イケない★すくーる♡バトル


1 :ハナ :2007/08/30(木) 17:49:24 ID:nmz3oAQ7



「りゅう…ちょっとだけならいいよね?」

…彼女の一言が、まさかこんなに問題になるとは思ってもみなかった。


2 :ハナ :2007/08/30(木) 18:36:35 ID:nmz3oAQ7

バトル1★

いつも通りに起きた朝、俺は何か足りないと思いながら学校に向かった。
“足りない何か”というのはきっと、あいつのことだろうと思いながら。

「おーす、りゅーちゃん♪お元気ですかぁ?」

「…あ?」

教室に入ると、何人もの男どもが俺の元に来た。誰もがにやけているから、俺はそいつらを睨んだ。

「おっかねぇ顔〜」

「まぁじ不機嫌、だな」

「あったり前だよな!なんせコイツ…」

「うるせっ!お前ら全員ドッカいきなさいっ!」

俺は群がる男どもを押し退けて席についた。すると、そのあとすぐに入ってきた教師、山本七恵に声をかけられた。

「佐藤くん。あなたは別室ですよ」

「…ハイ」

俺のしょぼくれた返事を聞いた男どもは、おもいっきり笑いやがった。また睨んで、教室をあとにした。


「あ」

別室に行くと、ドアの前で立っている男がいた。その男はこっちを見た。

「おす、隆平」

「…何だよ、達哉」

ドアの前にいた男は昔なじみの岡部達哉。親友とも呼べる存在の奴だった。

「何だよ、じゃねーだろ。人が心配してきたのに」

「嘘つけ、冷やかしにきたくせに」

「…ばれた?」

達哉は笑って俺の前に歩いてきた。俺より10a身長が高い彼は、いやなくらい見下ろしてくる。俺は挑むように見上げてみた。すると、一瞬にして達哉の顔が俺を睨んだ。

「ばーか」

そう言うと達哉は、俺の肩を押した。よろめいたが、何とか足で支えて倒れはしなかった。

「何すんだよ」

「お前さ、彼女悲しませるなんて最低だな」

達哉は胸ぐらをつかみながらそう言ってきた。俺は言い返せず、俯いた。上からため息が聞こえる。

「…さおちゃん。すっげえ責任感じてんだけど」

「…は?何でお前しってんの?」

「さおちゃんに聞いたもん」

「おまっ…さおん家いったのか!?」

「ばか、何で俺が人の彼女ん家行くんだよ。学校に決まってんだろ」

「あ…そう」

“さお”こと西浦沙織は俺の彼女。俺達は昨日、ある問題を犯してしまった―……



「さお〜…ちっとだけ話そうぜ?」

「えぇー…大丈夫かなぁ?」

「平気だよ。いこっ」

「…うん」

この学校では、男女の交際が禁止となっている。けれど俺達は、内緒で付き合っていた。
学校ではもちろん、部活が忙しい俺は放課後も休日も会えず、手を握ることさえ出来ずに毎日が苦痛だった。

