テンションが上がっている。
『いいなあ、女王様がてにいれたがるのもわかるよ』
 とりあえずは、条件は整った。はしゃぐカボチャお化けに、鉄は問う。
「じゃ、俺のこと殺すのは止めてくれるか?」
『それはまた別問題なんだよね』
「おい」
『いや、真面目な話。私の所有権は女王様が持ってるんだ。だから、確かに今は殺したくないって気持ちが強いから止まっているけれど、命令が生きる限りいつか必ず、女郎屋敷くんを殺さないといけない……』
「女王様を裏切る気はないわけ?」
『ないよ、っていうか裏切れない。さっき言った所有権だけどね、女王様の魔法がそれなんだ。女王様は私を魔法で支配している。だから、女王様が私に下した命令を解除してくれないと、私は、自分の意思とは関係ない行動をとらなければならない』
「今は、なんで我慢できてる?」
『……。私が、ほんとに女郎屋敷くんを殺したくないってことと、空を飛んだから』
「空とんですっきりしたから?」
『魔女にとって、箒で空を飛ぶのは、大事なことなんだよ。全ての魔法に優先するくらい』

「ふうむ」

 思ったより、事態は解決していなかった。

「なんだか大変ね。別に、空飛びたいんだったら、こんな魔法くらいいくらでも教えてあげるのにね」
 らっこが、さらりととんでもないことを口にした。
『止めた方がいいよ。田沼さんと魔法って、本当にとんでもないんだよ。その魔法の奪い合いで、戦争が起きたこともある。まだ、日本の一部の魔女しか田沼さんに気付いていないけれど、もし、このことが広まれば、教わるよりも奪うことを考える奴らが現れる』
「むむむ、魔女って意外と面倒なのね」

「おい田沼。一応、自分のことなんだから、もうちょっと深刻に受け止めろよ。一応、俺は家業だからお前を保護するけれど、これからどうするのかを決めるのは、お前だからな」
「……なんとかしてうやむやにできないかしら」
「すっごいぶっちゃけたな」

 その光景を見ながら、他人事のように「やっぱり鉄は田沼さんにツッコミ入れてる時が一番生き生きしているな」と考えていた。

「そもそもよ、女郎屋敷。あなたが私を匿う必要って、もうないんじゃない? 魔女同士の諍いに巻き込まれて負傷してるじゃない」

 愛子によって、夕方切られた左腕である。四針縫った。


 空を飛ぶテンションにすっかり忘れていたのだろう。
 愛子はカボチャをあわてて脱いで、泣きそうな顔でその場に土下座した。
「ごめんなさい。私とんでもないことしたのに謝りもしないで」
「別にいいよ。さっきの南牟礼の話だと、俺を傷つけた責任はその、女王様にあるってことになるだろ? そっちに治療費払ってもらえばいいだけのことだから」

 さらりと流して、らっこを見やる。
「匿う理由はある。正直なところ、南牟礼が今俺を殺さないのは、俺が田沼らっこを保護しているからだ。この女郎屋敷には魔法がかかっていてな、主におり屋敷に匿われた者は、敵に見つけることはできなくなる。だから、昨日窓け破って飛び込んできた南牟礼は、結局田沼を見つけられなかったんだ」

「「「そ、そうだったのか」」」

「えらいことネタバレしたわね、この人」
「でも、今私田沼さんを見つけてるし、触れるよ」
「もう敵じゃないってことじゃないかしら」
「うぅ、女郎屋敷くん(泣)」


「そういうわけで、もし今女王様とやらが南牟礼に田沼を浚えと命令したら、こいつは田沼を認識できなくなる。だから、田沼らっこを女郎屋敷に匿う以上は、俺は安全なんだ」
「なら、なんで私は夕方女郎屋敷くんを襲ったの?」
「女王様の使いが、夕方真砂の実家を訪ねた。その時に、このからくりを全部ばらした」

「「「ちょ、なんてことを」」」

「鉄、いつの間にウチの実家とパイプを作ってたの」
「そりゃ、跡取り息子と懇意にしてる段階で察してくれよ」
「先方はこの町の顔役で暴力団との繋がりも噂される蔵王家が関係していると考えて」
「ないよ、うちはクリーンな商売してるからね!」
「噂だよ、噂。で、そう考えて刃傷沙汰も辞さないつもりだったが、実際関わってんくて、女郎屋敷の結界に匿われていることに気付いた。うちは魔女保護機構の息がかかってるし、魔道局ともつながりがあるからな、下手に実力行使はできないことを理解して、次手を考えてるんだろう」
「鉄って、実はすごい人なんだね」


