発明・ざ・わーるど!ふぇすてぃう゛ぉー!


1 :雨やかん :2006/06/25(日) 11:00:54 ID:n3oJmGtF

こんにちは。旧小説広場から呼ばれもしないのにやってきた自称イケメン作家(爆)の雨やかんです!
前作『発明・ざ・ワールド!』を読まれているかたは、この文はすっ飛ばしちゃってください。つまらないんで。読まれていない方、読んだけどあんな駄作いちいち覚えてねーよ!という方。作者としては

『じゃあ、読め!読み直せ!と言うか、読んでください!お願いします!』

といった感じですが。何はともあれ簡単な人物紹介を。



レイ・キルトハーツ:作者の都合でいきなり異世界に飛ばされた16歳の男子高校生。生粋の日本人で本名は『雨谷 零』。ちょっと変わった両親の影響で16歳のわりに料理やら何やら、家事と呼ばれるもの全てに卓越した技量を見せる。3大スキルというものを所有していて、1に家事、2に医術、そして3は不明・・・一応。現在はヴェロンティエとうレストランの腕利き料理人としてその名を知られている。どんな理由か、この世界においては通常の5倍ほどの筋力が備わっているため、望む望まざるに関わらず、様々なことに首を突っ込むことになる。


キララ・ランクフォード:16歳の勝ち気な女の子で、レイが居候しているヴェロンティエの料理人。本人も料理人としてかなりの技量を持っている。運に恵まれず赤字生活を送っていたが、レイの協力によって現在は町内ナンバー1の実力を誇るレストランへと変貌。それ以来、レイへと仕事仲間以上の好意を抱くようになった。誰もが認める可愛い女性で、ちゃっかり『キララちゃんを見守り隊』という親衛隊なんぞが作られている。最近の悩みは、自分の生活がすっかりレイを中心に回ってることと、自分の都合でレイをここに留まらせていることに負い目を感じ始めたこと。


リリア・キルヴァリー:15歳の女の子。作者が偶然読んだ漫画の影響のためにレイのいる国の王女という身分の持ち主。レイとは、以前に難病にかかった時にそれを治療してもらって以来ずっと仲良くしている。その時にレイが名乗った『ファントム』とういう名を呼んでおり、敢えてレイの正体には近づかないでいるのは、知ってしまえば自分の想いに抑えが効かないということを恐れているからである。気品溢れる優しい美女で、レイに惹かれている自分を自覚している。毎晩、自分の部屋にレイが来るのをお茶の用意をして楽しみに待っている。


マリス・インベルグ:キララの調理学校のとき以来の友人。16歳で大人の魅力溢れるナイスバディーな美女。以前はお城に務めていたが、騎士の1人にストーカーのような仕打ちを受け、レイに助けられた後にヴェロンティエへと転職、キララにレイを巡るライバル宣言をした。と言っても、キララともレイとも仲良くやっていて問題は起こっていない。物静かで落ち着いているが、レイが絡むとちょっと冷静さを失うことがある。


フォルト・ラインクル:やはりキララの友人、15歳の明朗快活に手足をつけたような女の子。学生時代からキララ、マリスとともに仲良くしていたが、レイという存在によってそれが崩れたために一時は少しレイに嫉妬していた。今ではすっかりレイとも仲良くなり、4人一緒にヴェロンティエで働いている。ある意味では一番まともと呼べる存在なのだが、やはりレイへの好意はあるようだ。


ミリア・ランクフォード:その名から分かるとおりキララの母親。一児の母とは思えないほどの美しさを誇り、キララと姉妹に間違われることもあるほど。この世界に迷い込んだレイをヴェロンティエに連れてきた張本人。一応、ヴェロンティエのオーナーという形になっているが実際の経営は全てキララ達に任せきりで、彼女自身は大した仕事はしていない。突然、背後に現れて『あらあらあら』と良いながら会話に参加する。その内容は常にレイ達をからかうことばかり。 しかし時折だが鋭い視線でレイの心の迷いを振り払う助言をするという、強く優しい大人としての一面も併せ持つ。


クロムウェル・キルヴァリー、フィリス・キルヴァリー:リリアの両親で、レイの住む国の国王と王妃。かなりの親ばかのクロムウェル国王。唯一、ファントムの正体がレイであることを知っているフィリス王妃。2人ともリリアのことを愛しているが、その想い故か時々困ったことを言い出すのがリリアの疲れの種でもある。




まあ、こんなところで。
詳しいことは、やっぱり前作を読んでください!完結置き場にポツンとあるんで目を通して頂けたら幸いです!
それでは、雨やかんが創り出す面白いんだかつまんないんだか分からない物語を、どうぞお楽しみ下さい。


2 :雨やかん :2006/06/25(日) 11:07:58 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー1

・・・え?終わりかと思った?うん。俺もスタッフロールが流れ始める頃かなと思ったぐらいだ。けど、まだ終わりませんよ?いや、だって元の世界に帰りたくないわけじゃないし。

「でも、居心地は良すぎるんだよなぁ・・・」

仮面とマントをまとい、塀を跳び越え、段差に足をかけて一気に上に飛び上がる。4階の開かれた窓枠に手をかけて、いつものように窓の中に身を入れると―――

「お待ちしていました、ファントム様。」
「いらっしゃい、ファントム君。」
「・・・さようなら。」
「え、え?ど、どうしてですか?」
「いや、冗談だ・・・ちょっと驚いただけ。」

いや、だって本来よりも1人ほど人数が多かったら誰だってギクリとするよね!?だって、俺って一応だけど不法侵入者には違いないしさ!増えたのが俺のこと知ってる王妃様だから良かったものを、もしも騎士の方とかだったら事態は最悪の方へと向かっちゃうわけだしねっ!

「あ。そう言えば、俺って今日になって知ったんだけど、もうすぐ祭りがあるんだって?確か国王の―――」
「即位10周年記念式典ですね。」
「あの人ったらお祭りが大好きなのよ。まあ、国民の皆さんも楽しんでるからいいのだけど。」
「2人には失礼な話だが、この国ってよく機能してるよな・・・大臣の人達がすごい優秀なのか?」
「お父様はやる時はやるお方ですから。」
「娘の踊りの相手を調べたりとか?」
「・・・まあ、一応。」
「娘の夜の逢い引きの証拠を押さえに来たりとか?」
「母親はいいのよ。」

うわ、すげえ一言だ。
って、ん?そう言えばどうして今夜は王妃様がここにいるんだ?あの時以来、王妃様がリリアと一緒に俺を迎えてくれるのは一度も無かったはずだけど・・・ひょっとして、何かあったのか?

「王妃様。そういえばどうして今夜は?」
「ええ。実はね、ファントム君に頼みたいことがあるのよ。」
「・・・それは王妃として、紋章印を託した相手への命令ですか?」

だとすると俺はこの紋章印を置いて、今日は帰らせてもらうことになるんだが?だって、王妃勅命なんて国家に関わるような任務とかしたくないし。

「いいえ。これは娘と一番親しい友達への、母親としての頼みかしらね。」
「そういうことなら聞きましょう。」
「さっきファントム君が言ったお祭りのことなんだけど―――」

ああ、そう言えばその話から発展してたんだっけ。そのお祭りで何をしろと?まさかまたダンスの相手しに来てくれとかじゃないだろうな?そんなんだったら、今度こそ王様が俺を取り押さえに来るんじゃないか?出来れば王様に会わずに済むような頼みでっ!



「リリアを誘拐して欲しいのよ。」



もう、誰にも会えない頼みが来た!

「リリア、今日は短い間だったけど楽しかったよ。」
「ファントム様!ちょ、ちょっとお待ち下さいっ!」
「いや、無理。待てない。だって誘拐だぞ!しかも王女を!そんな頼みを引き受けたら俺の人生がもう真っ黒に変化するし!」
「誰も本当に誘拐してとは言いませんよ。」

・・・は?

