Blood demon


1 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:12:28 ID:xmoJm4kD

数千年前―――

すでに魔術師と悪魔の闘いは始まっていた

太陽と月のように反発し

血と骨のように引き合いながら

闘っていた――

互いに憎みあいながら

互いに恐れあいながら

闘っていた――

魔術師は平和を得るために

悪魔は恐怖を得るために

闘っていた――

長く続いた争いは魔術師の勝利に終わった

負けた悪魔たちは、自分たちの世界へと戻っていった

力を蓄えるために―――魔術師たちに復讐するために――

そして、数千年の時を経た今――

悪魔たちが再び動き出す

怒りと憎しみを持って――

のらりくらりとやってくる

人々の恐怖を得るために――


2 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:17:05 ID:xmoJm4kD

第一章 処刑

まったく、なんでオレ様がこんなところで、寝たり食ったりしなくちゃいけないんだ。
おまけにこんなところじゃ安心してトイレもできないじゃないか!
と、嘆いてみても、今この本を読んでいる諸君のやわな脳じゃ、なにがなんだかわからないだろう。よし、このオレ様が教えてやろう。オレ様の名前はアラン・モリスだ。かっこいい名前だろ? 年は15歳で……と言っても、俺は背が高く、肩幅ががっしりしているのでとてもじゃないが15歳には見えない。髪はおせじにもきれいとは言えない毒々しい赤髪のストレートだ。レンガの赤ではない。どちらかというと真っ赤な血の赤だ。おかげで街中を歩くと、みんな俺の髪を、穴が開くほど見つめるんだ。目はどんよりした緑で、ビー玉のように丸い。鼻の上には大きな傷ある。どうやらこの髪の色や目の色はクソ親父の遺伝らしい。あのクソ親父は俺が生まれたと同時に死んだ。母親も。どんな風に死んだかは知らないが。まったく根性のない両親だぜ! だから俺は写真でしか両親の顔を見たことはない。


3 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:17:57 ID:xmoJm4kD

職業は、これまたクソ親父の遺伝をついだらしく魔術師だ。普通の魔術師は、太陽や水や月や緑……いわゆる正のエネルギーをもらって魔術を使う。一般的に正のエネルギーを使うことを白魔術という。逆に俺は、人の憎しみ、苦しみ、悲しみ、痛み……つまり不のエネルギーをもらって魔術を使う。一般的に不のエネルギーを使うことを黒魔術という。別名、闇の魔術とも言う。つまり俺は誰もが恐れる闇の魔術師ってわけ。わかったか? なに? もっとくわしくだと? 時間がないのに……しょうがねえな。
率直にいうと闇の魔術は法律に違反している。白魔術より威力も大きく危険だし、なにより黒魔術は人の痛みや、苦しみをエネルギーにするからな。しかしここ何百年と黒魔術で捕まったものはいない。というのも黒魔術は、魔力が強いからこそ、並大抵の魔術師では使えないほど呪文が複雑で難しい。しかも計り知れない体力と精神力を要する。おまけに呪文の発音や単語を一つでも間違えると、魔術を引き出している異世界への、進入を防ぐ役割をしていた膜が威力を失い、異世界へと引きずりこまれてしまう。そうなると二度とこの世に帰ってこられない。今まで何人もの人が黒魔術の魅力に魅せられ、挑戦をこころみたが、ほとんどの人が失敗に終わり異世界へと引きずりこまれていった。
ある日のこと、人々が恐れていた事態がとうとう起きてしまった。三十年前。一人の若き天才魔術師が数百年ぶりに黒魔術の使用に成功した。そいつは巧みに黒魔術を使用し全世界の人々を恐怖のどん底に突き落とした。白魔術を使う普通の魔術師では対抗できないほどの、強力で邪悪な黒魔術を使って……。そいつが向かった先々では、恐怖に喘ぎ、恐れおののき、助けてと泣き叫ぶ声が響き渡った。世界は恐怖に震えた。この悪魔を止められるものはいない。世界は滅びるのだ、と言う者まででてきた。それくらいその男の力は強かった。男は世界を征服せんとばかりに、次々に国々を荒らしていった。その姿は血に飢えた獣にしか見えなかった。彼の行く先々で血は流れ、人は無残に殺されていった。みんな諦めかけていた。この男に世界をのっとられるのも時間の問題だと。しかし、神は世界を救った。彼は突然いなくなったのだ。
跡形も残らずに。突然に前ぶれもなく……。理由はわからないが、呪文を間違えて異世界に引きずりこまれていった、というのが大方の意見だった。
こうして人々に平和は戻った。人々は喜びに涙を流し、「神は我々を見捨てなかった」と歓喜の声を上げた。民衆は酒を片手に意気揚々と鼻歌を歌い、「黒魔術なんて怖くない!」とうかれていた。みんな歓喜に酔いしれていた。そいつが死んだと同時に残した、置き土産には気づかずに……。思い出してくれ。俺は黒魔術師だ。そしてこの才能は父ゆずりだ、と。つまり置き土産とは、三十年前世界を恐怖の底に、突き落とした魔術師の息子である俺だ!もちろんそんなすごい魔術師の息子だから、多かれ少なかれ才能を受け継いるってわけだ! すごいだろ?今の時代に、黒魔術を使いこなせるのはきっと俺だけだろう。


4 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:21:37 ID:xmoJm4kD

おっと、言い忘れていたな。俺が今いる場所を……。外から見ると、ロンドンの灰色の空にぴったりな水色のシンプルな、三十階建ての塔。通称「スプリン塔」。この塔は、罪を犯した囚人たちが、罪をつぐなうための場所。つまり監獄所ってとこだな。とは言っても、万引きしたくらいじゃこんなところへは連れてこられない。スプリン塔は、重い罪を犯した者が来る場所。噂ではこの塔に入ったら最後、生きては出られないと噂されている。そして、俺も今スプリン塔にいる。もちろん囚人として……。
俺はこの塔の最上階にいるはずだ。この部屋には俺以外囚人は誰もいない。ほかにいるのは、部屋の四隅で、俺を見張っている、やとわれ魔術師4名だけだ。灰色の冷たいコンクリートでできた小さな部屋。ほんとになにもない灰色の部屋だ。モネの絵画の一つでも置けば、雰囲気は違っただろうに。まったく、今の政府の魔術師どもはよっぽど頭が固いな! そんな小さな部屋の真ん中でんと居座っている透明な物体。これが俺が入っている牢屋だ。この牢屋は魔術師専用の牢屋で、透明で、プヨプヨとゼリーのように丸い物体なのだが、どんな魔術を使っても壊れないという代物だ。もちろん黒魔術を使っても無駄ってわけ。しかもこのクソ牢屋は俺のエネルギーも奪うように作られているため、たとえ黒魔術でこの牢屋が破れるとしても、エネルギーを失ったへろへろな俺の魔術じゃ、牢屋をやぶるどころか、虫けらさえ殺せないだろう。ちなみに言っとくが、牢屋の居心地はとてつもなく悪い! 宇宙にいるかのように体はふわふわと浮くし、外の景色がゆがんで見えるし、なにより狭い! 身動き一つとれないぜ。せめてソファでもつけてくれれば……え? そんな戯言はいいから早く話を進めろ? はいはい、わかったよ。


5 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:23:08 ID:xmoJm4kD

なぜ俺がこんなところにいるかというと……当たり前だが、罪を犯したからだ。
一つは黒魔術の罪。これは使っただけで重罪を課せられる。黒魔術は存在自体が罪だからな。まず死刑はまぬがれないだろう。普通の人間は「死刑」という言葉を聞くと背筋が寒くなるだろうが、俺はどうってことない。俺は生まれた時から黒魔術しか使えないから、いずれ捕まって処刑されることは、最初からわかっていた。だから今では、堂々と死んでやるぜと、肝まですわっている。
そして二つ目は、黒魔術を使用するさえのエネルギーの確保による罪。簡単に言うと、殺人だ。さきほども言ったが、黒魔術には、人間の悲しみや、憎しみ、苦しみや痛みをエネルギーにする。しかし、人間は、いつも悲しんだりしているわけじゃないから、俺は「殺し」という手段でエネルギーを得ることにしたんだ。人を殺せば、痛みと苦しみが生まれる。俺を憎む気持ちも生まれる。そして、殺された人の家族には悲しみが生まれる。どうだ!俺って天才だろ!殺すことによってこんなにもエネルギーをもらえるんだから。
俺は、初めて人を殺した時の感覚を今でも覚えている。あの快感はそう忘れられるものじゃない。血走った目をかっと見開き、すさまじい叫び声をあげ、痛みに顔をゆがめ、のたうち回る……。魔力をこめ、指先を鋭くした手で、はらわたに届くようになんども刺した。何度も何度も・刺すたびに、ぐしゃっという卑劣な音と、叫び声が重なって……。今思い出しても背筋がぞくりとする。いつしか俺は、エネルギーをもらうためではなく、一つの楽しみとして、「殺し」にハマっていった。


6 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:23:51 ID:xmoJm4kD

「人殺し」という最高の遊びを得た俺は、あの街やこの街を転々と渡り歩き、手当たり次第に人を殺した。そう、俺の父がしたように……。俺はどの街へ行っても、騒ぎを起こし、人を殺しまくった。人を殺すたびに民衆から恐怖と憎しみのこもった目で見つめられた。俺はそれが愉快でたまらなかった。人を殺していたときの俺の目はらんらんと輝いていたに違いない。
今でも俺の記憶に強く残っているのは、ロンドン郊外の田舎町で行った大殺戮。あの時の快感は今も色濃く残っている。田舎町特有の、ゆったりとしたのどかな午後のことだった。主婦は洗濯を取り込み、めったに車の通らない道路では、子供たちが遊んでいる。老人はやわらかな風を全身のあびながら、散歩をしている。そんなどこにでもある田舎の光景。しかし俺が来たことでのどかな雰囲気は一変し、恐怖と痛みにまみれた地獄と化した――。そこらに転がる頭。俺はそこらに転がる頭の一つを使い、サッカーボールのようにして遊んだ。足をもぎとられてもなお、逃げようとする子供。断末魔の叫びを上げながら死んでいく男。ちらばるはらわたにつまずく老婆。脳みそをとかされ、わけのわからない言葉を発している主婦。左腕をもぎとられ泣きじゃくる少年。周囲は恐れおののき、わめきながら俺から逃げる。しかし、地面が血の海に染まっているため、つるつるとすべりそう簡単には逃げられない。ここは一瞬にして地獄と化した。俺は、恐怖に顔をゆがめる人々の顔を見ては、げらげらと笑い転げた。そしてひたすら人を殺していった。
殺すたびに、俺は人間としての情が失い、獣に近づいていった。気が付けば魔術師でもなんでもない、ただの獣になっていた。俺の心は完全に冷え切っていた。
 そして今日は、俺の処刑の日。俺の十五年の短い人生に幕が下りる日――。