「でもね、女郎屋敷くん」
 腑に落ちない様子の愛子は、続ける。
「だったら、女郎屋敷の主、つまり女郎屋敷くんを殺したら、その結界も解けるんじゃないかなあ」

 いよいよあきれ顔である 

「あのなあ、いくら人の道を外して歩く魔女だって、善意の第三者を簡単に殺すような判断くだすかよ。なんか、女王様って呼ばれてるくらいに偉いんだろ?」
「うん、でも、女王様はどちらかというと覇道を歩む暴君タイプなんだけれど」
「たぶんな、利用価値がまだあるからだよ」
「どういうこと?」
「他の派閥。善意の第三者も平気で殺すような連中にここがばれたら、俺なんて二秒で殺されるし、田沼も即効さらわれる。けれど、少なくとも、今は女王様がここを押さえている。なら、いい方策が思いつくまで、派手なことはしたくない。少なくとも、田沼がここから離れることがなくなるからな」

「女郎屋敷くんって、どうしてそんなに頭いいの?」
「たぶんこん中で一番悪いと思うよ。ただ、こういうことよくあるから。あと、さっきからおもってたんだけど、じょろうやしきくんって、長くて呼びづらいからもう鉄って呼んでくれよ」
「あ、それなら私も鉄ってよびたい。私のことはらっこちゃんでいいから」
「だったら、私も愛子ちゃんで」
「じゃあ、僕も」
「てめえは元から真砂呼ばわりだろうが」



 草木も眠る丑三つ。

 騒ぎ過ぎで、眠れない。


 


9 :akiyuki :2013/09/26(木) 00:07:27 ID:onQHQJocQJ

その日の夜更け


 日本魔女会議 関東支部参事 魔女名『女王』


 白河(しらかわ)真琴(まこと)


 それが当面の敵の名である。



 樹町の元締めのような役割を果たしてきた蔵王家は、今新たなあり方を模索している。

 今までは外部勢力の介入を徹底的に排除してきたが、そうも言っていられない。

 蔵王の武力で、抑えきれない勢力があることは、父の世代からわかっていたことである。
 そういうものが、自分の縄張りを離れて、他の町へ入り込もうとすることは、戦後あたりから多くみられるようになった。

 今までは、なんとか抑えてきた。

 しかし、魔女などという存在に対して、どう抗えばいいのかわからない。

 わからないうちに、蔵王の勢力下で、日本魔女会議未成年の部を開催されるような失態までおかしてしまった。

 父はそのことで一族から大分責められていたが、真砂は祖父と二人になると、いつも言っていた。

「じいちゃん、後ろ盾のない一家が町を仕切るのには限界があるんじゃないだろうか」
「真砂よう、若いもんにいきなり諦められたら、ワシらが頑張ってきた甲斐ねーじゃん」
 ファンキーな爺様である。

「そうは言っても、じいちゃんだって、それまでの慣習だった外敵の殺害を止めさせてるじゃん」
「それだってかなり無茶したんじゃぞい。しょうじき、ワシの代だけで話がついたのが不思議なくらいじゃからな」
「そうやって、その時代に即した在り方を模索してきたのが、蔵王一族なわけだし。東京云ったおじさんが魔道局に勤めてるのも、いいことだと僕は思ってるよ」

