あやしうこそものぐるほしけれ


1 :椎凪 :2007/11/28(水) 14:06:37 ID:onQHxen3

 
 誰にでもありそうな話。
 誰でも体験できそうな話。
 それでも出来るわけが無い話。

 そんなきわどい話をかけたらなぁ と思います。


 


2 :椎凪 :2007/11/28(水) 14:14:17 ID:onQHxen3

自殺しそこねた男.01

 え? 私、私のことですか?
 はぁ、こんなしがない中年サラリーマンの話でよければ幾らでもお聞かせいたしますが。

 そうですねぇ、いまどきの若い人がどんな話を好むのかわかりませんが……。
 私が自殺しようとしたときの話なんかはどうですか?











 会社に入って早二十六年。
 働いても働いても給料は上がらず、妻にも上司にも頭が上がらない状態が続いて疲れていた。
 あと何年、こんな事を繰り返すのかと考えれば目の前が暗くなる。
 思い返せば今まで一度も良い事など無かったような気がする。
 可愛かった一人娘は思春期に入りろくに口も利いてくれなくなった。それどころか最近同棲をすると連れてきた彼氏は、髪を金髪に染め耳以外の口や鼻にもピアスをしていた。
 妻は妻で、私にばれていないと思っているのだろうか、若い男と会っている。そのための金も私がせっせと汗水たらして働いて稼いだ金を使っている。
 会社では自分より若い上司にこき使われる毎日が続いていた。

 もう疲れた、終わりにしたい。


 ふと目に入った愛車で、死地を探しにいくことにした。
 なるべく静かな場所がいい。出来れば美しい風景の場所がいい。
 ぼんやりと当ても無く車を走らせながら、そんなことを思った。

 日も落ち、辺りが暗くなっても、まだ私は死に場所を見つけられずにいた。
 今まで良い人生でなかったせいか、死に場所くらいはこだわりたいと思い散々探した結果がこれだった。
 助手席で、コンビニで買ったビニール紐とハサミが所在無さ気に座っている。
 最期の最期まで、死に花くらいもまともに咲かせられない自分に苛立ってくる。
 車道脇のちょっとしたスペースに車を停め、ビニール紐と一緒に買っていた煙草に火をつける。
 ああ、煙草を吸うのなんて何年ぶりだろう。
娘が生まれた時に止めたのだから十八年は吸っていないことになる。煙草を吸うのを止めると決めたときは、内心何日ももたないだろうと思っていたが、娘の顔を見るたびに決心が固くなっていったものだった。
 妻も女盛りでよく世話を焼いてくれたものだし、私も妻と上手くやれていた。それが今はこんな結果だ。目も当てられない。

 早く死のう。

 吸い始めたばかりの煙草を地面で踏み消して、車に戻ろうとしたときに
「あのぅ、すみません」
 後ろから声をかけられた。
 驚いて振り返ってみると、カーゴパンツにパーカーというラフな格好をした青年が申し訳なさそうに立っていた。
「すみません、ここが何処だかわかりますか?」
 一瞬、何を言われているのかが理解できなかった。自分が今立っている場所を認識できていない人間に会うのは初めてだったからだ。
「あっいや、その。ふざけているとかではなく、道に迷ってしまって…… 」
 もう一度青年は申し訳なさそうに私の顔を見てきた。
「あぁ、そういうことですか。確かここは××市ですよ」
 記憶を手繰り寄せながら答えると、青年はまたまた申し訳なさそうな表情を作った。
「××市? …… 何度もすみません、ここって○○市からどのくらい離れていますか?」
「…… 五十キロは離れていると思いますよ」
 どうやら、彼の自宅は○○市にあるらしい。
 私の答えを聞いて彼の表情が凍った。
 この状況の打開策を考えているようだが、生憎ここは電車が通っているほど開発はされていない田舎だ。早々簡単に、五十キロ先の目的地に着けるはずも無い。
 こんな時に自分の性格が嫌になる。
 だが口が勝手に動くのだ。
「もしよろしければ送りましょうか?」
「え? いや、そんな、見ず知らずの方に迷惑なんてかけられません」
 そう言って断ってはいるが、どの道ここではヒッチハイクしか方法が無いのだから私の車に乗ってもなんら変わりは無い。そしてそもそも、これは私の性格なのだ。困っている人を見捨てることは出来ない。
「かまいませんよ、どうせそこに行く予定でしたから」
 私がそう言うと、彼はまた申し訳なさそうな顔をしたが
「じゃあ、お言葉に甘えます」
 蛙が潰されたような情け無い声で、頭を下げた。


 


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