「リリア。やはりあなたの口から直接頼みなさい。」
「え!?」
「大丈夫よ。ファントム君なら引き受けてくれるから。」
「は、はいっ・・・その、ファントム様・・・」
「えっと・・・誘拐って言葉は使わずに説明してくれ。」
「ええと、私・・・その、今までに多くの祭典をお父様がお開きになって下さっていたのですが、そのどれもが王族として高い所から眺めるだけのものだったのです。しかも城の外へ出ることはほとんど叶わず、出ることが出来たとしても式典の一環としてですので自由な行動は全くとれませんでした。」

なるほど。ようやく話が読めてきた。

「つまり、外に出て王女としてでなくリリアとして自由に行動したいんだけど、まさか騎士団の人に友達役を頼めるわけもないし、王様に言っても大事になるだけだろうから、こっそりと内密にとは行けない。」
「はい。ですから、ファントム様がよろしければ・・・その、わ、私を連れ出してほしいのです。」
「こっそりと?」
「はい。」
「それで誘拐ってことか・・・」
「そういうことなのよ。どうかしら?リリアの友人のあなたなら王女なんて肩書きを感じることはないでしょうし。まあ、護衛としてはどうなのか分からないけれど・・・」

えっと・・・あのことは王妃様だけに言っておいた方が良いかな?一応、あれを知られると俺のもう一つの顔をリリアが気付くかもしれんし。
王妃様の近くに行き、耳元で小声で話す。

「この前、追放になった騎士さん覚えてますか?」
「え?あのヴォルフ騎士だったかしら?」
「あれ、倒したの俺です。」
「・・・え?」
「いくつか小道具は使いましたけどね。」
「騎士の一人を、あなたが倒したの・・・?」
「厳密には騎士と衛兵さん達の集団ですけど。まあ素手で戦って負けることはないかと。」
「・・・護衛としても最適みたいね。いっそ、本当にお城に来ない?」
「それは辞退します。」
「残念だわ。あなたならきっと四聖騎士にもなれるかもしれないのに。」
「お母様っ!」

不思議そうな顔をしていたリリアだったが、騎士という言葉にはしっかりと反応したようだ。

「ファントム様を騎士にはさせません!」
「私としてはそれが最良の選択なのだけど、残念だわ。」
「まあまあ。それは今の仕事を辞めさせられたら考えますよ。多分、無いでしょうけど。それに俺もお城つとめは勘弁ですね。」
「じゃあ国王ってことで。」
「お母様っ!?」
「それだけは絶対に嫌ですからっ!」

この人は・・・まだそのネタを引きずってたのか?

「まあ、そういうことなら構わないけどな。ちゃんと王妃様も手伝ってくれるんでしょう?」
「もちろんですよ。」
「それじゃあ―――」
「ただし!俺の方も普段の生活があるしな。祭りは連日であるのか?」
「はい。4日間に渡って続けられることになっています。」
「で、そのうちリリアの予定が空いてるのは?」
「2日目か3日目ならば空いているのですが・・・その辺りはファントム様にお任せ致します。」
「そだな・・・とりあえず、仕事仲間にも聞いてから決めるよ。」
「そうした方が良いでしょうね。」
「後はリリアの変装道具か・・・こいつとおそろいの仮面でも作るか?」
「おそろい・・・ですか?」
「おそろいの格好っていうのは恋人達の行動の一つらしいわよ?」
「深い意味は全く無いですから。」

王妃様って、ミリアさんにどこか似ているかもしれん・・・実は姉妹だったとかそんなオチじゃないだろうな?そう言えば、王妃様自身は元々はただのお城に勤めてた侍女だったってことだし・・・まあ、ミリアさんに比べれば不思議な若さは感じないが。

「どうする?希望があるなら聞くぞ。こういったの作るのは得意なんでな。」
「それでは、出来るだけファントム様とおそろいで。」
「こんな地味なのでいいのか?」
「目立つわけにもいきませんし。それに、仲良さそうに見えるでしょうから。」

このお嬢さんは先ほどのお母様のお話を聞いてなかったのか・・・?
結局、この後しばらくにわたって王妃様から国王候補として誘われ続けたのだが・・・それは思い出したくないので忘れることにする。


3 :雨やかん :2006/06/26(月) 21:31:43 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー2!

「キララ、ちょっと頼みがあるんだけど・・・いいか?」
「え?あたしに?」
「ああ、何て言うか・・・多分、すごくお前が怒り出す頼みだけど。」

あたしが怒ると分かっててそれを頼むとは、どうしてなかなか度胸が付いてきたみたいじゃないの。

「へぇ・・・それじゃ、とりあえず聞きましょうかね。」
「既に怒ってるようで・・・えっと、かなり身勝手な話なんだが・・・今度、国王さんの即位10周年記念式典が4日ほどあるだろ?」
「ええ、それがどうかしたの?」
「・・・2日目か3日目のどちらかだけ、俺を仕事から外して欲しいんだ。」
「何のためにかによるわね。」
「・・・お、女の子と遊びに・・・」
「殴られたいわけ!?」

よりにもよって何よそれは!?たとえ本当だとしても、なおのこと許せるわけ無いでしょうがっ!何が悲しくてレイが他の女の子と楽しく遊んでるのを見過ごさなきゃいけないわけ!?

「いっそ一人で遊ぶとかの方がよっぽど許しやすいわよ!」
「うん。多分、そう言うと思った。」
「だったら今すぐに断って来なさいっ!」
「いや、だから・・・その、そいつさ・・・かなりのお嬢様なんだよ。」

ちょっと待ちなさい・・・?その言い方だと何?まさか、レイったら本当に女の子と約束してるわけ?しかも、お嬢様って言ったかしら?料理店の料理人でも給仕でもなく?しかも、あたしに対して反抗してでもその子と遊びたいってこと?じゃあ何よ、レイの頭の中ではその子の方があたしよりも優先順位が高いってわけ?

「お嬢様の方が、いいわけ・・・?」
「は、はあっ!?ちょ、ちょっと待ってくれ!何か勘違いしてるみたいだから一気に言わせてもらうぞ!?そいつってかなり箱入り娘だから、ほとんど外に出られないんだよ!それで、ちょっとしたことから仲良くなったんだけど、友達って言えるのが俺ぐらいしかいないらしくって!それで、どうしてもそのお祭りに行きたいってことだったから家族の人が俺に頼んだわけだよ、一日だけそいつと遊んでやってくれって!それで、そいつもかなり期待してたみたいだから出来れば叶えてやりたいって思っただけだ!いや、これ本当に!嘘は全くついてないぞ!?」

嘘・・・ね。確かに目を見る限りじゃ嘘はついてないみたいだけど、それにしたってレイが女の子と遊びに行くっていうのが納得いかないんだけど?

「それでも――――」
「頼む、キララ!」
「ちょっ!?や、やめなさいってば!」

あんた、店の中でいきなり大声で頭を下げないでよね!?お客さんが居ない時だからいいようなものをさ!こんなの見つかったらまた嬉し恥ずかしい噂を立てられるわよっ!?

「あいつに見せてやりたいんだよ!この町がどれだけ良い所で、俺が見ている世界がどれだけ楽しい所なのかって!俺に出来ることなら何でもするから!だから1日だけ俺に時間をくれっ!」
「っ・・・うぅ〜・・・」

全く持って、レイは卑怯だと思う。
これでレイの目とかに少しでも下心とかそういったのがあればあたしは一言で突っぱねられるはずだというのに、レイは本当にその子のことを考えている。しかも好きとか愛してるとかそういった感情じゃなく、純粋に友達を助けたいっていう思いだけだなんて・・・そんな目を向けられたら、あたしに断れるわけがないじゃないの!ただでさえ、最近はレイ中心の生活になっちゃってるのに、そんな風に見つめられて折れないほどあたしは強い人間じゃないのよ!

「・・・3日目。」
「え?」
「3日目だけだからね!?その代わり他の日は一杯使ってやるんだからっ!」
「あ・・・っしゃああっ!助かるぜ、キララッ!」
「うわきゃぁっ!?」

ちょっ・・・嬉しいのは分かるけど手をっ!手を急に握るなああっ!?驚くでしょうがっ!いや、嬉しいし実際の所はこのままでもいいかなって思ってるけど!そんな突然にやられて平然としてられないのよあたしはっ!あんた無意識でやってるわけ!?