 蔵王の精神を新たな共同体に広げるためにと、外へと出て行った叔父は今や一族の裏切り者扱いだが、よくお菓子をもらっていた真砂も、父親である祖父も、理解者である。

「そういうこと、他の奴の前で言うなよ。示しがつかん」
「わかってる。それは置いておいても、変化の時期は来てると思う」

 箒で空を飛び、カボチャを頭に被ることで、蔵王の私兵数人を叩きのめすような得意な力を持つ少女達。
 そして、それに相対する異端女郎屋敷一族。

 そして、それに付随するようにある魔女保護機構、魔道局、日本魔女会議。


 そういうものの影響を受けないわけにはいかない。

「『魔女』は、今までのようなやり方では相手にならない。この前の夜は、実感したよ。あれは人の世の理を、無視しすぎてる。新興宗教や、本物の陰陽師、どういう手合いとも違う」
「そうか、真砂はもうあいつらとやりあってるんだな。どうだった?」
「いきなりこ街中で外法なんて使おうとするから掴みかかったんだけれど、あっという間にのされたよ」
「負けたんか」
「本気出す前に、逃げてくれた」
「負け惜しみ乙」
「じいちゃん、そんな言葉どこで覚えてくるんだよ。でも、正直助かった。あのまま行けば命のやりとりだった」
「……そうか」
「愛子ちゃんは、武闘派なのは間違いないし手練だけど、あくまでただの使いっぱ。こっちは頭領の跡継ぎ息子。それあ、命の奪い合いをせにゃならんくらい『格』が違う」
「怖いか」
「怖くないわけないよ。でも、やらなければならないなら、殺るさ。でも、まだそんな段階でもないでしょう。少なくとも、まだ手を尽くす余地はある。向こうは女王様とやらがわざわざあいさつに来てくれたんだろうし」
「……まあ、な」
「なら、話し合うことだってできる。らっこちゃんと、愛子ちゃんと、鉄の後始末。なんとかなるかもしれない」
「だと、いいんだがなあ」

 真砂は、なんだか歯にものつまったような喋り方をする祖父にいぶかしむ。

「……で、今回うちらが相手にしている白河真琴ってのはやりづらい性格してるわけ?」
「いや、わかってるかわかってないかで言えば、わかってる娘だよ。最初の襲撃に失敗した段階で、自分らの不利を悟ってる。この件に関して、これ以上の暴力沙汰は起こさないことを約束する代わりに、蔵王も不介入とするように伝えてきた」
「鉄の家は、魔女保護機構の参加だからね。こじれるとまずいんだろう。だから話し合いでカタをつけるってことか。それに、魔女会議も一枚岩でない。この不祥事を政治的に利用しようという派閥もいるってことだわな」
「真砂、お前魔女のこと結構勉強しているな」
「何しろ、友達が魔女だったから。すると、あれかな。自分達は希少魔女の緊急避難のために強硬策に出ただけとか弁明して、愛子ちゃんの身柄を回収して、らっこちゃんを魔女保護機構に預けることで、他派閥に干渉させないようにするってことで手を打つつもりだろうか」
「まあ、落とし所としてはそうなるのかのう」

「話だけ訊くと、まともそうな女王様みたいだけれど、何かおかしいところあるの?」
「いや、なんと言うかのう」

 種は頭をかいた。

「あの娘、この事態を楽しんでおったよ。どう折り合いをつけるか悩んどる時に、一人だけ違う生き方をしとった。若さかのう」
「もう、帰ったの?」
「しばらくこの町に滞在するといっとった」
「じいちゃん、僕嫌な予感しかしない」
「そうか、わしもじゃ」





 深夜二時。


 飛び疲れて、くたくたになって家路につく、らっこと愛子。
 そして、なぜ二人とも、俺の家に行く気なのだろうと思いながらも、後ろからついていく鉄。

「あぁ。眠い。鉄、明日は学校休まない」
「馬鹿、駄目に決まってるだろう」
「鉄君、私もちょっと疲れちゃって」
「愛子、お前そんなキャラだったっけ?」
 自分は這ってでも行くが、二人は難しいかもしれないなあ、などと思う。
「ところで、愛子は自分の家はいいのか?」
「私、一人暮らしだよ」
「マジッすか。だったら、田沼、いや、らっこもそっちの方が」
「鉄、私は一応保護されている立場だから……」

 家路に着く。

 そこで、家の玄関のカギをかけ忘れていただろうか、と思い至る。

 何しろ、家の灯りが点いて、するりと玄関があいたから。

「らっこ。俺、部屋の電気消したよな」
「玄関の鍵も二回確認したわね」


「……」

 玄関の人の気配に気づいたのか廊下の奥から、足音が聞こえる。

「おう、おかえり」

 部屋の中から出てきたのは

「悪いね、勝手に上がらせてもらってる」

 軍服にマント。そして、黒いとんがり帽子を被った、長身の女性だった。

 
 あんぐりと口をあける鉄。
「……」
 平静ならっこ
「あら、格好いい。私もほしいな」
 動揺しまくりな愛子
「女王、陛下……」


「初めましてだな、女郎屋敷鉄」

 白河真琴は、こうして破壊前線に現れた。


10 :akiyuki :2013/09/27(金) 21:39:57 ID:onQHQJoFxA

女郎屋敷鉄 VS 白河真琴


 夜中も夜中。
 
 あとは寝るだけな時間に、女王などと大仰な呼び方を他人にさせる女が一人、目の前にいる。

 このそこはかとない面倒くささは何なのだろう。


 とりあえず、らっこと愛子を自分の背に隠して、敵と対峙する。

「あんたが、女王様かい」
「そうだよ。お互い、噂だけは耳にしていたんじゃないかな。らっこは、先日の魔女会議であったね。あと……いつまで、そんなところに隠れているつもりだ? アイ」

