Lilac


1 :緋桜 :2011/05/08(日) 02:05:15 ID:PmQHsLm4

 はじめましての方、そうでない方。
こんにちは、あるいはこんばんは。
ここでは中学生の恋愛やら友情やら何やらかんやらをつらつらととりとめなく書いていきたいと思います。
中学生らしいピュアな恋愛や中学生らしくないどろどろした恋愛やNLやBLやGL何でもありの闇鍋小説ですので、それが許容できる方のみお付き合いくださいますようお願いします。
ちなみに時代背景(?)は貴方が今これを読んでくださってる時間より「ちょっと前」のお話ですので、そのへんもふわっとご理解くださいませ。


5 :緋桜 :2011/09/11(日) 13:42:28 ID:PmQHunWeLH

4.紫香楽さんと枢木さん U


 たったひとりとの出逢いが世界を変えることがあるなんて、知らなかった。





 光が瞼を透かして尚白く差し込んでくる。窓から注ぎ込んでくる朝陽に、リョウはそっと目を開ける。
 低血圧そうな外見に反し、リョウは存外目覚めはいい。目覚まし無しでも決まった時間に起きられる。
 毎日同じ時間に眠り、毎日同じ時間に起きる。
 毎日が、同じことの繰り返し。
 けれどそれを退屈とは思わなかった。
 否、それが退屈なのだと気付かなかった、と言う方が正しいか。
 だってそれ以外、知らなかった。
 知ることも、許されていなかった。
 リョウは無言で身を起こし、ベッドから降りる。部屋に備え付けの二段ベッドの下の段をリョウは使っていた。上の段には誰もいない。本来は二人部屋であるこの部屋を、リョウは一人で使っていた。別にリョウがわがままを言ったわけではない。紫陽花寮の女子棟は男子棟と同じだけの部屋数があるものの、男子に比べて寮で暮らす女子は少ない。だからほとんどの生徒は二人部屋を一人で使っているのだ。
 昨日引っ越してきた瑞穂もそうだ。
(……瑞穂)
 ふいに浮かんだ少女の名を、リョウは胸の中でそっと唱える。口にすることはしない。一度口に出してしまえば、消えてしまいそうな気がした。
 まるで、魔法が解けるように。
 けれど口に出さずとも、彼女のことを考えるだけで、名前を思うだけで、声を想い出すだけで、胸の奥に温もりが宿る。こんなことは初めてで―――戸惑うことしか出来ない。
 けれど、決して不快ではない。
 不思議な感覚。
 不思議な、瑞穂。
 ベッドから下りたリョウは、部屋に備え付けの洗面台で顔を洗う。初夏の水は寝起きの肌には冷たいようにも生ぬるいようにも感じた。
 濡れた顔をタオルで拭きながら、ふと目の前の鏡を見つめる。そこに映るのは、漆黒の目と髪をした気の強そうな少女。自分の顔だと言うのに、何の愛着も興味も湧かない。
 それなのにどうして、他人である瑞穂の顔には、あんなにも惹き付けられるのか。
 それは、彼女の目や髪の色のせいではない。
 理由もわからないのに、それだけはわかった。
 100円ショップで買った櫛で軽く髪をとかし、昨夜アイロンをかけておいた制服に袖を通す。
 毎日帰宅後洗濯して乾燥機にかけてアイロンをかけるのはさすがに面倒だと思わないでもなかったが、これも習慣になってしまっていた。
 「女の子なんだから身だしなみには気を使いなさい」。
 自分が女の子であることとか身だしなみとかそんなことはどうでもよかったが、一年と数ヶ月の間毎日繰り返し言われ続けているうちにいつの間にか生活リズムの中に組み込まれてしまっていた。
 指定のシャツに袖を通し、指定のスカートと靴下を履く。校章の刻まれたボタンを上から二つ目まで止めるも、指定のリボンはつけない。理由は、息苦しいから。こんなもの一つで何かが変わるわけもないと思いながらも、まるで首を締め付けられているかのような、喉元に手をかけられているような心地がした。
 一通り身支度を終えたリョウは、部屋を出て食堂に向かう。その途中の階段の前で、階上から降りてきた少女と鉢合わせ、その姿を見た瞬間、心臓が撥ねた。
 それはその少女が、先ほど思い浮かべていた少女―――枢木瑞穂だったからだ。
「あ、リョウちゃん」
 どうしてだろう。
 彼女が呼ぶだけで、自分の名前が特別のもののように思えるのは。
「おはようございます、リョウちゃん」
 歌うように言葉を紡ぐ瑞穂が身に纏うのは、リョウと同じ指定のシャツとスカート。生徒の誰もが身につけている何てことないただの制服なのに、彼女が着ているだけで、白のシャツも特別清楚に思えた。
「……おはよう」
「昨日はありがとうございました」
「……別に。私は何もしていない」
 昨日、瑞穂はリョウの住む紫陽花寮に引っ越してきた。サッカー部の数人で手伝い、あらかた荷解きを追えた後食堂で引っ越し蕎麦を食べたのだが、瑞穂はそのことを言っているのだろう。
 しかしリョウは途中参加で、サッカー部の上級生に突然拉致されて瑞穂の部屋に連行され、そこから食堂に連れて行かれ目の前に置かれた蕎麦をわけもわからぬまま食べただけで、実際には引っ越しの手伝いなどまったくしていない。だから礼を言われる筋合いなど微塵も無い。
 しかし淡々と言い捨てるリョウに、瑞穂は朝露のように綺麗な笑みを向けた。
「いいえリョウちゃんと一緒に引っ越し蕎麦を食べられたことが嬉しいんです。だから、ありがとうございます」
 本当は。
 昨日、強引にリョウの手を引く上級生の手を振り払えなかったのは、彼女が瑞穂もいるからおいでと言ったから。
 会いたかったから。
 瑞穂に。
 彼女がいるから、ついていった。
 そう言ったら、瑞穂はどうする?
 驚く?困らせる?不快にさせる?
 それとも―――。
「今日の朝食も、リョウちゃんと食べたいです。ですから、食堂までごいっしょしてもかまいませんか?」
「……あぁ」
 この気持ちを、何と呼ぼう。
 切なさにも激情にも似たこの気持ち。
 わからないけれど、こんなにも胸を篤くさせるのは、目の前のこのたった一人の少女。
 それだけは、確かだった。


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