魔女物語


1 :多樹 :2007/10/20(土) 20:25:27 ID:m3kntDV4

  序章・始まりの呪文・ 

 その日、人気のない教室で、一人の少女が本を開いていた。
少女の口から漏れるは呪文。
それは明らかに人の言葉ではなく、だがしかし、少女はそれをいつもと同じように話していた。
そして、突然本が光りだし、少女は持っていたその本を床に落とした。
同時に床に出現する白い光りの陣。それは模様のようでもあり、幾何学的な文字のようでもあり、だがしかし少なくても現代人の言葉ではないもの。
少女は叫ぶ。契約の言葉を。
「―――――!」
そして、床に描かれた魔方陣が光りを強くし、大量の煙とともに消えた。
煙の中に立つは少女ともう一つの影。
少女は安堵の笑みをもらすと、それに向かって名乗った。
「初めまして。私の名は鈴城 凛(すずしろ りん)。貴方を呼び出した魔女です」
それは、凛を見下ろしながら呟く。
「凛、だな。俺の名はない。昔、閻魔大王になるべき男によって剥奪された」
そういうそれに、凛はほほ笑みかける。
「そうですか。なら、私が名を与えます。貴方の名は、ジークフリート」
一息。
「英雄の名です」
若い魔女はそう言った。


2 :多樹 :2007/10/22(月) 19:52:48 ID:m3kntDV4

一章 1・噂

その街には噂がある。
それも一つ二つではなく、かなりの数だ。
その街、神空町(かみくらちょう)はそういった噂とともにある街である。
そして不思議なことに、その街の噂のうちの三分の一は街の中心に在する巨大な建てもの、私立神成学園(しんせいがくえん)から広がっていた。そこは創立者が超がつくほどの大金持ちであったため、あちらこちらに金をかけまくった金持ち学校である。確かに創立当初は現代貴族(金持ち)しか入ることはできなかったが、今では庶民でも成績さえあれば入れるようになった。
その学園の中、1年の教室左端最前列の位置に、彼女の席はあった。
今このクラスの担任の教師、秋野がその名を呼び上げる。
「黒神 時(くろがみ とき)」
「はい」
彼女、黒神 時は出席確認のため呼ばれた名前に返事を返しつつ、消しゴムをペンではじいた。
しかし消しゴムは予想以上につよく弾かれてしまい、そのまま机の上から空中へと飛び出していった。だが、そのまま引力に引かれて落ちるはずの消しゴムにありえないことが起きた。
一瞬空中で止まり、そのまま彼女の方へ戻ってきたのだ。
しかし彼女はそれを違和感無く受け止め、机の上に置いた。
そんな彼女の左手にはめられた銀の指輪から、意思が彼女に届けられた。
―魔力の無駄遣いとは感心しませんよ、トキ様―
トキも心の中で指輪に話しかける。
『シグルズ、うるさい。そんなことよりグラムは見つかったの?』
―残念ながら。あいにくこの街は魔力の気配が強すぎてグラムを探し出しにくいです―
その指輪の言葉にトキは実際に眉根を寄せる。
『魔力の気配が強い?私たち以外にも魔法使いがいるのですか?』
―いえ、これは魔法使いだけの気配とも思えません。なんだか妙な感じです―
教室を見渡して見るが、生徒会副会長を務める少女、秋乃風 華蓮(あきのかぜ かれん)が生徒会からの手紙、“生徒会メール”を配っているだけで特におかしなところはない。
『私は魔力を探れないからわからないけどたとえば何がいるの?』
トキの目の前に華蓮が5枚ほど“生徒会メール”をおいていく。
―たとえば、神・・・もしくは悪魔や天使かもしれませんね―
『馬鹿ばかしい。神や悪魔なんて実在するわけない。もちろん天使なんて非科学的なものもね』
―トキ様、魔法使いの発言とは思えませんが?―
『ん・・・?そういえば一番新しい情報にそんな噂があったような・・』
そう心の中で呟き、トキは実際に自分のなすべきことを呟く。
「仕方ない・・後で屋上行くか・・」
そう呟きながら、トキは担任の秋野が最後の一人の名を呼び上げたのを聞いた。
「若林 唯(わかばやし ゆい)」
「はい」


3 :多樹 :2007/10/25(木) 20:48:34 ID:m3kntDV4

2・屋上

昼時の屋上。本来ならば誰かしら人がいるのかもしれないが、神成学園にそのような者はほとんどいない。特にこの時期はテストなどがあるため学生達は各々の教室に引きこもっている。
だが、その屋上に、人の姿があった。
それも一つではない。二つだ。
一つは白を強調したデザインの神成学園の制服を着た長い黒髪の少女、トキだ。
トキは右手に売店で買ったパンの入った紙袋を持っており、その視線はただ前を見ている。
そこにいるのは黒いフードの裾を風ではためかす13とかかれた白い仮面。
「情報を買いに来た」
「・・・・・」
仮面は何も言わない。
「この二週間での噂を全て」
「・・・・・・」
仮面は無言のまま背中に右手をまわし、あるものを取り出した。
それは大きな白い板。そこには黒い文字がかかれている。
 『一発ギャグ』
トキはしばらく無言のまま立っていたが、ふいに指輪のはまった手を前へ突き出すと、魔力を込めた。
指輪が光り、手の中に拳程の大きさの銀の球体が作り出された。
一瞬球体が膨張し、拳を握った手がそこから飛び出した。
拳は仮面の顔面中心に入ると、そのまま光りとなって消滅する。
残ったものは顔面を押さえてうずくまる仮面と右手を差し出したままのトキ。
仮面は右手で顔面を押さえたまま地面に落ちた白い板を左手で持ち上げ、トキに見せる。
そこには先ほどとは違う文字があった。
 『痛い』
もう一度トキが手の中に銀の球体を作り出すと、慌てて仮面は板を下に向け、またすぐに見せる。
『ご、合格!合格です。だからその左手下ろして!』
トキが手を下ろすと、向こうも板を下に向けた。そしてすぐにトキに見せる。
『それでご注文の噂ですが、合計十七つございます』
そのうちで、トキの探す噂に該当するものは二つあった。
・満月の夜、隠された部屋が出現する
・毎晩0時に学校にあやしい少女が現れる
「・・・ちょと今晩、確かめて見ましょうか?シグルズ」
―そうですね―
少女は呟き、屋上から立ち去った。


4 :多樹 :2007/10/29(月) 19:48:21 ID:m3kntDV4

3・鈴城 凛

放課後、人のいなくなった巨大な図書室に彼女はいた。
背の低い短い黒髪の制服姿の少女、鈴城 凛だ。
彼女の右手の中指には銀のリングがはまっており、その隣には一人の青年が立っている。
彼は赤い長髪に紅の瞳を持ち、長い黒のコートを着ている。
凛は座席の一つに座って、なにか古い本を読んでいたが、ふいに立ちあがると、それを元の棚に戻した。
「凛、何を読んでいたんだ?」
青年、ジークフリートの言葉に凛は頷きを返しながら答えた。
「はい、貴方の事を」
「?何を調べる必要がある。凛は俺を呼び出す際に俺の正体をしっているはずだろう」
「ええ。ですが、貴方には、いえ、使い魔にはまだ不可解なところがあります」
凛はもう一冊別の本を引っ張り出しながらいう。
その本を机に置き、右手を見せた。そこにある銀のリングを。
「まずこれです。この“契約の輪(けいやくのりん)”。貴方と契約した直後に現れ、外れません。これ、どういう物質ですか?」
「まぁな。それがお前の杖の代わりとなるわけだからな。確かそれは俺が死んだら外れるハズだ。・・・だが素材までは」
凛は椅子に座りながら第二の疑問を告げた。
「第二に、貴方のいっていた貴方と対になる存在、シグルズ。それも私のような魔女が契約しているのですか?」
「あぁ。正確な位置は分からないがかすかに気配を感じる」
ジークフリートはそういいながら棚を見る。
「でも分かるんですか?この街、なんかすごく霊気が濃いですけど・・・・」
「一応魔女なんだから魔力っていったらどうだ?」
ジークフリートはそういいながら棚から適当に一冊引き抜いた。
題名は、『風呂の覗き方』という本だ。よく見ると左端に十八禁と赤い文字で書いてある。
「・・・・・・・」
彼は無言のままそれを懐にしまう。
「まぁ良いじゃないですか。それよりそろそろここ閉めましょうか」
そういながら凛は立ちあがり、本を元の位置に戻した。
そのまま図書室からでて、鍵を閉めた。
直後、凛は声を聞いた。
「ストップ・ザ!世界!」
声の通り、世界がその動きを止める。


5 :多樹 :2007/11/02(金) 17:48:23 ID:m3kntDV4

4・違和感

凛は校内で不思議な光景を見た。
それは、世界が止まるというもの。
世界が止まる、それによって一番はじめに感じたものは違和感だった。
いつもとは微妙に違うずれを身体の奥に感じ、視覚がありえないものを捉える。
近くにあった水道の蛇口から垂れた水滴が、空中で静止している。
ありえない、と判断すると同時、背後に立っていたジークフリートが声をかけてきた。
その声に含まれていたものは警戒の色。
「凛、下がれ」
彼の視界の先には、四メートル程先に一人の男がいた。白いスーツに身を包んだ白髪眼鏡の長身の男だ。見た感じでは三十代前半というぐらいだろう。
凛が言われた通りにジークフリートの後ろに隠れると同時。男が口を開いた。
「言いねェ。実にいい」
そして次の瞬間、凛はその手をとられていた。男は凛の目の前で膝を曲げ、凛の左手に口付けし、笑顔とともに言った。
「美しいお嬢さん。御名前を、教えていただけますか?」
直後、男はジークフリートによって蹴り飛ばされた。


            ☆

ジークフリートは困惑していた。違和感だらけの奇妙な空間内にいた違和感ありまくりの雰囲気を持つ男が一瞬にして四メートルの距離を詰め、凛の左手に口付けをしていた。
その男を蹴り飛ばすがここにもまた違和感があった。
距離的にも蹴りの速度的にもふっとばした感じにも絶対に直撃した。なのに、手ごたえがない。
そしてやはり男は平然と立ちあがるとジークフリートに向かって右手の一指し指を伸ばした。
「何をする!」
「やかましい!凛に何してやがる!」
「挨拶に決まっているだろう!ジークフリート!」
突如、ジークフリートはその動きを止めた。
何故俺の名を知っているのか。その疑問が理由だった。
しかも昔の名ならともかく、今の凛から与えられた名の方を何故・・・?
そんぽ疑問は口にするよりも早く答えがきた。
自分の身が吹き飛ばされるほどの衝撃とともに。
「知っているぞ、ジークフリート。私は貴様のことを知っているぞ!だが、貴様は私を知らぬ。だから教えてやろう!我が名はハーゲン」
ハーゲンは名乗りながら指を鳴らした。
「私は優秀な情報屋の知り合いがいてね。君の情報はいくらでも知ることが出来るのだよ」
音がジークフリートの全身に直撃し、ジークフリートは吹き飛んだ。
「ジークフリート!」
凛が駆け寄ろうとしたが、不意にその手をハーゲンに掴まれた。
振り向くと目の前にハーゲンが立っている。
「離して下さい!」
「ふむ、では名前と年齢と住所は?」
「・・・名前は鈴城 凛、十五歳。住所は神空町三丁目21−9です!」
「十五歳・・・・。ギリギリだな出来れば十四歳の君に出会いたかった。それで、電話番号とメールアドレス、あとスリーサイズは?」
直後、ハ―ゲンが後ろへと吹き飛んだ。
原因は光りを放っている凛の指輪だ。だがしかしそれは凛が魔法を使ったからではない。
契約の対象が力を使ったからである。
見ればジークフリートが左膝をつきながらどこからか引きぬいた剣の先をハーゲンに向けている。剣先では円を描いた赤の光りが薄くなっていくところだった。
「いい加減に、しやがれこの野郎!」
ジークフリートの荒い息の言葉にハーゲンがうなずきながらあるものを取り出した。
それは赤の携帯電話と白の携帯電話である。
「あっ!それ私の!」
凛の言葉を無視して二つの携帯電話のボタンを両手で二つ同時に高速で押していく。
「ふむそうだね。まぁ今日のところは凛ちゃんのメルアドだけ知って帰るとしよう。ついでに私のアドレスも登録しておこう」
そういってハーゲンは白い方の携帯電話を凛の手の中に入れた。
先程から一瞬で間を詰められている。
そして気づくとまたハーゲンは凛から四メートル離れた位置に立っていた。
その際に凛は気づく。自分の携帯はYシャツの胸ポケットに入っていたはず。
そしてそのYシャツの上に冬服用の白の上着を着ていたはず。なのに凛の携帯電話をハーゲンがもっているということは一瞬で上着のボタンをハズされ、胸ポケットにあった携帯をとり、またボタンを締めなおされたということだ。
そのことに気づいた凛にむかってハーゲンは笑顔でいった。
「ふふふ身長の割には中々大きいね!発育いいねぇ」
直後ジークフリートの剣と凛のはいていた靴をハーゲンは投げつけられた。
だがそのまま奇声を放ちながらハーゲンはその場からいなくなった。
消える直前に奇声とともに声が響いた。
「動け・世界!さらばだ愛しい凛ちゃん!はやく死ねよジークフリート」
世界が再び動き出し、凛とジークフリートの中にあった奇妙な違和感は無くなった。


