AI‘s eye


1 :宮部稜 :2008/06/23(月) 01:30:42 ID:ommLziV4

 国の掟
 
 神殺しの目
 それを持つものがこの国に生まれた時

 女児ならその者を王族の妻として娶るべし
 さすれば 国に富と力をもたらし栄となるだろう

 しかし

 男児ならば即刻殺すべし
 その者 国に破滅をもたらすであろう

 神殺しの目
 それは光を通さぬ瞳





 高い城壁で囲まれた国、リオラ。そこは男の国とも呼ばれている。
 国民の3分の1が男で、残りは女だ。しかし、昔から続く習慣で、女に対する扱いはすこぶる悪い。女は生まれたそのときからモノとして扱われ、男に売買される。
 通りにも女があふれ帰り、男を誘惑しては建物に誘い、そして自らを売る。しかしそこで手に入れたわずかな金も、すべて飼い主である男の手に渡るのだ。
 女にとっては最低の国だが、男にとっては住み心地の良い国だった。
 国の中心には巨大な時計塔あり、それは歴史あるこの国の象徴ともいえた。そのため、それを見に各国から訪ねてくる旅人も決して少なくはない。
 だが、前文にもあってのと折の治安状況のため、女性が訪れることはほとんどない。
 
 そんな国に、一人の旅人が入国した。
 夕方のことだった。

「ちょっとお兄さん、寄っていかない?近いからさ」
「ねえねえ、サービスするよ」
「いいじゃない、ちょっとぐらい」
 夜になった裏通りに、比較的に肌の露出度が高い服を着た女たちが溢れかえる。全員が厚めの化粧と派手な服を着ている。しかし、全員に同じく言えることが、皆そろって痩せ細っているということだった。
 それは決して健康的な細さではなく、骨が浮き出るような、栄養不足による細さだった。
 そんな女たちの中に、ひときわやせ細った女が居た。
 女というよりも少女に近い。まだまだ成長途中の体を必死で動かしながら、少女は他の女に負けないように声を出して男を誘っていた。
 しかし相手をする男は独りも居ない。
 少女はふうとため息をつくと、その持ち場から離れだした。きっと場所が悪いのだろう。ということにして、とりあえず場所を変えることにしたのだ。
 帰る場所は決まっている。
 時計塔の下だ。
 この夜遅くに観光の客がいるかは分からないが、いつまでもここに居てもきっと客は入らないだろう。このままではまたあの男にたたかれてしまう。
 少女はそう考えるとブルッと身震いをして足早に歩き出した。

 時計塔。
 歴史あるこの時計塔は、この国を建国した初代国王が造らせたものだ。古来から伝統のレンガ造りの塔は、頑丈で、現在に至るまで数々の争いがあったが今もその姿をはっきりとしている。
 噂では国王の秘密の部屋がある。や、武器を大量に隠してある。といわれているが定かではない。しかし代々時計塔の管理は王族によってなされており、真実は誰にも分からない。
 だがひとつ確かなのは、この時計の中央には巨大な宝石があしらわれているということだ。
 これは有名な話でもある。
 時計塔を造る際、国王は自分の持つ一番巨大な宝石をそこに飾ることによって、自らの価値をそこに写そうとしたのだ。
 結果、どこからでも見えるこの巨大な宝石は今までに何度も盗まれそうになったが一度として盗まれたことはない。
 言わば、国王の使命なのだ。
 宝石を自らの大で盗まれてはいけない。
 もしそのような事があったとき。それはその王が追うではなくなるときだからだ。
 そのため、この宝石を盗もうとしたものには容赦ない罰が与えられるようになった。今は当然死刑である。
 こんなこともあり、この国では不可能なことをするときに『時計の宝石を盗むようなものだ』と皮肉っていっていた。

 少女が時計塔の下に行くと、そこには人の姿はほとんどなかった。
 見えるのは時計塔を守る数人の衛兵のみ。街頭に照らされはわずかなスペースに身を寄せ、少女は大きくため息をついた。そして時計塔にもたれる。
 どうやら今日は厄日らしい。
 諦めて帰ったほうがいいのかもしれない。
 そう思って一歩前に踏み出したその時――――――

 バガンッ!!!!!

