一場面集


1 :森谷 空 :2011/10/09(日) 15:54:07 ID:ncPinitk

文章練習を始めました。
気持ちの維持につながると思い、こちらを使わせていただきます。
一場面で書きたい中心点を書くというやり方です。
広がっていけたら、と思っています。

よろしくお願いします。


13 :森谷 空 :2011/10/27(木) 15:23:04 ID:ncPinitkoe

ごほうび

 何でオレがこんなことしなきゃいかんのだ。壮太は下唇をつき出していた。
 所は学校の屋上。やっと授業が全部終わって遊ぶぞーってときにアイツがオレを引っぱって台無しにしやがった。冷たい首筋をとおり、ぶるっと体がふるえる。冷えた土を触る手が痛い。
「ちょっと、曲がってるっ。花がかわいそうだよ!」
 ゲっと壮太が思ったのもつかの間、どんと体当たりを受け、右へ体勢を崩した。
「ってえな、何すんだよ沙耶香」
「壮太がへたくそだからだよっ」
 キッとひと睨みし、先ほどまで壮太が植えていた黄色い花を綺麗に植えなおす。白い指先が汚れるのもかまわず、沙耶香は丁寧に花を土を扱っている。
 環境美化委員会。沙耶香はそこに入っていて、今はほかのメンバーもいる。屋上のフェンスに沿って花壇があり、それぞれの位置で作業をしている。ただ、男手もほしいということで壮太は無理やりに連れてこられたのだった。
 どうもオレは沙耶香が苦手だ。壮太は小さく溜息をついた。
 思ったことをまっすぐに言い、行動する。それでいて嫌みを感じない。壮太はいつも翻弄されていた。
「ほらできたっ。こうやってやるんだよ」
 土のついた手で顔をぬぐう。満足げに口もと緩める沙耶香。横からの日差しもあって、その笑顔が不意にいつもより綺麗に見えた。沙耶香が不思議そうな目をした。気づいて壮太は慌てて目をそらし、「お、おう」と上ずった声で応えた。自分の心臓が不必要に鼓動を打っていることに壮太は戸惑う。
「じゃ、また様子見にくるから。いまやったみたいにやっといて」
 立ち上がり、沙耶香は自分の持ち場へ帰っていく。歩く動きに合わせてひらひらと揺れるスカートが遠ざかろうとする。
 と、数歩歩いたところで沙耶香はつまづき、べちゃと倒れこんだ。慌てて壮太が駆け寄ろうとすると、強めの風が吹きつけ、沙耶香のスカート大きくまくり上げて抜けていく。
 しっかりと見てしまった。
 水色の、横に伸びたつぶれたクマの絵を。
 ほかのメンバーが助け起こす中、壮太は動けないでいた。
 そしてこうも思っていた。
 こいつに振り回されるのもわるくないな、と。
 気がつくとすぐ目の前に顔を赤くした沙耶香がいて、「見たでしょっ!」と詰め寄っていた。
「み、見てねーよ。見るわけねーだろ!」
「ぜっっったいに見た! 見たっていうまでゆるさない!」
「だから見てねーってばっ」
 皆が見る中、二人は長いこと言い張っていた。今日も二人の元気な声が学校に響く。

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 1480文字
 約5時間
 いいことあるよってことです(笑)。ぷぷって笑っていただけたら嬉しいです。