6 :多樹 :2007/11/07(水) 22:27:10 ID:m3kntDV4

5・扉

夜、それもそろそろ11時をまわろうかという時間帯に、一人の少女がいた。
右手に銀色の指輪をはめた黒い長髪の少女だ。服装は神成学園の制服の上にマントコートを着けている。
「暇・・・・」
そう呟きながら少女は右手の平の上に拳ぐらいの炎の玉をつくりだした。
―トキ様、いい加減にしてください。わざわざこんな日に魔力を無駄遣いしまくるのは―
少女、トキは小さくあくびをしながら空を見上げ、呟く。
「満月の日は魔力が高まって魔物がでやすいって奴?迷信よ」
―本当ですよ。現に今トキ様の魔力は普段よりもわずかに高いです―
彼女が今いる場所は今は使われていない教室だ。今では物置と化している。
「・・・それより本当にここ?他と比べて魔力が高い場所って」
トキは黒板に触れながら呟く。それに対して、指輪、契約の輪の中にいるシグルズが意思を返す。
―はい。ここのこの黒板がやけに強いです―
シグルズは言わなかったことを内心で呟いた。
(といってもこの街自体ありえないほど強いですけどね。この学校内にも他に五つぐらい同じぐらい強い場所もありますし)
だが、それらは全て人の気配があった。
十中八九その場にいる人間の影響が強いのだろう。そのため唯一人の気配無しで魔力が高いのはここしかないということになる。
「別に何の違和感も無いけど・・」
トキはそう呟くと黒板の中心地に指で魔方陣を描き出した。
黒板全体がわずかにチョークで汚れているので出来ることだ。
―トキ様、なにをなさっているのですか?―
「魔方陣描いてる。召喚用の」
トキは何のこともなくあっさりと答えた。
描き終わると右手をその魔法陣に押しあて、呪文を唱え始める。
「“我今ここに世界をつなげん”。“我が名において、今ここに世界の交わりを認めん”。“いでよ汝の世界と我が世界を繋げし門よ”!」
黒板に描かれた魔方陣が一瞬光り、暗い穴に変化した。大きさはトキぐらいならば余裕で入れるものだ。
本来ならばそこで変化は終わるはずだったのだが、ここでトキにも予想外の事が起きた。
魔方陣(今は穴だが)の出現した黒板がわずかに光り、魔方陣を中心軸にして木製の扉が出現したのである。その大きさは背の高い人間でも容易に入れると思えるものだ。
『どうしようか?』
トキは意思を飛ばしてシグルズに問いかけ、意思が返ってきた。
別に今は誰もいないのだからトキは喋っても問題ないのいだが・・。
―まぁこれが秘密の部屋なのでしょう。はいってみる価値もありますよ―
「そうよね」
呟き、トキは扉を開けて中に入っていった。


7 :多樹 :2007/11/14(水) 19:58:55 ID:m3kntDV4

6・マンション

神空町三丁目に在する大きな灰色のマンション。
その四階にある405号室のリビングで、一人の少女がテーブルに向かって頭を悩ませていた。
その目の前にあるのは一冊の古い本。
「凛、何しているんだ?家計簿か?」
ジークフリートが缶コーヒーを飲みながら問いかける。
「違います。家計簿も後で付けますが、これは貴方を呼び出すさいに使った魔道書です」
凛は今赤いチェック柄のスカートに白いセーターを着ており、丸眼鏡をかけている。
どうでもいいがまだ秋の入り始めだというのにそんなに寒いのだろうかとジークフリートは少し主の寒がり方を心配になった。そういえば学校でも冬服の人間はあまりいないなァ・・・・。
「魔道書?あぁ・・・疑問の答えをさがしてるのか・・・」
「えぇ。どうやら人間が使い魔を呼びだすのは珍しいことみたいですね・・」
「まぁな。普通は人間外とか魔物側の存在が持つからな。それも凛のような若い人間が呼び出すことは滅多に無い」
そういいつつジークフリートは缶コーヒーをすする。
「それも貴方のような存在を使い魔にもつことも」
「まぁな」
直後、電話が鳴り響いた。
電話に出ようと立ちあがろうとした凛を手で制し、ジークフリートが電話に出る。
『ハァ、ハァ・・・・今、何色のパンツはいてるのぉー?』
「・・・・・・」
『黒ぉ?白ぉ?ハァハァ・・・』
「・・・・」
『ねぇ・・・声、聞かせてよぉ・・・』
「・・・・・」
『ねぇ・・ハァ・・・焦らさないでよぉ・・ハァ・・・』
電話に出ていない凛には、会話の内容はわからなかったが、ジークフリートが小声で何かを呟いたのは分かった。だがしかし、なんと言ったかまでは解からなかった。
確実なのは、その一言の直後に通話がきれたということだった。
「誰からですか?」
受話器を置いたジークフリートに凛は問い掛ける。
だがしかし、ジークフリートは笑顔で、
「ん?悪戯電話だよ。迷惑だよなァでも大丈夫、相手はもう二度とかけてこられないようにしたからさ」
というだけだった。
「?まぁいいんですけど・・・。先、何を言ったんですか?小さくて聞こえなかったんですけど」
「・・・・・・・・・・・知らないほうがいいこともあるよ?」
「・・・・?」
首を傾げつつ、テーブルのほうへと目線をもどし、缶コーヒーが目に入った。
商品名は“RORI”。缶には小さな女の子のシルエットがかいてある。
なんとなく手にとって成分を見てみると、そこには“男のロマン”とだけかいてあった。
「・・・・・・・・・」
缶をそっと元の位置に戻し、魔道書に目を戻した時、小さな、しかし妙な魔力を感じた。
それもこの方角と距離は、
「神成学園・・・・?」


8 :多樹 :2007/11/17(土) 14:42:45 ID:m3kntDV4

7・ハーゲン

夜の神成学園の頭上にて、白い男が携帯電話をしまいながらいう。
「・・・・まったくこわい奴だなぁ」
その男は白かった。白いスーツに白髪、そして白い靴をはいた長身の男は今、神成学園の上空300メートルのところで滞空していた。
もちろん彼がなにか特別な機械を使って空を飛んでいるわけではない。ただ空に立っている、それだけの話しだった。
白い男、ハ−ゲンの傍らに立つ小さな影。黒いローブに白い仮面をつけた小さな影。影は女の子の声できく。
「ハーゲン、なにをいわれたの?」
「え?あぁただ一言死ねってさ」
ただしすごい殺気と魔力をこめてね、とつぶやく。
恐らく人間が聞いたらそれだけで精神を壊すかもしれないぐらいの。
ハーゲンは笑いながら眼下に建つ巨大な建造物を見下ろす。
「大きいよね」
影も同じく眼下の神成学園をみながら呟く。
「あぁ。まぁこれだけ広いからこそ中に様々な仕掛けができるのだろうな」
「うん。・・あれ?ハーゲン、どうしよう・・・・。退魔士たちに気づかれた」
「え?」
良くみると屋上に五人ほどの人影がこちらを見上げている。
皆黒い服に白い仮面をつけている。
ハーゲンはそれをみると、うれしそうに下へと落下していった。
そしてそのまま屋上の上に着地する。
影は動かない。動く必要が無いことを知っているから。

「見つけたぞ、ハーゲン」
5人の内の一人がいう。その手には長い西洋風の剣が握られている。
よくみれば他の者も同様に剣を装備している。
「はははは見つけた?探していたのかね?そして見つけたからといってどうする気なのかね?」
ハーゲンは笑いながらいう。
「貴様等では私を倒せぬだろう?所詮は捜索部隊だ」
「なめるなよ?我々だけでも神に反する罪人を打ち砕くことなどわけはない」
そういった男の首がとんだ。
誰もがなにが起きたのかを理解できない。分かるのは仲間の首が空中にあるということだけだ。
「見えたか?見えぬだろう?貴様等にある神の加護などそんなものだ」
首がコンクリートのうえにグチャリと落下しつぶれた。
それと同時に首のない死体が中から破裂し、臓物と血をぶちまける。
「純粋な退魔士でもつれてこい。貴様等“アルバイト”では退屈しのぎにもならん」
そういいながらハーゲンは指を鳴らし、唱える。
「“魔王の名において汝等に命じる、全員破裂し五分後に死ね”」
パンというコミカルな音がして、残った4人が内部から破裂する。
グチャグチャのミンチになった男たちは口無き口で、声無き声を叫ぶ。
この世のものとは思えぬ痛み。それを感じつつも死ねない。痛みは麻痺しようにも、麻痺する神経が無いので麻痺することもない。ありえない命たちはありえない痛みに苦しむ。
痛みは肉体にあるダメージ、ただし痛むのは肉体ではない、もっと根本的な何か。
死んだ後の生。ハーゲンは夜風のように冷たく笑った。


9 :多樹 :2007/11/18(日) 13:06:18 ID:m3kntDV4

2章 1・ワールドクロニクル

扉の向こうにあったのは、妙な空間だった。
さほど広くない部屋。
まわりはコンクリートではなく樹の壁で、壁にはさまざまなものがかけられている。
目の前には樹のカウンターがあり、その奥では、一人の少女が椅子に座っていた。
だいたい同い年ぐらいだろう。長い桃色の髪に灰色の目をしている。
「・・・・」
少女はトキに対してなにも言わずにただ見ているだけ。沈黙が重い。
「・・・えっと、ここはなにかな、シグルズ」
―無言無表情少女がつくる沈黙の世界ですね―
シグルズもやや困惑した声で(意思で)返す。
「・・・・・」
「・・・・・」
誰も喋らない。もともと喋ることが得意ではないトキにとってこの沈黙を破るすべは無い。
痛いほどの沈黙がその場を支配し、そして不意にその沈黙が破られた。
「いらっしゃいませ!当店のご利用は初めてですか?」
声の主はトキでも無言無表情少女でもない。
声の主は少女の左手にはめられた猫のパペット人形だった。
「え・・・?」
戸惑うトキに猫の人形は言う。
「初めてのようですね?では、まずは当店の説明をさせていただきます」
「え?な、なに?」
―腹話術でしょうか?―
「当店、ワールドクロニクルへようこそ。当店では世界に対して商品を売りつける店をやっております。今現在当店に無い場合でも、御注文いただければ一週間でご用意します」
猫の人形はかわいらしい女の子の声で語りつづける。
「ではまずはこちらの用紙に右手を置いてください」
少女がカウンターの下から白紙の紙を取り出した。
トキは言われたとおりにその上に右手をおく。
すると、紙の上に文字が浮かび上がった。
それを少女がとり、猫の人形が見る。
「黒神 時様、7月24日生まれ」
猫の人形が突然トキの個人情報を語り出した。
シグルズが呟く。
―あ、思い出しました。今の紙、“情報紙(じょうほうし)”です―
「情報紙?」
―はい。手をのせることによってその者の情報を引き出す魔道具です―
シグルズはたんたんという。
「はい。ではこちらをどうぞ」
猫の人形が銀色のカードを手渡してきた。
「なんですか、これ?」
っていうかここ。
「はい、この店での会員証です。会員証をお持ちの方のみに当店は物をお売りいたします。ちなみに再発行の際には代償を払ってもらいますので。代償はその時によって変わります」
―どうやらここは店のようですね。それに情報紙があったことから考えても普通は手に入らないものを扱っているようです―
「では改めまして、初めまして。黒神様、シグルズ様」
―!?私を知っているのですか―
「もちろん。魔王の魔力ぐらいすぐに気づけますよ?私は魔道具、パペットキャット」
「・・・・アイです」
「「世界の歴史を見守るものです」」


10 :多樹 :2007/11/20(火) 16:41:28 ID:m3kntDV4

2・魂喰い

夜の校内をトキは歩く。
―良かったのですか?先ほどはなにも買わなかったようですが―
「なんか胡散臭いし持ち金もすくないからいい」
―そうですか・・―
ふいにトキがその足を止める。
そこは大広間だった。
トキとシグルズは知るはずないが、数ヶ月前に夢魔と悪魔と時期神様と天使が集まった場所でもある。
そしてその中心に、少女がいた。
黒い髪のトキときは反対に、長くて白い髪の。いや、恐らくは銀髪なのだろう。
そして白い長袖のワンピース状の服を着た13・14歳ほどの少女。
少女は雪のように白い肌をしており、白一色の中で、その両目が目立っていた。
赤。唇以外が白い肌の少女はその赤い両目がくっきりと浮かび上がるように目立っていた。
「おねーちゃん、誰?」
少女が楽しげな笑顔で問う。
「私は黒神 トキ。あなたの名前は?」
トキが優しくほほ笑みながらきくが、少女は答えない。
「トキ・・・。トキ、トキ・・・・。うーんまぁいいや」
少女はあごに人指し指をあててなにか考えていたが、ふいにその手を下ろした。
そして、トキの背後で少女は言う。
「初めまして、トキのおねーちゃん。私は魂喰い(たましいくい)の化身」
少女はにこりと笑って、振り向いて表情を凍らせているトキにいう。