耐え切れなくなった俺は昨日さおを呼び出した。

「さお…ゴメンな?休みも全然会えなくて…」

「いいよ、りゅうは部活頑張ってるもん。しょうがないよ」

「…ごめん」

「謝らないで」

さおの顔を見た。優しく微笑んでいる。俺は自分が情けないなとつくづく思った。

「俺、寂しい。さおが近くにいないの寂しいよ」

「…さおだって、寂しいよ?」

「あっ…ごめ…」

急に、さおの表情が変わった。最近よく見ていなかったさおの顔は、知らぬ間に大人びていた。
鼓動が早くなる。

「りゅう、ちょっとだけならいいよね?」

そう言うと、さおは俺の人差し指に触れて、ゆっくり握った。その瞬間、俺の中で何かが切れた。

「さ…お…」

ちょっとだけなら…
俺はさおを抱きしめたい衝動に襲われた。ほんの一瞬触れるだけでいいから…と思い、さおの肩に手を置いた。

「りゅう…」

「あなたたち、何をしてるんですか?」

「えっ?」

声がした方を見た。教師が立っている。このとき初めて血の気が引く思いをした。慌ててさおから離れる。


「あ…あの!…肩に、ゴミがついてたんで取ろうとしたんすよ!お…俺っていいやつ?でしょ!センセ…」

「嘘をつくんじゃありません。あなたたちが交際していることはもうとっくに知っているのです」

「はぁ?証拠あんですか!?」

「証拠はこれです」

教師が一枚の写真を渡してきた。その写真は、俺とさおが手を繋いでいるものだった。

「こんなの…いつ撮ったんですか?」

「無名で送られてきました」

「無名って…いたずらかもしんねえだろ!」

「いたずらではありません。あなたたちは規則を破った罰として、明日から別室です」

「はぁ!?おい、ちょっと待てよ!」

「りゅう…やめて」

「さお…」

さおは今にも泣きそうだ。そんな彼女を目の前にして、抱きしめてあげられない自分に苛立った。

「ごめんね…さおが…ちょっとだけならって…」

「さおは悪くねえよ!悪いのは…俺だよ」

「…りゅうは悪くないよ。さおはりゅうが淋しがってるの知ってて…」

さおの言葉はそこで途絶えた。俺は、ただ立っているだけだった。

…悪いのは俺だよ、さお。


「やーほ、隆平」

「達哉…何の用だよ」

「お前、心配してきた人に何の用だとか言うな」

昼休みになった。昼休みだけは外に出てもいい時間だ。達哉がいきなりドアを開けて、俺を引っ張った。

「何だよ!」

「さおちゃんからの伝言。“今日電話するね”だって」

「え…」

さおの顔を思い浮かべるあの時の泣きそうな表情が浮かんだ。そんな想像を打ち消すように、達哉が俺の額を弾いた。

「って!何す…」

「シケた面すんな。こっちまでテンション下がる」

「…わり」

「お前はバカでうざい方がチョードいいんだよ」

「あぁン!?ばかはえーけど、うざいゆーなっ!」

「じょーだん♪」

達哉は笑った。俺もつられて笑う。遠回しに俺を元気づけてくれてるのかな、なんて思った。

「な、どーすんの。さおちゃんと電話して、また寂しいとか言う?」

「俺は言わね。さおに言わせんだ」

「さおちゃんに?」

「おぅ」

達哉が首を傾げる。俺はふっ、と笑って長身の彼を見上げた。

「甘いな、りゅーへー」

「…え?…ぅわっ!何だおめーら!」

「心配で来ちゃった★」

いつの間にか俺の周りに何人もの友達がいた。男達はみな笑っている。

「りゅ〜ちゃん♪さおりんはそんなスグに言わないぞっ」

「は?てかさおりんって何だ。やめろ」

「さおっぺは大人〜な女だもんなぁ。お前と違って★」

「さおっぺもダメだ!」

「あ〜あ、さおりん、何でこんなおバカ♥と付き合ってんだろ?モテモテなのに、納得いかねっつの!」

「あぁ!?お前に納得されたかねーよ!つかお前らどっから出てきた!?」

「まーまー、隆平。こいつら心配して来てるからさ」

「どこがだっ!」

俺が怒鳴ると、周りの男達が更にニヤケだした。

「ななっ!お前さ、学校でヤっちゃったわけ?」

「は?」

「学校はマズイだろ!」

「何だよ?」

「だから、りゅーとさおりんが個別になった理由だよ!」

「手の早いお前のことだから、学校でヤっちまったんだろ?」

「………はぁ!?」

我ながら恥ずかしいくらい赤面してしまった。さおの顔を思い浮かべると物凄く恥ずかしい。
たずねた奴らは、驚いて口を開けたままだ。
俺の横で達哉は小刻みに笑っている。

「え…なにその反応」

「何で何で?お前、そのくらいで赤面すんの?」

「ぶっ…ふふ…」

「バカ!ただ肩に触れただけだっつの!つーか手が早いってなに!?」

「りゅーにバカ呼ばわりされたくねえ!」

「そーだぞ!テスト万年ビリのお前に!」

「ビリじゃねえ!ビリから二番目だっ!」

「ところでさぁ…」

唐突に口を開いたのは、達哉の次に仲のいい北井恭太だった。

「お前、西浦とどこまでいってんの?」

「は!?」

「お〜い、いいぞお〜きょーちゃん」

「キス?あ、それ以上か?」

「う…うるせえ!キスまでだよ!」

「はぁ!?お前がキスまで!?テメー何嘘ついてんだよ」

「嘘じゃねえ!俺ヤったことねえもん!」

「嘘つきー!」

「マジだよな、隆平」

「達哉…」

となりにいた達哉が俺の肩に手を回してきた。ななめ上に達哉の顔がある。

「コイツ、さおちゃんのことしゃぼん玉みたいに超大切に触れてるもん」

「しゃ…ぼん玉?」

「しゃぼん玉は触るとすぐ割れるだろ。そのくらい大切にしてるってことだよ」

「あぁ!…てか、例え方ヘンだね★」

「てゆーか、りゅうが!?まじで!?」

「マジ。しかもキスだって一瞬しか触れないようなのだぜ」

「はいストーップ!達哉、お前何でそこまで知ってるのかなー?」

「さおちゃんが言ってたもん」

「だー!またさおかよ」

「つーか、りゅーがそんな奴だと思ってなかった」

「なぁ、つまんねえ」

ダチの何人かが唇を尖らせている。俺は少し胸を張ってみた。

キーンコーンカーン…

そのとき、チャイムが鳴った。

「あ、いかなきゃ」

「だな。じゃ、俺ら行くから。バイバイ」

「いーこにしてろよ〜」

「はいはい」

達哉たちは帰っていった。

はたして、俺達の行方はどうなるのだろうか。


3 :ハナ :2007/08/30(木) 18:46:00 ID:nmz3oAQ7

バトル2★

「沙織、帰ろう」

「あ…うん」

今日も会えなかったな…

放課後になった。友達の未弥に帰ろうと言われて、またりゅうに会えなかった悲しさが胸に響いた。さおは、りゅうが大好きだから、物凄く会いたい。でも、りゅうに迷惑かけたくないから黙っておこう。

