重力と白い鳥
わたしはただ目を懲らす
羽ばたいたその羽根の強さを
わたしにもください
風が吹いて
舞い散る塵
そして砂
一瞬のうちに自由の身となったそれらは
空の青色をいくらか埃っぽくする
しかしそれは陰鬱の灰色でなく
決意の白色と迷いの黒色の混ざった
始まりの灰色である
そして
一瞬のうちにいつものそれになった風景
そして頭上には空色
風が吹いて
脳で感じるのでなく
五感で感じるのでなく
ただ流れるのでなく
羅列の羅列でなく
波長の波長でなく
ただ平面でなく
それは桜の花弁のように
それは獣の眼のように
繊細で猛々しく
それは笹の小舟のように
それは真夏の嵐のように
穏やかで激しく
絡り廻って繰り返して
僕は瞼を静かに閉じる
誰が運んでくるのだろう
この儚げな桃色を
誰が運んでくるのだろう
この陰鬱な気分を
誰が運んでくるのだろう
この突き抜ける開放感を
そして
今年も春がやってくる
太陽は理性を蝕み
空と海は群青色の光を選び
空気は少し埃っぽくて
月の光に洗われる
そんな
夏の思い出
煙のにおい
枯葉のおと
パステルの堕落
いつのまにか閉じこめられた箱庭
そこで貴方に想いをはせる
色褪せた
秋のうた
その輝きは雪の色
染まらない色
毛糸のマフラーは君の色
そして私は
染まってしまった鳥の色
そして
冬は眠る
季節は廻る
じんるいとは
かぎりない ちのうの だらくである
じんるいとは
はかない きおくの うみである
しぜんのこえを きかずして
ぎんいろのみずに あしをひたす
そのぎんいろは けっしてすきとおることはなく
いつまでも よどんだまま
じんるいを むしばむ
ふちのない みずのなかで
いつしか しずんでゆく たましい
じんるいとは はてない たんきゅうしんの ほのおである
じんるいとは しんかのやみにしずむ こどくである
わたしたちから逃げてばかりいたくせに
いつからそんなに傲慢になって
わたしたちを殺しては金属を流した
さんざん利用しては捨てていったくせに
いまさら共生しようなんて
空に向かって伸びるわたしたち
空に向かって無理に飛び立って
それで賢くなったつもりか
人間よ
光をあげよう
人間よ
錆びるなよ
走る
光の浸みたアスファルトを走る
起きたばかりのグラウンドを走る
今日から明日へ走る
時間の上を走る
地平線を走る
夢の中を走る
今日一日を走る
命を走る
休まず走る
カーテンの一揺れ
北極星の瞬きの合間
時間の流れに記憶が 洗われてゆく
忘却を忘れた
喜びも絶望も抱えた
夜空の星に瞳が 洗われてゆく
こんなに宙が冷たい夜は
ビルの上にも オリオン座が廻る
そんな澄んだ夜の記憶
愛されている記憶を
抱えてる 今日の孤独
水平線の裏の 赤い空に沈む 燃える夕日眺め
私はただ波に浮かび眠るわ
地平線の裏の 暗い宙に浮かぶ 揺れる月を眺め
私はただ土に沈み眠るわ
深い森の裏の 木々の下に吠える 獣たちを眺め
私はただ砂にまみれ潜むわ
浅い夢の裏の 孤独の中廻る 星たちを眺め
私はただこの場所を捨てられずに
相容れぬものの裏の 泥沼に耐えられずに
私はただ旅立ちの朝を迎えて
相容れるものの裏の 鋭利な眼に耐えられずに
私は知らぬ間に堕ちてゆくわ
歩むことを選び 勝ち抜いてきた 私たちの定めなのです
いつからか重い鉄の塊は空を飛ぶようになり
私たちは空を飛ぶことをあきらめた
鉄よりも重い何かが躰の中を離れず
重力をつくりだす
ためしに誇りを捨ててみた
まだ重力は消えない
今度は記憶を捨ててみた
それでも私は浮かばず
思考することを捨てたとき
私はどこまでも堕ちていった
いつまでも重力を感じてる
舐めてみたら幸福の味がした
全てを手に入れる幸福に
私たちは重くなっていく
もう戻れない重力を知らなかった日々
いつまでも重力を感じながら生きてゆく
どんなに宙が近くても
どんなに天が遠くても
いつかサクラサクよと言った君
そうだねと笑った僕
風に乗る若草の匂い
水面には薄ピンクの花びら
サクラチル
桜
「散るさだめ」とはよく言うが、だとすれば僕達はどうやって花を愛でればよいのか
人類
「知能をもつ」とはよく言うが、だとすれば僕達はどうやって空を見ればよいのか
地球
「蒼い星」とはよく言うが、だとすれば僕達はどうやって感情を燃やせばよいのか
偉大な都市高層ビルの真上で
定義を持たぬ彼が笑っている
もしも君にほんの少しの優しさがあるならば
どうかこちらを向いてください
愛に飢えた私たちの叫びが
・・・・・・聞こえますか?
そして例の屈託のない笑顔で
無力な私たちを
安らぎへと導いてください
君にとっては一瞬の出来事
でも
私たちにとっては永遠の幸せだから
幸せの青い鳥
ミサイル
ミサイルが
ミサイルがとんでくる
ミサイルがキャベツ畑にとんでくる
ミサイルがキャベツ畑の水滴にとんでくる
ミサイルが、
ロケット
ロケットが
ロケットがおちてくる
ロケットが破滅をのせておちてくる
ロケットが破滅をのせて涙のなかにおちてくる
ロケットが、
急行列車
急行列車が
急行列車がやってくる
急行列車がわたしを攫いにやってくる
急行列車がわたしをここから攫いにやってくる
急行列車が、
とぎれたじかん
生き生きと、生きよ
過去から、未来から吹いてくる、肌色の風を感じて
さて、この地面の奥には、また違う地面があるわけでして。
決して積み重なった時間では、ないのです
さあ、生き生きと、生きよ
丁度、東の空から吹いてくる、遙かなる風を感じて
開いてみた理科の教科書
『元素は増えたり無くなったりしない』
そう、この教科書のこのページは
いつか海だったのかもしれない
この灰色の地面に
雑踏が染みている
影
この肩までの髪に
時代が染みている
雨
ほら
向こうに
星が
堕ちた
ほら
向こうに
人が
堕ちた
この私たちはあまりにも曖昧な存在でありますので
「護る」と「壊す」は表裏一体であります
そして私たちの理性はあまりにも軟弱ですので
「時の流れ」を認識できずに笑うのです
私たちは最期、あまりにも無力でありますので
果たして知るべきか否か
迷ったまま消えるのです
いくつもの光が目に染みて
どれほどの影を見たろうか
いくつもの後悔が行き場もなく
線路の端っこに横たわっているだろう
擦れ違う度に 強がって君を見ない
視線ぶつかる度に 嘘ついて君を見ない
いくつもの夜に泣いて
どれほどの波があるだろう
私を濡らす雫で
なにか綺麗になってる気がしてた
沈殿する 見れなかった君が
少しずつ汚れていくのを知っていた
いくつもの君を見ないで
見ないまま過ぎていく季節が
春になり 夏になり 秋になり 冬になり
私を苦しめるのでしょう
知っている 分かっている
私はいつまでも見られないのだと
知っている 気づいてる
君も私を見られないのだと
擦れ違う度に 少し歪んでしまう唇が
そっと動いた 音を立てず