「そうと決まれば明日からは3日目の分まで働かないとな。」
「う、うぅっ・・・わ、わわわ分かったからっ・・・」
「ん?どうしたんだキララ?」
「は、早くっ・・・い、いや、その・・・」
「ん?」
「あらあらあらあら?」
「うおっ!?」
「うひゃあっ!?」

突然に現れたお母さんにようやくつながっていたあたしとレイの手が離れた。あ、ちょっと残念かも。って、そうじゃないわ!

「久しぶりに驚いてくれましたね2人とも。」
「今回は確かにびっくりでしたね。」
「やっぱり2人の世界に入ってたからかしら?」
「なっ!?」
「激しく否定させて下さい。いや間違ってないかもしれませんが。」
「あらあらあら。レイさん、キララと見つめ合って、なおかつ手を握りあっていた状況では誰でもそう思っちゃいますよ?」
「え・・・ああっ!?」

その驚き方・・・やっぱり無意識だったわけ!?

「まあ、ちゃんと話を最初から聞いてたから大丈夫ですけどね。」
「・・・最初から聞いてたんですか?」
「はい。」
「・・・どこで・・・いや、すいません。どうでもいいですね、そんなこと。」
「そうね・・・聞いても無駄でしょうしね。」
「失礼な言い方ですね・・・そうそう。それよりレイさん、聞きましたよ?」
「は?」
「今、キララのために自分の出来ることなら何でもするとおっしゃいましたよね?」
「・・・えっと・・・」
「お、お母さん・・・?」
「おっしゃいましたよね?」
「き、キララのためにとまでは――――」
「そういうことをおっしゃいましたよね?」
「ぐあ・・・い、言いましたっ・・・」

えっと・・・確かに、言ってたけど・・・何をしてくれるのかしら?頼んだら大抵のことはしてくれそうだもんね。たとえば・・・あたしと―――いや、やっぱ考えるのは止めとくことにしましょう。間違いなく顔が真っ赤になるだろうし。
それでお母さんは何を言おうとしてるわけ?

「では、4日目。つまりは最終日ですけど、その日は午前中で閉めちゃいますから。いいですね、レイさん?」
「いや、俺に許可を求められても・・・」
「稼ぎ時じゃないの。どうしてまた午前中だけなの?」
「どうせ午後にはお客さんはいませんよ。確か最終日の催し物が夜まで続くらしいですから、お客さんはそちらに釘付けでしょうし。」
「はあ。」
「話を元に戻しますけど。レイさん、実はキララもあまりお祭りとかに参加しないんですよ。いつもお店のことばかり考えてくれましたから。」
「それは当然でしょ?」
「けれど、あなたも女の子だってこと忘れてないかしら?」
「・・・お母さんが言いたいことが分からないんだけど――――って、レイ?」

見れば、レイの顔は微妙に引きつっている。笑顔なんだけど・・・どっちかと言うと、もう笑うしかないといった表情だ。諦めの境地に近いかもしれない。

「えっと、ミリアさん・・・言いたいことが予想できる自分がすごい嫌です。」
「まあ、それだけ賢ければ安心ですね。」

お母さんはにっこりと笑って私達の手を掴み、再び握り合わせ―――って、何をするのよ!?


「キララと一緒に、2人だけで最終日に出かけてあげて下さい。」


・・・・はい?


4 :雨やかん :2006/06/28(水) 20:46:48 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー3!


あたしがいるのは自分の部屋だ。
何をしてるかって言うと・・・まあ、生まれて初めて好きな人と2人っきりで出かけたことのある女の子なら分かって貰えると思うんだけど、私の目の前にあるのは洋服箪笥で、床にはすでにいくつかの服が置かれていて・・・早い話が、レイとのお出かけに着ていくための服をかなり真剣に悩んでいるというわけだ。
どうせ行くなら出来るだけ可愛く見られたいし、まあその・・・うまくいけば、ねぇ?

「・・・恋人、かぁ・・・」

正直な話、さすがにそこまで進展ってのは絶対に無理だけど・・・ひょっとしたら距離が少しでも縮まってくれるかもしれないし。そのぐらいの期待はしてもいいわよね?

問題はあたしの前日にレイが誘っているという女の子なんだけど・・・

きっとレイのことだから、本当に友達のことを思ってるんだろうけど・・・けどね!多分、っていうかほぼ間違いなく相手の女の子はそんなこと思ってないわよ!レイってば今さらだけど鈍感みたいだしね・・・まあ、優しいから良いけど。
そんなレイと一緒にいる。レイの話だと初めての友達ってことらしいけど、それはつまり初めての世界に連れ出してくれた異性ってことなのよね・・・しかも、向こうから祭りに行こうって誘ってるあたり、惚れてるんでしょうね・・・きっと。そもそも、こうならなかったらあたしがレイを誘ってたかもしれないし。お母さんには後で何か贈ってあげよう。

それにしても・・・あたしの服って地味なの多かったのね。何というか、これだとレイと並んだ時に微妙な風にならないかしら?だとすると、どうしたら――――

――――コンコン

「キララ、入ってもいいかしら?」
「お母さん?」

控えめな音の後にお母さんが入って―――って、その手に持っているのは何?

「・・・何それ?」
「見て分からない?」

いや、分かるわよ?分かるけど・・・どうしてそんな大量の服を持ってくるのかっていうのが分からないんだけど?

「えっと、どうしたの?」
「キララのことだから、きっと着ていく服が地味なのしかないって悩んでる頃だからお母さんの若い時の服でもあげようかなって思ったのよ。」

毎回毎回のことだけど、この母親は読心術でも使えるんだろうか?今度教えてもらった方がいいかもしれない。

「この服がおすすめなのよ?」
「どうして?」
「お母さんがそれを着てた時に、お父さんから告白されたんだから。」

‘ガタンッ!’

いけないいけない。もう少しで派手に箪笥に顔面から突っ込む所だった・・・って、そうじゃなくって、お父さんから告白された服!?つまりそれは、いわゆる勝負服ってやつじゃないの!?そんな服を着ていけというのかこの母は!?

「あ、ちなみに結婚の告白ね?」

‘ドガッシャン・・・・’

うぅっ・・・激しく痛い・・・勢い余って顔面から突っ込むどころか、そのまま箪笥が横倒しになっちゃったわよ・・・これ、結構な重さがあったと思うんだけど?
いやいや、やっぱり問題はそこじゃなくって!そんな思い出の品を娘に着せようとするんじゃない!いや、だからそうでもなくって!

「お母さんはあたしに何をさせようとしてるのよっ!」
「あらあらあら、決まってるじゃない。ゆ・う・わ・く。」
「そんな一文字ずつ区切って言うんじゃないっ!」
「したくないの?」
「うっ・・・」
「誘惑したくないの?」
「ううっ・・・」
「レイさんを誘惑したくないの?」
「し、したくなんて―――」
「レイさんを誘惑して、二人っきりで甘い雰囲気を作ってみたくなんかしたくないの?」
「そんなこと―――」
「そう。それなら、この服はいいわね?」
「・・・あ・・・」
「どうしたの?」
「え、う・・・そ、そのっ・・・さ、参考には、しようかなって・・・」
「正直でいいわね。それじゃ、いくつかここに置いておくからゆっくり考えてご覧なさい。まあ、レイさんならどんな服を着ても誉めてくれそうだけどね。似合ってる、って。」

そうかしら?・・・・レイに似合ってるって言われたら――――

「キララ。口がだらしなく開いてるわよ?」
「えぇっ!?」
「はいはい。想像して浮かれるのもほどほどにしてね?それじゃ、お母さんは戻るわ。あ、洋服はキララにあげるわね。」
「う、浮かれてなんてないわよっ!」

ううっ・・・見られたくない姿を見られた気がする・・・
でも、レイに似合ってるって言われたら・・・いけない。何か顔がすごいだらしないことになってる気がする。このことを想像するのは止めておいた方がいいわね、きっと。

「はあっ・・・まあ、気合い入れて選ぼうかしらね。」

こうなったら、レイも真っ赤になるぐらいの服で行ってやるんだから。


5 :雨やかん :2006/06/30(金) 21:29:18 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー4!


