Limit


1 :明杏 :2006/10/22(日) 14:27:34 ID:nmz3miV4

−ヤバイ。
僕は時計を見て固まった。時計の時刻は、8:00を回っていた。

今日は大切な、取引先との会議があるんだ。遅刻なんか絶対許されない。

急いで服を、スーツに着替えネクタイを締めた。
それから洗面所に行って、急いで顔を洗い、歯を磨く。
寝癖は手ぐしでなんとかなりそうだ。

カバンを手にして、急いで部屋を出た。口には食パンが一枚。
僕は自転車出勤だ。会社には、どうがんばったって20分はかかる。
−何だって、こんな日に限って寝坊するかな。
連日の残業がたたったのであろうか。
自転車をこぎながら、そんなことを考えていた。


僕の名前は、藍川 圭(時々女と間違えられる)。歳は25。普通のサラリーマンだ。

今日はさわやかな朝だ!寒くもなく、暑くもない。5月の風はほんとうに心地よかった。どうやら雨も降らなさそうだ。これだから、自転車出勤は辞められない。

−チッ。信号か。
急いでいる時に限って、信号に引っかかるものだ。僕は仕方なく、自転車を止めて地面に足を着いた。
イラつきながらも、辺りに目をやった。小学生の列が通りすぎていく・・・。

ふと目についたバス停に、見たことの無い女性が立っていた。
身長は160センチ前後、割と細身で、茶色の美しい髪にはゆるやかなウエーブがかかっていた。
−けっこう美人じゃん。

歳は僕より少し下のような気がした。
肩には、少し大きめのトートバック。学生だろうか?

そのバス停にバスが止まった。彼女はそのバスに乗って、きっと、大学か専門学校にでも行くのだろう。
・・・しかし、その予想はハズれた。
彼女はバスに乗らなかったのである。

−おかしいな?バスを待ってたんじゃないのか?
疑問に思った。
−! 人を待ってるのかも。

「あのう」
ぼくは慌てて振り向いた。
僕の後ろにいたおばさんに声をかけられたのだ。
「はいっ。な、何ですか?」
驚いたせいで、声が裏返りそうになるのを必死でこらえて喋った。
「・・・渡らないんですか?」
「え・・・?」

信号はとっくに青だった。


26 :明杏 :2013/08/18(日) 18:06:50 ID:n3oJY4V4uH



「いってぇー…」

朝、目覚めると同時に、僕はつい呟いてしまった。

頭が痛い。

どうやら、昨日のお酒のせいで二日酔いになってしまったらしい。

しかし、不思議といつものような何とも言えない後悔の念や不快感は、ない。





あの後。



僕らは一言も言葉を発することなく、ただ手をつないで歩いた。


言葉にしなくても、お互いの気持ちは解っていた。

いや、正確には、僕には言葉を発する余裕がなかった。

もう、目の前で起こったことが信じられなくて、でもうれしくて、けど、怖くて。
ただ、夢でないことをいのるばかりだったのだ。

つくづく情けないが、そんな自分を、今は嫌いにはなれなかった。


それから、僕はバスに乗って、上園さんをアパートの前まで送っていった。

恥ずかしそうに手を振る彼女が可愛らしくて堪らなかった。



その後、不安定な幸せを噛みしめながら、僕は帰路についた。




そして、今にいたる。



今日も仕事だ。

急いでシャワーを浴びた僕は、家を出る。


そうだ、今日も自転車が無い。


昨日、SATOKOさんのスタジオに置いてきたのだった。



ということは・・・今日もバス停で会えるのだろうか、彼女に。

あのままうやむやになってしまったデート(食事に行く誘いをしたのだった)の話もしたい。


僕は、ニヤケる顔を我慢するのに必死だったが到底無理だった。




いつもの時間にバス停に行くと、彼女はすでにそこにいた。
いつもと同じように。
今日の彼女は白を基調にした、レースのブラウスに、小さな花の模様が入った、うすピンクの膝丈スカート。「ひだ」が小刻みに入っていて、とても可愛らしい。
花柄のピンクのスカートを見ると、無意識に昨日の撮影を思い出してしまう・・・。

あの、天使のような透き通る肌。
優しい微笑。
眩しい姿。


「お、おはようございます!」
つい、ボーっと物思いにふけってしまった僕を見て、上園さんが話しかけた。
「あ、お、おはようございます!!」
お互いなんとなく深々と「礼」をする。
「あのさ、昨日の話なんだけど」
僕は普通を装っていたのだが、自分でも不自然だったように思う。
「はい」
「お礼の食事の話」
「あ・・・」
「どうかな?」
「は、はい。私でよければ」
彼女は照れながらうつむき加減に返事をしてくれた。
耳まで真っ赤にして・・・かわいい。

「今度の週末なんてどう?」
「大丈夫です」
「そう?じゃぁ、土曜日に」
「は、はい」
「上園さんは何が好きなの?」
「嫌いなものは特にないので、何でも食べれます」
「そう?了解」
「楽しみにしています」
彼女は軽く笑った。

うれしかった。


バスが来て、僕はじゃ、と上園さんに言い、バスの乗り込もうとした。
いつものように彼女はバスには乗らない。
その時ふと思った。

「そういえばさ・・・」
僕はバスの乗車口のステップに足を掛けたが、上園さんのほうを振りかえって言った。
「上園さんは、いつも誰を待ってるの?」
彼女は一瞬固まって、答えた。
「友人です。専門学校の」
「あぁ、そっか」
そう言うと、バスのドアが閉まった。

朝のバスというのはこんでいる。
立ったまま、バスは発車していく。
僕は窓ガラス越しに、彼女のほうを目で追ってしまった。



ーあの時。

僕は見逃さなかったのだ。


彼女の顔が確かに曇ったのを。


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