〜◆太陽と月の息子◆レイオンの物語〜


1 :れむむ :2007/04/29(日) 00:25:59 ID:PmQHsJm3

        金は太陽  銀は月
       
        二つの力 併せ持つ物

        ここに 集え

        さすれば 汝の求める解

        太陽と月の守護者によって

        見つからん・・・


2 :れむむ :2007/04/29(日) 22:14:51 ID:PmQHsJm3

序章◆

少年が、空を仰いで佇んでいた。
それは、真っ暗の闇の中、か細い三日月が照らしている、切だった崖の上であった。

「やるつもりかい?シベリア」

少年のすぐ傍で、落ち着いた男の声が木霊した。
その少年はその声を聞くと、ふっと笑い、そして軽く頷いた。白銀の髪が月明かりを受けて、光り輝いている。
「あの伝説をはなっから本気にするのはどうかと思うぞ」男の声は、少年を説得するように、落ち着きを放って言い張っている。だが、少年は、もうやると決めた、あるいはもうやらなくてはいけない、と言うような顔つきで、地まで届く様な長いローブの端から、エメラルド色に輝く杖を取り出した。先端に虹色に輝くクリスタルが付いていて、その輝きは、まるでオーロラのように周りの草木に不規則な色を付けた。
「もう・・・やる事にした。お前が言ってもな・・・」少年は呟いた。
すでに、迷いは、無い。

そして、少年はその杖を高々を挙げ、そして吼えるように言葉を発した。
「偉大なる月の守護者よ!源なる暗闇に法り、今ここに我の望を叫ばん!太陽と月の力を併せ持つ者、大いなる天空神の命により、呼びかけん!」

時計の針がカチリと音を鳴らすまでの間、時が止まったように思えた。が、次の瞬間――
嵐が巻き起こった。少年を中心に、その一体だけに風が巻き起こる。爆発のようないきなりの風に、雑草が宙を舞い、木々の葉が全て空中にへと千切られる。地面の巨大な石ころも、耐え切れずに転がっていく。なのに少年はまったく平気な顔をし、杖を空中に突き上げて、良く透る声で呪文を唱える。強風で何も聞こえないのに、少年の声だけが辺りに響き渡った。
「太陽の賢者ペレィナス、月の賢者エレシェン!二つの力、凝固せよ!」
朗々と呪文を問い終わると、突然空が明るくなった。一部分を覗いては。
なんと三日月だった月が、満ちていた。しかも、半分は・・・あれは・・・
太陽だ。あの眩しい輝き。まさに太陽。半分が太陽、半分が月。見事に組み合わさっている。ジグソーパズルのように。少年の影が伸びる。蒼い瞳が照らされる。
しかし、刻一刻と時間が過ぎてくると、それは段々と元の形へと戻っていった。太陽の一部が欠ける。半分だった月も、溶けていく。欠けていく。縮小されていく。
そして・・・。もとのか細い三日月に戻った。辺りは再び深遠の闇。
いつの間にか嵐も過ぎ、あれだけ生き物のように暴れまわっていた雑草も木の葉も、まるで死んでしまったかのように、その場で倒れ伏せている。隙間から乱れた土が覗いている。
少年は、まだ崖の淵に佇んでいる。下から吹き付けてくる自然の風に、整ったローブが翻って揺れた。