 主人に声をかけられて、びくりと体を震わせた南牟礼愛子は、おそるおそる鉄の背後から這い出し、真琴の前に姿を現そうとして

「よせ」

 鉄に制止される。

「へぇ、なかなかの騎士ぶりを見せるじゃないか、らっこだけじゃなくて、私の家来まで匿ってくれるのかい?」

 妙に楽しそうななのは、なんなのだろう。

「俺も深夜の半分眠ってる頭で考えてるから、自分でも何言うか、わかんないけれど、とりあえず言っておく。正直、こいつは敵なんだろうけれど、その前に友達だし、愛子とらっこだって友達だ。それなのに、二人を戦わせるように仕向けるのは、いくらなんでも悪趣味すぎるぜ。だから、俺も介入せざるを得ない。まだ、愛子にらっこを襲わせるように命令する気か」

 えらく真面目な眼をする鉄に、何か意外なものを感じたのか、少し驚きを含んだ表情をしていたが、すぐにふざけた表情に戻す。

「んー。とりあえず事を起こしたらどんな反応が返ってくるのか見たくて、一番手頃な駒を使ってみたんだけど……。意外とおおごとになってしまったなあ」

「ふざけんなよ、こっちは怪我させられるわ、家の硝子割られるは大損だ。弁償してもらうからな」

「いーよ」

「軽いな」

「それで許す気配のあんたも大概だ。第一、一番の要求は南牟礼愛子の身の安全とか言うんだろ?」

「よくわかるな」

「わかるよ、あんたみたいな『格好つけしい』の言うことなんて」

 くっくと笑う。

「言われてるわよ、鉄」

 何故か、らっこも笑う。

 鉄はぶすりと

「お前ら魔女といると、調子狂う。で、実際のところ、あんたはアイをどうする気だ」

「いや、連れて帰るけれど」

「あんまり、待遇よさそうじゃないみたいだが」

「必要最低限な保障はしてるし、いじめたりもしてないってば。まあ、それだけの待遇と言えば、そうなんだけど」

「鉄君、お願いだから、私の前で陛下のこと悪く言わないで」

 黙っていた愛子が、やっと口を開く。

「さっきも言ったけれど、私は陛下の道具として育てられた。私には、それしかないのだから、陛下の道具らしく生きることが一番大事なの」

 そうして、鉄の前に身を乗り出し、歩き、真琴の後ろに控えた。

「らっこちゃんや、鉄君は大切な友達。だけど、同じように陛下も大切なの」

「お前、戦うの嫌がっていたじゃないかよ」

「嫌だったのは、らっこちゃんや鉄君だったからだよ。私は包丁を振りまわす南瓜の魔女であることを止めたりしないよ」

「お前、そんなキャラだったっけ……、そんな覚悟キメた奴だったのかよ」


 二人のやり取りをぼんやりとみていた、長身の少女が、そこで声をあげる。

「ねえ、鉄。そんなに凹む必要ないんじゃない?」
「馬鹿、お前この事態にどう収拾つけるんだよ」
「そもそもよ。あなたはどう収拾つけるつもりだったの? 白河派の魔女の襲撃から私を守る。苦しい立場にいる愛子ちゃんの身の安全を保障させる。この二つが達成されたらいいのでしょう? それで真琴ちゃんがここにきてくれて、あなたと話をしたことで、両方達成できるのではないの? それとも愛子ちゃんを渡すのが嫌なの? きゃっ青春!」
「きゃっ! じゃねえよ。初対面で人様の家に勝手に上がりこんでるやつを信用できるか」

 すると、真琴の方が意外そうな顔をする。

「おいおい、女郎屋敷。それは逆だろう。勝手に上がりこんでるから信用できるんじゃないか?」
「え、意味わかんない」
「いやさ、お前がリークしたんじゃないか。女郎屋敷の結界に守られる家屋には、敵は入れない」
「……!」
「じゃあ、勝手に入れる私には『敵意はない』だろう。そういう演出のつもりでせっかくピッキング術まで行使したのに」
「くそう、今度から防犯システム導入してやる」
「くっく。まあ、お前がどうして私のことが気に入らないのかは不明だけれど、とりあえず、今回は私の負けだってこと。おとなしく引き下がるよ」
「いいのかよ、そんな簡単に負け認めたりして」
「いいんだよ。私にとっては遊びみたいなもんだ」
「人の命が、危険にさらされたんだぞ」
「人の命?」