「おねーちゃんの魂は美味しい?」

少女の右腕がまっすぐにトキの胸へと伸びてきて、
―鮮血が飛び散った。


11 :多樹 :2007/11/23(金) 19:48:46 ID:m3kntDV4

Lmited04・魔女式

暗い広間の入り口に、トキは立っていた。
その右手からは血が流れている。
―大丈夫ですか?トキ様―
「問題なし」
トキはそう言いながら血が流れている右手で空中に文字をかいた。
その様子を見ながら驚いている白い少女。
「すごーい。おねーちゃん私がいままで会ったことある人の中で一番動きが速いよ?」
先ほど心臓をめがけて腕を弾丸並みの速度で伸ばしたというのにそれを右手で払いのけたトキに魂喰いの少女は素直にいう。
「それはまたずいぶんと小さな世界にいたのね。この世界に私以上の人間なんて星の数なみにいるわよ」
そういいながらもトキの右手の指は文字を書きつづける。

 <泣け、悪魔にやられたと嘆く人々よ>

 <笑え、天使に救われたと喜ぶ人々よ>

 <気づけ、悪魔も天使もその仕事は同義だと>

空中にかいた文字は白く光り輝く文字として残る。

 <悪魔は善人を裁き、天使は悪人を裁く>

 <ならばその違いはなにか>
 
 <我はそれを見つけし者>

そして、文字が動き出した。
六行づつ横書きでかかれた文字は、その形式を変え、トキの右手のまわりに円として現れる。
しだいにその円の幅は小さくなり、やがてトキの握られた右手の中にはいりこむ。
指輪が光りを放つ。
そして、その光りが止んだ時、その手の中には黒い大型の装飾銃が握られていた。
―Lmited04・魔女式―
「弾丸、装填」
カコンという小さな音がして、銃がわずかに重くなる。
その銃口が向けられているのは眼前にいる一人の少女。
「目標、ソウル・イーター」
銃口の中にあるのはトキの魔力が固められた鉛によく似た物質と赤い光り。
「あれれ?おねーちゃんからすごく強い魔力を感じるけど、もしかしておねーちゃんって魔女?」
そういいながら魂喰いの少女は、身をこわばらせる。
魔女。少女の中にある魔女の知識は数える程度しかない。
だがしかし、その数少ない知識が叫んでいる。
魔女相手に戦うな、と。そして同時に、魔女の魂は強い魔力を持つ為に非常に強い、と。
そしてそんなソウル・イーターの少女に、魔女とその使い魔たる存在はいう。
「大丈夫、一番弱いの使うから」
―安心してやられてください―
そして、引き金が引かれた。
一瞬、赤い閃光が広間を照らし、次の瞬間避けようと身を捻った魂喰いの左手が大きくはねあがった。
そのまま少女の身体も地面を転がる。
「・・・痛い・・・・」
今うった弾丸ではせいぜい1時間ぐらいは左手が使えなくなるぐらいだろう。
また起きあがってくる可能性もある。そう思い、トキは再び銃を構えた。
だがしかし、声は予想外のところから響いた。
「いいねぇ!うらやましい銃だ」
声にはオプションとして手をたたく音も聞こえてきた。
それも、背後から。
あわてて振り向くと、そこには一人の青年がいた。
へらへらと笑う白衣の男。その細い目には丸い眼鏡がかけられており、短い青銀髪の髪をしている。
青年は続けて言う。
「初めまして、黒神 トキちゃん。俺は“魔学の怪神”、クローフェス・サイバーテッド」
その顔に浮かぶのは笑み。ただ残酷なまでの笑み。
「君の心を貰いにきたよー?」


12 :多樹 :2007/11/27(火) 17:20:24 ID:m3kntDV4

4・異質

暗い夜道を凛は走る。
その背後をジークフリートが走る。
「どうした?」
ジークフリートの問いかけには答えない。代わりに問う。
「ジークフリート・・・。学校になにがいますか?」
その気配は最初は小さなものだった。しかしだんだんとそれが強くなっていった。
そこから感じる魔力は少しだけ異質なものだった。最初は。
なのに、しだいにそれは異質さも変化していった。
このただでさえ異質な街の中にある独特な空気。
それが、神成学園を中心におかしくなっていく。
「・・・・・」
ジークフリートは答えない。答えられない。
彼の正体は魔王と呼ばれる存在だ。使い魔にするにはあまりに巨大な魂を持つモノ。
だがしかし、そんな魔王でさえ、その魔力の正体を掴めない。
そしてそれを使い魔としている有能な魔女でさえも、掴めない。
人間のようで、違う。魔王のようで、違う。それが、神成学園の中心にいる。
他にも奇妙な魔力は複数ある。だがしかし、それが異質すぎて、気にしてはいられない。
近づくにつれて気配は大きくなる。
近づきたくない。でも、凛の足は止まらなかった。
そこにいるそれと出会うことが運命だとでも言うかのように。
走り走り、走る。そして、ふいに止まった。
ジークフリートが怪訝な顔をする。
「どうした?」
自らも足をとめて凛の顔覗きこみ、思わずかたまった。
凛の表情は、恐怖を表していた。
走ったことによる以外での荒い息遣いで凛は呟いた。
「・・・ジ、ジークフリート・・・。何か、います・・・・」
その言葉を合図のように、音がした。
足音。音源は、目の前にいた男だった。
そこは一本道。その先は神成学園。
前からくるものは絶対に見える道の上に、先ほどまではいなかった男が歩いていた。
オールバックの黒いスーツの男。その目は見るもの全てを切り裂くように鋭い眼光を放っており、黒いフレームの眼鏡をかけている。
「鈴城 凛様ですね?私は影主の使神(かげぬしのつかいがみ)、光影(こうえい)と申します」
直後、彼の後ろに数十の光影が現れた。
数十の光影たちは同じ声,同じタイミングで一斉にいう。
「鈴城様の心を貰いにきました」


13 :多樹 :2007/12/02(日) 18:29:46 ID:m3kntDV4

5・クローフェス・サイバーテッド


 シグルズというのはジークフリートと同じく、相当数の力を持つ魔王の一人だ。
なまじ力を持つが故に解かることもある。
その見本が目の前にいた。
薄い笑みを浮かべる白衣の男。
恐らく魔力の探査能力に乏しいトキも解かっているはずだ。
この男は関わってはいけない類の存在だと。

黒神 トキには他者の魔力がわからない。
それでも、全身の細胞が叫んでいる。
本能が危険だと告げている。
逃げろ。逃げろ。逃げろ。
だがそれでも、同時に知っていた。
逃げられないことを。
恐らく、この男からは逃げられない。
だからこそ、彼女の口からは声が出た。
「愛の告白ですか?ごめんなさい、私には好きな人がいるんです」
「え?そうとられた?あーじゃぁ言いなおそう。“君が欲しい”(研究材料として)」
「余計にまぎらわしい発言じゃ・・・」
トキがそう呟いた直後、彼女の中で彼女にしか聞こえぬ声でシグルズが話しかけてきた。
―トキ様、三十分だけですが私がこの世界にでます。それなら逃げられるはずです―
本来使い魔は主の魔力を使って世界に出現する。
だがしかし、シグルズはそれをやらない。
彼自身のこの世界への顕現はトキにとって負荷なるからだ。
ジークフリートが存在しているのに使う魔力が凛の十分の一ならば、シグルズが使うトキの魔力は五分の一にもなる。
それではトキのほうが使える魔法が限られてしまうため、ここぞという時にしか使わないようにしているのだ。
だが、魔力を使っての会話ではなく(いつもは微弱な魔力を使っているので、魔力の流れが解かる者には会話がわかる)、直接意思と意思を繋いでの会話なので聞こえているはずの無いクローフェスがにこやかにいった。
「まぎらわしい?うーん・・。まぁいいか。それより顕現なんて止めた方が良いよ?」
驚くトキを無視してクローフェスは言葉を続ける。
「この街には魔王を狙ってる退魔士が今三人いるからねぇ。仮に俺を潰してもその後プロの退魔士三人とやりあうなんてできないしょ?」
それに、と言葉は続く。
「多分俺を潰せないだろうし」
その呟きとともに右手を身体の横へと伸ばす。
それを見ると同時にトキは行動した。
「弾丸装填!第一制限解除!」
―レベル2発動―
カコンという音とともに先ほどの数倍は強い魔弾が込められる。
「くらえ!」
レベル1の溜め撃ちと違い、速撃ちを目的とされたレベル2に溜めはない。
弾は即座に撃ち出され、間違い無くクローフェスに直撃した。さらに左手で火の魔法を放つ。
クロフェースのいた通路は一瞬にして火に包まれ、そこにあったものを焼き尽くす。ハズだった。
「危ないじゃないか」
ある一点を中心に火が消えていく。
その中心にいたのは、白い白衣。
焦げ目一つ無い純白の白衣。そして、巨大な鈍色の鎌。
火が消えたところは最初こそ真っ黒に焦げていたが、その鎌の持ち主が歩くと同時に元通りに、むしろ前より綺麗な状態へと戻っていく。
「なんで・・・?」
レベル2の魔弾とトキの放った火の魔法は本来ならば鋼鉄にすら穴をあけ、ガラスが変形するほどの威力と火力がある。それなのに、その大鎌と白衣の持ち主は無傷だった。
まったくの傷が無い状態で、クローフェス・サイバーテッドはそこにいた。


14 :多樹 :2007/12/08(土) 16:40:17 ID:m3kntDV4

6・光影

 闇の中に立つ数十の黒いスーツの男の言葉にいちはやく反応した者がいた。
それは纏った黒衣の中から一本の剣を引きぬき、先頭にいた黒いスーツに斬りかかりながら叫ぶ。
「手前ェ!どうしてどいつもこいつも凛に告るんだぁぁぁ!」
それの名はジークフリート。その昔、現閻魔大王によって名を奪われた魔王。
だが今は、ただの勘違いによる嫉妬の炎を燃やす馬鹿である。
「何を勘違いしているのですか?」
ジークフリートの剣が光影を切り裂くが、その後ろにいた光影が呟く。
続けて喋った光影を両断するが、その後ろにいた光影と両隣にいた光影が言葉を続ける。
「「「我々はただ鈴城様の魂と心が欲しいだけです。肉体はまぁついでにもらっていってもいいかもしれませんがね」」」
「身も心もだとぉぉぉ!」
「ジークフリート、少し静かにしてください」
「り、凛!こんな妖しい奴の愛の告白を受けるのか!?」
「・・・それで、光影さんといいましたよね?どういうことですか?」
光影たちが無視されたジークフリートに斬り殺されながら喋りだす。
「よかった。鈴城様は話が通じるようですね」「我々は」「ただ」「その若さにしてそれだけの魔法が使える鈴城様の魔力の結晶ともいうべき魂と心が欲しいだけです」「我々は少しばかり」「強い魔力のモノを求めていましてね」「本来ならば」「霊的物質があれば」「よいのですが」「なにぶん」「数がもうあまり無いものですから」
斬られては違う光影が会話を引き継いでいく。
「数がもうあまりないということは昔はもっとたくさんあったのですか?」
「えぇ。ありましたよ」「昔この世界にある霊的物質はその大半を使いきられてしまったのです」
光影たちはそこでいったん言葉をくぎると、懐から銃を取り出した。
「それでは、説明はこのぐらいでいいでしょう。では、そろそろ死んでいただけますか?我々が欲しいのは肉体ではなく、魂ですから」
直後、凛たちの足もとの影が濃くなり、そこから、二十人前後の光影が生えてきた
その手には皆銃が握られている。
「ジークフリート!こっちへ!」
同時にジークフリートが凛のほうへと駆け寄り、凛が呪文を唱える。
そして、一瞬の後、全ての光影がその引き金をひいた。

       


15 :多樹 :2007/12/12(水) 21:06:15 ID:m3kntDV4

7・ジークフリートの本気

 その光景は、ただの人間がみていたら奇跡だのなんだのと叫んでいたかもしれない。
何も無い空中で何かにはじかれ、アスファルトの地面に落ちた数十の銃弾。
だが実際は、凛のとっさに張った防御の結界によってはじかれ、落ちた銃弾。
「ほう。すばらしい。今の一瞬で防御結界を出現させたのですか?いやはやよくもまぁその若さで・・・」
光影がそう言いながら引き金を引く。何度も何度も。
その度に銃弾は弾かれ、落ちる。
凛は自分と自分の使い魔ジークフリートを守っている結界を張りつづけながら内心で思う。
(持ってあと十分。それまでになんとかしなくちゃ・・・!)
恐らく周りにいる敵は斬ったところで無意味だろう。それは先ほどジークフリートが示している。
「凛、ごめん」
突然、ジークフリートがその剣をしまいながらいう。
「なにがですか?」
「少しだけ、お前を護れなくなる」
突如、右手にはまった“契約の輪”がかつて無い熱を発しだす。
それと同時に、ジークフリートの両目が、ヒトのものから別のモノへと変化する。
細い、赤の瞳孔。蛇によく似ている。そう思いながら、凛は頷く。
「大丈夫です。私の身を案じる必要はありません。全力で―」
まさか自分がこんなことをいうハメになるとは・・・。契約した時は思わなかった。
むしろ全力を使わずに自分を護ってくれといったほどなのに。
そう思いながらも、自身が与えた英雄の名を持つ魔王に若き魔女は命じる。
「―全てを排除しなさい」
答えは声ではなく、右手にはまる指輪からの熱として返って来た。
その熱の意味を一瞬で理解し、結界を解く。そして、すぐに自分にだけ張った。
それと同時、凄まじいまでの魔力が路地を吹き飛ばした。

