アルスの冒険


1 :カリー :2006/10/20(金) 21:10:25 ID:nmz3mJVm

 魔界とのゲートは開かれた。
 天空には龍が舞い、黒い雲からは雨が落ちる。
 雷は地上を割り、川は町を飲み込んだ。
 そして一人の少年が進み出る。彼の名は、アルス=ウォーレン。一国の若き王であり、不思議な能力の持ち主でもある。
 少年は幼少の頃からその能力を禁断とされ、政府から制されていた。 
 だが、彼は決心したのだ。
 全ては、王国を護るために。
 彼は能力を使った。その能力で彼は、存在する者の命を、吸い取ることが可能とされている。
 彼は、開かれたゲートからやってきた全ての魔界生物たちから、次々とその命を奪い取り、ゲートを強制的に封鎖した。
 しかし、政府は彼を批判した。
 そして彼は、罪人と称された。
―――命を奪う力は、死神のようなもの―――
 これが理由だ。
 若き少年、アルスは王の座から下ろされた。
 そして、何も知らない別の世界へと…強制送還されてしまったのである。


2 :カリー :2006/10/20(金) 23:43:56 ID:m3knViQJ

新たな世界、始まりの場所

「んぅ〜…」
 目を擦りながら、白銀髪に金の眼をもつアルスは目を覚ました。(まぶた)を開けると、そこには揺れる天井がある。
「起きたんだ!良かったぁ〜…」
 オレンジの髪で碧眼の少女が、にんまりと椅子に腰をかけて、自分の隣で微笑んでいる。
 不思議に思ったアルスは、辺りを見回した。そこは、何処かの小部屋…というよりも、医務室のような場所。
 自分はその、医務室のベッドで寝かされているのである。
「あの…俺は…」
 アルスは身を起こし、オレンジの髪の少女に言う。少女は、ニコニコと答えた。
「あ、名前?なんて名前なの?」
 いや、そーじゃなくて…
 と言いたかったが、少女があまりにも純粋そうに見えたので、とりあえず
「アルス、アルス=ウォーレン」
 と答えた。
「アルスかぁ!良い名前じゃん!誰につけてもらったの?!」 
「父様に…」
「父様??じゃあ、その父様は今何処にいるの?」
 少女は首をひねり、大きな目を見開く。
 アルスは、少しの間黙り込んだがやがて口を開いた。
「父様は殺されたんだ」
 そう、父は魔界の生物に殺された。だから自分が王座に就く羽目になったのである。
 まぁ…その期間はあっという間に終わってしまったのだが…。
「大丈夫?」
 アルスが深刻そうな表情を見せていたので、少女は再び首を傾げた。
「何があったのかは知らないけどさ、アルスは今独りでここに居るわけだ!けど驚いたよ、突然空から人が降ってくるもんだから。一ヶ月前の話だけど」 
 言って少女は立ち上がる。少女は、ミドルの髪でノースリーブの服に短パン、そして腰には短剣を装備している。
「じゃっ、あたしは船長にあんたが起きた事伝えてくるね!お腹すいたらそこの机に置いてるパン、食べてもいいから!それと、あたしの名前はカリア!また様子見にくるからね!アルス」
 そう慌しく言うと、カリアは医務室を後にした。
 部屋で一人になり、耳を澄ませば聞こえてくるのは波の音。
 アルスは波で揺れる天井を見上げた。
 船長…っていってたな…てことは、ここは船の中なんだ。一ヶ月…眠っていたってことか。あの能力の影響もあるのかな…。
 そう考えながら、ふと机に視線を移す。
「…いただきます」
 空腹には嘘はつけないので、アルスはとりあえずパンを食べ始めることにした。
 ここは、どこの世界なのだろうと、思いながら…。

 
  


3 :カリー :2006/10/21(土) 10:29:48 ID:PmQHQ3s3

 パンを全てたいらげると、アルスはようやくベッドから降りた。
 だが、体が思うように動かない。おそらく、ずっと眠っていたのが大きな原因なのだろう。
 一歩一歩足を踏みしめるようにして歩くと、木の床はギシッと鳴る。
 なんとか足を進めて行くと、ドアのノブに手をかけた。
 と…
「アルスー! 船長が直々に会いに来てくれたよー!あれ、アルス?!大変ユナ姐!アルスが逃げちゃった!」
「…はぁ、カリア…アルスってぇーのは、ここで倒れている奴のことかい?」
「ありゃっ」
 カリアは首を傾げると、船長のユナが指差した一点へ目を向け、さらに目を大きく見開いた。
「あぁぁぁーー!! アルス、大丈夫?! なんで倒れてんの?!」
 その声に、アルスは意識を取り戻した。そして、痛てぇ…と呟く。
 するとユナが大きく笑った。
「ハッハッハ! お前さんも不運な男だねぇ! カリア、あんたはもう少し加減ってモンを学習しときな」
「えへへー、すんません! でも一応だけどあたし船医だから、アルス!手当てしてあげよっか!」
「…今の話聞いて、お前に手当てしてもらう気にはなれないな…」
 ドアで思いっきしぶつけられた額に手をあて、ため息をつく。だが、カリアとユナが二人とも口を開かなかったので、あれ…と思い、アルスは二人の顔を見上げた。
 ユナは笑って口を開く。
「ハハッ!確かにカリアは力強いし、たまに軽い怪我で済んでた奴でも、カリアが手当てすると一気に重症までいっちまうがな」
 …それじゃ船医の肩書き捨てた方が。とアルスは思ったが、あえて口には出さなかった。
 ユナは「だけど…」と話を続ける。
「だけどよ、カリアは少し力が並じゃあねぇ〜ってだげで、船医としての技術はちゃんとしてっから安心しな」
 安心できるかよ…
 だが、ふとアルスは自分の体の異変に気が付いた。そう、自分はこの世界へ送還されてしまう前、体中が怪我だらけだったはずなのだ。それなのに…今は痛みは感じないどころか、傷一つ残されていない…。
「うわぁ〜! 良かった! 怪我治ってるね!」
 アルスは驚いて彼女を見上げた。
 カリアはにんまりと笑う。
 黒く柔らかな長い髪をもつ船長のユナは、一息つくと腕を組み、壁に背を預けた。
「俺たちは海賊だからな、毎日が死と隣り合わせなんだ。だから、カリアは必要なお嬢なんだよ。例え、世界がこの子の存在を認めなくてもね」 
 え……
「じゃ、行くぞカリア。もうすぐ島が見えてくるはずだ」
「はぁーい! じゃっまた来るから寝ててねアルス!」
 それだけ言って、彼女たちは医務室を出て行った。
 海賊…。
 その二文字は、前にいた世界、ダーナには存在しなかったが、どこかの文献で見たことはあった。
 “往来の船などを襲い、財貨を脅し盗る盗賊…”
 なのだと。
  

  
 
 

 


4 :カリー :2006/10/21(土) 14:31:38 ID:m3knVkLA

“じゃ、また来るから寝ててねアルス”
 オレンジの髪のカリアに言われたので、とりあえずアルスはベッドへ横になった。
 次第に意識は、薄れていった……。そいういえば…政府の者たちは俺を送還させると言っていたな…。意識の奥で、そう思い起こす。
 俺は元々、この見知らぬ世界の者なのだろうか。
 誰かが言っていた“アルスは王家の血を繋いでない”と。
“アルスはたまたま、王家に拾われ長男として迎えられただけの存在”なのだと。
 俺はもしかすると、幼い頃にこの世界から、前までいた世界(ダーナ)に送り込まれ、そして今度はダーナで送還されてまた、産まれたこの世界に戻ってきてしまったのでは…。 
 そう考えながら、(うずくま)る。そして、天井を見上げた。
 …まだ、深い事は闇の奥だ。
 
 


5 :カリー :2006/10/21(土) 20:54:52 ID:m3knVGsJ

「暑いーーー!!」
「ユナはん水ーー!!」
「っるせぇーーー!!!」
 部屋の外がなんだか騒がしいのでアルスは目を覚まし、外の様子を見ようと医務室のドアを開けた。
 すると…
(おとこ)ーーー!!いや、まだ若造ーー!」
 医務室を出たアルスの目に、背の高い黒髪の船長ユナとあと二人の女の姿が映った。
「え…と、あの…」
「あぁ、()りぃーなアルス。コイツ等は俺の海賊船(トレゾールローズ)の船員だ」
 そうアルスを指差して騒ぐ女二人に、ユナが苦笑する。
「へぇ〜、君アルスっていうんだぁ〜。生きてたんだ不思議〜!」
 金髪の長い髪を、頭の上で噴水にし、赤いバンダナを巻いた女がアルスの顔をまじまじと覗き込みながら言う。その女はヘソを出しており、そこには宝石のピアスを付けていてズボンはぎりぎりの所までずらしている。そして、胸の谷間も強調されていた。
「ノカ見すぎ! ウチも見るのーー!」
 言ってもう一人の女もアルスに近づく。その女は小柄だがたくましく、青の短髪に動きやすい格好をしている。
「コラッ! アルスは見せモンじゃねぇーんだぞお前等!」
「あひゃ〜…ユナはん怖〜い!」
「…あ?今何か言ったかよノカ」
「なんでもないでぇ〜す」
 何なんだこの人たちは。
 アルスはその光景にただ唖然とする。
 ユナの威圧感にノカの楽天さ、そして…
「あぁ〜、暑いなぁ〜…あ、ウチの名前はリィよ」
 二人の会話を聞こうともしていない女…。
 この人たちが財宝を奪う輩たち、海賊…。
 果てない海を渡るその船に、バラの花とドクロの描かれた帆が、堂々と潮風になびいていた。 
 

  


  
 
 


6 :カリー :2006/10/21(土) 23:04:48 ID:o3teQJrG

決意の島

「島が近くなりましたけど、どうします?ユナさん」
 アルスがノカとリィの見せ物になっていると、上の方から声が聞こえた。
「あぁ、情報を集めんとならんから裏へまわって船を泊めよう。ノカ、舵を握れ。サオはそのまま見張り台で様子を窺っていてくれ。リィは錨の準備をしろ」
「はーい」
 見張り台に立つ女は、サオというらしい。そして…
 …やっと逃れられた。
 ユナの指示でノカとリィは自分の役割につきにいき、ユナはマントを(ひるがえ)して 引き返す。あっさりとしたその行動に、アルスは後ろから声を掛けた。
「船長さん、何処に行かれるんですか?!」
「ん?俺の部屋」
 振り向いてそれだけ答えると、彼女は間をあけて笑い、思い立ったかのようにして口を開く。
「あ、そうだアルス、お前さんこれからどうする気なんだい?」
 ユナは、全てを見透かすようなその紫の瞳で、アルスを見る。 
「あ…まだ考えていません」
 その答えに、ふっとため息をつきアルスに手招きをする。
「アルス、こっちにおいで。そぉ〜いやぁ、まだあんたの話を聞いていなかったね。ここに来る前に何があったのか、俺の部屋で話してくれるかい?」

