ドラゴンプリンセス〜旅立ちの王女〜


1 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 03:22:49 ID:WmknkmLA

 幼き王女シャルネアは、ある日伝説上の生物である龍と出会う。
 シリウスと名乗ったその龍との出会いから6年の年月が経った頃、シャルネアの住まう国クーズベルクに災厄が訪れる。
 平和だった国に襲いかかる黒衣の集団。城は崩壊の危機に陥り、国王もまたその命を落とす。そして最後に命を賭してシャルネアを救ったのは、白き龍……
 崩れかけた城を――自身の国を救う為に、シャルネアは旅立つ。
 幼い白き龍を連れて――


 *この作品は、ドラゴンプリンセスのリメイク作品です。内容としては上記あらすじの通り、第一部の一章に当たる部分のみのリメイクとなっております。
 キャラクターの追加など大きな変更点もありますが、大筋の変更はありません。

 第一部を読んで下さっている方も、そうでない方も、感想・批判どちらも歓迎しております。
 当時の夕咲と最近の夕咲にどれだけの成長が(あれば良いのですが)見られるのか、客観的な意見を頂きたいと思っておりますので、宜しくお願い致します。


2 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 03:34:02 ID:WmknkmLA

序章 白龍の住む森

 森が広がっている。
 広大――と言う程ではないが、それでも広いと表現するには十分な広さ。
 空気は良い。自然地帯なのだから当然だろう。だが、この森に生物の気配は感じられない。植物の類なら存在するが、動物と呼べる種は存在していないのだ。
 そのせいか、森の中は常時静寂に包まれている。勿論、生物が足を踏み入れた瞬間、その静寂は破られるものではあるが……
 そもそも、なぜ生物がいないのか――
 その理由は、遥か昔にある。まだ、世界に魔物と呼ばれる凶悪な種が存在していた頃、この森は彼らの住処だった。魔のモノと称されるだけあって、彼らの多くはその身に瘴気を纏っていた。その瘴気が、他の生物の存在を許さなかったのだ。瘴気は空気中を伝い、他の生物の生命そのものを弱らせる特性を持つ。その為、この森にいた動植物は、一度絶滅してしまったのだ。残ったのは、枯れ果てた木々と魔物の存在だけ……
 もっとも、それは全て過去の話。
 今では魔物と言う種そのものが絶滅しており、この森も森と呼べるまでに回復している。ただ――昔の名残なのか、動物の類がこの森に生息することがない。
 霊邪の森――この森がそう名づけられたのも、魔物の住処だった頃の名残からだ。
 その霊邪の森を今、一人の少女が歩いている。それはまだ幼い、小さな女の子――
 腰程まで伸ばした金色の髪。深い碧色の瞳。年相応と呼べる、爛々と輝く表情。その顔立ちは整っていて、見る者全てが可愛いと声をあげる程だ。そして少女は、その容姿に見合った血筋でもある。
 獣森の王国クーズベルク。少女は、そう呼ばれる国の正当な王家の血をひいている。クーズベルクの王女、シャルネア=マーツ=ミリオム。それが、この少女の名前だ。
 シャルネアは、一昨日8歳の誕生日を迎えたばかり。少々お転婆が過ぎる年頃なのか、それとも元からの性分なのか――
 シャルネアは、お忍びと言うには危険が過ぎる、一人での外出を試みている最中なのだ。何度か城を抜け出したことのあるシャルネアだったが、こうして城下町以外の場所に足を踏み入れるのは初めてだった。その為か、心臓の高鳴りは治まることを知らず、それどころか加速していくばかり。シャルネア自身は、そんな風に感じている。
 霊邪の森は、クーズベルク城の背後に広がる森だ。自分の家の真後ろにある森と言えば、小さな子供にとっては恰好の遊び場。好奇心旺盛なシャルネアが、いつまでもそんな場所に行かないわけがない。城の住人たちは、シャルネアの好奇心をきちんと把握しきれていなかったのだ。だからこそこうして、シャルネアは悠々と森の中を歩いているのだ。
「うん。くうきがきれいだね」
 にこにこと笑顔で、誰に対してでもない呟きを漏らすシャルネア。
 一度足を止めて、綺麗だと自らが言った空気を胸一杯に吸い込み――吐く。
 そんな深呼吸を何度かした後に、止めていた足を動かし始めた。目的地があるわけではない。何せ、ここはシャルネアにとって初めて訪れた場所。どこをどう進めば、どこに着く。などと、ハッキリとしたことなど何一つとして知りはしないのだ。だから、ただ真っ直ぐ――城から離れる様に進む。変に曲がったりしない限り、迷うこともないはず。そんな考えの元、こうしてひたすら直進している。
 それでも、見えてくるのは何ら変わり映えのしない景色。森の中など、どこでも同じ様なものなのだろうが……
 最初はそれでも楽しんでいたシャルネアだったが、同じ風景がずっと続いていれば飽きもくるというもの。三十分程歩いた辺りで、飽きと同時に疲れも感じていた。子供の足では、それでも城が見えなくなる程の距離ではない。疲れから再び足を止めたシャルネアが、振り返った先に見えるクーズベルク城を見て溜息を吐いた。
「そろそろ、みんなきがついたころかな」
 ほんの少しだけ遠目に見える様になった城を見つめながら、自分に良くしてくれている人物たちのことを考える。しかし、まだ戻る気はない。
 何か、小さくても変化が訪れるまでは……
「よしっ。もうすこしすすんでみようっ」
 自分自身を奮い起たせ、再び足を動かし始める。さっきまでと同じ様に、城から離れる様に、真っ直ぐと歩く。
 あともう少し。
 あともう少し。
 そう何度も考えながら、少しずつ――だけど確実に、その歩を進めていく。
 もう三十分程歩いた頃だろうか……
 シャルネアの視界に映る森が、その姿をわずかに変えた。
 シャルネアはその変化を敏感に感じ取り――嬉しさからか、心なしか弱々しくなっていた歩調を強め、変化点へと向かって駆け出した。
 直ぐにその変化点へと辿り着く。木々に囲まれた森という空間から一転。視界が開けた――そう表現するのに相応しい、まさしく木々の開けた空間へと辿り着いた。
 ――その景色を視界に収めた瞬間、シャルネアは思わず言葉を失ってしまった。
 辿り着いた場所は、小さな草原の様にも見えた。クーズベルク城の庭園の、数倍はあろうかという広さ。大人の足でも、端から端まで歩くには一時間あっても足りないかもしれない。シャルネアの視界に入ってはいないが、反対側の端から先には今までシャルネアが歩いてきた場所と同じ様に森が広がっている。しかし、それを知らないシャルネアは――いや、仮に知っていたとしても、それよりも気にかかる物があった。
 草原と表現したこの空間のほぼ中心に、巨大な岩があるのだ。いや、ただの岩ではない……
 近付けばハッキリと分かるであろう穴が開いている。巨大な――まるで、人間の何倍もの大きさの獣が通る為にあるかの様な、巨大な穴が……
 その巨大な穴に、シャルネアは確かに恐怖を感じていた。しかし、それ以上に好奇心を抱いてしまった。だから、シャルネアは進む。
 穴――岩の洞窟の中へと向かって、ゆっくりと、しかししっかりとした足取りで。その先に何が待ち受けているのかも知らずに、あまり日の差し込まない洞窟の中へと入って行った。


 洞窟に入ったシャルネアの目に入ってきたのは、幻想的――とまでは言わないまでも、無骨ながら目を奪われる様な光景だった。
 外観からは暗闇が待っているとしか思えなかった洞窟内部だったが、いたる所に外と繋がる大小の穴が空いているらしく、その穴から太陽の光が差し込んできている。その光が中空で交差し、不規則に天然のスポットライトが出来ている。そのライトの場所も、陽の傾きによって変わっていくのだろう。
 暗闇に目が慣れるまでは……
 そんな風に思っていたシャルネアにとって、その事実は軽く肩透かしを受けると共に、嬉しい誤算でもあった。もっとも、シャルネア自身はそこまで難しく考えてなどいないのだろうが……
 いくら光が差し込んでいるとは言え、洞窟内部全体が明るいわけではない。シャルネアは慎重に、少しずつ奥へと進む。時には壁伝いに手をつきながら、時には光を頼りに。そうして歩くこと十分程。ほとんど真っ直ぐに進んだ先に、完全な空洞が存在していた。広さは、クーズベルク城の中庭程度だろうか。天井も高く、その距離は二十メートル程はあるだろう。大体クーズベルク城の見張り塔程の高さである。
 上部には例の穴も開いているらしく、光が横向きに差し込んでいるのだが――足元までその光は届いていない。その為、目の前に何があるのか判断出来ないシャルネアは、暗闇に目を慣らす為にぎゅっと目を瞑る。天井を見上げていた首を正面に戻し、ゆっくりと目を開ける。
 何がある――何かがある。と理解していたわけではないが、ただ何かが在る気がして……
 シャルネアは、少しだけ暗闇に慣れた目を凝らした。
「!」
 そして、気付いてしまった。そこに、在るはずのないモノがいたことに。ただ、直ぐにソレが何なのかは気付かなかった。とにかく、大きな獣がいる。それが、シャルネアが感じた正直な感想。
 巨大な獣がうずくまっている。眠っているらしく、シャルネアの存在には気付いていない様だ。だと言うのにも関わらず、シャルネアは向けられてもいない獣の意志に萎縮してしまっている。固唾を呑み、言葉を失っている。
 獣が、ゆっくりとその身を動かす。もぞもぞ。と、そんな擬音が聞こえてきそうな動きだが、実際にはズルズルと何かを引きずるかの様な音が聞こえただけだ。
 獣の眼が、ゆっくりと開かれ――その視線の先には、シャルネアがいた……
『人間か……』
 その顎を――口を動かすことなく、獣が言葉を発した。いや――発したとは言えない。その言葉は、シャルネアの脳に直接語りかけたものなのだから。
「えっ? え?」
 何が起きているのか理解出来ず、シャルネアは狼狽するあまりキョロキョロと辺りを見回す。勿論、声を発する者は自分だけ。周囲に、自分と獣以外に生物は存在しない。
 つい一瞬前までは萎縮していたシャルネアだったが、脳内に響くその声の優しさ――そして、開かれた獣の優しい瞳に、その強張った身体を完全にリラックスさせていた。
『それも、子供か』
 何を考えているのか、そんな言葉を呟き漏らした獣。心なしか、溜息を吐いた様にも思える。
「もしかして、あなたがしゃべっているの?」
『その通りだ』
 シャルネアの問いに対して、律儀に、しかし即答する獣。
 それでも一度消えた恐怖が戻ることなく、シャルネアは臆すことなく獣に対して言葉を向ける。
「すごい! ことばを話せる動物なんて、はじめて見た!」
『言葉を話しているわけではないのだが……』
「うぅん! ほんとにすごいよ! ねぇ、あなたの名前は?」
 獣の言葉を遮る様に、根拠も、理にも適っていない叫び声をあげるシャルネア。
 その後に続いた問いかけに対し、獣は困った様な表情を浮かべた。しかし、シャルネアはその変化に気付かず、獣の返事を待っている。
『――――』
「あ、そうか。ごめんなさい。先にじこしょうかいしないとだめだよね。わたしは、シャルネア。シャルネア=マーツ=ミリオム。お父さまやみんなは、わたしのことをシャルって呼ぶわ」
『ふぅ。僕の名前はシリウス。龍と呼ばれる存在さ』
 何かを諦めた様に、今までまとっていた堅い雰囲気とは違う口調で、獣――シリウスと名乗った龍は答えた――


 それが、シャルネアとシリウスの初めての出会い。
 正に運命と呼ぶに相応しい、必然的な出会いだった……


3 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 03:41:04 ID:WmknkmLA

第一章 ファイズ=アルリアの日記

 獣森の王国クーズベルク――
 その周囲を森と山に囲まれた自然豊かな国。その土地柄か自給自足が基本となる国ではあるが、他国との貿易が一切ないわけではない。
 民に大きな貧富の差はなく、大きな諍いが起きることもない平和な国だ。
 夕方よりも少し早い時間。そのクーズベルクの象徴とも言える、国の名を冠した城の一室で、一人の少女が机に突っ伏している。
 丸まった背中の上に見える腰程まである金色の髪は、まるで少女の存在を際立たせるかの様に、窓から差し込む陽の光をキラキラと反射している。
 コンコン。
 と、扉をノックする音で少女はうとうととしていた目を覚ました。
「は、はい?」
 寝起きのせいか少しだけ上擦った声で少女が返事をすると、扉の外から少女にとって聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ワーナーです。入っても宜しいでしょうか?」
「ええ。大丈夫」
 少女の返答の後に「失礼します」と言う声を発した後、扉の外にいる人物がその扉を開け部屋の中に入ってきた。
 部屋に入り一礼したのは、まだ若い――しかし青年と呼ぶには少しばかり歳を重ねた男。
 ワーナー=クレイヤード。顔の造りは悪くない。それなりに長い銀髪を頭の後ろで一つに結わいていて、長身で細身の男だ。白を基調とした布地の服を着ており、その上には黒いローブをまとっている。小さな丸縁の眼鏡を鼻の頭にかかる様にかけているが、その小さな眼鏡のせいで元々細く多少吊り上がったその目を余計に細くきつそうに見せている。
 本人曰く、外敵に少しでも強そうに見せる為の伊達眼鏡であり、視力自体は悪くないとのことだ。
 少女はその真偽を何度も確かめようとしたが、結果としてそれを定かには出来ていない。
「シャルネア様、眠っていたのですか?」
「え? どうして?」
 キョトンとした表情を浮かべ、少女――シャルネアはその深い碧色の瞳を丸くした。
 シャルネア=マーツ=ミリオム。それこそが少女の名前であり、このクーズベルクと言う国の王女であることを示している。
「おでこ、赤いですよ」
 そう言って苦笑するワーナーを見て、シャルネアは恥ずかしそうに額を両手で隠した。もう遅いと分かってはいても、じっと見られたくはないのだろう。
「それよりも、どうしたの? 今日は勉強はない日だったはずだけど?」
 ワーナーはシャルネアの教師として城に雇われている者だ。元々クーズベルクの人間ではないワーナーだが、その博識を買われて5年前に雇われたのがシャルネアとの関係の始まりだ。
 本業は別にあるのだが、シャルネアはそれが何なのかは知らない。しかし、クーズベルクがその本業を支援することが出来るからこそこうして住み込みで働いて貰えていることは知っている。勿論、その本業についてシャルネアは何度も尋ねている。しかし、明確な答えを返して貰ったことがないのだ。
 それを疑問に思いながらも、優しく自分の面倒を見てくれるワーナーのことをシャルネアは好いていた。
「シャルネア様が頼まれた物を用意してきたんですが……必要ありませんでしたか?」
 意地悪そうに笑みを浮かべ、今にも踵を返そうとするワーナー。その様子を見てシャルネアは慌ててワーナーを止める。
「待って! もしかして、見つかったの!?」
「ええ。大変だったんですよ? あの膨大な量の書庫から探すのは」
「分かってる。本当にありがとう!」
 苦笑を浮かべるワーナーに向けて、満面の笑顔を浮かべるシャルネア。まだその中身を確認したわけでもないのに、シャルネアは既に目的の物を手に入れたかの様に喜んでいる。
「それにしても……何故急に龍について調べようなどと思ったのですか?」
 シャルネアがワーナーに頼んだ物。それは龍に関する書物だ。
 御伽噺の類い程度ならシャルネアでも大した苦などなく探すことが出来る。しかしそれが学術書や生態について記された物となると話は違ってくる。
 そもそも龍とは、遥か大昔に存在していたとされる伝説上の生物である。クーズベルクには比較的龍に関する物語が多く語られており、その書物も確かに存在している。本物の龍について記された書物が、だ。
 しかしそれらは城の禁書庫に保管されている物で、例え王女であるシャルネアであっても無断でその中に入ることは許されていない。
 現在禁書庫に出入りが認められているのは、今シャルネアの目の前にいるワーナーだけなのだ。
「ちょっと、ね……」
 今この場にはいない親友のことを思い浮かべ、シャルネアは言葉を濁した。
「やはり教えてはくれませんか? 一応、禁書庫の物は帯出厳禁なんですがね」
「それでも、ワーナーは持ってきてくれたじゃない」
「それはまあ、他でもないシャルネア様の頼みですからね。それに、個人的にも龍に関してはいつか調べようと思っていましたし」
「そうだったんだ。でも、それなのに私が先に読んでもいいの?」
 少しだけ申し訳なさそうな表情を浮かべてそう尋ねたシャルネアだったが、ワーナーは小さく笑みを零すとこちらも少しだけ申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。
「それなら気にしないで下さい。実はその本を見つけたのは昨晩でして、夜の内に一通り目を通しましたから」
 そんな風に答えながら、ワーナーは後ろ手に持っていた一冊の書物をシャルネアに手渡した。
 簡単な事典くらいはある厚さの書物だ。それを受け取り、シャルネアは驚きの表情を浮かべた。
「これをたったの一晩で読み終えたの?」
「ええ、まあ」
 シャルネアの素直な驚嘆に少しだけ恥ずかしそうに苦笑を浮かべるワーナー。その恥ずかしさを誤魔化す為か、ワーナーは続けて言葉を紡ぐ。
「私から言えることは、その書物の信憑性が高いと言うことだけです。すべてが事実と言うわけではないでしょうが、史実とも合致する内容でしたし……にわかには信じられないかもしれませんが、少なくとも辻褄は合う。そんな内容でした。少なくとも、龍が確かに存在していた。ということに関しては」
「それってどういうこと?」
「読んでみれば分かりますよ。それでは、失礼します」
「え、ちょっと待って――」
 シャルネアの制止も聞かずに、ワーナーは小さく笑みを浮かべながら踵を返しシャルネアの部屋から出て行ってしまった。
 制止の言葉と共に伸ばした左腕を戻し、右手で受け取った書物を見つめてみる。
 薄汚れた濃い緑色のハードカバーの書物。特に題名などは記されていない。
 誰かが個人的に記した物なのだろうか? そんな風に考えながら、シャルネアはゆっくりとその書物を開いた。
 その最初のページにはこう記されていた。

