Blood×Blood


1 :銀次 :2007/02/16(金) 01:29:03 ID:ommLPnxD

〜1〜

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」

 なんでだ?
 何でこんな事になった??

 背筋を流れる冷たい汗。服が背中に張り付くのが嫌になるほどわかる。
 そして・・・・・・

「グルゥゥアアアァァア!!」

 巨大な黒い塊その体と対照的な純白の牙を剥き襲いかかった。


2 :銀次 :2007/02/16(金) 01:30:49 ID:ommLPnxD

〜2〜

「最近、夜学校から変な呻き声が聴こえるって噂しってる?」

 5人の会話の中、そう切り出したのは『朝霧 和葉』だった。
 所属クラブ・・・・・・卓球部。好きなジャンル・・・・・・オカルト、ホラー。
 若干危ない香りがしないでも無い彼女だが、屈託の無い笑顔となによりもその明るい性格から皆からも好かれていた。
 持ち前の野次馬根性とオカルト好きな性格から、しばしばいらぬ騒ぎに首を突っ込み、結果彼ら5人に数多くの災難を振りまいてきた張本人だ。
 
「また和葉がいかがわしい話し嗅ぎ付けてきやがったよ・・・・・・。」

 呆れ顔で『岸辺 太一』がため息をつく。
 5人の中で最も頭がよく、一番冷静に事を見る事に長けた彼の気持ちを代弁すれば、「厄介な事になった。またロクでも無い事が・・・・・・。」といったところだろう。
 実際、前に和葉が5人に持ち出した「昔住んでいた華族の亡霊が出る三丁目の洋館」の話の時も、入念に計画を建てていざ乗り込んでみれば実は普通に人が住んでいたという実に興ざめなオチで終わってしまった。
 しかも、考えて欲しい。ボロボロの無人の洋館に乗り込んだならともかく、普通の人が住んでいる家に堂々と乗り込んだのだ。
 もちろん、主人が帰ってきた後の展開は・・・・・・学校に通報されて全員相談室送り。
 その家の主人は仕事の都合上、夜中に帰ってきていただけで、昔住んでいた華族の亡霊どころか最近引っ越してきたうえ、まだ20代だった。

「どうせまた、つまんねぇ結末で終わっちまうからやめとこうぜ。」

「そうそう。和葉の話に付きあっとったらロクなことならへんからなぁ。」

 太一の冷静な制止に便乗した関西弁の男は『片岡 拓真』。
 生まれが神戸で、関東に住む今でも誇りを持って関西弁を使い続けるなかなかの強者だ。
 ちなみに、標準語の地域に引っ越しても方言を治そうとしないのは、関西弁や大阪弁を喋る人たちだけらしい。
 その関西弁から周りから軽い奴だと思われがちだが、意外と賢く思慮深い一面があったりする彼も太一にと同様和葉の話しにノルのは面倒くさいと判断したらしい。

「・・・・・・でも、俺・・・ちょっと興味ある。」

「お!? さすが風明! ウチも和葉の話に興味あるんよ。」

 ボソっと低い声でうなるように声を発したのは『磯部 風明』。
 この学校の高1の中で最も大きい体を誇り、運動神経もかなり良く、見た目がかなりいかつい・・・・・・。
 その風体から怖がられたりもしがちだが、とても優しい性格をしており、実際にキレた姿を見た事があるのは、小学生の頃から付き合いのある太一だけだ。
 風明に便乗した関西弁の女は『片岡 美香』。
 苗字からわかるように、拓真の双子の姉だ。
 その関西弁から周りから軽い奴だと思われがちだが・・・・・・実際軽い奴だったりする。

「ほらぁ〜多数決で決定!! 今日の放課後一回家に帰って7時に校門前に集合ね!!」

 キィ〜ンコォ〜ンカァ〜ンコォ〜ン・・・・・・

 和葉の元気良い声とともに彼らの教室には昼休みの終わりを告げる鐘が鳴り響き、五人は各々の席に散っていった。


3 :銀次 :2007/02/16(金) 01:32:22 ID:ommLPnxD

〜3〜

 今日のスケジュールはこうだ。
 7時に校門の前に集合した後、全員で校門から一番近い本館の校舎の一階に忍び込む。
 といってもこの学校には、何故か宿直室と言うものが無く、教師にばれる・・・・・・と言う心配は皆無なのだ。
 そこから階段で3階まで登り渡り廊下から西館に移り、家庭科室で少しガス機器を拝借して、和葉と美香の手料理で舌鼓をうつ。
 9時半まで家庭科室で適当に時間を潰した後、本格的に行動開始。
 呻き声が聴こえる・・・・・・と噂のたっている東館一階の用務員室にあらかじめ今日の放課後に和葉が職員室から拝借したカギで侵入し一通り散策。
 何も無ければそこで解散。何かがいれば・・・・・・といったものだ。


 最初の異変は・・・・・・西館から東館へ行く途中に通る本館3階で起こった。
 7時に学校へ全員で来たときには閉まっていたはずの、職員室の扉が一つだけ開いていたのだ。

「ねぇ・・・・・・あの職員室の扉って、閉まってなかったっけ?」

 和葉が異変に気づいた。
 この学校から生徒が帰るのは午後6時。その30分後には教職員も全員帰るはずだ。
 そして、7時過ぎに3階を通った時・・・・・・たしかに3つある職員室の扉は全て閉じていた。

「そうやったかぁ? 夜の学校やから雰囲気もあるし、気のせいちゃうか??」

 いや気のせいなどではない。
 その事は拓真自身が一番良く分かっていた。
 6時半には教職員が基本的には全て帰る決まりになっているとはいえ、残業して残っている教職員がいないとも限らない。
 抜け目の無い彼は、職員室の扉が全て閉まっており、明かりも全て消えている事を確認していた。
 
・・・・・・ちょっとヤバイかもしれんな・・・・・・

 拓真の中に戸惑いがよぎる。
 
「気のせいかなぁ・・・・・・まぁいいや。行こ!!」

 和葉が屈託の無い笑顔ではしゃぐ。
 どうやら拓真の言った事を信じたようだ。


 しかしもう一人、他の誰もが気づかない異変に気づいた男がいた。
 風明だ。
 彼のその2メートル近い巨体だから気づいたのだが・・・・・・蛍光灯が熱を帯びている。
 もちろん、生徒が下校してから間もない7時過ぎには熱がかすかに残っていた。
 しかし、その時よりも明らかに強い熱が蛍光灯の周囲を包み込み、常人離れした高さにある彼の顔からその熱は確かに感じ取れた。

・・・・・・これ・・・俺達のこと気づかれてる・・・・・・?