 


7 :カリー :2006/10/22(日) 00:19:14 ID:ncPiPkuH

「ありゃ、アルスも一緒?」
 船長室に入ると、そこで少女がくつろいでいる。
「カリア、上に行きな。もうじき島に着く頃だ、他の奴らの手助けをしておいで。そうじゃなくてもウチは人数が少ないんだ」
 カリアは「えぇ〜…」と頭を掻く。しかし、これも船長の指示。
「はぁ〜…い。仕方ないなぁ…」
 やがてそう呟きながら、寝転がっていたハンモックから降りる。
「悪いな、これからアルスと話をしようと思っているんだ」
「分かってますぅ〜…。アルスに妬けちゃうなぁ〜、行ってきまぁ〜・・・す」
 カリアが出て行ったのを確認すると、ユナはアルスを座らさせる。
「さて、話を始めようか。まず最初に、君は何処から来たんだい?」
 ユナも木の椅子に腰を掛け、足を組む。
 アルスは、目を閉じ、精神を統一させると口を開いた。
「俺は、ダーナという世界にいた者です」
「ダーナ? 聞いたことがないな。で、そこで何があった? 一ヶ月前、お前さんは突然上空から姿を現して、この船に落ちてきたんだ。ひどく傷だらけの状態でな」
「そうでしたか…ご迷惑をおかけ致しました…。俺は、ダーナで罪を犯し、こちらの世界へ飛ばされる身となったんです。禁断の能力を、王国のために使ったのですが…」
 アルスの手に力が入るのを、ユナは目の端でとらえる。
 彼が黙り込んだので、「何故その能力を使う必要があった?」と訊ねると、アルスは重い口を開いた。
「闇の魔導士が…魔界と繋がるゲートを開いたから…そこから頻繁に魔界に住む生物たちがダーナに現れるようになったんです。だから俺の父上、前国王はそれを阻止しようとした…だけど失敗して、魔界の生物に殺されたんです…」
「うん、それで」
「父の後継ぎとして、俺が選ばれました。歓迎する者など、誰一人としていなかったけど。だけどやがてゲートはさらに大きくなって、やってくる生物も増えて…。天候は荒れて、川は町を飲み込みました。だから…俺は、父に出来なかったことを決心したんです。政府から禁断とされていた、命を奪い取る力を…俺は魔界の生物に向けて、放ちました…」
「命を奪い取る力か…」
 ユナは眉間にしわを寄せて頬杖をつく。
「で、その能力を使ってしまったから、お前さんは今ここにいると」
 アルスは静かにうなずく。そしてユナは、組んだ足を戻し、立ち上がった。
「…お前とカリアは、同じように生きているのかもしれないな」
「え…?」
「いや、なんでもねぇーよ。だが、これから降りる島でアルスとはお別れかと思ってはいたが、どうやらそういう訳にもいかないようだな」
 言うとユナはまだ座っているアルスの手を引き、立たせる。
「どうだアルス、俺たちについてこないかぃ?女の海賊団に一人くらい男がいたって構わないだろ。それに、アルスは可愛い顔をしているしな、ハハハ。だが冗談だとは思うなよ?俺は嘘つかねぇーから。この船ではな。今夜はこの島に泊まるつもりだ、考えておいて損はないと思うが、自分の好きなようにしな」 


8 :カリー :2006/10/22(日) 17:01:49 ID:PmQHQ3se

 ――夜。
 島の裏側に到着し、船をそこに停泊させるとアルスは女海賊と共に砂浜へ降りる。
 島の裏側には建物がなく、辺りは暗闇で何も見えない。
 そして彼女たちは船上とは違って、街娘のような服装をしている。
 街には情報を集めに行くのと食料を蓄えに行くのが目的なので、海賊だとバレないようにしているらしい。
 で、アルスは…

「アルってば似〜合〜う〜♪」
 船長室から出たアルスは、金髪でヘソ出しのノカに捕まった。着ていた服を大胆に脱がされると、ノカの持ち出した服に着替えさせられてしまったのだ。
 似合うと言われても…。
 アルスは自分に着せられた服に目を通す。
 カッターシャツに青色のチョッキ、そしてダボダボのズボン…。
 開かれた胸に、前にいた世界(ダーナ)の頃から大事に身に付けていたシルバーのネックレスが輝いた。
 そして今、俺は砂浜に立っている。目の前は森で、その向こうに街があるのだと船長のユナが言っていた。
 


9 :カリー :2006/10/22(日) 19:37:26 ID:nmz3mJVk

「船の番は誰もしないんですか?」
「番ならちゃあ〜んといるさ」
 海岸に残された海賊船(トレゾールローズ)に振り返るアルスに、ユナは笑って船を指差し口笛を吹いた。すると…
「にゃぁ!!」
 猫…?
 暗くてよく見えないが、何かが船から身を乗り出した。
「モコ太ーー! お留守番頼んだよぉーー!」 「にゃあ! にゃにゃあ♪」
 青い短髪のリィが船に向かってそう叫ぶと、そのモコ太と呼ばれる猫はリズミカルに鳴いて見せる。
「ほらな、番ならちゃんといただろ?」
「え…あれが番を出来るんですか…?」
 アルスは不審そうに眉間にしわを寄せる。すると隣に立つ女が静かに口を開いた。
「出来ます、モコ太様は立派な番猫ですよ、ナメないで下さい」
 そう言ったのは、船で見張り台に登っていたサオだ。彼女は黄緑の長い髪を頭の上の方で一束に結っている。
 サオは話を続けた。
「モコ太様はですね、世にも珍しい二足歩行のできる偉大なる猫様なのです。頭にバンダナを巻いたあの姿、そしてあの服装…あぁ…素敵ですモコ太様…!」  
 …この人は元からこんな性格の持ち主なのだろうか…。
 そう違う意味でサオに心配をしつつ、森の方へ向き直る。
 とりあえず、これから俺は…どうするかを考えなくては…。
 そして、通称ローズ海賊団は、街の光を求めて歩き始めた。 


10 :カリー :2006/10/22(日) 20:58:15 ID:nmz3miVk

 森を抜けると、目の前に街並が広がった。
 この島はギルス島と呼ばれ、今アルスたちのいる街はエリザの街と呼ばれている。
 夜だというのに、大勢の人々が出歩いており、店がずらりと並んでいる。
 商売人の威勢の良い声が聞こえてきて、酒屋も多い。
 まるで祭りのように賑やかな街だ。
「さて」 とユナがアルスに視線を移す。
「さてアルス、お前さんとはここでお別れだ」
 森を抜けたとき、ユナが言った。
「えぇ〜…アルスとお別れなのぉ〜?早いなぁ〜…」
 カリアは肩をすくめる。
「…お世話になりました」
 アルスは深くユナに頭を下げた。一ヶ月もの間、船に置いてもらっていた身なのだから…。
「さ、お行き。考えておいで。もし、その気になれたなら、明日の朝までにまた戻ってくればいいんだ」 
 そしてユナはアルスの背中を押し、アルスはもう一度頭を下げて走り、人ごみの中へと姿を消していった。
「あぁ〜あぁ…行っちゃったぁ〜…」
 カリアは人ごみを見つめている。
「ホントまじ行ったのぉ? アイツが着てる服、あっしのなんだけど」
「まぁいいだろノカ、アルスをあの時のままの服装でこの街に出せば、奴の身が危なかっただけだ。この街も見ての通り、人生の裏道を歩いてる輩ばっかだからな」
「そういえばアルスっち、キラキラした服着てたよね」
 リィが言う。
「どこかの偉い人、という感じも見えましたけど」
「アルスって偉い人なのぉぉぉ?!」
「あははカリアさん、ただ私がそんな風に思っただけですよ」
「ありゃ? そぉなんだぁ」
「…じゃ、俺たちも行くぞ。俺は酒屋で情報を集めてまわる、お前たちには食料の補充を任せたからな」 
 言うとユナは先に歩き始めた。
 そして彼女たちも、それぞれに別の場所へと散らばっていった…。


11 :カリー :2006/10/23(月) 21:26:21 ID:mmVco3Yc

 今、ダーナはどのような状態にあるのだろう…。
 俺は、ダーナに戻る事は出来ないし、それが許される筈もない・・・。 
 だけど海賊たちと、共に旅をしても良いのだろうか…?
 分からない…
  
 人ごみの中を、アルスは歩く。
 
 けど…倒さなければならない相手が、ダーナにいるんだ…。

 ――― 闇の魔導士 ――― 

「アルスーーーー!!」
 ――――?!
 少し遠く、微かに自分の名を呼ぶ女の声が後ろから聞こえた。
 考え事をしていたアルスはふと足を止め、振り返る。
 すると、人ごみの中でハイジャンプをして手を振っている姿がそこにあった。
「カリア…?」
 段々とその姿は近づいてくる。
「アルス見ぃ〜つっけたvv」
 アルスの前まできてにんまりとした表情を浮かべる彼女は、まさしくカリアだった。
「カリア、何でここに?」
「あはっ、今みんなとは別行動してんだっ! だからアルスの後追ってみた!」
 え…追ってきたってオイ…
「アルス、もうあたしたちとはお別れなのマジぃ〜? まだ会ったばっかじゃんかぁ〜…」
 カリアは残念そうにアルスの裾を引く。
「うん…ごめんなカリア。だけどみんなには感謝してる、カリアには手当てをしてもらったし、他のみんなは俺に優しく接してくれた。恩返しが出来ないのは残念だけど…俺は、船に乗ることは出来ないんだ」
「なんでぇ〜…」
「…やっぱり、元いた世界へ戻ろうと思うんだ」
「元いた世界〜??」
 アルスはうなずく。
 それにつられ、カリアは理解もせずに頷いてみせた。

「あっれ! カリアは何処に行った?!」
「突然いなくなりましたよねぇ〜…」
「カリっちはぁ〜、アルスっちを追っていったんじゃにゃいの?」
「ザッツライト☆その通りだリィ!」
「たまには左脳も働くようですね」
「アハハハハ! ヒドくない?」
 街を歩きながら彼女ら三人は賑やかに会話をしている。
「そういえばさぁ…」
 リィは少し顔を歪めて話始めた。
「そういえばユナさんって何をしているんだろ? 何の情報を求めているんだろう」
「あっしも知らないなぁ、サオは知ってる〜?」
 サオは手と同時に首も振る。
「誰も知らないのかぁ…気になるよね」
 

