白雲は眠る羊のように浮かび


1 :無添加 :2008/07/17(木) 13:12:07 ID:m3knVnzk


あの日、あたしは涙を流し終えて

きっと、もう出ないだろうなって思った

だって、あのこと以上に悲しいことなんかないから

でもね、笑うことも苦じゃなくなって



それは、きっと。


2 :無添加 :2008/07/17(木) 14:23:07 ID:m3knVnzk

Act.1 それはいつの間にか


「フィーナ!」

 名前を呼ばれ、振り向く少女。その際に抱えていた林檎の実が零れそうになって、上手くキャッチした。

「あっぶな…」
「ごめん、大丈夫だったか?」

 顔を上げると生まれた頃から、つまり15年前からの付き合いの少年の顔が目に入った。

「クロード!」

 とびきりの笑顔で名前を呼ばれれば、クロードの頬が赤くなる。
 クロードはごほん、と咳払いを一つして、フィーナに手を差し出した。なあに、という風にきょとんとしているフィーナ。

「少しかせよ、持ってやる。」

 照れ隠しか、いつもよりぶっきらぼうに言う彼にフィーナは笑みを隠せなかった。

「ありがと。じゃあ、お願い。」

 クロードの手には持っていた半分の林檎が置かれた。落とさないようにしっかり持つとじゃあいくか、と歩き始めた。
 穏やかな風が髪を撫で、新緑の香りを運んでくる。少し先の林からは葉のこすれる音と、鳥の囀りが聞こえてくる。
 二人は何も言葉を交わさず、それらに感情を預けた。
 静かな、優しい時間。


「ねぇ」

 ふいに呼びかけるはフィーナだった。
 クロードは無言でその先の言葉を促す。

「もうすぐで、半年だよ。……お母さんが死んでから。」

 クロードはうん、と短く答えた。しかし内心、驚いていた。まさかフィーナからそんな言葉が出るとは思わなかった。
 フィーナの父親はフィーナが生まれる前に亡くなってしまったらしい。つまり、フィーナが家族と言える存在は母親だけだった。
 母親は当時原因不明だった風土病にかかって死んだ。それから2週間ほどでワクチンが完成した。ぎりぎりで、間に合わなかったのだ。母親が死んでからのフィーナはまるで抜け殻だった。何も言わず、いつも何処を見ているのか分からない様な目でただ家の真ん中でぽつんと座っているだけだった。フィーナが回復したのは死者を防ぐことが出来るほどの確実性のワクチンの噂を聞いてからだった。

「クロード?」

 呼びかけられ我に返る。フィーナは心配そうな顔で大丈夫?と顔をのぞき込んだ。

「大丈夫だよ。少しぼーっとしていただけだから。」
「そう?」
「うん。」

 明るく笑ってみせるとフィーナはそっか!と安堵の笑みをこぼした。
 フィーナの自宅に着き、クロードは数個の林檎をフィーナに渡す。

「どうもありがとうね。」
「どういたしまして。」
「あ!今日、お墓参り行かない?」
「え?」

 突然の提案にクロードは素っ頓狂な声をあげる。

「あ、いや、忙しいなら良いんだけどさ。きっとクロードに会えたらお母さんも喜ぶかなって。」
「あ、うん。行く。行くよ。俺もシエラさんに会いたいし。」

 にこ、と笑うクロードにフィーナはじゃあ林檎置いてくる!と言い、元気に中に入っていった。


「お待たせ!行こう!」

 いくらもしないうちに飛び出してきたフィーナ。

「うん。あ、髪ぐしゃぐしゃになってる。」
「え、うそ!」

 クロードは慌てるフィーナの柔らかい髪を指で整え、できたよ、と頭をぽんと軽く叩いた。

「ありがと!」

 フィーナとクロードはフィーナの家に背を向け、フィーナの母―シエラの墓へと向かった。


3 :無添加 :2008/07/25(金) 12:58:03 ID:m3knVnzk

「え…?」

フィーナは目を丸くした。
クロードも同じだ。声には出さずとも、動揺していた。
フィーナとクロードはシエラの墓の前で呆然と立ちつくす。
そして、それを見ていた。
シエラの墓があるべき所に開く、穴を。

「お、おか……さ…の、お墓、が……な、なな、え?」
「どういう、事だよ…」

穴は大人3人が入れそうなほど大きく、底が見えない。
中からはひゅうひゅうと風が吹き出している。
不気味なまでに冷たい風だ。

「ね、これ…何かな」
「わかんねぇ…」

二人は顔を見合わせた。

「あ…っきゃぁ!」
「フィーナ!」

どん、フィーナの体は地面を離れ、バランスを崩す。
クロードはフィーナに手をさしのべるが若干届かなかったのか、クロードも身を乗り出す。
二人の手はつながった。
しかし、穴に落ちてしまった。

「フィーナ、そっちの手を…!」
「う、うん!」

両手をとり、そのままフィーナの顔を胸に押しつける。
しっかりと抱きしめ、大丈夫か、と聞くとフィーナはこくんと首を縦に振った。
スピードは増し、空気抵抗がひどくなり、目が痛くて開けられない。
何処まで続いているのか。
寒くなってきた。
まだなのか。
落ちたら、死ぬのか。


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甘辛流小説家ギルドGAIA
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