7 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:26:09 ID:xmoJm4kD

アランのいるスプリン塔から五キロほど離れた、首都ロンドンでは、三十分後にアランの公開処刑がはじまるとあって、だんだんあわただしくなっていき、空気も張りつめてきた。処刑場の近くの駐車場には、政府関係者のリムジンをはじめとする車が、次々に押し寄せ大混雑していた。処刑場にはすでに、一般人をふくめる数千人の民衆がかけつけ、すし詰め状態となっている。これほど人が来てもおかしくはない。なにせ処刑されるのは、史上最悪の闇の魔術師デイビス・モリスの息子、アラン・モリスなのだから。父親譲りの瞳と髪の毛……。そして父親をはるかにしのぐ黒魔術の腕前。アランが起こした事件の凶悪さは、デイビスが起こした事件を勝るほどだ。
 万が一のことがあってはいけないと、五百人体制で、処刑場の回りに魔術師を配置したものの、民衆のあまりの多さに身動きがとれないらしい。これでは配置した意味がないと、民衆を睨みつけため息をつくバージェス。
ロンドンの魔術政府首相であるバージェスは、このところ処刑の準備で大忙しだった。自慢のオールバックの髪も脂汗でギトギト。着替える暇もなく着続けた灰色と黒のスーツは、動きすぎでよれよれ。運動もろくにできずに仕事していたので、わき腹はたるんでいる。いくら歴代の首相の中でも最強の魔術を誇ると言われていても、これではどこをどう見ても、居酒屋で愚痴を言いながら飲んでいる、不健康なおじさんにしか見えない。
しかしいくら嘆いてもしかたがない。私にはまだやらなければいけない仕事があると、ほおをパンパンとたたいて身を引き締め、処刑台の横にある首相席に座った。今から、いろいろと報告を聞き、まとめ、そしてアランの処刑方法を検討するのだ。処刑は例外なく、首相直々の魔術によって行われるのだ。


8 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:27:31 ID:xmoJm4kD

首相席を丸く取り囲むように、いすが五個並べてある。首相の右に座っているのは、小太りで背が低く、丸い鼻をした情報大臣のロック。左に座っているのは魔術大臣のジェイニー。ジェイニーは茶色のふわふわとした長い髪が特徴で、いつも優しい笑顔をたたえている。そのデビーのとなりに座っているのは、環境大臣のジョン。ジョンは十八歳という異例の若さで環境大臣に昇格した今もっとも輝いている政府の一人だ。髪は真っ黒でツンツンとたたせ、いつも耳をいじくっている。そしてジョンのとなりの席には、治安維持大臣のバナスが座り、ジェイニーのとなりには、ロンドン塔の責任者であるローガンが座っていた。
「死刑囚がここへ到着するまで、残り30分を切っています。死刑囚の健康状態は少しやつれてはいるものの、良好だそうです。楽しいショーができますね」
と、丸い鼻をした情報大臣のロックが、ぞっとするような笑みを浮かべる。首相がふむ、とうなずくと、環境大臣のジョンが髪をいじくりながら、小うるさい民衆に負けまいと、声をはりあげた。
「首相!どんな魔術で処刑するのか早く考えないと!死刑囚が到着しますよ!早く!」
まだ時間はあるわ、と魔術大臣のジェイニーがジョンをなだめる。そして、首相のほうへと向き直った。
「首相。ここ数百年の処刑では、『蟻地獄』や『締め付けの魔法』などが使われています。あ!『火炎の呪文』なんかもいいですね」
そう言って、ジェイニーはにっこり微笑む。バージェスはその笑顔を軽く受け止めると
「では……『火炎の呪文』でどうでしょうか?」
と、ほかの大臣たちに問いかける。すると治安維持大臣のバナスが、静かに反論した。
「それぐらいの魔術じゃ死刑囚は死なないかもしれませんぞ。なにせあいつはデイビスの息子です。もっと強い魔術にしないと……」
「時間がない!あと十分だ!」
と、ジョンが腕時計を指差し、あわただしく叫ぶ。
「では……『死のコンパス』でどうでしょう。これくらいの魔術を使わないと、政府の面目もたたないですしね」
ロンドン塔責任者のローガンの意見に、首相以外のみんなが賛成した。
「しかしその術はものすごく体力を使う。このような曇り空では、太陽のエネルギーを吸収することはできないし……」
と、バージェスが口ごもると、丸鼻のロックがぴしゃりと言った。
「この処刑場の回りには木々がたくさんあります!それにもし足りなければ我らのエネルギーをわけあたえればいい!もう時間がない!それで決定にしましょう」
そうだそうだ、とみなが口々につぶやく。バージェスはしぶしぶ了承した。
「わかった。では処刑方法は『死のコンパス』にする」
バージェスのその言葉と同時に、雨が降ってきた。地面を打ち付ける激しい雨。民衆はキャーキャーとわめきながら、処刑場をかこむ木々のしたに駆け寄った。大臣たちはみな、魔術で透明のバリアを作り、雨をしのいだ。そして、警備を整え、民衆を落ち着かせるためにと、大臣達は霧かすむ向こうへと消えてしまった。ここに残ったのは、バージェス一人。


9 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:28:50 ID:xmoJm4kD

バージェスは少しでも魔力を温存しておきたいため、透明なバリアは作らなかった。そして、今のうちにエネルギーを取り込んでおこうと思い、姿勢を正し目をつぶった。そして周りにある木々に意識を集中させる。木々の中の中まで意識を飛ばし、エネルギーを見つける。木々の魔力はとても温かい。それをバージェスは自分の中へと取り込んでいった。どんどん取り込んでいく。雨に濡れているというのに、みるみる体が温まる。そして全て取り込み終えると、汗をびっしょりとかいていた。体が熱い。今ならなんでもできそうな気がする。その気になれば魔力で空を飛び星さえつかめるだろう。
突然稲妻が空を走った。続いて、唸るように低い雷の音が辺りを包む。まるでアランを殺すな、と怒っているようだ。しかしこのくらいの雨では、中止にはならないだろう。ふと、アランはもうこちらに到着しているのだろうかと思い、まわりをみわたしてみたが、周りには蜂のようにぶんぶんと騒ぐ市民しかいない。
アランを助ける方法はないか、最近気づけばこれしか考えてないような気がする。本当に助ける方法はないか? あるわけがない。アランは犯罪者だ。しかも重罪人だ。数え切れないほどの人を殺している。死んでも償えない罪だ。しかもアランは、デイビスの遺伝を色濃く受けつぐ闇の魔術師だ。しかし、中身は少年。十五歳の少年なのだ。しかも両親がいない孤独な少年。両親の愛を知らずに育ち、毎日を孤独に過ごしたアレン。そんなアランが、こんな風になってしまったのは、当たり前の結果ではないのだろうか? アランがそんな風になってしまった責任は、我ら大人にあるのではないのか? しかし、いくらそう思っていても、アレンの罪は軽くはならない。いくら自分が首相だからって、アランの罪を軽くすることはできないのだ。
いや……まてよ。こっそり助ければいい……。そうだ! あの魔術を使えば……リスクを伴うもののアレンのためならかまわない。これがアレンを救うなら……自分の命を差し出したってかまわない……。バージェスは一人満足げに笑みを浮かべた。


10 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:31:54 ID:xmoJm4kD

いきなり民衆が騒ぎたてているのが耳に入った。罵声や怒声が次々に飛び交い、一点をめがけて、空き缶が投げ込まれている。どうやらアランが到着したようだ。民衆の興奮は最高潮に達している。ぎらぎらと目を輝かせ、これから始まる「処刑」というおぞましいショーに、胸を躍らせている。
目を凝らしてみると、処刑台から五十メートル離れたところに、一台の車が止まっている。その車からおりてきたアランを見たとたんぞっとした。血のような赤髪はもつれ、顔は傷だらけ。服はあちこち破れ、やつれきっている。まるで生ける屍だ。そのアレンの細い腕に手錠をかけられ、二人の魔術師に付き添われながら、こちらの台と、向かい合う形で設置されている処刑台へと向かっていく。
「首相、死刑囚が到着しました。いよいよこのときがきました。さあ、処刑台の上にお立ち下さい」
と、興奮した面持ちで首相に声をかけるカーネル。カーネルはバージェスの補佐官だ。つまり首相補佐だ。カーネルの声で私はしぶしぶ台の上にあがった。カーネルは二十歳という異例の若さで私の補佐になり、そのさらさらの金髪といい、甘いマスクといい、くやしいが私よりも人気がある。バージェスが台に上がったと同時に、アランも処刑台の上に上らされた。ちょうど向かい合う形になった。アランが必死で抵抗する姿がはっきりと見える。
台の上に上がってみるとざわめく民衆を必死に静めさせている部下たちが見えた。
ふと上を見上げると、まるでハヤブサのように雲を切る雷があちらこちらに見てとれる。この雷と《雷雨の呪文》はどっちが強いのだろうと、どうでもいいことを考えてしまい、口のはしをつりあげて笑う。


11 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:36:04 ID:xmoJm4kD

バージェスがせきばらいをすると、一人、また一人と口をつぐみこちらを向く。そしてこの場は完全に沈黙の場と化した。バージェスはこの沈黙に飲まれないように、冷や汗を拭いた。民衆はバージェスを、固唾を呑んで見守る。バージェスは練習してきた言葉を、感情をこめずに淡々と述べた。
「諸君、いよいよこのときがきた。長年我らが待ち望んできた瞬間がもうすぐ訪れる。我らはこの悪魔の登場で恐怖にあえぎ、怯えと闘う日々を送ってきた。それも今日で最後だ!ジェシカ様万歳!」
と言い終わると同時に、民衆が、大喜びでさわぎだし、首相!首相!ジェシカ様!ジェシカ様と大騒ぎしている。ジェシカ様とは古より伝えられしイギリスの守護神、平和の神だ。すべての魔術を操ることができ、また、全ての魔術の威力を無に帰す力を持っているとされている。国会議事堂の前にはジェシカ様と、その息子の神であるゼリス様の像がおいてある。
 バージェスは民衆から目をそらし、アランのほうをむいた。民衆もいっせいにアランを見つめる。アランは表情一つ変えずこちらを見つめている。死の恐怖を感じないのか? 表情を見る限りはわからない。バージェスはアレンにたたみかけるように言った。
「アラン君。君には失望したよ。ここまでの罪を犯して、お詫びの言葉もないなんてね。まったく残念だ。君の人生はこれでゲームオーバーだ。君には、いままで自分のしてきたことを、償いながら死んでもらうとしよう。まぁ、死んだところで全ての罪が償えるわけでもないがね」
 その言葉に民衆から再び拍手の渦が巻き起こる。しかしバージェスは気にせずにこう続けた。
「まったく……この世にこんな子供がいたと思うと、ジェシカ様に申し訳ないと思う。君も知っているだろう、平和の神ジェシカ様。この国誰もが知っている伝説の神だ。君には処刑前、ニ、三分でいいからジェシカ様を見習って死んでほしいものだ。さて、処刑の前になにか言い残したことはあるかね?」