侍女の方が部屋を出て行き、しばらくしてから静かに窓を開くこと。
たったそれだけのことが、もう私にとってはどんなことにも替えがたいこととなっているのは、やはりこの想いゆえなのでしょう。
そして、この窓を開け放ったまま静かに椅子に腰掛けて目を閉じてその時に想いを馳せる時間の心地よさもまた・・・

‘カツン・・・・’

いつものように窓枠に足をかける音。その音で私は目を開いて、闇の中からするりと現れるこの方を見つけるのです。

「こんばんは、リリア。」
「お待ち致しておりました、ファントム様。」

わずかに見える口元から笑顔になっていることを知り、まとわせている雰囲気から私に会うことを楽しみにして下さっていたことを知ります。それが、何よりも嬉しい。

「早速だけどいい知らせだ。」
「何でしょうか?」
「ああ、休みを取れたよ。3日目だけだけど仕事を休んで良いってさ。だから、その日はリリアと遊びに行けることになったよ。」
「あ―――本当ですか!?」
「嘘付いても仕方ないだろ。何だ?ひょっとして、行けない方が良かったとか?」
「そ、そんなことは決してありませんっ!」
「ハハハッ・・・冗談だよ。」

からかわれたことに気付いて思わず頬が膨らむのが自分でも分かりました。けれども、それは怒っているからではなく、ただ単にそうして見せたかっただけ。
それにしても・・・本当にファントム様と2人きりで出かけられるなんて!かってこれほど嬉しいことがあったでしょうか。どれほど素晴らしい贈りものを頂いた時も、ここまで歓喜にのまれることはありませんでした。

「と、いうわけでだ。リリア、唐突なんだけど教えて欲しいことがあるんだが。」
「はい。ファントム様のご質問なら。」
「そんな大層なものじゃないけど・・・えっと、正直少しだけ恥ずかしいんだが。」
「何でしょうか?」

恥ずかしいとは・・・一体、何をお聞きになられたいのでしょうか?ちょっと私も緊張してまいりました。ファントム様がためらわれる言葉とは?

「あ〜・・・リリアの体について色々と知りたいんだけど。」
「はい、それでは――――」

『リリアの体について色々と知りたいんだけど』

・・・え?

「え、えぇぇえぇえっ!?」
「ぅおっ!?こ、声が大きいって!」

そんなことを気にしてる場合ではありません!かっ、体を知りたい!?
誰が!?ファントム様がですかっ!?
誰のっ!?わ、私のっ!?
何故っ!?それは――――そ、そういうことでしょうかっ!?

だとすればっ、ど、どうしたら!?いえ!別にファントム様とそのようなことに及ぶのが嫌だというわけではないのですが、ちょっと怖いという思いがありまして!け、けれどもファントム様がお望みになられるのならば私も勇気を振り絞って応えたいとも思いますし、やはり、そのっ、殿方と後々のご関係を築くためにも、やはり自分の大切な方と最初であればあるほど後で便利にって、それではファントム様がお城にっ!?お母様の望みも叶うということでしょうかっ!?

「・・・い・・・リア・・・!?・・・っと・・・」

だ、だとすればファントム様も私のことを想って下さっていたということでしょうかっ!?それは、と、とても嬉しいことですが、や、やはり私は王女ですからそれなりの手順を踏んで頂かないと!い、いえ!もしやそういう手順を全て踏み倒すためにこのようなことをっ!?だとすれば私の取るべき行動は――――

「リリアっ!?」
「はっ、はいっ!」
「大丈夫か?何か随分と考え込んでたし、声をかけても気付かなかったけど・・・?」
「え・・・あ、だ、大丈夫です!そ、その!か、覚悟は出来ていますっ!」
「・・・何か激しく気負ってないか?」
「そ、そのようなことは―――ほ、本当は少しだけ、ありますけど・・・け、けど、ファントム様がお望みになるのなら、その・・・い、今までのお礼も兼ねて・・・」
「・・・えっと、ごめん。ちょっと待って。俺の言い方が悪かった。」
「はい?」
「俺が言いたかったのは、リリアの変装のための洋服とか作ったり買ったりしたいから体の大きさを調べたいってことだったんだが・・・」
「・・・え?」
「その、何だ・・・別に、リリアを・・・えっと、抱くとかじゃないぞ?」
「っ――――!」

わ、私ったら何というはしたない勘違いをっ!?

「も、申し訳ありません!」
「だああっ!だから声がでかいって!」
「い、いえっ!そのっ!わ、私が変なはしたないことを考えてしまったせいでっ、ふぁ、ファントム様に不愉快な思いをさせてしまいました!ほ、本当に申し訳ありません!」
「いや、あれは俺の言い方が悪かったんだって!だからその声を抑えて――――」

‘コンコン・・・ガチャリ’


6 :雨やかん :2006/07/01(土) 20:14:14 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー5!


「え!?」
「なっ―――くっ!」

いきなり誰かが部屋に入ってくるなんて!?いけないっ!このままではファントム様のことが見つかってしま――――

「リリア、ファントム君、いるかしら?」

‘ザシャアアアアァァァァ・・・・’

お・・・お母様でしたか・・・良かったです・・・
安堵のせいか私は腰がくずれてしまいました。もっとも、それはファントム様も同じだったようで豪快に床に倒れこんでおられます。

「あら?一体、2人ともどうしたの?」
「お、脅かさないでくださいよ・・・見つかるかと思ったじゃないですかっ・・・」
「お母様・・・声は部屋に入る前にかけて下さい・・・」
「ああ、ごめんなさいね。ただ・・・」
「ただ?」
「扉の外の会話から判断してると、まるでファントム君がリリアの処女を奪いに来たのかと思っちゃって。」

そんな前からおられたんですかっ!?

「しっかり聞かれてた!?」
「お母さんへの報告もまだなのにそういう関係になるのは感心しないわよ?」
「誰もなってませんっ!」
「あら、残念。お父様もお喜びになるのに、跡継ぎが出来たって。」
「誰がなるかっ!」
「まあ、冗談は置いておいて。」

ファントム様は何やら疲れたような顔をされていますが、正直なところ私は少しばかり残念でした。
理由は、まあ・・・ファントム様が私と、その、結ばれることを、否定なされたからなのですが。それは口には出さずに、ファントム様にも言えない秘密として心の中にしまっておきましょう。

「リリアの服のことなら心配ないわよ。」
「え?」
「私はリリアと違って生まれた時から王族ってわけじゃ無かったこと、忘れてるみたいね?」

そう言うと、お母様は持っていた箱の中身を私の寝台の上に次々と出し始めました。
出てきたものは、色とりどりの洋服でした。

「大きさは私がリリアぐらいの時と同じぐらいみたいだものね。きっと問題ないはずよ。」
「ああ、なるほど。」
「お母様の洋服なのに、私が使ってもいいんですか?」
「だって、私が持っていてももう着ることがないもの。それに、着られるような大きさではないでしょうしね。」
「良いんじゃないか?ありがたく借りとけよ。」
「は、はぁ・・・」
「リリアの服って、俺が見てるのは正装だけだからな。こういった服を着てるリリアも見てみたいし。きっと似合うと思うぞ。」
「え―――は、はいっ!」
「それじゃ、どれを着ていくかを選びたいんだけど・・・ファントム君。」
「はい。」
「リリアの着替えでも見たい?」
「勘弁して下さい。」
「よね。というわけで、洋服選びはファントム君がいない時にするとして・・・今日はあなたに忠告があるの。」

忠告・・・?ファントム様に忠告ということでしょうか?
一体、何があったのでしょう?

