僕から見た僕


1 :塚里一 :2008/06/15(日) 09:31:49 ID:ocsFuDuk

 僕には,消してしまいたい過去がある。
 そして,今日この日までそれを忘れかけていた。
 それなのに,突然現れたコイツのせいで,
 僕はその過去と向き合わざるを得なくなってしまった・・・。


2 :塚里一 :2008/06/15(日) 22:12:20 ID:ocsFuDuk

 学校というモノは何につけても面倒くさいことばかりだ。
 特に同級生というものは非常に面倒くさい。彼らとは一年間を通じて同じ生活をしなくてはならないし,考え方も共有しなくてはならない。少しでも,考え方がことなれば異端として排斥されるのはわかりきったことで,あえてはみ出ようとする奴もそうそういない。
 だから,クラスには疎遠な連帯感と緩慢な緊張感が漂う。勿論それを是とするかどうかは,問題にならない。どちらかというと,問題にしないことの方が賢い。
 と,いうことで僕は極力クラスに溶け込むように努めている。目立たないよう日陰に隠れるようにクラスメートを傍観している。高校に進学してからは特に,だ。
 しかし,元来,批判屋である自分がこのような態度をとると無駄にストレスが溜まる。どこかで鬱憤を晴らそうとする訳だが,生憎と学校という一共同体ではそういったこともままならない。
 故に面倒くさい。
 だが,何の因果かこのクラスには一人,“異端”がいた。
 彼は,実に反抗的な男だった。教師に対し,執拗に言い掛かりをつける。あるいは,学級代表のやり方にいちいち因縁をつける。いや,反抗的というのは正しくはない。彼の言説に誤りはないのだが,教師や集団を重んじる空間において,一人だけ道を外れるというのは,あまりいただけないことだ。
 そこで,僕はそれとなく彼を諌めることにした。
 そこで,
 


3 :塚里一 :2008/06/17(火) 09:58:43 ID:ocsFuDuk

 「おい,君。ちょっといいか?」
 HRが終わり,皆が帰路に着こうという時,僕は彼に向ってそう言った。
 「悪いが,急いでいる」
 彼はそう言って,鞄を肩にかけて立ち去ろうとする。
 「待ってくれ。5分程度の時間だ。君に言っておきたいことがある」
 僕は,慌てて彼の進路の先に回り込んだ。周りの奴等が笑いながらコッチを見ているのがわかる。他人事だと思って馬鹿にしやがって。怒りで顔が蒸気する。そんな僕を尻目に彼は机を迂回して,帰路に付いていた。
 「待てったら…」
 何故か泣きそうな僕の声を聞いて奴等がさらに笑い声を上げる。
 僕は,むしゃくしゃして,教室を飛び出した。

 やはり,正義感というものは振りかざすべきではないのかもしれない。彼らにとっては不変こそが第一義であって,たとえ異端があろうとも,それを排斥する現状に満足しているだけかもしれない。
 だが,それでも,翌日も翌々日も僕は彼を呼びとめるのだった。
 