14 :森谷 空 :2011/10/29(土) 15:23:15 ID:ncPinitkoe

目覚める

「ねえちょっと、そこのあなた」
 東堂千晴はぼさぼさ頭の少年の背をつついた。入学式後、教室でのホームルームが終わり、廊下に皆が流れ出ているところだった。千晴と彼――高杉は同じクラスだ。
 気だるい調子で高杉は振り返る。
「……なに」
「なにって。わたしが気にならない? あなた、入学式からわたしを見てないけど」
 千晴は髪をかき上げて耳にかけ、不敵に微笑む。廊下にいる生徒は彼女を見ている。
「なんか変?」
 少女を見下ろし、高杉はぽりぽりと頬を掻いている。
 千晴は目を開く。
「え? この人たちみたいにわたしに魅力を感じない?」
「……そういやそうだな。俺はよくわからない。それがどうかした?」
 あくまでも高杉の返事はは千晴に興味を持っていない。千晴はぐっと奥歯を噛みしめ、顔を赤くした。自分に興味を持たない男がいることが気に入らなかった。 
 感情的になるあまり、口をついて出てしまう。
「あんたなんか大嫌い!」
 廊下に響き渡る高い声。皆、びっくりして彼女を見ている。
 千晴はハッとした。手を口の前に持ってきて目を泳がせる。こんなこと言うつもりはなかった。高杉は大きく目を見開いたあと、呻き声を上げ、体を折り曲げていた。
 悔やんでも遅い。自分に興味を持たない男が初めてで取り乱してしまった。
 そこに、「……もっと言ってくれ」というぼそぼそとした声が聞こえてきた。高杉が顔を上げて口を開いていた。
 千晴だけでなく、様子を見守っていた生徒たちも驚いている。高杉のみ恍惚とした表情を浮かべ、千晴を見つめていた。
「もっと大嫌いって言ってくれっ。なんか俺、そう言われると気持ちいい!」
 にじり寄る高杉から数歩下がる千晴。皆は散り散りに逃げていく。傷つけるどころか、変なものを目覚めさせてしまった。千晴は引きつった笑いを浮かべていた。

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 設定からここまで、4時間くらい。
 1080文字
 自然な流れになったかどうか。思わぬ展開を書きたかったんです。


15 :森谷 空 :2011/10/30(日) 02:32:09 ID:ncPinitkoe

秘めごと

 普段は人気のない体育館裏に、今は一組の男女がいた。
 日差しの届かない、蒸した空気の漂う中で、二人は抱き合っていた。今は昼休み。生徒たちのはしゃぐ声は遠くくぐもって聞こえる。そばにある塀の向こうから生えた木が、葉を落とし、かさかさと音をさせる。蝉がどこかで鳴いている。
 男が体育館の壁を背にし、女が男の胸に顔を、体を預けていた。男は優しく肩から垂れている女の髪を指ですき、もう片方の手で女の頭を撫でている。その様子からは二人の仲睦まじさを感じさせる。言葉はなくても構わないのだろう。二人は共にブレザーを身に着け、清潔感のある着こなしをしていた。
 風が吹き、かさかさと地面で葉が舞う。
 女がゆっくりと顔を上げ、男を見上げる。男は手を止めず、女の視線を受け止める。何秒か見つめ合っていると、女の意が伝わったのか、男がほのかに笑みを浮かべ、微かにあごを引く。女はわずかに目元を緩ませると、男の背に回していた手を引き、今度は彼の首に回した。それに合わせて男も手を彼女の背に回し、軽く抱え込むようにする。
 準備は完了したとばかりに、二人の顔は少しずつ近づいていく。男が少し顔を傾け、女も男とは反対側へ角度をつけて迫っていく。
 お互いに接触させようとしているのは、唇と唇だ。
 徐々に徐々に二人の唇が近づいていく。熱い吐息を十分に感じる距離。
 お互いの、柔らかい唇の感触を、体温を、そして漏れ出す唾液を体感する未来を頭に描いたとき。
 突如、がさがさっと乱暴に葉を踏む音が聞こえた。次いであっ、という驚く小さな声と、息を飲む空気。
 二人が反射的に顔を離し、音のした方へ顔を向けると、手を繋いだ制服姿の男女が陰から二人を見ていた。彼らも二人と同じ目的でここへ来たのだとすぐにわかる。やってきた二人は戸惑った様子で慌てて来た道へと戻っていった。
 再び二人のいる空間に静けさが戻り、蒸し暑い空気を思い出す。蝉がどこかで鳴いている。
 二人は少しの間、今起きたできごとに呆けていたが、目線を合わせるとどちらともなく笑い出した。そして女の側から軽く、男の唇へ、ちょこんと口づけをすると、二人は体を離し、何事もなかったかのように手を繋いで体育館裏から自分たちが過ごす日常へと戻っていく。
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 設定から合わせて、2時間15分くらいです。
 1200文字
 こそこそいちゃいちゃしてる二人を書いてみたくて書きました。こそこそ感が出ていればいいです。