「沙織…隆くんと全然会ってないよね」

「えっ?」

思いを悟られたかのように、未弥がそう言った。慌てて言葉をさがす。

「しょ…しょーがないよ悪いのはさおだもん」

「でもさ、きっと隆くんは自分が悪いって思ってると思うよ」

「…たっちゃんに聞いたの?」

「…まーね」

たっちゃん…達哉くんはさお達を心配して声をかけてくれる。

隆平はさおちゃんのせいだなんて思ってないよ。

さおのせいだ、って言ったら、たっちゃんはそう言った。彼は優しくて、お兄ちゃんみたいな存在なのだ。

「隆くん、部活は出てるんでしょ?会えるかもよ!」

「いいの。今日、りゅうに電話するから」

「そう…?」

未弥は心配してくれている。
さおは大丈夫だよ。
そう言いたいのに言えない。さおは、強い人じゃないから…

「さおちゃーん!」

「えっ?」

たっちゃんが走って来た。きっとまた、りゅうのことかなと思いながら彼を見ていた。

「帰るの?」

「うん…りゅうは、練習してる?」

「まだ来てない。今探しに行こうと思って」

「そうなんだ」

たっちゃんを見ると、微笑んでいる。背が高くてイケメンな彼は結構モテるけれど、彼女を作ったことは一度もないらしい。

「さおちゃん、りゅうとキスしかしてないんだよね?」

「へ?な…なによ、いきなり…」

「ふっ…おもろい反応」

「…たっちゃん、さおのことバカにしてる?」

「してない、してない」

彼の笑った顔を見ると、りゅうを思い出す。なるべく目を向けないようにした。

「りゅうがね」

その言葉で、さおは顔を上げてみた。

「ダチにキス以上しただろって言われて、チョー顔真っ赤にしてたよ」

「りゅうが?」

「うん」

そっか…りゅうはいつもバカ騒ぎしてるから全然みたことなかったけど、赤面するときだってあるよね。
さおはそう思って、たっちゃんのことを見た。

「たっちゃん、りゅうに言って」

「いいよ。何?」

「…帰宅したらメールちょうだい、って」

「わかった」

「じゃあ、頑張ってね」

「それも伝えとく」

「あ…」

たっちゃんは行ってしまった。いつもながら、たっちゃんは人の心をよむのが上手いなって思う。

「さおちゃん、いこっ」

「未弥!たっちゃんのまね?」

「うん。…あいつ、沙織のこと好きなのかな?」

「え?なんで!」

「なんか沙織に優しくない?あたしなんかまるで無視だし」

「たっちゃんはみんなに優しいよ!」

「そお?」

ありえない。たっちゃんは親友の彼女取ったりする人じゃないよ。
何度も自分に言い聞かせて、歩き出した。



「あーやっと見つけた」

「おう達哉!どした?」

「早く部活こいよ。先輩待ってるぞ」

「はいよ」

部活は出られてよかったと俺は思った。
さおの次の次に好きなものはサッカーだからだ。

「ちわっす!サッカー小僧の佐藤隆平っす!」

「うおーっ!隆平くんが来ましたぁ!」

「…はい?」

先輩タチが群がってきた。俺は訳がわからずそのまま突っ立っていた。

「お前、マジかわうそだなぁ〜」

「かわうそ?」

「あ、タカちゃんのまじボケは気にしないで★」

「…はぁ」

「てゆーかお前、彼女との交際ばれちゃったんだって!?」

「マジ可哀相だよなっ」

先輩タチが俺の頭を撫でる。サッカー部の先輩は一人を除いて全員大きい。

「落ち込むなよ。そして我慢すること!」

「…ガマン?」

「そーよぅ。俺達三年が一年のときも、お前らみたいにばれちまった先輩がいたんだ。そんでその先輩は我慢できずにコソーリ会いにいったのよ、そしたら先生に見つかって、延長戦となったわけだよ」

「延長…戦」

「そう。これは戦いなんだ。ただし肉体じゃなくて、精神のね♪」

「忍耐バトル!」

「そうだ!忍耐バトルの開催なんだーっ!」

「おおーっ!」

忍耐バトル…

先輩タチの話が本当なら大変そうだ。でも、さおに…ふ…触れるために!頑張ろう!…っておれ、エロッ!

そんな想像をしていた俺は、さおの異変に気付きもしていなかった。


4 :ハナ :2007/08/30(木) 18:58:47 ID:nmz3oAQ7

バトル3★

「…こないなぁ」

りゅうからのメールを待って、4時間が経った。部活時間はとっくに過ぎていて、りゅうも家に帰っているはずの時間なのに、メールは来ない。

「…りゅーのバカ」

携帯をベッドに置いたその瞬間、着メロがなったさおは急いで携帯を手に取った。けれど、そのメールはりゅうからではなかった。

「…なにこれ?」

しかし、メールには奇妙なことが書かれている。

---------------------- 
柊高校2年C組
  西浦沙織

今夜、お前の元へ
迎えに行く。
----------------------

「変なメールだなぁ…」

さおは特に気にせず、そのまま携帯を閉じた。

まさかこれが、戦いの一部だなんて…思ってもみなかった。


「あー腹へった…コンビニ寄ろうぜぇ、達哉ぁ」

「ヤだね。お前いつ金持ち歩くようになったんだ。おごらせる気だろ」

「…たっちゃん★お願いだよ〜」

「キモッ、おごる気なくした」

「達哉様!お願いしますです!」

「ぶっ…しょーがねぇなぁ…」

俺達は近くのコンビニに入った。入って間もなく達哉が、あっ、と声を出した。

「どした?」

「忘れてた。さおちゃんが“帰宅したらメールちょうだい”って言っといてってゆってた…」

「おいおいオイッ!マジですか!?やべーじゃん。さお待たせてるじゃん」

「わりぃ…」

「ま、いーよ。今メールすっから」

「おぅ」

俺は携帯を取りだした。

遅くなってごめん。俺、今コンビニだから…こっちから電話するな。待ってて。

「そーしんっ♪」

「なに、機嫌いいじゃん」

「だぁって久々のテルだもん」

「そーか…そうだよな」

「…あ、やっぱ帰っていいか?早く電話したいしさ」

「おう、いいよ」

「じゃ、また明日な!」

「じゃーな!」


俺はそのとき、まだこれから起こることを知るよしもなかった。


「あ…りゅうからだ」

メールを開いたら、りゅうからのものだと気付いた。慌てて見ると、まだ家に帰っていないというメールだった。

「なんだ…りゅうのバカ。まだ帰ってこないの?」

さおは一人で呟いて、近くのコンビニに向かった。

「…西浦沙織さん」

「え?」

コンビニに行く途中、二人の男がさおの前に現れた。男達は、さおの名前を知っている。いかにも不良、という姿だ。

「やっぱ、かわえー」

「マジ大人っぽいな〜」

「あの…何ですか?」

「お迎えにきましたぁ」

男達が軽快に笑う。その瞬間、さおはさっきのメールを思い出した。

今夜、お前の元へ
迎えに行く。

あのメールは、この人達が…

「…今急いでるんで」

「おっと!」

さおが一歩踏み出すと、一人の男が前に立った。そして、さおの腕を掴んだ。

「困るなぁ。ちゃんと迎えに行くって言ったじゃん」

「…知りません!そんなもの」

「おいおい、しらばっくれんなよ。ヤダねぇ、かわいいくせに従わない女は」

「放して!」

さおは鞄を男の顔に投げ付けた。よけられなかった男はその場に倒れ込む。

「…ってぇな!何すんだよ!」

「ざけんじゃねぇ!早く連れてくぞ!」

「やめて!」

さおの腕が掴まれた。必死で逃げようとしても、力が強くて動けない。

りゅう…

「……いて!」

ふと、さおの腕を掴んだ男が倒れた。驚いて背後の男を見ると、そこには……


「たっちゃん…」

「大丈夫?」

たっちゃんが助けにきてくれた。彼はもう一人の男も倒し、不良の二人は逃げていった…。

「さおちゃん」

「…なに?」

たっちゃんに呼ばれて見上げてみると、表情は少し怒っていた。

「こんなとこで何してたの?」

「……コンビニ行こうと思って…」

「こんな遅くに女の子が一人で歩いちゃダメだよ。しかもこの道暗いし…」

「たっちゃんは、何でここにいるの?」

「俺?さっき近くのコンビニでりゅうといたんだ。その帰り」

「そうなんだ…」

たっちゃんはこっちの道だから…りゅうは反対方向だから助けにこれなかった。それだけだ。別に深い意味はない…

それなら、どうして心臓が速くなるの?