暗闇の支配が強い、ある夜の出来事だった。


3 :れむむ :2007/05/03(木) 23:07:27 ID:PmQHsJm3




チリン。




「なあに?まだここにいたの?」

「ねぇ、お母さん」

「ん?」

「なんでボク、こんな眼を持って生まれてきちゃったのかな?」

「・・・どうしたの?また何か言われたの?」

「ううん。違うんだ。これは・・・言われたことは嫌な言葉じゃないはずなのに・・・」

「・・・言ってごらん?」

「・・・『神様に選ばれた仔』って・・・」

「そう・・・。そういうことを・・・。でも、あなたは気にしなくっていいのよ?」

「分かってるよ。分かってるけど・・・!でも・・・」

「・・・お母さんは、あなたの眼好きよ?」

「え?嘘だよ・・・。こんな、かたっぽが金色で、かたっぽが銀色の眼だなんて・・・」

「そんなことない。お母さんはとっても気に入ってるわ。・・・いいえ、眼だけじゃなくて、あなた自身も大好きよ・・・」

「お母さん・・・」

「だから、この鈴をもってなさい」

「綺麗だね・・・。金色と銀色の鈴」

「これはね。どんな事を言われても、あなたがあなたでありますようにって、お守りなの」

「あはは・・・。ボクは・・・どんな事言われてもボクなんだよ・・・?」

「そうよ・・・。こらこら。男の子が泣くんじゃない」

「えへへ・・・だって嬉しくて・・・。ありがとう。お母さん」

「さ、もう寝なさい」

「うん。おやすみ。お母さん」




チリン  チリリン。



それは、ほんの一瞬で、ほんの小さな、ほんの儚い、月夜の夜の思い出だった。


4 :れむむ :2007/05/04(金) 22:54:35 ID:PmQHsJm3

第一章◆ この場所とあの場所に

ここは、ネスキルヴァ王国の隅の隅の村、リンヴェータ。
見るところ普通の村だが、見渡す限り、猫しかいない。ブチ猫、白猫、三毛猫と・・・。どの世界にも存在する一般的な猫たちが村々を歩いているが、人間はなぜか見当らない。というか、この世界には、人間なんてものは創られてなかった。ネスキルヴァ王国は、神々によって創られた、動物たちだけが住む世界だった。
その動物たちは種族ごとに住み家を変えていて、狼、鳥、兎、狐、猫と、これらの動物が暮らす、5つの村から王国は成り立っていた。そしてここは、その5つの村の一つ、猫の住む村。昼寝をする者、追いかけっこをする者、魚を食べる者。本当に自由と言う言葉が似合う村だ。何処も彼処も平和に満ちている。
と、そのとある一角に、一匹の黒猫が座っていた。その子猫は、丈が身長と同じくらい長い青草に紛れて、すぐ下を流れる小河を、眩しそうに見つめていた。そして、その小河を見つめる2つの眼は、なんと別々の色をしている。右眼が金で、左眼が銀だ。真っ黒の身体に良く映えて光り輝いている。
その子猫は、はぁ、と下を向いたまま溜め息をついた。
「ボクはなんでここにいるのかな・・・」
呟くと、右眼から雫が落ちた。河はその雫を受け止めて、さらさらと流れた。
くるりと背を向けて、子猫は茂みへと消えていった。首から下げた鈴が、姿が見えなくなった後でも、高く鳴っていた。
子猫の名はレイオン。男の子で、人間年齢は13歳。まだまだ幼い。しかし、いつも何か悲しい瞳をしているような子猫だった。その原因は紛れもなく、太陽と月の色をした眼だった。
「ねえねえ、見て!」ブチ猫が、通り過ぎるレイオンを見て耳打ちをした。
「どうしたの?・・・て、きゃぁ!」相手の猫も、レイオンを見て驚く。
レイオンは他の猫に出会うと、必ずこういった反応をされるのだった。『神様に選ばれた仔』・・・と。この村でレイオンの名を知らない者はほとんどいなかった。
レイオンは、そんなふうにバカ騒ぎする猫たちには目もくれず、素早く走ってその場を離れた。もう、騒がれるのには、いい加減慣れてしまっていた。
レイオンは、とにかくこの眼が嫌で嫌で仕方なかった。近づいてくる猫たちも、レイオンの瞳が珍しくてよってくる者ばかりで、自分自身には興味がないんだってことは、早くから気付いていた。なので、レイオンには、本当に心を開ける友達はいなかった。独りぼっちの子猫なのだ。
前は、大好きなお母さんもいたのだが、病気で亡くなり、兄弟もいない。家族は一人もいなかった。ずっと独りで暮らしてきたといっても過言ではないだろう。
レイオンは、村の南にある、小さな森へと入っていった。青々とした葉が、枝に均等な長さを保って付いている。さわさわとそよ風が吹くと、喜ぶように木々は揺れて、たくさんの陽光が地面に落ちた。その暖かさに、今度は地面に生えている花まで喜んでいるようだ。
そして、その森の中心に生えている、巨大な大木の傍へ寄っていった。一歩進んでいくごとに、地面に落ちた枯れ葉が音を立てた。この大木は、何百年もこの森を見守ってきた。太陽と月が世界を見守るように――。
その大木の根元には、十字を象った、白い石が立っていて、細い(つる)が所々に巻き付いている。真ん中には、何か文字が刻まれているが、掠れて読めない。
レイオンは、その石の前に座った。落ちてた小枝がパキっと音を立てる。
「・・・お母さん・・・。今でも大事にしてるよ・・・。この鈴・・・」
そう言うと、前足の甲で首から紺色の紐で下げている胸元の2つの鈴に軽く触れた。チリ・・・ンと鈴は小さく鳴った。これは、レイオンが一番愛していた、お母さんの墓だった。
そしてこの金と銀の鈴は、お母さんから貰った、唯一の形見だった。あなたらしくあるように・・・と願いを籠められた。しかし、そんなお母さんの願いも空しく、レイオンは歪んでしまったのだが。本人はそれに気付いてはいない。自分自身のことには気付きにくいものだ。それは人間でも猫でも変わらない。