12 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:37:23 ID:xmoJm4kD

まるで人を見下すようなバージェスの言葉に、アランは怒りのあまり顔が真っ赤になった。ジェシカがなんだ、あんなのただのおばさんじゃねぇか。おれの方が百倍強いぜ。稲妻もアランに味方するように、するどく走り、雨がはげしく地面に打ちつける。
おれは怒りに身を任せ、付き添いで台に上がっていた二人の魔術師を、口から魔術で作った毒ガスを吐き出して強引に押しのけ、このやわな手錠を軽々と引きちぎった。そして捕まえようとする数人の警備員と政府の魔術師どもの動きを、お得意の黒魔術《大蛇の鎖》を指から放ち、見事に封じてやった。魔術師共は黒と赤の毒々しいへびに首を巻きつかれ、苦しそうにあえいでいる。いくら政府のやつらでも、黒魔術の呪文の解きかたまでは知らないらしい。よし、と心の中でガッツポーズをして、首相の乗っている台を目指して民衆を押しのけて進む。
そう、どうせ俺はここで死ぬ運命なのだから、どうせなら憎き宿敵バージェスも一緒に道連れにしてやろう、って寸法だ。民衆は俺の動きに気づきふいにざわめきはじめる。そして、俺が逃げ出そうとしている、と思い込み恐怖の声が次々に上がった。つんざくような金切り声が当たりを包み込む。
ふいに首相が俺めがけて、白い小さな球を三連発放ってきた。この球にあたるとひどい水ぶくれになっちまう。だが、俺はすばやく体全体に、透明の防御膜をつくりでさえぎってやった。白い球は防御網に当たると、はじけて飛び散り、周りの民衆にふりかかった。球の残骸が降りかかった人々は、そろって風船のような水ぶくれになってしまった。
俺はお返しとばかりに、残ったエネルギーをかき集めて、バージェスに向かって空を飛びながら、空中で炎を放った。よしクリーンヒット! これでバージェスが炭に――だが喜ぶのはまだ早かった。バージェスは両腕を、熱を通さない鎧にして、顔覆い炎をすべてわきにそらしていた。クソ! もうちょっとだったのに! 空の上から憎憎しげにバージェスをにらみつけた。
よし。そっちが鎧ならこっちは剣だ! 俺は両手両足を剣のように固く鋭くした。クソバージェスの白魔術で作ったやわなよろいを打ち砕くほど、強い剣だ。そして、ものすごいスピードでバージェスのほうへ急降下した。風もうらやむほどのスピードで。そんな俺の様子に気づいたのか、バージェスは防御膜を張った。そして、さらに腕のよろいを強化する。
バージェスの周りにいた大臣たちも、民衆どもに防御幕を張り終わると、俺へと目を向けぎょっとした。なにせ俺はものすごいスピードで、バージェスにつっこんで行こうとしているからな。大臣たちは首相が張った防御膜をさらに魔術で強くし、俺に向かっていろいろな魔術を放ってきた。茶色の髪をした女大臣が、何千本もの針を飛ばしたかと思うと、黒髪の若い大臣が、雷を落とす。しかし、そんな弱い白魔術など俺に効くわけもなく、全て防御膜ではじき返した。大臣たちがはでに毒づく。
そしてすっかり青ざめた顔のバージェスに、にやりと笑って、そして真正面からつっこんでいった―――。魔術と魔術がぶつかる時に発するすさまじい音。耳をつんざくような、それでいて爆発のような音が辺りに響き渡る。俺はバージェスたちが張った防御膜を軽がると突破し、懇親の力をふりしぼってバージェスに剣をつきつけた。しかし、さすがは首相だ。さらに腕の鎧を強くし、俺を押し戻そうとする。台の上でにらみ合う俺と首相。民衆はさきほどまでの恐怖をすっかり忘れ、今は俺らの様子を固唾を呑んで見守っている。誰も動かない。大臣たちもだ。俺たちのレベルを超えた戦いに見とれている。
なにも聞こえない静寂の場。聞こえるのは俺とバージェスの荒い息だけ。


13 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:38:12 ID:xmoJm4kD

ふいに、バージェスが鎧をといた。体力に限界がきたのか?俺は内心ガッツポーズをし、心臓を一突きしようと狙いをさだめ―――激しく悪態をついた。くそっ!バージェスは俺が刺す前にさっと空へと舞い上がった。俺も舞い上がろうと思ったがやめた。エネルギーが残り少ない。空を飛ぶだけのエネルギーはもうない。地上から攻撃したほうがよさそうだ。
俺は早口で呪文を唱えた。そして口から緑色の糸の網をバージェス向かって吐き出した。黒魔術がこもっている、特性の網で巻きつかれたものは瞬時にして、骨と化す。バージェスは、なにか呪文を唱えている。ものすごいスピードで向かっている網に気づく様子はない。どんどんバージェスにせまっていく網。民衆達が、危ないと叫んでいても気づく様子はない。よし!もう少しだ! と、俺がにやりと笑ったとたんバージェスはかっと目を見開き、腕を横にふった。すると網はぼろぼろに崩れ地面に落ち、俺の中に残っていたわずかなエネルギーが、ぱっとなくなってしまった。くそ! あいつは、俺のエネルギーを吸い取る魔術を使ったらしい。俺はもう立つ体力もなくなり、その場にへなへなと座り込んでしまった。民衆が歓喜に叫ぶ。大臣たちもたがいに抱き合い勝利の喜びをかみしめている。俺はというと、数分後に訪れるであろう死への恐怖に、唇をかみしめていた。


14 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:40:08 ID:xmoJm4kD

「お静かに」
とバージェスが怒鳴ったが、なかなか収まる様子がない。もう一度バージェスが声をはりあげる。
そのとき俺は、バージェスの横に座り込んでいた。さらにバージェスがつけている香水の匂いがきつすぎて、今にも鼻がひん曲がりそうだ。
「さて、最後にこの死刑囚アランの言葉を聞いてあげようじゃないか。最後くらいアランからの謝罪の言葉が出るかもしれないぞ」
と、これがみよしに会釈をし、ゆっくりと台を降りた。台に取り残された俺は、民衆の一人ひとりの瞳に吸い寄せられていた。俺への憎しみをあらわにする人。十五歳という若さでこの世を去ろうとする俺に哀れむ人。いろいろな視線が飛び交うなか、俺は人生で初めて恐怖を覚えた。『死』と言う恐怖……。俺はここから逃げる方法を回らない頭で必死に考えた。そこで俺はゆっくりと立ち上がり、なにか話すことにした。
「政府のみなさん。遺族のみなさん。一般市民のみなさん。今回俺の処刑に立ち会ってくださってありがとうございます」
 もちろん皮肉だ。こう長々と話していると、奴らにすきができて逃げられるかもしれない。
「おれはこんなことをして、市民のみなさんに多大なる恐怖を味合わせたことを、深く後悔しています。この罪は処刑という形で、つぐないたいとおもっています。本当に申し訳ありませんでした」
 と、一見申し訳なさそうにしているが、内心毒づいていた。くそっ、政府のやつら油断もすきもあったもんじゃねえ。さきほどの騒動から早くも立ち直ったらしく、魔術師たちが処刑場を囲むように配置されている。こうなったら強行突破か。しかし、エネルギー切れで黒魔術が使えない今の俺は、ねずみ一匹も殺せないだろう。
おれがぶつぶつと考えていると、ふいにバージェスがまた台に上がってきた。そして感想を一言述べた。
「ここへきて、ようやく謝罪の言葉がでたか。よし、もう言い残すことはないな。さあ処刑の準備を始めよう」
 そう言うと、バージェスはこれがみよしに俺にウィンクをした。その顔を見るとなにかたくらんでいるような表情だ。一体なにをたくらんでいるんだ?
その時、とんでもないことが起こった。俺は驚きのあまり、口をぽかんとあけてその光景を見ていた。俺でこれだから、民衆なんか凍りついちまっている。なんと民衆の一人がこぶしひとつでこちらに突進してきたのだ。素手でオレ様にむかってくるなんていい度胸だと、拍手をおくりたいくらいだ。あくまでも皮肉で、だが。
「この大犯罪者!覚悟しろ!」
 まぁ、魔術をもっていない一般人一人相手なら、あざ笑って終わりだが、どうやら笑っていられそうにない。
なんと、いきなり飛び出した一般人に刺激されたのか、民衆のほとんどが、待っていましたとばかりに、こぶしを振り上げこちらにむかってきたのだ。しかもその中にはライフル銃を隠し持っていたやつらもいて、俺めがけて弾を放ってくる。その弾は俺のほほをかすめただけで大きな怪我は負わなかった。


15 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:40:57 ID:xmoJm4kD

バージェスをはじめとする大臣たちは、民衆をなだめようと必死になっているが、暴徒と化した民衆を止める手立てはない。俺は台の上で、荒れ狂う民衆たちを力なく見つめていた。
魔力を持った民衆の一人が空気砲を放ち、防御網も作れない俺に命中する。俺は数メートル先に吹き飛ばされてしまった。痛みにうめくひまもなく民衆たちが次々に俺に襲いかかってきた。誰かがオレの髪の毛を引っ張った。それを合図に次々にこぶしが振り落とされた。ほほにパンチをくらう。男が俺の腹の上にのりピョンピョンと跳ねる。俺は痛みのあまりうめき声を上げた。女が俺の首をしめたかと思うと、子供が俺のすねを蹴る。俺はなすすべもなく、ぎゅっと目をつむって痛みに堪えた。誰かがナイフを取り出し、これがみよしに振り回してから、俺の腕の肉をそり落とし始めた。すさまじい痛み。俺は声を出すまいと必死に堪えていたが、あまりの痛さに声を上げずにはいられなかった。剣を持っていた男が俺の両足をすぱっと切断した。とてつもなく痛い。体がふるえる。歯をきつくかみしめた。死にたい。早く殺してくれ。しかし市民たちは俺をさんざん痛めつけ、苦しませてから殺す気だろう。誰かが絶叫している、と思ったら自分の声だった。腹を刺された。何度も何度も――。堪えられぬ痛み。自分で自分をおさえられない。口をカッと開く。ナイフがはらわたへ伸びる。何本もの手が俺の中でうごめき、はらわたをひきぬき、体をひきさく。もだえ苦しむ、おさえられない、すさまじい死の叫び。