「以前、陛下があなたのことを探らせていたのを覚えているかしら?」
「ええ。あのリリアがめっちゃ泣いた時ですよね。」
「・・・お恥ずかしい所をお見せしてすいませんでした・・・・」
「冗談だよ。あの時は、むしろリリアを抱きしめられて、むしろ幸運だったかもな。」

そう言われてみれば・・・確かに私はあの時ファントム様の腕の中にいたのですね。
感情が高ぶっていたためあまり思い出せないのが残念です。もし機会があったならば、今度はゆっくりとファントム様の暖かさに浸りたいものです。その、それなりの状況と関係が整った時にでも・・・何か、最近ははしたないことを考える機会が多くなってしまった気がします。『恋煩い』とはまさにこのような状態なのでしょう。

「話を戻すけど、あの時に積極的にあなたを調べていた者達が今度の祭典のときに、城下町で催し物を開くことになったのよ。」
「それがどうかしたのですか?」
「リリア、この仮面に関しては舞踏会の時に既にその人達に知られてるってことだよ。つまり、俺がのこのこと歩いてたら最悪の場合そいつらに見つかって捕まるかもしれないってわけさ。」
「ええっ!?」
「まあ、その催し物が開かれてるところに寄らなきゃいい話だけどな。」
「それがそうもいかないのよ。」
「え?」
「彼らは催し物をして、その間々に周辺警護をする予定だから町中を散策することになるの。」
「・・・ちょっと待って下さい。警護って言いましたよね?しかも今までの話から察すると国王勅命を受け取れるほどの腕の立つ人間が複数ってことですか?」
「その通りよ。」

一体、誰のことを仰っているのでしょうか・・・?
―――警護―――催し物―――勅命―――複数―――彼ら――――っ!?
まさか・・・まさかあの方達ですかっ!?

「リリアは気付いたみたいね。」
「そ、そんな・・・」
「誰だよ?俺、騎士の辺りには疎いから分からないんだけど。」
「し、『四聖騎士』の方々ですかっ!?」
「そう・・・しかも全員が、ね。」
「しせーきし?すごいのか、そいつらは?」
「説明してあげるわね。お城に勤めている衛兵達。その衛兵をまとめる役目を負っているのが騎士になるというのは分かっているわね?」
「ええ、一応。」
「実は、騎士の中でさらに3つの階級があるのよ。一番下の階級が16騎士。逆に最も上が騎士団長なのだけど・・・16騎士の中から、騎士団長と陛下によって選ばれた4人。心・技・体の全てが揃った騎士だけが選ばれる騎士の中の騎士。それが四聖騎士なのよ。実質上、この国の治安を支えているのは彼らでしょうね。仕えるべき主君を守る盾となり、力なき民を守る鎧となり、愛すべき国を守る剣となる。それが四聖騎士の志。」
「・・・すごそうだってのは分かりました。」
「更に言うと、現在の四聖騎士は歴代最強とまで呼ばれているわ。ちなみに、今の騎士団長も元々は四聖騎士の一人よ。」
「将来の騎士団長養成機関も兼ねてるわけか・・・そりゃ、見つかりたくないことこの上ない人達だ。」
「ええ。彼らが巡回する場所は大通りだから気をつけてね。」
「特徴は?」
「彼らは全員、国印の描かれた銀色の外套をまとっているから、それを目印にすればいいはずよ。あれなら目立つから遠くからでも回避できるわ。」
「ふ〜ん・・・分かりました。場合によっては―――以前、頂いた物を使ってもいいですかね?」
「ファントム様。以前、頂いた物とは・・・?」
「紋章印だよ。」

ああ・・・確かにお母様の紋章印さえ使えばその場は回避できるでしょう。しかし、それが示す所は――――

「構わないけど・・・それは、私の部下になるということよ?例えそれがその時、一時のことであっても、紋章印をかざすことはあなたをリリアの友達であることをその間無くしてしまうわ。」
「構いませんよ。だって――――

――――俺とリリアの間にある物はその程度で崩れるほど弱い物じゃない。――――

―――そうだろ、リリア?」
「あ・・・はい、もちろんです!」

先ほど、一瞬だけ感じてしまった焦燥はもはやありませんでした。
そうです・・・たとえ誰がどのように言おうとも、私とファントム様の心の間に割り込むなど出来はしないのですから。
この言い方は、ちょっと恋人達のようで気持ちいいですね。

「やれやれ・・・本当に、あなたがお城にいてくれたらと思うわ。」
「繰り返しますがそれは断固として拒否します。」

お母様の言葉は、私の気持ちを知っている上での言葉だからこそ・・・ちょっと、そこまで否定されてしまうと傷つきますね。
いつか、ファントム様自身の口から『ここにいたい』と言って頂きたい物です。もちろん、ここというのは私の隣という意味で――――

「リリア、顔がだらしないことになってるわよ?」
「ぇ、えっ!?」
「何か考え事か?ちょっと笑ってたけど。」

きっと私の顔は至福の表情、けれどとても変な表情だったかもしれません。よりにもよってファントム様の前でとは・・・恥ずかしいことこの上ありません・・・
ファントム様の前でこのようなことを考えることは二度としないようにしなければいけませんね。


7 :雨やかん :2006/07/02(日) 12:59:02 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー6!


「レエエエエエエエエエエエエエエイ!!」
「貴様という男は!貴様はあああああああああああっ!」
「あの店のため!いいや、この町のためにやられろおおおおおおっ!」
「しつこいんだよお前らはっ!」

久方ぶりの鬼ごっこ。
ちなみに上からヴォンド、ノーリ、ガンムの3人。後、その後ろに親衛隊の面々が多数。小耳に聞いた話によるとこの親衛隊、日々隊員数が増加しているだけでなく最近は会議やら特訓やらを始めて随分と大規模な集団となっているらしい・・・もちろん、こいつらのブラックリストの一番上にはどれも俺の名前が書かれているんだろうが。迷惑なことこの上ないし。
もう一つ聞いた噂、既にこの辺りの男性の半数以上はどれかの親衛隊に属しているとかいうのは嘘だと信じたい。

「大体、俺とあの3人はそんな関係じゃないって言ってるだろうがっ!?」
「貴様がどう思っていようが今さらっ!」
「美女に囲まれているというだけで、もはや男の敵だっ!」
「そして我らが癒しである彼女たちと日々あ〜んなことやこ〜んなことをしている貴様は、もはや人類の敵だあっ!」
「ふざけたこと言ってるんじゃねえええっ!」

とりあえず、走れ!走るんだ俺!店までたどり着けばこいつらも暴れないし馬鹿なことはしない!だってキララ達に迷惑がかかっちゃうしね。
ちなみに、買ってきた材料は親衛隊の1人に渡しておいたから、ちゃんと店に届いているはず。こういう無駄な所で義理堅いのは良いことなんだかどうなんだか・・・
何はともあれ、もうあと少し!ほら、前方左手に店の看板が見えた!後ろのやつらも速度を落とし始めてるし、これで何とか逃げのび――――

「よし、これで――――」

‘ギイィッ・・・・’

「ぬおぁっ!?」
「え?」

って、扉が開いて―――――マリス!?
やばい、ぶつかるっ!?

「っ、りゃあああああああっ!!」

前に加速させようとして踏み出した右足を少しばかり斜めに踏み出す。さらにそのまま左足は前ではなく横に回し蹴りのように後方に振り上げて体を強引に反時計回りに回転させて、自分の体が前のめりになった瞬間に残された右足で地面を思いっきり蹴る!

結果として俺の体は重力を離れ、そりゃあもうこの世界では脚力5倍の俺はまさにフィギュアスケート某金メダリストもびっくりの回転数を空中で叩き出しながら向かいの店の軒先に置いてあった桶と荷車と樽が重ねてあったところに突っ込んだ。

‘ドガッシャアアアアアアアアアン!’