 その頃ユナは、ある酒屋へと足を踏み入れた。
 そこでは、盗賊たちがたくさん酒を飲んでいる。
「ひゅ〜、美人なお姐さんがこんなところへきちゃってよぉ、ちょいと無防備なんじゃねぇの?」
 ジョッキを片手に、酔っ払った男が言う。
 だがユナはそのような言葉など気にもとめず、ずかずかと入り込む。
 そして、先ほどの男の座るテーブルの前まで行くと、力強く机を叩きつけた。
「この男を知っているか」
 叩きつけられたテーブルに、一枚の写真がある。
 盗賊たちは一斉にユナのそばまでたかってきた。
「お姐さん、この男がどうかしたのかい?」
「こいつぁ〜あの有名な海賊団のキャプテンじゃねぇか?」
「あぁ? なんでお前のような女がこんな写真を持ち歩いていんだ」
「知っているのかどうかを聞いている」
 ユナは鋭い目つきで盗賊たちをにらみつける。
「知ってるもなにも、コイツは有名な奴だ、おい女、何故こんな事を俺たちに聞く」
「…こいつの船をこの近くで目撃していないか」
 男の質問には答えず、問う。
 すると彼らは大きく笑った。
「わははははは! 女、俺たちはその質問に答える気はねぇ。そいつの情報が欲しけりゃ、金をよこせ。これが俺たちのルールってもんだ」
「…金など持ち歩いていない」
「はぁ? ふざけてんのか!」
 男たちはユナを囲む。しかし、そのユナの抜群なスタイルに、盗賊たちはニヤける。
「おい姐さん、金がねぇんなら…」
「あぁ、情報を得るためなら何でもしよう」
 男の言葉に割って入り、そう断言する。
 そしてユナは「しかし…」と続け、少し息を吸って手足に力を込めた!
「何でもするってぇーのは、力ずくにでも聞き出してやるっつーことだッ!!」  
 
  

 


12 :カリー :2006/10/23(月) 23:32:13 ID:mmVco3Yc

 人だかり(やじうま)の中、アルスとカリアは立ち止まった。
「金を出せぇーー!」
「きゃぁー! 誰かー!」
 男が女を捕まえて、吼えている。
 カリアは無言でアルスの裾を引くと、人だかりの先頭まできて空気を吸う。
「ねぇー! あれって! 恐喝なのかなぁー!」
 そう大きな声でそう叫ぶと、彼女はアルスの方を向いた。
 まるで、自分に何かを求めているかのような表情で…。
 なので、
「いや、恐くないから! 恐喝とは! 意味が違うんじゃねぇー!!?」 
 と叫ぶ。カリアがグッと親指を立てて笑う。
「あぁー! わかったぁー! オジサン弱いんだぁー!」
 と、カリア。
「なるほどー! だからぁー! 貧乏なのかぁー!」
 と、アルス。
 そして、
「なんじゃクソガキーーーーーーーーー!」
 と、怒りマーク満載の男。
 カリアは爆笑をしていた。
「あはは! 面白い! ねぇ、オジサンその人解放してよ」
  

 
 
  


13 :カリー :2006/10/24(火) 00:29:02 ID:ncPiWem3

 笑う少女に白銀髪の少年。
 髭を蓄えた大きな男と、ソレに捕まった女商人。
「放せと言われて放せるか!」
 男は言う。
「たっ、助けて!」
 女は涙を流している。 
 そして街の人々は、見て見ぬふりをして過ぎていく。 
「この女がどうなってもいいのか!」
「別に俺たちには関係のない人だから、どうとも言えないですよ」
「確かにそうだよね。オジサンが死んだって、あたしたちには関係ないことだし」
 言うとカリアはニヤリと笑う。
 それは、いつもとは違う、冷めた笑顔。
 彼女は服の内側から、隠し持った短剣を取り出した!
 そして、カリアは男の首に、勢いよく短剣を突き刺したのである!
 その行動にはアルスも驚いた。
 まさかカリアが…。
 男は首から大量の血を噴出させ、崩れるようにして倒れる。
 カリアが人を殺すだなんて…。
 しかし、彼女は海賊…。
「きゃっ…きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
 男に捕らえられていた女商人は、血を這うようにしてあと後退りをする。
 カリアには、男の返り血が飛び散った。
 アルスは彼女を、唖然と見つめた。    


14 :カリー :2006/10/24(火) 19:16:58 ID:nmz3miVL

「簡単に人の命を奪うもんじゃないよぉ〜」
 いや、簡単に男を殺したのはお前だが。
 アルスに振り向いて言うカリアに、彼は心の中でそう言った。
 だが、俺もそう言えたもんじゃない…。
「あぁ〜あ、服が血だらけになっちゃったぁ〜。ま、いっか」
 ぶぅっと頬を膨らませて言うと、カリアは男を見下ろし座り込む。
「生き返らそっか♪」
 ……?
 彼女はにんまりとアルスに言うが、アルスにはその意味がわからない。
 だってそんなこと無理に決まっている。
 カリアは死んだ男に視線を戻し、そして冷たく笑った。 
 自分の温かい手を、男の首に近づける。
 すると…辺りに噴出した血が動きはじめた。
「―――?!」
 アルスは眉間にしわを寄せる。
 なんと血は、まるで時を戻るかのようにして男の傷口へと入り込んでいくのだ。
 カリアはふっと男に息を吹きかける。
 すると、男の顔色は、蒼白から肌色へと変色していった。 
「まさか…」
 アルスは息を呑む。
 ―――魂は再び込められた―――
 男は目を覚ます。
 その一部始終を窺っていた街の人々は、一斉に騒ぎ始めた。
 カリアはふぅ、と息をつき立ち上がると、騒ぐ街の人々に目を止め、「やっぱビックリしちゃうよね」と、どこか哀しげな表情で言う。
「何だあの力は!」
「人が生き返りやがった!」
魂呼(こんこ)の力か!」
 街の人々の中には、そういう者も出てきた。
 それは、盗賊たちだ。
 盗賊が姿を現したことで、一般の人々はさりげなく去っていく。
 魂呼の…力?
 アルスは不思議に想い、顔をゆがめる。
 自分のもつ力が、奪魂(だっこん)の力とも言われているからだ。
「聞いたことあるぜ? なんでも、その魂呼には死者を復活させる力があると」
 重そうな斧を片手にした大きな男がそう言って、別の男たちが口を挟む。
「あぁ、有名な話だ。オレンジの髪の少女は、俺たちのような輩の、誰もが欲する願いを叶えてくれるのだとな」
 不老不死。
 カリアが、アルスの手首を強く握る。
「アルス、逃げるよ」
―――――!!!
 小声で呟くと、彼女はアルスの手を引いて走り始めた!
「追えぇぇぇぇ!!!!」
 斧を持つ男の掛け声で、盗賊の仲間たちは一斉に声を上げ、彼らの後を追い始めた!
 
 死者の魂を呼び覚ます、魂呼の力…
 なぜカリアが…。
 走りながら、アルスには複雑な思いが駆け巡っていた。
 そして、ふっとユナの言葉を思い出す。
―――お前とカリアは、同じようにして生きているのかもしれないな―――
 確かにユナは、そう言っていた。
 それは、俺が奪魂の力を持っていて、カリアが魂呼の力を持っているからなのか…?
 その時、カリアが足を止めたので、アルスも立ち止る。
「あちゃ…囲まれちゃった」
 そして、路地裏から出てきた盗賊たちに、彼らは囲まれてしまったのだ。      
 
 


15 :カリー :2006/10/24(火) 22:34:53 ID:mmVco3YA

「今カリっちとアルっちが通り過ぎたような…けど追われていたような…はにゃあ?!」
 リィ、サオ、そしてノカの三人は、呆然と立ち尽くしていた。
「は?! なんっで囲まれてんの?!」
 牛肉やバター、そしてビールなどを買い占めて彼女たちは盗賊に囲まれているアルスとカリアに疑問を抱く。
「まぁ…この島には多く、流れ着いた海賊たちが留まっていますから…。カリアさんは、海賊の間では有名人ですし…」
「迂闊だったぁーー。カリっちをちゃんと見張っておけばよかったぁーー…」
「いやぁ…だけど顔までは知れ渡ってないだろ」
「魂呼の力を、使ってしまったのではないでしょうか」
 サオの発言に、一同沈黙をする。
 最初に沈黙を破ったのは、リィだ。
「…そうだとしたら、不老不死を求める海賊は、どこにでもいるから…」
 それに続き、ノカは大きく溜め息をつく。
「はぁ…それで追われているのかぁ。何処の誰がカリアの力を不老不死だと勘違いしたのやら」
「全くその通りです」
 三人はアルスたちの方に視線を向ける。
「行こう、助けないと」  


16 :カリー :2006/10/25(水) 10:45:17 ID:WmknPerL

「お嬢ちゃん、君はあの魂呼(こんこ)の力を持つ者だろ?」
 様々な武器を持つ盗賊は、段々と近づいてくる。
「近づくなっ!」
 アルスは両手を広げ、カリアをかばう。
「カリア! アルス!」
―――――!!!
「のっけろぉーー! テメェーーー!!」
「ノカ! ノカの声だ!」
 カリアの表情に、笑顔が戻る。
 三人の女海賊は、体格の良い男たちの間を掻き分け、やがてその姿を現した。
 盗賊共の数はどのくらいだろうか、50・・・100・・・
 敵の男たちは、三人の姿を目でとらえると一斉に嘲笑い始めた。
「ハハハ! っんだ女かぁーー!!」
「テメェ等! 気にすることはねぇ! オレンジの髪の女を捕らえろーーー!!」
「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
 ―――――!!
 斧を肩に担ぐ大男が叫ぶと、敵は一気に大声を上げて迫ってくる!!
「うわぁ!」
 後からやってきた三人は驚き、それぞれに武器を構えてアルスとカリアを囲むようにして立つ。
 敵はどんどん追い詰めてくる。
 今やアルスと彼女たちの立つ場所は、狭く限られてくる。
「――――!!」
 ノカは長い剣を街娘の格好のなかに隠し持っており、それを即座に取り出すと敵の振り下ろす剣を弾き返す。
「っなめんな!!」
 金髪の髪を風になびかせて、ノカは続々と敵を倒しにかかっていく。
「女のくせして強がってんじゃねぇ!」
「・・・・・・死にますよ」
 男の発言にも動じず、サオはユラリと葉を返すようにして彼らの攻撃をかわし、二本の刀で一斉に倒していく。
「アルスさん、カリアさんをしっかりと見ていてくださいね」
 彼らと刀を交じれながら、サオはアルスに言う。
 アルスはその言葉を受け、カリアの手を握った。
「絶対に、護るから」
 そう言ってアルスはノカたちの間から襲い掛かってくる敵に蹴りを入れる。
 体術は得意だ。
 カリアはまじまじとアルスを見つめていた。
 ――――っ接近戦は難しいよ・・・
 思いながらリィは銃を両手に敵を撃ち、振り下ろされた剣には右手に持つ銃で受け、左の銃でそいつを撃った。
 そして走ってくる者には、投げナイフをすばやく投げて倒していく。
 しかし・・・リィにとっては不利な状況だ。
 彼女はまた、剣を銃で受け止める。
 しかし、そのとき他の敵が襲いかかってきたので剣をかわし、そいつを撃つ。だが、背後から飛び掛ってきた敵に背中を深く斬りつけられた・・・!
「うぁあああ!」
「リィ!!!」
 その声に、ノカは振り返る。
 リィの背中から大量の血が噴出した!
「くっそぉーーー!!」
「ノカさん落ち着いてください!」
 サオの言葉をよそに、ノカは暴れる。
「ノカさん!!」
 そうサオが叫んだとき、すでに彼女の肩からは血が流れていた・・・。