さわっ・・・と風が森の中を吹き抜けた。それは本当に心地よい風だったが、レイオンの鉛のように重くなった心の中までは届かない。だが―――

   『見つけた・・・』

風に乗って聞こえた声には、レイオンはピクリとした。何処から聞こえてるんだろう。森の中で反響してしまって、良く分からない。男の声なのか、女の声なのかも分からない。第一、この森に用がある人なんて・・・。レイオンは顔を上げた。
と、すぐ後ろで、カサっと枯れ葉を踏む音が聞こえた。レイオンは俊敏に、立ち上がって向きを変えた。だが、そこにあったのは、舞い散る枯れ葉だけだった。
『あなたにきてほしい・・・』
また声が聞こえた。森の中に響く。そして、後ろから何かの気配。レイオンは、鞭のように身体をしならせながら、素早く後ろを振り仰いだ。そこにいたのは――
陽のような、真っ白の猫だった。木々からこぼれ落ちる光に当たって、背中が光るように眩しい。レイオンよりひと回りほど身体が大きく、眼が紅い。
その猫は、小さく口を開いた。
『あなたを探していた・・・。一緒に来てほしい・・・』
レイオンは慎重に間を取りながら尋ねた。「君は誰?なんの用があるの?」
その猫は長い尾を、ゆっくりと優雅に振りながら答えた。
『・・・我は陽月(ヨウヅキ)・・・。シルクヴェールズからの使者・・・。ずっと探していた・・・。太陽と月の力を併せ持つ者を・・・』
「へ?太陽と月の力・・・?」
ボクは・・・そんなもの・・・持ってない・・・。
レイオンは力無く言った。だが、相手は表情一つ変えずに言う。
『だから・・・連れて行く。こちらの世界に・・・』
「へ?」
それを言ったとたん、その猫は細い四肢で、強靭に地面を蹴ると、レイオンに襲い掛かった。
レイオンは頭で考えるより素早く跳び離れたが、一足遅く、白猫に攻撃されて仰向けにひっくり返り、そのまま地面を1mほど滑った。頭が木にぶつかり、そのまま視界がぼやけていく。
暗転する視界に、最後に目に入ったのは、レイオンの身体を包んだ巨大なウロコがはえた翼と、綺麗に筋が付いている、一本の額の角だった。さっきの白猫は、巨大な白竜(ホワイトドラゴン)へと、姿形を変えていた。
そして、レイオンの意識は、そこで闇に呑まれた・・・。