 ――我が友、誇り高き白き龍について記す――

 ドクン。
 シャルネアの鼓動が、その一文を目にした瞬間に大きく跳ねた。
 シャルネアが龍について調べようと思った理由。それこそが、彼女が6年前に出会った白き龍にあるのだ。
 シャルネアは期待を隠せずにドキドキと胸を高鳴らせながら、書物に記されている内容を口に出して読み始めた。
「クーズベルクが建国されてから50年を祝う建国祭の日、町の中に小さな白い獣が姿を現した。それが、私と彼との出会いだった――」
 見たこともない獣が町中を駆け回っている。その苦情を受け、当時クーズベルクの近衛騎士だったファイズ=アルリアが獣の討伐隊に任命された。討伐隊はファイズの他に三名の騎士が選ばれ、ファイズはその指揮を任された。
 そうして獣を追う内に、ファイズは疑問を覚える。獣は、何一つ町の住民に実質的な被害を与えていない。それなのに討伐する必要があるのだろうか? と……
 そんな疑問を胸に抱えたまま、ついにファイズは獣の捕獲に成功する。
 幸い、他の騎士とは別行動を取っていた。
 ファイズは、自分の胸に抱えた疑問を直接獣にぶつけ、その真意を理解しようとした。当然獣とはっきりとした意思の疎通を図れるわけはなかったが、それでも獣に敵意も害意もないことは確信出来た。だから、ファイズは獣を森に逃がした。町には入ってくるな。そう、言い聞かせて……
 書物の内容は、ファイズ=アルリアの一人称によるそんな内容を語るものだった。
「これは、日記……?」
 それがシャルネアの書物に対する正直な感想。そしてそれは正しい。ファイズ=アルリアと言う男が書いた日記が、後に龍について記した重要な書物として城で管理されてきたのだ。
 シャルネアは一度止めた手を再び動かし、日記のページを捲る。
 建国祭の日から2年間、白い獣が姿を現すことはなかった。そう記され、一度日記は途切れる。
「この時の白い獣こそ、後の我が友――白龍シリウスである――」
 最初のページ同様に、1ページ――たったの一文に、1ページを使ってそう記されていた。
「やっぱり……」
 シャルネアは最初の一文を見た時に予感していた。誇り高き白き龍。その正体は、6年前に自分が出会った白き龍――シリウスだと。
 それから夕食時まで日記を読み耽ったシャルネアは、少しだけシリウスのことを知れた気がして満足気に日記を閉じた。
 夕食を済ませ、湯浴みをし、就寝する。
 それが普段のシャルネアの生活サイクルだが、続きが気になって仕方なかった日記を、眠りに着く前に再び開き――
 いつもより少しだけ夜が更けるまで、その日記を読み耽った……


4 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 03:46:46 ID:WmknkmLA

 ファイズ=アルリアの日記を読み始めた翌日、朝食を終えたシャルネアはクーズベルク城の北側に位置する廊下を一人で歩いていた。
 食堂は城の一階西側にあり、そこから北側の二階にある自身の部屋に戻る為には通らなければならない廊下。正確には遠回りをすれば違う道から戻ることも出来る。しかし、一刻も早く部屋に戻り日記の続きを読みたいシャルネアが遠回りするはずもなく、真っ直ぐに最短の道のりで自分の部屋へと向かって行く。
 心なしか、その足取りがじょじょに速くなっていく。
「シャル様!」
 早足で歩くシャルネアの姿を見て、そんな風に声をかける者がいた。
 短く切り揃えた黒髪に、髪の色同様に黒く、そして澄んだ瞳の青年。歳はシャルネアよりも少し上の18歳で、クーズベルク城内を守る騎士の一人だ。
 どちらかと言えば小柄で細身ではあるが、騎士と言う役職に相応しく引き締まった身体つきをしている。
「ファイ? どうかしたの?」
 少し前に通り過ぎた部屋から出てきた青年――ファイ=ルークに声をかけられたことで足を止め、振り返った先にいる人物の姿を見てシャルネアはそんな呟きを漏らした。
「それはこっちの質問です。そんなに急いでどうしたんですか?」
「それは……」
 特に隠す程のことではない。読みたい本があるとだけ言えば済むのだが、シャルネアはその本が禁書庫の物であることを意識してしまい言葉を濁してしまった。
「言い難そうですね。もしかして、また勉強をサボろうとでもしてたんですか?」
「そう言うわけじゃ――」
 ない。そう言おうとしたシャルネアだったが、ファイの勘違いがむしろ好都合だと気がつき言葉を止めた。
「いえ、まあそんなところかな。ワーナーには内緒にしててね?」
 今でこそ勉強をサボることなど殆どないシャルネアだったが、数年前までは当たり前の様に逃げ出していた。ファイもその事実を知っているからこそ、冗談半分で紡いだ言葉だったのだが……
「……何か隠してます?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないっ」
「……分かりました。何をするつもりか知りませんけど、ほどほどにしておいた方が良いですよ?」
「分かってる。皆に迷惑かけるつもりなんてないから」
 今のところはね。そんな風に心の中で付け足すシャルネア。実際にこれから直ぐに誰かに迷惑をかけるわけではないが、それでも今までに多くの人に迷惑をかけてきたことを理解しているからこそ、そんな風に考える。
「じゃあね、ファイ」
「ええ。気をつけて」
 そんな言葉を交わし、二人はそれぞれ逆方向に歩き出す。シャルネアはファイの行き先を知りはしないが、それを気にかけることもなく踵を返し、再び自分の部屋へと向かった。


 手にしている日記を閉じて、シャルネアは小さく息を吐いた。
 最後まで読んだわけではないが、日記の筆者であるファイズがシリウスのことを本当に大事に想っていることが窺えるその内容に、シャルネアは少なからず嫉妬していた。
 シャルネアはシリウスを親友だと思っているし、シリウスも自分のことを親友だと思ってくれている。そう信じてはいるものの、過去にそれよりも強い絆で結ばれていた者がいる。そんな焦燥感に似た感情を抱き、しかしそれを理解出来ずに悶々とした気分のまま再び息を吐く。
 コンコン。
 気持ちが沈みかけたところで扉をノックする音が聞こえ、シャルネアはびくりと肩を震わせた。
「……はい?」
 小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ、扉越しに言葉をかける。
「ワーナーですが、入っても宜しいでしょうか?」
 それは、ワーナーがノックをした後に毎回尋ねる言葉だ。多少言い回しが変わることもあるが、シャルネアの返事の後には必ず今の様な言葉を紡ぐ。
「どうぞ」
 シャルネアのそんな返答に、ワーナーは静かに扉を開けて部屋の中に入ってきた。
 開けた時同様に静かに扉を閉め、ワーナーは真っ直ぐにシャルネアを見つめる。
「読んでいたのですか?」
 何を。とは言わない。お互いに何を指しているのか言わずとも理解出来る。そう確信しているのだろう。
「ええ」
「どうです? 知りたいことを知ることは出来ましたか?」
「多分、少しは……」
 その返事は、シャルネア自身が明確に何かを知りたいと思っているわけではないことから出た言葉だ。しかしそれでも、ファイズ=アルリアの日記には龍――シリウスに関して色々と記されているのは事実である。
 龍について、そしてシリウスについて知りたいと思っているシャルネアにとっては、これ以上の資料は存在しないだろう。
「読み終えては……いないみたいですね」
「当然でしょう? 私はワーナーみたいに本読むの早くないんだから」
「自分が特別速読だとは思っていないのですけどね……」
 シャルネアの言葉に、嘆息混じりに息を漏らすワーナー。
「一つ気になったんだけど……」
「なんでしょう?」
「どうして、この日記はこんなに綺麗なの?」
 クーズベルクが出来てから今は246年が経っている。ファイズ=アルリアとシリウスの出会いが建国から50年後のことで、日記が書かれたのが更に後のことだったとしても、人間の寿命を考えれば少なくとも日記が書かれてから100年以上は経っていることになる。
「文字が掠れてるところはあったりするけど、ほとんどが読める状態だし、装丁もそんなに酷くなってない」
「答えは簡単ですよ」
 不思議そうに日記を見つめるシャルネアを見て微笑を浮かべながら、ワーナーは右手の人差し指を立ててそう言った。
「どういうこと?」
「その日記は写本なのです。最後のページに書いてありますよ」
 ワーナーのそんな言葉で、シャルネアは日記の最後のページを開く。
「……本当だ」
 50年程前に、アルリア家の倉で見つかったファイズの日記の重要性に気がついた当時のアルリア家の当主が、可能な限り正確に書き写した物が今シャルネアの持っている日記だ。
 一度新しく書き直されているとは言え、それでも50年の月日が経っていれば傷みもするし劣化もする。それにしても十分に良い保存状態と言える程、その内容を読むことが出来る。
「その日記を書き写したのは当時のアルリア家当主、アルベルト=アルリア。騎士の名家であるアルリア家でしたが、彼の代でアルリア家は潰えます」
「そう言えば、アルリアって名前聞かないかも……」
 突然のワーナーの説明に、戸惑いを覚えながらもその言葉と自身の記憶を比べてみるシャルネア。
「アルベルトは、アルリア家とほぼ同格の家の娘に恋をしてしまったのです。騎士にとって家名とは誇りとも言えるものでした。しかし、不運なことにアルベルトもその娘も一人っ子。アルベルトにしてみれば既に家名を継いでさえいたのにも関わらず……娘の両親は、アルリア家に娘が嫁ぐことを許さなかったのです。それでも娘のことを諦められなかったアルベルトは、自身の誇りとさえ言える家名を捨て、娘の家に婿入りをしました。この時点でアルリアの名を持つ者はアルベルトの両親だけになったのですが、二人もアルリア家が潰えることを覚悟し、やがて二人の命が尽きると共にアルリア家は潰えた。と言うわけです」
「そうだったんだ……でも、どうしてワーナーはそんなことまで知ってるの?」
「その日記を読んで、アルリアと言う家に興味が湧いたので調べたのです」
「えっと、一日で?」
「はい。私も驚いてます。今回は運が良かったとしか言いようがありませんね」
「どうして?」
「シャルネア様は、もう少しご自分で考える様にした方が良いかもしれませんね」
 苦笑混じりにそんな風に言われ、シャルネアは思わず口を噤んだ。
「私はまず、城の中にアルリアと言う家名を知っている者がいないか探すことにしたのです。そして直ぐに見つけました。ただ知っているどころか、とても縁の深い者をね」
「…………」
 再び尋ねてしまいそうになるのを堪え、シャルネアはワーナーの言葉の続きを待つ。
「アルベルトが婿入りをした相手の家名――それがなんとルーク家だったのです」
「ルーク!? それって、ファイの家名じゃあ……」
「その通りです。アルリアについて私に教えてくれたのはそのファイ君です。本当に運が良かった」
 騎士の家系のことは騎士に聞けばわかる。と言うわけではない。それでも一番知っている可能性が高いのが騎士であろうと思っていたワーナーだったが、たまたま最初に尋ねたファイが大当たりだったことに内心今も驚いている。もっとも、それを表に出したりはしないが。
「そうだったんだ、ファイのご先祖様がシリウスと……」
「何か言いましたか?」
 シャルネアのぼそりと呟いた言葉を聞き取れなかったワーナーの問いかけに、シャルネアは慌てて首を横に振る。
「何でもない。それより、今日の勉強はいいの?」
「そうですね……では、そろそろ始めましょうか」
「ええ」
「それでは、今日はクーズベルクの隣国について説明しましょう」
「お願いします」
 そんな言葉を境に、二人は雑談から勉強をする為の時間と気持ちを切り替え、ワーナーの言葉の通りクーズベルクの隣国についてシャルネアは学ぶことになった……


5 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 04:31:22 ID:WmknkmLA

 隣国について学ぶと言うワーナーの授業を終えたシャルネアは、しばしワーナーと雑談を交わした後再びファイズ=アルリアの日記を読んでいた。
 日記を読んでいる内に、シャルネアはシリウスと出会ってからのことを思い返す様になっていた。
 初めて出会った時の衝撃。再び会いたいと思い、度々城を抜け出しては会いに行っていた頃のこと。
 その内に龍と言う存在について知りたいと思う様になり、出来る限り自分でも龍について調べてみた。しかし、立場上表立って龍の存在について調べることは出来なかった。
 そうしてヤキモキとしていた頃、ワーナーと出会うことになる。初めの頃はワーナーに心を開いていないシャルネアだったが、じょじょにその壁も薄れ、今の様な関係になる。それでも龍について尋ねることは出来ずにいたのだが、最近になってワーナーが禁書庫への出入りを認められいることを知り、龍について記されている書物を探してくれる様に頼んだのだ。
「ワーナーには、感謝しないとね」
 改めてそんな風に考え、何かお礼でもした方が良いかと思案する。
 コンコン。と、扉を叩く音で思考を止め、シャルネアは言葉を返す。
「はい?」
「シャルネア様、お食事の御用意が出来ました」
 それは、何度か聞いたことのある城に使える侍女の声だった。クーズベルクでは基本的に個々人に従事する者はいない。城で働いている者は、王族の為に働いているのではなく国の為に働いているのだ。勿論、国と言う形を取っている以上一番権力を持っているのは国王ではあるのだが、絶対的な権力と言うわけでもない。もっとも、シャルネアや現国王であるアラダブル=ミリオムなどは民に好かれている為、反逆の意思を持つ者は今の所現れていない。それだけ民に信頼されていると言うことでもある。
「分かった。ありがとう」
 扉越しに言葉を返すと、侍女の気配が去って行くのを感じシャルネアは日記を閉じて立ち上がった。
 勉強の為に用意された机の上に日記を置き、ゆっくりと扉へと向かう。
 そのまま扉を開き廊下に出ると、少し先にファイの姿があって声をかけた。
「ファイ!」
「あ、シャル様。これから夕食ですか?」
「ええ。良く分かったわね?」
「今侍女と擦れ違いましたからね。何かを運んだりしてる訳でもなかったし、歩いてる位置的に、シャル様に食事の準備が出来た報告にでも行ってたのかと思ったわけです」
「へぇ……ファイって結構凄いのね」
 それは単純な驚きから出た言葉で、シャルネアは褒め言葉として使ったつもりだったのだが、ファイはその言葉を皮肉と受け取ったのか僅かに頬を引きつらせる。
「俺はそんなにバカそうに見えますかね?」
「そんなことないわよ。今のも褒めたつもりだったんだけど……」
 ファイを怒らせてしまったと思い、シャルネアは上目遣いに弱々しく言葉を返した。そんな様子を見てファイもしまったと思ったのか、慌てて言葉を紡ぐ。
「冗談ですよっ。からかわれたのかと思ってちょっと反撃してみただけです」
「そうなの?」
「はい」
「もうっ。今度やったら私が怒るからね?」
「はい。すみませんでした」
 少しだけ頬を膨らませるシャルネアに、ファイは素直に頭を下げた。
 こんなやりとりも、クーズベルクの王族だからこそ許されるものだろう。
「そう言えば、ファイはお勤めだったの?」
「はい。と言うか、まだ終わりじゃないんですけどね」
「って言うことは、サボリ?」
「そんなわけないじゃないですか。今は休憩中です」
「そうなんだ」
 などと会話を交わしている内に、シャルネアはファイの先祖がシリウスと出会っていたことを思い出す。
「どうかしましたか?」
 そんなシャルネアの僅かな変化を感じ取ったらしく、ファイが不思議そうに尋ねた。
「何でもない。それじゃあ、お勤め頑張ってね」
「あ、はい。ありがとうございます」
 そんな言葉で自身の中で燻るあまり良くない感情を誤魔化し、シャルネアはファイと別れた。
 それから夕食を済ませたシャルネアは、部屋に戻ると再び日記を読み始める。
 すると急にシリウスに会いたくなり、その感情を抑えられなくなる。
「うぅ……今日は早く寝て、明日会いに行こうっ」
 そんな決意を固め、シャルネアは直ぐに眠る準備を始めた。
 それが終わる頃には自然と眠気も訪れ、シャルネアはそのまますんなりと眠りに着いた……