 そんなある日,クラスメートの一人が僕を呼びとめた。
 「なぁ,お前。最近妙にアイツに突っかかるけど,何かあるのか?」
 そいつはクラスの中でも僕が特に嫌っている奴だった。その態度といい,口調といい,妙に高圧的なところが癪にさわる。
 「いや,別になにかあるって訳じゃない」
 「ならあいつに関わるのは止めとくんだな」
 思った通りのことを言いやがる。その頭の悪そうな顔で一体僕の気持ちの何がわかるというのか?
 「なぜだ?」
 「お前の安い正義感がな,皆皆気に食わないんだとよ」
 …。顔に血が昇るのがわかる。安い正義感だと!?僕は君らの為を思ってやっているんだ。それを安い正義感とはどういうことか――――。
 気付くと僕は,奴の襟首を掴んでいた。そのまま勢いでまくしたてる。
 「ふざけるな!俺はこのクラスの為を思って彼の蛮行を諌めようとしているだけだ!
 貴様如きに何がわかる!」
 周りの奴等が笑っているのがわかる。いや,おそらく僕が彼らの立場だとしたら,やはり,僕は笑うだろう。では,何故僕はこんなことをしているのか?
 そんなことを考えたら,手から力が抜けた。そのまま崩れ落ちる。
 「はっ,弱虫が粋がってんじゃねえよ」
 さらに周りが笑う。だが,その笑い声すら遠い。僕の精神は今や肉体と正常に連結していないようだ。ただ,失意の念が僕の精神を掻き乱す。なぜ,彼らは理解してくれないのか?なぜ僕はこんなことを一生懸命にしていたのか?なぜ僕は,一時でもこのクラスの為などと考えてしまったのか!?こんなクラスの為に――――!?
 「おい。今,弱虫と言ったか?」
 遠くで誰かの声がする。笑い声が静まった気がする。
 いや,一瞬で空気が張り詰めたようだ。
 「あぁ。そうだろ。今もこんなところで蹲っていやがる」
 奴の声が震えている。会話の主は誰なのか?
 僕は顔を上げて彼を見ようとする。
 そこに居たのは,ああ,紛れもなく彼だった。
 ここ数日僕が諌めようとしてきたクラスメートではないか。
 「停滞とは恐ろしいモノだ。これほどまでにヒトを猿化せしめるとはな」
 「あぁ!?」
 今度は奴の顔が真っ赤になる。なるほど,確かに猿のようだ。
 「てめぇ,調子乗ってんじゃねぇぞ」
 奴の拳が強く握られている。キレる若者とはこのことか。
 「所見を述べたまでだ。批判される云われはない」
 そう言って,彼は僕の方を向いた。
 「お前,いつまで蹲っているんだ?俺に話があるんだろう」
 彼はそのまま教室の外に出て行く,僕はその背中を追って行く。
 その後ろでは,拳を握った猿と,口を開けてただ突っ立っているクラスメート達がいた。


4 :塚里一 :2008/06/19(木) 20:13:23 ID:ocsFuDuk

 「君は,何故クラスに馴染もうとしないんだ?」
 今更のように告げた僕の言葉は,すでに説得力などなかった。
 あの後,僕たちは屋上に行き,次の授業が始めるまでの一時を凌いでいた。屋上は風が吹き荒んでいて気を抜くと飛ばされてしまいそうだった。
 彼は何かを考えるように空を見ていたが,やがてゆっくりと口を開いた。
 「彼らと慣れ合うことに何か意味があるのか?」
 勿論・・・無い。だが,その理屈が通るような空間ではないはずだ。
 「しかし・・・,そういうもんじゃないだろう?」
 否定を前提とした疑問。僕は,何を問おうとしているのか?
 「・・・ちがいない」
 だが,彼が肯定を示した。
 その声はどこか懐かしい響きで,
 その顔はどこか寂しげな表情で。
 嗚呼,僕には彼の気持ちが痛いほどわかる。
 彼は僕だ。
 だから,僕はこの問いをせざるを得なかった。
 僕には導き得なかった答えを彼は持っているのかもしれない。
 「では,何故?」
 ・・・。
 僕は彼の口が動くのを待った。
 だが,一向に彼が話す気配はない。
 それどころか彼は僕に背中を向けて階下へとつながる階段へと歩いて行く。
 僕は,足から力が抜けていくのを感じた。
 「いつまでもそこにいるなよ」
 最後に彼はそう言って,階段を下りて行った。
 その背中を見つめながら僕は屋上に座り込んだ・・・。
 