5 :れむむ :2007/05/18(金) 22:52:01 ID:PmQHsJm3

「いたぞ!!ここだ!!」
街中の路地で、甲冑を身に着けた兵士が叫んだ。
声を聞きつけ、町の中を散策していた他の兵士も駆けつける。
彼らの視線の先にいるのは、白銀の髪に、蒼い瞳をした少年だった。シベリアだ。
「もう逃げ道はないぞ」
先ほどの兵士が言う。確かにシベリアの後ろは、レンガ造りの壁になっていて、前には兵士たちが固まっている。シベリアは睨みぎみに、前方の30人ぐらいの兵士を眺めた。
「・・・少ないな(・・・・)
「何!?」
シベリアがふと漏らした言葉を聞いて、兵士の一人が一歩踏み出した。金具がカチャリと音を立てた。
シベリアは相変わらず睨みながら、少し笑った。
「あんたたちのボス(リーダー)は、元気にしてるか?」
兵士が、冑のしたで、目を光らせた。
「我等の首領を侮辱するのは許さんぞ。長く苦しんで死にたくなかったら、早くその杖を渡せ」
右手の杖を指され、シベリアはやれやれ、と言わんばかりに溜め息をついた。
「話の分からない人たちだなぁ。大体侮辱なんてしてないさ。聞いてみただけだろ?そんなふうに教育した人も、相当頭が回らない奴なんだろうなぁ。可哀そうに」
「キサマ!!これ以上侮辱したら・・・」
シベリアはニヤっと笑った。「侮辱してやろうか?」
先頭の兵士が額に青筋を露にして声を張り上げた。「()れ――――――!!」
兵士たちが飛び掛るようにしてシベリアへと殺到する。槍を突き出し、心臓や頭を狙う。
「どりゃあぁあぁぁああぁ!!」
シベリアは素早く右手に持っていた杖を頭上へと掲げ、何かを口の中で小さく呟いた。
そして一瞬にして、目の前の兵士は生き絶えた。胴体が倒れた。鈍い音がした。切断された首が、後から雨あられと降って、レンガ通りの道々を赤黒く染め始めた。
「な・・・なにを・・・」
この軍隊のリーダーらしい、最後に生き残った兵士は驚きと恐怖の入り混じった目を泳がせて、何とかそれだけを言った。
「まあ、風の刃、かな。簡単に説明したら。あ、聞いてるのそっちじゃ無い?」
シベリアは、兵士に向って一歩踏み出す。兵士は一歩後退して、死体に(つまず)いてその上に倒れた。そして口をパクパクさせたあげく、震える声で
「ま、待て。お前は人間だろ!?話せば分かるさ。話し合おうぜ!?」
と問いかけた。シベリアは兵士を見下ろし、杖を喉元に突きつけて低い声で尋ねた。
「オレはお前と話し合うつもりも、馴れ合うつもりも無い。もういちど聞くが、お前等のボスは元気か?」
オレは気が長い方じゃないのでな、と続けて吐き出すと、兵士はカタカタと震えながら、
「あ、ああ・・・。レニギア様は・・・お元気だ・・・。それが・・・どうした・・・?」
と言った。レニギアと聞くと、シベリアの目が少し陰鬱になったが、すぐに戻り、そうか。と呟いた。
「情報どうも。分かったよ。じゃぁ・・・」 シベリアは杖を胸の位置まで下ろし、ぴたりと心臓を狙った。
「悪いが、先に宣戦布告をしてきたのはそっちなんでね」
「え?」

グサリ。

刃に変形した杖を無理矢理抜き取ると、兵士は鮮血を溢れさせながら元からあった死体の上へと重なって倒れた。金具の音が重く、一度だけ響いた。
シベリアは、杖に付いた血をさっとはらうと、哀れみを込めた瞳で、生き絶えた兵士たちを見た。周りは血の海と化している。
「哀れな犠牲者・・・。こんなこと、好きでやっていたわけでは無いはずなのに・・・。最近ヤケに活発になってきたな」
そして杖を上から下へと動かすと、死体は一瞬にして砂へと返った。その中の少しは、風に吹かれて何処かへ飛んでいった。血の海も無くなっていた。レンガの隙間には、小さな花が咲きほこった。

