君に恋する来訪騎士(エトランジェ)


1 :瓜畑 明 :2006/11/06(月) 00:06:03 ID:PmQHLGmA

夜空を照らすもの。
それは月だ。
今、彼女の視界を覆い尽くすもの。
それは炎だ。

「アルテガ!お願いっ!」
赤く燃え上がる月夜に、可憐な声が鋭く走る。
「把握した!」
応答する返事は竹を割ったように簡潔で明確。
その返事と共にどこからか白い鎧姿の男が現れ、可憐な声の主である少女の指さす方向へと走り出した。
白鎧の速度は人知を超えて、もはや一筋の白光と化す。
白い閃光は一瞬で、襲いかかる炎の海へと身を躍らせた。


『Stesso, quelli che proteggono.  Esso il potere è sviluppato --(我、守護する者。己の力を展開する…)』


人語では解す事のできない騎士の言語が炎の中で紡がれる。
それは、荘厳にして重厚。
言葉の一つ一つが集束し、ある一つの形を作り上げる。



それは『盾』だ。



『Mio padrone è protegguto !(我が主人を守護する!)』
その声を媒介に、紡がれた言葉は完成した。
光り輝く盾が、炎の海の行く手を遮る。
それと同時に、盾から噴き出す荒れ狂う風が炎を吹き消していく。


『GARUBALINK !!(ガルバリンク!!)』


盾は展開された。
まばゆい光を放つ盾は、何者をも貫くことを許さぬとその身で示す。


2 :瓜畑 明 :2006/11/23(木) 12:44:44 ID:PmQHLGmA

1章@ 白亜の青年

まぶし過ぎる白い光。
「大江さん、七宮さん、すごい光だよ!」
篠崎伶がそう告げた時、トンネルに激しい震動が襲った。

「いたっ…い」
目を覚ますと、あたりは暗い。
激し過ぎる震動に立つことができなかったらしく、気づいてみると倒れていた。
篠崎伶は体をさすりつつ体を起こすと、ゆっくりとあたりを見回してみた。
と言っても真っ暗であることに依然変わりはなく、何かが起こるわけではない。
ただ、立てるほどのスペースがあることは分かることができた。
「大江さん?七宮さん?」
最近友達になった同級生たちの名前を呼ぶ。

突然な話だが、篠崎伶は落盤事件に巻き込まれていた。
そして、それは伶が3カ月前に入学した「清涼学園」の恒例行事「親睦ハイキング」にて起こった事だった。
行事の日の天気は別に悪くなかったし、歩くルートも危険じゃなかった。
それなのに…、この落盤はなぜか発生した。

「い、一応大丈夫っす」
「うぬう…」
二人からの返事は少しして返ってきた。
返事を返した彼女たちは、先に書いた通り最近できた伶の友達だ。
大江さんは活発で陽気な人で、七宮さんは変に古臭い言葉でしゃべる変わった人だ。
ちなみに、大江さんはスポーツが良くできるショートカットな元気少女。
七宮さんは成績優秀で日本人形の様に静かな美人、その上に由緒正しいお嬢様というご身分の人である。
まったく、なんで全て平凡をいく自分と正反対のような友達なのかだろうかと時々不思議に思ったりもする。
「大江さん、七宮さん、ライトは持ってる?」
胸をホッとなでおろしつつ、脱出のための策を必死で考える。
「ああーー、持ってないっす」
「ないなり…」
その通常とさして変わらない返答に思わず笑ってしまう。
仕方がないので手で音を出して互いの距離を確かめあう。
幸いな事に三人の距離は近かったらしく、すぐに手を握り合うことができた。

篠崎伶は申し訳ない気でいっぱいだった。
落盤事故に二人を巻き込んだのは、自分がトンネルの中で光るものを見つけたといって二人を引きとめたからと思っていたからだ。
「ごめん…、皆」
トンネルはまだ頑丈らしく、すぐに崩れてしまうような様子はない。
「いいっすよ」
「うむう…」
暗闇の中で、大江さんと七宮さんがギュウッと手を握ってくれた。
「私の我がままで、二人を巻き込んでさ…」
「目が冴えてきたっすね」
「ねむ…」
私の謝罪の言葉を二人は間抜けな返し方で遮ってくれた。

深とする暗闇の中で、伶はうむむと考え込んでいた。
落盤がなぜ急にということもあるのだが、それよりもキラリと光った白い光のことを考えていたのだ。
突飛な話だが、篠崎伶は子供の頃から何かしら不思議なモノを見ることがよくあった。
伶の記憶では、それらはどれもキラッと輝く光であった。
それは主に森や川など自然に近ければ近いほど良く見ることができた。
つまり、今みたいな状況は絶好な状況であったワケだ。
とは言え、そんなことはただの見間違いだと思うかもしれない。
「大江さんは私が言った光を見れた?」
あの光は嘘だったのだろうかと、聞いてみる。
見間違いだといわれた過去が伶にそうさせるのだ。
「光っすか?見てないっすねー」
「そっかー…」
やっぱり見間違いだったのかとハアッとため息をつく。
そうなると、まるで自分は幻覚症状にでもかかったのかなあと思わずぞっとした時。
『汝、我を見るか?』
突然、男の声がした。


