ツウィンズワールド


1 :小豆 :2006/10/20(金) 23:54:25 ID:PmQHuDse



僕は、何故ここにいるのだろう?

何故、戦わなければならないのだろう?

すべては、あの日に始まっていた。

あの日は・・・風が、強かった。





―――――――――――――――――――――――――――第1話「闇の君、光の僕」




彼は、ベッドの上で目を覚ました。起きあがると、カーテンを開けて窓の外を見る。晴れてはいるが、風が強い。
彼の容姿は、どこにでもいる日本人のようだ。短く黒い髪に、黒い瞳。ただ、彼は人間ではない。このセカイに生きる者は、人間ではなく、片割れ〔メイト〕だ。
彼はなんとなく、散歩がてら公園に行くことにした。私服に着替え、何も持たずに外へ出る。
朝早い時間なので、人はまばらだ。
何を考えるでもなく、何を思うでもなく、ただぼんやりと。彼は歩く。

それは、何の前触れもなく。
道行く彼の横を、“何か”が通り過ぎた。


刹那。風が、止んだ。時が、止まった。


すぐに時は動きだし、風はまた吹きすさぶ。
彼は、慌てて振り返った。そこには、彼と同じように、こちらを振り返っている者が。
「そんな・・・嘘だろ?」
彼は、目を見開く。しかしその目は、もう、黒くはなかった。色素の薄い、白に限りなく近い色。黒かったその髪も、透き通るように白く輝いていた。
彼をじっと見つめているそいつは、彼と、全く同じだった。身長も年頃も、顔も体格も。ただ、その髪と目だけは、どこまでも深い漆黒だった。
そいつは、彼に近づき。
「お前、光涼だろ?」
彼は、完全体〔ツウィンズ〕としての自分の名を思い出す。
(そうだ・・・。僕は、光涼だ。そして・・・)
「・・・君は、闇綾?」
(今、僕の目の前にいるのは、もう1人の僕、闇綾・・・)

彼は、光のごとく白い髪と眼をもち。
そいつは、闇のごとく黒い髪と眼をもち。

光と、闇の、出逢いだった。
風の強い、日だった。



今、光涼がいるのは、WBM本部の一室。隣には、闇綾がいる。2人以外には、誰もいない。
あの後、光涼は闇綾に半ば無理矢理ここへ連れてこられた。どうやら闇綾は、WBMに登録する気らしい。
WBMは、“セカイ均衡維持”の略称であり、完全体達で形成された組織である。主な活動は、片割れ・完全体の犯罪者の捕縛。そして、濫殺者〔ソリタリー〕の討伐である。
片割れとは、もう1人の自分とまだ出逢っていない者のことだ。このセカイに生きし片割れ達には、もう1人の自分が存在する。もう1人の自分と出逢った者は、完全体となり、「力」を手にする。この「力」は、2人一緒じゃないと使えない。そして、濫殺者と呼ばれる者達・・・。彼らは、もう1人の自分を、亡くした者だ。もう1人の自分が死んでしまうと、残された者は心を失う。その代わり、死んだ者の「力」を受け継ぎ、完全体以上の強さをもつことになる。理性を失い、狂気を得、殺すことしかできない凶器になりはてる。
WBMに登録した完全体は、“WBM所属完全体”と呼ばれ、銘を授かる。例えば、『月』や『粒子』などが有名だ。『月』は、WBMの会長でもある。WBM所属完全体は、会長から任務を与えられ、戦う。
(冗談じゃない。僕の意見も聞かないで・・・)
光涼は、戦いを好まない。だから、登録なんてまっぴらごめんだった。しかし闇綾は、光涼の横で少し嬉しそうだ。どうやら、好戦的な性格らしい。普通、完全体の2人の性格は、似ているはずだった。だが、光涼と闇綾は、例外だった。



暫くして、部屋に2人の男が入ってきた。彼らの名は、陽粒〔hiryuu〕と、潤粒〔junnryuu〕。28歳だ。
「お前らか? 登録に来た奴らってのは」
「ったく、実験途中だってのに・・・。人員不足にもほどがあるな」
灰色の目と短い髪をもつ、白衣を着た全く同じ顔の2人。科学者であり、WBM所属完全体:『粒子』でもある。
「悪いな、忙しいときに。登録したらさっさと帰るからさ」
「・・・僕は、反対だ」
光涼が、やっと自分の意見を言った。その言葉に、他の3人は一瞬固まる。一番最初に我に返ったのは、闇綾だった。
「はぁ? お前、ここまで来て何言ってんだよ?」
「君が無理矢理引っ張ってきたんだろ?」
「お前、反論しなかったじゃねぇか! そもそも、完全体は「力」もってんだから戦って当然だろ!?」
「そうかもしれない。「力」があるなら、それを役立てないといけないのかもしれない。だけど、僕は戦いが嫌いだ」
いきなり目の前で言い争いを始めた2人を、『粒子』はただ呆然と見ていた。しかし、いつまでもほっとくわけにもいかない。
「おい。結局、どうするんだ?」
「ここで言い争われても、迷惑なだけだ」
光涼と闇綾は、黙り込んだ。
「・・・しょうがねぇな」
「俺らが帰ってくるまでに決めとけよ」
そう言い残すと、『粒子』は部屋を出ていった。
部屋に取り残された2人は、どうしたらいいのかわからず、ただ立ち尽くしていた。



廊下で、2人の科学者が話している。
「・・・あいつら、おもしろいな」
「ああ。性格が、まるで正反対だ。あそこまで性格が似てない完全体なんて、そうそういるもんじゃない」
「あいつらが入ってくれば、おもしろいことになりそうだな」
「登録、止めなけりゃいいんだが・・・」
「ま、白いのは黒いのに逆らえないだろうよ」
「確かにな。白いのは、少し弱そうだしな・・・」
彼らの話を聞く者は、誰1人としていない。



10分ほど時間が経った頃。『粒子』が、部屋に戻ってきた。
「で、どうするんだ?」
「まさか、まだ決まってないなんて言わないだろうな」
その問いには、嬉しそうな笑顔の闇綾が答える。
「登録する。待たせて悪かったな」
しかし光涼は、少し不服そうな顔をしていた。結局、光涼は闇綾の気迫に負けてしまったらしい。
闇綾の答えを聞いて、『粒子』は笑った。その笑顔は、何かを楽しんでいるようにも見える。
「そうか。じゃ、この書類に必要事項を記入してくれ」
「記入でき次第、会長のとこ行くぞ」
WBMに登録するには、まず書類に必要事項を記入する。次に、会長のうち、誰か1人の所へ行き銘を授かる。そうして、正式に登録される。
「書けたぞ」
「・・・」
言いながら、闇綾は書類を渡す。光涼も黙って手渡した。
「よし。・・・2人とも、後悔しないな?」
「今ならまだ、後戻りできるぞ」
『粒子』の最終確認に、闇綾は力強く、光涼は仕方なく、頷いた。

この決断こそが、光涼の、哀しみの始まりだった。



目の前には、頑丈そうな扉。会長室の扉だ。
『月』であるWBM会長は、逸完全体〔トリプレッツ〕と呼ばれていた。彼らは、セカイでもたった一例しか確認されていない、稀少な存在だった。普通完全体は、2人で一組だ。しかし『月』は、3人で一組。彼らの名前は、紺月〔kouduki〕、柚月〔yuuduki〕、橙月〔touduki〕。3人は、WBM本部の3つの棟に1人ずつ、それぞれ部屋をもちそこで生活していた。完全体は、2人一緒じゃないと力が使えない。だから、常に一緒にいるものだ。しかし、彼らは別々の棟にいる。それには、ある理由があるのだが・・・。
どうやら、光涼達の目の前にある部屋は、紺月のものらしい。扉の脇にある壁には、「会長室(紺月様)」と書かれたプレートが貼ってあった。
陽粒が扉をノックし、声をかける。
「紺月、登録希望者を連れてきたぞ」
「・・・入って下さい」
中から声がした。潤粒が扉を開け、4人は中に入る。正面にある立派なデスクには、1人の男が座っていた。銀色の目と、短い髪の毛をもつ、若い男だ。その瞳と髪は、月のごとく輝いている。彼が、セカイの頂点に立つ逸完全体のうちの1人、紺月だ。
(若い・・・。確か、21歳だったよな)
闇綾が、内心で呟く。
「陽粒さん、潤粒さん、忙しいときにすみません・・・」
「気にすんな。なかなかおもしろかったしな」
「じゃ、俺らは研究室戻るから」
『粒子』は、それだけ言うと部屋を出ていった。そんな彼らの後ろ姿に、紺月は立ち上がって一礼する。光涼と闇綾は、それを黙って見ていた。紺月は、そんな2人を振り返ると、
「・・・さて、君らが登録希望者だな?」
さっきとは全く違う言葉遣いで話しかけた。光涼達は知る由もないが、『月』が敬語を使うのは、年長者である『粒子』と『治癒』だけだ。光涼達は黙って頷く。
「名前と年は?」
「俺は闇綾。16だ」
「・・・僕は光涼です。年齢は彼と同じです」
完全体の2人は、全く同じ瞬間に産まれるのだから、年齢が同じなのは当たり前。ちなみに、寿命も同じだ。だが、病気や事故、自殺、他殺などによって、寿命がずれることもある。そうして、濫殺者は発生するのだ。
(一人称まで違うのか・・・。珍しいな)
紺月は、『粒子』からの報告通り容姿も性格も違う彼らに、少し驚いた。彼はまだ21年しか生きていないが、性格が大きく違う完全体など、見たことがなかった。
「君らの、「力」の特徴は分かるか?」
「わからない。名前から察するに、光と闇でも使うんだろ?」
「・・・僕たちは、今日完全体になったばかりなので・・・・・・」
「そうか・・・」
紺月は思案する。「力」の特徴が分からなければ、銘の決めようがない。これは一度、「力」を使ってもらう必要がありそうだ。紺月は、デスクの引き出しから水晶を取り出した。大きさは、拳ほどの大きな物だ。
「これに「力」を流せ。君らの「力」の特徴見るから」
言いながら、紺月は水晶を宙に投げた。だいたい、紺月と光涼達の中間あたりに。
「え!?」
「おい!!」
光涼達は驚き、慌てた。このままでは、水晶は落ちて割れてしまう。しかし、水晶は引力に逆らい、空中でふわふわと浮いていた。
「じゃ、流してみろ。集中すればできるはずだ」
2人は、声の主の方を見た。水晶に気を取られていて気付かなかったが、紺月は水晶に向かって手をかざしている。その手は、うっすらと銀色の光を纏っていた。そう、彼が水晶を空中に浮かせているのだ。
「・・・びっくりするだろ」
「わ、割れるかと思った・・・・・・」
彼らは安堵の溜息を漏らす。
「ああ・・・。悪かったな、驚かせて。ま、とにかく「力」を流してみろ」
そう言われ、2人は集中し始める。