 口下手で、喋るテンポが遅い故に、頭の回転が遅いと思われがちな彼だが、実は成績は学年でも10本の指にはいるほどで、それほど間が抜けている訳はないのだ。
 当然嫌な予感が頭をよぎる。

 太一も風明と拓真の二人の様子の微妙な変化から、なにかマズイ気配がしていることを感じ取っていた。




 そんな中、ただ一人美香だけは何ひとつ気がつかず用務員室に待ち受けるドキドキに胸を躍らせていた。


4 :銀次 :2007/02/16(金) 01:34:55 ID:ommLPnxD

〜4〜

 美香を除く4人全員が、胸になんらかの不安を抱えたまま遂に用務員室まで着いてしまった。

 ・・・・・・ガチャッ

 和葉がカギを差込みその右手をひねると、歯切れの良い音と共に扉を拘束していた金具は取り外された。
 扉を開けると用務員室独特の、わずかな汗の臭いと、焦げ臭さが彼らの鼻腔のを抜けた。
 とわいえ、これといっておかしな点も無く、呻き声どころか物音一つ聞こえない・・・・・・まま帰ればよかったのに。

「なんだぁ〜・・・・・・何にも無いじゃん。結局、この話もウソだったみたいねぇ〜。」

 照れ半分残念半分といった表情で辺りを見回していた和葉が振り返った。

「みたいやなぁ〜。今回は結構期待しとったのになぁ〜。うわっ!! なんで用務員室にこんな木刀があんねん!?」

 拓真が傘たてから一本の木刀を拾い上げブンッと風を切る音をたてる。
 
「じゃあ、もう帰ろっ・・・・・・」

ガタッ・・・・・・!!

 なにかが動くような物音。
 咄嗟に振り返る和葉。

「えっ?」

 何も無い・・・・・・いや違う、視界に入らないほどソレは接近していた。
 チラリと目線をおとすと・・・・・・嫌な息遣いとその真っ黒な体と対照的な赤い目と白い牙を剥き出しにした犬や狼に似た何かが居た。

「ウソ・・・・・・」

ウウゥウウゥウウウゥ・・・・・・

 呻き声をあげる何かの出現。
 ソレの突然の出現に和葉は、ストンッと腰を抜かしてその場にへなへなと腰を下ろしてしまった。
 その姿に全員が硬直する。
 全部スローモーションに見える世界。
 襲い掛かる牙。
 飛び散る鮮血。

「おぉぉおおぉぉ!!!」

「ギャァ・・・・・・!!」

 和葉に飛びかかろうとしたソレは、すんでのところで風明の巨大な拳に打ち付けられ口から血を巻きちらしながら用務員室の置くへ吹き飛んでいった。

「・・・・・・逃げるぞ!!」

 風明が何時に無く厳しい表情で叫ぶと、全員我に帰り東館の出口に向かい走り出した。
 腰を抜かした和葉も風明に軽く持ち上げられ、人一人抱えてるとは思えないほど軽やかに素早く風明も皆の後を追って走り出した。
 出口はすぐそこのはず・・・・・・だった。
 しかし、今はすでに夜10時。
 出口の鍵があいているわけも無く、針金入りの出入り口のガラスは太一が全速力で体当たりしてもビクともしなかった。

「くそ!! いきどまりかよ!! 内側から位鍵無しで開けれるように作っとけよ!!!
 俺達が入った時に使った本館の入り口が空いてるはずだ、渡り廊下に急ぐぞ!!」

 太一は全員に声を掛けて走り出した、いや走り出そうとした。
 数歩も進まぬうちに風明に制止されたのだ。
 風明の視線の先には、さっきの得体の知れない何かが5匹うごめいていた。
 背中には鍵のかかった出入り口。
 つまり、彼らの後ろに・・・・・・逃げ道はもう無い。


5 :銀次 :2007/02/16(金) 02:00:57 ID:ommLPnxD

〜5〜

・・・・・・まずいな。

 風明の背中に嫌な汗が流れる。
 あまりにも分が悪いのだ。
 相手は5匹。こちらも5人。ただし中身は話にならない物だった。
 こちらの5人のうち2人は女。それに風明以外の男もこの得体の知れない何かに太刀打ちできるかは正直疑問だった。

・・・・・・しかたない・・・・・・やれるだけやるしかないな。

 腹をくくった風明が身構える。
 左足より半歩下げた右足に力を込め、地面を蹴り、走り出そうとしたその一瞬前に風明の横を後ろから誰かが駆け抜けた。

「はぁぁああぁ!!!」

 先ほど用務員室でパクッたまま持ってきてしまった木刀を握り締め拓真が一番前にいた『ソレ』に斬りかかる。
 彼は剣道部に所属しており、その腕もなかなかのもので県大会上位の常連の一人なのだ。
 その身のこなしは並みのものではなかった。
 しかしすんでのところでその一撃はかわされ、背後から別の『ソレ』が拓真に襲い掛かる。
 和葉達が悲鳴をあげそうになる中、まるで背中に目があるように拓真は体を翻しながら上段の一撃を正確に『ソレ』にむけて叩き込んだ。
 グシャッと肉が潰れる嫌な音と、グエッっというなんとも間抜けな悲鳴と共に一匹目が息絶えた

