Blood×Blood


5 :銀次 :2007/02/16(金) 02:00:57 ID:ommLPnxD

〜5〜

・・・・・・まずいな。

 風明の背中に嫌な汗が流れる。
 あまりにも分が悪いのだ。
 相手は5匹。こちらも5人。ただし中身は話にならない物だった。
 こちらの5人のうち2人は女。それに風明以外の男もこの得体の知れない何かに太刀打ちできるかは正直疑問だった。

・・・・・・しかたない・・・・・・やれるだけやるしかないな。

 腹をくくった風明が身構える。
 左足より半歩下げた右足に力を込め、地面を蹴り、走り出そうとしたその一瞬前に風明の横を後ろから誰かが駆け抜けた。

「はぁぁああぁ!!!」

 先ほど用務員室でパクッたまま持ってきてしまった木刀を握り締め拓真が一番前にいた『ソレ』に斬りかかる。
 彼は剣道部に所属しており、その腕もなかなかのもので県大会上位の常連の一人なのだ。
 その身のこなしは並みのものではなかった。
 しかしすんでのところでその一撃はかわされ、背後から別の『ソレ』が拓真に襲い掛かる。
 和葉達が悲鳴をあげそうになる中、まるで背中に目があるように拓真は体を翻しながら上段の一撃を正確に『ソレ』にむけて叩き込んだ。
 グシャッと肉が潰れる嫌な音と、グエッっというなんとも間抜けな悲鳴と共に一匹目が息絶えた

「風明。ボサッとしてないでドンドンいくで。俺一人じゃ、さすがに全部はきついからなぁ。
 でも良いとこ全部風明にもってかすわけにはいかんわぁ。」

 にやっと風明のほうを見て一瞬笑うと、すぐに残り4匹になった『ソレ』を睨みつけ戦闘態勢に再び入る。
 今度はこちらから飛び掛る前に向こうから三匹飛び掛ってきた。
 一匹は風明に二匹は拓真に。
 風明は左足を一気に振り上げると、『ソレ』の顎の下に見事につま先がめり込みそのまま天井まで蹴り上げた。
 天井に頭がめり込みそれだけでも虫息の『ソレ』に無情の右拳がふりかかり2匹目も息絶えた。
 拓真に飛び掛った『ソレ』も、片割れは下段から振り上げた木刀に吹き飛ばされ、そこから返す刀で叩きおろされた木刀によってもう片方も叩き潰された。
 拓真のそれは剣道というよりは剣術で、試合で勝つためというよりは純粋な戦闘の方に特化しているように思えた。
 実際いまの2撃のコンビネーションも剣道の試合で使われるような物では決して無いはすだ。
 何故拓真が剣術を使えるかは別として、風明には嬉しい誤算だったようだ。

・・・・・・これで残りは一匹のはず・・・いけるな・・・・・・

 後ろで見ている拓真たち三人も同じことを考えているらしく、自然と顔の強ばりがとれていく。
 がくがくと震えていたその体も、少しずつ言う事を聞くようになっていた。
 彼ら全員の頭の中にはすでに最後の一匹を倒した後のことが思い描かれていた。



 だがそうはならなかった。

「ックッチャ・・・クッチャクチャ・・・・・・ゴクンッ!!」

 最後の一匹が彼らによって殺された四匹の死骸を食べ始めたのだ。
 いや正確には拓真が四匹目を倒した頃には他の三匹はすでに丸呑みされていた。
 最後の死骸を喰い終ると・・・・・・『ソレ』の体に変化が起きた。

ゴキンッ・・・・・・ベリベリベリ・・・・・・メキメキ・・・・・・

 骨格が変化し、皮を突き破る嫌な音をたてながら、『ソレ』は今までより遥かに巨大に凶悪に変化する。
 先ほどまで人の太ももの辺りまでしかなかった体が異常な速度で肥大しはじめる。
 体のいたるところから尖った骨が突き出し、牙も更に長く伸び始める。
 4匹を体に取り込んだせいか、一対2個の赤い眼球は、いつの間にか5対10個と、その数を五倍に増やしていた。
 見るからに凶悪さを増していくその姿は、否応なしに彼らを絶望の淵へと叩き込む。

「おいおい、いくらなんでもそりゃ反則やろ・・・・・・」

「そんなぁ・・・・・・ウソでしょ・・・・・・」

 青ざめた顔で拓真が呟くと、その後ろで腰を抜かした和葉が泣きそうになりながら太一の胸に体を預けていた。
 太一も必死で震えをこらえるが、その表情には絶望以外の感情が写っていい。
 美香は太一の腰にしがみ付き、もうとっくに泣き出していた。
 先ほどの一瞬の好転が嘘の様に、四人の目から涙が浮かび、その表情は絶望を絵に描いたようだった。

・・・・・・こいつはヤバイな・・・この変態が終わる前にけりをつけないと。

 ただ一人冷静さを失っていない男がいた。風明だ。
 ムクムクと体を膨らます『ソレ』を待っていて良いことは無いと判断した風明は動かない『ソレ』めがけて走り出した。
 そして次の瞬間には渾身の右のハイキックを叩き付けた・・・・・・はずだった。

ドンッ!!・・・・・・・ゴシャ!!

 得体の知れない姿に変態した『ソレ』によって、何が起こったかもわからないまま風明は吹き飛ばされ、壁に背中から激突する。
 風明が激突したコンクリートの壁にひびが入りパラパラと壁が薄く剥がれ落ちる。
 まぁそんな勢いでコンクリに叩きつけられても大した怪我をしていない風明もかなり人間離れしているが。
 とわいえ風明が放った蹴りが届く前に逆に恐ろしいほどの力で叩き飛ばされてしまったのだ。
 しかもその巨体には似合わない驚くべきスピードで。
 やられた風明本人が、何をされたのか一番分からなかっただろう。しかし、これだけは誰よりも分かったはずだ。

・・・・・・絶対勝てない・・・危険だ・・・・・・
 
 勝てないと知りながらもふらふらと立ち上がるが、その足元は定かではなかった。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」

・・・・・・なんでだ? 何でこんな事になった??

 背筋を流れる冷たい汗。服が背中に張り付くのが嫌になるほどわかる。
 絶望にくれながらも身構える風明。

・・・・・・負けるわけには・・・いかないんだ。皆を・・・護るんだ・・・・・・。

「グルゥゥアアアァァア!!」

 しかし、そんな事はしらんとばかりに、『ソレ』は風明ではなく太一たちに襲い掛かった。
 標的の変更に気づいた風明も全速力で走り出す。

「はぁあぁ!!」

ガッ!・・・・・・ドンッ!!

 気合一閃拓真が木刀を叩きつけるが、何事も無かったかのように『ソレ』は前足で拓真を吹き飛ばし一瞬で体の自由を奪った。
 変態前の『ソレ』を一撃で葬り去った一撃すら1秒の時間稼ぎにもならないまま、太一たち3人のもとへ『ソレ』は一直線に走る。
 腰の抜けた女を二人も抱えた彼に逃げるすべは無い。

「駄目だ!!」

ドンッ!

 拓真のコンマ数秒の時間稼ぎのおかげだろう。
 『ソレ』よりも一瞬先に太一たちのところまでたどり着いた風明は三人を右手で突き飛ばし・・・・・・その右腕に、『ソレ』が喰らい付いた。


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