「あ――――れ、レイッ!?」
「やった!レイのやつめ自爆したぞ!」
「馬鹿か!?そんなこと言ってる場合じゃない!今、頭から突っ込んでたぞ!?」
「良い事じゃないのか?」
「たわけめっ!あいつは我らがマリスちゃんを庇ったのだ!ならば普段が敵であろうともその行動は我らの同士っ!」
「なるほど。」
「ちょっと、あなた達どいて!レイ!レイ、大丈夫なのっ!?」

いや、衝撃の方は全く問題ないんだが、右足を少しばかり捻ったかも。正直なところ少しばかりだが痛い。
マリスが慌てて駆け寄ってくる・・・って、顔色がめっちゃ青いな、おい。いや、確かに普通なら大けがだろうから心配もするかもね。けど大丈夫!だって俺ってばこの世界ではほとんど超人だから!

「レイ!しっかり!」
「つつっ・・・お〜、痛ぇ・・・」
「レイ・・・良かった、無事なのね?」
「ああ、ちょっとだけ足首を捻った程度だけどこれなら問題ない・・・ってか、マリスこそ大丈夫か?」
「私は平気よ。あなたがぶつかってないもの。」
「そっか、なら良かっ――――っ!?」

俺の目に見えた物。
無様に倒れてる俺の前にかがみ込んでいるマリス。その頭上に浮かんでいるのは大きな石。おそらくはこの建物の一部を抑えていた物が、俺の激突により落ちてきたのだろうけど―――落ちてきた!?つまり、浮かんで居るんじゃ無くって落ちている真っ最中!?しかもマリスの頭に直撃コースかよっ!?俺ならともかくマリスの頭に当たったら―――

「マリスっ!!」
「えっ、きゃあっ!?」

マリスに飛びつき、押し倒すような形で俺の体の下に追いやる。


‘      ゴチン     ’


痛みの方はともかく、衝撃により振動の方はどうしようもないらしいね。
脳が頭の中で揺さぶられる感覚と共に、俺の意識は闇に落ちていった―――――


8 :雨やかん :2006/07/05(水) 19:57:50 ID:n3oJmGtF

ふぇすてきう゛ぉー7!


さっき店の外で派手な音とマリスの叫び声が聞こえたんだけど・・・何かあったのかしら?
まあ、大方レイと親衛隊とかいう人達の争いにマリスが巻き込まれたってことでしょうけど。いい加減、こういう事になれてきてる自分が怖いわね。

「はぁ・・・もう、店を開けるっていうのに。ねえフォルト、ちょっとレイ達の様子を見てきてくれない?」
「ん?りょ〜かいっ!」

そう言ったフォルトが厨房から出ようとした時だった。

「キララちゃんっ!フォルトちゃんっ!いるかいっ!?」
「わっ!?」
「うわおっ・・・な、何ですか?」

入ってきたのは・・・えっと、確かマリスのところの親衛隊の隊長さんだったかしら?随分と血相を変えて飛び込んで――――


「レイがやばいっ!」

一瞬、言葉の意味が分からなかった。
『レイがやばい』・・・?レイが、危ないってこと・・・?って――――

「レイッ!?」
「レイ君っ!?」

持ってた道具が落ちる事なんて気にしないであたしは外に飛び出した。
そして、それを見た瞬間・・・あたしは固まってしまった。

地面にうつぶせに倒れたままのレイ

その下からはい出てきたらしく背中を汚して、しかし必死にレイを呼び続けるマリス

蒼白な顔で立ちつくしている人達

レイの隣にある、明らかに人間の頭に当たればただじゃすまないような石

最悪の想像が頭の中で組み上がった。
あたしは滑り込むようにレイの隣にひざまずく。

「レイッ!?」
「キララッ!レイがっ!レイがっ!!」
「ちょ、レイ君!?一体・・・一体何があったのよおっ!?」
「レイッ!ちょっと、目を開けなさいよっ!ねえ、レイってばぁっ!?」

揺さぶってみたものの、レイは固く目を閉じて動かない。

「ちょっと・・・ねぇっ・・・レイッ・・・起きてっ・・・起きなさいよおっ!?」
「落ち着きなさい、キララ。」

突然の背後からの声にあたしが振り返れば、そこにはいつもの笑顔を全く浮かべていない、真剣な顔のお母さんがいた。

「お母さんっ!レイがっ!レイがっ・・・」
「もう一度言うわ。落ち着きなさい、キララ、マリス、フォルト。」
「っ・・・」
「は、はいっ・・・」
「くっ、ん・・・」
「キララ、少しお母さんに場所を譲りなさい。」

いつもとは違う、静かな、それでいて抗えない声にあたし達は静かにお母さんに場所を空ける。倒れたままのレイの隣にかがみ込み、その首や手、額などに手を当てながらお母さんはしきりに何かを考え込むような素振りを見せていた。

「レイっ・・・レイっ・・・」
「ご、ごめん・・・・わ、私を、かばってっ・・・」
「マリス、大丈夫だって。誰もマリスを責めないから・・・」
「レイっ・・・」

祈るように手を組み合わせていると、お母さんがようやくレイから手を離してあたし達の方を向いた。

「お母さん!レイはっ・・・レイはっ!?」
「大丈夫よ、やっぱりレイさんは頑丈なのね。頭から少しだけ血は出てるけど、それもすぐに塞がるような傷。倒れてるのは、強い衝撃で頭が揺れて気を失っているだけよ。」
「あ・・・・」
「じゃ、じゃあ・・・」
「つまり・・・?」
「しばらく静かに寝せておけば、その内ちゃんと起きるから心配いらないわね。」

安堵のため息より先に、あたしは崩れるようにその場にへたりこんだ。

「良かった・・・良かったぁ・・・」
「本当・・・一時はどうなるかと思ったわ・・・」
「まあ、よく考えたらあのレイ君がこんな石程度でやられちゃうわけないんだよね。」

そんなこと分かってる。
いや、分かってるつもりだったけど・・・やっぱり、目の前であんな風に倒れてるともう頭の中が悪い方向にばかり突き進んでしまって、ひょっとしたらレイは―――なんて考えすら肯定されてしまって、それを否定したいっていう気持ちも必死になって・・・後はもう何が何だか訳の分からない状態になっちゃって、ただレイの名前を呼ぶしかなかったのよね。

結局の所、あたしはレイが居なくなるなんて考えられなくなってるってことなのよね・・・それが、永遠の別れとかじゃ無くて、例えばレイが――――その、いつか帰っちゃうってことにしても・・・それを考えようとしない自分がいる。そんな未来を信じたくなくて、無理矢理にレイを家族にしてしまった自分がいる。そんな醜い感情すら、笑ってありがとうと言ってくれるレイに胸を高鳴らせる自分がいる。

「はぁ・・・手遅れもいいとこだわ・・・」
「え?レイ君は大丈夫だって今―――」
「あ、レイじゃなくって・・・あたしよ。」
「へ?」
「ああ、そういうことね・・・私も分かる気がするわ。」
「すいませんが、そこの人達。ちょっとレイさんを運ぶのに手を貸して下さい。」
「あ、はいっ!」
「それと、先ほどレイさんを追いかけてた方々に一言。」
「はい・・・」
「レイさんが目を覚ましたら、ちゃんと謝る様にして下さいね。それでレイさんが許して下さるまで、うちの店に入ることは許しません。」
「分かっています・・・申し訳ありませんでした。」

思ったより殊勝な態度を見せてくれる親衛隊の人達だった。
どうやら、レイが悪い連中じゃないって言っていたのはその通りらしいわね・・・まあ、レイをこんな目に遭わせておいて平然としてたら、この場で殴り倒してやるところだったけど。こんな人達ならレイもきっと笑って許してくれると思うのは、少しずつレイのことを分かってきてる証拠なのかもね。