 2秒後、凛は先ほどいた位置よりも100メートル先で目を覚ました。
一瞬とはいえ気を失っていたらしい。結界にひびが入ったところまでは覚えていたのだが。
「・・・ジークフリートは!?」
周囲には白い煙がたちこめていてよく見えない。
「ジークフリート!」
凛の呼びかけに、前方で何か動いた。
かろうじで何かの影が見えるが、それが何なのか理解できなかった。
何故ならば、その影はあまりにも歪だったからだ。
だがそれも一瞬、すぐに見覚えのある高さと形に戻っていく。
「凛、無事か!?」
煙の中から、見なれた赤い髪の魔王が現れた。瞳はすでにいつもと同じ人のものに戻っている。
「敵は?」
「あぁ、全部吹き飛んだハズだ」
しだいに、煙が晴れて見通しが良くなった。
そこにあったのは、大きくえぐられたように穴が開いている路地と、そこに倒れる数十の光影達だった。
それらからはすでに魔力をほとんど感じない。それどころか、急速に減少していっている。
勝った。凛はそれを確認し、ジークフリートにほほ笑んだ。
「やりましたね」
「悪かったな。指、焦げてないか?」
そういってジークフリートは凛の手をとる。
「大丈夫ですよ。あのぐらいじゃ焦げたりしませんよ」
「いやだがなにかあったら!」
いったい何があるのだろう。そうおもいながらも凛はほほ笑む。
それを返すように、ジークフリートもほほ笑んだ。
全ては、勝利の安息として。
それが、仮のものだったとしても・・・。

まず凛の頭が理解したのは衝撃。そして次に自分の身体が転がっているという事実。そして声。
「やれやれ。恐ろしい事しますな。一瞬とはいえ魔王の全力を周囲に放つなんて」
減少していたはずの魔力が再び強くなっている。それに気づいたのは身体が転がっていくのが終わったとき。
「手前!凛、大丈夫か!」
ジークフリートが何かを叫んでいる。
息がしにくい。
「もう一度、名乗りましょうか?私は影主の使神。影を自在に扱える者。そんな私がいきなりあなた方の前に姿をあらわすわけないでしょう?やれやれ・・。私の影を相手に多大な魔力消費ごくろうさまです」
霞む目で敵をみる。見えたのは黒いスーツ。そして感じたものは、先ほどの数倍は大きく、邪悪な魔力。
「では、魂をいただきましょうか?鈴城様」
影主の使神、光影は今初めてそこに現れた。


16 :多樹 :2007/12/16(日) 21:46:10 ID:m3kntDV4

三章 1・信じなさい

 磨き上げられた廊下の上をクローフェスは歩く。
その右手には巨大な銀の鎌。
「ン?不思議かい?何故俺が無傷なのか、何故廊下が綺麗になったのかが」
問いかけられてもトキには答えられない。
彼女の口はすでに次の呪文を唱えているのだから。
それに反応して彼女の周りに銀の拳大の球体が出現する。
空中に、地面に、壁の表面に、天井に、どこにでも出現していく。
「銀幕剛手!」
球体たちはトキが叫ぶと同時に弾け、無数の銀弾としてクロ―フェスへと飛んでいった。
―さぁ、どうする気でしょうか?―
どのようにして魔法と魔弾を防いだのかこれでハッキリするはず。
シグルズとトキにはそういう思惑があった。
だがしかし、銀弾たちは一定の距離クローフェスに近づいたところで、静止した。
「無意味だよ?これが俺の能力だからね」
そういいながらクロフェスは空中で止まっている銃弾の間を縫うように歩いてくる。そして完全にその中を抜けきった時、銃弾たちは動き始めた。何も無い空間を飛んでいったのだ。
トキは目を丸くして驚きながらも手にしていた銃を足元の床に突き立てた。
クローフェスの目の前に銀の巨人が出来あがる。
巨人は頭を天井にこすらせながら右手を振るう。
「トキちゃん、君の得意な魔法はもう調べ尽くしてある。だから、これのことも予測済みだよ?」
自分に向かってくる銀の拳を眺めながらクローフェスは呟き、手にしていた大鎌を前にむけて突き出した。
ただそれだけ。あとは拳が自ら突っ込んできて、バターの様に裂ける。
「なっ!?」
―・・・ありえません・・!―
二人は同時に呟き、そして同時に気づいた。
トキはすぐにその考えを否定するが、シグルズは実行に移す。
―トキ様、やはりでます!―
直後、契約の輪が高温と赤い光を放ち、トキの目の前に巨大な影が現れた。
黒い、巨龍。そこは学園の中でも広い場所。吹き抜け状になっており、三階分の高さがある。
そこに、それは現れた。二階分の大きさを持つ龍、シグルズだ。
「燃え尽きろ・・!」
出現直後に、シグルズは黒い炎を吐き出した。
熱の余波でホール内にあった掲示物が一瞬で黒い炭となる。
契約の輪がはめられたトキ以外を全て焼き尽くすハズである龍の炎。
炎は光を放つ契約の輪の所有者をよけるが、熱風は避けてはくれない。それでも魔力の加護によって護られているのだが、それでもトキは思わず両腕で顔を覆った。
腕と腕の間から見えている世界は炎の熱によって歪んで見える。
そして、その歪んだ世界の中に、男はいた。
歪みのせいではっきりとは見えないが、笑っている。
視界の端のほうではコンクリートの柱が融解しだしている。
その中で、クロ―フェス・サイバーテッドは笑っていた。
「食事の時間だぞ、ガルトル」
一瞬、炎の轟音が止んだ。
直後、奇怪な音が響いた。
「ピルルルルルルルルルルルルル!」
目の前で、熱によって砕けた柱の破片が吸いこまれていく。熱風が吸い込まれていく。
炎が吸いこまれていく。灰が吸いこまれていく。今が吸いこまれていく。
トキを覆うようにシグルズがトキの前に立つ。そうしなければ、トキも吸いこまれてしまうから。残ったものは過去。炎によって焼き尽くされる前のホールが残った。それ以外は全て吸いこまれた。
何に?
決まっている。クローフェスの持っている銀の大鎌にだ。
「おいしかったか?ガルトル」
「ピルルルルルル」
鎌が奇怪な声とは呼べぬ音で鳴く。
それを聞いて、クロ―フェスがうれしそうに鎌の中心にはまっていた眼球ほどの大きさの玉を取り外した。
「そうかそうか。んじゃぁトキちゃん?返すよ、コレ」
それをトキに向かって投げつけてきた。
ヤバイ。直感でそれがわかったが、身体が動かない。状況を飲みこめない。
何故生きている?龍の炎を受けて何故無傷でいられる?
その不明な点が、トキから行動を奪った。
「トキ様!」
身体を何かにつかまれた。それが龍の姿のシグルズだと気づいたのは、地面に落下した玉を中心に、ホールに大きくえぐられたような穴が開いたのを見てからだった。
穴は大きく広がり、シグルズの巨体すら落とした。でもそれでも、トキは護られた。
トキを握っているせいで受身の取れないシグルズは左足が地面に挟まった。
動けなくなった。シグルズを指輪の中に戻せばいいのだが、それをやればトキの身が危険に晒されることになる。
「・・・シグルズ・・?」
「何をしているのですか、トキ様!あなたは誇り高き魔女でしょう!イマ様の名を受け継いだ魔女でしょう!何を戦闘中に呆けているのですか!」
龍は動けない身体で叫ぶ。
「だってあいつにはお前の炎も私の魔法もLmited04も通じなかったの!」
床の上に下ろされたトキが叫ぶが、シグルズも返す。
「ならば考えなさい!イマ様からは教えられたはずです!この世に勝てない敵などいないと!弱点の無い存在などありえないと!それでも駄目なら奇跡を信じなさい!自分の力が今成長する奇跡を願って戦いなさい!神を信頼しろとは言いません!でも、自分の力ぐらいは信じなさい!」
通路の方でシグルズがとっさに張った結界が破られた。
敵が歩き出す。その光景をみて、トキは頷いた。
「分かった。奇跡を、信じてみる」


17 :多樹 :2007/12/22(土) 17:35:16 ID:m3kntDV4

2・405の絶望

 暗い路地にて赤い髪の魔王、ジークフリートが叫ぶ。
「凛に近づくなぁ!」
声に反応して周囲の人工物が歪む。
看板はひしゃげ、アスファルトの地面はつぶれたようにへこむ。
その中で、光影は変わらぬまま歩き出す。
「無駄です、ジークフリート。名を奪われ、武器を失っているあなたでは私には勝てません。さらに自身の主人である魔女は死にかけ。勝てる道理が何処にあるというのですか?」
歩きながら、彼の影が七つに分かれ、七人の光影が新たに創り出された。
「ふざけんな!名ならある!武器も違うものを持っている!主人も死にかけてなんかいねぇ!」
叫びながらジークフリートの手には一本の片手剣が創り出される。
「無理ですよ。それは所詮あなたの持つ魔道具、“千刀”の力で創り出された物に過ぎない」
創り出されたうちの一体がジークフリートへと走っていき、肩から斬られた。
だが、剣は腹の辺りまで届くが、斬ったところが即座にくっついていき、光影の腹に刺さった形で動かなくなった。そしてそのまま左手でジークフリートの右腕掴み、捕らえる。
残った右腕で懐から銃を取り出し、ジークフリートへと向けた。
「ただの剣では我等を斬ることは出来ません。それに、私の影は斬られたところで痛くありません」
そういいながら光影は引き金を引いた。
ガキンという音がして、銃弾はジークフリートの顔の直前で止まった。
慌ててジークフリートは持っていた剣を離し、後ろへと下がる。
「鈴城様の結界術ですか・・。面倒ですね」
そういながら光影は結界を破壊しだした。

ジークフリートが危ない。
凛はそう思ったが、身体が動かない。おそらく即死を避ける為か魔力の塊をぶつけられたのだろう。膝に力が入らない。
意識はすでに戻りつつある。かろうじて指先が動く。
凛は即座に頭の中で呪文を組み立て、それの魔方陣を地面になぞっていく。
凛の得意な魔法は補助系のものだ。彼女自身も攻撃系の魔法が使えなくはないが、発動までに時間がかかる。
だからこそ、彼女は即座に使える魔法を発動させた。
それと同時に苦手な攻撃魔法も組み立てる。
まず頭の中に術式を組み立て、声に出して反復する。
最初に使った魔法は回復をかねた結界術。
それのおかげでどうやらジークフリートは助かったようだ。
「ジークフリート・・・。御願いがあります」
やはり声はすぐ近くから聞こえた。
「大丈夫か凛!?何処か痛くないか!?」
「ぜ、全身が痛いですけど、それよりも今私が今使える中で最強の術を発動させました。撃てるのは一発。確実に本体にあてられるように影を減らしてください」
凛は喋りながら自分の身体が回復していくの感じていた。
何とか立ちあがれる。前も一応は見えている。そして見たものは、果てしない絶望だった。
目の前にいたのは路地を埋め尽くす数の光影。
「数を減らすのは無理だとは思いますよ?今ここにいる私の総数は405人。町中にいた私がここに集まってきています。貴方がどんな魔法を使おうとしているのかは知りませんが、いくらなんでも405人全てを破壊するなんて出来ませんよ」
光影はそういいながら全員一斉に右手に魔力を集める。
「まぁ弱点としては数が多ければ多いほど魔力が弱くなってしまうのですがね」
この魔法を凛は知っている。
力が弱い魔法使いの為に創り出された魔法。通常100人程が集まり一斉にある一点に魔力の塊を放つことでいかなるものも破壊するといわれた集会用魔法。
“アクトラル・ミサ”。現在の総数は405人。とてもではないが、凛の即席結界では防ぎきれないし、発動可能の魔法を使っても相殺しきれないかもしれない。
「心配なさらなずに。この魔法ならば鈴城様の魂は破壊されないはずですから。それとも、今すぐに負けを認めて心をあけわたしますか?その時はジークフリートの命だけは助けますよ?」
命だけは。だが恐らく、無事では済まないだろう。
「凛、俺は命だけ助かっても精神が壊れると思うぞ」
凛にもそれはわかる。だからこそ、返答は一言。
「いやです」
「そうですか。残念です」
405人分の魔力が最高値に達したのを、凛は感じた。