17 :カリー :2006/10/25(水) 16:44:46 ID:mmVco3YL

 こんなとき、ユナはんがいてくれたら…。
 もっのすっごく助かるんだけどなぁ〜……。
――――――ザシュッ
 自分の真っ赤な血が、肩から流れている。
 痛みは感じない…。
 ただ、生温かな血が、服に滲む。
 敵により貫かれた右肩は、その瞬間から麻痺をしているので感覚がない。
「ノカ…! ノカーーーー!!」
 カリアは叫ぶ。
 その目には、涙が溢れ出しそうな程に溜まっている。
 あたしのせいだ…。
 そう思った時、涙は頬をつたうことなく、地面に落ちて滲んでいった。
 リィとノカの動きは鈍くなり、今彼女らは受身の状況にある。
 サオは必死に、リィとノカをかばいにまわった。
 そうすることで、アルスとカリアの方にも襲ってくる敵は増えてしまう…! 
 アルスは飛び蹴りをくらわして、敵を寄せ付けないよう素早く動くが、アルスにとってこの数は多い過ぎる。
 襲い掛かってくる、全ての敵には手が回らない…。
「いやっ…! 放して!」
 その声に、全員が顔を上げる。
「――――カリアッ!!!!」
 アルスが一番にその名を叫んだ。
 斧を持つ男が、アルスが他の男と戦っている間に、カリアに手を伸ばしたのだ…!

 


18 :カリー :2006/10/25(水) 19:39:00 ID:m3knVGsH

「カリアさんを返して下さい」
「そうだよっ…! カリっちは不老不死の力なんてもってない…」
「テメェ等ふざけんなっ!」
「カリア!!」
 アルスは駆け出した。
「おっと動くな。動けばこの女の命はねぇと思え」
 男はそう言うと、カリアの首に斧をつきつける。
 冷たい…。
 首に伝わるのは、斧の冷たい感覚。
 アルスは仕方なく足を止めた。
「彼女を殺せば、奪った意味がなくなるのでは」
「っるせぇーーー!」
 サオの言葉に、男は聞き耳を持たない。
 ごめんみんなぁ…
 カリアは再び涙を流し、それを見てアルスは握り拳をつくって、ぎりっ…と唇を噛み締める。
 今が、彼女たちへの恩返しのときかもしれない…。
「おい、ガキ! 動くなと言っているだろう!」
 アルスは歩き始めた。
 迷う事もなく。
 アルス…?
 ノカも顔を上げて、アルスの背中を見つめる。
「止れガキ! こいつがどうなってもいいのか!この…!」
 男は高く斧を振り上げる。
――――――!カリアは強く目を閉じた…!
「カリアかがめ!!」
 その彼の声に、カリアは咄嗟に男の腕の中で身をかがめようとする…!
  
  
  


19 :カリー :2006/12/05(火) 00:01:03 ID:PmQHQ3s7

 リィとノカ、そしてサオは息を呑み、ただ、唖然として息をするのさえ忘れていた。
 まるで、全ての音が消えてしまったかのように。
 風も止む。
「なっ…何が起きた ?!」
 ノカは肩の痛みも忘れ、目を見開く。
 斧は、地面に投げ出されていて、カリアを捕らえていた男は突然倒れてしまっている。
 その男だけではない、全ての盗賊たちが、何の前触れもなく続々と倒れていくのだ。
 サオは、倒れた盗賊の一人の体に手を置き、脈がないことを確認する。
「死んでいます…」
 その発言に、リィは身震いをさせた。
「な…んで? まるで魂が抜かれたみたい…」
 強く、風が吹きつける。
 アルスはその中で、カリアに手を差し伸べた。
「さ、カリア…」
「アルス…一体…」
 怯えながらも彼女は、しっかりとアルスの手を握る。


「どいつもこいつも役立たずだなぁー! コノヤロウ」
 ――――――?!!!!
 カリアがアルスの手を握ったとき。
 聞き覚えのあるその大胆な罵声に、アルスたちは声のする通りの酒場へ視線を移し、そして次々と酒場から蹴り出されて、外で山積みにされる盗賊を目でとらえる。
「あぁーーもぅ、結局何の情報も得られやしねぇーーー」
「ユナさん?!!!」
 そして、しばらくしてその店から姿を現したのは、紛れもまく船長であるユナであり、彼女は間の抜けたような表情でアルスらを見つけ、やがて「何をしている」と口を開いた。
     


20 :カリー :2006/12/16(土) 00:01:07 ID:o3teQJn7

「ユナ姐ぇーーーー!!!!」
「―――っ、どうしたカリア? 抱きついてくんなよ…何があった」
「……ユナ姐、あたし…あたし…ごめんなさいぃぃ…」
「…………」
 無言でユナは視線を上げ、アルスと船員たちの方を見据える。
 アルスは不安そうにユナを見る。
「なぜ盗賊と戦っていやがったんだ?…カリア、俺に謝ったっつー事はお前、魂呼を使ったんだな。だから盗賊に追われたと」
(さすがユナ姐さんだっち…カリっちのこと、よく分かってる… ) 
(リィ…それよりあっしは、もう気力が…お前は大丈夫なのか? 背中、深手負ってんのに…)
(ノカ…いや、ウチももう限界だよ。少し寝かせてもらう…ノカも肩の出血ひどいよ)
 小声で言いながら、リィは苦笑した。
「ノカさん…! リィさん!!」
 ―――――!!?
「っどうしたサオ!!」
「ユナさん…! お二人が危険です…!」
 サオが叫んだ時、二人はすでに横たわり、意識が薄れていた。
「そうだ…この人たちは俺とカリアをかばって怪我を…」
「あたしのせいだ…」
「落ち込んでんじゃねぇよカリア…お前は船医だろうが。何ぼさっと見ていやがんだ
!」
「ユナ姐ぇ…うん、わかった…」
 カリアは二人のもとへ行き、まずリィの背中に手を当てる。すると出血は止まり、傷口も少しは塞がって、ノカも同じように完全ではないが一命を取り留めた。
「船長さん、俺もあんな風にしてカリアに助けられたんですか」
「あぁそうだ。だけど、カリアの能力では完全に治すことはできないんだ」
「え…?」
「…人を生き返らすにも体力がいるし、カリアが今治癒のために使っている魂呼の力はまだ序の口に過ぎねぇんだ、でもそれはカリアにとって大きな負担になる。だから俺はカリアに船医としての技術を身につけさせた」
「でも…今日カリアはすでに人を生き返らせてます、それで怪我まで治そうとしたら…」
「どぉだろうな」
 アルスは、カリアを見つめる。
 なんであんな無駄な力の使い方をしたんだろう…
 こんなことになるのは、分かっていたはずなのに…。
「――――カリアさん!!」
 ―――――っ!!!
「カリア!!」
 サオの声に、アルスは慌ててカリアの側まで駆けつける。 
「カリアも、もう限界か…」
 その様子を見ながら、ユナは一息つく。
 リィとノカは、まだ目覚めていない。
 その中で、カリアの意識も、なくなっていた…。
「サオ、リィを背負え、船に戻るぞ」
「はい、わかりました」
 そして、ユナは静かにアルスに視線を移した。
「答えは出たかアルス」
 投げやりな言葉。
 それは、ユナがアルスに言った、仲間にならないかという誘いの発言を指し示している。
 アルスは、ゆっくりと頷き、顔を上げると真っ直ぐユナに向かった。
「俺を船に乗せて下さい、皆さんと旅をしながら俺は…ダーナへの還り方を探します。それでもいいのなら…」
 すると、ユナは微笑した。
「あぁ、それでいい。俺たちも、お前さんに協力するさ。さ、アルス、お前は小柄だ。カリアを背負ってやってくれ、俺はノカを背負う。船に戻ろう、歓迎するぞアルス」

そして、アルスの冒険が始まった…


21 :カリー :2006/12/18(月) 18:02:27 ID:WmknPerL

「あの、船長さん」
「ユナだ」
「あ…、えっと…いや…」
「アルス、名前くらい覚えておけ」
「えっと…そうじゃなくて…あの…医者、呼んできましょうか」
「……」
「あの…」
 船室でアルスはカリアを優しく下ろすと、不安そうに言った。ユナは黙り込み、その代わりにサオが口を開く。
「アルスさん、医者はここには来てくれませんよ。私たちは海賊なんですからね」
 サオはリィをゆっくりと寝かせ、息を整えながらメガネを曇らせる。
 リィとノカの傷はまだ完治しておらず、見るも痛々しい状態だ。
「サオ、食料は」
「それが…すみませんユナさん…全て先ほどの場所に置いてきてしまいました」
「そうか…なら、残っている食材はあとどれくらいだ?」
「3日…ほどもてば良い方、といったところです。型パンも全てゾウムシにやられてしまったので…」
「そいじゃあ〜…次の島まではなんとかってとこだな」
 そう言ってユナはアルスの方に視線を移し、苦笑する。
「すまないねぇアルス、生憎ウチは貧乏なもんで…お前さんの歓迎パーティは先延ばしだ。ま、全員が元気になってから考えるとすっかな」
「いえ…俺は別に…」
「シケた面してんじゃねぇー。アルス、お前さんにはたっくさん働いてもらう事になるからな。覚悟しておきなよ。さてとサオ、包帯を持ってきてくれねぇか? 一応、こいつ等の手当ては俺がするからよ」  