16 :麗汰 :2007/04/07(土) 22:41:47 ID:xmoJm4kD

政府のやつらは民衆を止める気配を見せない。民衆たちが暴れてくれれば、処刑する手間がはぶけて楽だ、とでも思っているのだろう。
あぁ、この世界にいられるのはあと何秒だろう。民衆たちは飽きることなく俺を痛めつけるが、もうほとんど痛みを感じない。神経をめった刺しにされたからだろう。あぁ、もうすぐあの世へ行ける。行ける、行けるぞ――痛みのないあの世へ―――。
突然恐ろしく低い声が、台の上から聞こえてきた。あの世へ向かおうとしていた俺は、この声のせいでまた現実に引き戻されてしまった。ぐちゃぐちゃにされた耳で声を聞き取ってみると、なにかの呪文を唱えているようだ。ものすごいスピードで唱えている。こんなにも複雑で難しい呪文は聞いたことがない。一体誰が?なんの呪文を?荒れ狂っていた民衆たちも、この声にようやく気づき、一人、また一人と手を止めていく。
「そこをどけ!」
突然、怒鳴り声がした。この声は……バージェス? 民衆は、バージェスが俺にとどめをさしてくれると思って、さっと道をあけた。俺だってそう思っていた。バージェスは呪文を全て唱え終えると、指先から青白い光線を放った。光線が俺の体を包み込む。俺は声にならない声を上げ、ぼろぼろの腕をばたつかせのたうちまわった。体が熱い。焼けるように熱い。肉がやけただれているのか? 息ができない。のども熱い。苦しい。水が欲しいと、すがるような目で周りを見渡す。誰かがはっと息をのんだ。
「さぁ、これは私があげる最後のチャンスだ。君に神のご加護があらんことを!」 
バージェスはそう言って、豪快に笑った。
さきほどまで焼けるように熱かった体が、嘘のように冷えていく。寒い。凍え死にそうだ。体にとてつもない重さがかかった。地面にのめりこむくらい重い。バージェスが短い呪文を唱えた。
次の瞬間、俺を襲っていた冷えと重みはなくなり、おれは誰もしらない闇へと堕ちていった。
暗い、暗い、闇―――。誰もいない黒白の世界へと堕ちていった―――。


17 :麗汰 :2007/04/07(土) 23:43:44 ID:xmoJm4kD

ゲストを呼んでトーキングコーナー!!!(ぇ

麗汰「さぁて…今回のゲストは…もちのろんで…主人公のアラン君やでえb笑」←ハイテンション

アラン「あ?ここどこだよ……。つかお前が作者かぁ。チビだなぁ」←馬鹿正直

麗汰「なっ?!チビちゃう!!涙 俺はこれから伸びるんや!」

アラン「へぇ」←興味ナシ

麗汰「こ……この野朗!!怒 ぶっ殺すぞ!!」←感情的

アラン「ハッ!一般人がこの俺様に勝負を挑むとは…いい度胸だな!どうぞ、かかってきな!」

麗汰「ウォォォォ!!!(素手で殴りかかる」

アラン「ふん。(すばやくかわし、魔力のこもった腕で殴る」

麗汰「ぐふッ(吐血)チーン(死亡」

アラン「俺の勝ちだな!笑」

この勝負、アランの勝ち

麗汰「は…い。そ…それでは…ぐほッ(吐血)次回の説明…アラン様どう…ぞ(死」

アラン「ふん。笑 次回から本格的に物語が始まっていくぜ!俺は無の世界に連れていからて、そこである試練を課される。その試練とは…(にや)乞うご期待!」

麗汰「ありがとう…ございまし…た…ぐほッ(吐血)次回から、おぞましく、血に飢えた悪魔が登場します!アランの華麗なる魔術にもご期待ください!」


18 :麗汰 :2007/04/08(日) 20:04:04 ID:o3teWkQJ

第二章 無の世界

永遠と回り続ける。ぐるぐるぐるぐる……回り続けるといっても、体はない。顔もない。感覚も、痛みも、なにもない。あるのは己の意思と過去の記憶だけ。この世界は色もない。黒もなければ白もない。音もない。生き物も、花も、森も、空も――。本当になにもない世界。ただ自分の意思だけがぐるぐると渦巻いている。
自分がどこにいるのか見当がつかない。たぶん死んだのだろう。そう、ここは『無』の世界。生きることの許されない『死』の世界なのだ。
ちっ、ひまな世界だな。おれはほかにすることがないので、バージェスが最後に言っていた言葉について考えることにした。
『これは私があげる最後のチャンスだ。君に神のご加護があらんことを!』 
この言葉が、飽きることなく俺の意思に響き続ける。なんだって?普通意思じゃなくて頭に響くだろって?だから、さっきから言うように、俺は今頭がないんだって! だから意思に響いたんだよ。
それにしてもこの言葉…どういう意味だろう。最後のチャンスだと? 笑わせるな! なにがチャンスだ。わざわざこんなところにつれてきやがって! おれはすなおに天国にいきたかったのに。天国に行けなかったとしても、ここへ来るより地獄のほうがまだマシってもんだ。
しかしチャンスということだから、おれはまた生き返れるチャンスがあるってことか。この世界で永遠と過ごせってことじゃないだろうな、と考えたくもなかったことを考えて意思の気が引く。(正確には血の気だが、なにせ血がないもので……)
そんなことはありえない、と自分で自分を否定する。いや、やっぱりまさか…いや、ぜったいちがう! 俺はいやな気分をふりはらって、意思の力で再びまわりを見わたしてみた。ここへきて何分たっただろう。いや、何日か。もしかしたら、何年もたっているのかも。ここは時間の感覚がない。昼もなければ夜もない。さきほどから周りの景色が全然変わってない。本当につまらない世界だ。
おれはふと、子供じみたことをしたい衝動にかられた。よし、体をつくってみよう!多分できないとは思うが、やってみるにこしたことはない。おれはまず、自分の体を思い浮かべた。
血のように赤い髪に、ビー玉のように丸い緑の目。筋肉がもりあがった肩に、少しがに股な足。そして、脳や骨、臓器や血管を思い浮かべる。よし、完璧だ。さて……思い浮かべたはいいが次はなにをしよう?俺はとりあえず、念じることにした。体出て来い。体出て来い。と、念じてみるが出てくるはずがない。それでもあきらめずに、おならが出るくらい念じた。体でてこい……体でてこい……体でてこい……。するとどうだろう。みるみるうちに、布のようなやわらかいものが渦を巻き始め、体が作られているではないか! これにはとてもおどろいた。何事も挑戦は必要だな、と改めて思う。
しかし、俺はふいに意思をしかめた。(本当は顔をしかめた、なんだが…。なにせ顔がないもので……)
生前の体とくらべたら、腕と足は棒切れのようで、頭は粘土を丸くこねただけのような無様な形。首なんか、いまにも折れそうなくらいぐらついている。これでは、とてもじゃないが人間には見えない。俺は、もう少しどうにかならないものかと、しこうさくごを繰り返したが、あまり代わり映えはしなかった。
俺はしかたなくこのブサイクな人形の中へと、入っていった。入った瞬間、うっときた。居心地が悪すぎる! あまりの居心地の悪さに、うめき声を出そうとしたが、なぜか出なかった。声帯を作り忘れたのだ。しかたないので、俺はとりあえず体を動かしてみた。手始めに腕を動かしてみたが、脳の命令が腕に伝わるまで数秒はかかり、のっそりとしか動かない。歩くにしても、体がぐらぐらと左右にゆれ、一歩一歩がたよりない。これでは赤ん坊にも抜かされるではないか!俺は冗談じゃないと、一生懸命歩く練習を繰り返した。数分すると、慣れてきたのかいくらかスムーズに歩けるようになった。それでも、象と徒競走をしたら、間違いなく俺が負けるだろう! 
さて、いくらか歩けるようになったところで、次は何をしようか。俺は回転が遅い頭で必死に考えた。とりあえず、この世界のことを知る必要があるな。よし、探検だ!
そして俺は、おぼつかない足どりで進んでいった。


19 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:23:53 ID:ommLPnze

そのころ処刑会場は、異様な雰囲気に包まれていた。なぜかアランは消え、バージェスは死んだ。台の上で眠るように死んでいるバージェスがいやでも目につく。首相補佐のカーネルはただちにバージェスの遺体を運ぶように部下に命令した。そして、混乱する民衆をなだめ帰宅するように促した。民衆はわけがわからないといった面持ちで帰って行った。
 そして処刑場に残っているのは、警備をしていた五百人の魔術師と、大臣と、カーネルだけとなった。
 「一体なにが起こったんだ?なんで……死刑囚がいなくなったんだ? なんで……首相は死んじゃったんだ?」
 と、黒髪の環境大臣ジョンが耳障りな声でわめきちらし、先ほどまでバージェスの遺体があった台のそばを、行ったりきたりしている。ほかの大臣たちもジョンと同じことを考えているのだろう。みんな途方に暮れた顔をして、腕を組んだり、頭を抱えたりして、考え込んでいる。そんなどうしようもない大臣達を見かねたカーネルは、おもむろにせきばらいをして、大臣達の視線を集めた。
「ただちに国会議事堂二階の大会議室において、緊急会議を行いたいと思います。大臣のみなさまは至急国会議事堂に向かってください。2時半より緊急会議を行います」
大臣達は反対する様子もなく、小さくうなずくと、そそくさと自分のリムジンが止めてある近くの駐車場へと向かっていった。
カーネルは駐車場へ向かう途中、会議で話し合うことを頭の中で簡単にまとめた。
一つ目は次期首相を決めること。国のリーダーがいなくなった今、ただちに次期首相を決めなければならない。しかしこの問題はすぐ解決するだろう。次期首相はこの俺に決まっている。カーネルは魔術こそはバージェスに劣るけれど、持ち前の政治力はバージェスにひけをとらない。今までだって、表向きは首相補佐として存在していたが、本来バージェスがするはずの仕事のほとんどを、カーネルがこなしていた。つまり本当の意味で実権を握っていたのはバージェスではなく、カーネルだったのだ。だから大臣たちはこぞって俺を次期首相に推薦するだろう。そうすれば、首相という地位は俺のものになる。カーネルは目の前を歩く大臣たちを見つめ、一人ほくそ笑んだ。
 次に話し合うことは、処刑のなぞ。どうして死刑囚はいなくなったのか、どうして首相は死んだのか、この二つがおもに話し合われるだろう。しかし、カーネルはこの謎をもう解いていた。首相が唱えていた複雑な呪文――。行方不明の死刑囚――。そして首相の死――。
この三つが導き出す答えは一つしかない。しかしわからないのは、なぜ首相は自分の命と、国を捨ててまであの呪文を使ったのか……。なぜ死刑囚のためにこんなことを……。
「なんでだ……首相」
いつのまにか駐車場へとたどりついていたカーネルは、苦々しく舌打ちをし、リムジンへと乗り込んだ。