「風明。ボサッとしてないでドンドンいくで。俺一人じゃ、さすがに全部はきついからなぁ。
 でも良いとこ全部風明にもってかすわけにはいかんわぁ。」

 にやっと風明のほうを見て一瞬笑うと、すぐに残り4匹になった『ソレ』を睨みつけ戦闘態勢に再び入る。
 今度はこちらから飛び掛る前に向こうから三匹飛び掛ってきた。
 一匹は風明に二匹は拓真に。
 風明は左足を一気に振り上げると、『ソレ』の顎の下に見事につま先がめり込みそのまま天井まで蹴り上げた。
 天井に頭がめり込みそれだけでも虫息の『ソレ』に無情の右拳がふりかかり2匹目も息絶えた。
 拓真に飛び掛った『ソレ』も、片割れは下段から振り上げた木刀に吹き飛ばされ、そこから返す刀で叩きおろされた木刀によってもう片方も叩き潰された。
 拓真のそれは剣道というよりは剣術で、試合で勝つためというよりは純粋な戦闘の方に特化しているように思えた。
 実際いまの2撃のコンビネーションも剣道の試合で使われるような物では決して無いはすだ。
 何故拓真が剣術を使えるかは別として、風明には嬉しい誤算だったようだ。

・・・・・・これで残りは一匹のはず・・・いけるな・・・・・・

 後ろで見ている拓真たち三人も同じことを考えているらしく、自然と顔の強ばりがとれていく。
 がくがくと震えていたその体も、少しずつ言う事を聞くようになっていた。
 彼ら全員の頭の中にはすでに最後の一匹を倒した後のことが思い描かれていた。



 だがそうはならなかった。

「ックッチャ・・・クッチャクチャ・・・・・・ゴクンッ!!」

 最後の一匹が彼らによって殺された四匹の死骸を食べ始めたのだ。
 いや正確には拓真が四匹目を倒した頃には他の三匹はすでに丸呑みされていた。
 最後の死骸を喰い終ると・・・・・・『ソレ』の体に変化が起きた。

ゴキンッ・・・・・・ベリベリベリ・・・・・・メキメキ・・・・・・

 骨格が変化し、皮を突き破る嫌な音をたてながら、『ソレ』は今までより遥かに巨大に凶悪に変化する。
 先ほどまで人の太ももの辺りまでしかなかった体が異常な速度で肥大しはじめる。
 体のいたるところから尖った骨が突き出し、牙も更に長く伸び始める。
 4匹を体に取り込んだせいか、一対2個の赤い眼球は、いつの間にか5対10個と、その数を五倍に増やしていた。
 見るからに凶悪さを増していくその姿は、否応なしに彼らを絶望の淵へと叩き込む。

「おいおい、いくらなんでもそりゃ反則やろ・・・・・・」

「そんなぁ・・・・・・ウソでしょ・・・・・・」

 青ざめた顔で拓真が呟くと、その後ろで腰を抜かした和葉が泣きそうになりながら太一の胸に体を預けていた。
 太一も必死で震えをこらえるが、その表情には絶望以外の感情が写っていい。
 美香は太一の腰にしがみ付き、もうとっくに泣き出していた。
 先ほどの一瞬の好転が嘘の様に、四人の目から涙が浮かび、その表情は絶望を絵に描いたようだった。

・・・・・・こいつはヤバイな・・・この変態が終わる前にけりをつけないと。

 ただ一人冷静さを失っていない男がいた。風明だ。
 ムクムクと体を膨らます『ソレ』を待っていて良いことは無いと判断した風明は動かない『ソレ』めがけて走り出した。
 そして次の瞬間には渾身の右のハイキックを叩き付けた・・・・・・はずだった。

ドンッ!!・・・・・・・ゴシャ!!

 得体の知れない姿に変態した『ソレ』によって、何が起こったかもわからないまま風明は吹き飛ばされ、壁に背中から激突する。
 風明が激突したコンクリートの壁にひびが入りパラパラと壁が薄く剥がれ落ちる。
 まぁそんな勢いでコンクリに叩きつけられても大した怪我をしていない風明もかなり人間離れしているが。
 とわいえ風明が放った蹴りが届く前に逆に恐ろしいほどの力で叩き飛ばされてしまったのだ。
 しかもその巨体には似合わない驚くべきスピードで。
 やられた風明本人が、何をされたのか一番分からなかっただろう。しかし、これだけは誰よりも分かったはずだ。

・・・・・・絶対勝てない・・・危険だ・・・・・・
 
 勝てないと知りながらもふらふらと立ち上がるが、その足元は定かではなかった。

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・。」

・・・・・・なんでだ? 何でこんな事になった??

 背筋を流れる冷たい汗。服が背中に張り付くのが嫌になるほどわかる。
 絶望にくれながらも身構える風明。

・・・・・・負けるわけには・・・いかないんだ。皆を・・・護るんだ・・・・・・。

「グルゥゥアアアァァア!!」

 しかし、そんな事はしらんとばかりに、『ソレ』は風明ではなく太一たちに襲い掛かった。
 標的の変更に気づいた風明も全速力で走り出す。

「はぁあぁ!!」

ガッ!・・・・・・ドンッ!!

 気合一閃拓真が木刀を叩きつけるが、何事も無かったかのように『ソレ』は前足で拓真を吹き飛ばし一瞬で体の自由を奪った。
 変態前の『ソレ』を一撃で葬り去った一撃すら1秒の時間稼ぎにもならないまま、太一たち3人のもとへ『ソレ』は一直線に走る。
 腰の抜けた女を二人も抱えた彼に逃げるすべは無い。

「駄目だ!!」

ドンッ!

 拓真のコンマ数秒の時間稼ぎのおかげだろう。
 『ソレ』よりも一瞬先に太一たちのところまでたどり着いた風明は三人を右手で突き飛ばし・・・・・・その右腕に、『ソレ』が喰らい付いた。


6 :銀次 :2007/02/17(土) 13:51:19 ID:ommLPnxD

〜6〜


バリバリバリ・・・・・・

 肉を食い破る嫌な音が耳を走る。
 食い千切る寸前で『ソレ』の姿が止まった。いや止まっているように見えた。

・・・・・・ああ走馬灯ってやつか・・・俺、死ぬのかな・・・・・・

 自慢の右腕は肉を食い破られ鮮血が飛び散り、すでに目を向けることも出来ない姿になってしまった。もう、拳も握れない。勝つ材料が無くなってしまった。いや、勝つ材料などもともとなかったのかもしれない。
 自分が死ぬと思ったときの人間の集中力は凄まじい物で、冴え渡る感覚と頭脳はむしろその恐怖を煽り立てる。全ての状況を一瞬で把握できるほどの集中力、しかしその肉体は知覚したスピードに全く付いていけず時がとまったようにすら感じる。
 『ソレ』の向こう側には、彼に庇われたおかげで、まだ傷を負っていない太一たちがみえる。
 