16 :森谷 空 :2011/10/30(日) 14:59:23 ID:ncPinitkoe

取引

 事務所がある。そこに不穏な空気が漂っていた。
 低いテーブルを挟んで男が二人、向かい合ってソファに座っていた。両方とも黒いサングラスをかけ、上等そうなスーツに派手なシャツとネクタイという格好だった。腕には金色の腕時計があり、窓からの光を反射していた。
 ドアを背にした男が客人だろう。対面に座る男の右手には煙草が挟まれ、天井に気だるい煙が伸びている。
 両者共に真剣な表情を浮かべている。ぼんやりとした電灯が薄暗い室内を照らし出す中、ぴりぴりとした空気の音が聞こえてきそうだ。
「例の物は準備できたんだろうな」
 低い声を発したのは煙草の男だ。口から煙を輪にしながら吐き出す。男の体からはみ出している威圧感が場の空気を張り詰めさせる。
「おう、兄貴。そりゃあもちろん」
 しゃがれた声で問われた男が陽気に答える。口もとにはにやついた笑みが浮かんでいる。返事を聞いた男は気だるそうに右手を伸ばし、煙草の灰を、とんとんと落とす。「そうか」と静かに応じる。
 下座の男は、脇に置いていたアタッシュケースを低いテーブルに置き、番号式のロックを外すために合わせていく。数字を合わせ終えると、両側についている突起に親指をかけ、左右同時に端へずらす。たたん、という鍵の外れた音が室内に響き、ケースは事務所の主へと向けられる。あとはその銀色に鈍く光るケースの口を開くだけだった。
 下座の男は立ち上がり、ケースに手をかけ、にやりと笑う。「兄貴、開けますぜ」
 煙草をくゆらせている男は重々しく顎を引く。
 ケースが口を開いていく。荘厳な宝箱でも開く瞬間のような輝きを幻視してしまいそうになる。縁から金色の輝きが漏れてくるようだ。
 ケースが完全に開かれると煙草の男はがばっと身を乗り出し、俊敏に煙草を灰皿に押しつけた。男の口は大きく開かれ、目はサングラスで見えないが見開いていることがうかがえる。
「おお……! おお……っ!」
「どうですか。兄貴」
 兄貴と呼ばれた男はケースの縁をがっちりと握り、丹念に中身を見回している。
「最高だ。よくやった」
 賛辞の言葉を受け、下座の男は安堵したのか溜息をついた。
 ケースの中には、隙間なく、びっしりと成年向け雑誌が並んでいた。中にはもう手に入りにくい物もある。大のエロ漫画好きの兄貴のために、下座の男は力を尽くしたのだった。
 というのも、この男にも見返りがあるからで、決して無償ではない。
「こっちも用意はできている。そら」
 兄貴は背後から大きな袋を引き上げると、とすんとテーブルに置いた。下座の男が中身を急いで出すと、男の要望通りの、可愛らしいアニメキャラのフィギュアであった。箱には限定版と書いてある。
「ありがとうございます、兄貴っ!」
「いやいや、お互い様だ。はははは」
 二人の大の男は、薄暗い事務所の中で、笑い合っていた。

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 設定が約40分。
 本文が約40分。
 約1時間30分です。

 1720文字
 シュールなものを書きたいと思いました。


17 :森谷 空 :2011/10/31(月) 15:03:59 ID:ncPinitkoe

約束の時間

 玉崎友哉は部屋のインターフォンを押した。小さく音が聞こえる。
 約束の二時に合わせて来たので迷惑にはなっていないはずだ。恭一のアパートは真新しく、つやがあった。
 少し待っても反応がないので友哉はもう一度インターフォンを押して待つ。聞こえるのは周囲を走る車の音だけ。
 友哉は腕時計の文字盤を確認し、二時を三分過ぎたのを確認する。ドアの脇にある窓から中を覗き込もうとするが、曇りガラスで中が見えない。依然として物音が聞こえない。もしかして出掛けているのだろうか。友哉は少し不安になるが、とりあえずドアを引いてみた。ハンドルを引くとかちゃりという音がし、やや重く緩やかにドアが開いた。
「物騒だな」
 眉を少し寄せつつ、部屋の中を軽く覗き込む。
 中は暗く空気が澱んでいた。短い通路の先に、ドアが一枚見え、わずかに開いている。
「恭一、いるのか?」
 声が薄暗い室内に吸い込まれる。ドアの先からだろうか、かすかに機械のうなる音が聞こえる。
 少ししてどさどさっと何かが落ちる音がし、がしゃんばたばたと何かを倒したような音と、足音が聞こえてきた。
「あたたた。友哉か。ごめんごめん、ちょっと熱中しちゃってて」
 奥のドアから小柄な恭一がのそのそと出てきた。ぼさぼさ頭に眠そうな目。可愛らしい外見に似合わない姿であわわわとあくびをしている。暗くてもわかる白い腹をぼりぼり掻く。
 友哉は恭一のその格好を見て思わず笑った。恭一らしいかなと思った。
「今の音、大丈夫?」
「ああ、本を倒しちゃっただけだから平気平気」
「小説はできた?」
「んー、まだまだだね。どうもうまくない」
 言いながら友哉は部屋の中に上がり、玄関のドアを閉めていく。