自分たちの「力」を、ひとつに・・・。

彼らの強い意思によって、「力」がひとつになってゆく。目に見えるわけではない。しかし彼らには、感覚で分かった。
「力」が、水晶に注がれ始める。透明だったそれには、色が付いていく。その色は、光のごとき純白と、闇のごとき漆黒。それが混ざり合い、何とも不思議なマーブルになっていた。
紺月はその様子を、興味津々に見ていた。普通は一色に染まる水晶が、2色になってゆく。
「よし。もういいぞ」
紺月が言った瞬間、色が消えた。正確に言えば、彼によって消された。水晶はふわふわと空中を移動し、紺月の手におさまる。彼は水晶をデスクの引き出しにしまいながら言った。
「君らの、銘は決まったな・・・」
紺月は、まっすぐに光涼と闇綾を見据えた。
「光涼、闇綾。君たちに、『光と闇』の銘を授ける。これからは、WBM所属完全体として、存分に働いてもらう。頼んだぞ」
「おう。任せろ!」
「よろしくお願いします・・・」
こうして、光涼と闇綾は、WBM所属完全体:『光と闇』になったのだった。

彼らの、戦いが、始まったのだった。



『光と闇』が部屋を出ていった後。紺月は、目の前の画面に向かって話しかけた。
「あいつら、これからどうなるだろうな?」
『さぁな? 出来損ないとして終わるか・・・』
『もしかしたら、逸材としてセカイを変えるかもな』
紺月しかいない部屋に、声が響いた。画面に映っているのは、紺月と全く同じ顔をもつ者2人。柚月と、橙月だった。彼らは、直接会って話さない。いや、話せない。だからいつも、通信機器を使って会話していた。
「・・・さっそく、任務でも与えてみるか?」
『ああ。『華』と『空』あたりと一緒に行かせるか』
『そうだな。間違っても、『音』にだけは行かせるなよ』
彼らの会話は、続く。



翌朝。光涼がいつものようにベッドの上で目を覚ました。しかしその朝は、いつもとは違っていた。床に敷かれた布団に、誰かが寝ている。
(・・・誰?)
寝起きでまだはっきりとしない頭で、光涼は昨日のことを思い出す。
(ああ、そうだ・・・。昨日、闇綾に逢って、それで・・・・・・)
WBMに登録したことを思い出すと、溜息が出た。これから、いつ戦う為に呼び出されるかもわからない。そして、闇綾と常に一緒にいなければならない。光涼にとってそれは、受け入れたくない現実だった。
と、闇綾が起きた。
「ふぁ・・・。お前、早起きだな」
「・・・おはよう」
光涼も今起きたばかりだが、あえて言わないでおいた。
2人の、長い、長い1日の始まりだった。



会長室(橙月様)と書かれたプレートが扉の横に貼ってある部屋の前に、2組の完全体がいた。『華』と、『空』だ。『華』の2人は、名前を朱華〔shuka〕、翠華〔suika〕と言い、年はまだ15歳。肩より長い髪と、瞳は、綺麗なピンク色だった。『空』の2人の名は、空牙〔kuuga〕と、空〔kuuma〕。18歳の好青年と言った感じだ。髪と眼は、薄い水色。『華』と同じくらいの長さの髪は、ひとつに束ねられていた。
『華』が、『空』に話しかけた。
「橙月さんからのお呼び出しってことは・・・」
「お仕事、なのかなぁ?」
「せやろか・・・わからんなぁ」
「ま、とにかく入ろか」
空真が扉を叩く。
「どうぞ」
すぐに返事が返ってきた。『空』と『華』は、中に入る。
「橙月さん、今日はお仕事なの?」
「空牙さんと、空真さんと一緒に行くの?」
『華』は、正面のデスクに座っている橙月に訊いた。
「ああ。『空』、『華』。君たちに、任務を与える。今回の任務は、犯罪組織の壊滅だ」
「了解〜。で、どれくらいの規模なんや?」
空牙に訊かれ、橙月は手元の書類に目を落とす。
「リーダーは氷李〔hyouri〕、氷羅〔hyoura〕と言う名の完全体だ。年は31歳。下っ端どもは片割れだな」
「それだけやったら、2組も行かんでええんちゃうか?」
確かに、トップが完全体の組織などに、2組もWBM所属完全体はいらない。1組で十分捕縛できる。
「・・・実は、今回の任務には新人も行かせようと思ってる。新人が足を引っ張る可能性は十分にあるから、君たち2組に行ってもらう」
「新人? 新しい人、入ったの?」
「どんな人かなぁ? お友達になれるといいなぁ〜」
『華』の2人はなにやら可愛いことを言っている。
「ようは、俺らに新人教育せぇゆうんやな?」
「せやったら、はなからそう言うてくれたらええのに」
「悪かったな。とにかく、よろしく頼んだぞ。この書類に新人についてのデータと、任務の詳細書いてあるから」
橙月は、空真に書類を手渡す。
「ああ。それから、新人には任務について詳しく話してないから、君たちで説明してやってくれな」
「・・・それくらいそっちでしてぇな」
「しゃあないなぁ、もう・・・」
文句を言いつつも、気のいい『空』は引き受ける。
「じゃ、健闘を祈る」
「おう。任せとき」
「・・・ほな、行ってくるわ」
「がんばってくるね〜」
「橙月さんも、お仕事がんばってね〜」
4人は部屋を出ていった。残された橙月は1人、楽しそうに笑う。
「『光と闇』・・・。初仕事は、どんなもんだろうな・・・・・・」



携帯が鳴る。電話の相手が誰かを認識した途端、光涼の表情が曇った。出たくないが、出ないわけにはいかない。
「・・・もしもし、光涼です」
電話の相手は、橙月だった。
『仕事だ。今日の12時に、WBM本部入り口に来い。そこに完全体が2組いるから、詳細はそいつらに聞け。じゃあな』
それだけ言うと、電話は一方的に切れてしまった。光涼はそのまま立ち尽くす。
「光涼〜? 任務か?」
闇綾が楽しそうに訊いてくる。どうして、これから戦いに行かなければならないと言うのに、闇綾は嬉しそうなのか、光涼には理解できなかった。
「・・・そうらしい。今日の12時にWBM本部の入り口に来いだってさ」
「了解〜。じゃ、さっそく準備するか!」
今は午前10時。本部まで行くのに、1時間ほどかかる。
「1時間後には出発するから、それまでに着替えろよ?」
すでに私服の光涼に対し、闇綾はまだ起きたままの姿だった。闇綾は慌てて準備を始めた。光涼はひとまず、心を落ち着かせる為にお茶を淹れ、飲み始める。どこまでも性格の違う2人だった。



午後12時。WBM本部入り口には、2組の完全体がいた。『華』と『空』だ。
「どんな人達が来るのかなぁ?」
「女の子かなぁ? 男の子かなぁ?」
『華』達は、嬉しそうにはしゃいでいる。
「書類には男やって書いとったで〜」
「どないな奴らかはわからんけどな・・・」
と、そこに、『光と闇』がやって来た。
「遅くなりました・・・」
「WBM所属完全体:『光と闇』光涼と闇綾だ。よろしく」
「WBM所属完全体:『華』朱華と翠華だよっ」
「初めまして〜。よろしくね!」
「WBM所属完全体:『空』空牙と空真や」
「よろしゅうに〜」
各自自己紹介が終わると、『空』は今回に任務についての詳細を『華』と『光と闇』に説明した。
「まぁ。こんな感じや」
「質問あるか〜?」
「じゃあ今回は、殺しちゃダメなんだね〜」
「死なせないように気をつけないとねっ」
「・・・」
“殺す”と言う単語に、光涼は絶句。
「了解。少々怪我させるのは構わないんだな?」
「まぁ、多少はしゃあないな」
「相手が怪我するんはええけど、君らはせんようにな〜」
「「はーい!」」
『華』は、元気よく返事をする。しかし、まだ子供の彼らがする会話とは思えない物騒さだ。そんななか、『華』が明るく『光と闇』に話しかけた。
「ねぇねぇ〜」
「光涼さんに闇綾さん。私達と・・・」
「「お友達になって下さい!!」」
2人の声が、綺麗にハモった。右手は握手を求めて前に突き出されている。その顔は、これ以上ないくらいの笑顔だ。
「・・・は?」
「えっと・・・僕らでよかったら」
言いながら、光涼は小さな手を握った。闇綾もためらいがちに握手する。
「ありがとうっ」
「えへへ〜。お友達〜」
それだけではしゃぎ出す『華』。本当に15歳なのだろうか?
「ほな、行こか」
「気ぃ引き締めていくで」
そして6人は、動き出す。



犯罪組織のアジトは、WBM本部からそう遠くないところにあった。約5qほどである。その道のりを、彼らは歩いて移動する。
午後1時。アジトに到着。外観は、普通の3階建てビルと何ら変わりはない。しかし、人を寄せ付けないような陰気さがあった。建物の前で立ち止まった『空』は、振り向いて4人に話しかける。
「ほな、完全体は朱華と翠華に任せよか」
「俺らは片割れの下っ端どもを倒しとくわ」
「うん!」
「わかった!」
『華』はあっさりと引き受ける。しかし、『光と闇』が『空』に反論した。
「おい、こいつらに任せて大丈夫なのかよ?」
「僕らよりも年下ですよ?」
「・・・君ら、勘違いしたらアカンで。「力」は年齢と関係ないんや」
「この子らはな、本気出せば君らくらい簡単に殺せるで?」
2人は、思わず黙ってしまう。“簡単に殺せる”。このセカイは、そういうセカイなのだ。
「でも、光涼さん達を殺したりしないよ?」
「だって、お友達だもんっ」
この2人に限って、誰かを殺したりはしないと、光涼は信じたかった。そして、自分がそれを任務として強要されたとき、果たして従えるだろうか? そんな疑問も浮かんでいた。
「・・・ほな、乗り込むで」
「心の準備はええな?」
4人は、力強く頷いた。