6 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 04:40:35 ID:WmknkmLA

 木々の隙間から陽の光が差し込む森の中を、一人の少女が駆けている。
 腰程まで伸ばした金色の長い髪が、今は己の生み出す風によって宙を舞っているかの様になびいている。
 息を荒げて走るその表情は、本来は愛らしいであろうその顔を多少は歪ませている。それでも尚、彼女から窺える気品は損なわれていない。
「ふぅ」
 少女――シャルネアは一度足を止め、息を吐く。
 何度か深呼吸をして、乱れた動悸を落ち着かせる。
 夏に入ったばかりではあるものの、その陽射しは十分に強く、木々の葉によって遮られているとは言え気温は高い。走っている最中は風を受け涼しく感じるが、立ち止まったことで思い出したかの様に熱さを感じる。
 シャルネアは額に流れる汗をスカートのポケットに入れてあるハンカチで拭う。
 王女と言う肩書きを持つシャルネアの服装は、豪華絢爛と言うわけではないが十分に高価な生地で作られたドレス風の白い服だ。スカート部分――膝の辺りにはスカートを一周する様にフリルが付いていて、そのフリルに隠れる様に右足側にポケットが作られている。
 今年14歳になったばかりのシャルネアの顔つきはまだ幼さを残しており、その可愛いと言うイメージの服が良く似合っている。
 小休憩を挟んだシャルネアが、再び足を動かし始める。
 本来ならば、王女であるシャルネアは国領内とは言え決して一人で森の中を駆け抜けて良い立場ではない。もちろん、見つかれば止められていただろう。
 しかし、昼食を終えたシャルネアは自分の部屋へと戻らずに、こっそりと城を抜け出したのだ。
 6年前と、同じ様に……
「やっと着いた」
 しかし6年前よりも確実に、ここに辿り着くまでの時間は短くなっていた。
 それは単に身体の成長故のことではあるが、それでもシャルネアはその事実を嬉しく思っている。
 シャルネアがいる場所は、霊邪の森と呼ばれる森だ。その中に開けた小さな草原の様な場所があり、その中心には巨大な岩がある。その岩に空いた大きな穴――その洞窟の奥に住んでいる親友に向けて、シャルネアは大きな声で呼びかける。
「シリウスー!」
 本来ならば、その声は洞窟の奥にまで届く程ではない。しかし、シリウスと呼ばれた相手はその声を聞き取ることが出来たのだろう。シャルネアの呼びかけに応え、シリウスは洞窟の奥から外へと向かって歩き出した。
 ドシンッ。
 ドシンッ。
 そんな擬音がぴったりと合う足音がじょじょに大きな物に変わってきたことから、シャルネアはシリウスに自分の声が届いたのだと確信出来た。
 やがて姿を現したのは、体長が10メートル程はあろうかと言う巨大な獣だった。
 その全身は真っ白い毛並みに覆われている。二足歩行種らしく、後足はその巨体を支えるに相応しい太い足をしており、前足は後足と比べると細く、長さもあまりない。何よりも特徴的なのは、その巨体を空へと羽ばたかせる為にあるであろう翼だ。背に生えた翼は美しく、その巨体を浮かす浮力を生み出せるとは到底思えない。しかし、その獣――シリウスは紛れもなく空を飛べる。その事実を、シャルネアは既にこの6年の間に理解している。
『少し久し振りだね、シャル』
 その言葉は、シリウスの口から発せられたものではない。対象の脳へと直接言語を送ることによって成る念話の一種だ。これはシリウスを含め、龍と言う存在が会話をする時に用いる手段である。
 そう、今シャルネアの目の前にいる巨大な獣こそが、ファイズ=アルリアの日記に書かれている白龍シリウスなのである。
「うん。シリウスは元気だった?」
 初めて念話を送られた時は驚いたシャルネアだったが、何度も会い、そして話す内に慣れてきた。今では脳内に直接響くその声を当然の様に受け入れている。
『もちろん。僕ら龍が体調を崩すなんてありえないからね』
「そう言えば、前にもそんなこと言ってたっけ。でも、もしかしたらってこともあるかもしれないし」
 シリウスの返答に対しそんな風に言うシャルネアの言葉は、その表情と共に真剣にシリウスを心配しているものだった。
『心配しないで、シャル。本当に大丈夫だから』
「……ならいいんだけど。でも、気をつけてね?」
『ああ』
 そんな風に頷くシリウスの姿を見て、シャルネアは納得したのか笑顔を浮かべる。
「今日は、シリウスに聞きたいことがあって来たの」
 単純に会いたくなったこともあるが、それ以上にシャルネアはあの日記のことを尋ねたかった。だからこそ、シリウスに会いたいと思ったのかもしれない。
『何だい?』
「ファイズ=アルリアって言う人、知ってるよね?」
『……どこでその名前を?』
 シャルネアの言葉に、少しだけ沈んだ口調で聞き返すシリウス。
「日記を見つけたの。ファイズさんの……写本だけどね」
『……そうなんだ。それに、僕のことが書いてあったんだね』
「うん。でも、悪いこととかは何も書いてなかったから安心して。まだ全部読んだわけじゃないけど……ファイズさんが、本当にシリウスのことを大事に想ってるって言うのが伝わってきたんだ。だから、シリウスもファイズさんのことを大事に想ってたのかなって気になって……」
『そうだね……ファイズとの出会いがあったからこそ、今の僕がある。それは間違いないし、僕はファイズのことが好きだよ。もちろん、シャルのこともね』
 そんな風に答えるシリウスの言葉は、とても優しい声音だった。シャルネアが感じている嫉妬の様な感情、そして不安を察したのだろう。
「ありがとう」
 シリウスの優しさをその身に受け、シャルネアは柔らかな笑みを浮かべる。
 その後に訪れたのは沈黙。しかしそれはお互いが穏やかな気持ちでいる、柔らかな時間――
「そう言えば……」
 その僅かな沈黙を破るかの様に、シャルネアが口を開いた。
「私たちが出会って、もう6年経つんだよね」
『そうだね。僕にしてみれば6年なんて短い期間だけど、シャルはこの6年ですごく成長したと思うよ』
「そんな風に言われるとちょっと照れるんだけど……そう思ってくれてるなら嬉しいな」
『思ってるさ。何せ、初めて会った頃はずっと僕のことをおじいちゃんって呼んでたくらいだしね』
 苦笑混じりの声でそんなことを言うシリウス。シャルネアは恥ずかしそうに笑みを浮かべながら、「そうだったっけ?」と呟く。
『240年生きてるって聞いて、じゃあおじいちゃんだね。なんて言われたのを、今でも鮮明に覚えてるよ』
 と、苦笑混じりの声で言うシリウス。
 龍と人間では成長のサイクルが違う。当時のシリウスは人間で言えば24歳程の若者と言える年齢で、今もそう大差はない。龍の成長速度は人間の十倍程なのだ。ただし、ある一定まで成長を遂げた龍の老化速度は著しく低下する。これは龍に寿命と言う概念が存在しない為なのだが、そのことをシャルネアは勿論人間は誰一人として知らない。
「えっと……ごめんね?」
『大丈夫。別に怒ってないよ』
 おずおずと謝るシャルネアに対して、変わらずに優しい声音で言葉を返すシリウス。
『そう言えば、ファイズの日記にはどんなことが書いてあったんだい?』
「やっぱり気になるの?」
『そりゃあね。知らないところで自分のことが書かれてるのは気になるよ』
「そっか……それじゃあ、教えてあげる」
 シリウスの言葉にそんな返事をして、シャルネアは瞳を閉じる。日記の内容を思い出す為に記憶を探り、ゆっくりと口を開く――
 語られたのは、ファイズとシリウスの出会い。
 そして再会。
 身体的よりも、精神的に成長していくシリウスの姿。
 人間の言葉を理解し、ファイズが年老いた頃には念話も出来る様になっていたこと。
 それから交わされた言葉の数々。
 ファイズとシリウスの思い出が、まさしく日記として記されていたこと。
 そうした中でファイズが導き出した、龍と言う存在についての考察。
 それが全てではないが、シャルネアの語った日記の内容に、シリウスは感慨深そうに聞き入っていた。
『ファイズは、そんな風に思ってのか……』
「……うん」
 しんみりとした空気が漂い、シャルネアは少しだけ気まずそうに俯いた。
『シャル』
「……何?」
 俯いていた顔を上げ、シャルネアはシリウスの呼びかけに応える。
『ありがとう』
「え? あ、うん」
 何に対して礼を言われたのか分からず、シャルネアは一瞬呆けてしまったものの、それが日記の内容を語ったことだと思い頷いた。実際にはそれ以上に意味を込めた感謝の言葉だったが、シリウスはその意味までは言葉にしない。
 長い間独りで過ごしてきたシリウスにとって、シャルネアの存在は心の潤いとなっていた。ファイズとの出会いと別れがあったからこそ余計に。ファイズのことを思い出したシリウスは、シャルネアの存在に改めて感謝の言葉を告げたくなったのだろう。
 それからしばらく雑談を交わし、陽が暮れる少し前頃にシリウスが会話を切った。
『今日はもう帰った方が良い』
 そんな言葉に素直に頷き、シャルネアはクーズベルク城へと帰って行った。


7 :夕咲 紅 :2009/04/06(月) 04:46:46 ID:WmknkmLA

 クーズベルク城の裏庭――霊邪の森との境辺りで、一人の青年が汗を滴らせながら剣を振るっている。陽は落ちかけ、気温そのものはそれ程高くない。軽い運動でこれ程までに汗が流れることはないだろう。それは、青年が長時間こうして剣を振るっていることを意味している。
「精が出るな、ルーク」
 そんな青年――ファイ=ルークの背後から声をかけたのは、口ひげを生やした中年の男。そのひげも、そしてオールバックにしてある短めの頭髪も茶色がかった色をしている。鉄製の鎧を身に纏っているその身体付きは良く、鍛え上げられているのが瞭然だ。
 男の名はテルス=サランド。クーズベルク近衛騎士隊の隊長を勤める男である。
「サ、サランド隊長!?」
 声をかけられたことで剣を振るっていた腕を止め振り返ったファイだったが、その相手が想像もしていなかった相手だったことで驚きを隠せなかった。
「どうした? 別に気にせず続けていいんだぞ?」
「いえ、そろそろ終わりにしようかと思ってたんです。それより、どうして俺なんかに声を?」
「ルーク、あまり自分を卑下するものじゃないぞ。お前の実力も働きも私は十分に理解しているつもりだ」
「あ、ありがとうございます!」
 緊張のせいか上擦った声を上げるファイ。そんなファイの様子を見て、おかしそうに小さく苦笑を浮かべるテルス。
「もう直ぐ、近衛騎士昇格試験だったな。その為の訓練か?」
「はい。あ、いえ……剣を振ること自体は日課なんですけど、今日は午後が非番だったから特別です」
「……午後からずっとこうしていたのか?」
「はい」
 即答するファイの姿を見て、その言葉に偽りがないとテルスは確信が持てた。否、そういう青年だと理解しているからこそ、テルスはファイのことを買っている。
「そうか。まあ、訓練は良いがあまり無茶はするなよ。試験日に体調不良じゃあ話にならないぞ?」
「分かってます。これでも、自己管理には自信があるんですよ」
 そう言ってニッと笑みを浮かべるファイ。その様子を見てテルスを苦笑を浮かべる。
「それは初耳だが、素晴らしいことだ。まあ、何にしてもしっかりな」
「はい。ありがとうございます」
 テルスの言葉に頭を下げて答えるファイ。
 満足気にテルスは頷き踵を返す。ファイはその姿が見えなくなるまで頭を下げ続け、そよぐ風によって揺れる木々の擦れる音以外には静寂を取り戻した頃に頭を上げた。
 一息吐く。
 空を見上げ、ファイは目を瞑る。
 暖気を含んだ生暖かい風すら、汗をかいた身体には涼しく感じる。その風を心地よく感じながら、ファイは試験のことを考える。
 近衛騎士――それはクーズベルクの騎士たちの憧れである。難関と言われる試験を突破した者だけがなれる近衛騎士は、町や城を守る通常の騎士と違い王族を守るのが主な仕事だ。もちろん、それだけが仕事と言うわけではない。他の騎士たち同様に町や城の警備をすることもあれば、他の騎士を従え人に危害を加える凶暴な動物の討伐などを行うこともある。
 その近衛騎士になる為に、ファイは日々鍛錬を行っている。
 ゆっくりと目を開け、ファイは視線を真っ直ぐに戻す。 
「戻るか……」
 そんな呟きを漏らし踵を返した瞬間、ファイは森の方に人の気配があることを察した。瞬時に視線を森へと向け、同時に身構える。
 だが、草木の合間から現われた人物を見て、ファイは驚きの余り言葉を失ってしまった。
「あ、ファイ……」
 現われた人物――シャルネアは一瞬気まずそうな表情を浮かべたものの、直ぐに笑顔を取り繕う。
「今日も特訓してたの? 頑張ってるわね」
「ええ、まあ……それよりシャル様、どこか行ってたんですか?」
「そ、そんなわけないじゃない。ちょっとお城の周りを散歩してただけ」
 慌てて言い繕うシャルネアだったが、その様子から嘘を吐いているのは明らかだった。ファイはわざとらしく大きく溜息を吐き、首を左右に振りながら肩を竦める。
「もし俺がシャル様付きの近衛騎士になったら、絶対に勝手な外出は許しませんからね」
 王族ではなく国に従事するクーズベルクにおいて、近衛騎士だけは担当と言う形で個々人の警護に当たる。
 今のファイの言葉は自身の願望も含まれているのだが、シャルネアは当然そのことを知りはしない。
「だから、ちょっと散歩してただけだってば」
「信じられません」
「……そう。なら別に信じてくれなくてもいいわ。それじゃあね」
 頑ななファイの言葉に、シャルネアは軽く頬を膨らませながら城へと向かって歩き出す。
「シャル様!」
 真剣な声色で呼び止められ、シャルネアは足を止めゆっくりと振り返る。
「何?」
「本当に、危険なことはしてないんですよね?」
 そう問いかけるファイの表情は、心の底からシャルネアのことを心配しているのだと分かるものだった。だからこそシャルネアも真剣にその問いに言葉を返す。
「ええ」
 道中、絶対に危険がないとは言えないが、シリウスと会って話をすることが危険なことだとは思っていない。だからこそシャルネアははっきりとそう答えた。
「……わかりました。でも、本当に無茶はしないで下さいね」
「わかってる」
 心配してくれてありがとう。そんな意味を込めた笑顔を浮かべ、シャルネアは今度こそ城の中へと戻って行った。
 その場に残されたファイも、しばらく涼んでから城の中へと戻る。
 そうして、陽が沈んでいく。
 今はまだ保たれている、平和な景色を赤く染めながら――