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 本文だけで、50分かな。
 設定が60分。
 約1時間50分。
 1080文字。
 たまには男二人もいいかなと。可愛らしい男にふふふとなっていただければ。


18 :森谷 空 :2011/10/31(月) 22:15:03 ID:ncPinitkoe

届いてほしい

 校門の前。柏木紗枝は下校する人波に視線を投げては外していた。
「まだ来てない、よね」
 頼りなげに紗枝は視線をうろうろさせる。目当ては一つ歳下の少年だった。普段の自分ではない体感に紗枝は落ち着かない。握り締めた手に汗が滲む。
 少しして真新しいブレザーに身を包んだ、松島勇一の小柄な姿が出てきた。紗枝の体が一気に熱くなる。友達と楽しそうにしている姿を見ただけ満足してしまいそうになる。だが、それではいけない。
「あのっ、松島くんっ」
 無事に声が届き、勇一が振り返った。少し目を見開いている。
「はい?」
 その黒目がちのくりっとした目に見つめられるとつらい。
「は、話したいことがあって、その」
「え。なんでしょう」
 勇一はやや眉を寄せ、困惑の表情を浮かべている。
 そうだよね。先輩に声をかけられたらびっくりするよね。でも今日はあたしは言うと決めたんだ。ここまで来て引くわけにはいかない。紗枝は震える体を必死に抑えて声を絞り出す。
「あた、あた、あたしと、その、つつ、つ、つき……」
 続きの言葉が出てこない。その先を言ってしまえば決定的になってしまう。歯を食いしばる。悔しさに手が震える。
 紗枝は力なく笑った。
「……ごめん。なんでもない。引き止めてごめんね」
 喉が震えてきた。目に抑えがたい衝動が駆けあがってきたので、紗枝は顔をそむけるとそのまま早足で立ち去ろうとする。そのときになって、勇一の友達やほかの生徒が自分たちを見ていたと知る。すべてを振り切る勢いで歩き出した。
 けれど、紗枝の右手に強い反発がかかり、体が引き戻された。涙に濡れた目で紗枝が振り返ると勇一が手首を掴んでいた。力強い目をしている。
「それでいいんですか」
「え……」
「やめちゃっていいんですか」
 勇一の声は真剣だった。可愛らしい顔と、小さい体から発せられてるとは思えない力を感じる。紗枝は何も言えずに勇一を見ているしかなかった。
「今度、二人で話す機会をつくりましょう」
 聞こえてきた言葉を理解するのに時間がかかった。勇一は優しい笑みを浮かべていて、「そのときに続きを聞かせてもらえますか?」と紗枝にハンカチを渡してきた。紗枝はなんとか「はい」と応え、気の緩んだ笑みを勇一に返した。

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 本文は2時間。
 設定は1時間。
 約3時間。
 1440文字


19 :森谷 空 :2011/11/01(火) 15:07:03 ID:ncPinitkoe

あんたなんか

 天上静馬は溜息をついた。
「何なんだほんと、お前」
「こっちが何なんだって言いたいわよ。何がしたいわけ?」
 静馬の席の前に座っているのは同じクラスの倉茂友香だった。前の席の椅子を後ろに向けて静馬と向かい合っている。窓の外から野球部の掛け声が聞こえてくる。薄暗い室内に窓際にだけ光がわずかに差し込んでいる。
 静馬は椅子にだらしなくもたれかかっていた。目はいつも眠そうだ。
「別に何もしたくない」
「なら何であたしがこの前、がらの悪い連中に言いがかりつけられてるとき助けてくれたり、体育で怪我したとき介抱してくれたの?」
「あれは、別に、偶然通りかかっただけで」
「自転車置き場で自転車が倒れてるのも勝手に直してるし」
「あ、いやまあ」
「学校内にいついてる猫といつもじゃれ合って、エサあげたりしてるし」
「それは別にいいじゃねえか」
「なのに、何でそんなだらしない態度なわけ? 不良気取り? やるなら本気でやりなさいよ」
「お前に言われることじゃねえよ。これが俺のスタイルなんだ」
「中途半端なのよ、あんた。見ててイライラしてくる」
「あ、そうですか」
「なんであんたなんか――。どうしてあんたなんかを――」
「……何? 俺がどしたって?」
「いい。気にしないで、いまの」
「ん。ああ。そうか」
「どうかしてたわ、まったく」
「そうか、どうかしてたんだな、お前」
「あんたに言われたくないわよっ!」
「ってえな、殴ることね……って、殴って帰るってありかよ! 待てって」
 何だかふて腐れてツンとした表情のまま、慌てて友香が帰ろうとするので、静馬も立ち上がって後を追いかけていった。