・・・・・・護りきれなかった・・・大切な友達を・・・

 体の大きな転校生。小学2年生の頃に引っ越してきた風明を待ち受けていたのは、子ども故に容赦の無い残酷な虐めだった。自分達と違う知らない物を受け入れられる程、子どもの心は広くないモノだ。
 そんな、風明に手を差し伸べてくれたのが太一だった。
 興味半分で虐められ、口下手でなかなか上手く喋りかける事が出来ない彼に真っ先に声を掛けてくれたのは太一だった。
 いたずらに彼を傷付けようとする子どもを、止めてくれたのは太一だった。
 暴走する自分を、体を張って止めてくれたのは太一だった。
 『人を護る時だけ、俺はこの拳を握る。握ったからには絶対護る!』そう誓いを立てさせてくれたのは太一だった。
 辛かった少年時代が頭をかける。唯一自分を止めてくれた人との誓いすら果たせない自分に苛立ちが走る。彼の腕に喰らい付く得体の知れない何かに、憎悪がよぎる。

・・・・・・負けられないんだ・・・・・・







『力が欲しいか?』







 どこからとも無く声が聞こえた次の瞬間、彼は巨大な砂丘の中心に立っていた。


7 :銀次 :2007/02/17(土) 13:52:15 ID:ommLPnxD

〜7〜


「・・・・・・ここは?」

 突然の周囲の突然の変化に戸惑いを隠せない。しかも、食い破られたはずの右腕は何事も無かったかのように再生している。

『ここは貴公の心の中だ、風明。』

 頭上から降ってくる声に驚き顔を上げると、そこには床も無いのに宙に浮かぶいかつい男が立っていた。浅黒い肌に鍛え上げられた筋肉。高のように鋭い目つきにあごの先だけに生えたひげ。肌の色と対照的な白く長いコートのような服を着た男は、まさに無骨を絵に描いたような男だった。
 男はまるで階段を降りるように、風明のもとへとゆっくりと歩みよる。

「・・・・・・さっきの声は・・・アンタか? アンタは何者だ?」

 戸惑いながらも、第一に思い描く疑問を率直になげかけた。

『いかにも。あの声は私のものだ。私は何者か・・・・・・少々答えにくい質問ではあるが、あえて言うならば貴公の相棒だよ。私は貴公がこの世に生を受けた時から貴公の魂と共にあった者だ。そしてこれからもな。』

 その見た目とは少々ギャップのある紳士的な口調で、風明の質問に答え軽い自己紹介をすました頃には彼は地面に立っていた。気がつけばすぐ目の前にまで接近していた彼に、つい身構えてしまう。
 2メートル近い風明ですら軽く見上げるほどの巨大な体。本人にそのつもりがなくとも、その肉体は強烈な存在感と威圧感をはなっていた。こんな男を目の前にして、警戒するなと言うほうが無理な話だろう。

『そう硬くならないでくれよ。私は貴公の味方なのだから。』

 にこやかに歩み寄る男。怪しい雰囲気ムンムンではあるが、見る限りでは悪意は見えない。それに何処か懐かしいきもする。

『そろそろ私の質問に答えてくれないか? ・・・・・・力が欲しいか?』

 にこやかな表情が一瞬にして凍りつく。おそらくこの顔こそこの男の本性だろう。邪悪さは感じ取れないが、その表情からは強い意志と揺るがない決意が感じ取れた。
 
「・・・・・・アンタを信じても良いのか?・・・・・・ソレは正直わからない。でも・・・・・・俺はこのまま死ぬわけにはいかないんだ。力が必要なんだ!! ・・・・・・何かを壊すための力なんか要らない、だけど誓いを護るだけの力が!! 大事な人を守り抜くだけの力が欲しいんだ!!!」

 普段物静かな彼が珍しく声を荒げ叫ぶ。それほど強い意志に、彼は突き動かされている。

『一度力を欲すれば、お前は常に戦いの中に身をおく事になるぞ? それでも貴公は良いのか?』

 わざと決意が揺らぐような台詞を男は言い放つ。
 しかし、嘘ではないのだろう。彼の表情がそう物語っている。

「・・・・・・それがどうした。太一達を護るためなら、俺は何時だって戦ってやるさ。」

 けして揺るがぬ決意。鋼の硬さを持つ決意に支えられた風明の瞳には一点の濁りも無かった。その瞳をしばらく見つめた後満足そうに男は頷く。

『それでこそ私の相棒だ。良いだろう、力を貸そう。貴公に死なれては私も困るのでな。』

 凍り付いていた表情がいつしか緩むと、男の周りを光が包み徐々にその光に飲み込まれていくように男の姿がおぼろげになってゆく。男が完全に光の塊に変化すると、その光はやさしく風明を包み込み、そして浸透していく。
 光が体に染み込むにつれ、自分の体とは思えないほどの力がこみ上げてくるのがわかる。体からあふれ出てしまいそうな程の力が、体を満たす。



『少々見た目が禍々しいが文句は言わないでくれよ。”我が名はケルベロス! 我、汝に宿りし守護神なり!! 守護神の契約のもと、我が力を汝に与え、その身を守り抜くことをここに誓わん!!!”』



 光の中から、契約の文が読み上げられたと同時に光は弾け、そこには誰一人として立っていなかった。












 覚醒する意識。
 今までのことがまるで夢のように思えるような周囲の変化。それでも夢じゃないという確信を彼にもたらす、体に漲る確かな力。

「契約のもとに請い願わん!我に力を!!」

 誰に教えてもらったわけでもなく、しかし澱みなく契約の執行を告げる呪文が唱えられる。教えてもらう必要など無いのだ。生まれたその時から彼はもう知っているのだから。
 風明の明らかな変化に思わず『ソレ』が食い破ろうとした腕を吐き捨て後方へ跳ぶ。
 そこには信じられない光景が広がっていた。
 確かに千切れる寸前まで牙の食い込んでいたはずの腕はすでに修復されていた。そして傷口があった場所を中心に明らかに人のそれとは違う色の皮膚が腕を覆い始める。
 濃い紫をした皮膚が風明の肩まで覆い尽くす。爪も黒く変色し長く伸び、先は野生の獣のように鋭く尖っている。腕全体が以前より明らかに太く膨張し、肩と肘には、まるで関節を護るように周囲の皮膚とは又違う、黒い光沢を帯びた鎧に覆われていた。
 よく見れば、紫の皮膚に覆われた皮膚のところどころから、肩や肘のものと同質の黒い鉱石のようなものがのぞいており、その根元は皮膚と同化している事から、あの鉱石も取ってつけたものではなく彼の体の一部なのだろう。
 