「…さおちゃん?」

「えっ?」

「ぼーっとしてるよ?なんか嫌なことされた?」

「だ…大丈夫!さお、帰るね!」

「あ、送ってくよ」

「大丈夫だよ!色々ありがとね、たっちゃん」

「いいから。本当はりゅうがいいだろうけど、さおちゃんに何かあったらここにいた俺がりゅうに怒られちゃうからさ」

「…うん、ありがと」

たっちゃんは人の心をよむのが上手い。

たっちゃんは、さおの斜め後ろから歩いてきてくれた。



『…ただ今、留守にしております…』

「あれ〜?」

さおの家に電話をしても留守電になってしまう。

このときの俺は、さおの身になにがあったか知らなかった。

「なんだよ…さおもどっか行ってんのか?」

俺は一人で呟いて、携帯をベッドの上に置いた。けれどもう一度だけかけようと思い、手に取った。

「………はい」

「さお!?」

「りゅう…」

五回目の電話は繋がった。かからないだろうと思って寝ながらかけたので、身体を起こした。

「ごめんな、遅くなって」

「大丈夫…」

「さお、俺、先輩に言われたんだ。我慢しろってだから……」

「ごめん…」

「…え?」

「ごめん、りゅう…今日は疲れたからもう寝るね。また今度かける」

「あ…そうか!疲れたよな。俺が遅いから…ごめんな」

「りゅうのせいじゃないよ」

まただ。さおは、いつも責任を自分で背負おうとする。どうしてだろう。

さおは、強いのか…

「じゃーなっ!」

「バイバイ」

電話を切った。俺達の久々の会話は、ぎこちなく終わった。

離れていると、わからないことが多い。

俺はそんなことすらわからないくらい、さおの震えた声を思い出していた。


5 :ハナ :2007/08/31(金) 13:15:02 ID:nmz3oAQ7

バトル4★

「よぅ、隆平」

「おー達哉」

別室のドアを開けたら、達哉が職員室の前にいた。俺は、笑いながら誰かと話す達哉を見ながら、部屋から出た。

「岡部、お前今回いけるぞ。調整しとけよ」

「はい」

達哉が話しているのは、陸上部監督の相模だ。達哉は陸上部で、ハードルをやっている。昔から走ったり跳んだりが好きだった達哉が、中学から始めた種目だ。

「なーに話してんの?」

「おー佐藤じゃないか。どうだ、別室の気分は」

「サイコー★なんちゃって。超気分悪い」

「ははは!お前はホントにおちゃらけた奴だな」

相模が笑っていると、周りの教師タチが相模を見た。

「先生、見られてます」

「おっと…あ、そうだ。岡部、お前今日からタイム計れよ」

「わかってます」

「なぁ相模センセ。何話してんのー?」

「ん?あ、岡部を今度の大会でハードルの選手にしようと思っててな、その話をしてたんだ」

「えー達哉がハードルの選手ー。スゲースゲー、こけんなよ達哉ー。こけたら思いっきり笑うぞー」

「何だその言い方。棒読みかよ」

「達哉はいーな。デカイくせに速いし跳ぶし」

「お前だって跳ぶじゃんか」

「それに“キャー柊高の達哉くん超カッコイ〜”とか言われるな」

「言われねぇよ。つーか人の話きけ」

「誰が聞くか。お前の話なんか」

「なに、怒ってんの?」

「べっつに」

達哉はいいよな。俺はチビだからサッカーの試合には出られないし、さおとは会えないし…達哉が羨ましいぜ。

俺は心でそう思った。すると、目の前に誰かが立っている気配を感じた。

「隆くん」

「あ…ミヤちゃん?なになに?愛の告白?」

「ちっがうよ、バカ」

「え?バカ?どーしたんその口調は」

さおの親友・ミヤが俺を見上げる。その顔は曇っていた。

「よくヘラヘラしてられるね」

「え?」

「達哉から聞いてないの?」

「へ?」

達哉を見た。こちらを見ている。

「たーつーやーくん。俺に隠し事するなんていー度胸してんなぁ」

達哉を見上げた。目をそらしている。胸ぐらを掴もうとしたが、やめておいた。

「さおに何があった」

ミヤがいるということは、さおのことだと思った。低い声で達哉にたずねてみた。

「昨日…帰ってる途中にさおちゃんに会って……不良に襲われてたんだ」

「さおが?さおが不良に襲われてた!?」

「まぁ、そいつら弱かったから倒したけど…さおちゃん…どう思ってるかは…」

「なんで早く言わねぇんだよ!」

達哉の腕を掴んだ。力を込めた俺の手を、達哉はゆっくり外した。

「落ち着けよ。お前に言ってもどうしようもないだろ…」

「そういう問題じゃねえだろ!さおは俺の彼女だ!いつどこで何があったかくらい知りてぇんだよ!襲われたんならなおさらだ!」

「隆くん、静かにして」

ミヤが俺を叱るようにそう言った。達哉は目の前で唇を噛んでいる。俺はどうしていいかわからないまま、部屋に戻った。

「隆平!」

「達哉。今はダメだよ」

ミヤに言われた達哉はその場で拳を握りしめた。

「…なんで隆くんに言わなかったの?」

ミヤの問い掛けに、達哉の顔色が変わった。拳が開いた。今度はひどく力が抜けたようだ。

「ねぇ、なんで?なんでよ、達哉…」

追い討ちをかけるように問い掛けるミヤを、達哉は直視した。ミヤは、しっかりと視線を受け止める。

「…達哉。あんた、沙織が好きなの?」

達哉の目が開いた。もう隠せない、そういった表情で彼はやっと口を開いた。