20 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:25:03 ID:ommLPnze

いくら歩いても何もない。進んでも、進んでも、何もない。もしかして全然進めてないのかも――。同じところで足踏みしているだけなのかも――。言いようのない恐怖が俺をむしばむ。俺は一生この地でさまようことになるのか? なにもないこの無の世界で、一生過ごさなければならないのか? そんなのはいやだ! 恐怖をふりはらうかのように、俺はとにかくがむしゃらに走り続けた。どこが前なんてわからない。上も、下も、右も、左も、わからない。けれど目をつむりがむしゃらに走った。走って、走って、走りまくった。ひたひたと後を追う恐怖から逃げるかのように――。
走るのをやめて、あたりを見回していたときに、あることに気づいた。どんなに走っても息が切れないし、疲れないのだ。現実世界だったら嬉しいことなのに、ここではちっとも嬉しくない。お腹もすかないし、のどもかわかない。これでは死人と一緒ではないか。生きている証拠がほしいと、腕をつねってみるけれど、痛くもなんともない。感覚がない。やっぱり死人と一緒ではないか。なにか生きている証拠が欲しい。なんでもいいから自分が生きているという証拠がほしい。気が付けば涙が頬を伝っていた。しかし、いつもなら温いはずの涙も、感覚のない今の状態じゃ何も感じない。涙の温かさすら感じることができないのだ。それが俺の悲しみの導火線に火をつけたらしい。次々に涙があふれだしてくる。とめどなく流れる涙は、俺の頬を伝って落ちていく。そうだ……俺は死んで当たり前の人間。俺は死んだのだ。ここは無の世界なんじゃない。ここが地獄なのだ。この世界こそ地獄なのだ。なにもないこの地獄で生きることが俺に課せられた罰なのだ。きっとバージェスが、俺をここに送りこんだに違いない。


21 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:25:52 ID:ommLPnze

神のご加護とか、チャンスとか言っていたが、それは口から出たでまかせであって、本当はこの世界に連れてきて俺を永遠と苦しめるつもりだったのだ。ハゲじじいめ! よくも俺をこんなところに連れてきやがったな!
俺の心の中は、怒りと憎しみ、悲しみと恐怖が、ごちゃまぜになっていた。つらくて、つらくて、声にならない声を上げて泣いた。泣き疲れることを知らずに泣きまくった。一生分の涙を流した気分だ。しかしどんなに泣いたところで、状況がよくなるはずもない。衰えることを知らない恐怖が頭の中に触手の伸ばす――。怖い、怖い、怖い――。助けてほしい。そのためならなんでもする。だから……この地獄から出してほしい。こんなところもうたくさんだ。元の世界に戻りたい。元の世界でもう一度……一からやり直したい。生きたい……。もう一度立ち上がりたい。今までのような、血に飢えた獣としてではなく……心を持った人間として、もう一度生きたい――。 生きたい! もう一度生きたい!
光が俺を包んだ――。


22 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:26:41 ID:ommLPnze

第三章 悪魔、悪魔、そして悪魔――

光が辺りを包み込む。まぶしすぎて目が開けられない。目をつむっていても、光が入ってくる。なにがなんだかわからない。一体なにが起こったのだ? 俺はうっすらと目を開けた。なっ……なんだ? 俺の視界に入ってきたものは、パズルのようにぼろぼろと崩れ落ちる世界だった。俺はうす目を開けたまま、ゆっくりと辺りを見回した。無の世界が、音もたてずに崩れていく。パズルのようにぼろぼろと……。パズルのように小さくなった世界の断片はやがて、粒子のように細かくなって消えていく。俺は崩れていく世界の真ん中に、ぽつんと取り残されていた。
 光がまた一段と強くなった。俺は我慢できずに目をとじ、その場にしゃがみこんだ。もしかしたらこの世界が崩壊したら、俺はまた現実世界に戻れるかもしれない! 俺は淡い期待を抱き、唇をぎゅっとかみしめた。
 しかしいっこうに世界の崩壊は終わらない。光はどんどん強さをまし、今じゃ目をぎゅっとつむっていても、光が見える。世界の断片は粒子になって消えていくことの繰り返し。いつまでたっても終わりが見えない。俺はため息をついた。もしかしてこれは世界の崩壊でもなんでもないんじゃないか? 俺は半ば諦めかけていた。
しかし、しばらくすると異変が起きた。なんと、俺の体にカーテンのような、透明の薄いベールが巻きついてきたのだ。頭、右腕、左腕、右足、左足と、次々にベールが巻きついてくる。これでは身動きがとれないではないか。俺は必死にもがいて、ベールをふりはらおうとした。しかし、もがけばもがくほどベールは俺に巻きついてくる。どんどん締め付けが酷くなっていく。苦しい……。臓器や血管が押しつぶされそうだ。今の俺は包帯人間みたいな格好なのだろう。しかし俺の体に巻きついているのは包帯ではなく、透明のベールだが……。
俺はもがくことをやめた。というより、体はもはや動かなかったのだ。とてつもない圧迫感に意識がだんだんと遠のいていく。締め付けがまた酷くなった。苦しい……。あぁ……俺は二度目の死を迎えるのか――。次に目が覚めた時はきっと――。そこで俺の意識はプツンと切れた。


23 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:27:26 ID:ommLPnze

目が覚めると、見覚えのない小部屋の中にいた。壁は灰色一色で、床も天井も灰色だ。窓やドアはない。俺はそんな小部屋の真ん中で、仰向けになって寝ていた。ベールに締め付けられたおかげで、体中のあちこちが痛い。ここがどこだかどうでもいい。とにかく少し休みたい……。俺はまた目をつむって、夢の世界へ行こうとした。が……行けなかった。うめき声のような音が聞こえたからだ。
「ウルゥゥ……」
俺はとっさに跳ね起きて身構えた。部屋の辺りを見回して――がくぜんとした。
「な……なんだ?」
数え切れないほどの悪魔が、俺の周りをとりかこんでいた。俺が昔読んだ古い書物に記されていた悪魔とそっくりだ。顔は牛、体は人間のような悪魔。象のような鼻を持っているが、体は毒々しい赤の蜂のような悪魔。全体的に人間だが、黄色い牙を持ち、よだれをたらし、毛深い、狼のような悪魔。灰色の肌を持ち、口から血を吐き出し、うめき声を上げる悪魔。身の毛もよだつような悪魔たちが、俺を狙って身構えている。とろけるような笑みをうかべて……。しかし、なぜここに悪魔が? 悪魔は何千年もの前に滅びたと聞いたのに……。俺は恐怖で胃が締め付けられそうだった。
悪魔たちが四方八方から飛び出してきた。俺はすぐさま反応し、体の回りに強力なバリアを張った。悪魔たちがバリアにぶつかり、吹き飛ばされる。しかし、すぐに身構えて襲ってくる。俺は魔術をこめた黒い球を指先から放った。その球をまともに食らった数匹の悪魔が、また後ろへと吹っ飛ぶ。しかし死んではいない。俺のこの魔術で、死ななかった奴はいないのに……。
そんなことを考えていると、象のような蜂のような悪魔がバリアをやぶって襲ってきた。俺はさっと後ろに飛びのき、悪魔の長い鼻に意識を集中させ、そして指を鳴らした。すると長い鼻がすぱっと千切れ、その悪魔は倒れこんだ。しかし、やぶれたバリアを直す前に、次々に悪魔が侵入してきた。そしていち早く俺の元へついた悪魔が、俺を引き倒す。俺は瞬時に体を鋼のように強くし、両足を剣にした。そして、俺の上にのしかかろうとしていた悪魔に、えいやっと剣を突き刺した。その剣は見事に悪魔の腹に命中し、悪魔は血を吹き出しながら、断末魔の叫びを上げた。


24 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:28:30 ID:ommLPnze

それを見た悪魔たちが、怒り狂って一斉に襲い掛かってきた。俺はこの殺した悪魔をドロドロに溶かし、魔術をこめて、せまりくる悪魔たちに降りかけた。悪魔たちの皮膚はとたんに焼けて、ただれはじめた。痛みにうめく悪魔たち。俺はそれを見て高らかに笑った。俺に勝てる奴なんていないんだ! 俺はつい気が緩んでしまい、背後に忍び寄る悪魔に気づかなかった。
その悪魔は、タカのようなするどいかぎ爪で、背中を縦に切り裂いた。背中から血があふれ出る。痛い! あまりの痛みにがくんと膝をつく。魔術で傷口を治そうとしたが、その前にかぎ爪の悪魔が、俺の右腕を切断した。右肩からも血が吹き出す。俺は歯をくいしばり、口から毒ガスを出した。それを吸ったかぎ爪の悪魔は、苦しそうにうめき――死んだ。俺は右腕を肩に押し付けて、魔力を流し込んでひっつけようとした。すさまじいスピードで神経がつながっていく。あまりの痛さにうめき声を上げ、痛みをへらそうとさらに魔力を使った。
右腕の治療を終えて、背中の治療に移ろうとしたとき、今度は左足に激痛が走った。巨大なへびの悪魔が、俺の右足に噛み付いていたのだ。そして、さきほどまで皮膚を焼かれていた悪魔たちが体勢を立て直し、ぞくぞくと襲ってきた。狼のような悪魔に腹の肉を食いちぎられた。巨大な芋虫のような悪魔が、俺の顔にのぼってきて、蜂のような針で刺す。何度も何度も――。この針には毒が塗ってあるのだろう。俺は恐怖と痛みに絶叫した。次々に悪魔たちが俺の体を裂いていく。新鮮な血と肉をいただくために――。俺は最後の力をふりしぼり、全身に魔力を溜めて……放った。体に張り付いていた悪魔たちが、一斉に吹き飛ばされて、壁にぶつかった。
俺はその場に倒れこんだ。もう動けない。悪魔たちはまた体勢を整えて襲ってくるだろう。いっそのこと殺されよう。一度殺されて身ではないか。何度殺されても同じことだ。そう思うと、自然と恐怖は消えていった。いや、神経が麻痺して恐怖を感じなくなっただけか?
いたるところから血がふきだしている。俺は残りの魔力をかき集めて血を止めた。最後くらいは、綺麗な姿で死にたいではないか。悪魔たちが体勢を立て直したようだ。勝利のおたけびを上げ、残酷な笑みを浮かべ、近づいてくる。俺は覚悟を決めて目をつむった。
さぁ、俺をさっさと殺してくれ――早く――痛みすら感じる暇もなく――さぁ、早く――。
『そこまでよ。おやめなさい』


25 :麗汰 :2007/04/10(火) 18:29:36 ID:ommLPnze

その声に悪魔たちの動きがピタッと止まる。静寂がこの場を支配した。聞こえるのは俺の荒い息遣いだけ。ふいにその声の主が俺に近づいてきた。しかし俺はうつぶせに倒れているため、顔が見えない。こいつが悪魔の代わりに俺を殺してくれるのか? 俺はうつろな頭で考えた。まぁ、そんなことどうでもいい。痛みを感じる暇なく殺してくれる相手ならば、誰でもいい。
 そいつがとうとう俺の横に来た。しゃがみこみ、俺の傷ついた体の上に手をかざす。そして短い呪文を唱えた。
「アラマホカクルデルト!」
 するとみるみるうちに傷が治っていくではないか! シューという蒸気のような音とともに、傷口がふさがっていく。一分もすれば、体はほぼ元通りになった。俺は礼を言うために、身を起こした。
「あの……ありがとうござ……」
 俺はふいに口をつぐみ――あんぐりと口をあけた。なんということだ。信じられない。俺の目の前にいるこの人は……。綺麗な金色の髪に、エメラルドグリーンに光る瞳。細長い顔からは神々しい笑みがこぼれでる。服はゆったりとした真っ白なサテンを身にまとっている。
どんな書物にも教科書にも必ず載っている、イギリスの守護神であり平和の神―――。
「ジェ……ジェシカ様?」
『えぇ。いかにも』
ジェシカ様はにっこりと微笑むと、指をぱちんと鳴らした。すると奥にいた悪魔たちは、音をたてて消えた。そしてゆっくりと立ち上がり、周りを見渡して顔をしかめる。
「ここは寒いし狭いし……話せる場所じゃないわね。移動しましょうか」
「は……はい」
 緊張で声がうわずっている。緊張するのも当たり前だ。今俺の目の前にいるのは神様なのだから。
しかしなぜここにいるのだろう? だいたいここはどこだ? なんで悪魔たちがこんなところに? 俺の心は緊張と疑問で渦巻いていた。
「あ! アラン君お腹すいてないかしら?」
「い……いえ。すいて……いません」
俺のお腹がむなしく鳴った。ジェシカ様がくすくすと笑った。
「決まりね!」
ジェシカ様は俺の手を引き、血なまぐささが残るこの部屋を後にした。


