Blood×Blood


7 :銀次 :2007/02/17(土) 13:52:15 ID:ommLPnxD

〜7〜


「・・・・・・ここは?」

 突然の周囲の突然の変化に戸惑いを隠せない。しかも、食い破られたはずの右腕は何事も無かったかのように再生している。

『ここは貴公の心の中だ、風明。』

 頭上から降ってくる声に驚き顔を上げると、そこには床も無いのに宙に浮かぶいかつい男が立っていた。浅黒い肌に鍛え上げられた筋肉。高のように鋭い目つきにあごの先だけに生えたひげ。肌の色と対照的な白く長いコートのような服を着た男は、まさに無骨を絵に描いたような男だった。
 男はまるで階段を降りるように、風明のもとへとゆっくりと歩みよる。

「・・・・・・さっきの声は・・・アンタか? アンタは何者だ?」

 戸惑いながらも、第一に思い描く疑問を率直になげかけた。

『いかにも。あの声は私のものだ。私は何者か・・・・・・少々答えにくい質問ではあるが、あえて言うならば貴公の相棒だよ。私は貴公がこの世に生を受けた時から貴公の魂と共にあった者だ。そしてこれからもな。』

 その見た目とは少々ギャップのある紳士的な口調で、風明の質問に答え軽い自己紹介をすました頃には彼は地面に立っていた。気がつけばすぐ目の前にまで接近していた彼に、つい身構えてしまう。
 2メートル近い風明ですら軽く見上げるほどの巨大な体。本人にそのつもりがなくとも、その肉体は強烈な存在感と威圧感をはなっていた。こんな男を目の前にして、警戒するなと言うほうが無理な話だろう。

『そう硬くならないでくれよ。私は貴公の味方なのだから。』

 にこやかに歩み寄る男。怪しい雰囲気ムンムンではあるが、見る限りでは悪意は見えない。それに何処か懐かしいきもする。

『そろそろ私の質問に答えてくれないか? ・・・・・・力が欲しいか?』

 にこやかな表情が一瞬にして凍りつく。おそらくこの顔こそこの男の本性だろう。邪悪さは感じ取れないが、その表情からは強い意志と揺るがない決意が感じ取れた。
 
「・・・・・・アンタを信じても良いのか?・・・・・・ソレは正直わからない。でも・・・・・・俺はこのまま死ぬわけにはいかないんだ。力が必要なんだ!! ・・・・・・何かを壊すための力なんか要らない、だけど誓いを護るだけの力が!! 大事な人を守り抜くだけの力が欲しいんだ!!!」

 普段物静かな彼が珍しく声を荒げ叫ぶ。それほど強い意志に、彼は突き動かされている。

『一度力を欲すれば、お前は常に戦いの中に身をおく事になるぞ? それでも貴公は良いのか?』

 わざと決意が揺らぐような台詞を男は言い放つ。
 しかし、嘘ではないのだろう。彼の表情がそう物語っている。

「・・・・・・それがどうした。太一達を護るためなら、俺は何時だって戦ってやるさ。」

 けして揺るがぬ決意。鋼の硬さを持つ決意に支えられた風明の瞳には一点の濁りも無かった。その瞳をしばらく見つめた後満足そうに男は頷く。

『それでこそ私の相棒だ。良いだろう、力を貸そう。貴公に死なれては私も困るのでな。』

 凍り付いていた表情がいつしか緩むと、男の周りを光が包み徐々にその光に飲み込まれていくように男の姿がおぼろげになってゆく。男が完全に光の塊に変化すると、その光はやさしく風明を包み込み、そして浸透していく。
 光が体に染み込むにつれ、自分の体とは思えないほどの力がこみ上げてくるのがわかる。体からあふれ出てしまいそうな程の力が、体を満たす。



『少々見た目が禍々しいが文句は言わないでくれよ。”我が名はケルベロス! 我、汝に宿りし守護神なり!! 守護神の契約のもと、我が力を汝に与え、その身を守り抜くことをここに誓わん!!!”』