22 :カリー :2007/01/05(金) 16:22:11 ID:kmnkz4om

カリアの力は一体…。
ユナにカリアを船長室へ運ぶよう命じられたアルスは、ユナのベッドへカリアをおろすと椅子に腰を掛けた。
カリアはゆっくりと目を覚まし、アルスに視線を移してにっこり微笑み、口を開く。
「アルス…この船にまだ居てくれるの?」
 何故か元気そうなその声に、アルスはほっと安堵して笑顔を浮かべ、頷いた。
 するとカリアは嬉しそうに「良かったぁ!」と口の前で手を合わせて笑い、アルスは思い立ったように口を開く。
「なぁカリア、カリアってどこの出身?」
「え、なんで?」
 カリアはきょとんとした表情でアルスを見つめる。
「だってさ、不思議な能力もっているから」
 その言葉を聞くと、カリアは少し考え込んで答えた。
「分かんないの。小さい頃のことは全く覚えていないし、ずっと独りで住んでたから」
「じゃあ…両親もいないのか?」
 頷くカリアは、哀しみの表情を見せずに笑っている。
「あたしの持ってる力はね、多分あたしを助けるためにあるものなんだよ!だって、この魂呼の力がなかったら生きていけなかったと思うし。この魂呼の力で、前に住んでた街の人たちをたくさん助けてきて、それを収入源にしてたんだもん!だけど…」
 カリアから少し笑顔が消えたかと思うと、再びカリアはにっこり笑ってみせた。
「だけどね、いつの間にかあたしの力が不老不死だなんて噂が裏の世界で広がってたみたいで、あたしのせいで街が…あちゃ〜って感じで…。盗賊がたくさんやってきて、大変なことになったの。それで、あたしは街から追い出されて、舟で海に流されたってわけ…懐かしいなっ!あははっ」
「…笑い事じゃないと思うけど」
 頭を掻きながら、唖然とカリアを見つめるアルスは苦笑する。
 しかしカリアは、「追い出されて良かったんだよ!」と言って話しを続けた。
「追い出されたから、ユナ姐と出逢えたんだもん!海に流されて辿り着いた無人島で、ユナ姐と出逢ったの!」
「え、無人島で?!」
「うん!」


23 :カリー :2007/01/15(月) 23:59:10 ID:ncPiWem3

 ユナはリィとノカの手当てを済ませると身震いをした。
「どうなされました?ユナさん」 
 ユナは厳しい表情で立ち上がり、振り向くとサオに口を開いた。
「サオ、悪いが後のことは任せた。…ちょいと嫌なことを思い出しちまってね」
「あ、はい…私なら大丈夫ですけど…ユナさん、ゆっくりとお休みになられて下さいね」
 その言葉にユナは、微かに微笑んだように見え、彼女は「あぁ」とだけ言って素早く部屋を出て行った。
 ………。
 甲板に出るなりため息をつく。
 あの日の事は、一日も忘れたことがない…。船上で仲間の一人を殺めてしまったときの感情や、感覚もすべて…。
 遥か遠くの海を見つめるその瞳は冷たい。怒りと憎しみ、そして深い哀しみに満ちている。
 ユナはまたため息をついて帆柱に背を預け、瞳を閉じた…。


「ユナさん、なんで無人島に…」
 アルスは顔をしかめた。ユナさんが一人で無人島にいたとでも言うのだろうか?いや、俺にはそんなユナさんの姿を想像も出来ない…。
 カリアは少し話すのをためらっているようにも見えたが、話始めた。
「あのね、ユナさんと私は…」


―――どこかの無人島。
 オレンジの髪の少女カリアは無人島の中を一人で歩いていた。
 カリアは前に住んでいた街の人々から追放され、ここまで船で流されてきたのだ。
 彼女はもうここに来てから三日の日が経っているのだが、食べ物など一切持ち合わせていなかったので泉を探してその辺に葉で屋根を作り、なんとか生きている。野生の動物にはウサギやキツネが生息しているので、カリアは先端の尖った石で捕らえて火をおこし、食べている。本当はこんなことはしたくないのだが、生きていくにはこうするしかないと思った。死んでしまってもいいと思うことはよくあり、カリアは自殺を謀ろうとしたこともある。世の中のためには自分の命など失われていまった方が良いのだ、と考えているのだが。彼女は生きている。
 そして、ユナと出逢ったのは突然のことだった。一隻の船が、この無人島の浜辺に着いたのだ。カリアはようやく助かるのだと思いながら木々の陰から船の様子を窺って、助けを求めようと一歩を踏み出したが、やがて息を呑んで足を引いた。
 風になびく帆にはドクロのマーク…。
 あれは、海賊船…。
 そう気づいた途端、カリアは身震いをした。以前住んでいた街は、自分のせいでよく海賊からの被害を受けてきていたのだ。
 まさか、あたしがここにいるのを知って来たの…?
 カリアは生まれつき、魂呼という魂を一時期蘇らせたり怪我を回復させたりなどが出来きる能力を持っており、その能力のせいで多くの海賊たちに狙われてきていた。
 草の中に身を隠し、カリアは怯えながら様子を窺う。すると、一人の海賊が船から突き落とされ、真っ逆さまに浅瀬に落ちていく姿が目に映った。そして、しばらくすると海賊船は、その一人の海賊を無人島に残し、去っていってしまったのだ。
 カリアは自分の身が安全だったことにホッとしたが、まだ安心は出来ない。
 海に落とされた者はピクリとも動かず、波に飲み込まれてしまいそうだ。
 おそるおそるその海賊に近づいていくと、それが女だということが分かり、その女は黒く長い髪の持ち主だった…。
 
 
 


24 :カリー :2007/01/16(火) 22:20:14 ID:PmQHQ3s4

「ね、ねぇ…あのぉ〜…」
 とりあえず自力で女を浜辺に引き上げて声をかけてみるが、彼女は返事もしなく呼吸もしていない。
 なんでこの人…置き去りにされたんだろう…。
 首をかしげながら、人口呼吸と心臓マッサージをしてみるが、反応はない。
 …どうしよう。このまま放っておくのも何だしなぁ〜…。
 でも、この人は海賊だよ。助けても…私が殺されちゃうんじゃあ…。
 カリアは女に視線を移した。長い髪に美しい顔立ち。身形は男の格好だが、とても綺麗な人だということは分かる。
 カリアはためらったが、女の体に手を当てた。
「この者の命を救いたまえ…」
 女は呼吸はしていないが、まだ魂の緒は切れていない。
 カリアの手から放たれた光が、優しく女の体を包み、女は次第に回復をしてゆっくりと瞳を開けた。
「…なんで俺、生きているんだ」
 女は不思議に思いながら身を起こすと、目の前に少女がいたので驚いてまた倒れそうになり、銃口をカリアに向ける。
「誰だ貴様…!」 
「―――! やっぱ助けなきゃ良かったぁーーー!!!」
 ――――?!!
 突然大声を出されたので、女は少しひるみ、銃をおろすと、「助けただと?」と言って顔をしかめた。
 カリアはあっ…と手で口を塞ぎ、「殺しちゃ嫌…!」と言って森へ走る。
 しかし、後ろから待てと声をかけられたので、彼女は恐る恐る後ろへ振り返ると、女が厳しい表情で自分を凝視している。
「…助けてもらったことには一応礼を言っておくよお嬢ちゃん。…けど、俺を助けたところで何もならない…」
「え…?」
 何を言っているんだろう…。
 女はため息をつくと苦笑した。
「さ、悪かったな。もう俺のことはいいから。なんでお嬢ちゃんみてぇな奴が無人島にいるのかは問わないから」
「……なんで問わないの?」
「勘で分かっているからさ」
「………。」
 この人は良い人なのだろうか?
 女は哀しい表情で、自分を見つめている。
 やがて視線を逸らされたので、カリアは女を置いてひとまず森に入った。
 ……。
 その瞬間、とても嫌な予感がした。体がゾクゾクする。
 カリアが森へ向かったその時に、背後から銃声がしたのだ。
 まさか…。
 息を殺して振り返る。
 すると…女は自分の米神に銃口を突きつけていて、浜辺に倒れていったのだ…。
 な…んで…? せっかく助かったのに…なんでまた自殺するの…?
 カリアは迷うこともなく、女に駆け寄りその体を抱きかかええるが、彼女は確実し死んでいた。
 女の体には、力が入っていない。
 なんで…なんであたしみたいな人が生きているのになんであなたが死んでしまうの…?
「………バカーーーーーーーーーーー!!!!」
 カリアは精一杯、心の底から声を上げる。
 きっとこの人は、悪い人ではないのだ。
 あたしの正体を知っていながら、助けを求めてこなかった。
 自ら死を選んだ…。
 カリアは女の命を再び救おうと決心した。
 救ったところで、感謝されるどころか、何故助けたのだと恨まれるのは分かっているけど…。
 救っても、魂呼の力で蘇った人は、その後にまたすぐに死んでしまったりとか長生きをしたりとか、人並み以上に生きたりなどをする。
 だから、この女の人の寿命はどうなるかは分からない。
 だけど………。

 
 アルスの隣でカリアは黙り込み、何かを考えているようだった。
 あたしはあの時、ユナ姐を救いたいと思った。
 あたしは…ユナ姐を救ったことに後悔などもちろんしてはいないけど、いつもそっと支えてくれているユナ姐はどう思っているのかな…。
 新たな人生を今、どう思って生きているのだろう…。
 ユナ姐の死はすぐそばまで近づいているのかもしれないし、まだまだ先なのかもしれない。……あたしは今、ユナ姐のおかげで幸せなんだよ。


 辺りが暗くなり始めた頃、ユナはまだ甲板にいて、腰を下ろしていた。
 ……そういえば、俺が無人島置き去りの刑にされたとき、救ってくれたのはカリアだったっけな…。
 あの時カリアが救ってくれていなかったら、俺は間違いなく地獄に落ちていたことだろう。今の幸せも何も感じないまま、あの時の苦しみを全て抱えて彷徨っていただろう。
 今は、生きていて良かったと思える瞬間がある。
 カリアと供に旅に出て、そして出会った仲間たちと…それぞれ哀しい過去を抱えながら俺たちは生きている。
 毎日笑いあえる日々、それを護っていきたいと思えるその一瞬一瞬が、俺の人生を大きく変えてくれるものとなった…。