 龍とは一体何なのか――
 シリウス自身に龍であることを告げられてから、私はずっとその疑問を抱いてきた。
 龍――
 太古より存在する獣。人の何倍もの巨体を持ち、尚且つ人よりも優れた知能を持つ伝説上の生物。
 シリウスはまだ成体ではない為、大きさは私と同じくらいだ。しかしいつかは伝説の通り巨体になるのだろう。それは初めてシリウスと会った時から今までの成長を考えれば事実であると推測出来る。
 ならば知力はどうなのだろうか。
 あらゆる生物の言語を理解し、意志の疎通を可能としている。魔力を使い、念話という形で言葉を交わす。それを幼い内から可能としていることを考えれば、確かに知能も高いのだろう。
 魔法――
 そんな言葉が私の脳裏に浮かぶ。
 龍の持つ力は、かつて神が使ったとされる魔法なのではないだろうか?
 そんな風に思えてくる。
 そもそも龍は、本当に生物なのだろうか?
 私はシリウスを友だと思っている。シリウスには間違いなく自我もある。
 だがしかし……
 私は、龍もまた神の遺物なのではないかと考えている。
 確証はない。これはただの私見だ。
 おそらく、私がその答えに辿り着くことはないだろう。
 しかし答えなどとは関係なく、シリウスの存在は公には出来ない。
 私はそれを悲しく思う。
 孤独に生きなければならない友のことを思うと、どうしても目頭が熱くなってくる。
 ……私の余生は短い。
 願わくば、私の命が尽きた後も、シリウスに新たな友人が出来ることを祈る。
 我が友が、孤独に苛まれない様に……

 パタン。
 そんな音を立て、シャルネアはその日記を閉じた。
 天蓋付き――ではないが、十分に豪華と言えるベッドの上で、シャルネアは日記を胸に抱き締め仰向けに倒れる。
 見慣れた自身の部屋の天井を見上げながら、シャルネアは日記の書き手のことを考える。
 ファイズ=アルリア。
 クーズベルクの近衛騎士。
 シリウスの親友。
 ファイのご先祖様……
 事実として受け止めたそれらの内容が、まとまった意味を持たずただぐるぐると頭の中を巡る。
 日記の内容から、どの様な人となりだったのかはある程度想像は出来る。だがそれはあくまでもシャルネア個人の感想であって、実際のファイズの人となりと言うわけではない。
 どんな人間だったのか気にはなるが、その答えは永久に手に入れることが出来ない。シャルネアにとって、ファイズ=アルリアは過去に存在した人物なのだから仕方がない。それでも知りたい。と、答えの出ない問いを頭の中で繰り返す。
(だけど……)
 と、シャルネアは思う。
(少なくとも、いえ――間違いなく、この人はシリウスのことを大切に想っていた)
 それが理解出来るからこそ、安堵と嫉妬を同時に感じる。
 良くも悪くも、偉大な生物だと語られる龍。そのシリウスと畏怖の対象ではなく、対等な友として見ていた者がいたと言う安堵。しかしそんな特別な相手が自分だけじゃなかったと言う嫉妬。
 最初は気づいていなかった。しかし、今のシャルネアはそれを自覚していた。だからこそ悩む。いや、悩む必要など本来ならばないのかもしれない。それでも、シャルネアは悩んでしまう。今までに感じたことのない自身の汚い感情と、どの様に向き合っていけばいいのか。
 ファイズ=アルリアの日記を読んでしまったからこそ悩む。
 この先、シリウスとどの様に接していくべきなのかを……
 王族――そんな立場だからこそ余計に、龍と言う強大な存在との接点を持つことに危険性を伴う。
 少女として……一個人としての悩み。
 そして、王族としての悩み。
 二つの悩みを抱えたまま、シャルネアはいつの間にか眠りの淵へと落ちていた……


8 :夕咲 紅 :2009/04/20(月) 03:07:46 ID:WmknkmLA

第二章 近衛騎士昇格試験

 クーズベルク城一階にある一室で、二人の男がテーブル越しに顔を合わせ言葉を交わしている。
 一人は口ひげを生やし、茶色がかった髪をオールバックにした中年の男。クーズベルク近衛騎士隊の隊長であるテルス=サランドだ。
 もう一人は黒髪黒瞳の男。歳はテルスよりも少し上だろうか。テルスの様に鍛え上げられたと言うわけではないが、それなりに引き締まった身体つきをしている。実際の年齢よりも多少若く見られがちだが、決して軽んじて見られないだけの威厳を持ち合わせている。
 アラダブル=ミリオム。それが男の名前であり、獣森の王国クーズベルク国王の肩書きを持つ男だ。
「テルスよ、あの青年をどう思う?」
 本日の午前より始まったクーズベルク近衛騎士昇格試験。昼の休みを利用して、アラダブルはテルスに午前までの様子を尋ねていた。
「ルークのことでしょうか?」
 アラダブルの問いかけにそう返したテルスだったが、その答えが間違っていないことを確信していた。
 試験を受ける為の年齢制限はないが、あまり若いうちからこの試験を受ける者はいない。早い者でも20代半ば辺りから、と言うのが一般的だ。実技試験としての模擬戦闘も、筆記試験のどちらも知識と経験が求められるこの試験では、10代と言う若さは決して有利とは言えない。だからこそ、近衛騎士を目指してはいるが試験に臨むのはある程度歳を重ねると同時に経験も重ねてから。と考える者が多いのだ。
「ああ。クーズベルク史上最年少……剣の腕はある様だが……お主はどう思っている?」
「私見を言わせてもらえば、合格にしてやりたい気持ちはあります。しかし、まだ早いと思うのも事実……後は、試験の結果次第でしょう」
「ふむ、そうだな。結論を急ぐ必要はないか……他には誰か期待出来そうな者はいるのか?」
「そうですね……いえ、単純な戦闘能力で言えばルーク以上の者はいないかと思います。しかし訓練と実戦は違う。その辺りはやはりルークには経験が足りませんので、もっと経験を積んだ者。と言う意味でなら他の全員にも期待は出来るかと」
「なるほど。やはり結果次第と言うことだな」
「そうなりますね」
「では、午後の部を楽しみにするとしよう」
 そんな言葉で会話を終え、二人は共に部屋を後にした。


 クーズベルク近衛騎士昇格試験。
 3年に一度行われるその試験は、初日を実技試験、二日目を筆記試験として二日間行われる。
 今回の試験に臨んでいるのは八人。騎士として数年腕を磨いてきた彼らの中でも、ファイの力量は群を抜くものだった。
 トーナメントでの模擬戦闘。それが実技試験の内容で、ファイは順調に勝ち上がっていた。
 午前中には一回戦を行い、午後に入ってからは準決勝。そして、これから決勝戦が行われようとしている。
「流石だな、ルーク」
「そう言うジーン先輩こそ」
 試験が行われているのは、クーズベルクの地下にある騎士や兵士の訓練場だ。一対一の戦闘ならば十分に動き回れるだけの広さはある。
 そんな訓練場のほぼ中心で、二人の男が視線を合わせながらそんな言葉を交わしている。
 一人は黒髪黒瞳の青年、ファイ=ルーク。
 そしてもう一人が、短く切り揃えた金髪、そして垂れ気味の目が特徴的なローグス=ジーン。
 二人の会話の通り、ローグスはファイの騎士としての先輩にあたる。今回の受験者の中ではファイの次に若く、今年で24歳になる有望株だ。
「始め!」
 二人の会話が途切れたのを見計らったのか、勝敗の判定を任された近衛騎士がそんな声を上げた。
 ほんの数秒前までは穏やかな雰囲気で話していた二人だったが、その掛け声と同時に臨戦態勢を取っていた。
「行くぞ」
 先に動いたのはローグス。腰に提げた剣の柄に置いていた手を――身体を捻り、そこから戻る回転を利用して抜剣する為に腕を動かす。
 二人の距離は遠いわけではないが、一歩も動かずにその剣が届く程近いわけでもない。ローグスの剣の抜き方は一見すれば無駄な動きが多いとしか思えないものだ。しかし、それが彼ならではの剣術だと知っているファイは静かに、そして迅速に自らの剣を抜き次の瞬間には放たれるであろう剣撃に備える。
 右足を軸に剣を抜いたローグスは、身の回転の勢いに乗り左足を一歩前へと出し瞬時に軸足を左足に替える。と同時に剣も逆袈裟に振り切っている為、まるでその動きは標的を捉えられず空を斬ってしまった間抜けな姿に見える。が、その姿に呆ける者や隙と勘違いして近づく者を薙ぎ払うのがローグスの技だ。
 ただ剣を振り切るだけなら軸足を替える必要はない。振り切ると同時に前に出した左足。そして右手を追う様に剣の柄へと伸びる左手。次の瞬間には、右手だけで振った剣を両手の力で上から無理矢理振り下ろし、相手を袈裟斬りにする。と言うのが一連の流れなのだが、今回の相手であるファイはその流れを知っている。身を退くと言う考えもあったが、それでもファイは敢えてローグスから打ち込んでくるのを待ったのだ。
「流石に引っかからないか」
 ぼそりとそんな呟きを漏らしながらも、ローグスはむしろ楽しそうに笑みを浮かべていた。その表情に気がついたファイは訝しげに眉をひそめたが、自身の行動を変えるつもりもなく身構えている。だからこそ、ローグスは自分から仕掛ける。
 相手が打ち込んでこない時や後ろに退いた時、そのまま何もしない時などはローグスの技は無駄になる。しかし、ローグスの技はそれだけでは終わらない。
 結果的にはその一歩では二人の距離は大して縮まらず、未だに一振りで剣が届く範囲にはない。それでも何らかの手を打ってくると思い待ちの態勢を取るファイに対し、ローグスは期待を裏切らずに次の行動に出たのだ。
 剣を振り上げた状態のまま、ローグスは気合の怒声を上げながらファイへと向かって駆け出していた。そして振り下ろされる一撃を、ファイは避けようともせずに己の剣で受け止めた。剣と剣がぶつかり合い金属音が響き渡ったのも一瞬、金属が擦れる音が続く。
 二人が剣をぶつけ合ったまま、お互いの力――単純な腕力を競う。
 だが、それも長くは続かない。
 一度互いに強く剣をぶつけ合ったかと思うと、二人はほぼ同時に後ろに跳躍し距離を取った。
 仕切り直しか……
 普通ならばそう考えるだろう。しかしそんな常識めいた考え方は二人にはなかった。
 身の軽さ故なのか、それともそもそもの跳躍力に差があったのか……ローグスよりも先に床に足を着いたファイが、僅かにローグスよりも早く床を蹴っていた。その時には既にローグスも体重移動を終え跳躍に移ろうとしていた為、今更他の動きをすることが出来ない。いや、出来たとしてもそんな選択はしなかっただろう。
 真っ向勝負。
 決勝まで残った若い二人は、今やそれしか頭になかった。
 何度も打ち付けあう剣撃。時には距離を取るが、やはりその間は短く、まるで舞いの様に剣を合わせる二人。いや、実際にはそんなに美しいものではない。だが、そう思えるだけの荒々しくも鮮麗され始めている動きがそこにはあった。
 十数分の間続いたその戦いだったが、変化は当然の様に訪れた。
 ローグスの振り下ろした一撃が空を斬ったのだ。それを好機と、ファイは一歩を踏み出しローグスへと迫る。刹那、俯き加減に見えるローグスの口元がニヤリと歪んだのが視界に入り、しまったと無理矢理踏みとどまろうとした。が、それが逆に隙となってしまった。
 初撃に見せたフェイントを織り交ぜたその技を、何度も打ち合ってきたことでその動きに慣れてしまった頃に放つ。狡猾且つ、効果的に。
 初撃とは放つ順が逆だが、その意味合いに違いはない。そもそもこの技は、重心移動と体重移動を合わせた動きから成る連続攻撃だ。理屈上は下から斬り上げる動作と上から斬り下ろす動作を交互に何度でも行える。もっとも、初撃はともかくそれ以降の一撃は手を抜くわけにはいかないので、空を斬る度に体力を消耗してしまう為あまり連続では行わない。それ以前に何度も繰り返せばフェイントとしての効果も失われてしまう。
 そもそも準決勝でこの技を使ったのはローグスの意思だ。その様子を見ていたファイに技の流れを読まれていることもローグスは理解していた。だからこその、今の戦いの運びなのだ。これこそが、ファイには足りない経験による差……
 逆袈裟に斬り上げられた一撃を胸に受けたファイは、その衝撃で膝を床に着いた。
 クーズベルクの一般兵に支給される胸鎧を着ている上、インナーとして着ている黒いシャツの下には軽量化を図る為に一本一本の繊は細いものの人の身を守るには十分に効果を発揮してくれる鎖帷子を着けている為、ローグスの斬撃は衝撃としてしか受けなかった。
 とは言え、鎖帷子に傷が入る程の一撃を受けたのだからまともに戦闘を続けられる状態ではなくなってしまったのは事実だ。
 つまり――
「勝者、ローグス=ジーン!」
 近衛騎士の判定を告げるその言葉で、実技試験の内容はその工程を終えた……


9 :夕咲 紅 :2009/04/20(月) 03:14:48 ID:WmknkmLA

「お疲れさま」
 腰程まで伸ばした綺麗な金色の髪、そしてその血に相応しい整った顔立ちの小柄な少女――シャルネアは、待っていましたと言わんばかりに自身が立っていた城内の廊下に差し掛かった青年に声をかけた。
 ちょうど角を曲がった所で声をかけられたことで少なからず驚いてしまった黒髪黒瞳の青年――ファイは、少しばかり恥ずかしそうに頬をかきながら、声をかけてきたのがシャルネアだと理解した瞬間に再び驚きの表情を浮かべた。
「シャル様!?」
 比較的城内を――と言うよりは国内を自由気ままに歩き回るシャルネアではあるが、実技試験を終えたこのタイミングで話しかけられるとは全く思っていなかったファイは口をぱくぱくとさせるだけで名前を呼ぶ以外には何も言えない。
 訓練場の隣りには簡易式ではあるものの汗を流す為の施設がある。そこで水を浴びてきたのか、肌も髪もしっとりと湿気を帯びている。格好もラフなもので、鎧の類いは身に纏わず兵士や騎士に与えられる皮製のズボンに、替えを用意しておいた黒のインナーシャツをそのまま着ているだけだ。
「すいません、こんな格好で……」
 何とかそんな言葉を紡ぐが、しどろもどろに言うファイの姿を見てシャルネアは苦笑を漏らす。
「別に気にしないでいいわ。受験者のファイは、今日はお勤めはないんでしょう?」
「ええ、まあそうですけど……」
 やはり城の中でこの格好は不味かったな。と内心付け足すファイ。
 実際には休憩中などは今のファイと同じ様な格好で過ごす兵士が多いのだが、王女であるシャルネアの前でと言うのはやはり不敬にあたる。と、口調は砕けている割にファイは気を落とす。
「だから気にしないでいいから。それより、結果はどうだったの?」
 歳も近いこともあり良く話すファイのことを、シャルネアなりに気にしているのだろう。わざわざ出向いてまで結果を聞きに来ることはなかったのだが、シャルネアは何となく本人の口から聞きたいと思いこうして足を運んだのだ。
「決勝までは行ったんですけどね」
 無念そうに俯き加減になり、ファイはぼやく様にそんな言葉を返した。
 事実、単純な剣術の技量ならばファイは決勝の相手であるローグスに負けてはいない。
「でも、その勝負に勝てば良いってわけじゃないんでしょう?」
「まあそうなんですけど……俺の知る限りは、今までに実技試験で優勝しなかった奴は近衛騎士になれてないですね」
「もしかして……絶望的?」
「うっ……そんな直球で言わないで下さいよ」
 シャルネアの容赦ない一言にうな垂れるファイ。
「でもね、ファイ」
 と、先程までの軽い雰囲気から打って変わった真剣な表情でシャルネアは言葉を紡いでいく。
「ファイの努力は、皆が知っているわ。だから諦めないで、明日の筆記試験も頑張って」
「シャル様……はい! ありがとうございます!」
 真剣に応援するシャルネアに対し、感動の余りやや涙目になりながらもファイは力強く頷いた。


