押入れ物語


1 :群青 :2007/12/21(金) 15:47:57 ID:WmknY3mD

 からん、ころん、から、かっ
 
 軽やかな音が静まり返った大都会に抜けていく。
 ビルで囲まれ、ただ細く狭く続く星空には大きな白銀の満月が上っている・・・・・・
 ・・・・・・今は真夜中。
 『太陽』が支配する日中は、この場所は狂ったように騒がしかったのだが、『月』が支配した今となっては、その喧噪も嘘のよう。
 
 からん、かっ、ころ
 
 その銀と漆黒の世界の不気味な静寂を突き抜き、涼しげな音と供に現れたのは、独りの人間。
 闇から現れた『彼』は月光に照らされ、道路の中心でぴたりと動きを停めた。
 『彼』はただ静かに其処に存在していた。
 滑らかに、しなやかに、・・・艶やかに。

「おい、てめぇ」
 何処からか突如、『彼』のものではない、低く挑発するような声音が響きわたった。『彼』の表情は暗くて窺えないが、辛うじて見える口元は、馬鹿にするように歪んでいる。
「今は『月』の時間だぜぇ?[人間]よ」
「[人間]がこの時間帯にこんな処に居るってこたァ、『惑星(ルール)』を知ってんだろ?隠すんじゃねェぞ」
 『彼』は全く動じない。
「聞いてんのか、あぁ!?」

 何かが、現れた。

 何かの影は二つ。片方は大鎌を持ち、もう片方は六本の出刃包丁を所持しているようだ。シルエットからして人間のよう。
 「ハッ、黙ったままでもいいがよ、もう二度と喋れなくなるぜ!」
 大鎌が『彼』を捕らえ・・・・・・

 『彼』が、舞った。

 大鎌が八つ裂きにされる。飛び散る肉、骨、体液。出刃包丁は思わずうろたえる。
「てっ、てめぇっ・・・・・・まさか俺等と同」
 言葉を紡ぎかけたところで出刃包丁も闇に沈む。
『彼』は二人を掻っ裂いたものだと思われる得物をびゅん、と二度振ると、返り血すら付いていないスーツへと仕舞う。
「良かった、新品なんだよなぁ、此れ。・・・・・・しっかし、あんな雑魚と同類扱いされちゃ堪ったもんじゃないな、吐き気がする」
 『彼』は独白し、ついっと空を見上げた。
 相変わらずの狭い空。『彼』はにこり、と笑みを浮かべると、何やら呟いた。
 そして其処を後にする。自宅に戻る訳じゃない。

 から、ころ、こっ、

「今日も取り敢えず狩るか」
 ピシリとしたスーツには不似合いな、古風な下駄を鳴らして。

 『彼』は闇へと跳躍した。


2 :群青 :2007/12/21(金) 16:32:32 ID:WmknY3mD

押入れ物語

「やーっと着いたよ此のばっかやろーーーー!」
 大都会、人混みの中心で、明日灯マナは叫んだ。

 大きな革の鞄とスーツケースを両手に、彼女は歩いていた。
 先程の心からの叫びで集めた注目も全く気にせず、ひたすら歩いていた。
「・・・・・・ったく乗り換え多いし駅のホームも多いし人も多いし、此れだから嫌だよ都心ってやつは」
 口の中でぶつぶつ言いながら、がらがらとスーツケースを引っ張っていく。

 
 明日灯マナ、現在16歳。好きな物はホットケーキと高級食材で嫌な物はコンニャク、お気に入りはニット帽、マイブームは干し柿という、何処にでも居る高校生である。
 上京してきた目的は一人暮らし。彼氏居ない歴16年。両親は居ない。


 入り組んだ路地裏に身を忍ばせ、隙間に挟まっても気合で通り抜ける彼女が目指す所はまだ先。道に迷っては壁に額をぶつけ、泣きながら辿りついたのは
 ・・・・・・くすんだボロボロのアパートだった。

「こんにちはー、明日灯でぃっす(こんこん)」
 大きく『大家』と書かれたドアをこんこんこんこんノックするマナ。薄暗い廊下には大家さんの部屋の他に三つの部屋に繋がるドアがあり、突き当たりには階段があるようだ。冷たい廊下を照らす白熱灯に蛾が集まってきた。
「!光に惹かれて蛾がッ・・・・・・まァいいや、大家さーんてば、居るのかなぁ」
 がちゃり

「何のようですかぇ?」

 出てきたのはおじいちゃん・・・・・・いや、大家さん。
「うぉう!あ、明日灯といいます、今日からお世話になる者ですが!」
「あ、はいはい聞いてますよー、ウチはもう新聞は5社も取ってるんで、もうさすがに・・・・・・」
「え、いやいや何の話ですか!?てか大家さんそんなに新聞を!?違いますよ、今日から越してくる明日灯ですよ!」
「あー、はいはいはい!103号室に新しく来た明日灯さんねぇ・・・・・・?」
「疑問系にしないでくださいよ!そうです明日灯マナです、あ・す・ひ!」
「ほっほっほ、大家の如月じゃ、ほい、鍵ですよ」
 なんか沢庵臭いです如月さん・・・・・・
「あ、部屋は適当に片付けておいてくれ、十年前から使ってないんでの」

 ・・・・・・・・・・・・え


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