25 :カリー :2007/01/17(水) 10:32:56 ID:WmknPerL

「はっろぉ〜ん♪皆さんご機嫌麗しゅう〜♪」
「ノカ!朝から威勢が良いね!リィも普段通りみたいでよかった!」
「うみゃ?何なに?どうしたっちよぉ〜カリアっちvV」
 朝日が昇るとユナの指令で一行は船を海に出している。
 朝の心地よい風が、彼女たちの心をすっきりとさせていた。
 ノカとリィもしっかりと回復をしていて、いつもに増して元気いっぱいだ。
「リィさん、砲丸はどこに置いたらいいですか?」
「あ、アルスっちぃ〜! それはねっ、ウチが持っていくからあんたは甲板の掃除でもしていてよぉ〜」
「え…あ、はぁ…」
 アルスは砲丸の入った箱を軽々と受け取るリィにしばし唖然とすると、何をしたらいいのかと困ったように頭を掻いた。
 すると背後から名前を呼ばれたので振り返ると、そこにはユナが相変わらずの勇ましさで立っていて、彼女は何か企んでいるかのような笑みを浮かべた。
「アルス、もうじき昼飯が出来上がる頃だからサオのところにいって料理を運ぶのを手伝ってきてくれないか」
「?あ、はい分かりました!」
 アルスは笑顔で応え、コックであるサオの元へ向かうことになった。
 部屋の扉をノックすると返事がなかったので、アルスはサオが料理に集中しているのだと思い、そっと扉を開けた。
 すると…何か異様な臭いがすると共に、薄い煙が部屋を覆っている。
「…サオさん?サオさん…これは一体…」
 …何が起きたんだ?
 不審に思ったアルスは、薄い煙の向こうにあるサオの影を凝視する。
 すると、その影はだんだんとアルスに近づくと、姿がはっきりする前にアルスの首を絞めた。
「あなたは誰?私は今どこにいるのでしょう…!あぁ〜…なんたる屈辱…」
 サオさん…?
 サオの姿がアルスの目に映る。首は絞められてはいるが、強くはない。
 とりあえず、いつものサオじゃない…。
「メガネが曇って料理が出来ませーーーーん!!! 悲劇の幕開けですーーー!」
「え?!!」 
 確かにサオの丸いメガネは曇っている。おそらく何も見えていないのだろうが…。
「サオさん、落ち着いてください!!」
 アルスは自分の首を絞めるサオの手を強制的に放した。
 サオは首をかしげる。
「アルスさん…ですか?」
「はい、アルスです…。ユナさんに言われてここに来たんですけど…」
 ユナさんは確信犯だ…。
 アルスはひとまず窓を開け、サオを外の空気に浸してやるとサオのメガネは回復した。
「前が見えますーー!料理が出来ます!!」
「……そうですか」
 サオさんの人格崩壊だ…。  
 内心、サオだけは普通の人だと思っていたのでショックを受ける。
 アルスはとりあえず、こっそりと部屋を抜け出した。  


26 :カリー :2007/01/18(木) 15:08:48 ID:WmknPerL

「ふぅ…」
 アルスは溜め息をついて空を見上げる。
 雲はゆっくりと流れていて、風は帆をなびかせる。
 ダーナは今、どうなっているのだろうか…。
 国王であった俺がいなくなった今…。
「おいアルスどうした、もう疲れたのか情けねぇーな」
 アルスが空を見つめてぼ〜っとしていると、ユナがやってきてアルスを憐れみの目で抱きしめた。
 う…確信犯…。
 ユナは眉根をひそめる。
 コイツ今嫌な顔しやがったなコノヤロ。
 そう感じながらユナはアルスの頭を良い子良い子と力強く撫でまわし、その顔は眉根を顰めたまま無理やりに笑顔をつくっており、とても奇妙である。
 アルスは戸惑いながら笑顔を返し、何か用ですかと口を開き、ユナはそうだな…と腕を組んでその場で胡坐をかいた。
「なぁアルス、お前さんはダーナとかいう別の世界からやってきたんだろぅ?」
 ユナはアルスにも座るよう手招きをする。
「はい、俺は以前までダーナという世界を統一する者でした…」
「…そうか、お前さんは罪を犯したんでこの世界に飛ばされたと言ったな。それは、どんな方法でだ?」
「魔術です」
「魔術だと?」
 アルスは頷く。
「ダーナには魔術と呼ばれるものが存在します。俺は、その魔術により、こちらへとやってきたんです」
 ユナは考え込むようにして顔をしかめる。 
「アルス、お前さんはダーナに戻る方法を知らないのかぃ?」
「はい、残念ながら…。けど、ダーナにはこちらの世界の船などが突然現れたりなどはしていました。ダーナでは、この世界の存在は一般的に知られていて…。この世界の船がダーナに現れたのは、きっと時空の歪みが関係しているのだと思います。だから…その歪んだ場所を探せば、戻ることができるかもしれません」
 アルスの目は、険しい。一国の王であって、世界をも統一していたというのなら、こいつはスゴイやつなのかもしれない。その期間が短かったとはいえ。
 ユナはふと考える。この世界の船がダーナに現れた…。
 何度か話は聞いたことがある。船などが突然姿を消してしまう魔の海域があるのだということは。その海域は三つの島の中心にあり、魔の三角地帯と呼ばれていると…。
 一度消えた船が戻ってきた例はないと聞いた。アルスが言っているのは、きっとこのことなのだろう。
「アルス、俺たちはお前さんに協力をする。魔の三角地帯という時空の歪む場所が存在しているんだ。そこを探す旅をこれからするぞ」
 ……?!!
 アルスは驚いた表情でユナを見て、その顔は次第に不安の色へと変えていった。
「…ダーナには戻る必要があります。だけど…ユナさんたちまで巻き込むわけにはいきません。仮にダーナへ戻れたとしても、この世界から現れる船を恐れた向こうの人々は、海に結界を張ってこの世界の者たちを二度とそこから出られないようにしているんです…。だから…」
 二度と出られない、か。
 ユナはにっと笑う。
「面白れぇ…行ってやろうじゃねぇーか」

  


27 :カリー :2007/01/22(月) 15:03:41 ID:WmknPerL

 カリアは一人で海を眺めていたのだが、何やら怪しげな表情で会話するユナとアルス見かけ、急いで二人のもとへ駆け出した。
「なんでユナ姐とアルスが一緒なのーー!? 駄目! 離れて! ユナ姐はあたしのーーー!!」
 ……。
「よぅ、元気だなカリア」
 ユナはにっこりとカリアに微笑んだ。
 カリアはその表情に満足そうに笑みを浮かべ、ユナに抱きつく。
 そのすぐ隣で、表情を硬くしていたアルスも心を和らげたところで、ふとサオの事を思い出し、震えた。
「あちゃ?!! ユナ姐大変!! アルスが痙攣起こしてる!!」
 ぶるぶると青ざめた顔で震えるアルス。
「なんだと?!! おい、どうしたよアルス!」
「いや…サオさんが…サオさん…が…」
 囁くようにそう言い残し、アルスはカリアに支えらた腕の中でぐったりと横たえた。
「ぎゃぁーーーーーーーー!!!!アルスが気絶しちゃったぁーーーー!!!!」
「起きやがれアルスーー!! お前さん、根性出しやがれ! ダーナはどうする!」
 ―――――っ!!
「………。」
 その瞬間、アルスは勢いよく起き上がり、溜息をつくと頭をかいて欠伸をした。
「起きた!アルスが起きたぁ!!」
「眠そぉだなぁオイ」
「全く、アルスさんには感謝しています。なんたってメガネの曇りを解消してくれたのですから」
 ――――?!
「サオ!!」
「はい、料理出来ましたよ」
 いつの間にか現れたサオはにっこりと微笑み、アルスに近づく。
 アルスはまた震えそうになったが、船全体に広がる美味しそうな匂いにお腹を鳴らせた。良かった、サオはちゃんとしたコックのようだ…。
 そう思って安堵し、アルスも微笑む。
「先ほどは抜け出してしまってすみませんでしたサオさん。次からはしっかりと手伝わせていただきます」
「ありがとう、アルスさん!これでメガネも安心です」
 そして、アルスを歓迎するパーティが始まった。ユナはジョッキを片手に大声で笑い、カリアは次々と皿を空にしていく。リィとノカは漫才をしているかのように面白く、サオとアルスは静かに笑った。
「さてと、アルス」
 すべて食べ終わるころ、ふいにユナがアルスに視線を移し、リィたちも話を止めた。
ユナはニッと笑みを浮かべ、これからは仲間なのだから遠慮はいらねぇーと言ってアルスの背中を叩いた。
 そしてアルスもだんだんとこの船員たち、ユナ以外の仲間にはタメ口を許され、その輪の中に馴染んでいくと心も開いていったのだ。
    


28 :カリー :2007/01/31(水) 10:21:33 ID:WmknPerL

 鎧姿の男たちは、冷たい石造りの城から荒れ果てた世界を見据えている。
「隊長…もうこの世界、ダーナは…」
「馬鹿言え、まだ終わってはいない」
 川に飲み込まれた街と、炎を撒き散らすドラゴン。
 アルスが命がけで追い返した異界の生物たちは、時空をこじ開けて自由にダーナの空を舞っている。
 唯一安全と言えるのは、優秀な魔術師たちの結界によって護られているこの城くらいだ。そして、逃げ惑う街の人々もいくらかこの城に身を置いている。
「やはり、元国王であったアルスを追放したのが間違いだったのでしょう」
 奥から透き通るような美しい声がしたかと思うと、ふわりとしたドレスを着た少女が姿を現し、男たちの前まで足を進めた。
 彼女はこの王国の元王妃であり、アルスの妻でもある。
「アルスはダーナにとって必要な存在なのよ。生まれた場所や能力など、関係ないと思うわ。だってアルスは、この城で育ったのですから」
「子供は口を挟まないようにお願いいたしましょうか、レイナ様」
 ――――っ
「アナルド、よくもっ…」
 レイナの肩に手を置いて冷たくそう告げた男、アナルドは大勢の魔術師を従えて現れ、鎧の男たちは少しばかり息をのんだ。
「あなたがアルスを追い出したのよ! この世界を救おうとしたアルスに罪を着せて…!
あなたは王位につきたかったからアルスを…我が夫を…!」
「聞き捨てなりませんな、レイナ様? 今このダーナの実権を握っているのはこの私だ。そのような無礼なお言葉は控えていただこうか。前国王はこの世界の者ではなかったのだよ、だからあの事件を良い機会として送り還してやったのではないか。十七年前、ここを訪ねてきた忌まわしい男の息子をな」
 アナルドは不気味な笑顔を見せ、レイナは身震いをする。
「その男性は今どこに…アルスの本当の父親は」
 恐る恐るレイナは問う。
「死海で死んだ」
 そしてアナルドは、不気味に笑いながらその場を去っていった。 
  


29 :カリー :2007/02/06(火) 13:13:18 ID:mmVconVG

 アルスは快晴の空を見上げ、ため息をついた。
 海風が心地よい。
 甲板でのんびりとしていると、見張り台にいるサオがユナの名を呼び、ユナは仏頂面で部屋から出てきた。
 今日のオーラはなんだか怖い。
 どうやらこの人は寝起きらしい。
 アルスは自己解決し、サオは見張り台から身を乗り出してユナを見下ろした。
「ユナさん、次の島が見えましたけどどうします?」
「あぁ…ノカに聞いてくれないか…あいつ航海士だろぅ」
「…そうですね」
 サオはなんだか不足そうに視線を移し、その先にリィと釣りを楽しむノカの姿があったがため息をついて足元に置いてある地図を広げた。
「ゴースト島…」
 そして、望遠鏡を覗きその島を確認する。
 途端に、船は霧に包まれていった。 
「なんだかとても不気味なのに…皆さんのんびりですねぇ…」
 サオは地図を閉じ、見張り台から島を見つめ続けた。
 