26 :麗汰 :2007/04/13(金) 22:35:54 ID:o3teWkL7

第四章 試練

「首相が使ったあの呪文は『望みの呪文』です」
首相補佐のカーネルが声を張りあげる。窓をたたいている雨に負けないようにと。
 ここは国会議事堂二階の大会議室だ。壁は全て大理石でできており、床にはペルシャ絨毯がしいてある。天井にはイギリスの守護神ジェシカ様を始めとする多くの神々の絵が描かれている。そして壁には歴代首相の写真が入った額が飾られている。そんな会議室の真ん中に縦長いテーブルが置かれている。そのテーブルの周りには、カーネルをはじめとする大臣達が座っていた。緊急会議が行われている真最中である。
「なんだ? その呪文は?」
環境大臣のジョンが、綺麗な黒髪をいじりながら問う。ほかの大臣たちも知らないのか、しきりに眉をひそめる。
「まったく、大臣とあろうものがこんな呪文も知らないなんて……情けない」
 カーネルの見下した態度に、丸鼻の情報大臣ロックが静かに口を開いた。
「戯言はいい。早く教えろ」
 カーネルはやれやれと首をふり、説明を始めた。
「『死者復活の呪文』とは、何千年もの前に禁止された魔術の一つです。こんなに昔の魔術だから、知らない人がいて当然ですね」
「じゃぁ、なんであなたは知っているの?」
と、魔術大臣のジェイニーが聞く。その言葉にカーネルはふん、と鼻を鳴らした。
「たまたま古い書物で見つけたのです。さぁ、みんな黙って俺の話を聞いてください」
 そう言うと、カーネルは再び話し始めた。
「『望みの呪文』というのは、呪文をかけた人が死ぬかわりに、呪文をかけられた人が試練を受けるという呪文です。その試練とは、ジェシカ様直々に出した試練で、その試練に受かったら望みを一つかなえてもらえる」
「どんな試練を受けるのだ?もし、その試練を失敗したらどうなるのだ?」
 治安維持大臣のバナスが静かに問う。
「そんなの俺にだってわかりません。きっと無理難題なのでしょうね。失敗したら……」
 そこでカーネルは脅すように、ぞっとするような笑みを浮かべた。
「失敗したら……地獄行きです。永遠と死神たちに弄ばれ、傷つけられ、死ぬことも許されず、痛みと苦しみに耐え続けなければならない……」
 そしてカーネルはまたぞっとするような笑みを浮かべた。しかし、怖がってびくついたのはジョンだけだった。
「じゃぁ、試練を受けないって言ったらどうなるの?」
 ジェイニーが少々うわずった声で問う。
「強制的に受けさせられます」
「つまり……呪文をかけ死んだのはバージェスで、呪文をかけられた死刑囚は今試練を受けている、そういうことか?」
 ロンドン塔責任者のローガンが、ほほにある傷をさわりながら言う。
「ええ。そういうことになりますね」
カーネルの言葉に、ロックが机をバン、とたたいた。青筋をぴくぴくと引きつらせ、怒りをあらわにしている。
「納得いかない!なぜ首相は死刑囚のために命を差し出すようなまねを?首相は国民よりも、死刑囚を選らんだと言うのか!死刑囚は……アランは、俺の息子も殺したのだぞ!なのに……なのに首相は、アランのためにチャンスを与えたというのか!もう一度生きるためのチャンスを……」
そこでロックは口をつぐんだ。目に涙が浮かんでいる。死んだ息子のことを思っているのだろう。
「理由はわかりませんが……首相は自らの命と引き換えに、アランにチャンスを与えた。アランにもう一度生きるためのチャンスを与えた。そういうことになりますね」
 カーネルのその言葉に、大臣達は険しい表情でつぶやく。首相はなんてことを――アランがまた生き返って、悪事を起こしたらどうするのだ――あぁ、もう取り返しがつかない――今度こそ世界は終わりだ――。ローガンにいたっては神に祈りを捧げ始めた。
「みなさん静かにしてください。まだアランが試練に受かったわけじゃない。ジェシカ様のことだから、到底受からないような試練を出すはずです」
 治安大臣のバナスのその言葉に、大臣たちが次々にうなずく。
「そうです。まだ望みはあります。みなで死刑囚が失敗することを願いましょう」
そう言って、カーネルは不適な笑みを浮かべた。
 アランが受かるはずがない……。絶対に受からない……。


27 :麗汰 :2007/04/15(日) 12:16:56 ID:o3teWkLe

「そう……だったのか……。バージェスのおっさんが……俺のために……」
 俺は生まれて初めて感謝の涙を流した。とめどなく流れる涙の洪水は止まることを知らない。ほほを通った涙は次々に地面へと落ちていく。
 俺はジェシカ様に涙を見られまいと涙をぬぐって、ビーフシチューをがつがつと食べた。
「そうです。バージェスはあなたにチャンスを与えるために、命を投げ出したのです。もう一度人生をやり直すための……チャンスをね」
 俺はバスケットの中に入っていた白パンをつかみ、ビーフシチューにひたして食べた。うまい! ジェシカ様が出してくれた料理はどれも絶品で、舌の肥えた俺でも納得できる味だった。
「そうか。なら俺はバージェスのためにも試練を受けなきゃならねぇな!」
 俺は席を立って、辺りをうろうろとしていたジェシカ様に向き直った。そして口についたビーフシチューをさっとぬぐう。そんなかっこいい自分にほれぼれするぜ。
「アラン君ならそう言ってくれると思っていましたよ」
「ふん、当たり前だろ! どんな試練なんだ?」
アランの強気なセリフにジェシカ様がくすくすと笑う。
「そんなに急がなくても大丈夫ですよ。それよりアラン君は、さっきの無の世界のことや、悪魔たちが襲ってきたことを、疑問に思って私に聞かないのですか?」
「あ……。ご飯食べるのに忙しくて、つい忘れていたぜ。あれは一体なんだったんだよ?」
ジェシカ様はまた笑った。
「あれはあなたが試練を受けるのにふさわしいかどうかを試す、簡単なテストだったのです」
悪びれた様子もなく言うジェシカ様に、俺が切れた。
「俺は無の世界で永遠と孤独に耐え続け、悪魔との闘いではあやうく死にかけたんだぞ!」
「しかしあなたは見事このテストをくぐりぬけた。あなたは試練を受けるにふさわしい人なのです。あなたは私が想像した以上のことをやってくれました。無の世界では、自分の体を作り出すという奇抜な発想を思いつき、見事それをやってのけた。あれは私でもできないでしょう」
ジェシカ様は俺を関心したような目で見る。
「そして悪魔との闘いでは、魔術をたくみに操り大勢の悪魔と互角にやりあった。ありとあらゆる魔術を駆使しあと一歩のとこまで悪魔を追い詰めた。恐怖をものともせず、立派に闘った」
「ほんとは……ものすごく怖かった……」
 これは本当だ。怖くて、怖くてたまらなかった。今になってようやく恐怖の涙があふれ出た。肩をわなわなと震わせる俺を見て、ジェシカ様が哀れむように言った。
「誰だって死への恐怖はあります。しかし大切なのは、闘いのさなかに恐怖を見せないこと。堂々と胸をはって、恐怖を隠して闘いに望むことが大切なのです」
そこでジェシカ様はパンパンと手をたたいた。あまりの音の大きさに俺はびっくりして顔を上げた。


28 :麗汰 :2007/04/17(火) 17:33:17 ID:ncPik7s7

「さぁ、アラン君。泣くのはもうおやめなさい。これからあなたは過酷な試練を受けるのです。覚悟はいいですか?」
 俺は涙をぬぐって、満面の笑みを浮かべた。
「ああ!いいぜ」
「あなたへ課す試練は……悪魔退治です」
 笑みがかすかに引きつった。悪魔……。あの悪魔たちか? あの凶暴で……残忍極まりない……あの悪魔たちか?
「俺がさっき闘った……あの悪魔たちか……?」
「そうです。何千年もの昔、魔術師と悪魔は争っていた。魔術師は守るべきものを守るために、悪魔たちは人間の恐怖と、血と肉を得るために……。この争いは魔術師たちの勝利で終わった」
そこでジェシカ様は口をつぐんだ。話をまとめているのだろう。
「負けた悪魔たちは、自分たちの世界へと戻って行った。力を蓄え、魔術師たちに復讐するために。人間の恐怖と、血と肉を得るために。そして、何千年もの月日がたった今……」
俺はジェシカ様よりも前に答えを導き出した。
「そして今……血に飢えた残酷な悪魔たちが、また動き出そうとしている。そうなんだな?」
ジェシカ様はゆっくりとうなずく。なんということだ。ありえない。嘘だと言ってほしい。悪魔が人間を襲う? 馬鹿も休み休み言えと言いたい。恐怖で胃がしめつけられる。数十匹の悪魔にも勝てなかった俺が、何千、何万という悪魔相手に一人で闘えと? しかも、俺のことを憎み、恨んだ人間たちのために? 冗談じゃない。そんなことのために命をさしだすなんて、さらさらごめんだ。しかしバージェスは、俺のために命をさしだしてくれた。救う価値のない俺を救おうとしてくれた。なら俺も、同じことをしなければならない。でも……でも……。