そして、ふと空を見上げた。誰にも聞こえない声を、シベリアは聞き入った。
「・・・やっぱり伝説は・・・。存在していたのか・・・」
魔道の杖を、固く握りしめた。
「太陽と月の力を持つ者が・・・ここに来る」


6 :れむむ :2007/05/26(土) 22:15:35 ID:PmQHsJm3

「う〜ん・・・」
レイオンは、何も無い平原の真ん中で目を覚ました。
小さな頭をブルブル振って立ち上がる。
「・・・ここは・・・?」
足には柔らかい土の感触。散発的に吹く風。辺りを見回しても、岩と草ばかりだ。道なんてものは無い。
「どうなったんだっけ・・・?・・・ ・・・


7 :れむむ :2007/05/26(土) 23:06:06 ID:PmQHsJm3

うわ!!すみません!!ボケっとしていたら、手が滑ってミスって書き込んでしまいました!!
御免なさい!!気をつけます!!↑の続きから行きます!!


「どうなったんだっけ・・・?・・・」
まだボンヤリした頭で考えると、少し前に起こった出来事が脳裏を駆け巡った。陽月にいきなり来てほしいとか言われ、そして体当たりされて気を失った事。気絶するほんの少しの合間に見た、白いドラゴンの事など・・・。
「どうしよう・・・。こんな所で・・・。」
レイオンは今にも泣きそうな表情で、その場に座り込んだ。
「・・・お母さん・・・」
レイオンは鈴を触って祈った。と、何かが身体の中でドクンとざわめいた。レイオンは両目を見開いて、身体を丸めた。「うぅ・・・」
苦しそうに唸る。心臓の鼓動が早くなる。
が、急に始まったものは急に終るのもので、次の瞬間には、レイオンの身体の変化は終った。血がざわめくような感じも無くなった。が、レイオンは何かを察した。顔を上げ、目の前の景色を見つめる。無論、そこの空間には雑草と岩以外何も無いのだが。だがレイオンはその先に何かの気配を感じた。
「ここを・・・真っ直ぐ・・・?」
レイオンは何かにとりつかれたように呟くと、すぐに立ち上がり、青草を散らして駆けて行った。
脳にいきなり浮かんだこの感に逆らおうとは思わなかった。何故だか分からないが、この感に慕っていけば大丈夫だとレイオンは自覚した。どこからそんな理屈が出てくるのかは分からないが、それでもレイオンは従った。歩き続ける。
そしてとうとう、レイオンは罅割れこそしてるものの、ちゃんとした道を見つけた。これを辿っていけば、何かしら村や町に着けるだろう。
「道だ・・・」
息を切らしながら小さく言った。そしてその道を慎重に辿って行った時、
「・・・・・」
レイオンはピタリと止まった。何故なら、その道には・・・
「この巨大な足跡は・・・何?」
そう。巨大な足跡が付いていたのだ。猫にとってはだが。多分泥濘(ぬかるみ)か何かに嵌って付いたものだろう。泥だった。その足跡は、二つに分かれたような形をしていて、前側が半円を上へと伸ばしたような形で、後ろ側は綺麗な半円型だった。
「こんなおっきな生き物が居るわけないし・・・」
遺跡かな?とレイオンは小首を傾げた。でも居るのだ。こんな大きな生物が。
レイオンはその後は遺跡だと勝手に決めつけ、道を辿って行った。

「・・・」
レイオンは目の前の光景に絶句する。何故なら、辿り着いた目の前の町は、彼の身体の何十倍もあったからだ。そしてそれだけでも充分驚くのに、さらにレイオンの想像を上回る光景は・・・。
「・・・なんなの?この生き物・・・」
広い道端を、賑やかに行き交う生き物は、二本足で歩いて、レイオンより遥かに大きい。そう、この生物は・・・
紛れも無い、人間だった。