30 :カリー :2007/02/07(水) 10:41:33 ID:WmknPerL

「なんだコレ…さっきまでの景色が全く見えない」
 異変に気づいてアルスは辺りを見回す。
 すごい霧だ…
 霧は海賊船を囲い、仲間の姿も見えにくくなっている。
「サオ、降りたほうがいい」
「はい、ユナさん」
 ゆっくりとサオも見張り台から降りてメガネを拭く。
 すると、霧でよく見えないがリィとノカの叫び声が耳に入った。
「なっ、なんだよぉー! 変なのが釣れた…!」
「あっは! ユナはんリィが骸骨釣ったぁ〜!」
「骸骨だ?」
 顔をしかめ、ユナは神経を集中させる。
「チッ……囲まれちまった」
「え…?」
「え?じゃねぇーよアルス、攻撃態勢に入るぞ」
 ユナの姿も見えにくい。
「アルスさん、近くにいてください危険です」
「あ、うん分かったよサオ。でも一体…あ、カリアは何処に…!」
「うぁーーーー!!!」
 ――――?!!
 リィの声!!
「お出ましだっ!!」
「ユナさん?!!」
 うわっ!! なんだ?!
 船が一瞬揺れたかと思うと、周囲に海賊船と思われる船が浮いていて、それらはアルスたちの乗る海賊船に船をつけ、まるでゾンビのような輩が乗り込んできていた!
 アルスは腰から即座に剣を抜き、襲い掛かってきた一人を斬りつける!
 しかし、その体からは血が流れていない…。
 どう言う事だ?!!
「ユナはん?!! こいつ等…斬っても斬っても復活しやがる!!」
「ノカ…銃が効かないよん!!ウチやばい!!」
「何を言ってんだよ!!」
 メガネが霧で曇って…
 メガネが…メガネが曇って…
 アルスさんメガネが…
「メガネが曇って戦闘どころではありませーーーーーーん!!!!」
「うわーー! びっくりしたサオ…一気に不死な奴等こっちに飛ばしてくるなってば」 
「あ、アルスさん! そこにいるんですか? 良かったです…」
 おぃ…
 先ほどサオが叫びながら敵をアルスの方へぶっ飛ばしてくれたおかげでアルスは復活して立ち上がった敵に囲まれていたが、仕方がないので円を描くようにして剣風を巻き起こして敵を避け、サオの手をとった。
「サオさんは俺といて。メガネ曇っているんでしょ? なら、俺が守るから」
 アルスは耳を澄ませる。
 一体何なんだろ…この敵は…
 数が減らない…
「ゴースト島です」
「え?」
 サオが言う。
「ゴースト島って言うんです、この先にある島が。だから恐らくこの敵は…」
「もう既に死んでいるってことか」
 
    


31 :カリー :2007/02/10(土) 17:16:23 ID:ncPiPkuk

 すでに死んでいる者たち、それはゾンビ…。
―――どうすれば勝てるんだ?!
 ユナ率いる一員は戸惑う。
 アルスはサオを庇いながらゾンビを海へ放っていく。
 そんな時、未だに船室でのんびりとしていたカリアも異変に気がつき、部屋の扉を開けて隣に立っているユナの猫、二足歩行のモコ太を見た。
「モコ…前がぜんぜん見えないね…みんな何処だろ」
「にゃぁーー!!」
「モコ?!!」
 うっ……!!
 苦しい…
 霧の中から見知らぬ冷たい手が現れたかと思うと、カリアはその手に力強く首を絞められた! モコ太は驚き、カリアを助けようと鞘から剣を抜き、カリアを絞めつける手の手首を斬る! しかし、その手首はすぐに元通りに回復し、カリアの首から離れない。
 モコ太は訳が分からず抵抗を続けるが、やがて目の前に多くのゾンビがいることに気がつき、カリアも抵抗をする。カリアは力持ちだ、その手を必死で放してモコ太を抱きかかえた。しかし、目の前ではゾンビが部屋の出口を塞いでいるので、カリアは部屋の置くまで後退りをする。
 追い迫ってくるゾンビ…。
 気持ち悪…。
 本気で嫌な表情を見せながら、必死に戦う方法を考える。目の前にいるのは、どう見ても死人の顔だ。皮と骨だけの身体に、白い目…。
 しかし、何故死人が動いていられるんだろう?
 魂が戻ってきたとでも…?
「アルスーーーーー!!!」


 アルスは動きを止め、自分の名を呼ぶ声に反応をした。
………カリア?
「ごめんサオ!俺…カリアの所へ急ぐからユナさんのところへ…!」
「アルスさん?!」
 アルスは、それだけ言うと霧の中へ姿を消していった。
「ったく、きりがねぇーなぁチクショ」
 寝起きで機嫌が最悪なユナは投げやりだ。
「うっきゃーーー!」
「リィ!!くそっ! このやろぉーーー!!!」
 リィとノカも苦戦をしている。


「カリア!!」
 アルスは、やっとの思いで部屋の前まで駆けつけると、ゾンビの間を足を取られながらも必死で掻き分け、カリアの前までいった。
 カリアは安心し、アルスを見上げる。
「アルス…よく分かんないんだけどね、あたし、アルスなら一気にこの人たちを助けられると思うんだ。だから…あの力を…」


    奪魂の力を… 


32 :カリー :2007/02/11(日) 22:12:16 ID:ommLumPe

 奪魂の力…それは生まれつき俺の中に存在した忌まわしき能力…。
「なんで奪魂を…?」
「この変な人たち…魂を持っているんじゃないのかな」
 魂の緒は切れている筈だ…。ヒトは死ぬと肉体から離脱し、魂だけの存在となる。
 その魂が…肉体に再び戻ってきたとでも言うのか?
「あたしと似たような力を持つ人がいるのかもしれない。あたしも死者を蘇らすことが出来るもん…。でも…ゾンビは…肉体が完璧に死んだ状態。死んでから時間が経ってる…」
「一体誰が…」
 アルスは神経を集中させ、奪魂を試みようと瞳を閉じるが、すぐに目を開けて耳を澄ますと辺りを見回した。
「……歌が、聞こえる」
「え…?」
 カリアも耳を澄ませてみると、確かに歌声が聞こえた。
 それはとても綺麗な女の歌声で、一瞬眠気をそそる。
「あ…死者たちが帰っていく」
 ゾンビはその歌声に導かれていくかのように、ゆっくりと列を作って部屋から出て行き、やがて霧もひいていったかと思うと、海賊船は島のすぐ目の前まできていた。 


33 :カリー :2007/02/18(日) 15:43:29 ID:mmVco3Yc

歌姫の眠る島

錨を降ろして船を泊めると、ユナの後についてアルスたちは島へ足を踏み入れた。先程まで聞こえていた歌声は、もう聞こえてこない。
ここは、ゴースト島と呼ばれる不気味な名を持つ島で、気候温暖な風土を持つ一面、熱帯性気候に包まれているという二つの面がある。
「…美しい島だ」
 第一声を発したのは船長のユナで、確かに目の前に広がるその島の風景は美しく、アルスも思わず見とれてしまっていた。
………なんでこの美しい島が、ゴースト島と呼ばれているのだろう?
 そう思うと、不思議だ。
街は斜面に広がり、曲がりくねった石畳の坂道が続く。赤い瓦の屋根を葺いたその家の壁は白壁で、きめ細かく多彩に壁画が描かれてある。そして、窓は色とりどりの花で飾られていて、緑が豊かだ。
 すると、石畳の坂道から、ロバを連れて下りてきた老人が不思議そうに近寄ってきて、首を伸ばして海賊船があることを確認すると、また不思議そうにアルスたちを見て唸った。
「ど…どうかしました?」
 カリアは驚いてユナの影に隠れながら老人に問う。すると老人は、真っ白で長い顎鬚を撫ぜながら細い目をカリアに向けた。
「お嬢さん方…海を渡ってここまできたのかい? ということは、あのゴーストの霧を抜けてきたということじゃな」
「ゴーストの…霧?」
 カリアは首を傾げ、ユナは一歩前に出る。
「じいさん、あの霧は一体何だったんだい? 釣りをしていりゃあ骸骨が釣れるし、霧が出たと思えばゾンビが襲ってきやがるしよぉ」
「……よく生きて通ったもんじゃ。生きてこの島まで辿り着いた者はあまりおらんかった…。数年前にも海賊がやって来たがの。そりゃあ立派な海賊が、しかし彼らもすぐにこの島を出ていったのじゃ」
 強く風が吹きぬけた。
「じいちゃん! 何してんだよ! 早く買い物行こうよー!」
 その時、どこからか男の子が現れて、遠くからその老人を呼んだので、老人は手をあげて応えると、ユナに背を向けてロバを引いたが、ユナは待て!と言って引き止めた。その様子に、カリアやリィたちも驚く。ユナの表情が、どこか焦っているようにも窺えたからだ。老人が立ち止まると、ユナは口を開いた。
「おい、じいさん…その立派な海賊とやらは、一体どんな海賊だったんだぃ?教えてくれ」
 老人はしばし頭を抱え、必死に海賊のことを思い返して答える。
「真っ白なバラの花と骸骨の旗じゃったかのぉ…」
 ユナの表情が硬くなるのが分かった…。


34 :カリー :2007/02/20(火) 15:41:59 ID:m3knVkLe

「―――その海賊船の名は……!!」
「ユ、ユナ姐?! どうしたのっ!」
 老人の腕を力強く掴む、鋭い目つきのユナにはゾッとする。
 ものすごい威圧感だ…。
 アルスは黙ってユナの背中を見守り、リィとノカ、そしてカリアやサオまでもが息を呑んだ。
「ねっ、ねぇユナさん…その海賊船の船長と知り合いなの?」
 青い短髪を風に靡かせて、リィは不安気な顔を見せている。
「ユナはん怖〜い〜!」
 腕を組んで、ノカは鼻を鳴らす。
 しかし、ユナにその二人の声は届いていない様子で、彼女の表情は、右の目を隠す眼帯の奥からも全て見透かしているように思わせた。 
「今までずっと情報を探してきていたんだ…やっと…」
 ユナさん…
 ユナはいつも、島に停泊する度に一人でどこかへ行っていた。それは、元いた海賊船を捜すための行動だったのか。
 サオはそう解釈した。
 しかし、何故ユナさんはそこまでして、その海賊船の情報を求めているのでしょうか?
「ユナ姐ぇ〜〜…ふぇぇぇ〜〜……」
 アルスの目の前で、突然カリアが泣き出した。
 そのカリアに裾を持たれているユナは困った顔で彼女に視線を移し、頭に軽く手を乗せた。
「おいカリア、何故お前が泣く」
 半分呆れ顔のユナは、苦笑してため息をつくと、俺なら大丈夫だからと言って老人に向き直るが、老人は申し訳なさそうにロバを引いた。
「すまんが、孫が待っておるのでの…ワシはそろそろ行かせてもらうぞ」
 言うと、ユナは待ってくれ!と呼びとめ、カリアを放した。カリアは泣き止むと、ノカの所に行き、ノカは持ち前の高いテンションでカリアを受け止める。リィもノカの乗った。アルスとサオは、ただただ笑っているしかない。
 ユナは仲間に構わず、言葉を続けた。
「じいさん、その海賊船がどの方向に向かったかは分かるのか?!」
 老人はまた、白い顎鬚を撫ぜながら考えると、やがて震えるシワだらけの手で東の方向を指差した。
「確かな記憶ではないがの…奴等は、東の海へ姿を消していきおったわぃ…。じゃが、生死いついてはワシにも分からん。もしかすると、ゴーストの霧の中で彷徨い、ゴーストに殺されてしもうとるかもしれんしのぅ」
 そんなことは…絶対にない。
「そか、ありがとな」
 そして、ユナはホッとしたような、和らいだ表情で老人を見送った。
 瞳の奥に、闇を隠しながら。