18 :多樹 :2007/12/26(水) 20:02:08 ID:m3kntDV4

3・救済者

         
     【路地】

 路地にて、凛が感じたものは強い魔力。
聞いたものは声。見たものは、銀髪に赤い目の少年。
「初めまして」
少年は“そこ”にいた。
そこは、凛の目の前。405人の光影たちの中心。そこに、空中に五センチだけ浮いて彼はいた。その足元には一匹の黒猫。
「そしてさようなら」
直後、ほぼ全ての光影が地面に吸いこまれた。
地面に広がっているのは異様に大きく広がっている少年の影。そこに、光影たちは吸いこまれていく。残った光影は一人。本体のみ。
「なんのつもりですか?罪人ロキ」
ロキと呼ばれた少年が薄く笑いながらいう。
「いやなに、首飾りはずさなくても潰せそうなのがいたからさ、久々に食事でもしようかなって思ってね」
現在路地を満たしているのは光影の魔力だ。だが、少しずつ違う魔力に侵食されだしている。
その魔力の主に、凛は思わず訊いていた。話しかけていた。
「あなたは・・、何ですか?」
少年は凛の目をみて名乗る。
「俺?俺は悪魔のロキ。大野神 ロキ。
         仕事と食事をしに来たんだよ」


      【校内ホール】

 トキは背後に巨大な龍を、眼前に大きな鎌を携えた白衣という状態で静かに願いを銃弾に込めた。
込めて、放つ。通常の弾丸よりも数倍は速く撃ち出された弾丸を、クローフェスは全て避けた。
「やれやれ・・・。もうあきらめたら?俺に銃弾は効かない。そんなことはとっくに分かってるだろ?コレまでの闘いのなかでさ」
言葉を聞きながらトキはひそかに魔力を練り上げ込める。
くみ上げられる術式は高度にして複雑。それを頭の中でくみ上げていく。
恐らく普通の遠距離、中距離系魔法はすべてあの鎌に吸いこまれるだろう。
見たところあの鎌は魔力に関係したものを吸いこむのだろう。そのため魔力によってついた汚れも吸いこんだ。
「・・――――――・・」
「ありゃ?そういや、あの子もいなくなってるなぁ・・・。まぁいいか。そうだ!トキちゃん神様にでもお願いしてみれば?助けてくださいって」
クローフェスはからからと笑いながら言う。
「御断りよ。私は神様とか信じないの!信じるのは自分の力だけよ!」
トキの言葉とともにクローフェスが鎌を振り上げる。
「そいつは残念・・・。んじゃぁガルトル、そろそろ終わりにしようか?」
「ピルルルルルルルルルルルル!」
鎌の刃に光が集まる。絶大な魔力を纏った光が。
術式はまだ組みあがらない。シグルズはすでに指輪の中に戻った。ある程度の距離を取った状態で戻したので危険はないと判断したからだ。
―トキ様・・!―
鎌が振り下ろされ、巨大な魔力の塊がトキの方へと向かってきた。
横に跳んで避けられるようなサイズでは無い。結界を張るのは苦手でもある。
「・・・・!」
直後、衝撃は来なかった。
恐る恐る思わずつぶった目を開けると、そこには少年がいた。見覚えがある顔だ。
確かクラスメートの人間だったはず。
「よぉ・・・、大丈夫か?」
少年は右手を前に突き出している。ただそれだけ。あとはその右手が魔力をうち消していく。
「夢見・・君?」
名は、夢見 夢宇。
「こんばんわ、黒神さん」
夢宇はそういながら右手を外の方へと振りぬいた。
ぱんという音がして魔力の塊がはじけて消える。
「・・・あなた、本当に人間・・・?」
「ん?俺は夢見 夢宇。神様だよ」
一息おいて、夢宇はいう。
「神様として苦しんでる人を助けに来たんだ」


19 :多樹 :2007/12/29(土) 15:52:49 ID:m3kntDV4

四章 1・槍

 ホールの中で、クローフェスは疲れたように呟く。
「君の担当は俺じゃないんだけどなァ・・・・」
目の前にいるのは少年。
零魔道と呼ばれる永久機関をその身に宿した現在の最上神の息子。
夢見夢宇が関わった事件は数多く存在しており、中でも春から急激に事件中枢に夢宇がいることが多くなっている。原因は恐らく春に夢魔との戦闘で目覚めた零魔道と彼らが始めた仕事だろう。零々事務書という霊的な事に関する何でもや。
自分の担当ではないのでそこまでしかクローフェスは知らない。
「まぁいいか。ところで夢宇君」
夢見 夢宇にある力は零魔道による魔力の無限回復、神の加護。
それだけのはずだ。夢見 夢宇には神の力はない。
なのに、それなのに。
「今、なにをしたの?」
何故、こちらの一撃を右腕一本で消し飛ばせたのか。


トキは呆然としていた。
神様。
そんなものがいるとは思わない。
だが、この男は事実敵の一撃を片手でかき消した。
クラスメイトの一人。
「神・・・様・・・・?」
無自覚につぶやいた一言に夢宇がうなづく。
「そうだよ。それと、魔学の怪神だっけ?あんた」
「そーだよ」
クローフェスの問いかけを無視する夢宇に特に気を悪くしたようでもないクローフェスは答える。
そんなクローフェスに、夢宇は言った。
「この町は俺の大事な町でね?んでもってその町の住人は、もっと大事なわけなんですよ」
直後、クローフェスの足の下の床から大量に銀の槍が生えてきた。
それをクローフェスは間一髪で後ろに跳んで避ける。
「だからさぁ、なんだよそれ」
呟くと同時に右へと跳ぶ。
「これが俺に宿ってる零魔道の力。知ってるだろ?グングニルの劣化複製を作れるって」
「へぇ。それってこんなにぽんぽん出せるもんなんだ」
「いや、一日に1005本しかだせないよ」
直後、槍が生えてこなくなった。
みれば生えていた槍も次々と砕けていく。
「時間制限もあるわけだ」
一度に二百本近くだしていたのだからもうすでに使いきったのだろう。
(こんなに早く全部出し切ったってことは本命の武器は他にあるってことか)
そう判断して警戒したままクローフェスは言う。
「何を狙っているんだい?夢宇君」
そして見た。ホールの中に誰もいなくなっているのを。


20 :多樹 :2007/12/31(月) 20:05:25 ID:m3kntDV4

2・傀儡

凛は夢を見ている気分だった。
自分が勝ちをあきらめた相手、光影が今いともたやすく膝をついているのだから。
つかせたのは突如現れた少年。少年はただ指を鳴らしただけ。
それだけで、世界の支配権が奪われたような感覚だ。
重い。重い魔力が重力としてのしかかってくる。
自分の足元にいる猫が特殊な結界を張っているのか、ただ自分には身体が重く感じるだけだが、周囲では電信柱がメキメキと音をたて、壁にはひびが入っている。
路地を照らしていた街灯が音を立てて割れた。
ジークフリートが隣で少年をにらんでいる。
「ん?あれ・・お前何でいるの?」
少年、ロキがジークフリートに声をかける。
「俺は今この子の使い魔やってんだ」
ジークフリートが恨めしそうに呟く。
そしてそれを聞いてロキが笑いだした。
「アハハハハハハ。つ、使い魔!?お前が!?アハッハハハハハ!」
「黙れ!このガキ!手前こそ愛しの閻魔姫様はどうしたんだよ!ぁ?」
とたんに、ロキが表情を曇らせた。
「・・・・・あれのことはいうな・・・・・」
「ロキ様、いつまでも敵を無視するのは止めたほうがいいかと」
黒猫が口を開いた。内心では相当驚いたが、使い魔だからと自分を納得させて凛はいう。
「ロキさん・・でしたよね?すこしきいてもいいですか?」
「ん?いいけどちょっとだけ待ってくれる?いますぐおわらせるから」
ロキが呟くと同時に、その手に剣が出現した。
そこまでで凛の視界はジークフリートによってさえぎられる。どうやらアイマスクをかけられたようだ。
「凛が見る必要は無い」
その言葉を最後に耳になにか押し込まれた。音も無くなった。
どうやら耳栓らしい。それにしてもいつもこんなものをジークフリートは持ち歩いているのだろうか?


「お優しいのですね・・・“終弾の魔王―」
「その名はもう無い。俺の名はジークフリートだ」
猫が呟きかけたことを遮ってジークフリートが言う。
「失礼しました。ジークフリート様」
そういってジークフリートを見ようと顔をあげかけた猫をジークフリートは蹴り飛ばす。
「わるいな。主のスカートの中を見させるわけにはいかないんだ」
「ぜ、前言撤回させてください。最低ですね!?ジークフリート様。私一応猫ですよ!?」
「うん。だけど俺は凛のスカートのしたにいる雑草ですら許せない時があるから」
「何この人!?」
使い魔同士の会話を聞きながらロキが問いかける。
「それよりさぁ、ジークフリート。この剣返してほしい?」
ロキの手には柄に青く光を放っている宝石がはまっている。
「あたりまえだろうが!その剣は俺の力の源なんだから!」
「あはははやっぱり?でも返さないよ?俺はこの剣気にいってるからさ」
会話をしながら剣さきは光影の右目に当てられる。
「無駄ですよ、ロキ。私は他よりも強く創られただけの劣化コピーの一人ですよ?まさかオリジナルだとでも思ってるんですか?」
光影が自信に満ちた声で言うが、ロキは意に介さないように返す。
「知ってるさ。でもお前“傀儡”だろ?“魔学の怪神”の」
「傀儡(くぐつ)?」
ジークフリートが首をかしげ、猫が説明を始めた。
「傀儡というのはですね?使用者の魔力を一定値与えることで記憶や能力を持てる人形のことです。今は傀儡の製作は魔学の怪神が全てやっているはずです」
「へぇ。で、そいつが傀儡だとどうなるんだ?」
「傀儡ってのはね。オリジナルには痛みが入ってこない代わりに傀儡自体は痛みを受けるんだよもともと偵察ようとかそんなのばっかだからね」
ロキがそう説明しながら剣を突き出した。剣は光影の右目にめり込む。
「ギアァァァッァァァァッァァ!ア、アァァァァァ!?」
「でも記憶はあるからさ。いろいろと聞きたいことあるんだよね」
路地に悲鳴が響く。
「ジークフリート様、この先に大きな公園があるのはご存知ですよね?そこに我々の仲間がいます。回復術に長けていますのでそちらのほうに凛様をつれていってあげてください」
猫の言葉に、ジークフリートは頷くと、凛を抱き上げた。
「ちょっ、ジークフリート!?な、何してるんですか!?」
感覚はある凛が声を上げるが、ジークフリートは凛をお姫様だっこのまま歩き出した。
「怪我人を歩かせるわけにはいかないだろうが・・・」
聞こえていない答えをジークフリートは返す。
歩きながらも、ジークフリートは何処からか取り出したアイマスクと耳栓をはずさなかった。
何故なら、まだ悲鳴が聞こえていたから。
少なくても、この悲鳴が聞こえなくなるところまでは、
「ジークフリート、服がぼろぼろになって、少しはだけている女子高生にアイマスクをしてお姫様だっこしてるとすごい怪しい変態みたいだぞ?しかもちょっと見た目幼さそうな子だし」
ロキの声が背後から耳にささった。


21 :多樹 :2008/01/09(水) 19:26:27 ID:m3kntDV4

3・恐怖

少女は暗がりを走る。
―怖い
何がだろう。
―恐い
誰がだろう。
―こわい
どうしてだろう。
―逃げなくちゃ
何処にだろう。
背後から、足音が響く。
その音に、心と身体が反応して震える。
「いやっ・・・、嫌ァ!」
少女の恐怖からの悲鳴に世界が変貌した。
一瞬にして、狭い廊下の中に無数の影が出現する。
その影は薄く人の姿をしていた。だが余りにも存在が薄く、わずかながらも透けていた。
彼らは意思のない虚ろな目をして廊下をさまよい歩く。
その内の一体が彼女の肩にぶつかった。
その衝撃に少女が悲鳴をあげた。
直後、廊下に満ちていた人々の影が濃くなった。
かすかながらも何かをつぶやいている。
―恐い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い
直後、少女の目の前の空間が歪み、前方に一人の男が現れた。
白いスーツに白髪の男。
男は少女に言う。
白い肌に赤い目の少女、魂喰い(ソウル・イーター)に。
「何処に行くのかね?いや、何処にいけるというのかね?魂喰い君」
少女にとって、その男は絶望の対象だった。
「・・・・・ハーゲン・・・・!」
「やれやれ。まさか魔女の気と魔学の怪神の魔力にあてられて暴走しだすとはね」
ハーゲンはそう呟きながら右手を少女へとむける。
「ヒッ!」
「世界の為に今のうちに回収しておくとしよう」
その右手から何かが放たれる。
その力に触れられた箇所が消滅していく。
そして力が少女の肉体に触れた。
「・・・君は・・・」
それは、第三者の少女の肉体に触れる。
「はじめまして、“壊魔の王”ハーゲン」
世界は彼女をこう呼ぶ。
「・・・・始めましてというべきかな?秋乃風 華蓮(あきのかぜ かれん)ちゃん?」
天使、華蓮と。