「・・・・・・確かに、見た目は禍々しいかも・・・・・・な。」

 自分の右腕を試すように動かしながらボソッと風明が本音を漏らす。確かにどうせ力を手に入れるなら、天使の羽とかもっと華やかな見た目の方が嬉しいものだ。

”文句は言わないでくれと言ったはずだが? それにこの力は貴公自身の力だぞ。”

「・・・・・・わかってるさ。ちょっと言ってみただけだ。」

 風明にすればケルベロスに返事をしているだけだが、ケルベロスの声は風明以外に聞こえないので、独り言をぼやいているようでかなり怪しい。その異様な姿とあいまって、警察に連れて行かれても文句を言えないような危ない空気を風明は図らずして作り出していた。
 今にも食われそうになっていた友人の無事に、太一も拓真も和葉も美香も一瞬安堵したが、あまりの風明の変貌に正直どうリアクションをしたらいいのか困って固まっている。

「・・・・・・なにはともあれ・・・・・・いくぞ!」

 右腕に力を込めると、まるで空気が集まり凝縮していくような感覚を覚える。今まで漆黒だった腕の鉱石が徐々に光を帯びてゆく。
 漲る力を爆発させるように地面を蹴り、『ソレ』との間合いを一瞬で詰め、射程距離に入った『ソレ』に向かって右拳を振りかぶり力を解き放つ。
 すると拳を叩きつける直前に、光を帯びていた鉱石から栓を抜いたように光があふれ出し、やがてその光を紅蓮の炎へと姿を変えた。
 腕全体からあふれ出した炎は拳の目指す先へと一気に走り、『ソレ』に拳が当たる前に消し炭へと変えていた。
 炎は全てを焼き払うと、再び光に戻り、そして空気に溶け込むように消えていった。

「・・・・・・これが・・・俺の力?」

 想像よりも遥かに強力な力に面食らいながらも、敵を倒した事を確認すると風明の腕が徐々にもとに戻っていく。
 腕から巻き起こった炎は、『ソレ』を燃やし尽くし、直接は当たっていないはずのコンクリートの地面を溶かしていた。

・・・・・・力が欲しいとは言ったが・・・まさかこれほどとは・・・。

 なにはともあれ、護りたかった人達の無事を振り返って確認すると・・・・・・満足気に笑いながら糸が切れたように倒れこんでしまった。
 風明の突然の昏倒に驚き、太一達が駆け寄るが眠っているだけだと気づくと取りあえず一安心し、太一と拓真の2人掛りで風明の巨体を運び、なんとか本館の一階の入り口から学校を出て、今日の冒険は幕を閉じた。
 その後、太一は全員を家に送り届け、今は自分も家に帰りベッドの上でゴロゴロしている。風明も途中で目覚めてそんなに長い時間かついではいなかったのでそれ程疲労しなかったが、異常な恐怖を味わったせいで、まるで自分の体が鉛になったような脱力感を感じる。

風明が戦ったときに壊しちまった壁とか、炎で溶けちまった地面とか大丈夫かな?

 明らかに大丈夫じゃない位激しい戦いの傷跡が校舎に残っている事は若干気にはなったが、今はいさぎよく睡魔に負けて、明日に向けて力を蓄える事にした。


8 :銀次 :2007/02/18(日) 04:20:45 ID:ommLPnxD

〜8〜

「・・・・うっそやろぉ?」

 夜の学校探検から一夜明け、学校に行くと・・・・・・校舎の傷が直ってた。
 風明が叩きつけられてひびの入った壁も、炎によって溶けた地面も、昨日の夜のあらゆる痕跡が消えうせていたのだ。
 ちなみにこのお決まりのリアクションをとるのは拓真が3人目。いつも遅刻している美香以外の4人はすでに登校しており、その異常な光景をすでに目の当たりにしているのである。

「漫画やあるまいし・・・・・・こんなんアリかよ? あの痕跡が原因で今日の授業がなくなるんを、マジで願っとったのに!」

 いやいやこの世界も漫画と似た様なもんだろ・・・・・・とかいう鋭いツッコミはあえてスルーさせていただきます。
 教室に入ると、いつものメンバーのうち自分と姉を除いた3人は、すでに太一の机のところに集まっていた。ちなみに、美香は拓真が起きる時と同時に起こされ、拓真が家を出る時も声を掛けたが、まだけたたましいいびきをたてながら三度寝を満喫している頃だろう。
 彼女が教室に登場したのは、2限目の丁度真ん中辺りで、まだ眠そうな顔をしながら教室にいつものようにノタノタと入ってきた。
 さて聡明な読者様の事ですから既に気づいているでしょうが、1限目の授業前にすでに登校しているいつものメンバーは4人。そして驚いたのは3人。なぜか1人驚いていないのである。その男は・・・・・・

「・・・・・・俺、なんでか知ってる。昨日、ケルに聞いた。今日の放課後、全部話すから俺の家、来て。」

 そう、風明である。まぁ、風明ならケルから何も聞いていなくても驚いていないように見えるかもしれないが。(内心驚いていても、リアクションが小さすぎてわからない。)
 ちなみに、『ケル』とはおそらく”ケルベロス”愛称のことで、いかつい見た目とは裏腹に、実は小動物にめがなかったりする。実は小動物だけじゃなくてセントバーナードみたいなバカでっかい犬とかも好きだったりする。まぁ、早い話が彼は動物が好きなのだ。
 昨日の傷が残っているのか、彼の右手には手の平と甲だけを覆う指を覆う部分が無い手袋がはめられていた。
 昼休みに皆で飯を食べている最中に、ほとんどいつも相槌を打っているだけの彼が、一言だけそう言うと、弁当を食べ終わり5限目の古典の授業中、睡魔と闘う体力を養うために眠ってしまった。ちなみに風明が寝起きが悪いので、ムリに起こさない方が良いと分かっている彼らはペチャクチャと会話を弾ませながら食事を楽しんでいた。


