骨の髄まで、愛してあげる


1 :小豆 :2009/08/23(日) 21:56:14 ID:xmoJmmnc

 
 
 
 
 骨の髄まで、愛してあげる。





 破壊衝動。
 物心がついた時にはもう、私の中に存在していたそれ。それは私の中で生じたモノではなく、生まれつき私が持っていたモノだと思う。赤ん坊が生まれつき、呼吸の仕方を知っているように――。私の中にそれは、当たり前のモノとして存在していた。


 自分が普通の人間とは違うということに気付いたのは、私が幼稚園というものに通っていた頃のことだった。
 私は当時一番好きだった自分の玩具を、自分の手で破壊した。ありきたりな、どこにでもある普通のお人形だったと思う。鋏でバラバラにされたそれを目の当たりにした大人達は皆、私を異常なものを見るような目で見た。両親に連れられ、病院に行ったことを覚えている。
 それ以降、私は自分を正常な人間に見せるための努力を始めた。大人になった今では、誰も私を異常者とみなさない。誰もが、私の中にある破壊衝動という悪魔に気付いてはいなかった。


 破壊できればなんでもいい、というわけではない。そこには私なりのこだわりがある。
 こだわり、と言えば、少し語弊があるかも知れない。もっと正確に言うならば、私の破壊衝動は、ある特定の物に対してだけ働く。

 それは、“私が愛している物”。愛しいが故、壊したくなる。

 その対象が自分の両親にまで及ばなかったことを、私は不幸中の幸いだと思う。私が壊すまでもなく、彼らは早くに死んでしまった。



 小学生の時。ぬいぐるみが好きだった。すべては布と綿の塊へと変わった。

 中学生の時。親友からもらった手紙が宝物だった。それは唯の灰へと帰した。

 高校生の時。近所で拾った子犬を何よりも可愛がっていた。気付けば、庭の片隅に墓ができていた。



 大人になった今。私は初めて、好きな人ができた。彼も私を、愛してくれた。





「……お待たせ。夕飯の用意、できたわよ」
 言いながら、二人分の夕食をテーブルに並べる。あなたは私に微笑みかけ、手を合わせた。

 ――ありがとう。いただきます。

 不安に思いながら、あなたが食事を口に運ぶ様子を見守る。
「……おいしい?」
 そう問えば、あなたは優しく笑って。

 ――ああ、おいしいよ。

 そう言ってくれた。自然と顔がほころぶ。
「嬉しい」



 テーブルを挟んで、向かい合って座る私とあなた。部屋の中に響いているのは、私の声だけ。だけど大丈夫、あなたが何と言っているか、私にはわかるもの。
 ……たとえ貴方が、白骨となってしまった今でも。あなたが笑っているのが、私にはわかるもの。





 できることなら、愛するあなたを壊したくは無かった。
 でも、愛してしまったから、壊さずにはいられなかった。


 ――――悪いのはだれ?


 それはあなたでもなければ、
 私でもない。

 悪いのは……

 私をこの世に産み落とした
 神様なのよ。






 骨の髄まで、愛してあげる。
 
 
 
                                          fin.


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