正面から、堂々と6人は侵入する。入ってすぐは、ロビーのような部屋だった。だがそこには、スーツ姿のサラリーマンがいるわけではなく、武装した片割れ達がいた。その数は、50ほどだろうか。
「真正面からこのアジトに入ってくるなんてな」
「いい度胸してるぜ」
6人を見て、片割れ達はにやにやしながら余裕たっぷりにそう言った。まさか、こんな子供達がWBM所属完全体とは、思いもしないのだろう。
そんな彼らを完全に無視して、6人は普通に会話する。
「かなりの数だな・・・」
「ここには完全体はいないのか?」
「雑魚ばっかりやな・・・。完全体は上の階や」
「2人とも、任せたで」
「うん! 任せてっ」
「みんなもがんばってね〜」
そう言い残すと、彼女たちは、階段の方へと駆けていった。
「おい! 無視するなよ!!」
「あんなガキ行かせたって、俺らのボスは倒せねぇぞ!?」
雑魚どもがなにやら言っているが、またもや無視して会話は続く。
「光涼、闇綾。こいつらはお前らが倒し」
「今回は君らの初任務や。訓練と思ってやりぃ」
「おう。任せろ」
「了解です・・・」
少し不安そうな光涼に対し、闇綾はやる気満々だ。そんな光涼を見かねて、『空』は笑顔でこう言った。
「安心しぃ」
「君らに怪我させたりせんから」
その笑顔は、見るものを安心させる力があった。光涼の心から、不安が消えていった。
と、ここで敵が痺れを切らした。
「俺らを無視して、話を進めないで!」
「ちょっとは相手してよ!!」
少し涙目だ。
「あ、すみません・・・」
律儀に謝る光涼。とってもお人好しだ。
「これからたっぷり相手してやるよ♪」
それに比べて闇綾は、少し危険な笑いで応えた。

そして『光と闇』は、「力」を呼応させ始める。

意識を集中させ、「力」がひとつになっていく姿をイメージする。彼らの周りに、まるで光と闇を表すかのような、モノクロのオーラが現れた。戦った経験などないはずなのに、その方法はわかった。心の中に、言葉が流れてくるようだった。そして、呪文詠唱に入る。


――――――――――表裏なる者よ、打ち消し合い、支え合う者よ!
            今ここにその姿を現し、我の力となりて戦え!  光闇具現!!


彼らが叫ぶと、どこからか光と闇が現れた。それは形を持ち、彼らの思いのままに動いた。
「行くぞ!」
「覚悟してください!」
何故か敵にも敬語の光涼。しかし、容赦なく攻める。光と闇は、質量をもって敵を薙ぎ倒していく。油断していた片割れ達は、あたふたと慌てる。なすすべもなく、次々に倒れていった。しかし、彼らの中でも強者らしい数人の男達は、具現化した光と闇の攻撃をかわすと、ナイフを投げつけてきた。光と闇を操ることに集中していた2人は、一瞬、反応が遅れた。その一瞬が、命取りになる。彼らはナイフの軌道から外れることができなかった。敵が(やったか!?)と思ったそのとき・・・


――――――――――強固なる盾となり、悪しき者から守れ!  守空!!


ナイフが、見えない壁に弾かれた。その壁は、大気でできた壁だった。
「何!?」
敵に、隙ができた。それを見逃すほど、『光と闇』は甘くない。すかさず攻撃。最後に残っていた数人の男達は、床に倒れ伏した。光涼は、『空』のほうに向き直る。
「ありがとうございます。助かりました・・・」
「危なかった〜」
闇綾はその場に座り込んだ。
「ええって。そないなことより、大丈夫か?」
「今度からは、防御もせんとアカンで〜」
「はい・・・」
辺りを見回すと、倒れて全く動かない男達しか視界に入ってこない。具現化された光と闇、大気の壁は、いつの間にか消えていた。



『華』は、階段を駆け上がる。2階に着くと、扉を蹴破って中に入った。しかしそこには誰もおらず、色々な物が乱雑に置かれていた。どうやら、物置として使われているらしい。
「ここじゃないみたいだね・・・」
「3階に行ってみよっか!」
『華』はまた、駆け出した。あっという間に3階にたどり着くと、再び扉を蹴破る。そこは、1階や2階とそう変わらない造りの部屋だった。そこにいたのは、1組の完全体、氷羅と氷李だ。
「おやおや・・・。可愛いお嬢さん達ですね」
「こんなところに、何の用ですか?」
人の良さそうな笑顔を浮かべる彼らの容姿は、まるで氷のようだった。薄く、透明感のある青色の眼と短い髪。肌はぞっとするほど白い。
「えっと・・・」
「降伏してくれませんかぁ?」
笑顔で言う『華』。はっきり言って、全く怖くない。
「おやおや。もしかしてお嬢さん達は、私達を捕まえに来たのかな?」
「残念ですが、降伏はできませんね」
「それなら・・・戦うしかないけど」
「ケガしちゃうよ? 痛いよ?」
本気で心配そうな2人。こんな幼気な少女に、負ける気など起きないだろう。
「それは大丈夫ですね」
「私達の心配より、自分たちの心配をしたらどうですか?」
にやり、と彼らが笑った瞬間、朱華と翠華に向けて、恐ろしいスピードで氷のナイフが飛んできた。それを、いとも簡単にかわす。
「戦うしか、ないみたいだね・・・」
「じゃ、がんばろっか!」
そして『華』は、舞う。円を描くように舞い踊った。バックに花びらが舞っているように見えるのは、気のせいだろうか?
氷羅と氷李は、舞い踊っている2人に容赦なく氷のナイフを投げつける。隙だらけの彼女たちだが、その全てを舞いながら避けた。
やがて、彼女たちの足下に、陣が浮かび上がる。それは、彼女たちが舞って描いた、円の軌跡のようだ。彼女たちは、舞うのを止める。
翠華が、懐から何かを取り出した。それは、種のような物だった。しかし、その大きさは普通ではなく、拳よりも少し大きい。それを翠華は、空中に放った。
「散!!」
翠華が叫ぶ。するとその種らしき物は、四方八方に弾けて飛んだ。部屋中に散ったそれは、普通の大きさの種になっている。そして、朱華は呪文を唱える。


――――――――――我が同志達よ、今ここに集い矛となりて共に戦え!   集華!!


すると、種から芽が出てきて、あっという間に綺麗な花を咲かせた。2秒ほどで、部屋の中は色とりどりの花畑になる。
「これで・・・」
「戦場の、できあがりだねっ」
そう、彼女たちが作っていたのは、自分たちの戦場。花がなくては、彼女たちは戦えない。
「なんですか、これは?」
「首飾りでも作ろうというのですか?」
氷羅と氷李は、完全に『華』を馬鹿にした。まさか、これが彼女たちの武器だとは、考えもしないだろう。
「それでは、終わらせますか」
氷李が呟き、氷羅は呪文を唱えた。


――――――――――凍てつく者達よ、我にたてつく者を固めろ!   氷結!!


一瞬にして、『華』の足下から氷が現れる。朱華は床を蹴りつけ跳躍し、何とか避けたが、翠華は反応が遅れてしまった。氷は翠華の足にまとわりつき、完全に固定する。そこに、氷のナイフが飛んでくる。足は動かず、避けることができない。
「あぁぁぁぁぁぁっ!!」
「翠華!!」
翠華の右腕に、深々と氷のナイフが突き刺さっていた。指先から床に、血が水滴となって落ちてゆく。
「ひどい! よくも翠華をっ」
朱華は激昂した。


――――――――――刃となって我が敵を穿て!   斬華!!


朱華が叫んだ途端、花弁たちは殺人的なスピードで敵めがけて飛んでいく。それは、ナイフよりも鋭く、敵の足を切り裂いた。
「う・・・がぁぁぁぁぁぁ」
敵の悲鳴が室内に反響する。彼らは、あまりの苦痛に耐えきれず、膝を床についた。朱華はここぞとばかりに攻める。


――――――――――枷となり、罪深き者を縛せ!   縛蔦!!