8 :れむむ :2007/07/22(日) 23:24:46 ID:PmQHsJm3

レイオンが恐怖と驚きでその場に立ち尽くしていると、なにやら町の中が騒がしくなってきた。多くの人間が立ったり、座ったり、走ったり、叫んだりを繰り返しているのでレイオンは危うく蹴られそうになった。なので近くの樽の陰に身を潜め、そこから様子を窺った。
町民達はざわざわと落ち着き無く、人と人とで向かい合い、心配そうな口振りで会話していた。
「女王様が亡くなったそうだよ」
「亡くなったって・・・女王様はまだ40代だったんだろ?なぜそんなに早く・・・」
「それが持病が悪化して昏睡状態のまま・・・」
「これからどうなるんだい?」
「娘が後を継ぐらしいなぁ」
「ちょっ・・・娘ってまだ20歳位でしょ!?この国守っていけるほどの力はあるの!?」
「でも、それ以外に王の座を継ぐ奴なんていないだろう」
「だからなにやらこの広場で、その事を告白すんだと」
「ふーん・・・あーあ、この国はどうなっちまうのかしら」
などという会話が途切れ途切れに聞こえてきたが、レイオンは首を傾げてばかりだ。そして
「なんて言ってんだろ・・・」
と一言。そう、レイオンは猫だ。人語なんて知るはずもなく、理解だって出来ない。それ以前に人間を見るのだって初めてなのだ。
だからだた、雰囲気だけでなにが起きたかを感じ取った。
「・・・なにか悲しいことがあったんだな・・・」
レイオンが直感したその時
「来たぞ―――――!!」
一人の中年男性が叫んだ。場の空気が静まり返るのと同時にざわざわとしたような不安そうな声が少し漏れてきた。レイオンは樽の上へと身軽に飛び乗り、そこから積みあがった麦袋などの荷物の上へ。そして近くの家の屋根へ飛び乗った。木の板が組み合わさって出来ている屋根の縁から下を覗くと、向こうから馬車が軽快な足取りで歩いてきているのが分かった。近づくにつれ、それがどんなに綺麗に装飾されていて、見るように高級なのかがよく分かった。レイオンは「うわぁ、綺麗な箱」と驚きを隠せない。
やがて馬車が広場に到着し、町人達の声は更に高まった。そのざわざわの中で、馬車の扉が音も無く開いて、ドレスを身にまとった少女が地面に付かないよう軽くつまみながら現れた。そしてその顔をスっと上げた。

その顔はまるで天使のようだった。白い顔に整った顔立ち。そして先の方だけ軽くウェーブがかかった金髪。頬は薄く赤色が滲んでいて、その肌に着込んでいる真っ白のドレスが清潔な雰囲気を醸し出していた。それと何処までも透き通るような紫の瞳が特徴的で、何処か憂いを帯びているようにも見えた。この国の姫だ。
「うわぁ・・・。ここの変な生き物達の中でダントツに綺麗だ・・・」
レイオンもほう、と呟く。
その少女は目の前の人達を静かな眼差しで見つめると、(わたくし)は前の王女の娘、リィナと告げ、母が亡くなった事、その座を継ぐことなどを凛とした声で語り、その間町人達は無言で、よく見ると少々苦い顔をしながら聞いていた。
レイオンはその声に聞き惚れていた。内容はやはり分からなかったが、綺麗な声だな・・・とは思った。そしてもう少し近くへ・・・と思い立ち上がり、歩き出した。瞬間、屋根は本当に急だったのだ。レイオンはすっかりそれを忘れていた。バランスが後ろへ崩れ、まず前足が離れ、その後から後ろ足が。背中から落ちていく。驚きで声も出ない。重力に引かれ、地面が近づく。

―死んじゃう!!
そして・・・視界が消えた。


9 :れむむ :2007/09/23(日) 02:14:15 ID:PmQHsJm3

レイオンは何も見えなくなった、視界を見渡した。
そして何も見えなくなった視界を見て、自分は死んだと思った。
しかし実際は違ったのだ。
何も見えなくなったのではなく、ただ、周りが真っ暗になっただけだった。
レイオンはその事に気付く。