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 キィ〜ンコォ〜ンカァ〜ンコォ〜ン・・・・・・

 部活終了時刻のチャイムが鳴り響く。手ぇ抜いてるとかそんな厳しいツッコミはいれないでね♪
 ちなみに五人は全員部活に所属している。既に紹介したが拓真は剣道部で、和葉は卓球部だ。太一は陸上部に所属しており、風明はラグビー部、美香はバレー部に所属している。
 彼らの学校はの校舎は、夜の間定時制の高校が利用するため、部活は必ず5時20分には終わり、急いで片付けをして5時40分には生徒全員が学校の敷地から出ないとならないという、鉄の掟がある。
 ちなみに、太一と拓真は一度だけ下校時刻を3分オーバーした事があり、下校時刻などとっくに過ぎているにもかかわらず、職員室で8時30分まで説教を喰らった事がある。
 そんな時間まで校舎に残して説教できる位の余裕があるなら、3分位のオーバー位許しても良いじゃないか・・・・・・と内心2人とも思ったが、そんな事を言ってその日中に家に帰れないなんて事態になったらシャレにならんので、そこは黙って優等生の仮面をかぶって、迫真の演技で反省しているように見せた。
 ちなみに美香が8分下校時刻をオーバーした時も同じ生徒指導の教師が校門に立っていたが、「暗いから気をつけて帰るんだよ!」っとにこやかにとても優しく・・・・・・いや、とても嫌らしく笑顔で見送ってくれたという。
 学校の教師はやはり女の味方なのだ。女の教師はガキでしょうも無い事をする男子生徒を煙たく扱い、男の教師は徐々に発達してくる体に下心丸出しで、女にやさしく接するのだ。男とはなんとも不利な待遇の生き物である。
 まぁそんな話をしているうちに、今日は5人全員が下校時刻前に校門を既にくぐったようだ。

「ギリギリセーフ!」

 チャイムが鳴り終わるギリギリに校門をくぐり、野球のセーフのジェスチャーをしながら琢磨が残りの4人に合流したところだった。

「セーフちゃうわ! うちら待たせてんから! 50円のアイスで手をうとうじゃないか。」

「なにいっとんねん! お帰りなさいませご主人様やろが!!」

 まるで紳士のような口ぶりでカラカラと笑いながら美香がおねだりする。いつもの事だ。美香は何かあるたびにおごってだの買ってだのと頼んでくる。しかし、本人も本気で言っているわけではなく、むしろ本当に買ってあげると戸惑って申し訳なさそうにしょんぼりしてしまうのだ。
 確かに彼女は軽い一面もあるが、そういう人間的なところの芯はしっかりしているようである。しかし、本当に仲の良い兄弟だ。街を2人で歩いていれば、10人が10人が、その仲の良さから恋人同士と勘違いする事だろう。

「はいはい、じゃれるのはそん位にしてとっとと風明の家に行くぞ。俺と風明は別に良いけど和葉と拓真達は家まで時間かかるんだから早く済ませたほうがお得だろ? ドラマ見る時間が無くなっちまうぞ?」

 風明と太一はこの学校の近所に住んでいるが、残りの3人は電車通学なので、一度全員が家に帰ってからだと余りにも時間がかかるので、今日は珍しく5人で風明の家に向かって下校するのであった。
 太一の言葉に「はぁ〜い、わかりました隊長!」などと穏やかな返事を返しながら、彼らは風明の家へと歩き出した。
 
「それにしてもお前らの日常会話はホント漫才みたいだな。」

「当たり前やん! オチの無い話はしたらあかんのが、関西のルールやろ!」

「・・・ここ・・・・・・関西じゃない。」

「風明うっさい! ここがヨーロッパでもアメリカでもうちがおる周りだけは関西やねん!」




・・・・・・こんなたわいの無い会話が・・・当たり前に出来る幸せな日々が、すこしでも長く続いて欲しい。



 風明は流れ星の流れない夜空をを見上げ、願った。


9 :銀次 :2007/03/08(木) 21:33:57 ID:mmVcVLk7

〜9〜


「皆・・・・・・見て。」

 風明はおもむろに彼の右手の甲を覆っていた、手袋をはずした。するとそこには、今まで無かったはずのタトゥーのような物が描かれていた。炎をモチーフにしたような模様で、よく見れば黒ではなく濃い赤であることがわかる。
 そして、そのタトゥーらしき物は「描かれた物ではない」と自己主張するかのように、よく見れば模様の中で炎が揺らめくように色合いが移り変わっていた。

「これは、俺がケルと契約した証。・・・・・・だから昨日俺はアイツに勝てた。
 えっと・・・・・・あぁ〜・・・・・・俺説明するの苦手。やっぱりケルに頼む。出てきてくれ”猛る獄炎”。」

”猛る獄炎”。これは、風明がケルにつけた真名(まことな)だ。自分の守護者と契約を結んだ時、守護者に『真名』をつけてもらい初めて契約が完了するのだと。ちなみにケル曰く、彼自身以外にはケルベロスは居ないらしい。
彼がケルの真名を唱えると、今まで揺らめいていた炎のタトゥーから本当の炎があふれ出し徐々に形を成した。





 紫色のヨークシャテリアの子犬の姿に。





「きゃぁ〜〜!!なにこれぇ〜!?メッチャかわいい!!」


 確かにメッチャかわいい。ヤバイありえん、ホンマにケルベロスかよこいつ・・・・・・。本物のヨークシャテリアと違うのは色が紫なのと・・・・・・二足歩行してること。
 美香があまりの可愛さに嬉しい悲鳴をあげてツンツンと子犬を突っつく。

「コラッ!やめんか!突っつくな!!!オイ・・・・・・コラ!!!私はケルベロスだぞ!!っていうか風明!!!なんで俺をこんな姿にしやがったこの野郎!!」

 突っつかれたケルが精一杯跳ねながら抵抗するが、サイズ的に抵抗になってない。というより、小さい犬が二足歩行でぴょんぴょん跳ねながら、子どもの声で講義してる姿は、余計萌える。どうやら、この姿の時は普段ほど硬い口調では喋らないようだ。必死の抵抗もむなしく結局、今度は和葉に鷲づかみにされて、こねくり回される。ケルの可愛い悲鳴がしばらく部屋に響き渡ったことは・・・・・・言わずもがな。