朱華が唱えると、蔦が氷羅と氷李の足下から伸びてきて、彼らを縛り上げた。2人が完全に身動きがとれなくなったのを確認すると、朱華は翠華に駆け寄った。
「翠華! ケガは・・・ケガは大丈夫?」
朱華は、今にも泣き出しそうな顔をしている。
「うん・・・。なんとか平気だよ・・・・・・」
そんな朱華に、翠華は気丈にも笑ってみせた。しかし、それが虚勢であることくらい、朱華にもわかる。
「翠華、座って。包帯巻くから・・・」
朱華は包帯を取り出し、翠華の右腕に巻いてやる。巻き終わると、朱華は右袖を捲り上げ、自分の右腕を見た。血こそは出ていないものの、翠華と全く同じ位置にどす黒い痣ができていた。
(また、できてる・・・)
朱華は口には出さずに、内心で呟く。右腕をしまいながら、朱華は話しかける。
「翠華、早く帰って手当てしてもらおうね・・・」
「うん。他のみんなは、無事かなぁ・・・?」
「大丈夫だよっ。空牙さんと空真さんが負けるわけないもん!」
「そうだよね。じゃあ、帰ろっか!」
2人は立ち上がり、階段を下り始めた。



「・・・終わったみたいやな」
「2人とも、すぐに降りて来るで」
『空』が言った数秒後、『華』が階段から姿を現した。手を繋いで、こちらに歩いてくる。表情は明るいが、翠華の右腕には血に染まった包帯が巻かれていた。
「おい! 怪我したのか!?」
「大丈夫? 痛くない?」
「平気だよっ」
「みんなは、ケガしてない?」
「俺らは平気やで」
「早う帰って、癒斗さんらに手当てしてもらおか」
こうして6人は、WBM本部へと帰っていった。
『光と闇』の初任務は、1人の死人もなく、平和に終わった。



「今日は次から次へと・・・・・・」
「俺らを過労でぶっ倒れさせてぇのか!?」
『治癒』は少々苛ついていた。ここは、WBM本部付属病院だ。WBM本部のすぐ隣に建てられている。ここの院長は、WBM所属完全体:『治癒』の癒斗〔yuto〕と癒緒〔yuo〕である。今年で52歳だというのに若々しい彼らは、深緑色の短い髪の毛と目をもっていた。医者らしく白衣を着ている。戦闘要員ではない彼らは、常にこの病院にいて、いつ何時患者が運び込まれてもいいように待機している。
「ごめんなさい・・・」
「ちょっと油断しました・・・」
『華』が珍しくしゅんとしている。まるでしおれた花のようだ。
「とにかく、腕見せてみろ」
「朱華はちょっと外に出てな」
朱華は素直に従う。『治癒』は、軽く消毒をした傷口を眺め、即座に言った。
「この程度なら、自然に治るだろ」
「今日は急患が多くてな、俺らもだいぶ疲れてんだ。できるだけ「力」を消費したくねぇ」
綺麗に包帯を巻き直すと、痛み止めの薬を翠華に手渡す。
「我慢できるなら飲むなよ」
「じゃ、お大事に」
「ありがとうございましたっ」
翠華は元気に礼を言い、診察室を出ていった。そして『華』は、自分たちの家へと帰っていった。



『光と闇』は、帰り道を並んで歩いていた。
「・・・なぁ。俺らって、今日戦ったんだよなぁ?」
闇綾が唐突に話し始める。
「そうだけど・・・実感無いよなぁ・・・・・・」
そっれきり、2人とも何も言わずに歩き続けた。







彼らの戦いは、まだ始まったばかりだった。









WBM本部のとある一室。少し薄暗いその部屋には、2人の少女がいた。2人は、金色に輝く目と、腰まである長い髪の毛をもっていた。
「ねぇ・・・今、視えたよね?」
「うん、視えたよ」
「みんなに、言わないとダメかなぁ?」
「ダメだよ」
「でも、言ったらみんな怖がっちゃうよ・・・」
「だけど、言わないと、困っちゃうよ・・・・・・」
黄金の少女達は、悩む。













――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




光涼:さぁ、やってきましたぶっちゃけコーナー!!
小豆:何を隠そうこれを書く為に頑張ってたもんね!!
闇綾:・・・淋しい奴だな。
小豆:黙れ。
朱華:ねぇねぇっ。
翠華:今回は何をするの?
小豆:ん〜? 作者も考えてな〜い。
闇綾:死ね。
光涼:じゃあ、適当に質問コーナーでもやるか。
朱華:さんせ〜い!
翠華:質問その1〜。最後のアレは何ですかぁ?
小豆:伏線です。
空牙:即答かいな・・・。
空真:質問その2〜。なんで基本的に若い奴らばっかりなんですか〜?
小豆:(・・・にやり)
光涼:怪しいな。
闇綾:質問その3〜。『月』はなんで3人なんですか〜?
小豆:それはね、ちょっとした出来心だよ。
朱華:ねぇねぇ、出来心って何?
翠華:何〜?
小豆:・・・さて、そろそろ次回予告に移ろうかな! じゃ、みんな後はよろしく。



光涼:黄金の少女達が“視た”モノとは、一体何だったのか?
闇綾:新たな完全体達も加え、ついに濫殺者とのバトルが開始する。
朱華:『光と闇』は、その戦いに駆り出され・・・。
翠華:そして、そこで光涼の哀しみが大きくなる。
空牙:ツウィンズワールド 第2話「哀しみの序章」
空真:お楽しみに!!


2 :小豆 :2006/10/22(日) 10:52:17 ID:PmQHuDse


それは、この世界とは違う、もうひとつのセカイ。
歪んだ時空の果てにある、少し狂ったセカイ。

これは、哀しい、哀しい、完全体〔ツウィンズ〕たちのお話。



「どうして・・・。どうして君は、こんな酷いことができるんだ!?」
「・・・お前こそ、なぜ濫殺者を殺るのにためらう?」

光涼〔kouryou〕は、涙を流し。
闇綾〔annryou〕は、心から不思議そうに。   

WBM所属完全体:『光と闇』〜陽と陰の彼ら〜



「さぁ、そろそろ終わらせましょうか」
「そうですね。もう、生かしておく理由もありませんし」

哀音〔aine〕は、冷徹に笑い。
友音〔yuonn〕は、残酷に笑い。 

WBM所属完全体:『音』〜笑顔の殺戮者〜



「俺らにたてつくなんてな・・・こいつ、馬鹿か?」
「そうかもね。あたしらに敵うわけないのに」

楼夢〔roumu〕は、余裕で。 
瑠夢〔ryuumu〕は、楽しそうで。

WBM所属完全体:『夢』〜安楽死への勧誘者〜



「戦いの、始まりだねっ」
「あたし達は、絶対負けないよねっ」

水兎〔suito〕は、明るく宣言し。
水輝〔mizuki〕は、堅く信じ。

WBM所属完全体:『水』〜流れを司る者〜



「私達、がんばれるよね?」
「うん! みんなを、守らなきゃ」

朱華〔shuka〕は、少しだけ不安そうに。
翠華〔suika〕は、決意を固め。

WBM所属完全体:『華』〜華の踊り子達〜



「くそっ。次はぜってぇ負けねぇからな!」
「覚えてろよ!!」

晴樹〔haruki〕は、悔しそうに。
愉樹〔yuki〕は、次を目指し。

WBM所属完全体:『樹』〜負けず嫌いの樹木達〜



「未有ちゃん・・・何か、視えたよね?」
「うん。視えたよ、来無ちゃん」

未有〔miari〕は、視て。
来無〔raina〕は、未有を振り向き。

WBM所属完全体:『未来』〜幼い予言者〜



「僕たちにできる、精一杯のことを・・・」
「僕たちは、一生懸命やります」

織風〔orikaze〕は、前をしっかりと見据え。
依風〔yorikaze〕は、誓う。

WBM所属完全体;『風』〜優しき風使い〜



「できれば、話し合うて解決したかったんやけど・・・」
「戦うしか、ないようやな」

空牙〔kuuga〕は、残念そうに。
空真〔kuuma〕は、悲しそうに。

WBM所属完全体:『空』〜怒ることを知らぬ暗殺者〜



「僕らは、戦う為に産まれてきたのかな?」
「そうとしか、考えられないよね・・・」

緋絽〔hiro〕は、疑問をもち。
緋綴〔hitetu〕は、考える。

WBM所属完全体:『炎』〜表と裏をもつ者達〜



「俺らが駆り出されるなんて、久しぶりだな」
「ああ。そんな手強い奴なのか?」

陽粒〔hiryuu〕は、ただ前に進み。
潤粒〔junnryuu〕は、やや警戒し。

WBM所属完全体:『粒子』〜切り札の科学者〜



「・・・またかよ」
「ちったぁ怪我しないように戦え!」

癒斗〔yuto〕は、半ば呆れ。
癒緒〔yuo〕は、叱りつける。

WBM所属完全体:『治癒』〜傷つく彼らを癒す者〜



「もう何年、お前らと3人で会ってないんだろうな?」
『はは。そんなの、俺達が出逢ったとき以来に決まってるだろ』
『・・・俺達、なんでこんな運命なんだろうな・・・・・・』

紺月〔kouduki〕は、分かり切ったことを訊き。
柚月〔yuuduki〕は、無理に笑ってそれに答え。
橙月〔touduki〕は、哀しみに顔を歪める。

WBM会長 逸完全体〔トリプレッツ〕:『月』〜哀しき運命の最強達〜




彼らの、戦いが始まる。
彼らの、哀しみは続く。







―――――――――――――――――――――――――――――――




※小豆より注意事項など。

これはあおり文です。本来、1話の前にあるべきモノです。
何を間違ったのか、1話から載せてしまいました。
まぁ、こんな感じのストーリーというか、こんな感じのキャラが出るんだなぁ。と、
思っていただければ幸いです。