5 :塚里一 :2008/06/22(日) 11:19:05 ID:ocsFuDuk

昔の話

 僕には,消してしまいたい過去がある。
 そして,それを忘れかけていた。
 しかし,彼の存在は僕のそんな気持ちを掻き乱すのだった。
 
 過去といってもそんなに古い話ではない。
 僕が中学校に通っていた頃の話だ。
 当時,僕には友人と呼べるものは一人もいなかった。それどころか知人すらいなかったような気がする。
 僕は,自分という固い殻の中に閉じこもって,クラスという外界に曝されながら隠れていた。
 僕は,僕以外の存在を軽蔑していたし,彼らが僕を侮辱するのも別段気にすることもなかった。
 「僕は誰よりも優れている」
 その根拠のない自信が僕を支えていた。
 いや,それだけならば恐らくただの勘違い野郎で済んだかもしれない。
 しかし,ある一つの感情が僕のその在り方を不完全なものにしてしまったのだ。
 その感情のせいで,僕は案山子ではなく道化であった。
 他人を軽蔑しながら,他者との交わりを求め,
 滑稽な仮面を被り,他者と自分を惑わしてきた。

 いや,それだけならよかったのかもしれない。
 それだけならば,僕の心は消滅し,道化の自動人形になっていたかもしれない。
 
 彼女さえ僕の心に触れなければ! 


6 :塚里一 :2008/06/28(土) 10:51:52 ID:ocsFuDuk

 彼女は,なぜか僕に近づいてきた。
 彼女は僕の“パントマイム”を見ると,けらけらと笑いながらこう言うのだった。
 「あなたって,おもしろいわ」
 その表情は,その声色は,何も知らない純粋な少女のものだった。
 僕は,虚構に気付かない愚かな女だと思いながら,彼女と接していた。
 だが,ある日の放課後。忘れ物を取りに戻った僕は教室に一人で座っている彼女と遭遇する。彼女は外を眺めていた。薄暗い教室の中で彼女の周りだけ夕日の赤で染まっていた。
 僕は,彼女に気付かれないようにそっと忘れ物を回収すると,そのまま教室を立ち去ろうとした。だが,その時にはもう彼女は僕のことに気付いていたらしい。
 「ねぇ,どうして私はこんなところにいるのかしら?」
 いつもの彼女の声だった。だが,その言葉には薄気味の悪い何かを感じえなかったのだ。僕は振り向かずにただ一言,知るかよ,といって教室を後にした。

 その日以来,僕の頭から彼女の姿が離れなくなった。
 そして,次の日以降。彼女は教室に現れなくなった。


7 :塚里一 :2008/07/06(日) 19:57:02 ID:ocsFuDuk

 次に彼女と会うのはもう少し先のことになる。
 だが,その前に僕はもう一つ奇妙な出会いを経験する。
 
 彼女のことが頭から離れなくなった後,僕はあの日のことを後悔するようになった。
 なぜ,僕は彼女から離れたのか。なぜ,彼女にもっと近づかなかったのか。
 そんな事ばかり考えるようになっていた。
 それはある種の恋であったのかもしれない。いや,おそらくはそうであったのだろう。
 僕の仮面の裏のさみしさは彼女の存在を欲していたのだ。
 僕は懊悩を繰り返し,そして動いた。
 クラス名簿から彼女の住所を調べ,彼女の家までいくことにしたのだ。
 
 彼女の家は,僕の家からやや遠い所にあった。
 僕は自転車に乗って,彼女の家に向かう。ある暑い日の午後だった。
 1時間くらい走っただろうか?照りつける日差しに僕は朦朧としていた。
 いくらなんでも遠すぎないか?もうついても良いころだ。何かがおかしい。
 僕は名簿を取り出して,彼女を住所を確認した。
 あぁ,なんということか。僕は全く逆の方向に向かって走っていたではないか。
 暑くて呆けるにしても限度がある。そう思いながら僕は向きを変える。
 正しい方向へと向かおうと思って…。
 だが,気づくと僕はまた逆を向いていた。
 いったい何がどうなっているのか理解できないまま,僕は同じことを繰り返す。
 そして,僕は彼に出会った。