「そうだよ」

「…最低じゃん。この機会に奪おうなんて思ってるわけ?」

「…さおちゃんのことは確かに好きだ。でも、隆平から奪おうなんて思ってない」

思ってないはずなんだ、未弥……だけど、俺がしたことはそれに近いことなんだ。俺にもよくわからないんだ。

達哉はそう言いたかったけれど、喉につっかえてしまった。ミヤは睨んでいる。

「そんなの嘘でしょ。あんたがしたこと考えてみなよ!」

「嘘じゃねえよ!」

達哉は大声を張り上げた。ミヤは一歩後ろに退いた。

「…お前に俺の気持ちなんてわかんねぇだろ。勝手なことばっかり言うなよ…」

達哉はミヤから逃れるように教室へ戻っていった。

未弥は一人でその場に立って、声を殺して泣いた。


6 :ハナ :2007/09/06(木) 13:05:43 ID:nmz3oAQ7

バトル5★

部屋に戻ると、窓の外がやけに明るいことに気付いた。狭い別室に一人で座り込む。青い空に浮かぶ真っ白い雲から顔を出す太陽の光が、俺を見事に照らしてくる。

…俺には、何もできないのかな。

さっきからそんなことばかり考えてしまう。
俺の心は曇っているのに、窓の外はバカみたいに晴れていた。

「佐藤」

名前を呼ぶのと同時に、部屋の扉が開いた。
顔を見せたのは相模だった。

「ほら、コレ」

「…うわぁ、いらない」

「バカ。いらない、じゃないだろ」

机の上に全教科分のプリントが置かれた。授業に出られない分を補うためだろうけど、そんなことをするなら最初から別室にしなけりゃいーのにと思う。

「どうした、暗い顔して。お前には全然似合わないぞ」

「そりゃどーも。けど、今は笑えねーんだ」

「お前…岡部とケンカしてたな。やめてくれよ、あいつのタイムが落ちるから」

「ヤダ。達哉のタイムが下がろうと、俺にはカンケーないもんね」

「おいおい、ひどいなぁ。ま、冗談だけどな」

相模は苦笑している。俺は立ち上がって窓の外をみた。

「俺にはお前を解放する権利はない」

「…は?」

相模が唐突に口を開いた。思わず振り返ってしまった。

「お前をここから解放して、自由に青春を味わってもらいたいがな…肝心の解放権利がないんだ」

「…なに?どーしちゃったの急に」

「でも、だ」

相模は俺の目をしっかり見てきた。その視線は強すぎて、そらせなくなってしまった。

「お前に元気を与えてやることは出来る」

「…だから?」

「だからな…何が言いたいかというと……お前にも出来ることはあるはずなんだ」

「…俺にも、出来ること?」

「そうだ」

相模は満面の笑みを浮かべて腕を組んだ。元短距離の選手だったというその腕は、やけに細い。

「お前にも出来ることはある!だから諦めるな。諦めたら、お前の負けだ」

負け…敗北…

負けたものは、潔く勝者に従うことになる。
…さおと、別れることになる。

嫌だ。絶対に嫌だ。それだけは、死んでも嫌だ。

「じゃあな、プリントやっとけよ!」

「あっ…センセ!」

「ん?」

「…ありがと、です」

「はは!そんな日本語ないぞ。頑張れ、若者よ」

相模は部屋を出ていった。俺はこの学校にきて、初めて励ましてくれる人に会った。
俺の心は少し晴れきた。


「さーおちゃん」

「あ、たっちゃん!」

たっちゃんが手を振ってこちらにくる。昨日みたいに心臓は速くなっていない。

「昨日はありがとう」

「いえいえ、当然のことだから」

たっちゃんはそう言って笑った。さおは、りゅうの笑顔を思い出すから目をそらしていた。

「…りゅう、何て言ってた?」

「あ…えっと、まぁ凄く心配してたよ」

「…りゅうに心配かけちゃったか」

「あ、でもさ!さおちゃんが元気だって知ったら心配も吹っ飛ぶと思う」

「…たっちゃん。りゅうに、心配しないでって言って」

「うん、わかった」

「いつもごめんね」

「大丈夫だよ」

りゅうは本当に元気になるかな。さおが心配ばっかりかけて、迷惑じゃないかな…。そう思ったら、涙がでてきた。止まらない。

「さおちゃん…」

「ごめん…たっちゃん……わっ!」

たっちゃんがさおを抱きしめた。あまりに突然で、さおは動けなくなった。

「たっちゃん…だめだよ」

さおはたっちゃんの身体を突き飛ばしてしまった。

「…たっちゃん、さおはりゅうが好きだから」

速くなる心臓に言い聞かせるように、さおはそう言った。たっちゃんは放心状態のまま、ごめんと言って去っていった。


7 :ハナ :2007/09/17(月) 13:21:51 ID:nmz3oAQ7

バトル6★

俺の知らない間に、事件は起きた。

「…隆くんっ!」

「うわ、ミヤ!何だよ」

「大変なの!」

「はぁ?」

なにが大変?ミヤがここまで必死に俺のところに来たってことは……さおに何かあった?

「…さおがどうかしたのか!?」

「えっと…まぁ関係あるんだけど…」

「何だよ!言えっ!」

「…噂だよ?達哉が、沙織と抱き合ってたって」

俺は一瞬、何も見えなくなった。真っ白になった。
達哉?なんで達哉?あいつは俺達のことをいつも心配してて…。

「…噂だからっ、私は、信じてないからね!」

「…あたりまえだろ。誰が信じるかよ」

信じるもんか…そんな噂………でも、もし本当だったら?