「ココは・・・・・・・・・?」

喋ってる間にもレイオンの身体は、下へ下へと落下していく。
鈴が激しく揺れているが、その音は一切しない。まるで無重力世界のような、まったく音の無い空間だった。

っと、突然前方に何かが見えはじめた。暗黒の暗闇から滲み出るように、モノクロの何かが、真ん中からじわじわと広がって彼の目に映る。
それは映像だった。
その映像には、モノクロで実際の色は分からないが、白い髪にグレーの瞳の少年が草原を駆けていく。おそらく10歳位だろう。
落ちながら見るには、これが精一杯だった。顎を限界まで引いて、重心が頭から腰に移りくるっと反転し、バランスが崩れた。「ひゃ」と短い悲鳴を漏らし、映像から視線が外れた瞬間、レイオンは更に驚いた。
周りには沢山の映像が浮かんでいた。偶然視界に入った映像は、さっきの続きであろう、同じ少年が白い花を摘んでいる。そこでレイオンは映像の前を通り過ぎた。
はっとして横に映った次を見る。
少年は、向こうに佇んでる眼鏡をかけた男性の所へと走ってく。そして少年は手に持った花を笑顔で差し出す。男性はその花を受け取ってありがとう・・・と言ったのだろうか。口が少し動いた。少年はにっと笑い、男性はその頭を優しく撫でてやる。兄弟・・・だろうか。二人はよく似ていた。白い髪に整った顔つき。ただ、瞳の色が、少年の方は薄いグレーなのに対し、男性の方は濃いめで、黒に近いグレーだった。
その映像も通り過ぎる。いつの間にか周りはモノクロの映像だらけだ。暗闇の中で映像がふっと浮かび、そして端から消えていく。
落下していく中で映像はほんの一瞬しか見れない。右では何回も出てきてる少年が、泥だらけになって家へと入っていく。左では、先ほどの眼鏡をかけた男性が母親らしき人物の手伝いをして、水を汲んでいる。
見ていると心が和みそうな、ごく普通の日常の映像ばかりだ。
だが、キョロキョロと映像を見渡していたレイオンの目に、ある映像が飛び込んできて、はっとなった。
その映像は、家が燃えていた。一軒だけじゃない。向こうの家も、此方側の家も。全て、燃えていた。
そのすぐ隣の画面では、女性が道端で倒れていて、地面には血だまりが出来ていた。
「何・・・?この映像・・・」
そう呟いた瞬間、
身体にビリっとした激痛が走った。
「かっ・・・」
草原の中で起こった痛みとは比べ物にならなかった。全身が熱っぽくなり、骨が折れていくようなメキメキとした感覚で息なんかできなかった。心臓が激しく波打つ。
そして、レイオンは全身の感覚が無くなってくのが分かった。だらりと力が抜け、再び頭から暗闇の中を落ちていく。

その瞬間、横を通り過ぎた最後の映像には、白い髪に、薄いグレーの瞳の少年が、先端に虹色に輝くクリスタルの付いた杖を両手で掲げているのが映っている。その少年の表情は冷たく、憎悪に満ち溢れていた。
その映像も、上空へと流れ、唐突にふっと消えた。


10 :れむむ :2008/01/02(水) 21:16:52 ID:PmQHsJm3

             チリン




「え・・・?なんでこんな所に子供が・・・」
「迷い仔か・・・?いや、この小ささからしてまだ産まれて間もないだろう。捨仔、か・・・。なぁ、お前さん。この仔育ててみたらどうだ?」
「え!?私が・・・ですか?」
「あちこち傷だらけだし、近所にはこんな仔は居ない。多分遠い所から捨てられたんだろう。可哀想に・・・。子供、好きなんだろ?きっと、子供が欲しかったお前さんへの、神様からの贈り物さ」




これは、なんの話なんだろう・・・。いつの記憶だったけ・・・。それとも・・・。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.