3 :瓜畑 明 :2006/12/07(木) 18:58:25 ID:PmQHLGmA

一章A 声

「ほへえ!?」
それは、あまりにも突然な事で伶は体をビクリと飛び上がらせた。
「ど、どうしあたあすか!?」
「敵襲なりか!?」
伶の急な動作に二人も思わず身構える。
「ご、ごめん…、い、今、声聞こえなかった?」
驚かせてしまったことに、謝りつつ必至で二人に問い詰める。
「ほ、ホラーっすか!?し、知らないっすよ!」
「声は聞いてないなり…」
二人の返答は変な感じだったが、その声が自分しか聞こえていないことだけは良く分かった。
『驚くか?』
その声はこちらの驚きっぷりをおかしそうに笑っていた。
「あへえ!?」
「篠崎さん?」
「篠崎はん?」
暗闇の中で何とも怠けなと思うのだが、とにかく声は聞こえてくるのでしようがない。
『お主、何も知らんのか』
声は少し残念そうにつぶやいた。

とにかく、今は意味不明だった。
三人しかいないはずのトンネルの中で3人以外の声がするのだ。
『お主、埋もれているか』
「みりゃ、わかるでしょ!」
声を出さなければ会話できないらしく、大江さんたちに変に思われないようブツブツと小声で返す。
「で、あんた誰なの?」
『助かりたいか?』
こっちの質問は聞く気がないのか…。
「助かりたいわよ」
とにかく誰としゃべっているのかも分からない。
一瞬の夢だろうと半ば諦めつつ、話に乗っておく。
藁をも掴む思い…といって良いのか?
『ならば、我と契約したまえ』
「なんでも、どうぞ。とにかく外に出せるなら出してよね!」
声をちっさくするのもうっとうしくなって来た。
「はうあ!?伶さん、だ、大丈夫っすか!?」
「…ぬう?…うむう」
思わず出てしまった大声に、またもや二人を驚かしてしまった。
っというか…、もはや一人でどなったりするなんて変人と思われるなとため息をつく……と。
『相互の了承を得て契約はここに刻まれた。望むことを言いたまえ』
その声は堅苦しい呪文のようなことを呟いた後、少し高圧的にそう告げた。
「わかった」
静かにうなずいて、その声の名を待つ。
『我が名はアルテガ!』
「アルテガ、私たちを守りなさい!!」
その声と共に、再びまばゆい光があふれていく。
それは、伶が立つ地点を中心にして、四方へと溢れ出していた。


『GARUBALINK, moto!(ガルバリンク、発動!)』


人に解す事の出来ない言葉を紡がれるのを最後に、まぶし過ぎる光は暴走した。
吹き出す風とまぶし過ぎる光のため見えなくなっていく視界の中、伶が最後に見たのは白い鎧の青年だった。


4 :瓜畑 明 :2006/12/16(土) 23:16:55 ID:PmQHscke

2章@ 出会い

あの事件から数週間。
伶は平凡な高校生活を送っていた。
事件でよりいっそう絆を深めた大江さんと七宮さんとはもはや親友と呼べるほど仲が良い。
だからこそ、あの白い騎士の声なんぞ、すっかり忘れていた頃だった。
その男と出会ったのは。

「伶さん、少し…いいかしら?」
「は、はぁ」
ようやく到来の昼休み。
その日、伶は珍しく担任からのお呼び出しがあった。
「伶、何かしたんちゃうの?」
もう弁当を開き口にモノを詰めながら、大江さんがニヒヒと笑う。
ちなみに大江さんの弁当は自分の2倍ほどの大きさがあるのに、彼女は自分より痩せているのだ。
「いや…?なんかしたっけ?」
と、それはさておき、最近した事のある悪事を思い返して見ても、呼び出されることはやってない気がするのだが。
「な、七宮さん、私なんかしてたっけ?」
「……ん」
…それは、肯定なのか否定なのか。
我らが不思議娘こと、七宮さんは弁当そっちのけで紙になにやら文字を書き走っていた。
上から覗きこむが、数秒で断念する。
やたら難しい異国の言葉の羅列で意味不明なのだ。
「とにかく、行くしかないよねえ…」
弁当を食べたいのにと開こうとしていた包みを机に置き、椅子から立ち上がる。
「ああ、食べといてあげるから安心しなって」
笑顔でそう告げて包みを解こうとする大江さんにパンチでけん制して伶は小走りで教室を出た。