22 :多樹 :2008/01/16(水) 17:36:08 ID:m3kntDV4

4・撤退


 「ふむ・・・・天使にはきかないのか」
ハーゲンは華蓮に触れた瞬間に消滅した自分の術を見ながら呟いた。
華蓮の背後では白い少女がうずくまって震えている。
魂喰いの少女だ。
「それで?どうするの?」
華蓮は強気な口調と目でにらむ。
一瞬、ハーゲンはうれしそうな顔になり、すぐに真剣に戻る。
「ふむ・・・。もうしばらく君との触れ合いを楽しんでいたいがしかたあるまい。悲劇の空神に怒られてしまうからね」
次の瞬間華連に背中から抱きついていた。その動きは華蓮の動体視力ではおいつけるようなものではなく、わずかに戸惑う。が、普段の数1000倍の速度で振りほどき殴り飛ばした。
殴りとばされながらハーゲンがその場からいなくなる。
敵が消えた暗がりの中で、荒い息で華蓮が呟いた。
「・・・ハーゲン・・・!次会ったら絶対殺してやるぅぅ!」



 屋上にて、小柄な影が呟く。
「ハーゲン・・。また誰に殴られてきたの?」
「思春期な天使に」
「・・・・・・・」
「まぁいいだろう。それより魔学の怪神と影主の使神に連絡を取れ。撤退するぞ」
懐から携帯電話を取り出しながらいうハーゲンに影が冷めた目を向ける。
「何処に電話するの?」
口調もわかりきっていることを訊いているような感じだ。
「ふふふふ。もちろん凛ちゃんのところだ」
「・・・・・」
「あれ?」
「どーしたのー?」
「・・・この電話は現在使われていません・・・・・?」
「影主の使神が壊しちゃったんじゃない?」
「・・・・・・・」
「ヒッ!?なんかどろどろした負のオーラがァ!?」
屋上に負のオーラが満ちるころ、とある公園にて物語は続き出す。


23 :多樹 :2008/01/17(木) 22:04:45 ID:m3kntDV4

5章 1・電話

とある公園内にて、一人の美女が溜息をついた。
美女の服装は巫女装束というものだが、見たもの全てに「え?巫女さんのどこが悪いというんだ!」と言わせざるえない美しさを彼女は誇っていた。
その手にあるものは銀色の携帯電話。
「ですから、今この町の中には三人の魔王と3人の魔女の反応が出ていますが、この町の守護は夢見 夢宇様に全権があるはずです!それにもうほとんどかたがついています!」
『そんなことを言われても困るのかも。現にすでに我々の退魔仕たちが危険を訴える程の魔力のぶつかり合いを感知しているわけですし』
「あーもう!どうしてそう貴方たちは頭がかたいのですか!?」
『むむ?私を堅物の老人たちなんかとは一緒にしてほしくはないのかも。じゃぁじゃぁあと2時間だけ待ちます。それ以上たったらこちらの退魔部隊を踏みこませるのかも』
通話がきれた携帯電話を懐にしまいながら美女は再び溜息をつく。
そんな彼女に、一人の少年が声をかけた。
「遥(はるか)。なんかあったの?」
振り向くと、長い黒髪の少女をつれた少年がいた。
特に目だった点のないどこにでもいそうな少年だ。
「いえ、夢宇様。特に重要なことではありませんよ。ただあと2時間以内に今問題を起している魔力を静めなければこの町に壊滅的危機が訪れるだけです」
「あれ?めちゃくちゃ重要なことじゃ!?」
「そんなことよりその方は?」
この町の守護者である者の突っ込みを無視して問いかける遥。
「俺のクラスメイトである魔女。なんか白衣のおじさんに襲われてたからたすけてきた」
実際には見た目で判断するならば青年という感じだったのだが。
「それじゃぁあとは“宝庫の魔女”だけですね。あ、ロキ様からは敵を倒したとの連絡がありましたよ」
遥の言葉に、トキが反応した。
「宝庫の、魔女?・・・今、どこにいるのですか?」
「え?あぁ今は恐らく並木丘のほうにいるとの情報を受けていますが・・・・」
その言葉を聞くなり、トキはあるものを要求する。
「すいません。魔力の補強薬はありませんか?」



それから十分後、魔力の回復したトキがいなくなった公園に、一人の男が現れた。
小柄な女子高生を抱えた赤い髪の青年。
「あんたがロキの言っていた回復術の使い手か?」
「・・・ふ、不審者!!」
「違う」
「知ってますよ。鈴城様とジークフリート様ですよね?ロキ様から聞いております」
「では頼む」
「では、10分ほどどっかいっていてください。邪魔です」
天使の笑顔とともに言われた言葉にジークフリートは軽く死にそうなダメージを受けた。


24 :多樹 :2008/01/24(木) 14:16:08 ID:PmQHQHu4

2・丘

神空町の中には様々な場所がある。
そこも、そのうちのひとつ。町でもっとも高い丘といわれ、夏になれば筋トレとして幅広く利用されるそこ、並木丘。
春になれば辺り一面桜色一色になるそこも、冬の時期はほとんどの木がその葉を落としたただ見晴らしのいい場所となる。だがそれでも町を一望できるそこは一部の人に隠れた名所として扱われていた。といってもあくまでも昼間ならばの話だが。
夜では急な長い階段を上る人もおらず、静寂そのものという空間になっている。
今その丘に落下防止のために取り付けられた柵に両目を閉じて寄りかかる人物がいた。
時刻は深夜0時。すでにあたりは暗く、街灯がそこを照らしている。
黒いドレスに身を包んだ20代前半の女性。その右手にはすべての指に銀のリングがはまっており、左手には奇妙な紋様が浮かんでいる。
宝庫の魔女。それが彼女の名だ。本当の名はしばらく語っていない。
世界中に在する特殊な代物を数多く所有している。
「あら?こんな時間になんの用かしら?黒神さん」
彼女は唐突に声をかける。
彼女が目を開けると、そこには一人の少女がいた。
長い黒髪の少女。
黒神 トキ。同業者だ。
「あなたを殺しにきた」
その目には暗い復讐の光がある。
「あらら?もしかしてだからその魔王をパートナーに選んだのかな?私に恨みを持つ魔王を」
―返してもらいますよ?私のグラムを―
愉快そうに笑う魔女と殺意をこめて敵を見る魔女。
「ふふふちょうどいいや。退屈だったし、ちょっと遊んであげる」
物語はまだ、終わらない。


25 :多樹 :2008/02/01(金) 12:26:33 ID:m3kntDV4

3・魔女

黒神 トキには幼いころに誓ったことがある。
―けして許すな・・・・
そのための力も望んだ。

自分の銃の制限を外す。
第三制限解除。
銃弾を込める。込めるものは、特別に造られた特殊な物質。
魔力を持つ存在に対してのみ有効な銃弾。第三制限解除の状態での力は感情によって増減する。
込める感情は、殺意。憎しみ。敵意。
「あなたは、殺してあげる。私が、全力で!」
契約の輪が光を放つ。
直後、トキの隣にもう一人の人物が現れた。
「トキ様、しばらく本気でやります。したがって、私が戦っていられるのは残り十分」
それは少年。高圧的な目をした。黒髪のオールバックの少年。
「ふふふ久しぶりね、魔龍王シグルズ。ずいぶんとかわいらしくなったじゃない。あの邪悪な龍の姿はどうしたの?」
宝庫の魔女が完璧すぎる笑顔でそう言った。その笑顔は完璧で、それ故に偽物のように感じる。
「黙りなさい。今は貴様の挑発を聞いてやる暇はないのです」
シグルズがそういいながら右手を大きく振るった。
風の塊が飛んでいき、地面に直撃し、大きくえぐれる。
本来ならば宝庫の魔女がいた位置に。
だが、すでにそこに宝庫の魔女はいない。
「遅いんじゃない?少し」
背後。振り向けば、そこに宝庫の魔女はいた。
その手にはトキの頭ほどもある火球が創りだされている。
軽く放り投げる。当れば、ヤケドではすまないだろう。
「っく!」
大きく後ろに跳んでよける。跳びながら銃弾を放った。
だが、
「“盾”」
空気の面にはじかれ、地面に落ちた。
宝庫の魔女は続けて呪文を唱える。
「“氷”」
唱えながら右手を突き出す。トキに向けて。
直後、その右手から直線状に全てが凍っていく。
空気中にある水分が凍り、氷の道が作られる。その道はトキへと続こうとしている。
「“銀よ!我が壁となれ”!」
トキの前に巨大な縦幅、横幅ともに1メートルほどの四角い銀の壁が出現し、氷がそこで止まる。
トキはその盾に身を隠すと、そこから銃弾を放った。
「へぇすごい。一瞬でそれだけの大きな物を作れるんだ」
宝庫の魔女が楽しげにそう呟き、左手を軽く振った。そこに、小さな灰色の懐中時計が出現する。その時計は、針が動いていなかった。だが、宝庫の魔女は唱える。
「“私は、君を使う者。さぁ動け、このウスノロが”」
      カチン
針が、動き出した。
そして銃弾は宝庫の魔女の眉間に直撃した。


26 :多樹 :2008/02/11(月) 12:09:28 ID:m3kntDV4

4・宝庫の魔女

 
 魔法というものは何でもありだがルールのない力ではない。
そもそも魔法というのは頭の中で術式を組み立て、それからこの世界での儀式を行って初めて発動する。それが常識だ。だがしかし、トキは知らない。自分の肉体を無敵にする力など。
「危ないわね」
トキの持つ銃は魔法の防御などを打ち破る特殊な弾丸を放つ。
もちろん防げるものは防げるのだが。だがそれでも、あるだろうか。
今のように、眉間に直撃した弾丸が空中で止まり、自分の肉体は無傷で済ます術式が。あったとしても、無敵となる術式を人に使えるのだろうか。

宝庫の魔女の背後には巨大な銀時計が浮かんでおり、彼女の顔には笑顔が浮かんでいた。
「“進まぬ時計”ですか」
トキの隣でシグルズが呟く。
「あら?よく知ってるわねぇ。この魔道具のことを」
宝庫の魔女が笑いながらそういい、宙に浮いている時計を愛しそうに撫でた。
「シグルズ、あれは何?」
「反則ですよ。五分間のみ自分の半径15p内の存在を全て止める」
シグルズがそういいながら右腕を大きく振った。
巨大な黒い爪が衝撃波となって宝庫の魔女を襲う。だが、彼女の顔の前でそれはぴたりと動きを止めた。
「さぁて、と?肉弾戦でもやる?魔王」
そういった宝庫の魔女が移動する。
一瞬で背後へと。
「!?」
「なっ!?」
直後、彼女の手の中に巨大な大剣が出現し、それを片手で振り上げ、振り下ろした。
同時、シグルズがトキの身体を突き飛ばす。
刃を逃れたトキはみた。

巨大な剣がシグルズの身体を切り裂いたのを。


シグルズの身体が倒れる。
血が地面に広がる。返り血を浴びた敵が笑う。敵が。

そして、安全圏にいた彼女の中で何かが音をたてた。


27 :多樹 :2008/03/05(水) 15:54:14 ID:m3kntDV4

5・黒神の血


 魔法使いの世界において、黒神の名は重い。
特に、古い世代ほどその名はよく知っていた。

 黒神 トキはその名に誇りを持っている。

黒神の一族を誇りに思っている。母の教えに、自分に流れる血に、父に、祖母に、故に、彼女は許せない。
幼きころ、母を殺した敵を。
自分の大事なものを傷つける者を。
そして今、また壊されてしまった。



目の前で斬られて倒れ、動かなくなる少年の姿をした魔王。
「シグルズ・・・・・?」
本来ならば、魔王である彼の身体がただの刀剣で斬られることは無い。
だが、今敵が握っているのは彼の武器であった魔剣。グラム。
如何なるモノも断ち切るとされた刀剣。シグルズの魔力の半分以上を収めていた魔力の貯蔵庫。
そんなもので斬られては流石に魔王でも立ちあがることは出来ない。
「アハハハハ優しい男ねシグルズ。でもそれ故に愚かだわ」
シグルズ一人ならばよけられただろう。もしもトキを助けるために行動しなければ彼は防御なりなんなり出来ただろう。
思えば自分さえいなければ母も死ななかったかもしれない。
全て自分のせい。黒神 トキは不幸を呼ぶ。

膝をついたまま動かないトキを、宝庫の魔女は優越感を持って見下ろしていた。
後四分間は最強の存在である彼女は余裕を持っていた。
だから気づくのが遅れた。
まず感じたのは違和感。
見ている前で、トキの周囲に違和感があった。そんなはずはない。
だが、どうしても思ってしまう。
トキの周囲の空気が黒くゆがんでいく、と。
魔力を練り上げている感じではない。
すでに1歩近づけば刃は届く。
(何か起きるまでに殺しておこう)
そう思い、グラムを振り上げた。
そして、それと同時に、トキの指が恐ろしい速さで地面に小さな魔方陣を描き、シグルズの身体が契約の輪の中に光として消え、宝庫の魔女は彼女にグラムを振り下ろした。
振り下ろされた刃は目の前の少女を両断するはずだ。
だが、グラムは空中でその動きを止めた。彼女まであと15pという距離で。
そして、なにか大きな衝撃に宝庫の魔女の身体はふきとばされた。