9 :雨やかん :2006/07/08(土) 20:28:38 ID:n3oJmGtF

閑話休題 『それは過去の真実』


『おい、零!これを見てくれ!』
『ん?・・・って、親父・・・それは何だ?』
『ふっふっふ・・・これこそ私が開発したお守り!どんな危機にも瞬時に対応できるハイパーテクノロジーが集結し、車に突っ込まれようが槍に降られようが隕石にぶち当たろうが恐竜に追われようが持ち主の体を守る最強の守護者!名付けて‘いーじす君マキシマム’だっ!昨晩、時空間転送装置を開発中にひらめいたアイディアから創り出した、まさに最終護身用製品だっ!』
『・・・親父、それが結びつけられているのが俺の鞄なのは気のせいか?』
『目の錯覚さっ!』
『そんなわけあるかああああああああっ!』
『ええい、騒ぐなっ!毎日毎日、労働大国とまで呼ばれたこの国に溢れる労働者の数だけ存在する車の隣をチャリンコでひた走るお前の身を案じた親心が分からんのかっ!?これさえあれば怪我の心配なんて全く必要なしなのだぞっ!?』
『この前も似たようなこと言って持たせた弁当箱が十二時と同時に爆発したのはどういうわけだっ!何のテロかと思ったぞっ!』
『あれはっ・・・そう!失敗は成功の母という言葉を知らんのかっ!』
『失敗作を息子に持たせるんじゃねえっ!』
『お前がなんと言おうと、もはや固結びの上に二重結びを5回繰り返したこのお守りは取ること叶わんわっ!』
『まじかよっ!?』
『そう!私とお前!そして母さんの絆のようにっ!』
『だあああっ!ならハサミで―――』
『甘い!この紐もまた父さんの作った特殊軟体合金だっ!ハサミはおろかノコギリでも傷一つ付かぬ!どうしても切りたければ日本刀を持ってこい!それに今のお前にそんな時間はあるまいっ!もう出ないと遅刻だぞ?』
『何だとっ!?くそっ・・・帰ったら見てろよ!?』



『ったく・・・本当に厳重に固結びしてるし・・・ん?って、何か光っ―――――』


10 :雨やかん :2006/07/08(土) 20:29:20 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー8!


「うおうっ!?」

び、ビックリした・・・ってか、今さらながらに思ったんだが、ひょっとして俺がこの世界に飛ばされたのって・・・まさか、あのお守りのせいか?いや、それは無いな・・・どうしようもない親父だが、予定よりベクトルが違う方への発明は決してしたことがないわけで――――ん?そう言えば、どうして俺は寝てたんだっけか・・・?

「えっと・・・って、ん?」

よく見れば寝ていたのは俺の部屋。
そして寝ているのは俺だけじゃない。

「キララ・・・それに、マリスとフォルトさんまで?」

キララは俺のベッドに上半身を預けるようにうつぶせに、マリスとフォルトさんは俺のベッドを背もたれにして座り込んだまま静かな寝息を立てている。
あ・・・そっか、確か俺はマリスを庇って石を頭に食らって気を失ったんだ。それでわざわざ心配してくれて、3人とも俺の側にいてくれたってわけか・・・

「・・・ありがとう、な。」

キララを起こさないように静かにベッドから出て、ちらりと窓を見る。丸一日眠ってたらしく外はもう真っ暗で――――真っ暗?

夜!?マジか!?ちょっと待て!俺はそんなに長い間気を失ってたのかよ!いや、そんなことはどうでもいいが、それよりリリアに会いに行かないと!何も言ってないのに行かなかったりしたら、きっとリリアは落ち込むか泣くかのどっちかだ!というより、どっちもかも。やばい、すぐにでも出かけ――――

「ダメですよ、レイさん。」
「っ!?」
「まだ寝ていなければいけません。」
「ミリアさん・・・えっと、今日は、その・・・ありがとうございました。」
「あらあらあら。謝るかと思いましたけど、ちゃんと分かっていたようですね。」
「まあ、それも一つの方法ではあるんでしょうけど、この場合はお礼の方が良いかなって思いまして。」
「ええ、そうですね。それよりレイさん。まだ寝ていなければいけませんよ。」
「えっと・・・その、ですね・・・」
「たとえ、あなたが一人きりで寂しがって、下手すると泣いてるかもしれないリリアちゃんとの約束があってもです。」
「・・・マジっすか?」

ばれてるし!しかもかなり明確に!何故に!?俺はまだ一応、誰にも言ってないですよ!?知ってるのは王妃様ぐらいのもんだろ!?王妃様とミリアさんが同一人物とかいうならまだしも、いくら何でもそれはあり得ないし!一体どうして――――

「毎晩、ずっと会いに行っていれば気付きますよ。」
「で、でも、どうしてリリアってことまで・・・?」
「あの仮面でリリアちゃんと踊ったこと、私も知ってるからですよ。」
「だって、あなたは・・・ミリアさんは、あの時、舞踏会に・・・」
「いたんですよ。2人と同じで、客人として招かれていました。ただし、ヴェロンティエとは関係のない人間としてですけどね。」
「・・・へ?」
「これ、レイさんなら分かりますよね?」

そう言ってミリアさんが見せてくれたものは―――っ、も、紋章印!?どうしてそれを!?だって世界に5つしか無いってリリアが言ってたのに!?それをミリアさんが持っていたら数が合わなく―――いや、‘これで合う’のか?

「そうだ・・・先代女王の紋章印・・・」
「ええ。私も、昔はお城に勤めていたんですよ・・・その時に、リリアちゃんのお婆様から頂きました。」
「そ、それで舞踏会に―――け、けど、それでも俺はリリアに会わないと・・・」
「あらあらあら、勘違いしないで下さいね?別に、レイさんがリリアちゃんと会うことをダメとは言いません。」
「へ?」
「けれども、今のレイさんを自分の体調が完全じゃないのを理解していて、それでも行くというのがダメだと言っているんですよ。」
「あ・・・」
「確かに今晩レイさんが行かなかったらリリアちゃんはとても寂しいでしょう。けれど、無理をして万が一があったならば、そんなものでは済みません。もう二度と笑うことさえ出来なくなるかもしれないんです。それがお分かりですか?あなたは、そうしないために彼女の友達になって、毎晩毎晩、足を運んでいるのでしょう?ならば、例えリリアちゃんが泣くかもしれないと分かっていても、それでもレイさんは今日は安静にしなければなりません。それに―――――」

ミリアさんが促す方向を見ると、そこには未だに静かな寝息を立てて目を閉じているキララ達がいた。

「キララは、レイさんが目を覚ました時に側に誰もいないのは可哀想だと今日一日中ずっと目を覚ますのを側で待っていてくれました。マリスちゃんは、いつでもレイさんのために料理が作れるように準備してました。フォルトちゃんは、レイさんのイメージが悪くならないよう、代わりに出前とかお客さんの対応をしてくれました。」
「・・・今日、一日・・・ですか?」
「はい。・・・ねえ、レイさん。あなたはいつかはこの部屋からも、この店からも、この町からも、この国からも出て行くつもりなのでしょう。でも、勘違いしてはいませんか?『自分は元々ここの住人ではないのだから居なくなっても自分が来る前に、つまりは元に戻るだけなんだ』と。もしそう考えているというのなら、それは大きな過ちです。それは大きな罪です。それは大きな不幸です。」

静かに、しかし俺の心に切り込むように迫ってくる言葉に、俺は身動き一つ取れなくなっていた。

「もう元には戻れないんですよ。あなたが居ることを当然としている人達が、少なくともここに4人いるんです。あなたがいることを喜びとしている人達が、少なくともここに4人いるんですよ。あなたが居ることを自分の世界としている人達が、少なくともここに4人いるんですよ。あなたがいなくなれば、きっと4人は悲しみます。きっと4人は泣いてしまいます。きっと4人は苦しんでしまいます。もう、あなたがいないということは、4人の中ではあってはいけないことなんです。ですから、自分をもっと大切にして下さい。レイさんの体も、心も、命も、もはやレイさんだけの物ではありません。あなたは、みんなと一緒にいていいんです。」
「ミリアさん・・・」




「あなたは、いつか来る別れのためにここにいるんじゃ無いんです。みんなに望まれているからこそ、ここにいるんですよ。」



・・・別れのためじゃなく、望まれているから・・・?