「先生、なんでしょうか?」
職員室ってのは本当にあんまり来たくないところだ。
なんか何もしていない(つもり)でも、なにやら怒られる気がしてビクビクする。
「ああ、篠崎さん、こっち!こっち!」
先生はすぐにこちらを見つけると手招きしてくれた。
先生の机へと向かうと、椅子に坐ってこちらを待つ先生と、その隣にこの学校じゃ見ない顔の男の人が立っていた。
先生の彼氏か何かだろうか?
それにしては若い人だなと思う。
よく見ると、その男の人はかなりのイケメンと言って良かった。
切れ長の目に、整った顔立ち。
女の自分も吃驚するような白い肌。
男らしいとは言うよりも中性的な綺麗さをもった人と言えるのだろうか。
「篠崎さん、近い!近い!」
と、ハッと我に帰ると自分の至近距離にその男の人の顔があることに気づいた。
「んな!?す、スイマセン」
男の人を観察するあまり、まったく気づかなかった。
慌てて謝って後方に下がる。
男の人は伶の驚きっぷりがおかしかったのか、頬を緩ませた。

「実はね、この人が貴方に会いたいって急に言ってねー」
気を取り直して、先生がこちらに告げる。
「はぁ。でも、なんで?」
当事者である男の人に聞けばいいんだろうが、なんというか聞きづらい感がして先生に問う。
「貴方の生き別れのお兄さんらしいのよ」
はい?
いや……、そんな設定初めて知りましたよ、という顔で先生の顔を見つめかえす。
先生も信じられないようで、しきりにチラチラと男の人の方を見ている。
「い、いやあ……」
「伶、ちょっと外で話そう」
そこで男の人が急に会話をさえぎった。
「え!?あ、あの授業がありますので…」
そういう、先生の制止もむなしく、私はひきづられるようにして学校の外へと連れ出された。


5 :瓜畑 明 :2007/05/30(水) 15:37:40 ID:ommLomoA

2章A 闘走

「すまなかった、突然突拍子もないこと言って」
場所は駅前の喫茶店。
伶は出されたアイスティーをストローで吸いながら、男の人の話を聞いていた。
「私の名前は御剣啓だ。君の兄貴だと言うのはまったくの嘘だ、すまなかった」
「はい……、で?」
御剣と名乗った男の人が自分の兄でないことは重々承知の上だが、ワザワザそこまでして自分に会う理由が知りたかった。
「急で悪いんだが、こちらも急を要することでね」
御剣はそう前置きをした後、意を決したように口を開いた。
「君の身に危険が迫ってる。だから、私と手を結んで欲しい」
「……」
さすがに伶でも冗談だと思った。
いきなり初対面の人に連れ去られるようにして喫茶店に入り、命が狙われているなどと言われるなんてまるで夢物語だ。
「す、すいません」
いくらイケメンだろうが何だろうがさすがについていけないなと礼をして席を立とうとした時。


「君は白鎧の騎士を見た事があるだろう」


そう、彼が言った。
誰も信じないような伶の見間違いだと思っていたあの事だけに、伶は思わず坐り直した。
自分を引きとめようとしたためのまぐれ的な話題かもしれないなと、少し思案して。
「御剣さん、貴方は精霊って信じますか?」
子供の頃、あまりに馬鹿にされるので聞く事をやめた質問を彼に問いかける。
「精霊に近いモノを私は知っている」
彼は質問を聞くと迷うことなくそう告げた。
「精霊に近いモノ?」
「ああ、私たちはそれをエトランジェと呼ぶ。君が見ただろう白鎧の騎士もそれに相当する」
彼は私が見たと言ったわけでもないのに、白鎧の騎士を強調した。
「……エトランジェ、ですか?」
「あぁ、心当りは無いわけで無いんだろう?」
御剣の目はもはや全てを知ったような目で伶を見つめてくる。
唾を飲み込んだ。
確かに、心当たりはある……けど、あれはレスキュー隊が助けてくれた事になっていたはずだ。
「た、確かに私は白鎧の騎士を見た覚えはあるけど、それって、私のげ……」
「幻覚じゃない、伶」
名前を呼ばれてハッと顔を上げた。
「エトランジェは一般人には見えにくい性質を持ってる。だから君が見えて他の人が見えないのはおかしい事じゃない」
「でも! なんで私なの? そりゃ事件の時に救ってもらいたいとは思ったけれど、別に私は特別なモノを持っているワケでもないのに!」
不安や蟠りを一気にぶつけるように、まくし立ててその返事を聞こうとして。



キンッ、と弾かれる音を耳にした。



「静かにっ」
表情をキッと引き締め、息を潜めるような御剣の声に、伶はくっと声を詰まらせた。
「すまない。話を説明してからと思ったんだが」
「ちょ、ちょっとぉ!?」
腕を引っつかまれ、伶は店の外に連れ出された。
「お、お客様!?」
慌ててお代を請求してくる店員に御剣は今さっきまで座っていた方を指差した。
「机の上だ!」
「ね、ねぇってば!?」
グッと捕まれた腕は固くて解けず、拳で打ち付けて抗議する。
「うるさい! 今の音を聞いただろう!」
「お、音って……」
「鋼の弾かれるような音だ! それがエトランジェ発動の音なんだ!」
御剣は伶を連れて走り出す。
「ど、どこに走るつもり?」
「自然が多ければ良い。 池や川があれば尚良いんだが」
「だったら、右!」
いろいろ文句は言ってやりたかったが、今は急を要するらしいと協力する。
御剣は一瞬伶の目を見ると、しかと頷いた。


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.