3 :小豆 :2006/10/23(月) 23:12:10 ID:ommLQAmc



 あの日、俺のそばには、大切な弟がいた。

 あの日、俺のとなりには、優しかった両親がいた。

 あの日、俺の傍らには、大好きなあの子がいた。

 その日、俺達はすべてを失った。

 その日、俺達は「力」と、“最強”を手に入れた。





――――――――――――――――――――――――――――第2話「哀しみの序章」




「じゃあ、ここまでで質問ある奴いるか?」
「・・・お前ら本当に理解してるか?」
 ここは、WBM本部にある教習室。完全体は、いつ任務に呼び出されるかわからないので、学校へ行っていない。そのかわり、ここで勉強するのだ。今、教卓に立っているのは、陽粒と潤粒だ。光涼と闇綾も、ここで授業を受けるようになった。
「よし。じゃあ続けて話すぞ。俺らが住んでるこのセカイは、“ツウィンズワールド”と呼ばれている。これは余談だが、セカイに生きてる奴らの大半が片割れなんだから、その名前はおかしいんじゃないか。とも言われてるな」
「そして、このセカイにはひとつの大陸と、小さな島々がある。あとは海だけだ。割合で言うと、海が7、陸が3ってとこだな。人口は30億人程度。まぁ、1500年くらいしか歴史がないにしては、多い方だと俺は思うがな」
「んで、このセカイには国はひとつしかない。それが、“ムーンカントリー”。国の名前は、WBM会長にあやかって代々決められるらしいな。ま、簡単に言うと大陸全部がひとつの大きな国家ってわけだ。国の中には、200あまりの村がある。その1つ1つも、村と呼ぶにしては広いな」
「その200の村と、国のトップが、我らがWBMだ。行政やら病院やら警察らしきものやらなんでもそろってる。俺らが所属してるのが、その警察らしきものってとこだな」
 授業を受けている完全体は、20人ほどだろうか。年齢は13歳〜18歳と、幅広い。もともと完全体の数は少ないのだから、こういう授業スタイルになるのは仕方がない。
 不意に、チャイムが鳴った。
「じゃ、今日はここまで」
「ちゃんと復習しとけよ〜」
 そう言いながら、『粒子』は教習室を出て行った。それにしても、学校や病院まであるとは、WBM本部はまるで街のようだ。実際、コンビニなどもあり、ここから出ずに暮らしている完全体もいる。それでも全く困ることがないのだから、WBM本部の規模は尋常ではないことがわかる。
 どこからか、元気のいい声が聞こえてきた。
「おい。朱華、翠華!!」
「お前ら怪我したんだって?」
 綺麗な緑色の短い髪の毛と眼をもった少年が、『華』に話しかけている。彼らは、WBM所属完全体:『樹』の晴樹〔haruki〕と愉樹〔yuki〕だ。『華』と同い年で、15歳。どこにでもいる、お調子者な少年達と言った感じだ。
「うん。翠華が腕を怪我しちゃったの」
「もう治ったから平気だよっ」
 相変わらずの元気の良さで、『華』は応える。
「じゃあ、もう大丈夫なんだな?」
「傷跡とか残ってないよな・・・?」
「うん!」
「癒斗さんと癒緒さんに傷跡消してもらったから〜」
 にこにこ顔の『華』である。2人が元気そうにしているのを見て、『樹』が少しだけほっとしたような顔をしたことに、誰も気付かなかった。
「最近、訓練見学してたから、だいぶ鈍ってるだろ?」
「肩慣らしに付き合ってやるよ!」
 この2人は、何かと理由をつけては『華』に勝負を挑んでいた。そこには、同じ植物系だから負けたくないという想いと、もうひとつの想いがあった。
「わぁ、ありがとうっ」
「じゃあ、実践室行こっか!」
 そのたびに、『華』はこうして相手になるのだった。そして、この勝負の結果は、毎回同じであった。



 4人が実践室に移動してから10分後。壁も床もコンクリートでできていたはずの実践室は、樹木と花の生い茂る、緑豊かな空間へと変貌していた。そして床には、蔦でぐるぐる巻きにされた『樹』が転がっていた。
「ご、ごめんね・・・。痛い?」
「だって、晴樹君も愉樹君も、本気で来るんだもん。これくらいしないと私達がケガしちゃうよ」
「・・・いいから」
「さっさとほどけよ・・・・・・」
 悔しそうに呟く2人。
「あ、そうだよね。忘れてた」
「滅!!」
 朱華が叫ぶと、蔦や花は一瞬にして消え去った。ついでに樹木までもが消えている。植物系なら、花でなくとも少しは扱えるのだ。
「くそっ。次はぜってぇ負けねぇからな!」
「覚えてろよ!!」
 何度聞いたかわからない台詞を叫びながら、彼らは実践室を飛び出していった。
「ねぇ、朱華・・・」
「何、翠華?」
「私達、やっぱりちょっと鈍ってたね」
「うん。いつもより「力」出せなかったね」
 そんな彼らをよそに、彼女たちはそんなことを話していた。とても不憫な『樹』であった。



 会長室の前に、金色の少女が2人いる。彼女たちは、WBM所属完全体:『未来』の、未有〔miari〕と来無〔raina〕だ。腰まである長い髪と、その目は、金色に輝いている。着物のような和服を着ていて、それが金色の髪によく似合っている。まだ10歳と、あどけなさが残る2人がWBM本部にいるのは、はっきり言って場違いだ。しかし、横に「会長室(柚月様)」と書かれたプレートが貼ってあるその扉を、彼女たちは迷うことなく叩いた。
「どうぞ」
 中から声がすると、2人はその大きな扉を少し苦労しながら開け、入室する。
「未有に来無か・・・。君らが俺の部屋に来るなんて珍しいな。どうかしたか?」
「あのね・・・」
「視えたの・・・」
 2人は、伏し目がちで言いにくそうにそう言った。
「視えた・・・? 何が視えたんだ?」
 彼女たちの「力」は、未来を予知することだ。彼女たちが視たことは、99.9%実現する。2人は顔を上げ、まっすぐに柚月の目を見た。
「とっても、困ることが起きるの」
「とっても、哀しいことが起きるの」
 『未来』は、少し哀しそうな顔をしている。未来がわかることは、便利ではあるが、哀しいことでもあるのだ。
「具体的に、どんなことが起きるかわかるか?」
「・・・濫殺者が、来るの」
「もう1人の自分を、殺すの」
「『月』を、殺したくて、「力」が欲しくて・・・」
「自ら、濫殺者になるの・・・」
 彼女たちの言葉は、途切れ途切れで、順番もぐちゃぐちゃだったが、それでも柚月は理解した。
「つまり・・・俺らを殺す為に、自らもう1人の自分を殺し、濫殺者になった者がいるってことだな?」
「「うん・・・」」
 黄金の少女達は頷く。
「そうか・・・。わざわざありがとな。もう部屋に戻って休め。それから、このことは気に病むなよ。後は俺らに任せとけ」
「うん。わかった」
「お願いね」
 そう言うと、2人は仲良く部屋を出ていった。彼女たちは、幼く純粋で、そのぶん自分たちが視た未来に傷つくことも多い。それを理解している柚月は、彼女たちを安心させる為にああ言ったのだが、あまり効果はなかったようだ。『未来』は戦闘要員ではないのだから、できることはここまでだというのに、それでも気にしてしまう。
(また、精神病にかからなければいいんだがな・・・)
 そんな彼女たちだからこそ、『治癒』に世話になることも多い。怪我をすることはないが、精神が病んでしまう。
(ま、俺が考えても仕方のないことか)
 そう思い、考えに区切りをつけると、彼は画面に向かって話しかけた。
「話、聞いてただろ? どう思う?」
『どうもこうも・・・『未来』が視たことなんだから本当なんじゃないのか?』
『困ったな・・・。濫殺者となると、そう簡単に倒せない』
 彼の言うとおり、濫殺者は普通、完全体よりも強い。WBM所属完全体の中には、例外もいるが。
「ま、どこの誰かもわからないんだから、まだどうしようもないだろ」
『ああ。とりあえず、向こうが動くまで待ってみるか』
『一応、『粒子』と『空』にはWBMにいてもらおう』
「そうだな。もし、敵がWBM本部に攻めてきても、あいつらがいれば平気だろ」
『いざとなれば俺らもいるしな』
『できるだけ、俺らの「力」は使いたくないけどな・・・』
 哀しいことを、思い出すから・・・・・・。その後に続くであろうこの言葉は、発せられることはなかった。
「じゃ、『粒子』と『空』への伝達は、紺月、お前に任せていいか?」
『おう。任せろ。全部話していいんだな?』
『まぁ、あいつらには話していいだろう』
「よし、決まりだな」
『じゃあ、そういう方向で』
『またな』
 そして、画面の映像は消えた。



 この時はまだ、誰も知らなかった。
 この戦いが、まさか、あれほど恐ろしいことになるとは。



 ひとつの部屋の中に、2組の完全体と、欠片者〔ピース〕がいる。欠片者とは、逸完全体の3人が1人でいる時の呼称である。彼らは3人そろうことはなく、たいていそれぞれの棟に1人でいるので、この呼び名ができた。つまり、欠片者はセカイに3人しかいないことになる。
「・・・何やて?」
「そないなことする奴がいるんか?」
 『空』は、驚愕の表情を浮かべている。その問いに答えるのは、紺月だ。
「ああ。『未来』が視たことだから、ほぼ確実だな」
「で、俺らに何をしろと?」
「まだどこの誰かもわかってないんだろ」
 『粒子』は、怪訝そうに言った。
「はい。しかし、いつ襲ってくるかわかりませんので、WBM本部にいて頂きたい」
 やはり、口調が変わる『月』であった。
「俺らはいつもいるだろうが」
「まぁ、その心づもりしとけって事だな?」
「はい。よろしくお願いします」
「ああ」
「任せろ」
 そう言うと、『粒子』は部屋を出ていった。
「なぁ、紺月さん?」
「俺らは部屋用意してもらえるんやろ?」
「もちろんだ。WBM本部内ならどこにいてもいいが、敷地からは一歩も出るな」
「はぁ・・・。何や最近任務多いな」
「『粒子』さんがおるんなら安心やけど・・・」
「悪いな。人員不足だ。諦めろ」
「ほんならしゃあないな」
「ほな、一回家帰ってくるわ」
 言いながら、『空』は部屋を出ていった。残された欠片者は、呟く。
「・・・誰も、死ななければいいんだけどな・・・・・・・・・」



 純白の中に、金色がいた。
 ここはWBM本部付属病院の病室。すべてが、清潔感たっぷりの白だ。窓からは、眩しい光が降り注いでいる。部屋の中央にはひとつの大きなベッドがあり、そこに眠るのは黄金の少女が2人。仲良く、手を繋いで眠っている。その傍らにある椅子に座っているのは、『治癒』の癒斗と癒緒だ。
「・・・どれほどその小さな身に哀しみを受けるのか」
「もう、いいじゃねぇか。お前らが壊れちまうぞ・・・」
 彼女たちに外傷はない。しかし、それ以上に治しがたい傷を、心に負っている。突如、何の前触れもなく『未来』の閉ざされた瞳から涙がこぼれた。
「まだ泣くのかよ・・・」
「どうしてお前らには、視えちまうんだろうな?」
 彼女たちを見守る彼らの眼は、父親のごとく優しく、温かかった。親から愛情を受けることがなかった『未来』にとって、『治癒』はまるで父親のような存在だった。子のいない彼らも、そして彼らの妻も、2人を我が子のように大切にしていた。彼らは、2人の涙を拭いてやる。そして、そっと病室を出ていった。