「それを、忘れないで下さい。」
「・・・・はい。ありがとうございまいた。」
「では、ちゃんと寝て下さいね。」
「はい。残念だし、リリアには悪いけど・・・今日は大人しくします。4人のうち、誰に泣かれるのも嫌ですから。」
「ええ、それじゃおやすみなさい。」
「はい・・・って、キララ達はどうすれば?」
「・・・レイさん。」
「何ですか?」
「誰かを選んでベッドに一緒に寝ておくと、朝には楽しいことになると思います。」
「あなたは真剣な空気を少ししか続けられないんですか?」
「笑顔でいることが私の人生ですから。おやすみなさい。」
「3人とも放置!?」

結局、俺は大人しく自分のベッドで寝ることにした。
言っておくが、絶対に誰にも指一本たりともさわってはいない。


11 :雨やかん :2006/07/09(日) 21:27:39 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー9!



朝になってみると、レイはあたしの前に居なかった。

「っ――――!?」

跳ね上がるように起きて、そのままレイの部屋を飛び出して1階まで駆け下りる。
そして厨房に駆け込んだ時――――

「ん?よお、キララ。おはよう。」
「・・・こんの・・・」
「ん?」
「馬鹿レイイイイイイイイイイイイイイイッ!!」

‘クワアァァァン!’

放り投げた鍋をレイの額に命中させ、ひとまず溜飲を収める。終わっては居ないけどねっ!

「目を覚ましたんだったら勝手にいなくなるなあっ!あたしを起こしなさいよねっ!?何処に行ったのかって一瞬ものすごく焦ったじゃないのよっ!」
「ま、待て・・・今、もろに頭にっ・・・」
「うるさいっ!丸一日寝込んで心配させたくせに!」
「あ〜・・・そう、そのことに関してだが・・・一つ質問。」
「何よっ!?」

見当違いの質問だったら、今度は鉄板をぶつけて――――



「あのさ・・・キララ、俺のこと好きか?」



―――――はい?

「は、はああっ!?」
「いや、深い意味はないから。そこまで引くな。傷つくし。」
「ふっふ、深い意味って何よっ!?だっだいっ、大体いきなり何を聞くわけっ!?」

す、好きかですって!?そんなもん好きに決まってるでしょうがっ!もう誰にも負けないくらい好きだって自信があるわよっ!そもそも、何がどうしてそんなことを聞くのよっ!?いきなり聞かれたら、もうわけが分かんないじゃない!何!?ってかレイは一体何をしたいわけ!?こ、この状況とかはあれ!?その辺の恋愛小説とかじゃ、もう最終的な状況のあれ!?つまり、これは告白5秒前ってこと!?いきなり!?いきなり告白なんてしちゃうの!?いや、返事はもちろん了承なんだけどねっ!けど、もうちょと雰囲気ってものとかさあ!!

「お〜い・・・」
「はっ!な、何よっ!」
「すまん、言い方が悪かった。俺を好きかってのは、愛してるかってことじゃなくって、俺がヴェロンティエにいることをお前が望んでるかって意味だ。」
「・・・」
「何だよその顔は。」
「・・・いや、いいけどね・・・ちょっと自分が馬鹿みたいに思っただけだから・・・」
「気にするな。俺もその手の勘違いとかはこの店に来てしょっちゅうしてる。」
「救われる一言をどうも・・・それで、レイがここに居て欲しいかどうかってこと?」
「おう。まあ、答えは出てる気もするけど・・・一応、確認で。」

その顔はどうやらあたしの言いたいことも分かってるって顔ね・・・何か言いなりになるのも腹立つけど、まあ仕方ない。そのぐらいでレイが満足してくれるなら言ってあげようじゃないの。

「そんなの当然でしょ。あんたに居て欲しいと思ってるわよ、本気で。」
「うん・・・ありがとう。昨日から―――いや、ここに来てからの面倒とかそういったの全部含めて、本当にありがとうな、キララ。」
「何を今さら・・・それより、怪我の方は大丈夫なんでしょうね?」
「ああ、もう全く問題ないよ。」
「それじゃ、あたしはマリス達を起こしてくるから。」
「ああ。俺は準備をしとくよ。」

あたしはレイに背中を向けて、来た道を今度はゆっくりと戻る。後ろから響いてくる包丁の音があたしの中で規則正しくつながるのを感じて、ひとまずほっとする。
レイが起きてくれたことと、そしてもう一つ。
以前から感じていたレイへの一つの感情――――初めて来た時のように、いつかレイはあたしの前から唐突に消えて無くなるかもしれないといったそんな不安が、どうしてかは分からないけど、今のレイからは感じられなかったことへ。
それは、とても心が温かくなることだった。


12 :雨やかん :2006/07/12(水) 20:32:14 ID:n3oJmGtF

ふぇすてぃう゛ぉー10!


今の私の顔を見た人は口々に『どうかなされたのですか?』とお聞きになるのでしょう。いいえ、事実すでに何人もの方々が私にそうお聞きになられました。
そして私のそれへの答えは『そんなことはありませんよ。昨日は少し寝付けなくて。』といった当たり障りのないもので、誤魔化すことにしています。

「・・・リリア、どうしたの・・・?」

このお城で私のことをそのようにお呼びになるのは2人だけ・・・そう、2人だけなのですね・・・

「・・・お母様・・・」
「リリア、あなたすごい顔よ?」
「ええ・・・分かっています・・・昨日は、全く眠れませんでしたので・・・」
「どうしたの?」
「・・・あの方が、初めて・・・初めて、来られませんでした・・・」

私は自分の部屋で1人という殻の中に閉じこもるようにしていました。
たまに尋ねてくる侍女や騎士の方々への対応も、ほとんど適当にしていたように思えます。しかし、今の私にはそれに向き直ることも出来ません。
部屋に一つ置かれた小さな机、その上に置かれているのは昨晩は全く使われることの無かったお茶でした。

「あの方って・・・ファントム君、が?」
「・・・私は、何かしてしまったのでしょうね・・・」
「リリア・・・」
「お母様・・・申し訳ありませんが、少しだけ1人にして下さいませんか?・・・今は、誰とも話したくないのです・・・あの方以外は・・・いいえ、もうあの方と話すことも叶わないのかもしれませんね・・・」
「リリア、しっかりしなさい。たった一晩だけでしょう?」
「一晩だけ・・・何故、そう言い切れるのですか?」

ひょっとしたら、もう来て下さらないのかもしれないのに・・・いいえ、それだけならともかく、ひょっとしたら私のことを嫌ってしまったのかもしれないというのに・・・最悪の場合には――――


――――――私のことを、忘れてしまったのかもしれないのに―――――


「・・・怖いのです・・・あの方を、信じたいのにっ・・・振り払えないのですっ・・・あの方にとって、私の存在が消えてしまうことが・・・」
「リリア・・・」

両手で自分の体を抱きしめるように強く肩を掴みますが、それでも体の震えは止まってくれません。
いいえ、止まらないのは当然です・・・だって、本当に震えているのは体ではなく、私の心のほうなのですから・・・

「お願いします・・・今は、1人にっ・・・」
「・・・分かったわ。」

静かに部屋を出て行かれるお母様を見ることすら、今の私には出来ませんでした。

昨晩から開いたままの窓も

昨晩から置いたままの椅子も

昨晩から用意したお茶も

昨晩から動けない私の体も

全てが、もろく、儚いものに思えてしまうのは、あの方がいないから。たったそれだけだというのに、たったそれだけのことで、私の世界はひび割れ、今にも壊れそうになっていました。
ファントム様が私の心の大半を占めているのは分かっていました。分かっているつもりでした。けれど――――

――――まさか私の心の全てが、すでにファントム様に捧げられていたなんて――――

「・・・いやぁっ・・・ファン、トム様っ・・・どうしてっ・・・どうしてっ・・・?」

会いたい

会いたい!

会いたい!!

「ファントム様っ・・・1人は、嫌ですっ・・・」

そうつぶやいて、溢れてくる涙を抑え―――――

「リリアっ!!」
「――――え?」

急いで顔を上げて、窓を見ようとして・・・それは叶いませんでした。窓を見る前に、私の視界はすでに真っ暗な闇に包まれていたためです。暖かな腕に包まれていたためです。

あの方に抱きしめていただいたためです。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.