「っえへん!それでは本題にうつるぞ。」

 せっかく美しい毛並みが、撫で回されすぎてかなり乱れている。しかも若干元気なさそうだし。懸命に平静を装うケルの小さい姿で頑張る姿を見て、太一たちの後ろで緩んだ顔がなかなか締まらない和葉と美香がいた。

「真面目な話だ。真剣に聞いてくれよ。」

 姿は子犬とはいえ、その目から漂う真剣な空気に緩んでいたほうが自然と締まる。なんたって地獄の番犬ですから。

「昨日、お前達が見た化け物。アレは現世の生き物じゃねぇ。まぁ、俺も現世の生き物じゃ無いんだがな。アレは夢の世界の生き物だ。」

 いきなり別世界とか言われて、誰も話しについていけてない。四人の頭の上にバカでかいクエスチョンマークが浮かんでいる。

「夢の世界っていうのは、生まれてくる時に持ってた力が微弱な奴が行き着く先で、力のある奴は現世で生まれる仕組みになってる。そんで・・・・・・」

「ちょっとまってくれや。アイツら確実にこっちの世界の普通の生き物より強いやろ? どこが力が微弱な奴やねん??」

 ケルの説明の間に、拓真が浮かんだ疑問をねじ込む。

「話は最後まで聞けよ。力が強い奴は現世で生まれるんだが、その力を暴走させないために全員ある足かせをつけてるんだ。その足かせってのはなお前達の体そのものだ。
肉体ってのは精神エネルギーを抑制するための器で、昨日のあいつらにはソレがない。あれは、高密度の精神エネルギーの塊だ。
ちなみに寝てるときは、体と関係なく意識が自分自身の想像力そのものになるから、精神エネルギーの世界である夢の世界にいきつくんだ。」

「高密度・・・・・・って全然微弱な力じゃないやん。」

「そうだ、そこなんだよ。夢の世界の生き物って言ったって、肉体が無くて精神そのものっていう点を除けば現世の生き物となんら変わりないはずなんだ。成長もするしいずれ寿命で死ぬ。
もちろん、あんな化け物みたいな種族は居ないはずなんだ。考えにくいが、アレは夢の生き物をあとから何か手を加えた合成獣・・・・・・つまり『キメラ』だな。」

 今まで、なにか悩んでいるかのようにうつむいて黙り込んでいた太一が口を開く。

「だいたい話はつかめてきた。まぁ突拍子の無い話しすぎてかなり面食らってるけどな。昨日のアレ見た後じゃ、何言われてもマジにしか聞こえねぇよ。
どうせアンタが言わんとしてることは、現世に居るはずの無いキメラを倒せってことだろ? 違うか?」

「・・・・・・! その通りだ。」

 ケルが驚いたように頷く。驚いているのはケルだけじゃない。和葉も美香も拓真も風明もこれほど鋭い目をした太一を見た事など無かったのだ。彼にすればケルはまだまだ信頼できない対象なのだろう。まぁいきなり現れて別世界がどうだのと話しだす二足歩行の犬を信用しろと言うほうが無理な話だが。

「俺の疑問は三つだ。まず、風明と契約して力を貸しただけで、あれだけの強さを発揮するぐらい強いアンタが何で自分自身でそのキメラを倒さないのか。
それと、夢の世界の生き物じゃ普通有り得ないほど強いあの化け物を瞬殺するアンタはなんなんだ? そもそも守護神ってのは誰にでも居るモンなのか?あんたの口ぶりだと風明以外にもこの中に憑いてる奴が居るんだろ?」

 太一が的確な疑問をなげかける。

「良いね、そっちの理解が速いとこっちも助かる。一つ目の理由は簡単だ。俺は風明の守護神として風明の中に普段居るから、勝手に外に出る事は出来ない。今も、風明が契約を執行して俺は外に出てきただろ。
三つ目の質問だが、守護神は誰にでもいるわけじゃない。だが、守護神を持ってるか持っていないかは本能的なもので嗅ぎ分けるようになっていてな、お前達全員に守護神は憑いている。それが理由で、本能的にお前達5人は惹かれあったんだ。
二つ目の質問は少し答えるのが難しいんだが、今までの話に出てきた現世と夢の世界は両方とも生前の世界なんだ。俺は、その世界で死んだ後の死後の世界の住人だ。
どっちの世界で死んでも、三つの世界に振り分けられるんだが、一つは俗に言う地獄だ。これは生前に大きな罪を犯した者が行く先で、これから先転生することは永久に無い世界だ。
もう一つは・・・・・・言葉で言い表すのは難しいが、次に転生するまでの順番待ちをする世界で、ほとんどの魂はここへおくられる。
最後の一つが俺が居た世界で、ようするに神々が住む世界だ。生前に精神エネルギーが特に強かった者がココに送られて、守護神になる資格である神格を与えられるんだ。神話に出てくる神様とか、俺みたいな空想上の生き物は、ほとんどこの世界に実際に生きているよ。」

 太一の適切な判断と質問に満足したように頷きつつケルが答える。

「それを俺達に信用させる証拠は?」

「しいていうなら、昨日みせた俺の力が証拠だ。さてと・・・・・・俺からの説明はこれまでだ。
これからお前達には守護神との契約を結んでもらう。拒否するならすれば良いが、キメラどもはお前らを執拗に付け狙うぞ。お前達からは契約はまだだが守護神の臭いがぷんぷんするからな。
長生きしたければ契約する事だ。契約せずにキメラに狙われれば、必ず一週間ともたずに死ぬ。」

 『死』・・・・・・この言葉に場の空気が凍りつく。彼が言っている事は冗談でも誇張でもなんでもないのだ。その事は、昨日のことから全員が嫌と言うほど分かっている。
 とわいえ、昨日まで普通に暮らしていた人間がいきなり
『貴方は選ばれました。これから悪者と戦ってもらいます。武器をとりますね?』
 といわれて、素直にハイといえる人などそう居ないハズだ・・・・・・が?