 光の中から、契約の文が読み上げられたと同時に光は弾け、そこには誰一人として立っていなかった。












 覚醒する意識。
 今までのことがまるで夢のように思えるような周囲の変化。それでも夢じゃないという確信を彼にもたらす、体に漲る確かな力。

「契約のもとに請い願わん!我に力を!!」

 誰に教えてもらったわけでもなく、しかし澱みなく契約の執行を告げる呪文が唱えられる。教えてもらう必要など無いのだ。生まれたその時から彼はもう知っているのだから。
 風明の明らかな変化に思わず『ソレ』が食い破ろうとした腕を吐き捨て後方へ跳ぶ。
 そこには信じられない光景が広がっていた。
 確かに千切れる寸前まで牙の食い込んでいたはずの腕はすでに修復されていた。そして傷口があった場所を中心に明らかに人のそれとは違う色の皮膚が腕を覆い始める。
 濃い紫をした皮膚が風明の肩まで覆い尽くす。爪も黒く変色し長く伸び、先は野生の獣のように鋭く尖っている。腕全体が以前より明らかに太く膨張し、肩と肘には、まるで関節を護るように周囲の皮膚とは又違う、黒い光沢を帯びた鎧に覆われていた。
 よく見れば、紫の皮膚に覆われた皮膚のところどころから、肩や肘のものと同質の黒い鉱石のようなものがのぞいており、その根元は皮膚と同化している事から、あの鉱石も取ってつけたものではなく彼の体の一部なのだろう。
 
「・・・・・・確かに、見た目は禍々しいかも・・・・・・な。」

 自分の右腕を試すように動かしながらボソッと風明が本音を漏らす。確かにどうせ力を手に入れるなら、天使の羽とかもっと華やかな見た目の方が嬉しいものだ。

”文句は言わないでくれと言ったはずだが? それにこの力は貴公自身の力だぞ。”

「・・・・・・わかってるさ。ちょっと言ってみただけだ。」

 風明にすればケルベロスに返事をしているだけだが、ケルベロスの声は風明以外に聞こえないので、独り言をぼやいているようでかなり怪しい。その異様な姿とあいまって、警察に連れて行かれても文句を言えないような危ない空気を風明は図らずして作り出していた。
 今にも食われそうになっていた友人の無事に、太一も拓真も和葉も美香も一瞬安堵したが、あまりの風明の変貌に正直どうリアクションをしたらいいのか困って固まっている。

「・・・・・・なにはともあれ・・・・・・いくぞ!」

 右腕に力を込めると、まるで空気が集まり凝縮していくような感覚を覚える。今まで漆黒だった腕の鉱石が徐々に光を帯びてゆく。
 漲る力を爆発させるように地面を蹴り、『ソレ』との間合いを一瞬で詰め、射程距離に入った『ソレ』に向かって右拳を振りかぶり力を解き放つ。
 すると拳を叩きつける直前に、光を帯びていた鉱石から栓を抜いたように光があふれ出し、やがてその光を紅蓮の炎へと姿を変えた。
 腕全体からあふれ出した炎は拳の目指す先へと一気に走り、『ソレ』に拳が当たる前に消し炭へと変えていた。
 炎は全てを焼き払うと、再び光に戻り、そして空気に溶け込むように消えていった。

「・・・・・・これが・・・俺の力?」

 想像よりも遥かに強力な力に面食らいながらも、敵を倒した事を確認すると風明の腕が徐々にもとに戻っていく。
 腕から巻き起こった炎は、『ソレ』を燃やし尽くし、直接は当たっていないはずのコンクリートの地面を溶かしていた。

・・・・・・力が欲しいとは言ったが・・・まさかこれほどとは・・・。

 なにはともあれ、護りたかった人達の無事を振り返って確認すると・・・・・・満足気に笑いながら糸が切れたように倒れこんでしまった。
 風明の突然の昏倒に驚き、太一達が駆け寄るが眠っているだけだと気づくと取りあえず一安心し、太一と拓真の2人掛りで風明の巨体を運び、なんとか本館の一階の入り口から学校を出て、今日の冒険は幕を閉じた。
 その後、太一は全員を家に送り届け、今は自分も家に帰りベッドの上でゴロゴロしている。風明も途中で目覚めてそんなに長い時間かついではいなかったのでそれ程疲労しなかったが、異常な恐怖を味わったせいで、まるで自分の体が鉛になったような脱力感を感じる。

風明が戦ったときに壊しちまった壁とか、炎で溶けちまった地面とか大丈夫かな?

 明らかに大丈夫じゃない位激しい戦いの傷跡が校舎に残っている事は若干気にはなったが、今はいさぎよく睡魔に負けて、明日に向けて力を蓄える事にした。


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