「・・・クク。絶大な「力」・・・やっと手に入れた。これで・・・・・・・・・奴らを殺せる」

 どこかで、だれかがつぶやいた。

 だれかは、わらっていた。

 つめたくて、かなしい、えがおだった。



「「!」」
 黄金の眼が、見開かれる。眠っていたはずの彼女たちが、目覚めた。そして・・・
「来る・・・」
「殺しに、来る・・・」
 そう言った。ベッドから飛び降り、『治癒』の元へ走る。たった今、夢の中で視たことを伝える為に。



 部屋で寝ていた『空』は、突然の会長からの呼び出しに飛び起きた。

 研究室で実験をしていた『粒子』は、火だけは消し、会長室へと走った。



 哀しい、哀しい、戦いの始まりだった。



「何があったんや!?」
「もう敵が来たんか!?」
 『空』が駆け込んだのは、彼らに用意された部屋から一番近かった柚月の部屋だ。
「いや、まだだ。だが、すぐに来るぞ。つい先ほど『未来』が視たらしい。敵が、こっちへ向かって来てるのをな」
「『未来』が?」
「ほな、間違いないな。俺らは戦闘準備してくるわ!」
 部屋を飛び出していく2人。まだ昼間だというのに、敵は襲ってくるらしい。WBM本部内には、授業を受けに来ている完全体がたくさんいた。彼らも、戦闘に巻き込まれてしまうかも知れない。だが、濫殺者が来るのだから、人は多い方が安心だ。『粒子』と『空』に限って、殺られることはないだろうが、単純な「力」の差でいうと濫殺者は完全体よりも強い。油断は、できない。
と、柚月の部屋に『粒子』の2人が入ってきた。『空』と違い、戦闘準備は完了しているようだ。
「もう来るのか?」
「せっかちな奴だな」
「そのようです。どうか、お気をつけて」
 柚月は立ち上がって一礼する。敬意を込めて。
「ああ。任せときな」
「いざとなったらお前らにも戦ってもらうぞ」
「・・・はい」
 できるだけそれは避けたい事態だが、相手が濫殺者とあってはそうなるかも知れない。一応、覚悟を決める柚月であった。



 WBM本部の廊下を、1組の完全体が歩いている。しかし、何かがおかしい。完全体は普通、性別は同じだ。だが、その2人は違った。WBM所属完全体:『夢』の楼夢〔roumu〕と瑠夢〔ryuumu〕は、性別が違う。紺色の短い髪と目をもつ彼らは、セカイでもたった3例ほどしか確認されていない、希な存在だった。年は17歳と『光と闇』よりもひとつ上である。そんな彼らの前に、立ちふさがる者がいた。
「あれ? あたしらにお客さんかな?」
 瑠夢が楽しそうに言った。
「俺らに勝負を挑もうってか? はは、馬鹿だな」
 楼夢は、嘲笑った。彼らの前にいるのは、いかにも敵らしい完全体だった。しかし、『夢』は全く臆することなく、呪文を詠唱する。


――――――――――不確かなる者よ、我に抗う者に己の死の夢を与えろ!   幻夢!!


 その1秒後、『夢』と対峙していた完全体は、まるで夢遊病者のようにとろんとした目になり、そして、
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 叫びながら、倒れていった。すぐに動かなくなる。
「・・・ちょっとキツかった?」
「まさかこれほど弱いとは思わなかったしな」
 彼らが敵に想像させたのは、自らの死。体中にナイフが突き刺さり、首を絞められ、苦しみながら死んでいく己の姿。そんなモノを見せられて、平気でいられるはずがない。そう、『夢』の「力」は、もっぱら幻術系。敵の心や精神に攻撃するのだ。
 こうして、この戦いの第一の犠牲者が出た。



 『粒子』と『空』は、濫殺者と対峙していた。
「まさか、濫殺者が完全体を引き連れてくるなんてな」
「普通あり得ないだろ」
 濫殺者は、心を失う。絶大なる「力」の代償として。しかし、彼は違った。
「ククク・・・。そうだ、俺は稀少な存在だ。心を失わなかったんだからな・・・」
 彼、錯魔〔sakuma〕は、心を失わなかった。知性も残っており、完全体の仲間を引き連れて『月』を殺す為にやってきた。
「せやから、完全体を従えられたんか・・・」
「けどな、そこらの完全体に、俺らの仲間は負けへんで?」
 実際、すでに一組のWBM所属完全体は、敵を倒していた。ここにいる5人は、そのことを知らないが。
「下っ端などどうなってもいい。ただ、俺が『月』を殺せさえすれば、それでいいさ」
「そんなこと、させてたまるかよ!」
「俺らがお前を、殺す!!」
 『粒子』と『空』の目に、静かな殺意が宿った。そうして、4人と1人のバトルが、開始された。



 『光と闇』は、困惑していた。彼らの前にいるのは、敵の完全体。WBM本部に敵が潜り込んでいるなど、全く聞いていない。しかし、こうなった以上戦うしかない。
「光涼、覚悟はいいな?」
「ああ・・・戦うしかないみたいだしな」
 そんな2人を、敵は笑った。
「お前らみたいなガキに、俺達がやられるとでも?」
「おめでたいガキだな」
「それはどうかな?」
「僕らを、あまりなめないほうがいいよ?」
 かくして、『光と闇』の、人生で2度目の戦いは始まる。


――――――――――表裏なる者よ、打ち消し合い、支え合う者よ!
            今ここにその姿を現し、我の力となりて戦え!  光闇具現!!


 闇綾が叫び、光と闇は具現化する。そして、それらは一斉に敵に襲いかかった。しかし、見えない障壁に跳ね返される。
「何!?」
「・・・壁?」
「甘いな!」
『雷閃!!』
 刹那、雷光が閃き『光と闇』に疾駆する。しかし、それを素直に喰らうほど、彼らも馬鹿ではなかった。光涼が叫ぶ。


――――――――――光よ、我を守る盾となり、今ここにその姿を表せ!   壁光!!


 一瞬にして光り輝く盾が現れ、『光と闇』を守った。そして、すぐに次の反撃に移る。具現化された闇を使い、彼らの視界を遮る。
「わっ」
「なんだこれは!? 前が、見えない!」
 慌てふためく2人。すかさず、彼らは唱える。


――――――――――何よりも鋭き矛となりて、我が敵を裂け!   光闇刃!!


 そして、具現化していた光と闇は収束し、2つの剣となった。光のごとき純白の剣と、闇のごとき漆黒の剣。それを手に取り、『光と闇』は駆け出す。そして、敵の足を引き裂いた。殺してはならない。だから、急所は狙えない。しかし、その斬撃は彼らの足をいとも簡単に切断した。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」
 切断された足から大量の血を流しながら、2人の男は倒れ伏した。このまま放っておけば失血死は免れないだろう。だから『光と闇』は、光の鎖で彼らを縛った後、止血をした。
 こうして、第二の犠牲者は両足を失った。



「え〜っと、敵なの?」
「だったら、私達戦わないと」
 『華』の前にも、敵は現れていた。しかし彼女たちは、怖がることなくフレンドリーに話しかけていた。
「できれば、投降して欲しいな〜」
「そうしてくれたら、ケガしなくてすむよ?」
「俺達が負けるとでも言いたいのか?」
「ククッ。あり得ないな・・・」
『水狼!』
 敵の1人が叫ぶと、水でできた狼が『華』に襲いかかってきた。それを舞うように避けると、彼女たちは自分たちの戦場を作り始めた。足下にはすでに陣が描かれている。翠華が前と同じように大きな種を放り上げ、言った。
「散!!」
 そして、朱華は唱える。


――――――――――我が同志達よ、今ここに集い矛となりて共に戦え!   集華!!


 あっという間に、花が咲き誇る戦場が完成した。
「これがどうしたと言うんだ?」
「行け! 水狼!!」
 敵は余裕の笑みを浮かべ、再度水狼をけしかけてくる。しかし、またもや簡単に避けられてしまう。
「その程度の速さじゃ、私達には当たらないよっ」
「そろそろ終わりにしよっか!」


――――――――――何よりも硬きつぶてとなりて、我が敵を打ち抜け!   種銃!!


 2人が声を合わせて叫ぶと、たくさんの花から種が飛び出し、そして銃弾よりも速く、彼らの四肢を撃ち抜いた。それは、種とは思えないような強固さで、骨をも砕き、貫通した。
「・・・くっ・・・・・・ぁぁぁぁぁあああ!!」
 2人は堪えきれずに叫び、苦しみ、倒れていった。傷口からは、血が噴き出す。そんな彼らを、『華』は蔦で縛り上げた。
「ごめんね・・・。痛いよね?」
「だけど、我慢してね。あなた達は完全体だから、殺しはしないから・・・」
 そして第三の犠牲者は、手足に何発もの銃撃を受けた。しかしその弾丸は、永久に見つかることない。



 今、『樹』と戦っているのは、明らかに悪そうなヤクザみたいな奴らだった。すでに周りには、樹木が生い茂っている。
「お前ら、なかなかやるじゃねぇか!」
「でも、俺らには敵わねぇな!!」


――――――――――我が化身達よ、その牙をむき我が敵に抗え!   鋭葉!!


 木の葉が、舞う。その木の葉達は、鋭く、速く、敵の元へ飛んでいった。そしてそれは、まるでナイフのように敵を斬りつける。至る所に裂傷を負った彼らは、何もできずに崩れ落ちた。
「ぐっ・・・・・・」
 それでも何とか叫び声を押し込む。そんな彼らに、さらなる追い打ちが。


――――――――――確固たる檻となりて、罪人を囲え!   枝檻!!


 枝が蠢き、一瞬にして檻が敵の周りにできあがる。木製だが、ちょっとやそっとの攻撃では壊れない、頑丈な檻だ。
「一丁上がり!」
「さて、他の奴らは無事か?」
 第四の犠牲者は、体中に切り傷を負い、檻の中でうずくまる。



 室内だというのに、風が吹きすさんでいた。その風の中心に、1組の完全体がたたずんでいる。彼らは、WBM所属完全体:『風』の織風〔orikaze〕と依風〔yorikaze〕だ。薄い黄緑色の眼と、少し長めの髪の毛がとても綺麗に輝いている。年はまだ13歳だが、立派な戦闘要員である。そして、やはり『風』の前にも敵はいた。『風』は彼らに話しかける。
「あなた方は、何をしに来たんですか?」
「僕たちの会長を、殺しに来たんですか・・・?」
「察しのいいガキだな」
「お前らの言うとおり、俺らは『月』を殺しに来た」
 『風』は、なんとも哀しげな表情を見せる。
「それなら僕たちは・・・」
「あなた方を倒します」
 そして、部屋を満たす風が、その威力を増す。


――――――――――我の大切なモノを守る為、酷なる風となりて裂け!   鎌鼬!!


