一場面集


20 :森谷 空 :2011/11/02(水) 16:29:48 ID:ncPinitkoe

大切なもの

「……まさかな」
 放課後、駅周辺にいた唐沢博志は、自分が今見たものを疑っていた。見間違えでなければクラスメイトの桜井ほのかだった。携帯を取り出し、どうするべきか迷う。こうしている間にも、路地の奥で彼女がひどい目に遭う。小さく悲鳴のような声が聞こえる。
「……ああっくそ! どうとでもなれっ!」
 待ち合わせをしていた孝介に心の中でごめんと言うと、震える足に力を込めて雑然とした路地を進む。
 奥では予想通り、頭の色が派手な男三人が制服姿の女の子を囲んでいた。一人が女の子の口を手で押さえている。彼らの背中越しに見える顔はやはり桜井だった。博志の足音が路地裏に響き、彼らが振り返る。
「何だテメエは」
 金色に染めた長髪の男が博志を睨みつけてくる。
 拳を握りこんで震えを抑える。
「やめてくださいっ」
 男たちは一瞬、呆けたような表情をした後、大げさに笑い出した。
「おめえにカンケーねーだろ。坊やはさっさと家に帰れ」
 話は終わったとばかりに男たちは怯える桜井に体を戻していく。彼女は必死にもがいている。
 気がつけば、博志は彼らと桜井の間に体を割って入っていた。自分でもどうやったのかわからなかった。両手を広げて立ちふさがる。
「ってめえ、やろうってのかっ!」
 彼らはあっけにとられていたが、すぐに気勢をあげ、博志に拳を振り下ろしてくる。
 何度も骨と骨がぶつかる鈍い音が薄暗い路地に響き、博志の口から赤い血が飛び散る。体中が痛い。目は腫れて見えにくい。それでも博志はぎしぎしする膝で立ち上がった。
「……何なんだ、おめえ」
 男たちは戸惑いの表情を浮かべていた。何度殴っても蹴っても立ち上がってくる博志が理解できないのだ。長髪の男が赤く染まった拳をもう一度振りかぶったとき、慌ただしい声と足音が聞こえてきた。警察官が駆けつけたのだ。後ろの方から孝介がのそりとやってきて、博志に肩を貸してくれた。
「ありがとう。助かった」なんとかそう言葉にした。
「すまん、遅くなって。大丈夫か?」
「いちち、まあ、なんとか。それより桜井が」
 彼女は警察官に保護されて連れて行かれるところだった。彼女は疲れた表情で博志を見つけると、すれ違いざまに「ありがとう」と小さく言った。
 博志はほっと胸を撫で下ろした。本当によかった。
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 本文、約2時間30分。
 設定23分。
 合計3時間。
 1400字


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