 ファイと別れたシャルネアだったが、部屋に戻る途中で別の人物に偶然出会い、再び近衛騎士昇格試験のことで雑談を交わしていた。
 その相手は、背中までかかる銀色の髪を後ろでに結わいた細身で長身の男――細く多少吊り上がった目、そして鼻にかかる様にかけた丸い縁の小さな眼鏡が特徴的なワーナー=クレイヤードだ。
「そんな会話をしたんだけど、ワーナーはどう思う?」
 ファイとの会話を覚えている限り再現した内容を話し、シャルネアはワーナーの意見を尋ねる。
「どう思う、とは?」
「ファイは、近衛騎士になれると思う?」
 問い返されたシャルネアだったが、素直に思っていることを言い直した。
 その言葉にワーナーは腕を組み思案する。
「そうですね……前に私が調べた近衛騎士昇格試験の内容では、条件に実技試験優勝や筆記試験で首位を取ること、と言った内容はありませんでした。ですので、いかに過去に例がないと言っても現時点でファイ君が受からないとは限らないとは思います。とは言え、暗黙の了解として優勝などが必須条件になっている可能性もありますが……」
「ワーナーは、ファイは近衛騎士に相応しいと思う?」
「シャルネア様は、随分とファイ君にご執心の様ですね」
 苦笑混じりに、シャルネアをからかう様にワーナーはそう言った。するとシャルネアは顔を真っ赤にして、慌てた様子でぶんぶんと首を横に振る。
「そっ、そういうわけじゃないわ! ただ、ファイが頑張ってるのを知っているから気になってるだけ」
「そう言うことにしておきましょうか」
「もう……」
 変わらずに意地悪く笑みを浮かべるワーナーに、これ以上は何を言っても無駄だと悟ったシャルネアは上目遣いに文句の視線を向け唸り声を上げることしか出来なかった。
「さて、それでは質問に答えましょう」
 そんなシャルネアを見てひとしきり満足したワーナーが、穏やかながら真剣な面持ちでそう言った。
「私はファイ君の実力を知らないので、彼が近衛騎士に相応しいかどうかは正直判断出来ません。ただ、貴女に対する気持ちなら、十分にその資格があると思います」
「まだからかってるの?」
「そうじゃありません。彼はシャルネア様を守りたいという気持ちを、他のどの兵士や騎士よりも強く持っている。私は、そう感じているのです」
「そうなの、かな……」
 ワーナーの真剣な言葉に、シャルネアは俯きながら考え込んでしまう。
「そんなに深く考えることはありませんよ。貴女はただ、彼のことを応援してあげていれば良いんです。こう言っては何ですが、結果は貴女のお父上やサランド殿が決めることなのですから」
「そうなんだけど……やっぱり、気になるもの」
「やはりシャルネア様はファイ君にご執心ですね」
「だから違うってば」
 結局はワーナーにからかわれつつも、それからもう少し雑談を交わしシャルネアはワーナーと別れ自分の部屋へと戻った。


「はぁぁ」
 後は眠るだけ。そんな状況のシャルネアが、ベッドに仰向けに倒れ込み深く息を吐いた。
 夕食をとっている最中も、湯浴みをしている最中も、シャルネアは常にファイのことを考えていた。
 つい数日前までは、ファイズ=アルリアの日記、そしてシリウスのことで頭を悩ませていたのに――そしてその答えを得てもいないのに、ワーナーの言葉で変にファイのことを意識してしまっている。
 それが分かっているのに、シャルネア自身にはどうしようも出来ない。そんなもどかしさを感じながら、シャルネアは再び息を吐いた。
「ファイ、か……」
 そう呟き、ファイがファイズ=アルリアの子孫だと言うことを思い出す。もしかしたらそのせいで余計にファイのことを意識してしまっているのかもしれない。そんな風にも考えるが、頭の中がごちゃごちゃとしている今のシャルネアにはそれが正しいかどうかなど判断出来ない。いや、判断しようとすら考えてもいない。ただ、そんな思考を巡らせるだけだ。
「頑張って欲しい。それは間違いない。うん――」
 ファイのことを応援していれば良い。そんなワーナーの言葉を思い返し、シャルネアは気持ちに整理をつける。
「頑張ってね、ファイ」
 一度は本人に伝えたその言葉を、ベッドの中で呟く様に、しかしはっきりと声にする。
 どこか満足気に、シャルネアはそのまま眠りに着いた。


10 :夕咲 紅 :2009/04/20(月) 03:26:35 ID:WmknkmLA

 近衛騎士昇格試験二日目。
 受験者八名が城の一室に集まり、同時に筆記試験を行っている。
 その内容は一般常識問題に始まり、騎士としての心得に関する問題、そして実戦を想定した状況での作戦の立案など様々である。
 昨日行われた実技試験。そして今行っている筆記試験の結果を見て、近衛騎士に相応しいと近衛騎士隊の隊長が認めれば試験は仮合格。そしてその仮合格を国王が認めれば本合格となるのだが、国王であるアラダブルは現隊長であるテルスのことを深く信頼している為、実質テルスに認められれば合格と見ても構わないのが実情だ。
 受験者たちもそのことを理解しているが、やることは変わらない。結局は出された問題に答えるしかないのだ。だからこそ真剣に、受験者たちはその筆を進める。
(防城戦時、敵の城への侵入を許してしまった。その時貴方はどの様に動きますか。か……)
 この問題は自分が近衛騎士になっている場合を想定している。ならば一般の兵や騎士に指示を出すことも出来る。ならどうするべきか、とファイは考える。問題には侵入者の人数までは書かれていない。当然と言えば当然だが、侵入者の人数を把握出来ているかいないかで対処は変わってくる。
(まず第一に考えなければいけないのは要人警護。しかし王族には専属の近衛騎士が就いているから、即そちらに戦力を回す必要はないな)
 勿論相手の力量如何ではその必要も出てくるわけだが、そもそも国のエリートである近衛騎士が敵わない相手に一般兵が敵うわけがない。
(となれば、これ以上の侵入を許さない為に出入り口の封鎖をするべきか……逃走経路を封じる事にもなるし)
 そんな思考を巡らせながら、ファイは筆も進めていく。
 時折手が止まることもあったが、ファイは何とか時間内に全ての問題を埋めることが出来た……


 近衛騎士昇格試験の筆記試験が行われている最中、一人の男が城内の使われていない部屋の中にいた。カーテンも窓も閉め切り、部屋の照明も点してはいない。カーテンの隙間から微かに入り込む明かりが、一瞬その男の姿を照らす。銀色の髪を後ろで一つに結わいた長身の男――ワーナーだ。
「場所は特定出来ていませんが、この国のどこかにいるのは確かです」
 部屋にはワーナー以外の姿はない。しかしワーナーは、誰かに話しかける様に言葉を発する。
「はい。今しばらくお待ち下さい」
 そんなワーナーの言葉の後に、プツンと何かが途切れる音がした。
 ワーナーの手には、楕円形の機械の様な物が握られている。それはまだクーズベルクは勿論、世界全体にも浸透していない遠くにいる者と会話を交わす為の道具で、名を鳴声と言う。魔術機関と呼ばれる魔術と機械の融合を果たしたその道具は、世界中でもごく一部の国しかその技術を確立していない。クーズベルクに関しては魔術すら殆ど知られてはいない存在だ。
 ワーナーは鳴声を懐にしまうと、深く溜息を吐いた。物憂げな表情を浮かべ、そのまま部屋を後にする。
 周囲に誰もいないことを確認してから部屋を出たワーナーは、真っ直ぐにシャルネアの部屋を目指す。陽は既に昇りきり、これからじょじょに傾いていく頃合。
 今日の午後は、シャルネアとの授業がある。部屋に着くまでには気持ちを切り替えよう。そう心に決め、ワーナーはゆっくりとその歩を進めた。


「さて、これで二日間に渡る試験を終えたわけだが……」
 受験者たちを前に、テルスは集めた試験用紙を眺めながらそんな言葉を漏らす様に発した。
「皆、満足のいく結果を出せたかな?」
 部屋の中――受験者たちを見回し、今度はそんな問いかけをする。その言葉に三者三様の反応を見せる受験者たちを見て、どこか懐かしい気持ちに駆られながらもテルスはコホンと咳を一つ。
「さて、これから採点をするわけだが、この筆記試験が満点である必要はない。勿論、最低限取ってもらわないと困る点数はあるが……点数の優劣で結果が決まるわけではない。と言うことは知っておいて欲しい」
 テルスのその言葉に一同が頷く。皆そのことを知っていたのだろう。
「昨日の実技試験、そして今日の筆記試験。後は普段の皆の勤務態度なども加味される。結果は直ぐには出ないが……そうだな。三日後だ。三日後の正午に全員地下の訓練所に集まってくれ。そこで結果発表をする」
 全員が頷くのを確認して、テルスはそのまま部屋を後にした。残された受験者たちは各自思うままに席を立つ。部屋を出て行く者もいれば、その場に残り会話を交わす者もいる。そんな様子を眺めるファイの元に、一人の青年が近づいてきた。
「ジーン先輩」
 話しかけられる前にその相手が誰だか分かったファイは、振り向かずにそう声をかけた。それに対し驚いた様子もなく、近づいてきた青年――ローグス=ジーンは言葉を紡ぐ。
「おぅ。どうだった?」
「まあまあです。そういうジーン先輩は?」
「完璧だな! って言いたいところなんだが……まあ、七割くらいってところか」
 そう答えて肩を竦めるローグス。
「まあ、一応全部埋めはしたんだけどな。自信があるのはそんなもんだ」
「俺も似た様なものですよ。となると、ジーン先輩の方が合格する可能性は高いですね」
「まあ、昨日の実技試験での優勝は大きいだろうな。とは言え、普段の勤務態度は決して良いとは言えないからな……」
 と、ローグスは普段の自分の行動を省みて声の調子を落とす。
「まあ、お互い出来る限りのことはしたんです。三日後の結果発表を大人しく待ちましょう」
 そう言うファイだったが、その言葉の内容程内心は穏やかではなかった。実技試験では優勝することは叶わず、筆記試験もそれ程出来が良いわけではない。ならば普段の勤務態度はどうなのか……それも決して抜きん出て良いわけではない。不真面目ではないが、それ程真面目と言うわけでもない。本人が許しているとは言え、王女であるシャルネアとは大分砕けた口調で話している。
(やっぱマズイよな……)
 ローグス同様、普段の自分の行動を省みて落ち込むファイ。
「俺はもう行くけど、お前はまだここでたそがれてるのか?」
「いえ、俺ももう行きます」
 そう言って立ち上がり、ファイはローグスと共に試験に使用した部屋を後にした。
 部屋を出た後は直ぐにローグスと別れ、ファイはある場所に向かった。そこは、ファイがいつも剣を振るっている裏庭だった。
 黙ったまま腰に提げていた剣を抜き、いつもと同じ様に素振りを始める。いや、その内心はいつもと同じではない。いつもは希望に満ち、自身を高める為にその剣を振るっていた。しかし今は、己の中の不安を掻き消す為に、ただがむしゃらに剣を振るっている。
「……はぁ」
 その不安を表す様に、ファイは剣を振るうのを一度止めると深く溜息を吐いた。
 右手に持つその剣を見つめ、ファイは思案に耽る。一体、何故自分は近衛騎士になりたいのか――
 家柄がそうさせるのか、自分の意思で近衛騎士になりたいと思ったのか、ファイにはそれが分からなかった。いや、そこには確かに自分の意思がある。それは間違いない。それでも、その根源には自分の意思ではないモノが含まれているのではないか。そんな考えが、ふと頭の隅を過ぎることがある。試験結果への不安が、その考えを顕著にしていた。
 6年前、ファイはシャルネアと出会ったことがある。城でも街でもなく、クーズベルクの背後に広がる森の中で。森の中で一人剣の修行をしていたファイが、城を抜け出していたシャルネアと遭遇したのだ。その時に出会った少女のことを忘れられず、又その相手が王女であることにも気づいたファイは、シャルネアのことを守りたい。そう感じて騎士を目指した。勿論、元より騎士の家系であるファイは騎士になることを強要されてはいたが、そこに初めて自身の意思が含まれた。
 シャルネアを守る。その為に目指した道であるはずなのに、それは自身の意思のはずなのに……ファイは、義務感を持って近衛騎士を目指しているのではないかと錯覚してしまう。
 もう一度深く溜息を吐き、ファイは剣を収めた。
 今日はもう剣を振るう気にはなれず、そのまま踵を返し裏庭を後にした。


11 :夕咲 紅 :2009/04/20(月) 04:01:37 ID:WmknkmLA

「どうかしたの?」
 定期的に行われるワーナーの授業。その最中、出された課題を終えたシャルネアは心ここにあらずと言った雰囲気のワーナーにそう声をかけた。
「ワーナー?」
 返事が来ず、シャルネアは困った様にその名を呼ぶ。
「はい? なんですか?」
「課題、終わったんだけど……どうかしたの?」
「……いえ、なんでもありません。では、拝見させていただきます」
 シャルネアの心配そうな言葉にそう答え、ワーナーはシャルネアから課題として出した用紙を受け取る。
 その課題は、最近話題に上げたクーズベルク隣国についての物だ。一度教わった内容をどの程度覚えているか、ワーナーはそれを確かめる為の問題を出した。
「クーズベルクと一番近い国は、エルフたちの国イーストハーブ。森を挟んだその先にあるのが、クーズベルクの友好国であるタスカントード。この辺りは問題ない様ですね」
「それくらいは一度で覚えられるわ。それに、タスカントードへは昔行ったことあるもの。あまりその時のことは覚えていないけど」
「そう言えば、以前隣国について教えた時もそう言っていましたね。覚えていたくないことでもあったのでしょうか……」
「単純に、小さかったから記憶に残ってないだけだと思う。それに……もし何か嫌なことがあったのだとしても、友好国であるタスカントードにはまた足を運ぶ機会もあるだろうし、あまり気にしてはいられないと思うの」
「そうですね」
 シャルネアの真剣な言葉に、ワーナーも真剣な表情で頷く。
「さて、次は……タスカントードにある魔術機関についてですね。ふむ……きちんと覚えてますね。流石はシャルネア様です」
「そんなに褒めないで。名称は覚えたけど、魔術機関って言う物がどんな物なのかは良く分かってないから」
「そうですか? でも、それこそ気にしないで良いと思いますよ。魔術機関についてきちんと理解している人など殆どいませんからね」
「……ワーナーも?」
「はい。普通の人よりは多少理解していますが、専門に学んだわけでもないので……ですので、シャルネア様もその名称と、用途を理解していれば十分かと思います」
「そっか。分かった」
「では、次ですね――」
 それからしばらく答え合わせをし、シャルネアの中で曖昧だったものを再び教え、僅かに雑談も交わし本日の授業がお開きとなった。
 部屋を出て行くワーナーを見送った後、シャルネアは背筋を伸ばし息を吐く。
 授業が始まって最初の頃はどこかいつもと様子が違ったワーナーを心配していたシャルネアだったが、授業が終わる頃にはそのことをすっかりと忘れていた。それだけ、後半はワーナーがいつも通りだったと言うこともあるが、それ以上に気になることがあったから。と言うのが大きな理由だろう。
「ファイ、試験どうだったのかな……」
 授業中に、近衛騎士昇格試験の筆記試験が終わっていることは知っていた。ワーナーの授業があったこともあり、昨日の様に試験結果を尋ねに行くことの出来なかったシャルネアはファイのことが気にかかって仕方なかった。
 今からでも訪ねてみようか。そんな風に考えるものの、直ぐにその考えを振り払う。
「そんなの、私がファイのこと凄く気にしてるみたいじゃない……」
 その言葉は第三者から見れば事実以外の何物でもないのだが、シャルネア自身はそうは思っていない為気恥ずかしさを感じてしまう。
「……うん。ファイのことを信じて、結果発表まで待とう」
 しばし逡巡し、シャルネアはそんな決意を固めた……


12 :夕咲 紅 :2009/04/20(月) 04:07:36 ID:WmknkmLA

 近衛騎士昇格試験から三日が経ち、いよいよ結果が発表される日がやってきた。
 まだ日が昇ってそれ程時間も経っていない早朝、結果が出るのが正午だと言うのに待ち切れずに目を覚ました揚句、結局勤務時間になるよりも早く城へと足を運ぶファイの姿があった。
 夜間警備明けの兵士や早朝勤務の兵士にからかわれるその姿は、戦闘時の姿からは想像も出来ない程情けないものだったが、それは同時に誰からも好かれるファイの人徳を表していると言えるだろう。
 幾人かにからかわれながらも兵舎で着替えを済ませ、いつもの様に剣を手に取り裏庭へと向かう。
 自身の中に芽生えた疑問も、この三日間で完全に消えたわけではないが薄れた。そして今抱えている試験結果への不安も然程大きなものではない。
 何も考えず、ただ剣を振るう。それが出来るくらいにはファイの精神は荒れてはいない。
 しばしの間剣を真っ直ぐに振るった後、今度は連続して剣を振るう。右上から袈裟斬りに、続いて左から真横に、右下から逆袈裟に。同じ動きを何度も繰り返し、その後は違った動きを繰り返す。手首の返しや身体の動きを確かめ、最も無駄なく効率的な動作を探す。
 実践でその動作を行えるかと言えば、必ずしも出来ると言うわけではない。それでもその動作そのものを知っており、実際に動けるのと動けないのとでは雲泥の差だ。だからこそ、こうして訓練を繰り返す。
 その姿を、一人の少女がやや離れた所から眺めていた……