29 :麗汰 :2007/04/20(金) 16:51:02 ID:o3teWkL7

さんざん迷ったけれど、結局出た言葉はこれしかなかった。
「どうやって……食い止めるんだ?」
「食い止めることはできません。悪魔たちは必ず襲ってきます。欲望に飢えた悪魔たちが……。これは変えようのない運命なのです。数千年前と同じように、争いはまた始まるでしょう」
なんだって……。食い止める方法はないだと? 凶暴で残忍な悪魔が世界を恐怖と絶望に突き落とすというのか? 俺の顔から血の気が引いていくのがわかった。
「あんた……神様だろ! あんたならなんでもできるんだろ! なら助けろよ!」
「私は掟により、直接助けることはできないのです。だからあなたに代わりにやってもらうのです」
「は? 意味わかんねぇよ」
 首をかしげる俺に、ジェシカ様がにっこりと笑った。
「悪魔たちを止めることはできない。悪魔たちは、強大な力をつけてこちらへと乗り込んでこようとしています。私たちに止める手立てはない。しかし、悪魔たちの襲撃を遅らせることならできる。遅らせることができたら、人々はみな闘う準備を整えられる。準備をすれば、悪魔に勝つことだってできる。そうでしょ?」
 確かにジェシカ様の言うとおりだ。しかし、それと俺の試練がどうつながっているんだ?
 ジェシカ様は淡々と述べた。
「あなたの今回の試練は、悪魔の襲撃を遅らせることです」
 そうか。そういうことだったのか。今までの疑問はするすると解けていく。俺の試練は悪魔を退治することではなく、悪魔の襲撃を遅らせることだったのか。だが、どうやって?
 俺の心を読んだのか、ジェシカ様が説明してくれた。
「悪魔たちは、ある魔術師の強力によってこちらの世界へ乗り込もうとしています。悪魔だけの力では、こちらの世界へ来ることはできません。しかし、力のある人間の協力があればこちらの世界へ自由に来くることができる。今回あなたには、その裏切り者の魔術師を倒してきてほしいのです。そうすれば悪魔たちがこちらへ来ることを遅らせることができる。一時的に……ですがね」
 倒す相手が悪魔ではなく、魔術師だったら負ける気がしない! 俺はがぜんやる気になった。


30 :麗汰 :2007/04/20(金) 16:52:39 ID:o3teWkL7

「わかった。俺はその魔術師を殺せばいいんだな。で、その裏切り者の魔術師はどこにいる?」
 俺は目をらんらんと輝かせて聞いた。相手が魔術師なら、どんな相手だって負けない自信がある。
「場所は……日本という島国です。今現在日本に人は住んでおらず、その裏切り者魔術師と、悪魔たちの拠点となっているそうです。言い換えれば、日本は悪魔たちの巣になっているということですね」
 俺の自信は風船のようにしぼんでいた。そう簡単な試練ではないことがよくわかった。何百匹、何千匹という悪魔をかいくぐって、魔術師を倒さなければならない。
 俺はいくらかまだ自信が残っているうちに、早くとジェシカ様をせかした。
「わかった。早く日本というところに連れて行ってくれ」
ジェシカ様は俺の手を強く握り、幸運を祈ると言ってくれた。
「この試練を無事クリアできたら、必ずあなたをもう一度生き返らせてあげましょう」
俺はジェシカ様の手を強く握り返した。俺がこの試練にクリアする可能性は極めて低いけれど、神様が幸運を祈ってくれているのだから、多少自信が戻ってきた。
「あ! 言い忘れていました。この試練を一人でこなすのは難しいと思ったので、何人か仲間を用意させてもらいました。全員頼りになる仲間ですよ。日本の中を彷徨っていると、いずれ会えるでしょう。では、行ってらっしゃい」
次の瞬間、ジェシカ様はぱっと消えてしまい、今いる部屋もぼろぼろと崩れ、俺は深い、深い穴へと堕ちて行った。
日本へ向かうために――。日本という地獄へ行くために――。


31 :麗汰 :2007/04/22(日) 15:24:36 ID:o3teWkLc

異端な能力

ドスッという鈍い音がして俺は地面に落ちた。
「いてて……」
 周りと見渡してみた。どうやらここは森のようだ。ジェシカ様が言った通り、ここに人は住んでいないらしい。家もなければ、車もない。あるのは不気味に俺をかこむ森だけ……。
 俺は立ち上がってめいっぱい空気を吸い込んだ。なんておいしい空気なんだ! 俺はようやく、この世界に戻って来られたと実感した。やっぱり地球が一番いいな。
 俺がぶんぶんと腕を振り回したりしてストレッチしていると、カサカサと木の葉がゆれる音がした。おっと、さっそく悪魔のお出ましのようだな。
 思ったとおり、草むらの影から三匹の悪魔が飛び出してきた。どうやらジェシカ様の言ったことは本当のようだ。日本という国は、悪魔の国になっている……。
 三匹の悪魔は、俺を取り囲むと、ぐるぐると回り始めた。襲うタイミングを見計らっているのだろう。俺はその中の一番弱そうなゴキブリの悪魔に目をとめた。全体的にゴキブリだけれど、顔はゆがんだ人間だ。俺は周りの木々たちに、呪文を唱えた。
 すると木の幹がにゅるにゅるとのびてゴキブリの悪魔に巻きついた。ゴキブリの悪魔がぎょっとした顔をし、暴れだす。しかし、幹はしっかりと巻きついたまま離そうとしない。
 ほかの二匹の悪魔たちが俺に突進してきた。甲高い叫び声を上げ、目をぎらつかせながら。俺は反応が遅れてしまい、後ろへと突き飛ばされた。そして起き上がる暇もなく、二匹の悪魔に攻撃された。悪魔が俺のわき腹を裂く。そして血を吸い取る。俺は痛みに絶叫した。
「ギャー!」
 俺はとっさに叫び声に魔力をこめた。すると悪魔たちは後ろへ吹っ飛んだ。俺はすばやく起き上がり、再び木々に呪文を唱えた。するとたちまち二匹の悪魔たちが幹につかまった。
 俺はその場からくるりと背を向けて走り去った。悪魔たちの怒りに燃える叫び声が、耳をつんざく。


32 :麗汰 :2007/04/24(火) 15:48:38 ID:o3teWkLc

お詫び

第五章 異端な能力 のところですが…第五章が抜けてましたww汗
正しくは「第五章 異端な能力」ですw


33 :麗汰 :2007/04/29(日) 10:28:34 ID:ncPik7s3

俺は走った。どこへ向かっているのかは全然わからないが、とにかく走って、走って、走りまくって逃げるのだ。しかし走りにくいったらありゃしない! 土はぬかるんでいるし、木々同士の間隔がせまいため、体がでかい俺にとっちゃ通るのも一苦労だ。
 右のわきから一匹の悪魔が飛び出してきた。獲物を見つけたのがよほど嬉しいのか、口からよだれが出ている。顔は美しい女なのだが、胴体はねずみのように灰色で、手足はもぐらのようだ。
 エネルギーをできるだけ残しておきたいので、そばにあった幹をぽきんと折って、魔力を流し込んで、鉄のように硬くした短剣を作った。この武器で闘おう。
 悪魔がするどい爪で攻撃してきた。あまりの早さに目で追うことができず、気がつけば右腕をざっくりとえぐられた。


34 :麗汰 :2007/04/30(月) 12:58:52 ID:ncPik7sc

次は頭をえぐろうとするが、俺はさっとかがんでよけた。そのすきに足蹴りをくらわして、短剣をもぐらのようなすねに突き刺す。悪魔が哀れっぽく鳴き、俺の腕をえぐろうとした。俺はそれをかわすと、突き刺したままの状態の短剣を上へスライドさせて、体を切り裂いた。内臓が飛び出て、悪魔の血が俺の体を汚す。悪魔は最後の力をふりしぼって、俺に頭突きをくらわした。そして俺がよろけた隙に、どこかへ逃げて行ってしまった。
 俺はまたひたすら走った。出口のない地獄を永遠と――。どこへ行っても悪魔がいる。恐怖で今にも足が止まりそうになった。けれど自分をしかりつけとにかく走った。いつどこで悪魔が飛び出してくるかわからない。しかし走るのだ。とにかく今は走って、走って、安心できるまで悪魔から逃げ続けるのだ。
 俺の背後のしげみから、なにかが飛び出してきた。音からすると数匹いるらしい。やばい! 悪魔たちだ! 襲われる! 俺はとっさに魔術を込めた球を作り、背中をマトリックスのようにそらして、球を放とうとして――やめた。こいつらは悪魔ではない――こいつらは――。
俺はゆっくりと振り返って言った。


35 :麗汰 :2007/05/08(火) 18:18:07 ID:o3teWkL4

「お前らが誰だ?」
「お前と旅を共にする仲間たちだ。おどろかしてすまなかった。お前が最初、人間の姿をした悪魔かと思ったのでな」
長くのびたあごひげをなでながら男が言う。この長いあごひげを生やした、がっしりとした男がリーダーのようだ。歳は三十歳といったところか。目は疲れきっていて、顔のあちこちに傷跡がある。髪は長真っ黒で、後ろで一つに束ねている。そのひげ男の後ろには、男2二人と、女一人が立っていた。俺を警戒しているようだ。手に剣やおのを握っている。
リーダーと思われるひげ男が、俺に近づき手を差し出した。俺はその手を握り返した。
「君がアラン君だね。俺はドラン。そしてあのやせほそった少年がコレット。俺の息子だ」
俺が見ると少年は明らかにビクついて、うろたえた。俺より一、二歳年上のようだが、背だけばっかり高いもやしじゃねぇか。筋肉はついてないし、色素が薄いのか皮膚が白い。小さな顔にはサーモンピンクの大きな目がどん、と占領している。髪の毛は……こりゃ驚いた。なんと白髪だ! 俺の真っ赤な髪と対照的だな。俺はこいつに妙な親近感を覚えた。
「そして、あの背の低い男がローレイ。その後ろにいる女がジャスティンだ」
ローレイと呼ばれた男が軽く会釈した。背が低いわりには筋肉質で、肩の筋肉が盛り上がっている。髪は短く刈り込んでいて、その頭には虎の入れ墨が彫ってあった。顔には余裕の表情が浮かんでいる。どうやらこいつは使えそうだ。
変わって女性のほうは……どう見ても悪魔と闘うような雰囲気ではない。どこかの屋敷で悠々と暮らす清楚なお嬢様って感じだ。茶色く長い髪は、カールがかかっており、顔立ちも整っておりとても美しい――。ありゃ? 心臓がバクバクするぞ? なんだ?この気持ちは? 
俺はとりあえずこの気持ちを無視することにした。


36 :麗汰 :2007/05/11(金) 22:30:13 ID:PmQHsHYF

「そうか! みんなよろしく! 俺はアランだ。黒魔術師にして、デイビスの息子だ。俺のことは……えぇっと、アラン君? いや……アラン様って呼んで……」
「静かに!」
 ドランの息子のコレットが、俺のせっかくの自己紹介を台無しにしやがった。俺がすかさず文句を言おうとしたが、またしてもコレットに手で制された。くそ! 後で覚えていろ!
 辺りが異様な雰囲気に包まれる。誰もピクリとも動かない静寂の場。さすがの俺も、なにかの気配を感じて耳をすませていた。
 突然、コレットがサーモンピンクの目を見開いて叫んだ。
「南東の方角、五キロ先に、三匹の悪魔がいる!」