そう考えたとき、チャイムはなった。

「あ、じゃーね!」

「…おう、わざわざありがとな」

ミヤは去っていった。
達哉が俺達の間に入ることなんてありえない。もしそんなことがあったとしても、さおと俺は簡単に崩れるような仲じゃないから、心配ない。そう言い聞かせていなければ落ち着けなかった。


「隆平」

「…達哉」

気がつくと、目の前に達哉がいた。俺はびっくりしてしばらく口を開けたままだった。

「隆平?何ぼーっとしてんの?」

達哉は普通だ。噂のことは、彼の耳に入っていないのだろうか。俺は聞こうか聞かないか迷った。
…言ってみよう。

「…あのさ」

「ん?」

「…あの噂、ほんとなのか?」

「噂って…?」

達哉はキョトンとしている。やっぱり知らないのか。でも一応、言ってみることにした。

「その…お前が、さおと……」

「あぁ、あの噂ね」

「…本当なのか?」

「隆平、お前バカ?なんで俺がさおちゃんと抱き合うの?ありえないって、疑うなよ」

達哉は平然と否定した。笑っているし、どこにも偽りの姿は見当たらない。やっぱ、噂は噂でしかないんだな。信じていいんだよな。

「…わりぃ、ちょっと疑ってた。そんなのありえねえよなっ!」

「あたりまえだろ。それより、さおちゃんに元気なこと伝えなきゃ。また心配かけちゃうよ」

「おう!」

達哉はいつものように笑って、いつものように手を振って帰っていった。噂はやっぱり嘘なんだ。
俺には、達哉を疑うことなんて出来なかった。


「沙織」

「…未弥!」

「ちゃんと言ったよ。信じてないって…」

「…ありがとう」

りゅうには知られたくない。知ってしまったら、りゅうは…どんな顔をするかな。さおは、たっちゃんに抱きしめられた。事実だ。噂にもなっている。

「…りゅうには、絶対言わないで」

「うん、わかってる。わかってるけど……」

「…なに?」

「嘘ついてていいの?」

ハッとした。りゅうに嘘なんてついたことがない気がする。
確かに、嘘はいけない。りゅうだって悲しむ。だけどさおは、こうするしかないと思ってしまった。

「あたしは…隆くんに嘘つくのはダメだと思う」

「だって…」

「嘘つく方が怒るんじゃない?」

未弥は、少し目つきが鋭くなった。

「正直に言えば許してくれるよ。沙織がいけないことした訳じゃないじゃん。達哉が……」

「さおは嫌なの!!」

さおは未弥を見た。未弥はものすごく驚いている。なんでこんなに怒鳴っているか、自分でもわからない。

「りゅうが悲しむのは嫌だよ!だけど…だけど、さおは…りゅうが……りゅうが傷付くより…」

「…沙織?」

今、さおは何を言おうとした…?
りゅうが傷付くより……
なんで“りゅうより”なんて言っているの?その先はなんて言おうとした?さおは……

「隆くんより、誰が傷付くのが嫌なの?」

未弥は怒っていた。さおは黙っていた。

「…達哉?」

達哉…。たっちゃんの顔が思い浮かんだ。りゅうに似た笑顔…さおとりゅうを支えてくれている人。
さおは、たっちゃんが好き……なの?

「もしかして、ぐらついてるの?」

わからない。わからないよ、未弥…

未弥の声はどんどん大きくなった。

「驍ュんがいるのに?なんでそんなこと言うの!?ねえ、答えてよ」

黙っているさおの肩を掴んだ未弥の手は、今までに知らない強さだった。

「そういうの最低じゃん!!沙織のバカ!!」

未弥、泣いてるの?
震える声と、床に落ちた一滴のしずくからそう思った。

「未弥…違うの…」

「…沙織、ごめん」

未弥は走っていった。

さおはたっちゃんが好き?
そんなの、自分に問い掛けたくない。問い掛けなくてもわかるじゃない、さおはりゅうが好き。

じゃあ、どうしてりゅうよりたっちゃんって言おうとしたの?


8 :ハナ :2007/09/19(水) 17:04:49 ID:nmz3oAQ7

バトル7★

睡魔が襲ってくる午後2時。俺はさおが今なにをしているか考えていた。あと2日で別室生活は終わりを告げる。そしたら、さおに会えるんだ。あんな噂、信じない。

「隆平」

「うわっ、恭太じゃん。なんか久しぶり?」

いつの間にか、恭太が部屋に入ってきていた。俺はマジびびって、とっさに立ち上がった。

「どう、元気?」

「…まぁ、元気だ。何か用?」

「うん。達哉のことなんだけど」

「…達哉?」

達哉。俺は少し声を低くした。

「西浦、危ないよ」

「は?」

「達哉に、取られるかもよ」

「…恭太」

俺は恭太の胸ぐらをつかんだ。

「いきなり来て何いってんだ。達哉がそんなことする奴じゃねえだろ」

「わかんないだろ」

「何っ……」

「離れてたら、わかんないことだらけだろ。そのくらい承知の上だろ?」

否定できない。確かにそれはわかっている。でも達哉はそんなことする男じゃないってことも、よくわかっている。

「達哉はそんなことしねえ。噂なんて嘘ばっかだ」

でも、なんでだろう。

「…うん。ごめんな」

わかっているのに、モヤモヤする。なんでだ。疑っているのか?