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1200文字

設定1時間
本文1時間
合計2時間


20 :森谷 空 :2011/11/02(水) 16:29:48 ID:ncPinitkoe

大切なもの

「……まさかな」
 放課後、駅周辺にいた唐沢博志は、自分が今見たものを疑っていた。見間違えでなければクラスメイトの桜井ほのかだった。携帯を取り出し、どうするべきか迷う。こうしている間にも、路地の奥で彼女がひどい目に遭う。小さく悲鳴のような声が聞こえる。
「……ああっくそ! どうとでもなれっ!」
 待ち合わせをしていた孝介に心の中でごめんと言うと、震える足に力を込めて雑然とした路地を進む。
 奥では予想通り、頭の色が派手な男三人が制服姿の女の子を囲んでいた。一人が女の子の口を手で押さえている。彼らの背中越しに見える顔はやはり桜井だった。博志の足音が路地裏に響き、彼らが振り返る。
「何だテメエは」
 金色に染めた長髪の男が博志を睨みつけてくる。
 拳を握りこんで震えを抑える。
「やめてくださいっ」
 男たちは一瞬、呆けたような表情をした後、大げさに笑い出した。
「おめえにカンケーねーだろ。坊やはさっさと家に帰れ」
 話は終わったとばかりに男たちは怯える桜井に体を戻していく。彼女は必死にもがいている。
 気がつけば、博志は彼らと桜井の間に体を割って入っていた。自分でもどうやったのかわからなかった。両手を広げて立ちふさがる。
「ってめえ、やろうってのかっ!」
 彼らはあっけにとられていたが、すぐに気勢をあげ、博志に拳を振り下ろしてくる。
 何度も骨と骨がぶつかる鈍い音が薄暗い路地に響き、博志の口から赤い血が飛び散る。体中が痛い。目は腫れて見えにくい。それでも博志はぎしぎしする膝で立ち上がった。
「……何なんだ、おめえ」
 男たちは戸惑いの表情を浮かべていた。何度殴っても蹴っても立ち上がってくる博志が理解できないのだ。長髪の男が赤く染まった拳をもう一度振りかぶったとき、慌ただしい声と足音が聞こえてきた。警察官が駆けつけたのだ。後ろの方から孝介がのそりとやってきて、博志に肩を貸してくれた。
「ありがとう。助かった」なんとかそう言葉にした。
「すまん、遅くなって。大丈夫か?」
「いちち、まあ、なんとか。それより桜井が」
 彼女は警察官に保護されて連れて行かれるところだった。彼女は疲れた表情で博志を見つけると、すれ違いざまに「ありがとう」と小さく言った。
 博志はほっと胸を撫で下ろした。本当によかった。
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 本文、約2時間30分。
 設定23分。
 合計3時間。
 1400字