35 :カリー :2007/02/25(日) 15:00:48 ID:o3teQJom

街中に入ると、さっそく人々に物珍しそうな顔でジロジロと見られたが、自分たちの事を恐れてはいないように窺えた。
「ユナさん、これからどうするんですか?」
 アルスが首を傾げると、ユナは真っ直ぐに前を見据えたまま答える。
「とりあえず俺は一人になりてぇから。お前らは自由にしていな」
「ユナ姐? あたし、ユナ姐と一緒に居たい」
「…カリアはアルスと居なよ。んじゃ、夜にまたこの場所で会おう」
………。
「どうしたのでしょう、ユナさん…」
 ユナの背中が見えなくなる頃、サオが不安そうに呟いて、ノカはため息をつく。
「やっぱ、さっきの海賊船のことだと思うけど、あっしは」
「う〜ん…そうだねぇ」
 リィも頷く。すると、カリアは強く首を横に振ると、走ってユナの後を追っていく。
「カリア?!!」
 アルスがその名を呼んだ頃には、もうカリアの姿はどこにも見当たらなかった…。


36 :カリー :2007/03/06(火) 14:05:45 ID:mcLmLixk

「ユナ姐ぇ…何処?」
 カリアは一人で街の中を彷徨っていて、辺りをキョロキョロと見回している。
 アルスたちと別れてから随分と時間は経っていて、その時カリアのお腹が鳴った。
「あちゃぁ〜…腹時計。もう昼なんだぁ〜…ユナ姐…」
 どこを見回してもそこにユナの姿は無く、居酒屋にいるかもと思い入ってみれば男たちに絡まれてしまうだけ。
 そろそろ不安になってきたのか、街の片隅にある細く少し薄暗い階段に座って蹲った。突然朝のような霧が街を覆い始めて、歌声が聞こえてくる。
 え…?
不思議に思ったカリアが顔を上げると、もうその街に人の気配はなく、みんな家の中へ避難してしまっている。ここが何処なのかさえ分からないカリアの瞳には、涙が浮かんだ。
“死者たちよ さぁ我についてくるが良い 我に従う者ならば この不死の力を差し上げよう 我こそ真の神である さぁ死者たちよ 我に力を貸すが良い 我こそ真の神である” 
 …………。
 誰…?
 その歌声は段々と背後から近づいてくる。霧は一層濃いくなって、なんだか不気味だ。 怖い…。
 そう思ったカリアは、とにかく立ち上がりその場から逃げ出そうと走り出す!
「―――――きゃっ!!」
 しかし、冷たい手で首を掴まれてしまった!
 呼吸が困難になったカリアの全身からは力が抜け、その冷たい手から開放された時には階段に力なく倒れこんでしまった。意識が朦朧とする中で、その場に大勢の何か(・・)がいる事は分かった。そして、歌を歌っていた少女が自分のことを、“お姉ちゃん”と呼んでいるのも…。  


37 :カリー :2007/03/18(日) 20:46:52 ID:o3teQJoi

「てゆ〜かぁ〜、アルスはんって“アルスの冒険”の主人公なんだよねぇ〜?」
「……え゛ッ」
 霧が出てきたので、小物や洋服をを売る店の中に入る。すると唐突にノカが頭の後ろで手を組んで心配そうに扉のガラスの向こうを見つめているアルスに訊ねた。アルスは驚いて振り向くと、視線を逸らす。
「……そんなの、作者のミスだろ」
「えぇ、カリアさんが目立っていますよね」
「だってアルスっち特徴ないもんね」
 …みんなヒド。
「もういいだろ!! 俺はダーナに戻るためにここにいるんだ。ユナさんは俺のためにダーナを目指してやると言ってくれた」
「…てかアルスはん、な〜んでそこまでしてダーナに帰りたいと思うんだよ。あっしらと別れることになるんだぞ?」
 ため息をつく。ダーナの事は、片時も忘れたことがない。
「…ダーナを護るため。ダーナは今滅亡寸前なんだ…。大事な人も向こうにいる」 
「大事な人って誰だっっちぃーーー?アルスっちぃ〜!!」
「―――っわぁッ!!? なっ、何してんだよリィ!!」
「あひゃひゃぁ〜! ここ可愛い髪飾りとかたっくさんあるから! しょぼけた面のアルスっちにピッッタリ!」
 ピッタリって……。
 今アルスたちのいるこの店は、壁も白く店全体が明るい。棚には様々な飾り物が置かれてあり、店の奥の方には女性の服も結構置いてある。そこで好奇心旺盛なリィは、面白がってサオと一緒にアルスを変身させようと企んでいるのだ!
 そして、カリアはその内ユナと共に戻ってくるのであろうと、この時アルスも思い始めていた…。  


38 :カリー :2007/05/23(水) 14:56:13 ID:kmnkzJk3

「おい、カリアはどうした」
 太陽が沈んで月が辺りを照らし始めた頃、ようやく帰ってきたユナは仏頂面でアルスた
ちにそう訪ねると、店の外にあるベンチに腰をかける。
「あれ、ユナさん一緒じゃなかったんですか?」
 アルスの発言に他のメンバーも頷くが、ユナが首を横に振るのでたちまち嫌な予感が彼
らを包む。
「・・・心配ですね、どうします?」
 サオが言い、ユナは自分の歩いてきた方向を指差すと「宿をとっておいたから」と先に
歩き始めた。
「とりあえず宿に着いてから全員でカリアを探しに行くぞ。この街は物騒だ」
 そう言うユナに、アルスは頷いた。


 密閉された空間。湿った空気に暗闇の部屋。
 ここは・・・
カリアは目を覚ますと辺りを見渡したが、暗闇の中では何も分からない。
その時、足音が聞こえたかと思うと、どこにあるのかも分からない扉がノックされた。
「だ・・・誰 ?」
 恐怖感を押し殺す。扉は高鳴りをあげて開けられると、ぼんやりとした灯りを手に持つ
女の子が入ってきた。
「お姉ちゃん、具合はどう?」
「・・・だから、あたしはあんたのお姉ちゃんなんかじゃない」
 無気味な微笑みを浮かべる女の子に、カリアは眉根をひそめた。    


39 :カリー :2007/07/13(金) 15:17:42 ID:kmnkzJnk

「不老不死の少女?」
 宿の一室で、アルスたちは集まって話をしていた。ユナはアルスに頷くと、話を続け
る。
「居酒屋の連中から話を聞かせてもらったんだ。この島はゴーストの霧というもので外敵
から護られているだろ? そのゴーストの霧というのは、不老不死の少女が操っているら
しい。そして、その少女はこの島では神と讃えられている」
「神・・・?」
「あぁ、なんでもそいつは、死者を蘇らすことが出来るらしい。そして、その死者が少女
によってこの島を護っているのだと」 
「ま、まってよユナさん! 死者を蘇らすって・・・・まるでカリアっちみたいだっちぃ
〜・・・!!」
 リィは身を乗り出してユナの裾をつかんで揺らした。
 深刻そうな表情でアルスたちが考え込む中、ユナは一人背中を向けて扉に向かう。
「・・・その不老不死の少女とカリアが接触していたとしたら、カリアはもう戻ってこな
いかもしれない・・・」
「待ってユナさん!!」
 そう言ってアルスたちはユナの後を追った。 
 


40 :カリー :2007/09/21(金) 14:23:16 ID:ocsFWFtH

「ずっと捜していたの、お姉ちゃん。あなたは私より強い魂呼の力をお父さんからもらっているか
ら」
「お父さん...?」
 少女はカリアの隣に腰をかけて頷き、カリアはその髪や瞳の色もカリアと同じオレンジ色だとい
うことに気がついた。
 もしかしたら、本当にあたしの妹なの...?
 不安がよぎる。カリアは以前街で暮らしていたが、両親もいなければ親戚や友達もいなかった。
記憶などもなくて、何も知らない状態で街の中にいたのだ。
 魂呼の力、それだけが頼りで、人々の心を救って生きてきたカリアにとって、家族なんて...。
 薄暗く灯りの灯る部屋で、少女がまた口を開く。透き通った、奇麗な声だがなんだか不気味だ...
「お姉ちゃんは、ずっと実験室で眠っていたから何も知らないのよ」
  実験室...?

 


41 :カリー :2007/09/23(日) 22:29:22 ID:m3knViQH

―――――18年前。

「まさか本当に異世界が存在するとは…」
 男の目の前には、見たことのない世界が広がっていた。
魔の三角地点は、異世界と繋がっていたんだ…伝説ではなかった… 
 漆黒の布を体に巻いて、飲み水や科学の古い本などが入った革のカバンを持つと、
オルトは小船から降りてさくさくと岸辺を歩き始めた。
振り返ればそこには果てしなく広がる海がある。
気がつけば、この見慣れない海にいた。
 歩き始めてしばらくすると、巨大な城が見えて王都の入り口へと辿り着く。
オルトは不安を抱きながらも、内心ワクワクして街へ足を踏み入れた。
「神秘的だ…!これは魔法なのか?! この世界の科学というものに触れてみたいものだ!」
 楽しそうに笑う人々に、空を飛ぶ牛とカエルと鳥を合体させたようなとても奇妙な生物。魔法の世界だと実感させられる。
 それらの光景を見渡しながら、笑みが耐えない。
「楽しそうですね」
 低いガラガラ声で背後から声を掛けられたので、オルトは「感激です!!」と振り返る。そこにいた男は、堅苦しい鎧の姿でオルトを見下ろしていた。
笑みが消えて、油汗が流れ始めた。いい気はしない雰囲気だ。
街の人々は、突然血の気がひいたように物陰に隠れ始め、警戒をしている。
「この国の者ではないのだろう? どこから来た」
 その低い声が、オルトの小柄な体に響く。
「…すみません、勝手に。わたしはこの世界の者ではないんです。航海の途中で、嵐に巻き込まれたと思ったら、この見慣れない世界に…」
「…?」
 先程まであんなにもワクワクしていたのに、今は恐怖でいっぱいだ。
きっと、殺される。
科学者として、何かを残していきたかった…。
 無念な想いが、オルトの心を貫いた。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.