「あ、隆平。ひとつだけ言うけど……」

「なに?」

「油断は禁物だよ」

「…は?なんだそりゃ」

「知らないの?隆平、このくらいも知らないようなバカだったの?」

「ちっげえよ!そーじゃなくて……なんで、そんなことゆーんだよ」

「信じることも大切だけど、それが裏目に出ることもある……ってことだよ」

恭太は俺が口を開く前に行ってしまった。呼び止める気もなかった。いつもそうだけど、アイツに言われるとなんか納得しちまう。ヘンだな、また納得しちまった。

「達哉がそんなことするなんて…ありえねー…」

「…隆平」

急に背後から声がした。驚いて振り向くと、達哉だった。またさらに驚いた。

「たっ…達哉!」

「…隆平、ごめん」

達哉は深刻な顔をして、俺の前で頭を下げた。なんだかわからずに俺は突っ立っていた。謝った理由が、あの噂のことだと結び付けぬまま。

「…ごめん、ホントに」

「達哉…?なにが、ごめんなんだよ…」

「…あの噂、本当なんだ」

達哉の口から出た言葉が理解できなかった。
噂?噂って、あの噂か?なんでだ?何かの間違いじゃ─…
ごめん、とさらに繰り返す達哉を目の前にして、やっと受け止めた。その瞬間は、怒りというか、力が抜けた。身体が宙に浮いているような、そんな感覚があった。

「俺…あんなことするつもりは全然なかったんだ。お前らのこと本当に応援してたし……」

達哉はゆっくり、噛み締めるように言った。俺は今自分が立っているのかわからなかった。

「隆平、ごめん。あんなことして、嘘ついて…ごめん」

「…い、いいよ、もう」

俺の口からやっと出た言葉はそんなものだった。達哉は驚いているようだ。

「そんな…よくねえだろ」

「いいんだよ!」

やっと怒鳴れた。普通は許せないけれど、許している。でも少しくらい感情をぶつけたかった。
達哉は何か言いたそうな表情をしている。

「お前が入ってきたって……俺達は崩れねえ。だから、いい。関係ない」

「隆平…」

「達哉、ひとつだけ聞いていいか?」

「…なに?」


「お前は……」

本当は言いたくない。
言ってしまったら、壊れてしまいそうだ。
…俺の心が。

「お前は、さおのことが好きなんだな?」

意外としっかりした声を出せた。
達哉は俯いた。早く言え、隠すことは出来ないんだから。

「…俺は」

早く……。

「さおちゃんが、好きだ」


9 :ハナ :2007/09/20(木) 17:23:38 ID:nmz3oAQ7

バトル8★

さおが今日の放課後に別室を出ると知ったのは、昼休みのことだった。
そしてそのときもうひとつ…驚きの事実を知った。

「沙織ーっ」

「未弥!」

「今日の放課後には出られるね!この部屋っ」

「あ…そうだね」

「忘れてたの?」

「うん…なんか」

さおが笑うと未弥も笑った。
今日で別室を出て、普通に過ごせるんだ。素直に喜びたい。

「未弥?」

未弥は急に黙り込んで、曇った表情を見せた。そのわけがさおにはわからなかった。

「…沙織、あのね」

「…どうしたの?」

「あの……達哉のことなんだけど」

「……たっちゃん?」

聞いたとたん、さおは胸が痛くなった。

「隆くんに、言ったって…」

「…え?」

りゅうに言った…それはつまり、さおとたっちゃんのことを言ってしまった。それしかない。
何かで頭を殴られたような痛みがおそってきた。
りゅうに、知られてしまったのだ。

「なんか、謝ったみたいだよ…隆くんは別にいいって…達哉が入っても俺達は崩れないって、言ってたって…」

崩れない。
その言葉が耳に入った瞬間、さおはなんて馬鹿なことをしたんだと思った。りゅうに隠そうなんて、どうして思ったんだろう。りゅうに嫌われるのがいやで、知られたら別れ話がくるんじゃないかって思った。
なんて馬鹿なの。
なんて弱い考えなの。

「…未弥」

「なに?」

「さお、間違ってたね。りゅうに嘘ついていいなんて…どうして思ったんだろうね…」

「沙織…」

そして、たっちゃんに心を惑わされた。
最低だよね。
涙が溢れてきた。

「沙織、しょうがないよ!誰だって考えちゃうよ……」

「…ありがと、未弥。でも、やっぱりいけないことだよ」

「…沙織」

「何?」

「今、一番大好きなのは誰?」

「…え?」

「達哉?沙織の心の中に、達哉はいる?」

「…未弥」

未弥は笑っている。
さおの心の中にいる人は……たっちゃんじゃないよ。
さおはもう、惑わされないよ。心に決めた人はただひとりだから。

「…未弥、さおの大好きな人は…大切な人は…」

「うん」

「…りゅうだよ!」

揺るがない想い。
サッカーが大好きで、たくさん友達がいて、いつも笑顔を絶やさなくて…優しくて……さおを大切にしてくれている人。
それはりゅう。さおが偽りなく大好きな人だ。

「…沙織、放課後、隆くんに会いにいこうね」

「え…大丈夫なのかな?そういえば、男女交際禁止って…別室生活が終わったらさお達どうなるの?」

「大丈夫、ある人に頼んだから」

「え?」




「佐藤、入るぞ」

疲れ果てた俺の元に、相模がやってきた。もう放課後か。
長いようで短かった別室生活も終わりを告げた。

「何だ、今日から自由になれるっていうのに、そんな顔するなよ」

「だってー…」

達哉から衝撃的な言葉を聞いて、心がからっぽだった。さおにどんな顔で会えばいいのかわからない。…あれ、そういえば。

「センセ!」

「ん?」

「別室終わったけどさ、男女交際禁止なんだろ?このあと俺らどうなんの?」

「…どうなるんだろうなぁ?」

「えぇー!?なにそれ」

どうする。もしも別れなさいとか言われたら……別れるのか?
……冗談じゃねえ!!