28 :多樹 :2008/03/10(月) 19:35:47 ID:m3kntDV4

6章 1・天刻

 瞬時に魔法を発動させ、宝庫の魔女は何事も無く地面に脚から着地する。
本来ならばあのまま身体ごと着地してごろごろと転がっていってもおかしくはない吹き飛び方だった。
「やっと目覚めた・・・・」
強い衝撃だったが彼女にダメージは無い。むしろ、彼女の顔には満面の笑みがある。
彼女の視線の先、そこにいるのは一人の少女。
どす黒い魔力に覆われた魔女。
「・・・・・」
黒神 トキ。
黒神家最後の悪夢といわれる魔女。天才的な大魔女、黒神 イマの娘。魔竜王シグルズと契約を結んだ少女。
そして、神様の術式といわれる幻の術式、“天刻”をかけられた少女。
ある一定の条件を満たすと発動する肉体強化の術式。
ただし、副作用として三十分たつと自動的に解け、しばらくの間後遺症が残るらしい。
らしいというのはその術式を使えるものがほとんどいないため、文献の中にしか存在していないに等しいからだ。
故にまだまだ未知の魔法。
だがしかし、天刻を発動している者は神の国へはいることが出来ると言われている。
天界とは別に存在するといわれる神の国。
宝庫の魔女はそこに興味があった。
だからこそ、探した。天刻を扱えるものを。



 そして、見つけたのは強大過ぎる魔女だった。
一度詳しく知ろうと近づき、目の前にたった瞬間、理解した。
まともにやっては勝てない。
だからこそ、彼女の娘に目をつけた。
噂では自分の娘に彼女は全ての魔法を覚えさせ、その上で記憶封印の術と彼女の保護の魔法をかけているらしく、その中には神の術式のひとつといわれる天刻もあるとの話しだった。
普通ならば娘に天刻をかけるなんて正気の沙汰ではないが、そんなことはどうだって良かった。
娘。それもまだ6歳の子供だ。それを人質にでも何でもして天刻を聞き出せばいい。
そして、とある魔法集団と手を組み、彼女に挑んだ。
総勢1万以上のこちら側と一人の向こう。
加えてこちらには人質である彼女の娘。
誰がどう考えても圧勝は必至だった。
だが、ひとつだけ計算違いがあったとしたらそれは―――――。
「天刻?あぁ・・・あんなもののためにこれだけの数をそろえたわけ?しかもどいつもこいつもCクラス以上の賞金首とはね・・・・」
そういって笑う生きる伝説。
「娘の命も惜しいだろ?なんせあんたの全ての魔法を覚えた存在だ。どこものどから手がでるほどほしがってるもんねェ?」
「うふふふふそうね。磨きながら育て上げれば男を虜にする美女にもなれるでしょうね」
そういって笑う魔女に、一斉に魔法が放たれた。
バラバラの魔法は絡みつき絡み付き強大な魔法へとなり黒神の名を持つ魔女を襲う。
だが、それは黒神 イマの左手一本によって打ち消される。
そのまま左手の中に巨大な両手剣が出現する。
そして、虐殺が始まる。

気づけば、1万人いた軍勢も数えるほどになっていた。
最重要危険人物(ランクS)とされていた者たちも百人ほどいたはずだが、すでに3人しかランクSもいない。
「あははは天刻を扱えないわよ?この程度の強さしかないんじゃね!」
そういいながら結界ごと敵を叩き潰す。
「それに天刻ならトキが私の封印にかけた魔力をこせるほどの魔力を出せば出てくるわよ?」
そういいながら召喚獣の頭を指一本で吹き飛ばす。
「それにしても頭が悪いわね?トキが気絶してたら強くならないじゃい。これだけの魔力に触れればトキは絶対に嫌でも強くなっていくのに」
そういいながら跳びあがる女をみて、誰もが思った。
 あぁ・・・なんて思い違っていたんだ・・・・・。

もしも計算違いがあるとすればそれは、
―――――黒神 イマがすでに違う次元にいるということを理解していなかったことだ。




最後まで思い出す前に宝庫の魔女は現実に引き戻される。
理由は、音。

  バチチチチチチチチチチ

見れば、黒神 トキが右手の平を天へむけて伸ばしていた。
その上に、巨大な黒い球体。
それが、右腕が振り下ろされると同時に自分へと向かってきた。
とてもではないがよけきれない。
進まぬ時計もあれがぶつかれば砕けてしまうため無意味となるだろう。
ならば、これしかないだろう。
宝庫の魔女の右手の中指にはまる銀のリングが光を放ち、宿っていた存在が顕現した。


29 :多樹 :2008/03/18(火) 15:51:45 ID:m3kntDV4

2・終わり呼ぶ剣

高密度の魔力はコンクリートの地面を砕き、暴風を巻き起こし、木々を揺らし高台を砕ける寸前までおくる。
だがそれでも、求める者の戦いは終わらない。

復讐を求める者、黒神 トキは柵の上に立ち、術を求める者、宝庫の魔女は箒に乗って空中に浮いていた。彼女の指は中指以外の指輪が全て砕けていた。
「まさか私の使い魔が皆一瞬で死んじゃうなんてね」
「・・・・・・・」
残った銀の契約の輪は中指にはまる“断罪の黒箒”のみ。意思を持った高速移動用の箒では戦いづらい。そもそもこんな目立つところでは退魔士たちに狙撃されかねない。
先ほどまでの黒神 トキ相手なら狙撃にまで気をまわす余裕はあっても、今の天刻を発動させているトキが相手ではその余裕はない。
ならば一度町の中に降りるとしよう。あそこならば一般人を人質に逃げることも出来る。
そう思い、箒の先を町の中心部へと向け、信じがたい速度で動き出す。
だが、彼女は読み違いをしていた。
天刻の力を。甘く見すぎていた。
巨大な魔力を背後から感じ、振り向くと、そこには黒い柱があった。
黒神 トキが魔力で作り出した刀。そう気づくまでに少しかかった。
それほどまでに、それは巨大だった。
トキが両手で何かを握って振り上げているのが見える。全長20メートル弱の黒い刃。
どこかあやふやな形をしたまるで水で作り上げたかのような刃。
触れただけで自分をはじいた魔力の具現化を見て、宝庫の魔女はとある魔女の姿を思い出した。
「・・・・化け物め・・・!」
それは誰への呟きか。自分か、トキか、それとも・・・・。
空中に魔方陣を魔力で描き、呪文を唱える。
あんなものが町に振り下ろされればあの町にある魔道具が消失してしまう。それどころか、あの町が消えれば計画も失敗し、責任はあれを目覚めさせた宝庫の魔女にくだるだろう。
それが意味するは、死よりもつらい苦しみを味わった後の死だ。
防がなくてはいけない。あれだけは。
宝庫の魔女は魔力を限界ぎりぎりまで自分が放てる最強の術に込める。
そして、終わりを呼ぶ剣がゆっくりと振り下ろされた。


30 :多樹 :2008/03/23(日) 13:55:19 ID:m3kntDV4

3・終わりの矛先

 その巨大な剣は様々な者が見た。
町の中にてとある悪魔と使い魔が苦笑しながら呟く。
「あらら?あれはヤバイな・・・・」
「助けますか?」
「いや・・・。俺達側の存在が関わらないほうがいいだろ。それにこの町の管理人は優秀だ」


町の中のとある路地にてそれは呟く。
「2時間も待てるか!もう消えちまうぞこんな町」
そして、巨大な砲を標的へとむけ、引き金をひいた。



町の外にて、とある悪意が唇を楽しそうに歪めた。
「ははははこれはこれは。流石は業の集いし地だ!零魔道、絶対究極天使、そして呪われし魔女の末裔。くははははは奴らにとっては予想外か?私にとっては理想通りだよ!」
悪意は笑いながら右手の指にはまる銀のリングを静かに撫でた。



「おいおい!ふざけんなよ!なんだよあれ!」
町の中の人通りの無い路地にてとある時期神様がつぶやいた。
見上げるは巨大な黒の柱。空を割るかのように伸びたそれを見ながら、彼は走り出す。


「なによあれ・・・?あんなものが落ちたらこの町はきえちゃうじゃない・・・。夢宇の町が・・!」
学校の屋上にて、とある天使がそういって右手を空へと伸ばした。


とある大きな公園の中にて、とある少女が目を覚ました。
少女の目の前にいるのは美しすぎる巫女衣装の女性。
少女、鈴城 凛はゆっくりと起きあがると空を見上げ、よろよろと歩き出した。
「だ、駄目ですよ!鈴城様はまだ治療がすんでいないのですから!」
そういって巫女が彼女の腕をつかんだが、凛はそれをふり払い歩きつづける。
「・・・きゃ・・・さなきゃ・・・・殺さなきゃ・・・殺さなきゃ・・・」
彼女を追うことは巫女にはできなかった。
今の彼女の目を巫女は知っている。
狂いに憑かれた者の眼。
静かに少女は狂う。黒い瞳を赤く変化させ、発動準備させていた魔法をさらに凶悪に、さらに強悪に変化させて。


31 :多樹 :2008/03/28(金) 14:28:29 ID:m3kntDV4

4・魔女


 巨大な半透明の球体。それは、空中にて巨大な剣とぶつかり合う。
宝庫の魔女が放てる最強の破壊魔法。だが、それは今少しずつ剣によって形が変化していく。
「なによ、これ・・・!いくら黒神の娘だからってまだ子供じゃない!なんで、なんでこの私がァ!!」
宝庫の魔女が叫ぶと同時、巨大な剣になにか強いエネルギーが直撃した。
わずかに剣が引く。だが、すぐに元に戻るだろう。
このままでは絶対に押し負け自分ごと引き裂くだろう。
宝庫の魔女はそれを理解して、思わず、その場から離れた。
一度離れてしまった以上いまさら戻れない。
再び剣が球体にぶつかり、球体がはじけた。魔力を送る人間がいなくなったのだからその耐久力はいっきに下がって当然だ。
もう止まらない。
宝庫の魔女は静かにあきらめ、その剣を眺めた。
逃げ切れはしない。あの町が消えればその瞬間に死ぬ。
宝庫の魔女は静かに自虐的に笑った。
その直後、恐怖に襲われた。
「な、なに・・・・!?」
何かが来る。
ここからでは見えないが、町の中になにかいる。
     これは、
        魔女の気配。
大気が、怯える。
剣が消滅した。
町が、何かもっと邪悪な気が町を満たした。
天刻よりももっと深く、重い、邪悪な魔力。
それは一瞬で消えたが、宝庫の魔女は、すでにそれ以上そこにいたくなかった。
この町にいる魔女は黒神のほかに、鈴城 凛のみ。
(あれは、鈴城 凛の魔法・・・?)
化け物。二人の化け物の名を心に刻み、宝庫の魔女はその町から離れた。


32 :多樹 :2008/04/01(火) 17:00:19 ID:m3kntDV4

5・後始末


 その街の守護神であるべき存在の名は、夢見 夢宇という。
その夢宇の補佐役である天使の名は秋乃風 華蓮という。
その二人の近くにいる悪魔の名を大野神 ロキという。
そのロキの使い魔である猫の名をネロという。
彼らは以前にも幾度となくともにさまざまな問題を解決してきた。
だが、今回の魔女によって起きた事件。彼らはそれを、後処理しか出来なかった。
少なくても、零魔道とよばれる永続魔道具をもつ時期神、夢見 夢宇はそうだった。


街の中で最も高いといわれる並木丘の頂上にて、夢宇が呟く。
「見つけた・・・」
彼の目の前にいるのは、一人の少女。先程の巨大な黒刀を作り出した魔女である少女。
「・・・・・」
「黒神さん、悪いけど少しだけ気絶しててもらうよ」
少なくても、今回の事件が完全に終わるまでは。
そう思い、懐から小さな小瓶を取り出した。中に銀の粉が入っている。
それを、投げた。トキはそれを顔に当る直前に魔力の刃で切り裂き、中にあった粉が顔にかかる。
次の瞬間、トキは全身に力が入らなくなり、崩れ落ちた。
常に懐に忍ばせている、とある世界の眠り薬だ。少しでも吸いこめば5時間はおきない代物らしい。
(しかしなんか今回はあと処理ばっかだな・・・・)
夢宇は苦笑しながら長い階段を降りていった。




そして、街の中で、赤い髪の魔王がこの物語にピリオドをうつ。


33 :多樹 :2008/04/13(日) 01:35:55 ID:nmz3o4se

間章・終わりへ

とある大きな公園の中で、一人の魔王が主に呼びかける。
「凛、帰ろう」
だが、凛は呼びかけには応じずに、空を見上げている。
「・・・・」
「凛!」
ジークフリートが若干強めに言う。
そして、
「・・・・あなた・・・・」
「?」
振り返り、彼女はいった。