21 :森谷 空 :2011/11/03(木) 15:13:54 ID:ncPinitkoe

待ち合わせ

 十分ほど前から男はそこにいた。
 少しだけ開けた駅の前。わずかにスペースが作られて、木が植えられ、近くにベンチが置かれている。そのすぐそばに、道路との境目に設置されている膝より高い突起物がある。彼はそこに腰掛けてスラっとした足を投げ出していた。首だけを右へ左へ動かし、道路を行き交う車や人々を眺めている。彼も含めて皆、厚手の洋服を着ていた。
 少しして彼は右腕を上げ、視線を落とした。腕時計を確認したのだろう。すぐに手を戻し、人が吐き出されてくる駅への入口に視線を投げる。誰かと待ち合わせをしている様子だ。彼女だろうか。特別、落ち着かない様子はなく、また先ほどまでの街の鑑賞に戻る。彼女への信頼をうかがわせた。彼の性格もあるかもしれない。
 またいくらか時間が過ぎた頃、彼はさすがに気にし始めたのか、駅の改札口付近を体ごとひねって見ていた。彼がそこに来てから三十分は過ぎていた。待ち合わせ時間を過ぎているのだろう。次々と人間が流れ出てくる中に、一向に目当ての姿が見つからないのか、男はしばらく首を伸ばした姿勢でいた。少しだけ立ち上がりそばにも寄ってみる。が、またすぐにもとの位置へと帰ってくる。再び腕時計へ視線を落とす男。口からほのかに白い息が上がったように見えた。溜息をついたのかもしれない。
 耐えかねたのか男はベージュ色のズボンに手を入れ、携帯電話を取り出した。少し操作をした後、耳に当て、じっと待つ。周囲は相変わらず足音を響かせ、車は走り去っている。
 何回コールしたのだろう。十回は鳴らしたであろう頃、彼の後ろからひょこっと影が突然現れた。すぐさま男の目を後ろから隠したのだろう、白い指が彼の目を覆っている。後ろから顔を出し女性が楽しそうに口を開いている。最初はうろたえたような態度を取っていた男も、後ろから目を隠して、声をかけてきた女性が誰だかわかったようで何事かを言い、ゆっくりと彼女の手を目から外した。男が振り向くと、女性は両手を合わせて申し訳なさそうにした。きっと目隠しをした行動から察するに、自分が遅れてきたら彼がどう反応するか見ていたのだろう。意地悪な気もしたが、お互いに相手を信頼し気心が知れているからこそできることなのかもしれない。
 ほどなく男と女は、何もなかったように手を取り合い、身を寄せ合って街の中へと歩いていった。
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本文:40分
設定:30分
合計約1時間10分
1120字
遠くから見たものを書いてみたくて書きました。


22 :森谷 空 :2011/11/05(土) 01:57:03 ID:ncPinitkoe

メデューサ先輩

「今日も綺麗だったなあ、メデューサ先輩」
「だよな、もう見るたびにきゅんきゅんだよ、俺」
 下駄箱で、スニーカーへ履き替えている渉の横を話しながら通っていく少年たちがいた。表情はどこか上せていた。渉は出入口のドアを押しながら、「まただ」と思った。
 授業が終わり、それぞれが思い思いの方向へ散る。渉は帰路へつくため葉っぱを時折踏みながら校門へ歩いていく。
 メデューサ先輩のことは入学してすぐに聞こえてきた。その先輩と目を合わせると硬直してしまうのだという。外見が美しいからだという話だが、渉にはいまいちぴんと来なかった。そんなことってあるだろうかと。
 やっと通り慣れてきた門が見えてくると、右手の道から歩いてくる女の子が二人いた。一人が楽しそうに話し、もう一人の子が静かに合いの手を打っている。二人の胸元に揺れる緑リボンは二年生のものだ。渉の目は自然と静かな彼女へと吸いつけられた。
 綺麗な黒い髪がまっすぐ胸元まで下りている。顔は白く、その中で唇のほのかな赤が目立つ。目は大きくて柔らかい雰囲気だ。微笑んだ時に下がる目元が心を引きつける。全体的に細く、姿勢がいい。やや斜め後ろを歩いてみてわかるが、渉よりも背が高い。
 不意に彼女の首が回り、渉の方へ顔を向けた。慌てて「あっ」と声を漏らし、何気ないふりをしようとしたが、もう遅い。どくんと胸の音がした。
 彼女と目が合っていた。
 透きとおった印象の、綺麗な目だ。その目を見つめていると自分の体がそこから消えてなくなってしまったように感じられてくる。周囲がやけに静かで、反面、体全体が脈動を激しくし、力が入らない。自分が息をしているかもわからなかった。この人がメデューサ先輩かと渉は気づいた。
 彼女が隣の女の子へ視線をずらすと、渉は勢いよく息を吸い込み、大きく吐いた。不自然なほど呼吸が乱れている。鼓動がうるさい。
「ね、あたしの言ったとおりでしょ、この子可愛いー」と聞こえてくる。
 彼女の隣の女の子が口を開いているから彼女の声だろう。メデューサ先輩は「うん、ほんとだった」とどこか嬉しそうに返事をしている。
 渉は胸に手をあてたまま、しばらく動けなかった。顔も体もやたらと熱かった。あの噂は本当だったなと実感した渉だった。
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 本文60分。
 設定40分。
 合計約1時間40分。
 1160字。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.