「ねえ、シリウスはどう思う?」
 早朝から剣を振るうファイの姿を見たシャルネアは、その足でシリウスに会うべく霊邪の森へとやってきた。
 しばらく雑談を交わした後にシャルネアが尋ねたのはファイのことだ。シリウスはファイと会ったことはなく、シャルネアから聞いた限りの人柄しか知りはしない。それでもシャルネアの問いかけに真剣に考え、その答えをシャルネアに告げる。
「受かるんじゃないかな」
「本当に?」
「ああ。だって、シャルみたいな子を育てた人たちが決めるんだろう? だったら、その頑張りを見ていない訳がない。絶対とは言えないけど、受かってる可能性は十分にあると思う」
「そっか……うん。ありがとう、シリウス」
 シャルネアはまるで自分が褒められているかの様に柔らかな笑みを浮かべ、それからシャルネアとシリウスは再び雑談を交わし始めた。


 シャルネアがシリウスと仲良く会話を交わしている時、クーズベルク城に不穏な影が忍び寄っていた。
 全身を黒い装束で包んだ男が、眼前に聳えるその城を見据えている。
「…………」
 無言。男は何も口にすることがない。まるで、言葉を――声そのものを失くしてしまったかの様だ。
 男が周囲に視線を配ると、そこには同じ様に黒尽くめの男たちが数十人もいた。
 いつの間にか、城を囲う様に男達が陣形を組んでいる。だが、今は何もしない。何の動きも見せず、ただ各々が城を見据えているだけ。
 それが何を意味しているのか、当人たち以外には知る術はない。いや、見ればわかる人種もいる。男たちがただそこに立っているわけではなく、魔術を構成しているのだということに……


「シャルネアは、また城を抜け出したのか……?」
 黒髪黒瞳の、威厳を漂わせた男――アラダブルが、眼前で片膝を着いている男に尋ねた。
「はっ。おそらくは……現在、念の為城内を探索中です」
 かしこまった様に、男――テルスがやや弱々しく答えた。
「城内はもういい。直ぐに城下を探させろ」
「かしこまりました。ですが……」
 アラダブルの命に応えるテルスだったが、言い難そうに言葉を続ける。
「ここ最近は、城下でも見つけることが出来ません。もしかしたら、町に出ているわけではないのかもしれません……」
「うむ……」
 眉をひそめながら、アラダブルは何かを考え込む。
「おそらく、またあの場所に行かれたのかと思いますが」
「やはり、そう思うか?」
 さも当然のことの様に、二人は会話を続ける。どうやら、心当たりがある様だ。
「全く。森には行くなとあれ程言い聞かせたのにな……仕方ない。テルス。向かってくれるか?」
「はっ」
 アラダブルの言葉に応え、テルスは謁見の間を出て行った。
 アラダブルが言った森――霊邪の森へと向かう為に。
「ふぅ……」
 謁見の間で一人になったアラダブルが、深く溜息を吐いた。
 国は平和だ。それ程大きな問題など抱えていない。犯罪が皆無なわけではなく、全く問題がないわけではないが、それでも深く頭を悩ませる程の事件はない。しかし――
「シャルネアのお転婆も、もう少し何とかならないものか……」
 それは、密かな王の悩み。早くに妃を亡くし、母の温もりを知らずに育ったシャルネア。代わりとなる者はいた。アラダブル自身も、シャルネアに対しては気を遣ってきたつもりだ。それなのに――
「子は、親の望む通りには育ってくれぬものだな」
 そんな呟きを漏らした後、アラダブルは立ち上がった。
 ゆっくりと踵を返し、謁見の間の奥にある扉を潜り――自身の部屋へと戻って行った……


13 :夕咲 紅 :2009/05/31(日) 03:55:05 ID:WmknkmLA

第三章 龍の生まれる瞬間

(それにしても……シャルネア様は、なぜ森に行こうとするのだろうか)
 城の廊下を歩きながら、テルスはそんなことを考えていた。
 父親であるアラダブルから、耳にタコが出来る程「森へは行くな」と言われたにも関わらず、シャルネアは何度も森に足を運んでいる。それはシリウスに会いに行く為なのだが、それを知る者は城の中にはいない。テルスも例外ではなく、シャルネアが町ではなく、何もないはずの森に足を運ぶ理由を考えていた。しかし、その答えはいくら思考を巡らせても出て来ない。
 廊下を進むと、階段へと差し掛かる。緩やかにカーブを描く階下へと伸びる階段と、それなりに急な螺旋を描く階上へ伸びる階段とがある。この場所は廊下の突き当たりで、それぞれ1階と3階に繋がっている。テルスが先程までいた謁見の間が、城の2階にあることが伺える。
 テルスは階下へと伸びる階段へと歩を進め、ゆっくりと階段を降りる。
「テルス様!」
 途中、階下から部下が駆け寄ってきて、テルスは足を止めた。
「どうした?」
「やはり、城内にはいない様です」
 それは予想していた答えだった為、「そうか」と短く応えただけで、テルスは特に部下を叱責するつもりはなかった。しかし、仕事をこなせなかったと思ったのか、当の部下はどこか弱々しい態度だ。テルスは小さく溜息を吐くと、新たな命を下す為に口を開く。
「お前は一度皆を集めろ。一班には城下を、ニ班は通常通り城内の警備を続ける様に伝えろ。それから三班は森だ。私もこれから森に向かう。その後に続く様に伝えるんだ」
「は、はい! かしこまりました!」
 部下は緊張を隠せずに、しかしハッキリと応え、再び階下を走って行った。
 テルスの部下――つまり、クーズベルク近衛騎士は15人いる。それぞれ5人ずつ班分けされており、一班・ニ班・三班と分かれている。ただ無作為に班分けされているわけではなく、そこにはテルスなりの考えがあるのだろう。
 先程の部下が他の部下たちに声をかけ終えるまで、少しばかり時間がかかるだろうと踏んだテルスだったが、それを待つつもりはなかった。止めていた足を動かし始め、1階へと降りた足でそのまま城門へと向かう。廊下を歩くテルスの足音だけが、周囲に響いている。
 そこで、テルスは不自然さを覚えた。
(静か過ぎる)
 それが、テルスが抱いた感覚。
 普段なら、見張りの兵や侍女などの声が喧騒となって城内を包んでいるはず。だと言うのにも関わらず、それ程足音を立てずに歩いているはずの自分の足音が響いている事実。何か嫌な予感を覚え、テルスは軽く身構える。身構えながらも、歩は進める。周囲の気配を探りながら、ゆっくりと。
 城門を潜り、外に出た。広く、それなりに空気の循環がされているとは言え、室内は室内。そんな城内から外に出た為、軽く開放感を覚えながら小さく呼吸を繰り返すした後、意識を研ぎ澄ませる様に深呼吸をする。
(静か過ぎる)
 再び感じた感想。もっとざわついているのが当然のはずなのに、不自然な程静かな周囲。それを確かに感じているにも関わらず、テルスは辺りを見回しはしない。ただ、その場で足を止めただけだ。目を瞑り、更に意識を研ぎ澄ませる。
「…………」
 そして、気が付いた。カッと目を見開き、腰に吊るしている剣を引き抜いた。視線を左右に動かし、より自分に近い位置にある気配を探る。
 瞬時に右側の気配が動いたことを察し、その気配に向かって地を蹴った。
 城壁沿いにある草むらに飛び込んだ瞬間、ぐにゃりと景色が歪んだ。しかしそれは一瞬のことで、直ぐに元の景色に戻る。否――そここそが本来の景色。事実を歪められた偽りの景色から、本来の景色の中へと飛び込んだのだ。
 テルスの目に映ったのは、城壁を囲う様に集まった何十人もの黒尽くめの男たち。何の為に、その集団がこの場所に集まっているのか……
「貴様等、何者だ?」
 一番近くにいた男に対し、テルスは低く問いを放った。しかし、男は応えない。それどころか、男達の誰しもがテルスに視線を向けもしない。ただ、何かの作業に没頭している様に見える。
「答えぬのなら、力付くで答えさせるまでだ」
 言葉を放った瞬間、テルスは再び地を蹴った。一番近くにいた男に向かって、剣を向けながら。が――
 突如剣先に熱が溜まり、瞬時に炎が上がった。テルスは身を止め、剣先を地面に突き刺し炎の進行を食い止める。勢いのついていた身を急に止めた為、地面を軽く抉ってしまったが、今はそんなことを気にしている余裕はない。テルスは瞬時にそう判断し、一歩、もう一歩だけ下がり態勢を立て直した。
(こいつら、何者なんだ? 妙な術を使う様だが……)
 魔術について何の知識もないテルスには、男たちの周囲に魔術が構成されていることに気付けない。しかし、そこに何かが存在していることだけはハッキリと知覚出来た。だからこそ、無闇に飛び込むような真似を二度は出来ない。
 地面に突き刺したままだった剣を抜き、再度構える。今も、男たちに動きはない。隙だらけのはずの相手に、手を出せないもどかしさ。そんなものを感じながら、テルスはゴクリと唾を飲み込んだ。ただその視線の先に、謎の集団を見据えながら。
 数瞬の間を置いて、男たちがいっせいに両腕を上げ、城壁へと向けた。大勢の人間が同時に同じ動きをする――そんな異様な光景を目の当たりにし、テルスは息を飲み込んだ。思わず、剣を握る手に力がこもる。
 城壁に向けられた男たちの手が、淡く光りを放ち始める。男たちの構成する魔術が、第2段階へと移行したのだ。これだけの人数で、一つの魔術を完成させようとしている。この魔術が、いかに大掛かりなモノなのかが伺える。
『集いし魂達よ』
 今まで沈黙も守っていた男たちの一人が、不意に口を開いた。
 否――
 男たち全員が、同時に口を開いたのだ。まるで、一人の人間が口を開いたかの如く、寸分のズレもなく。
『集いし魂達よ。我らの声に応え賜え――彼の地はそなたの世界也。そなたは燃やす者。そなたの世界は、炎の世界――火炎地獄(フレイム・ワールド)
 刹那、世界がざわついた。城壁から爆発が起こり、それどころか城内からも火の手が上がる。
 先程までの静けさが嘘だったかの様に、城内から悲鳴が響き渡る。テルスがその悲鳴に気を取られた一瞬で、男たちは一斉に散った。男たちが向かう先は、城内……
「待て!」
 テルスが後を追おうとした目の前に、男の一人が立ちはだかった。テルスがそう認識した瞬間には、背後から別の男が襲いかかってきていた。
 寸での所でその襲撃に気が付いたテルスは、何とかその攻撃をかわす。
「…………」
「…………」
 相変わらずの無言で、男二人がテルスと対峙している。
 侵入者が現れた以上、援軍は期待出来ない。相手が二人であることをせめてもの救いとし、テルスは軽く舌打ちしながらも剣を構えなおした。
 相手は理解の範疇を超えた術を用いる。それが二人……
 眼前で大した構えも取らずに佇む二人の男を見据えながら、テルスはどうやって敵を打ち倒すかを思案する。しかし、思考を巡らせる時間を与えてくれる程相手は甘くはなかった。男の一人がアサシンナイフと呼ばれる短刀を振るい、テルスへと襲いかかってきたのだ。テルスは半歩後ろに下がりながら、剣でナイフを弾く。ナイフを弾かれた男が右に跳んだと思った瞬間には、その先にいたはずのもう一人の男がテルスの眼前にまで迫ってきていた。その男の手にも、アサシンナイフが握られている。
「――っ――」
 声にならない叫びをあげながら、テルスは無理矢理更に後方に跳ぶ。
 ナイフの軌道は空を切ったものの、それだけでは安心は出来ない。先に横に跳んだ男が、再びテルスに迫っていた。それを予測していたテルスは、左腕の篭手でナイフの攻撃を防いだ。そのまま押し返し、男のバランスを崩す。と同時に、剣を突きつけようとする。が――
 その隙を拭う様に、もう一人の男がナイフで突きを放ってきた。追い討ちを諦め、テルスは再び後ろに跳んだ。
 二人交互の攻勢。隙を隙としない、絶妙なコンビネーション。統率の取れた、完璧な動き――
(まるで人形だな)
 そんな感想を抱きながらも、隙を作らぬ様に構えを崩さない。
 男たちも、テルスが一筋縄ではいかない相手と認識したのか、一度動きを止める。お互いがお互いの動きを牽制し合いながら、隙を伺う。空気が緊張し、まるでその空間だけ時間が止まってしまったかの様な錯覚さえ覚える。しかし、それも一瞬のことだった。テルスが身体を後ろに傾かせた瞬間、男たちが左右に同時に跳躍した。テルスにとって同時攻撃は予想外のことだったが、わざと作った隙に食いついてきたこと自体は予想通りの結果だった。後ろに傾けかけた身体を瞬時に元に戻し、そのまま右側から攻め来る男に向かって跳んだ。同時攻撃は、むしろ好都合。そんな表情を浮かべ、テルスは男の脇腹を切り裂いた。暗殺者めいた格好の男たちは軽装だ。防具と呼べる様な物は殆どなかった為、一撃で致命傷を与えるのはテルスにとって容易なことだった。
 男の脇腹からは鮮血が流れ出ている。男が片手を当てているが、その隙間から零れ落ちていく。このまま放置すれば、出血多量で間違いなく死に至る。テルスは脇腹を押さえうずくまる男から視線を外し、反対に跳んだ男にその視線を向ける。
「!?」
 驚きで男が足を止めたと思っていたテルスは、男が眼前にまで迫ってきていた事実に驚きを隠せなかった。仲間がやられたというのにも関わらず、何の感情も抱いていない。そんな男に恐怖と怒りを覚え、テルスは力任せに男のナイフを弾く。振り払った直後に、剣を袈裟斬りに振り下ろした。何とか勢いを殺し、後方に跳んでかわそうとしたらしく、テルスの一撃は深く入らず、男の肩口から胸を浅く傷付けただけだった。しかし、テルスはそのまま間を置かずに第二撃を放つ。今度は横薙ぎに、男の胴を切り裂いた。その追撃の早さに、男は回避行動を取ることが出来ず、骨の一歩手前まで肉が切り裂かれた。先の男よりも、明らかに重傷と呼べる傷。どちらも、もう助からないだろう。
 テルスは肩で息をしながらも、その荒くなった呼吸を整える。もう男たちが立ち上がる気配がないことを確認し、侵入者達を排除するべく城内へと向かった……


