一場面集


21 :森谷 空 :2011/11/03(木) 15:13:54 ID:ncPinitkoe

待ち合わせ

 十分ほど前から男はそこにいた。
 少しだけ開けた駅の前。わずかにスペースが作られて、木が植えられ、近くにベンチが置かれている。そのすぐそばに、道路との境目に設置されている膝より高い突起物がある。彼はそこに腰掛けてスラっとした足を投げ出していた。首だけを右へ左へ動かし、道路を行き交う車や人々を眺めている。彼も含めて皆、厚手の洋服を着ていた。
 少しして彼は右腕を上げ、視線を落とした。腕時計を確認したのだろう。すぐに手を戻し、人が吐き出されてくる駅への入口に視線を投げる。誰かと待ち合わせをしている様子だ。彼女だろうか。特別、落ち着かない様子はなく、また先ほどまでの街の鑑賞に戻る。彼女への信頼をうかがわせた。彼の性格もあるかもしれない。
 またいくらか時間が過ぎた頃、彼はさすがに気にし始めたのか、駅の改札口付近を体ごとひねって見ていた。彼がそこに来てから三十分は過ぎていた。待ち合わせ時間を過ぎているのだろう。次々と人間が流れ出てくる中に、一向に目当ての姿が見つからないのか、男はしばらく首を伸ばした姿勢でいた。少しだけ立ち上がりそばにも寄ってみる。が、またすぐにもとの位置へと帰ってくる。再び腕時計へ視線を落とす男。口からほのかに白い息が上がったように見えた。溜息をついたのかもしれない。
 耐えかねたのか男はベージュ色のズボンに手を入れ、携帯電話を取り出した。少し操作をした後、耳に当て、じっと待つ。周囲は相変わらず足音を響かせ、車は走り去っている。
 何回コールしたのだろう。十回は鳴らしたであろう頃、彼の後ろからひょこっと影が突然現れた。すぐさま男の目を後ろから隠したのだろう、白い指が彼の目を覆っている。後ろから顔を出し女性が楽しそうに口を開いている。最初はうろたえたような態度を取っていた男も、後ろから目を隠して、声をかけてきた女性が誰だかわかったようで何事かを言い、ゆっくりと彼女の手を目から外した。男が振り向くと、女性は両手を合わせて申し訳なさそうにした。きっと目隠しをした行動から察するに、自分が遅れてきたら彼がどう反応するか見ていたのだろう。意地悪な気もしたが、お互いに相手を信頼し気心が知れているからこそできることなのかもしれない。
 ほどなく男と女は、何もなかったように手を取り合い、身を寄せ合って街の中へと歩いていった。
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本文:40分
設定:30分
合計約1時間10分
1120字
遠くから見たものを書いてみたくて書きました。


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