37 :麗汰 :2007/05/12(土) 23:13:14 ID:o3teWkQm

な……何者だこいつは? 周りは木々に覆われていて五キロ先なんて見えないじゃないか? 俺は嘘をつくな、と言おうと思ったが、すでにみんな悪魔のほうへ行ってしまい、ここにいるのは俺一人だけだった。俺は軽く悪態をつき、みんなの後を追った。
 木々の間をかけぬけて、みんなのところに着いた。みんなはちょうど悪魔たちと激戦をくりひろげていた。コレットとジャスティンは、サメのような魚類の悪魔を相手に闘っている。ドランは顔が熊、体は蛾といった悪魔と、そしてローレイは、髪が緑のへびになっている人間悪魔と闘っている。しかし、コレット以外の全員の闘いかたは……人間の技ではなかった。
ジャスティンは指を華麗に動かしている。するとサメの悪魔はジャスティンの指の通りに体が動いている。悪魔は怒ってもがいているが、ジャスティンが腕を強くふると、悪魔は自分の首を絞め始めて――息絶えた。すごい! どうやらジャスティンは悪魔を見えない糸で操れるようだ。


38 :麗汰 :2007/05/15(火) 18:31:32 ID:ncPik7sA

俺はジャスティンから少し右へと視線をずらした。すると、筋肉質で頭に虎の入れ墨を彫ったローレイが、人間悪魔と闘っている姿が見えた。ローレイは目をつむっている。どうしたのだ? 悪魔はいやらしそうに微笑んで、ものすごいスピードで、ローレイのほうへ向かっていった。やばい! やられる! 俺がローレイの元へ走り出そうとしたとき、ローレイはぱっと目を開け、両手を悪魔のほうへ突き出した。するとものすごい突風が吹いて、悪魔は後ろへと吹き飛ばされてしまった。しかし、悪魔は軽い傷を負っただけで再びローレイのほうへ向かっていく。するとローレイは口をとがらせ、ふーっと息を吐き出した。するとみるみるうちに竜巻が起こり、悪魔をさらってどこか遠くへ行ってしまった。どうやらローレイは、風を自由に操れるようだ。昔読んだ本に出てきた「風使い」のようだ! かっこいい!
 俺はドランに目を向け――舌打ちをした。ドランはもう悪魔を片付けていたのだ。ちぇっ、ドランがどんな能力を使うのか、見物してやろうと思ったのに。


39 :麗汰 :2007/05/20(日) 21:16:42 ID:xmoJm4rH

第六章 最初の敵

夕日が大地を焦がす、そんな時間。俺たちは焚き火を起こして食事の支度を始めた。火からもくもくと出てくる煙のせいで、悪魔たちに居場所を教えることになるが、仕方ない。それにこいつらに聞きたいこともたくさんある。今後の進路についても話し合わなければならない。今夜は長くなりそうだ。トホホ。
 「改めて言う。俺の名前はアラン・モリスだ。みんな知っていると思うが、俺はデイビスの息子で、黒魔術師だ」
 そこで言葉を切って、火であぶったイノシシの肉にかぶりついた。普通ならここで怖がる声とか、怯えた表情が見られるはずなのに、みんな落ち着いている。こいつらにとっちゃ黒魔術師は、それほど怖い存在じゃねぇみたいだな。全く、つまらねぇ!
「ところであんたたちは一体何者だ? 悪魔の居場所をつきとめたり、悪魔を操ったり、風を起こしたり……」
 俺はこれがみよしに肩をすくめてみせた。ドランたちはお互いの顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「俺たちは組織『狩人』の者達です。特殊な能力をあわせ持った人たちが集う組織です。我らの目的は己の能力を生かして、一匹でも多くの悪魔を倒すことなのです」
そう言って、ドランはイノシシの骨を後ろへ投げ捨てた。コレットは話に飽きたのか、スタスタとどこかへ行ってしまった。
「つまりお前たちは悪魔専門の殺し屋ってわけだな!」
「まぁ、そういうことね」
ジャスティンがにこやかに答える。あれ? ジャスティンを見ると頭がクラクラする。心臓も暴れだす。なんでだ? 
「私たちは一ヶ月前まで、アメリカのほうにいたのよ。でもね、ある日、倒した悪魔が死ぬ間際に変なことを言い出したの」
「時は満……ちた。これからは悪魔の……時代がやってくる……。ギャハハッ。拠点は日本。哀れな人間どもよ……。地獄を味わえ……ギャッハッハッハ」
 ジャスティンが、ローレイうまいわ! とケラケラ笑う。俺は全然笑えない。背筋に鳥肌がたった。悪魔のセリフにではない。ローレイの演技にだ。ローレイの悪魔演技はぞっとするほどうまかった。


40 :麗汰 :2007/05/22(火) 17:22:06 ID:n3oJtes7

「そこで俺たちは日本へやってきた。悪魔を倒すためにな。だが、いざ日本に来てみて、俺らは途方に暮れた。どこに行っても悪魔しかいねぇ。悪魔の楽園だ。俺たちだけの力じゃ、全部の悪魔を倒せるわけがねぇ」
ローレイが深いため息をついた。目には疲れと、諦めの表情が浮かんでいた。
 いきなりドランが、ぐっと身を乗り出した。
「しかし、神々は俺たちを見捨てなかったのです。日本へ来て、4日目のことでした。確かに聞こえたんです。天から……。『赤毛の少年、アランを捜しなさい。その子がきっと、あなたたちを勝利に導いてくれるでしょう』と……。その言葉は本当でした」
 その声はきっとジェシカ様だなと、俺は心の中でつぶやいた。
「アラン君。ぜひ君に力になってもらいたい! お願いします」
 ドランが俺の手をぎゅっと握った。ドランの目には希望の光が輝いている。そんなドランの顔を見ると、俺は協力なんてしないぜ、なんて口が裂けても言えないじゃないか。
「ああ。俺もこの任務に全てがかかっているからな。いやでも協力させてもらうぜ」
 俺はドランとガッチリ握手を交わした。ジャスティンとも、ローレイとも握手を交わした。
 コレットとも握手しようと見渡して――思い出した。そうだ、コレットはさっき一人で、どこかに行っていたではないか。しかし帰ってくる気配はない。


41 :麗汰 :2007/05/27(日) 12:24:09 ID:PmQHuALA

「さて、これからどうしましょうか」
「アラン君、私達はこれからどうすればいいの?」
「おい、ドラン、ジャスティン、そんなことよりコレットはどこ……」
 俺が途中まで言いかけたところで、ローレイに口をはさまれてしまった。
「これからのことなど、明日決めればいいじゃねえか。今日はとっとと寝ようぜ」
「おい、それよりコレット……」
「そうね。今日は寝ましょうか。みんな疲れてるようだし。今日の見張りは私とコレット……あら? コレットがいないわ」
 やっと気づいたか。俺は深々とため息をついた。
「コレットめ。一人で歩きまわるなと言っているのに……。まったく、落ち着きがない息子で申し訳ない」
 ドランが恥ずかしそうにうつむいた。
「捜しにいくぞ」
 ローレイの言葉と同時に遠くのほうから、甲高い叫び声が聞こえた。コレットだ! 俺はその叫び声が止む前に、走り出した。別にコレットのクソガキのために行くのではない。あんな貧弱そうなガキのために命を懸けるほど、俺は心優しくねぇからな。俺はそこに悪魔がいるから行くんだ。一匹でも多くの悪魔を殺して、裏切り者魔術師カインの情報を得るためだ。
 体に巻きつくような木々をはらいのけ、声がする方向へひたすら走った。数メートル後ろからドラン達がついて来る。


42 :麗汰 :2007/05/30(水) 18:27:26 ID:o3teWkQm

「ギャー!」
 また悲鳴が聞こえた。近くだ! 俺は魔術の力を使って、俺の前に立ちはだかる木々を全てなぎ倒した。すると視界が開けた。前方には地面にうずくまり肩を震わせているコレットと――あれは――。
呆然と立ちすくむ俺の肩越しに、追いついてきたドランが声を張りあげる。
「おい! コレット! ここでなにして……」
 ドランも口をつぐんでけげんな顔をする。ようやく追いついてきたジャスティンとローレイも、眉をひそめて途方に暮れた。
 ようやく俺達に気づいたコレットが一目散に駆けてくる。そしてドランの胸の中に飛び込むとわんわんと泣き出した。
「怪我はないか?」
「……うぁっ……うん」
 そう言えば、さんざん悲鳴をあげていたくせに怪我は一つもない。
「泣くな。よしよし」
 ドランがコレットの頭をなでる。
ドランの目には涙が浮かんでいた。
 なんだ? この二人を見ていると……悲しくなる。そうか……。俺には、自分を心配してくれるような父親はいないんだ……。
 俺は首を振って陰気な気分を振り払い、前を向いて正面の問題にとりかかった。


43 :麗汰 :2007/07/12(木) 22:53:07 ID:ommLPnze

「雑談は終わりましたか?」
この集団のリーダーらしき背の高い男が馬鹿にするように言うので、俺はついかっとなって怒鳴った。
「オイ! テメェら! こいつら一体何者だ! コレットになにをした?」
 そう、俺達の周りには獣と化した人間たちが、丸く取り囲んでいるのだ。黄色くよどんだするどい目は、もちろん俺達に向けられている。歯は狼よりも頑丈、歯と言うより牙と言ったほうがいいかもしれない。爪はするどくとがっており、どうかすればはらわたさええぐりだせるのではないだろうか。四つんばいに歩いている人間もいれば、二足歩行の人間もいる。もちろん、みんな素っ裸だ。この中で唯一まともな人間といえば、あのリーダーらしき
「ご冗談を! その少年が私たちに近寄ってきたので、少し脅かしただけですぞ!」
 リーダーらしき男が不気味に笑った。その笑い声は大して大きくないのに、森中に響いた。
俺達が言葉につまっていると、ふいにその男がパチンと指を鳴らした。
すると後ろのほうにいた少女が四つの足を器用に動かし俺達に突進してきたのだ! ものすごいスピードだ。周りの奴らの間をすり抜け、奇声を発し、よだれをたらしながら突進してきた。少女は俺達の数歩手前で止まると、歯をむき出して威嚇した。


44 :葵助 :2007/07/26(木) 22:10:24 ID:xmoJm4kc

ドランたちはその少女の威嚇に恐れ半歩下がったが、俺は下がらない。
その刀で俺を刺そうとした。ギャーギャーとわめき、目をかっと見開いて、刀の足をばたつかせる――。俺はその子供の腹を一発殴って気絶させた。あまりにも哀れでおぞましいので見ていられなかったのだ。
「ご冗談を! なにもしていませんぞ! その少年は無傷ではないですか。ちょっと驚かしただけですぞ」
この化け物集団のリーダーらしき男がふん、と鼻で笑う。
「我々は暗黒の主に仕える日本人です」
 俺はすぐさまピンときた。暗黒の主とはきっとカインのことだ。
「暗黒の主?」
 首をかしげるジャスティンに、俺は秋風を思わせるさわやかな笑顔で教えてあげた。どうだ? 俺の笑顔は? あ、読者のお前らは俺のさわやかスマイルが見えないのか。残念だったな。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.