 その風は、見えない刃となり恐ろしいほどの鋭利さで敵を引き裂いた。パッと鮮血が宙を舞う。それと同時に、敵は倒れた。悲鳴を上げることもできぬまま、彼らは意識を失っていく。おびただしい量の血が、床に流れ出していった。しかし、


――――――――――優しき風となりて、彼の者の傷を癒せ!   癒風!!


 風が、ふわりと傷口を包み込む。先ほどとはうって変わり、その風は優しい。すぐに血は止まり、傷口には薄いかさぶたができた。
「・・・ごめんなさい。傷は必ず治します」
「どうか、2度とこんな事にならないようにして下さい・・・」
 『風』は、自らが倒した敵に、涙を流す。
 第五の犠牲者は、いたるところに裂傷の傷跡をつくった。



 床に、倒れている者がいた。彼の名前は空牙。彼の衣服は、自身の血に真っ赤に染め上げられていた。
「くっ・・・あいつがあれじゃ「力」が使えへん!」
 そう言いながらも、空真は体術で戦っていた。彼も、体中傷だらけだった。濫殺者、錯魔は異常なほどに強かった。やはり、「力」では敵わない。それでも完全体が濫殺者に勝てていたのは、知能の差があったからだ。しかし、錯魔は知能を失っていない。だからこそ、倒すのは困難を極めた。
「空真、お前は下がってろ!」
「空牙を『治癒』んとこ連れてけ!」
 『粒子』が、戦いながらも叫んだ。彼らも無傷ではない。陽粒はこめかみから、潤粒は左腕から血を流していた。
「せやけど、いくら陽粒さんらでもこいつは無理や」
「心配するな」
「すぐに援軍が来るはずだ」
 会話しながらも、彼らの戦闘は続いている。
「クク・・・。お前ら、会話などしてる余裕があるのか?」
 笑いながら、錯魔は炎を操り彼らに放つ。錯魔の外傷は、あまりなかった。ほぼ無傷と言っていいだろう。『粒子』が分子や原子で障壁を造り、炎を防ぐ。
「わかった。後は頼んだで!!」
 空真は、まだまともに動く右腕で空牙を掴むと、『治癒』の元へと駆けていった。
「よし、周りにはお前と俺らしかいないな」
「ここまできたら、“あれ”を使ってやるよ・・・」
 しかし、今この場にいるのは、彼ら3人だけではなかった。『空』と入れ替わるようにしてやってきたのは、『光と闇』。濫殺者の前では、あまりに無力な彼ら。為すすべもなく、傍観していた。だが、『粒子』は彼らに気付かない。そして・・・・・・


――――――――――すべてを形作る礎となる者よ、我の意思によりその姿を消せ!   滅原!!


 『粒子』は叫んだ。しかし、何も起こらない。いや、何が起こったのか視認できないのだ。だが、そこにいたすべて者が、苦しそうに顔を歪める。その中でも一際息苦しそうに、錯魔は喉を押さえた。
「い・・・息が・・・・・・」
 そう、彼らの切り札となる技、それは“酸素を消すこと”。しかしこの技は、様々なリスクを伴う。「力」を大量に消費する上、制御が難しいこの技は、自らも酸欠に苦しんでしまう。だが、特に酸素を薄くするようにした場所、つまり錯魔の周りには、水中と変わらないくらいの酸素しか残っていない。すぐに酸欠で倒れてしまうだろう。放っておけば2分ほどで死に至る。
「・・・・・・・・・」
 喉を押さえたまま、錯魔は倒れた。だが、まだ生きている。
「・・・くっ・・・・・・」
 そうしているうちに、『粒子』も意識が朦朧としてきた。思わず片膝をついてしまう。しかし、錯魔が死ぬまで酸素を元に戻すわけにはいかない。そして、意識が薄れていっているのは、『光と闇』も同じだった。彼らは『粒子』から離れている分、まだだいぶ正気だったが。
 苦しみ、のたうち回りながら、錯魔は想った。自分が殺した、もう1人の自分のことを。



 ・・・ごめんな、拓魔〔takuma〕・・・・・・。

 俺、馬鹿だったのかな・・・?

 お前を殺してまで、『月』を殺す必要があったのかな?

 もう、なにも考えられねぇよ。

 死んだら、おまえといっしょのとこにいきたかったけど・・・・・・無理だろうな。

 きっとおまえはてんごくで、俺はじごくだ。

 くるしい、くるしい・・・・・・。

 いきが、できないんだ。

 でも・・・おまえはおれにころされるとき、もっともっと、くるしかったのか?

 そうだよな。おまえは、くるしくて、かなしいかおをしてたから。

 ははは・・・じごうじとくだよな。

 てんばつ、なのかな?


 くるしい、くるしい、くるしい・・・・・・。



 そして彼は、死んでいった。苦しみと、哀しみと、後悔の涙で、顔をぐしゃぐしゃにして。



 酸素濃度が、通常値に戻っていった。『粒子』は大きく息を吸い込み、吐くと、すっと立ち上がった。
「終わったな」
「ああ・・・・・・」
 第六の犠牲者は、命を落とした。



 『光と闇』は、まるで全力疾走した後のようにぜぇぜぇいっていたが、しばらくすると呼吸が整ってきた。そして、見てしまった。床の上に横たわる、屍を。
「・・・どうして・・・・・・」
「何言ってんだ光涼。あいつは濫殺者だぞ。殺されて当然だ」
 闇綾はさらりと言ってのける。しかし光涼は、納得できない。『粒子』に駆け寄り、問う。
「どうしてですか? どうして、殺したんですか?」
「・・・奴は濫殺者だ」
「このまま生かしておけば、どれだけ被害が出るかわからない」
「だけど・・・彼には知能がありました! まだ、改善の余地はあったんじゃないですか!? 命は・・・そんなに軽いモノじゃありません・・・・・・」
 光涼は、少しだけ泣いていた。彼にも戦うことはできる。敵を傷つけることはできる。それは哀しいことだが、それでも傷は治せる。だけど、命は戻ってこない。彼には、誰かが死ぬことなど、耐えられなかった。
「・・・お前の言いたいこともわかる。だが、仕方のないことだ」
「お前もこれから先、避けては通れない道だぞ。割り切れ」
 それだけ言うと、『粒子』は去っていった。おそらく、『治癒』の所へ行くのだろう。
 光涼は、ただ立ち尽くす。目にたくさんの涙をため、ただ、立ち尽くしていた。



 どうして彼らには、殺せるのか?

 どうして僕には、それができないのか?

 完全体なのに。

 「力」をもっているのに。

 どうして闇綾は平気なんだ?

 もう1人の僕なのに。

 どうしてこんなにも違う?


 ・・・人を、殺さないで。

 誰かが死んでゆくのを見るのは、

 もう、嫌なんだ・・・。

 死なないで、死なないで、殺さないで・・・・・・。

 僕を、おいて、いかないで。



 幼い頃の記憶がよみがえる。

 “僕をおいて死んでいったのは、誰・・・?”

 脳裏に焼き付いているのは、赤。
 何よりも鮮やかで、何よりも痛々しい、赤。
「止めろ!! ・・・・・・でて、くるなよ・・・・・・・・・・・・」
 光涼はその場にうずくまる。



 WBM本部付属病院には、数人の負傷者が運び込まれていた。その中でも1番重傷なのは、空牙だ。前身裂傷、両腕骨折、内臓一部破裂、失血量は全体の4分の1と、生きていたのが不思議なくらいだった。
「すぐに治療を開始する!」
「治療室に誰も近づけるんじゃねぇぞ!!」
 『治癒』は怒鳴ると、数人の医者と共に治療室へ入っていった。



 治療台に横たわった空牙は、酷い有様だった。前身が己の血で赤く染まっている。彼の耳元で、『治癒』は叫んだ。
「おい! 空牙!!」
「死ぬんじゃねぇぞ! 空真のためにも生きろ!!」
 そして『治癒』の2人は、空牙の上に両手をかざした。声をそろえて叫ぶ。


――――――――――我が身を代償に、傷つき苦しむ者を癒せ!   我削治癒!!


 彼らの両手を眩しい光が包み、そして、ゆっくりと空牙の傷口に染みこんでいった。みるみるうちに傷が修復されていく。死人のように真っ青だった空牙の顔が、血色を取り戻していった。その代償とでも言うように、『治癒』からは生気が失われていく。その名の通り、自らの命を削り、治す。それが彼らのもつ「力」だ。
 そして、うっすらと、空牙が目を開けた。
「・・・・・・ち・・・ゆ・・・・・・・・・?」
 『治癒』。確かに彼がそう言った。
「よぉ。気がついたか」
「気をしっかり持て。俺らが、治してやるからな」
 そう言って笑う彼らだが、明らかに空牙よりも顔色が悪い。流石にこれだけの重傷を治すと、「力」の消費が激しすぎる。
(・・・今日は過労で倒れちまうかもな・・・・・・)
(くそっ。他にも怪我人はいるってのに・・・)
 今にも倒れそうだというのに、彼らはまだ治すつもりなのだろうか? 
 そして、ほとんどの傷が治った頃、ゆっくりと光が消えていった。しかし、空牙はまたもや意識を失う。
「よし・・・」
「あとはこいつの目が覚めれば・・・・・・」
 突然、『治癒』の2人は崩れ落ちた。
「先生!!」
 周りの医者達が慌てる。しかし『治癒』は、まだ倒れるわけにはいかなかった。
「ああ、大丈夫だ・・・」
「次行くぞ・・・」
 今にも意識を失いそうになりながらも、彼らは立ち上がった。傷つく者を、自分を必要としている人を、救う為に。
 怪我人の為に自らを犠牲にし、治す。彼らの強さであり、弱さであり、優しさであった。