8 :塚里一 :2008/07/13(日) 10:04:01 ID:ocsFuDuk

 本当のところ,僕は迷っていた。
 本当に彼女のところに行って良いのか?
 彼女が来なくなった原因は僕にある。
 それなのに平気な面して僕は彼女の前に立てるのか?いや,立って良いのか?
 むしろ,僕は彼女を一人にするべきではないのか?
 彼女は僕を忘れたいのではないのか?
 僕に会いたくないのではないのか?
 そんな自問自答を繰り返していた。

 きっと,僕が道を間違ったのもこの迷いのせいだろう。
 いや,そうに違いない。
 だから,それ故に僕の前に,彼が現れたのだろう。

 ‘僕’は僕を制止するように僕の目の前に立っていた。
 僕は‘僕’の制止をどけようと‘僕’に近づいた。
 僕は意地になっていた。
 ‘僕’も意地になっていた。
 何故,僕は‘僕’に邪魔をされなくてはいけない。
 何故,僕は‘僕’と遊離する?
 僕は‘僕’のはずだ。
 何故,僕のいう事を聞かない。
 僕は,‘僕’を突き飛ばした。
 ‘僕’も僕を突き飛ばす。 
 迷いは確かにあった。
 だが,その時の僕は確かに彼女のもとに行きたかった。
 それなのに,何故,お前は邪魔をする?
 何故,お前は“俺”の邪魔をするんだ?
 僕は再度,‘僕’を突き飛ばす。
 そして,僕の体は空をきった。そのまま転倒する。
 無様な姿で地面に這いつくばった僕。
 その背中に,
 「君は…」
 彼女の声が掛けられた。


9 :塚里一 :2008/07/28(月) 22:49:13 ID:ocsFuDuk

只今休載中のお知らせ

 普段からご愛読いただき誠にありがとうございます。
 さて,作者は只今大学の期末考査のシーズンでありまして
 休載が続いております。
 続きを楽しみにしてくださっている読者の皆様には
 大変申し訳ありませんが,今しばらくお待ち下さい。
 なお,作者の動向については作者のブログにて公開されております。
 そちらの方もご覧になってください。
 また,連載開始は8月の9日を予定しております。
 最後になりますが,ここまでの内容で,
 ご意見・ご感想等がありましたらメール・感想室等に
 お書き下さい。
 それでは,失礼します。


10 :塚里一 :2008/08/08(金) 19:24:07 ID:ocsFuDuk

ichiriduka

 気がつくと朝になっていた。
 僕はだらしなく布団を投げだしてベッドの上に転がっていた。
 昨日の自分が思い出せない。彼女に声を掛けられて,それから僕はどうしたのだろうか?全く記憶にない。部屋を見回してみる。いつも通りの僕の部屋だ。特に変わったところはない…筈だ。ゆっくりと起き上がって机の上を見る。書きかけのノートと,開いたままの教科書が置いてあった。どうやら昨日の夜は数学の勉強をしてから眠ってしまったようだ。書きかけの3次曲線が歪んで終わっている。
 …,ではあの後彼女はどうしてしまったのだろうか?まさか,声を掛けて終わりということはあるまい。何か話をした筈だ。何故か思い出せない。頭の奥底に埋もれてしまって,まるで,何年も昔の出来事のように,取り出すことが全く出来ない。
 しばらく考えた後に,僕は考えるのをやめた。今日は学校がある日だ。準備をしなくては遅刻してしまう。クローゼットを開けて制服を取り出す。体が覚えているままに服を着替えて,朝食を食べる。そのまま家を出た。
 学校への道を歩きながら,ゆっくりと昨日起こったことを反芻する。何とかして思い出せないだろうかと,頭を悩ませた。だが,結局,高校についても記憶が戻ることはなく,そのままホームルームが始まってしまった。
 
 「夢と現の区別もつかなくなったのか?」
 思い切って昨日の出来事を彼に話したところ返ってきた言葉がこれだった。
 そう言ったきり彼は教室に戻り,僕はまた一人取り残された。
 


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
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