「きゃっ?!!!!」
 少女は身を縮める。
 少女のすぐ横に積み重なっていた木箱が、上から振ってきた何かによって破壊されたのだ。
 当然のように静かだった時計塔の広場にその音は大きく響き渡り、衛兵が走ってくる。
「なななん、なんなの?!」
 少女は髪を上げ、その破壊された木箱を見つめる。

 すると

 そこから、一人の人間が出てきた。

「え?」
 少女はまず、それが人とは思えなかった。
 その理由その@ 落ちてきた、ということは、時計塔から落ちてきたということだ。しかし時計塔の高さは少なくとも5階建ての建物よりも高い。そこから落ちてくるのが人のわけがない。
 その理由そのA 人だったとしても、それが落ちてきて無事なわけがないから。
 その理由そのB 時計塔に人が居るはずないから。
「だ、だれ?」
 少女が目を凝らした瞬間。
 急にその人間は飛び出してきて、少女の手をつかんだ。
「え?!!!!」
 元から体重の軽い少女はいともたやすく手を引かれ、引きずられていく。
「なになになになに?え、は、離してっ!!」
 少女が顔を上げて、自分を引っ張っていっている人間の顔を見た。
 
 それは、自分と同じくらいの少年だった。
 しかし、少年の左目にはよく目立つ眼帯がしてあった。


2 :宮部稜 :2008/07/05(土) 15:27:53 ID:ommLziV4

 少年に引っ張られていく少女。
 抵抗する力もなく、ただただ少年に足を合わせて走るのに必死だった。そうでなければ確実に引きずられている。
 しかしそれにもすぐに限界が来た。
 ちょっとした段差で少女は足を引っ掛けた。そしてそのまま足を絡ませ転ぶ。

「うおっい!!!」

 少年は驚いて手を離そうとしたが、そのまま巻き込まれて一緒に転んだ。


 固い石畳に足を着き、少女は息をつく。
 目の前にいる眼帯少年は少女の隣で座っている。
「あんた……なんで落ちてきたの?」
 ようやく呼吸の整った少女は少年に聞いた。
「ていうか生きてる?幽霊じゃない?」
 すると、さっきまでただ座っていた少年が顔を上げ、少女を見た。その顔は明らかに不機嫌。
「お前こそどうしてあんなとこに居たんだ?」
「へ?」
「あの時間に観光客はだれもいねぇぞ。客引きには向かない」
「あ……でも、その」
 思い出した。
 仕事。
 雇われている、いや、買われている少女は当然その日の仕事が終わったら実を休める場所がない。
 しかし、帰る場所は存在する。
 雇われている主人の下だ。
 彼にその日の儲け金を払わなければいけない。そうしなければ、彼はある方法を使って少女を探すことになる。
 といっても、今日の売り上げはない。
 ないから時計塔までやってきた。

 少女は眼帯少年を見つめる。
 彼は観光客だろうか?
「あの……」
「じゃあ俺は行くから」
 少年は立ち上がった。
「は?」
「行く。ここまで引っ張ってきたのは叫ばれると面倒だったから。此処までこればいいだろ?」
 そういうと少年は少女に背を向けた。
「ちょっと待ってよ!」
「行く」
「待ってよ!あなたのせいで商売にもならなかったじゃん!」
「はあ?」
「買ってよ」
 少女は思い切っていった。
 そして少ないばかりの衣服をその場で脱ぎ捨てた。上半身は一糸纏わぬ姿になった少女。
 本来その姿はかなり艶かしい姿だろう。しかし日ごろの栄養不足がたたったその姿は、骨が浮き出て、肉付きというものがなかった。
 それでも少女はいつものようにその姿を少年に見せる。
「お願い……このままじゃ私主人に殺されちゃう」
 少年はその言葉に一瞬反応した。そして足を止め、少女の姿を見る。
「いくらだ?」
 少年は聞いた。
「え?!買ってくれる?お金は事が済んでからでいいよ」
 少女は嬉しそうにさっきまで来ていた服を拾う。そして少年の腕に自分の腕を絡ませようとしたが、その前に少年が何かを差し出した。
「あ」
 それは札の束だった。しかも、決して少女が手に出来ないほどの大金。それが目の前で少女に差し出される。
「なに、これ」
「やる。金があればいいんだろ?それ持って主人でもなんでもいいから帰れ」
「えっ……」
 そして少女の手に無理やりその札束を握らした。
「これでいいな」
 そういうと少年は少女から離れた。そして歩き出した瞬間。

「ふざけるな!!!!」

 少女は少年に思いっきり札束を投げつけた。
「は?」
 振り返ると、少女は顔を真っ赤にして立っていた。
「馬鹿にすんな!女だからって……金がほしくて……馬鹿にすんな!!」
 そして近くにあったごみを少年に投げていく。
「確かに此処の女たちは金と男がなければ生きていけない!!でもっそれでも……そうしてしか生きていけないんだから!それを哀れまないでよ!そんな目で見ないでよ!」
 少女の声が路地に響く。
「オイ、こら」
「そっちから声が聞こえたぞ!!」
 鋭い声が少年の声にかぶるように届いた。
「え?」
 少女は再び引っ張られた。
「なんで……私まで逃げるのよぉ!!!!」

 少女の悲しい叫びが、その路地に響き渡った。


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