14 :夕咲 紅 :2009/05/31(日) 03:58:04 ID:WmknkmLA

 朝の自主訓練を終え汗を流したファイは、いつもと違う午前中だけの職務をしっかりとこなす為に、割り振られた仕事である見回りを行っていた。
 ちょうど城内の1階を回っていたその時、何か異様な違和感を覚え足を止めた。
「何だ……?」
 そんな呟きを漏らした次の瞬間には、城内から爆発音が聞こえ、あちらこちらから火の手が上がった。
 焦ってはいけない。そうは分かっていても、初めての緊急事態に身体が固まってしまう。
「くっ!」
 そんな不甲斐ない自身に嫌気が差しながらも、自己嫌悪に陥っていても仕方ないと何とか気合を入れる。
 バシンッと自分の両頬を叩き、爆発音の聞こえた一番近そうな場所に向かって駆け出した。
 途中、慌てふためく兵士たちの姿を見てさっきまでの自分を見ている様な感覚を覚え、しっかりしろと渇を入れる。侍女や料理人などの非力な者たちを避難させる様に指示を出し、再び駆け出す。
 そうして辿り着いたのは、1階から2階に上がる階段。そこには、黒尽くめの男と戦うテルスの姿があった。
「サランド隊長!」
 いきなり大声を上げてしまった事でしまったと思ったファイだったが、その程度でどうにかなるわけがないと気持ちを切り替える。
「ルークか……」
 相手と斬り結んだ直後に大きく後退した所で、テルスは一瞬ファイへと視線を向けそんな言葉を漏らした。
「隊長、こいつは一体……いえ、こいつの相手は俺に任せて下さい!」
 テルスにはやるべき事があり、男にその足止めをされているのだと判断しファイはそう言った。テルスは一瞬悩み、それでもしっかりと頷いた。
「任せたぞ」
「はい!」
 テルスの期待に応えるべく、ファイは腰に提げた剣を抜き、テルスと男の間に立つ。
 男はアサシンナイフを片手に持っているが、一見するとそれ以外に武器の類は持っていなささそうだ。僅かな間しか見ていないが、男が素早い動きで相手を翻弄するタイプだと判断し、その動きを見極めるべく男を凝視しつつ少しずつ距離を詰める。
 刹那、男が跳躍し一瞬でファイとの距離を縮めてきた。と同時に振るわれるアサシンナイフをかわし、ファイは腰に下げている剣を抜き放った。
 剣を抜く動作でそのまま相手に一撃を与えようとしたファイだったが、先の一撃をかわされた時点で距離を取ろうとしていたらしくその一撃は空を切ることしか出来なかった。
 追撃をかけるべきか否か――ファイがそう考える間に、男は次の動作に入っていた。再び跳躍し距離を詰めて来る相手を見て、ファイは思考を止め迎撃態勢を取る。繰り出されるナイフの一撃を剣で受け止め、弾く。
(また一度退くのか……?)
 そんな風に考えてしまうファイだったが、その思考もまた男の追撃で振り払う他なかなった。
 ファイによって弾かれた態勢から身体を捻り、続けて突きを放ってきたのだ。その近さ故に剣で弾くことが出来ないと判断したファイは、必死の思いで後方に跳躍してその一撃をかわす。
 先程までの流れを汲んで、その後の追撃の有無を考えるよりも早く剣を構え直すファイだったが、男は再び後方へと跳びファイとの距離を取っていた。
 実戦経験に乏しいファイは、相手の動きを予測し理詰めで戦おうとする傾向にある。しかし本人はどちらかと言えば直情的な性格をしており、更に言えば頭の回転も特別速いと言う訳ではない。結果、その思考が追いつくよりも早く身体を動かす必要が出て来る。攻め手に回っていればそれほど問題はないが、受け手に回っている時は反撃に回れず防戦一方になってしまう。その原因を把握出来ていないファイは、結果的にじょじょに焦りを覚え始めることになる。
 今度こそはと床を蹴り、男との距離を詰めようとするファイだったが、男もまた後方へと跳躍。と同時に、隠し持っていた投擲用のナイフを一本ファイに向けて放つ。
 剣を横薙ぎに一振りしナイフを弾いたファイだったが、その動作のせいで勢いを失くし思う様に距離を詰めることが出来なかった。しかしそれを嘆く暇もなく再びナイフが飛来してくる。それを察したファイは左方に避け、ナイフを投げた男を視界に捉えようと視線を動かす。が、いるはずの前方に男の姿はない。刹那、嫌な予感がしたファイは誰もいない前方へと跳躍した。その次の瞬間には、ファイのいた場所をアサシンナイフが通過した。
 ファイが投げナイフを左にかわした時に、死角に入る様に男もまたファイの左方へと跳び、そのまま距離を詰めていたのだ。
 ファイは身を翻し、今度こそ男を視界に収める。その瞬間には男はファイとの距離を詰め始めており、ファイもまた迎撃の為に床を蹴る。互いに距離を詰め合えばその間が直ぐになくなるのは当然。次の手を考えるよりも早く、ファイも男も直感を信じて身体を動かす。二人の距離がなくなる寸前、男は右方に跳んだ。再び真横からアサシンナイフを振るう。ファイはその動きをしっかりと目で追い、振るわれた一撃を剣で横薙ぎに弾く。と同時に、男へと向けて振り戻した。その一撃は見事に男の不意を突き、男の胸部を切り裂いた。
 その一連の動作はローグスの技に近い流れであったが、ファイは意識していた訳ではない。それでもローグスの技を見ていたからこそ、男の不意を突くことが出来たと言える。
 致命傷を与えた訳ではないが、満足に戦える程の余力は残っていないだろう。そう判断し、ファイは剣に着いた血を振り払い鞘に剣を収めた。
 情けをかけた訳ではない。人の命を奪う――その重みを本能的に回避しようとしたのだろう。とは言え、放って置けば助からない可能性の方が高いが……
「侵入者……さっきの隊長の様子からすると、こいつ一人ってわけじゃないみたいだな……」
 どうしたものかと、先日の試験の内容を思い出しながら思考を巡らせる。試験の時に導き出した答えが合っているのかどうかは分からない。それ以前に、今現在と試験内容とでは立場が違う。ならば、今の自分が何をするべきなのか……
「ちょっと待てよ……冗談だろ?」
 その答えを出すよりも早く、ファイは愕然とした。今し方苦労して倒したばかりの男と全く同じ格好をした男が二人、目の前に現れたからだ。
「ルーク!」
 一度収めた剣を再び抜き、何とか気持ちを奮い立たせたその時、背後からそんな叫び声を聞いてファイは意識だけを後方へと向けた。
「二対一か……? 助太刀するぜ」
「ジーン先輩……助かります」
 現れたローグスを横目にそんな会話をしている間に、二人の男はほぼ同時に床を蹴っていた。勿論向かう先はファイとローグス。
「いくぞ!」
「はい!」
 こうして、ファイにとっての実戦二戦目――それも連戦の幕が開かれた……


15 :夕咲 紅 :2009/05/31(日) 03:59:59 ID:WmknkmLA

 シリウスの住処――洞窟前で、暖かい日差しに包まれ、シャルネアはいつの間にか眠ってしまっていた。シリウスは自身の身体に身を委ねているシャルネアを起こさぬ様に、じっとその身を止めている。格好から言えば、シリウスも眠りに着く時の様に寝そべっているのだから、それ程辛い体勢というわけでもない。この時、この場の空気は紛れもなく平和で暖かなモノだった。
 しかし……
『!?』
 異変を感じ取ったシリウスが、シャルネアが起きてしまう事も厭わずにその上半身を起こした。シャルネアはシリウスの動きに気付き、ゆっくりと瞼を開いた。
「どうしたの?」
『……城に、何かあったみたいだ』
「え?」
 シリウスが何を言っているのか、シャルネアは理解出来ていなかった。ただ、首を傾げる事しか出来ずにいる。
 シリウスが感じたモノ。それは、確かに魔術が発現した時に起こる波動に違いなかった。それも、大掛かりなモノの。ただ、シリウスの知り得る魔術の構成とは異なる波動だった為、それが何を成しているのかはわからなかったが。
『城が危ないかもしれない』
「どういうこと?」
『きっと、何者かに攻め込まれている。だから……』
 その先に続く言葉を、シリウスは紡がない。シャルネアならどうするかわかりきっているからこそ、シャルネアの言葉を待つ。
「行こう!」
 着いてきてくれるよね?
 そんな視線を向けられ、シリウスは正直迷った。本来、人間という種と関わりを持つべきではないと考えていたのだから、それは仕方のない事なのかもしれない。それでも、シリウスはしっかりと頷いた。シャルネアの為に。ただ、そう心に誓って。
『さあ、おいで』
 シャルネアをその背に、腕を器用に使って乗せる。
『しっかりつかまっているんだよ』
「うんっ!」
 シャルネアの声に応える様に、シリウスはその翼を羽ばたかせ――
 大空へと、飛翔した。
 向かう先は、クーズベルク城。シャルネアを振り落とさない様に細心の注意を払いながら、シリウスは飛んだ。
 シリウスの住処からクーズベルク城までは、それ程の距離があるわけではない。勿論歩けばそれなりに時間はかかるが、何の障害もなく、真っ直ぐに空を飛べば、それこそものの数分で着く。だからこそ、城の様子を見たシリウスは信じられなかった。眼下に映ったクーズベルク城の惨状が、数瞬もかからぬ内にもたらされた事が。
「シリウス……」
『尋常じゃないね……』
 外壁は至る所が剥がれ落ち、城の中が伺える。その隙間から、人の倒れている姿も見える。おそらく、壁が残ったその中にも、同じ様に人が倒れているのだろう。生きているのか、死んでいるのか――それは、シリウスやシャルネアの位置からは確認出来ない。
 炎が上がっている場所もある。その火の手を沈火させようと翻弄する者の姿も見える。まだ、全ての人間が死したわけではない。それがわかっただけでも安堵し、シャルネアはホッと胸を撫で下ろした。
 シリウスは降りれる場所を探すが、辺りにちょうど良い場所はない。そもそも城の外に降りた所で意味はないのだ。それでは、シャルネアを一人にする事になる。とは言え、城に降りられるわけもなく――
『どうやら、降りれない事もなかったみたいだね』
「え?」
『急いだ方が良さそうだ。説明は後。行くよ』
 そう言って、シリウスはその身体を傾けた。城のほぼ中央。そう――天井の崩れた、謁見の間へと向かって……


「貴様……何者だ?」
 突然の爆発音。そして、窓から見える炎と黒煙。何が起こったのかはわからない。しかし、何かが起こった事だけは確信し、アラダブルは謁見の間へと戻ってきた。それと同時に、謁見の間の扉が開かれ――
 漆黒のローブを纏った、全身黒尽くめの一人の男がアラダブルの前へと現れた。男は何も言わず、視線さえ向けては来ない。覆面をしている為、表情までは伺えない。それでも、純粋な殺意だけは剥き出しでいる――
 そんな男に向けた言葉。それが、今のアラダブルの言葉だ。
「龍は、何処にいる?」
「龍、だと?」
 男の発した言葉に、アラダブルは眉をひそめる。龍という存在を知らぬわけではない。クーズベルクの伝承の多くには龍が出てくる。しかし、龍という存在が現存するなど、アラダブルは聞いた事もなかった。
「言わぬのなら、殺す」
「……知らん。一体、何が目的だ?」
「二度は言わぬ。死ね」
 男が冷たく言い放ち、今まさに床を蹴ろうとした刹那、再び謁見の間の扉が開かれ男は入り口へと視線を動かした。
「一体どう言う事だ!?」
 謁見の間に入るなり慌てた様子でそう叫んだのは、銀髪長身の男――ワーナーだった。
 黒尽くめの男も、アラダブルもその視線の先にワーナーを捉え、その言葉の続きを待っているかの様に動かない。
「私は信用されていなかったと言う事なのか?」
「……知らんな。俺はただ与えられた任を全うするだけだ」
 そう言って男は視線を再びアラダブルへと向け、今度こそはと床を蹴る。しかしワーナーはそれよりも早く跳躍しており、アラダブルと男の間へと割って入る。
 男はそれを見て再び足を止め、ワーナーを睨みつける。
「何のつもりだ?」
「人的被害は出さない。それが私のやり方だ」
 腰元に隠していた護身用のナイフを取り出し構えるワーナー。その様子を見て男は一笑し、再度床を蹴る。
 ワーナーは何とか視線だけは男を捉えるものの、身体は追いつかない。左右に身体を捻る簡単なフェイントでワーナーはその身を硬直させ、腹部に思い一撃を受ける。
「寝ていろ。お前の始末は任に入っていない」
「くっ……」
 男のそんな言葉を最後に、ワーナーは呻き声と同時にその場に崩れ落ちてしまった。
 男は再びアラダブルへと視線を向けた。その視線を受け、アラダブルは言葉を紡ぐ。
「ワーナーは、貴様の仲間なのか……?」
「答える義理はない」
 アラダブルの問いに即答する男だったが、直ぐにでも飛び掛るのかと思っていたアラダブルの考えは外れ男は動こうとしない。ただ、視線だけは動く。アラダブルに向けてではなく、その上――天井へと。
 刹那、天井で炎が踊る。一部を溶かし、消失させながらも、それでも確実に瓦礫を残す形で――天井が、崩れた。
 アラダブルは直ぐに天井の異変に気付き、崩れ落ちて来る瓦礫を避ける。後方には避けるスペースがなかった為、前方へと。
 だが、それは精一杯の行為。それ以上、アラダブルに周囲を伺う余裕などなかった。男がアラダブルへと跳躍し、腰に差していたアサシンナイフを抜く。何とか瓦礫を避け、膝をついているアラダブル。男の接近には気付いたものの、それを避ける事など出来るハズもなく――
 男のナイフが、アラダブルの心臓に突き刺さった。ブスゥッ。と、嫌な音が聞こえた。アラダブルはその音を聞きつつも、何が起こったのか瞬時には理解出来ずにいた。
 男がナイフを突き出した瞬間、下降してきたシリウスが、謁見の間へとその足を着けていた。男はその存在に気が付いていたが、勿論その手を止めるはずもなかった。だから、シャルネアは見てしまった。背後からとは言え、何が起こったのかは理解出来た。自分の父に迫るナイフを持った男。そして、それをただ見つめるしか出来ない父と自分――
「お父さまーーーーーー!」
 絶叫。シャルネアは、ただ叫ぶ事しか出来なかった。シリウスの背から降ろしてもらったシャルネアは、床に倒れ込んだ父の元へ駆け寄ろうとした。
『シャル。待って!』
 しかし、それはシリウスによって制された。その制止を振り払いたい気持ちで一杯になりつつも、シャルネアはシリウスの言葉だから。と、何とか足を止めた。
 倒れたアラダブルの直ぐ前には、黒尽くめの男が一人。そしてその手前には倒れているワーナーの姿。その男はアラダブルを刺した張本人で、そんな男に近寄ろうものなら何をされるかわかったものではない。少なくとも、何も抵抗する術を持たないシャルネアが近付くのは危険過ぎるのだ。
「お父様……」
 抱き寄せる事も、ましてや近寄る事さえ出来ず……
 シャルネアは、父が死に逝く姿を遠目に見る事しか出来なかった。ただ、涙が流れる。哀しみ。喪失感。全てが織り交ざり一つの感情となって――
 シャルネアは、ただ涙を流す……
『お前……一体何をしたのか、わかっているのか?』
 睨む様に、男に問うシリウス。シャルネアを哀しませた。ただその事実が、シリウスの怒りとなる。
「…………」
 男は黙ったままシリウスを見据える。巨大な獣を目の当たりにしても、全く怖気づく事なく。まるで、シリウスが現れるのを待っていたかの様に……
 シリウスの問いに答えるはずもなく、男は瞬時に跳躍した。その先は、勿論シリウス。
 スゥゥゥッ。
 白銀の一線が、シリウスを襲った。
 たかが人間の持つ武器。そうたかをくくっていたシリウスの腕に、傷が入った。
『!?』
 本来、龍は人間の扱う武器程度では傷を負わない。それは龍の皮膚が特殊なものであり、又普段から自分の身を守る魔力を纏っているからだ。しかし、今シリウスは傷を負った。それは、生まれて初めて受けた傷。
『一体、何を……』
 驚愕しつつも、男の様子を探るシリウス。
 そんなシリウスの様子など意に介した様子もなく、男は再びその刃を振るった。だが、シリウスはその巨体を器用に動かしそれをかわす。
『何だかわからないけど、何度も当たるつもりはない』
「…………」
 男は黙ったまま、シリウスに傷を負わせた刃を掲げる。それは、白銀の刃……
『!』
 ふと、シリウスの頭に何かが浮かんだ。それは、龍を殺す為の武器の存在。この世に三種存在する龍殺しの一つが、白銀を使って作られた刃だという事……
『龍殺の刃……』
 シリウスの言葉に、男が、冷笑した。いや、シリウスの目に、そう映っただけかもしれない。
 シリウスには間違いなく動揺が走り、隙を生んだ。男はその隙を見逃さず、追撃をかける。
 スゥゥゥッ。
『ぐっ……』
 その一線は右前足をかすめ、シリウスは呻いた。だが、それだけでは終わらない。男は更に追撃をかけてくる。
「シリウスーー!」
 シャルネアが絶叫する。
 だが、その思いも空しく、男の一撃はシリウスの右前足を完全に捉えていた。
『っ』
 シリウスは声にならない呻きをあげるが、男はそれでも止まらない。
 何とか致命傷だけは負わない様にと、シリウスは懸命に男の攻撃から逃れようとするが、足に傷を負った今、それも上手くいくはずもなかった。じょじょに傷は増え、動く事すらままならなくなってきた。その時……
 シャルネアが、再度絶叫した。その叫びは声にはなっておらず、不気味な静寂が謁見の間を支配する。
 男の刃が、シリウスの心臓を貫いていた。
 シリウスはその巨体をどさりと倒し、床に伏せってしまう。
「しり、うす……?」
 ゆっくりとシリウスに近寄り、シャルネアは呟く。
「シリウスーーーー!」
 今度は、しっかりと声に出し叫ぶ。そんなシャルネアに、男が一歩ずつ近寄る。
「…………」
 男は、刃を振り上げ――
 そして、そっと降ろした。
 男の視線の先には、泣きじゃくるシャルネアの姿が映っている。その姿は、本当にただの子供の様で……ひとかけらも、王女である事を感じさせない。
 男は踵を返し、静かに歩み始めた。今シャルネアの頭の中に、この男の存在はない。相手を憎む事よりも、失った事の悲しみが先行しているのだ。
 やがて男は消え失せ、その場には倒れたワーナーとシャルネアだけが残された。
 父親と親友を一度に失った少女がどうなってしまうのか、それを見届けられる者さえ、今この場にはいない。
「シリウス……」
 ただただ、少女の嗚咽と呻き声が、その場に霧散するだけだった……