 そこで、真琴は笑った。

 今までに見せなかった、ぞっとするような笑みだった。

「いいんだよ。私は魔女だぜ? 生き死にも遊びの範疇さ」
「こ、こいつ!」


 そこで、会話は終わった。

 きょうせいてきに終わらされた。

 真琴は、制止しょうとする鉄を無視して、玄関より外に出る。
 
 途中、すれ違うらっこと眼が合う。

「ねえ、真琴ちゃん」
「なんだい? らっこちゃん」
「箒で空が飛びたいだけなら、いくらでも教えてあげるわよ」
「おおう、そいつは嬉しい相談だけれど……。そもそも自分がどうやって空を飛んでるのかわかるのかい?」
「フィーリングね」
「そういうことだよ、魔女の中の魔女。じゃあ、私は今夜はこれで帰る。眠いし。ああ、鉄、安心しな。別にアイを殺そうなんて思わないし、お仕置きと称していじめる趣味もない。とりあえず、しばらくは様子見だ。お前らの望み通りにしてやるよ」
「……なぜだ」
「ん?」
「何故だ。お前の言うとおりなら、ここで愛子に命令して俺を殺してらっこを連れていくこともできるだろ。なんで、そうしない。そんなことに罪悪感なんてないと言ったばかりじゃないか」
「一々つっかかるんだなあ。言っただろ、私にとってはらっこの魔法を手に入れるのも、遊びなんだ。お前らと戦うより、生かしておいた方がおもしろそう。本当、それだけのフィーリングなんだよ。でも、強いて言うなら」

 また、笑った。

 今度は、とてもさわやかな笑い方だった。

「アイと、遊んでくれたからだな。こいつのこんな晴れ晴れとした顔は、久しぶりに見た。今度は、私も乗せて飛んでくれ」


 そうして、女王と従僕は、明け方に消えた。


 残された鉄とらっこ。

「見事にうやむやになったわね。ラッキー」
「素直に喜べん」
「……何が気に入らないの?」
「自分でも、よくわからん」
「あれじゃない? 深夜のテンションで自分でも何言ってるのかわかんない感じ。ほら、そういう時っていつもと心の置きどころ違うっていうか……」
「怖かった」
「……へ?」
「殺されるんじゃないかと思うと、怖くて、強がっただけなのかもしれない……」
「……。鉄、今日は一緒に寝ない?」
「やだ、お前寝ぞう悪そうだから」
「いいから、ほら早く家に入りましょう」
「なんか、すでに我が家気取りなのな」

 面倒な一日がやっと終わった。


 


11 :akiyuki :2013/09/29(日) 00:53:18 ID:P7PitFPntA

牙と爪を持つ魔女


 転校生を紹介しますと言われた時は、正直、嫌な予感がした。

 そう、結局睡眠時間を取れずに学校に行くことにした。

 登校途中で真砂と会い、昨晩のことを、話した。

 後ろからよく聴く声がして、驚いている真砂と一緒に振り返ると、いつもと同じように南牟礼愛子が走ってきた。

 いいのか? と訊くと、おとがめなしだった。どうかこれからもよろしくね、などと言われたんで、おうとしか答えられなかった。

 あとね、もうひとつお願いしたいことが……。と言われて嫌な予感がした。

 何かを続けようとした愛子に、らっこが抱きついた。

 よかった。無事だったんだね。

 無事とはわかっていても、心配していたのだろう。

 だから、サボる気満々だったらっこも無理やり鉄をたたき起して、登校している。

 安心したらっこは、ホームルームが始まるまで、ぐっすりと眠っていた。
「鉄、ここでやれやれとか呟いたら、いよいよハーレム系主人公だね」
「ハーレム築く女がいねえ」
「探せばいるのに」
「いねえ」


「みなさんおはよう。転校生を紹介します」
 ホームルームが始まるや担任教師が不吉なことを言いだした。
 こんな時期に転校生?

 まさかと思いながらも、現れたのは見知った顔。

 ひどく自信に満ちた、美少女だった。

 今日はちゃんと、この学校指定のセーラー服を着ている。
「みなさん、初めまして。清河真琴と言います。わからないことがいっぱいですが、いろいろ教えてくださいね」
 そう言ってお辞儀をする美少女に、歓声が沸いた。

「え、何このクラスの男子、なんでこんなにノリいいの?」
「鉄、知らない? あの子グラビアアイドルの真琴ちゃんでしょう?」
「……へえ」
「青年誌とか読まないの?」
「少年漫画しか読んでない」

 魔女が青年雑誌の表紙を飾っていいのかよ、とツッコミを入れたかったが、今言うと目立つので、止めておいた。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.