無邪気なせかい


1 :紅咲ミキ :2007/03/06(火) 17:55:19 ID:ncPiWkLD

こんにちは。以前お世話になっていた紅咲です。
久しぶりに連載を始めてみようと思います。拙いところも多くあるかと思いますが、どうかお付き合いください。


「新世界」のリメイク 「無邪気なせかい」


2 :紅咲ミキ :2007/03/06(火) 18:33:28 ID:ncPiWkLD



 はっ
 とする。

 ここはどこだろう。

 黒い霧の中。周りは見えない。私の目の前だけが仄かに明るい。
 そこに、二つの扉があった。

  「未来の扉」  「過去の扉」



 私は未来の扉のドアノブを握った。
 ひんやりと冷たい感触。
 一瞬だけ目をつむり、開く。




 ずんと重たい風が吹き抜ける。
 地面にはコンクリート。
 車のエンジンの音が止むことなく鳴り響く。

 「うっ」
 何秒もしないうちに、私はひざまずき口を押さえていた。
 苦しい。
 なんだろう、この世界は。
 まともに呼吸なんてできやしない。苦しい…
 汚れきった空気だった。
 少しの間、目をつむる。手のひらの中で呼吸を整える。そして立ち上がる。

 目を開ける。


 悲鳴が聞こえた。私じゃない、他の誰か。
 それより私は……。 なんだこれ、
 血。
 世界がひっくり返っていた。コンクリートの地面に背中をつけて、私は灰色の空と向かい合っている。
 すぐ隣には乗用車の影。私は轢かれたのか。
「どうして道の真ん中に立っているんだ」
 その車の窓から、一人の歳をとった人間が顔を出した。
 ……

 私に似ている……面影がある。

「早く立ち上がれ、そしてもう死んでしまえ」
 そいつはそう言って、そのまま車を走らせて行ってしまった。
 そんなこと言ったって、私は血を流しているのに。

 何だよ、この世界。


3 :紅咲ミキ :2007/06/19(火) 19:11:20 ID:rcoJtAxk

 目の前が暗くなっていく。
 暗く……?

 いや、深紅に染まっていく。
 血の色。
 死ぬのかな。死んでもいいけど。だって私は、……

 ……

 それにしても、あれは確かに私だった。
 なんて醜悪な人間。
 歳をとって、汚くしぼんでいきやがって。
 くそ、所詮未来なんぞあんなもんか。


 「平和の扉」  「崩壊の扉」

 ああ、また扉がある。
 紅いような、黒いような霧の中で、私は何を求めるだろう。
 
 私は崩壊の扉のドアノブを握った。



  (孤独の超過。
 息の詰まるような孤独。
 それが私のすべて。
 常に誰かの心に触れたいと思った。常に誰かに、この心に触れてほしいと思った。

 だけどもう、なにもない。)


4 :紅咲ミキ :2007/06/19(火) 19:39:54 ID:rcoJtAxk

 
「人間なんぞ踏みつぶしちまえばいいさ」

 なんだろう。
 耳障りな音が鳴っている。

「そうだね。もう無用だし、片っ端からつぶしていこうか」

「何を言ってるんだい。つぶすだとかなんだとか。そんなことしなくたって、直にばたばた死んでくさ。奴らにはもう食い物もなけりゃ、お得意のナントカ主義国家だのナントカ法なんてのも、機能停止して久しいじゃないか」

「……おい、ここにも一匹いるぜ」

 音の主が私の方に近づいてきた。
 まったく普通の、人間たちだ。

「ああ。……ははは……!」

 そのうちの一人が、奇妙な雑音をたてた。

「まったく、笑っちまう。見ろよ、こいつの無様な姿」

「頭の悪い人間だもの。仕方ないさ」

「それにしてもなあ。醜悪だよなあ……ははは」

 奴らは私を指差してざわざわ言っているが、その音があまりにうるさくて神経に障る。
 気分が悪くなる。

「どうする? 誰が殺す?」

「俺はいやだね。こんな汚いのに触れたくもない」

「俺もいやだ」

「俺も」

「俺も」

「俺も」

「まったく怠慢だなあ、おまえたちは。俺たちを生み出してくれた人間に感謝の気持ちはないのか」

「感謝ねえ……じゃあ俺が、感謝の気持ちを込めてやってやるよ」


 奴らの一人が、私の方に一歩大股で近づいた。


5 :紅咲ミキ :2007/10/28(日) 14:18:18 ID:o3teQ3xi

 どばっ

 形容するとこんな感じだろうか…… 突然、私は血を吹き出していた。

 ああ、紅い! なんて紅!


 私は目にも止まらぬ速さで、奴に殴られたのだ。

 いや、これは殴られたというどころではない。 殺されたのだ。

 私は無意識に喚き始めた。

「死ぬ! 人殺し、人殺しめ!! これが未来か! こんなのが……」

 だが、雑音どもは、ただ雑音でしかなかった。ざわざわ ざわ……

 ああ、嘲笑されているのだな。

 私はそう思った。


 ここで私の意識は途絶える。



 再び扉が目の前にある。

 だけど私は、もうそれを開く気にならなかった。これ以上何も求めないことにしたからだ。すなわち、さまようことを放棄したわけだ。


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