「俺、抗議してくる!」

「あぁ、待て!」

「何だよ!」

「もうすでに一人行ってるぞ」

「は?」

「岡部達哉が抗議してる」

「…はぁ!?」

達哉が……
俺は急いで職員室へ向かった。

「失礼しますっ!」

ドアを開けた瞬間、頭を下げた達哉の姿を見た。俺に謝ったときと同じ姿があった。

「達哉!」

「……隆平!」

目の前には教師がいて、困った顔をしている。

「なにやってんだよ!」

「…借り、返すから」

「え?」

「許してくれた借りだ。お前らを別れさせたりしねえ」

達哉はそう言って、教師達にお願いしますと頭を下げた。俺も隣で頭を下げた。
達哉がここまでやってくれて、胸が熱くなった。泣きたくなった。深く頭を下げて、お願いしますと言った。

「俺、別れたくないです!お願いします!!」

「隆平達を認めて下さい!お願いします!」

「ちょっとあなたたち!顔を上げなさい」

「…え?」

頭をあげた。教師達は苦笑している。
意味がわからなかった。

「誰も別れなさいとは言っていないでしょう?」

「へ…?」

「あなたたちの気持ちはよくわかりました。特別に許可しましょう……」

「えっ…えぇ!?いいんですか!?」

「最初から別れろなどいうつもりなんてなかったんですから、いいのです」

「…ありがとうございます!!」

俺達は抱き合って喜びたいくらいだったが、今はそれどころじゃなかった。
さおのところに行かなければならない。
職員室を飛び出した。

「先生、いいんですか?この学校の規則は─…」

「…いいんです。校長にもお話して、了解を得ました」

「そんな…」

「生徒達には、恋も大切な勉強なんでしょう…あの子達の顔がすごく輝いていました」

「…確かに、そうですね」




「達哉!」

俺は職員室を出たらすぐに伝えようと思ったことがあった。

「ありがとな…」

それはありきたりな言葉で、今まで生きてきた中で一番を心を込めていったかもしれない。

「感謝してるよ…達哉」

「何言ってんだよ、当然のことだろ。さ、早くいくぞ!」

「おう!」

俺はこの上ないくらい全力で走った。
大好きな、彼女の元へ。


10 :ハナ :2007/09/21(金) 17:38:03 ID:nmz3oAQ7

ラストバトル★

走って走って、俺は足を止めた。もう走る必要がなかったから。

「…さお!」

「…りゅうっ!」

彼女を、さおを見たとたんに、息が止まったんじゃないかと思った。心臓のあたりに手をあててみる。
…よかった。動いてる。…って、そんなこと考えてる場合じゃねえ…!

「りゅう!」

さおが走ってくる。長い髪を風になびかせて。
そして、俺に抱き着いた。やばい、やばいぞ。

「……ごめんね」

さおは泣いているのか?声が震えている。
俺の胸に顔を伏せたってさおのことはわかる。…わかるはずだ。

「…りゅう?」

さおが三度目の俺の名前を呼んだとき、我に返った。俺は固まっていたことに気付いた。
やべえぞ、腕が、動かねえ。
さおの顔が見れない。これは、極度の緊張ってヤツか?

「…ふふっ、ねえ、りゅうってば!ヘンな顔しないでよ〜」

さおはひとりで笑っている。そして俺の背中に回した腕をほどき、俺の前に姿勢よく立った。

「久しぶりだね…」

「…おぉ」

さおと久しぶりに交わした言葉は、ぎごちない相槌となってしまった。情けない。
俺は今、さおを目の前にして緊張している。たった二週間会ってないだけなのに、一年ぶりに再会したような感じだ。
こういう場合、男らしく抱きしめてやるのが彼氏の役目だろう…と、頭ではわかっているのに身体が動かない。
手が早いとか、キス以上進んでないとか、そういう問題じゃないな。
俺って実は奥手なのかも。

「りゅう、いろいろ心配かけてごめんね」

「え?」

「さおが不良の人に襲われたり、その………たっちゃんのことも」

「…大丈夫、だよ」

「さおね…りゅうに隠そうとしてたの。ごめんね…」

「いいよ、大丈夫。もう謝らないで…」

「…りゅう?」

「え?」

「なんかヘンだね。どうしたの?」

「…わかんねえ」

俺は正直に言った。

「緊張…かも…?」

言ったあとに後悔した。緊張なんて…バカだ。
情けなくて、赤面してしまった。恥ずかしい。
しかもさおは笑っている。

「ふふっ、りゅう……りゅうって、緊張する人だったっけ?」

さおは俺の顔をまじまじと見つめる。

「…あぁ〜っ!もう、やばいっ!俺の顔みちゃだめ!!」

「なんでえ、可愛いよ♪」

「そんなこと言うなっ!もう、見んなああ〜っ……」

「やだ、見ちゃう♪」

しゃがみ込んで顔を伏せた俺の頭を、さおは優しく撫でた。
やばいね、コレは。今なら死んでもいいかも。
でも俺は、まだ彼氏らしいことひとつもしてない。だからこの心臓が止まる前に(止まるわけないけど)、言ってみることにした。

「…さお」

「なに?」

「……会いたかった」

さおの顔をちらっと見た。目が合って、ニッコリ笑い返してくる。
そんな顔をされると俺はもうやばいくらいテンパっちゃうのに…。

「さおも、会いたかった」

簡単に言ってしまうんだな。すげえ。

「…なぁ、さお」

「なにー?」

「…三秒数えるうちに、目、つぶって」

「なんで?」

「いいからっ!いくぞ」

さお、悪いな…。

「いーち…」

これくらいしか思いつかないようなバカで…。

「にー…」

でも、な…。

「さんっ…」

こんなバカでもお前を愛することはできるよ………



目をつぶったさおに、俺は最高の愛を込めて……

キスを……した。

さん、と数えた瞬間に目を閉じたさおには、この考えがお見通しだってわかってた。
いいんだ。さおが、達哉が、教師達がなんと言おうと、俺はさおを愛す。それだけだから。

「……う、うわっ!さおっ!ちょ…待てっ」

「なによ?」

「なんで、そんなとこにキスすんだよ……」

「いいじゃんっ」

「よくねえ、俺の、俺の心臓がっ……」

「…ああ、速くなってる」

「…!?さわるなあっ!」

さおは俺の頬にキスしようとしてきた。慌てて拒否した。
ホントに死んじまう!

「も〜、りゅうのせいで雰囲気ぶち壊しじゃん」

「雰囲気って…なんのだよ!!」

「…続きは、家でね」

「……えっ、ええ〜っ!?」



…こうして、忍耐バトルは幕を閉じた。
このスクールバトルはあってよかったかもしれない。
だって俺達の愛は、この二週間でより一層深まったから。

                        おわり


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甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.