「話はわかった。ええで、やったるわ。どうせ死ぬなら戦って死んだほうがましやしな。それに、やられっぱなしで引き下がるんは気分悪わ。」

「俺もかまわない。怖くないといえば嘘になるが、どうやら避けてどうこうなる問題ではなさそうだ。」

「私も良いよ。なんか私の好きな分野になってきたし。」

「ウチもエエよ。なんかおもろそうやし、風明ばっかりに良い格好はさせへんでぇ!!」

 コイツら好奇心旺盛すぎだろ。自分の命はもっと大切にしなきゃダメだよ? まぁ、さすがは守護神持ちと言うべきかもしれないが。

「わかった、じゃあこれからお前達には自分達の中に入って守護神に会ってきてもらう。
全員がすんなり力を貸してくれるとは限らんが、彼らに自分の可能性を示せれば契約できるはずだ。自分自身の中では精神エネルギーそのものだから、現実じゃありえないような動きも出来るから、それらを駆使して自分をしめせ。
じゃあ・・・・・・話の続きはまたあとでだ。・・・・・・後悔・・・すんなよ?」

 そういうとケルの目がギラリと一瞬とても眩しく光り、光が消えた頃には風明も含めた5人全員が横たわっており、部屋にいたはずの子犬は、毛を数本をのこして消え去っていた。


10 :銀次 :2007/03/10(土) 03:42:46 ID:mmVcVLk7

〜10〜ver.風明

 目を開けていられないほどの眩しさに目を閉じた瞬間、まるでジェットコースターに乗っているかのような浮遊感に包まれた。内臓が持ち上がるような感覚が去った後、ようやく眩んだ目も昨日を取り戻し始め、気づいたときには見覚えのある砂丘の真ん中に立っていた。そして、ほんの数メートル前には、初めて出会った時と同じ姿でケルが立っている。

「ケルの目が光って・・・・・・そうか、ココは俺の中か。さっき俺達になにしたんだ?」

『あぁアレか。アレは目から大量の魔力を放出しただけだ。貴公達の体には、精神エネルギーの抑制作用がある事は話したな?同じように、強すぎる精神エネルギーを拒絶する機能も備わっているんだ。ほら、よく物語などで化け物に遭遇すると瘴気にあてられて人が倒れるとかいうだろう? ソレと同じで私が視線から放った強力な精神エネルギーにあてられて意識が飛んだんだ。』

 あんな可愛い姿をしているくせに、なかなか凶悪な事を前置きも無くするものだ。要するに、頭ど突いて気絶させたようなモノなのだから。

「なんか危なそうな事したな・・・・・・。でも・・・俺、もうケルの力使えるのに、意味あるのか?」

『そこなんだがな、あのキメラたちは普通の夢の世界の生き物じゃ無いって話したな? 夢の生き物の改造の技術は現世には無い。そもそも、現世の物では精神体には基本的に触れられないからな。
つまり、この件には必ず裏で私が住んでいる世界である神界が必ず一枚かんでいるはずだ。確かに風明、貴公は私の力を使う事が出来るが、アレはまだ状態Tだ。神界の神や魔獣に立ち向かうなら、状態Uになる事が絶対条件だ。』

 風明の表情がケルの話が進むに連れて曇る。ようするに意味が分からないのだ。ケルもその事に気づいたようで・・・

『簡単に言うとだな、「黒幕に強い奴が絶対居ます。ソイツを倒すにはパワーアップしなくちゃいけません。」・・・・・・ということだ。わかったな?』

 と出来るだけ噛み砕いて言い直す。風明はそこまで簡単に言わなくても・・・っとでも言いたげな表情だが、そこはスルーしてケルは話を続けた。

『さっき話した状態Tっていうのは、体の一部を守護神と共有する状態だ。昨晩の風明の状態はこれだ。共有する範囲は、血液が流れる時に最も細胞から溶け込む魔力が多いポイントから上下左右均等に広がって体の約20%の範囲だ。貴公の場合は、精神エネルギーそのものであるキメラに喰らい付かれた事で、抑制作用が極端に低くなって魔力放出し放題の右腕を私と共有することになる。風明の体の中で、右腕は魔力を最も強く放出できるポイントだ。覚えておけよ?
状態Tになると、普段隠れている私の存在が表面に20%だけ具現化するから、普段の状態に比べて貴公の存在が20%減る。つまり、状態Tを解いた時に減少した二割分の魔力が体から欠乏しているため、その分体に疲労感が残るが、これは休息をとれば三時間ほどで回復するからあまり気にしなくて良い。
状態Uは、体全体を守護神と共有する。状態Tに比べて桁外れに強い魔力を発揮できる分、消耗も激しい。状態Uになっている時は、私と貴公の存在がちょうど五分五分で体内に存在する事になるのでな・・・・・・。解除した後の回復にかかる時間は個人差や慣れの影響が大きいが、始めのうちは半日ほど寝込むかもしれんな。それ故に、発動には注意が必要だ。覚えておけ。』

「おっおい・・・・・・まさか、体中があんなに厳つく・・〜・くなるのか?」

 途中が聞き取れないが、まぁキモくとか禍々しくとかそこ等辺の単語が入る事だけは間違いなさそうだ。
正直少し不服そうな表情でケルが答える。僕だって好きであんな姿なんじゃないよぉ〜だ!・・・・・・っとでも言いたげである。

『安心しろ。状態Uは私の割合が増えるぶん、より私の今の姿に近づく。状態Tの時のような不完全で、見るからに人間でない姿にはならないはずだ。まぁ多少は獣の姿が混じる点もあるかもしれないが、基本的にほとんど人間の姿だよ。
しかし言うのは簡単dも、体を完全な五分の条件で別人格と共有するのはなかなか難しい事でな。例えば、貴公の力が私と差がありすぎると、私にその意思が無くても優先的に支配権が私に移ってしまう。コレはそんな状況に陥るのを防ぎ状態Uを使いこなすための修行だ。他の四人も状態Uの修行を行うと思うが・・・・・・そうすぐに出来るものでは無いのでな。じっくり取り組む事になるから覚悟しておいてくれ・・・・・・


さぁ、修行を始めるぞ!』

 望むところだ!・・・・・・という表情で、風明は力強く頷いた。


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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