 あれから、どれくらい時が経ったのだろう?
 WBM本部付属病院の病室には、『空』がいた。空牙はベッドに横たわり、空真は付きっきりで看病していた。夜遅い時間帯なので、外は真っ暗だ。病室も、消灯時間はとっくに過ぎ薄暗かった。
 ベッドの横にある椅子に座り、空真は呟く。
「空牙・・・死んだらアカン。お前に死なれたら、俺はどうしたらええんや・・・・・・」
 空牙はまだ、意識が回復していなかった。
「目ぇあけてぇな・・・・・・。お前はそないに弱い奴やないやろ・・・?」
 空真は1人、祈り続ける。










――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――




光涼:さぁさぁ、やって参りました。ぶっちゃけコーナー!!
小豆:『空』と『治癒』は本日欠席でーす。
闇綾:まぁ、癒斗さんと癒緒さんはあのあと他の奴らも治した後ぶっ倒れたからな。
朱華:空真さんは空牙さんに付きっきりだし・・・。
翠華:大丈夫なのかな・・・・・・。
小豆:あのさ〜。ぶっちゃけコーナーなんだから暗い話は止めろよ。
晴樹:じゃ、今回も質問やら次回予告やらやっていくぞ!!
愉樹:質問その1〜。空牙さんはどうなりますか〜?
小豆:いきなりそれ? まぁ、それは次回をお楽しみに。
織風:ここで言っちゃったら、次回がつまらなくなりますもんね。
依風:質問その2〜。初めは怪我人出ない予定だったのになんで空牙さんボロボロなんですか〜?
小豆:愚問だな・・・。『治癒』を活躍させる為に決まってるだろ!!
楼夢:最悪だなお前。空牙の身にもなれよ。
瑠夢:質問その3〜。今回で主要キャラは全員出ましたか〜?
小豆:まだ。あと3組くらい完全体残ってる。
未有:2話なのにまだみんなでてないの・・・。
来無:・・・主要キャラ多すぎだよね。
小豆:ちなみにまだ増えるかも?
陽粒:・・・いい加減にしとけよ?
潤粒:質問その4〜。光涼の“あれ”は何ですか〜?
小豆:ふふっ。奴は色々と背負ってるんだよ。
晴樹:意味深だな・・・。
愉樹:質問その5〜。最初の“あれ”は何ですか〜?
小豆:伏線に決まってんだろうが!!
織風:作者によると、そのうち明らかになるそうです。
依風:ちなみに、いつ明らかになるかは定かではないそうです。
小豆:よし、そろそろ次回予告いってみようかな。ちなみに次回で、残りの完全体がみんな出てくるよ!
瑠夢:3話にしてやっと全員登場?
楼夢:おそっ。
小豆:うるさい。だまれ。
未有:次回予告・・・。
来無:そろそろいこうね・・・。



未有:未だ目を覚まさない空牙さん。
来無:空真さんは、空牙さんのことが心配で心配で・・・。
晴樹:はたして意識を取り戻すのか?
愉樹:一方、柚月を殺そうと企んでいる者がいた。
織風:新たな完全体達と、会長を守る為WBM本部に配置されるみんな。
依風:そこに襲いかかる敵とは?
楼夢:次回。ツウィンズワールド 第3話「哀しき最強を狙う者」(変更あり)
瑠夢:お楽しみに!!


4 :小豆 :2006/10/24(火) 23:36:22 ID:ommLQAmc



 WBM本部の研究室。

 そこに、4人の白衣がいた。

 彼らは酒を酌み交わし、

 自らと、幼い同志達について語り合う。





――――――――――――――――――――――――――番外編「まだ若い彼らの為に」




 研究室にいる4人とは、『治癒』と『粒子』だった。今から10分ほど前、『治癒』が酒瓶片手に、久しぶりに『粒子』と飲もうとやって来たのだ。
「癒斗さんも癒緒さんも、病院の方はいいんですか?」
「いつも泊まり込みですよね」
 『粒子』は、年上かつ尊敬に値する人物にしか敬語を使わない。彼らにとって『治癒』は、数少ない尊敬できる相手だった。
「ああ。今日は患者が異様に少なくてな」
「たまにはこうして飲まねぇと、やってらんねぇよ」
 苦笑しがらも、彼らは焼酎をあおる。
「確かにそうですね・・・」
「俺らも、実験と研究の毎日ですから」
 実際、『治癒』がやって来たときも実験の途中だった。しかし、「おいおい。お前らまだやってたのかよ」「今日はもう止め止め。さ、片づけるぞ」といった感じで、『治癒』の2人に強制的に終了させられてしまったが。


「・・・俺ら、もっとしっかりしねぇといけねぇよな・・・・・・」
「WBMには、俺ら以外にはガキの完全体しかいねぇんだから・・・」
 暫く黙って酒を飲んでいたが、唐突に『治癒』が言った。しかし彼らの台詞に、『粒子』は疑問を持つ。
「会長は・・・21ですよ?」
「一応、成人してます」
 確かに、『月』はもう21歳。28歳の『粒子』や52歳の『治癒』からしたらまだ若いが、法律上は大人だ。
 ちなみに、WBMには成人した完全体が3組しかいない。どう考えても、少なすぎだ。
「確かにあいつらは21年間生きてる・・・。だけどな、あいつらはあの日から、一歩も前に進めてねぇ」
「あいつらはまだ、10歳のガキのままだ。・・・ったく、いつまで引きずってるつもりなんだろうな?」
 そう、彼らの言うとおり、『月』は“あの日”に縛り付けられたまま、前に歩めていない。永遠に“あの日”を生き、彷徨うのだろうか?
「立ち止まっている分、あいつらは壊れやすい。ふっきって、前に進めてねぇんだから、当たり前だよな」
「だからこそ、俺らがしっかりして、あいつらを支えてやらなきゃなんねぇんだ。まだ、幼くて弱い、あいつらをな・・・」
 『粒子』は納得したように頷いた。
「・・・そうですね」
「彼らは・・・失ったモノが大きすぎた・・・・・・」
 酒を飲むスピードが、自然と速くなっている。
「それに、『月』だけじゃねぇ。他の奴らも、まだまだガキだ。成長過程のあいつらには、背負わせちゃ駄目だ」
「荷物が重すぎると、歩けなくなっちまうからな。・・・なぁ、陽粒、潤粒。俺らで、背負ってやれねぇかな?」
「あいつらの分も・・・」
「自分自身の分もな・・・・・・」
 少しの間、黙り込む『粒子』。
「・・・俺らにはそんな大それた事はできませんよ」
「せめて、見守ることを彼らの為に・・・・・・」
 彼らのその答えを聞き、『治癒』は笑顔をみせる。優しく、暖かい笑顔を。
「ああ、そうだな。お前らが背負ってるモノも、軽いわけじゃないからな・・・」
「ならば俺達は・・・治し続けよう。彼らの傷も、心も」
 そして『治癒』は、口には出さず心の中で呟く。
(心の方には、限界があるけどな・・・)
 そんな弱いところを、誰にも見せようとしない。『治癒』はやはり、〜傷つく彼らを癒す者〜であった。
 彼らの、酒盛りはそれから暫く続いた。



 深夜の研究室で交わされた会話は、誰も知らない。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――



これは、番外編です。
本編とは違って、短かったりします。
まぁ、こんなこともあったんだな。
と、思って下さい。


番外編なので、ぶっちゃけコーナーはカットさせて頂きます。


5 :小豆 :2006/10/28(土) 00:16:42 ID:PmQHsHuF



 “殺してやる”

 彼らにそう言われたとき。

 俺は何を感じただろう? 何を想っただろう?

 もう、思い出せない。

 思い出したくない。 





――――――――――――――――――――――――――――第3話「哀しき最強殺し」




 ……からだじゅうが、いたい。

 もう、しんでしもうたほうが、らくなんとちゃうか……。

 せやけど、おれがしんだらあいつはどうなる?

 あいつを、ひとりにしたらあかん。

 あいつのためにも、おれはいきな……。



 目を開けるとそこは、ただの暗闇だった。
(ここは、どこや……?)
 すぐに思い出す。ここは、病室なんだと。自分は大怪我を負い、『治癒』に治療を受けたのだと。体はまだ痛くて動かない。なんとかして、頭だけを動かす。ベッドの端に寄り掛かるようにして、眠っている者がいた。
(空真? そうか、ずっとそばにおってくれたんやな……)
「……ありがとう」
 空牙が小さな声で呟いたとき、空真がゆっくりと目を開けた。眠たそうに1度目を擦った後、寝ぼけ眼を空牙に向けた。そして、
「空牙! 目ぇ覚めたんか!?」
 眠気なんて吹っ飛んだ。
「……ああ。心配かけてごめんな」
「そんなことはええって。……傷、痛うない?」
「これくらい平気や。空真こそ、怪我はもうええん?」
 彼は知らなかった。自分が、1週間の間ずっと眠り続けていたことを。その間に、空真の傷は癒えていたことを。
「俺はもう治ったで? ……せや、癒斗さんら呼ばな」
 ナースコールを使って、空真は連絡を取っている。
 その間、空牙は窓の外を眺めていた。夜中だというのに、カーテンは閉められていない。窓の向こうに見えるのは、ただの暗闇。
「癒斗さんら、すぐに来てくれはるって」
「ああ……」
 空真の方を見ずに返事をする。彼は窓の外を見つめ続けていた。
「なぁ、空牙……?」
「なんや?」
 やはり、向こうを向いたままだ。空真は少しためらい、そして言った。
「……俺な、正直怖かった。お前が死んだらどないしよって。……生きててくれて、ありがとうな……」
「俺が、お前をおいて死ぬはずないやん……」
 そう言った空牙の声は、少し震えていた。






――――――――――――――――――――――――――――――――

※1話・2話と、一度に掲載していましたが、
3話からは少しずつ更新していこうと思います。
なので、3話はまだ続きがあります。
続きはいつになるかわかりませんが、
ぼちぼち書きます。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.