16 :夕咲 紅 :2009/05/31(日) 04:01:53 ID:WmknkmLA

 謁見の間にテルスが駆けつけたのは、国王アラダブルとシリウスが命を失ってから、十分程経ってからだった。その間、シャルネアはずっとその場にしゃがみ込んでいた。泣きじゃくりながら、しかし、何か重大な事を考えながら。
「シャルネア様!」
 謁見の間へ駆け入ったテルスの視界には、倒れているワーナーの姿、そしてうずくまるシャルネアの姿と、横たわる国王の姿が入った。テルスはその名を叫び、床にうずくまっているシャルネアに駆け寄る。
「シャルネア様……」
「……て、るす……?」
 消えてなくなりそうなか細い声で、シャルネアは顔を上げた。
「はい」
「お父様が……シリウスが……!」
 一度は止まりかけていた涙を、再び溢れさせながら、シャルネアがぼやく。
「……国王――アラダブル様は、亡くなられたのですね?」
 謁見の間へ入ったと同時に視界に入った、床に倒れたアラダブルの身体。テルスは、それが死体だと瞬時に理解していた。それでも、その場にいる者に確認を取る必要がある。実の父親を失ったばかりの少女に、その父親の死を確認する――何と酷な事なのだろう。そう思うが、テルスは自分を戒めながらでも、必要な事はする人間なのだ。
「…………」
 シャルネアは直ぐには答えなかったが、やがて黙ったまま頷いた。
「ワーナーは無事の様ですね……」
「ワーナー?」
 今までシャルネアの視界にワーナーの姿は入っていなかったのだろう。テルスに言われ不思議そうにその視線を追った。
「まさか、ワーナーまで……?」
 気が動転しているのか、先程のテルスの言葉をきちんと理解出来ていなかったらしくそんな言葉を呟くシャルネア。
「いえ、ワーナーは大丈夫です。呼吸はある様なので、おそらく気を失っているだけでしょう」
「そう。良かった……」
「それと、シリウスと言いましたが……誰です?」
 そう聞かれたシャルネアは、ワーナーの事でホッとしたのも束の間に、ゆっくりと震えながらも、シリウスを指差した。その先には、巨大な身体を持つ龍が横たわっている。
「あっ、アレは……」
 テルスは絶句した。龍が、目の前にいるのだ。しかし、シャルネアの言葉から察するに、既に事切れているのだろうが……
 テルスはそんな事を考えながら、シリウスに近付く。この国では龍がただの伝説ではないと言っても、やはり身近なものではない。
(もしや……)
 そこで、テルスはある事に気が付いた。シャルネアが、森に足を運んでいた理由――
(あの龍に、会いに行っていたのか?)
 今となってはもうどうでもいい事だとは思ったが、テルスは何故か詮索する事にした。
「シャルネア様。霊邪の森に行っていたのは、あの龍に――」
 途中で言葉を止めたが、シャルネアはテルスの言わんとする事を察したのだろう。黙って頷いた後、ゆっくりと立ち上がった。
「シャルネア様……」
 足取りのおぼつかないシャルネアの様子を見て、テルスが言う。
「早く脱出して下さい。敵は退いた様ですが、ここもいつ崩れるか分かりません」
「……まだ、もう少し……」
「なりません。貴女は、この国を支えていかなければならない人間なのですよ」
「…………」
 そう言われたシャルネアは、がらっと雰囲気を変えて言う。
「テルスは、大変かと思いますが父の遺体を運んで下さい。ワーナーは私が後で起こして連れて行きますから。あと、城の中に人が残っていないかどうか確かめて下さい。たぶん、避難してくれているとは思いますけど……」
 そう言ったシャルネアの顔は、まさしく国を治める者の顔だった。シリウスと話していた時の幼さもなく、その年代特有の雰囲気さえ、最早残ってはいない。これが、本当に14歳の少女なのだろうか。
 そんなシャルネアを見て、テルスは驚きを隠せずにいた。無理もないだろう。あのシャルネアが、こんな物言いをするのだから。
「お願いします」
 そう言うと、シャルネアはゆっくりとシリウスの元へと歩き出した。
 暗黙の了解とでも言うべきか、テルスはそれ以上何も言う事が出来ずに、黙ってシャルネアの言葉に従った……
「シリウス……」
 誰もいなくなった謁見の間で、シリウスに抱きつきながらシャルネアは呟いた。
「――うぅ」
 その時、背後からそんな呻き声が聞こえシャルネアは首を回し背後に視線を向けた。
 呻き声を上げたのは当然ワーナーであり、その身をゆっくりと起き上がらせている。
「ワーナー……気がついたなら、早くここから逃げた方がいいわ」
「シャルネア様……? それに、まさかそれは……」
 シャルネアの直ぐ間近横たわる巨大な生物を見て、ワーナーは驚きの余り気がついたばかりでハッキリとしていなかった意識を覚醒させた。
「それとか言わないで欲しいかな。シリウスは、私の親友なんだから」
「シリウス……まさか、アルリアの日記に出てきた龍ですか?」
 そんな言葉を紡いだ刹那、ワーナーはシャルネアが龍の事を知りたがっていた理由に思い至った。
「なる程……いえ、今はそんな事を言う時ではありませんでした」
「……どうかしたの?」
「シャルネア様。本当に申し訳ございませんでした!」
 突然頭を下げられ、シャルネアは困惑気味にワーナーを見返す。
「私は、私がもっとしっかりしていれば……」
「……ワーナー」
 うな垂れるワーナーを見て、シャルネアは柔らかな笑みを浮かべ声をかける。
「お父様の事なら、貴方が気に病む必要はないわ。もし何か言いたい事があるのなら、後で改めて聞くから……今は、少しの間一人にして欲しいの」
「シャルネア様……分かりました。必ず、貴女には真実を伝えます。ですので、少しでも身の危険を感じたら直ぐに避難して下さい」
「えぇ。約束するわ」
 そんなシャルネアの言葉に頷き、ワーナーもまた謁見の間から出て行く。そうして今度こそ
一人残されたシャルネアは、再びシリウスへと視線を戻す。
「シリウス……」
 再び紡がれる呟き。その呼びかけに、二度と言葉は返ってこないのだと思うと自然と涙が溢れてくる。
「シリウス……」
『シャル……』
 再度の呟きに、シャルネアはシリウスがそう応えてくれた様な気がした。
 否。それは気のせいなどではなく、確かな応え。
『シャル――心配しなくていい。僕達の種族には、死という概念がない。肉体の死が訪れても、また一から始まるだけなんだよ』
 そんな声が聞こえてかと思うと、シリウスの身体が眩いばかりの光に包まれた。
「シリウス!」
『始まった……これが、再生――龍の、生まれる瞬間……』
 そう聞こえると、シリウスの言葉が聞こえるという感覚は薄れ、シャルネアはソレを目の当たりにした。龍が、誕生する瞬間を……


17 :夕咲 紅 :2009/06/07(日) 03:52:42 ID:WmknkmLA

終章 旅立ちの王女

 クーズベルク城が謎の集団に襲撃されてから数日が経過した。
 幸い、城下町に被害は一切なく、初めから襲撃者の目的は城――国王であるアラダブルだったのだと推測された。
 襲撃者が龍を探していたことなど国民は誰も知らず、また知ったとしても信じなかっただろう。
 城内にいた者たちには怪我人は出たものの、幸い死者は出なかった。その怪我人たちも殆ど大きな傷を負った訳ではなく、この数日でほぼ回復したと言える。
 焼け崩れた城も、半分以上の修復は終わっていた。
 シャルネアは力を合わせ城の外壁を修復している兵士や国民の姿を見つめながら、襲撃の翌日に語ったワーナーの言葉を思い出していた――


「私は、元々ある組織に属していて、ある目的の為にこの国にやって来ました。そして……昨日襲撃してきたのは、私が属する組織の者たちでした。こうなった今でも、その組織のことを話すことは出来ませんが……本当に申し訳なかったと思っています。言い訳に聞こえるかもしれませんが、私はこの国が好きです。決して、アラダブル様に手をかけようなどとは思っていませんでした。しかし、私がなかなか結果を出さなかった為、上の人間が他の人員を動かしたのでしょう。その人員が、昨日の襲撃者たちです。よりにも寄って、結果の為になら手段を問わない連中……これは私の落ち度です。本当に申し訳ございませんでした」
 そんなワーナーの話を、シャルネアは黙って聞いていた。驚きはあった。それを隠すつもりもなかった。しかし、その話を聞いて出た言葉は、妙に冷めた「そう」と言う一言だけだった。そんな自分の言葉にも軽く驚きつつ、それでもシャルネアは今後の国のことを考えて言葉を続けた。
「これから、どうするつもりなの?」
 組織のことを話せない。その言葉から察すればワーナーは組織に戻るのだろう。いや、むしろその立場を考えればこの国に残ると言う選択肢があるとは思えない。それでも、とシャルネアは考える。ワーナーの知識は、この国にとって必要なのではないか、と。
 シャルネアの問いかけに、ワーナーは俯き何も答えない。いや、答えられなかった。
「……もし、貴方がその組織に戻ると言うのなら、私にそれを止めることは出来ません。でも、私個人の――いいえ。クーズベルク王女の考えとしては、貴方にはこの国に残って欲しいと考えています」
「しかし……」
「ワーナー。私は、今回のことを貴方のせいだとは思っていません。ですが、もし貴方が罪悪感を抱いて、そのままこの国を立ち去るのが心苦しいと言うのなら……私の為に、この国の為に知恵を貸しては貰えませんか?」
「シャルネア様……」
 シャルネアの言葉に、ワーナーは心打たれたのか涙腺が緩む。しかし涙を流すことはなく、決意を固めその言葉に答える。
「分かりました。このワーナー=クレイヤード。貴女の為に力を貸しましょう」


 そんなやり取りを思い出し、シャルネアは苦笑を漏らした。ワーナーの恐縮した態度や、自身の似合わない口調に。
「シャルネア様」
 背後から声をかけられ、シャルネアは素直に振り返る。そこにいたのは、心配そうな表情のテルスだった。
「本当に、行かれるのですね?」
「えぇ」
 テルスの問いかけに、シャルネアは頷いた。
 それは、シャルネアの固めた決意。シャルネアの説得によってクーズベルクに残ることになったワーナーは、クーズベルクの再建――と言うよりは発展の為に、他国の力を借りるべきだと進言した。シャルネアはその意見に賛同し、その交渉を自ら行うことにしたのだ。
 今自分に出来ること。するべきこと。そして、したいこと――それらを考えた結果、見聞を広める為と言う理由を付け加え、自ら他国に赴き、助力や支援を請おうと言う答えに辿り着いた。
「城の修復とか、国のことは任せっきりになっちゃうけど……ワーナーと二人で、お願いね?」
 シャルネアはワーナーの話を誰にも話してはいない。その為、ワーナーを煙たがる者はいないだろうが、あくまでもワーナーは国の人間ではない。そこでシャルネアが考えたのが、テルスとワーナーの二人による代理統治だ。テルスは元々文武両道な人間で、ワーナーにはそれ以上の知識と知恵がある。その二人に任せておけば、当面の心配をする必要はなくなる。そう考えたからこそ、シャルネアは今回の結論に至ったのだろう。
「はい。お任せ下さい」
 シャルネアの決意を聞いたテルスは、当然反対した。今もまだ、考えを改めるつもりはないのかと問おうと思っていた。しかしシャルネアの真剣な表情を見て、テルスは最後の説得をすることもなく諦めた。だからこその、真剣な返答。
「シャル様ー! こいつ何とかして下さいよー!」
 城門の前でそんな情けない声を上げたのは、白い小さな獣に突かれているファイだった。
 そんな様子を見て苦笑を漏らすシャルネア。
「シリウスー! こっちおいでー!」
 そんなシャルネアの呼びかけに応える様に「ピィィッ」と一鳴き上げて、その獣はふわふわと中空を飛びながらシャルネアの元へとやって来る。
 シャルネアは両手を前に出し、その中にぽすりと収まった獣を抱きかかえた。
 シャルネアの両腕に包まれて、その獣は嬉しそうに再び小さく鳴いた。そんな様子を見てシャルネアは小さく微笑み、テルスへと向き直る。
「それじゃあ、行ってきます」
「はい。お気をつけて」
 テルス以外に見送りはいない。それはシャルネアが望んだことであり、実際に叶えられた。
 シャルネアはテルスに向けて微笑みを浮かべ、そうして踵を返す。
「お待たせ、ファイ」
「いえいえ。大丈夫です」
「ルーク!」
 そのまま進もうとするシャルネアに続いて歩き出すファイだったが、声をかけられ一度足を止めそのまま振り返る。
「シャルネア様のこと、頼んだぞ!」
「任せて下さい!」
 ファイは、自ら他国へと足を運ぶと言うシャルネアの護衛役として任命された。先日行われた試験の結果、そして襲撃事件での実績を認められ、晴れて近衛騎士として任命された。そして最初に与えられた使命が、シャルネアの護衛と言う訳である。それはある意味、ファイにとっては希望通りと言えるものではあったが……
「まったく、シャル様のお転婆にも困ったもんですね」
「言っておくけど、これはお転婆じゃないからね?」
「はいはい。分かってますよ」
 子供をあやす様な口調で言葉を返され、シャルネアは拗ねた様にそっぽを向く。そんな様子を見て苦笑を漏らすファイ。
 そんなやり取りをしている内に、シャルネアたちは城下町も抜ける場所まで差し掛かっていた。
 クーズベルクの町と街道とを隔てる門。
 決して強固とは言えないその古い門を見て、シャルネアは自分が旅立つことを改めて実感する。
「ファイ」
「はい」
「これから、よろしくね?」
「ええ、こちらこそです」
「ピキィィ」
 そんな二人の会話に文句を言う様に、シャルネアの腕の中にいる獣が鳴いた。
「分かってる。シリウスもよろしくね?」
「ピィィ!」
 そんなシャルネアの言葉に、今度は嬉しそうに一鳴き上げた。
「そいつ、本当にシャル様に懐いてますよね」
「当たり前じゃない。だって。シリウスと私は親友だもん」
「ピィィ」
「そうですか。まあ、別に構わないですけどね。でも……こいつが伝説の龍だなんて、あんまり信じられないんですけど」
「そう? まあ、それならそれでいいんじゃない? だって、シリウスはシリウスだもん」
 そう言ったシャルネアの表情は、キラキラと輝いて見える程純粋なものだった。そんなシャルネアの様子にファイもまあいいかと言う気持ちになり、それ以上は追求しないことにした。
「それじゃあ、行きましょう」
 いつの間にか止まっていた二人の足。そこからの一歩を踏み出すべく、シャルネアはそう言った。
「はい」
 そんなシャルネアにファイが頷く。そして、二人はほぼ同時に歩き出した。


 今、一人の少女と一人の青年、そして一匹の小さな龍の旅が始まろうとしていた。
 
 今、一人の少女が、己の運命を見出し、その道を歩み出そうとしていた。
 
 少女の名前は、シャルネア=マーツ=ミリオム。ある国の王女である。

 青年の名前は、ファイ=ルーク。幼き頃、シャルネアを守ると誓った騎士の青年。

 そしてその国の名を、獣森の王国クーズベルクと言った。
 
 シャルネアとファイは、一匹の子龍――シリウスと旅に出る。

 いつの日か、龍を従える王女(ドラゴン・プリンセス)と呼ばれる様になるシャルネアの旅が、今始まった……


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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