「誰?」

ただ、一言だけ。


34 :多樹 :2008/06/17(火) 18:25:53 ID:m3kntDV4

終章 1・呪い

ジークフリートはかつて地獄の最高責任者と同等の力を持っていたこともある魔王だ。
“天剣”の二つ名を持っていた存在とすら互角に渡り合ったこともある。
そんな彼はある事件によって弱体化した。
だからこそ、人間風情の召喚魔法に反応したのかもしれない。

「初めまして。私の名は鈴城 凛(すずしろ りん)。貴方を呼び出した魔女です」

その魔女は自分の予想よりもはるかに幼かった。
幼い、どうみても魔王を呼び出せるほどの魔力があるようには見えない少女。

「不思議ですか?なぜ貴方ほどの存在を私のような子供が呼び出せたのかが・・」
「・・・・・気にはなるな」
自分の物言いに笑う少女。
「呪いですよ。神の術式と呼ばれる強化系統の禁術を知ってますか?」
「天刻だろ」
「えぇ。それに対を成す存在を知ってますか?こちらは人の術式と呼ばれるものなんですけど」
少女の言葉にジークフリートは眉をひそめる。
「人の術式・・・?知らんな。神の術式なら何本か知っているが」
「でしょうね。私はその“人の術式”の一つをかけられているんです。その術は私を強くしていきます。でも代償として強くなっただけ死に近づくんです」
少女は自分の右手の平を見つめながら続ける。
「私は今こうしている間にも魔女として成長していきます。そしてそれと同時に命が減っていきます」
「寿命が減るのか?」
「いいえ。身体が死んでいくんです。細胞が死ぬのか魂が死ぬのかはわかりませんが、死んでいきます。私はこの呪いを解きたい。ジークフリート、お願いです。あなたに、あなたという英雄に求める伝説は一つ。私のに呪いを解く手助けをして下さい。呪いにかかった魔女を救う。それだけでいいです」
少女はそう言った。
「・・・誰にかけられたんだ?その呪い」
「魔道協会の者だといってました。・・あ、この呪いにも名前があるんですよ。この呪いの名は―」

「・・・エーテルリオン・・・」
ジークフリートはまともではない主人にいう。いや、主人の中にいる存在に言う。
「・・・」
「ついに凛の身体が魔力に押し負けたか」
そこにいるのは、肉の器をもった魔力の塊。
尋常ならざる量の魔力が人間の限界をオーバーして身体を奪った。
にわかには信じがたい。でも現にそうなっている。
「・・・・伝説ねぇ・・・」
魔王はそう呟き、主を救うために両手に魔力をためる。

「やってやるかな・・・。伝説って奴を、創ってやろうか」


35 :多樹 :2008/06/28(土) 16:39:47 ID:m3kntDV4

2・魔王

 凛が両手を広げる。それに連動して彼女の前に見たことのない陣が出現し、光を打ち出した。
超高密度な魔力のビームだ。くらえばいくらジークフリートだろうと無事ではすまない。
それをかわすと同時に魔力の弾を凛に放つが、全て彼女に届く前に何かにはじかれる。
「・・“魔道障壁”・・・?今の“魔光破”といい旧世界の術ばっかだな」
そう呟いたジークフリートの足元が光る。
そして、長方形の箱が出現しジークフリートを閉じ込める。
同時に凛の左右にも同じように出現し、その箱の側面の一辺が開いた。
そこからレイピアを持った青銅の鎧が二人出現する。
でると同時に箱が閉まり、鎧が回れ右をした。
かしゃんと音をたててレイピアを構え、たった今自身が出てきた箱の腹に突き刺す。
貫通するほど深く刺したが、箱の反対側からは剣先は出てこない。
だが、代わりにジークフリートが入った箱の両側面から刃が生える。
出方から考えて、恐らく中では刃がクロス状になっているだろう。ジークフリートが入った箱が炎上する。
「・・・・・・」
その様子を静かに眺める凛の耳に、声が届く。
「“魔法の箱(マジックボックス)”か。駄目だな。凛は不器用だからあんまり向いてないよ」
直後、左右の箱の側面が同時に開き、そこから二人のジークフリートが出現する。
「・・・・・何故?」
呟く凛の目に光はない。目の色こそ正常だが、間近で見てやはりおかしいとジークフリートは思った。
「旧世界の魔法なんて凛がつかうもんじゃないよ。それは、殺すことを目的としたものだからさ。さ、今すぐに全ての魔力を契約の輪にこめるんだ。俺が全て受け止める」
だがしかし、凛の口はすばやく次のスペルを呟く。
(・・・一回にいくつも発動準備をこなすのか・・)
「だまれ。私は鍵となるんだ。この世界の終焉を迎えるための鍵と」
凛が、エーテルリオンの意思が呟く。
「そうか・・。残念だよ、凛・・・」
凛から漏れる魔力が、ジークフリートの中の魔王としての一面を呼び起こす。
そこにいるのは、使い魔として主のことを思う魔王ではなく、魔の王として敵となる存在を食らい尽くそうとする男だった。
凛の足元が光り、長方形の箱の中に閉じ込められる。
「・・・!?」
同時に、凛を中心として四つの長方形が出現する。
それら全てに、壱から四までの番号がふられている。
壱と書かれた箱から、槍を持った青銅鎧が出てくる。
「神殺し、“ロンギヌスの槍”の劣化複製を持って壱とする」
箱が突かれる。悲鳴が響く。
続いての弐の箱から大剣をもった青銅鎧が現れる。
「約束の剣、“グラム”の劣化複製を持って弐とする」
突き刺す。悲鳴。
参の箱から壱の時とはデザインの違う槍を持った青銅鎧が出現する。
「求める者、“グングニル”の劣化複製を持って参とする」
四の箱から細身の剣を持った青銅鎧が出現する。
「聖なる剣、“ブルドガング”をもって四とする」
全ての武器が突き刺され、ジークフリートは静かに獲物が入った箱を見る。
零と記された箱。
静かに歩み寄り、箱の前で止まる。
ジークフリートの右手に蒼く光を放つ石がはまった剣が出現する。
「救いの剣、“バルムンク”の劣化複製を持って零とする」
ジークフリートはそう呟きながら剣を頭上に振り上げ、箱に向かって振り下ろした。
箱は、二つに裂け、剣は何かを切り裂いた。


36 :多樹 :2008/07/31(木) 12:20:10 ID:m3kntDV4

3・バルムンク

 風が強く吹き、ジークフリートの黒衣が揺れる。
「・・・・・いいいのか?そんな不用意に力を使って」
彼の背後には、黒い影が渦を巻いており、それが次第に形を作っていく。
「退魔士のことかい?ここの守護者が必死になって交渉してるよ。それに、それだけ禁止クラスの魔術を連発しといてそれはないだろ?」
作り上げられたのは、白髪の少年。両目の色は赤。
「・・・・あの猫はどうした?」
魔王は背後の悪魔に視線を向けながら問い掛ける。
その目に暖かみは無く、支配者としての目だった。
「さぁね。どっかふらふらしてるよ。これだけ濃い魔力がある人界なんてありえないからね。身体がついていけないんだろ」
「・・・・・そうだな。これだけの魔力が満ちていながらもこの街が崩壊していないのはここが神の恩恵を受けすぎている地だからか」
「だろうね。それよりいいのかい?あんたは確かあの子と契約をしてたんだろ?殺しちゃったら契約違反だろ?」
そうつぶやいた悪魔、ロキは楽しそうに笑う。悪魔はやはり他人の不幸を喜ぶ性質なのだろう。
「・・・・まったく。お前がオリジナルを返さないからちょっと本気になってしまったではないか」
そういってロキのほうへ歩み寄り、ジークフリートはロキの目の前に持っていた剣を突きたて、自身はその横を通りぬける。
ロキは目の前に突きたてられた剣を見て、納得すると同時に少し嫌そうな顔をした。
「なんだ。せっかくまたあんたを地獄の最下層に閉じ込められるかと思ったのにな」
「・・まぁそういうな。それと“けいたいでんわ”とやらを借りるぞ」
ロキからスッた携帯電話でジークフリートは電話をかけながらそう言った。
「ア!いつの間に!?」
「もしもし?D病院ですか?救急車を一台。場所は――――」
ジークフリートは電話をかけ終えると、それを投げてロキに返す。
「んで?あんたはどうすんだい?」
ロキの言葉にジークフリートは柵の上に立ちながらその両手をコートのポケットに突っ込む。
「主を切りつけたんだ、しばらく頭でも冷やすことにするよ」
そういって目をつぶり、静かに後ろに体重をかける。
彼の身体はふわりと空中に投げ出され、そのままはるか下に存在する森の中へと消えていった。


残されたロキは柵に寄りかかって自分が“いただいた”剣、バルムンクの効果を思い出す。
―実際に刀としては切れ味は悪く、さほど重くないため実践武器としては向かない剣。だが、魔界では最強の一本として数えられる代物。
その理由は、如何なる物も切り裂けぬ代わりに如何なるモノも切り裂く力があるからだ。
つまり、バルムンクは、実体無き存在を切ることが出来る。
他人の縁も、体力も、精神力も、魔力も。
ただその欠点として、剣同士のぶつかりあいには向かないことと、扱いには気をつけないと、関係の無いモノまで斬ってしまう可能性がある事―
恐らく、ジークフリートが切ったものは、彼女の中にあった魔力。
本当ならば呪いそのものも斬りたかったのだろうが、劣化複製ではそこまでは望めない。それに、オリジナルでも切らなかっただろう。
呪いがあまりにも彼女の命の近くにありすぎる故に呪いといっしょに彼女の命まで切ってしまうかもしれないからだ。
「まったく。あの意地っ張りが・・・。劣化複製じゃ難しかっただろうに。よくできたな・・・・」
そして、もう一つ・・。

―救いの剣は、契約ですらも切り裂くことが可能である―






      チャリンと音がして、
          少女の指から銀色の指輪が地面に落ちた。


37 :多樹 :2008/08/06(水) 22:36:10 ID:nmz3o4se

終話・再開の呪文、エピローグ・

 並木丘と名をつけられた崖がある。・・・いや、丘がある。
その下には天幕の森に囲まれており、山道以外は立ち入り禁止となっている部分が多い。
その立ち入り禁止の区域の一箇所にて、人界とは完全に逸脱した空間が存在していた。
その奥に在する巨大な大木の根元にて、彼は呟く。
「何用だ?人間」
濃すぎる魔力の中で、彼女は薄く微笑み人ならざる言葉を口にする。
それは、呪文。
同時に彼と彼女の足元に巨大な魔方陣が出現する。
そして彼女は叫んだ。契約の言葉を。
「―――――!」
足元の魔方陣が強く光り、大量の煙となって消える。
煙の中に立つのは彼と彼女の影のみ。
彼女は言う。
「こんにちは。私は鈴城 凛。あなたを呼び出した魔女です」
「・・・・凛・・・だな。俺に名はない。昔、閻魔大王になるべき男に名を剥奪され、次に得た名は自ら手放した」
そう呟く彼に、彼女は微笑みいう。
「そうですか。ならば私がもう一度名を与えます。貴方の名はジークフリート」
一息。
「私を救ってくれた英雄の名です」
その空間の魔力の濃度が一気に薄くなり、彼女の右手の中指に銀のリングが構成される。
そして、魔王は微笑む。

「再契約は意外と重い罪なんだが?」
「そんなこと、知りません。お帰りなさい、ジークフリート」
泣きながら微笑む魔女と、それを苦笑しながら抱きしめる使い魔。


             *

教室の中にて、一人の少女が消しゴムを指ではじく。
はじかれた消しゴムは机から投げ出され、床に落ちる前に少女の手の中に戻ってくる。
―トキ様、また魔力の無駄遣いを!―
『うるさい・・。あんたはさっさとグラムと宝庫の魔女を探しなさい』
「よし、じゃぁ今日は席替えだからなー。昨日引いたくじの位置にいけー」
担任の男が黒板の前でそういった。
黒板には大きく自習の二文字が。
トキの位置は変わらずに同じ場所。
その彼女の横に、一人の少女が席ごと移動してくる。小柄な少女だ。ショートの黒髪。
「あ、私鈴城 凛です。よろしくお願いします」
「黒神 トキ・・です」
彼女たちは互いに気づかない。
互いの同じ指に同じ銀のリングがはまっていることを。
「あの・・・・」
声がして二人が振り向くと、トキの後ろに長い灰色の髪の少女が立っていた。
「若林・・・・・唯(わかばやし ゆい)・・・です。よろしく・・・お願い・・・します」
「よろしく、若林さん」
「・・・・・」
二人の魔女は気づかない。だが、銀のリングの中で主のことを考えていた使い魔はきづいた。
若林 ユイの手に、銀色の指輪がはまっていることに。
そして、その指輪から同族のにおいがすることに。
だがそれでも、二人の魔王は何もいわない。
これ以上は、主を危険な目にあわせないために。
それでも、二人の魔王は主にも聞こえぬように心の中で勝手に思う。
(この女性・・・)
(魔女の気配が・・・・?)
魔女の気配がない契約の輪をはめた少女は微笑み、エーテルリオンにかかった少女はニコニコと笑い、天刻をかけられた少女は無表情に、それでもわずかに笑い。



魔女の物語はこうして終わり、次なる物語にバトンを託す。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.