lyrical life


1 :タオ◆VYcFomnD :2007/10/03(水) 18:53:43 ID:mmVcoiQc

『これ』がなるべくしてなった運命だというのなら、
世の中というのは実に微妙なものだ。

アンバランスも良いところ…成り立つもの等しく全てがまやかしなのではないかとさえ思ってしまう。

と。これは言い過ぎかもしれないが…。

ともかく、『これ』に満足しているかと問われれば、俺は断固として首を横に振るだろう。
だが不満なのかと問われれば、苦笑いして首を横にかしげるに決まっている。

これから話す話は、広い目で見ればどこにでもクダラナイ青臭い青春の一ページで、
しかしその実、世界中どこを探しても類を見ないほどあほらしく――素晴らしい日常という名の非日常の数々。

まぁ、簡潔に表すと、こういうことだ。

『 事実 は 小説 より 奇 なり 』

――ってね。




ちゅーがくせーという義務教育を終え、俺は無事、こーこーせーになった。
小学生なんかの頃は、高校生なんて雲の上。
というか大人と全然全く変わらない存在だと思っていた。

鞄を片手に、平日の昼間でも制服姿を誇示し、
きゃらきゃらと歩き回る彼らはまるで別の生き物のように思っていたのだ。

しかしいざなってみると、それは思っていたよりも「大人」ではなかった。

大体にして、いくら『義務』でないといってみたところで、
今の日本の教育システムではその言葉は甚だ詭弁。
京都における『ぶぶづけいかがどすか?』と同意義。
その背後には、

『いくら義務じゃねぇっつっても、行かないと人生先はねえよ?あん?』

という薄ら笑いが見て取れる。

勉強が好きでなかった俺は、それなりにそれなりの高校へ入学した。
最寄り駅から自転車で約20分。
近いんだか遠いんだか、微妙なラインだ。

特に高校生活に大きな夢や目標のようなものは持っていなかった。
平凡な三年間を過ごすのが強いていえば目標、というか。
普通に友達を作り、普通に授業を受け、
それなりに悩んだりもしながら三年間をぼんやり過ごすのだろうと、
俺は信じて疑わなかった。

事実それはある程度までは当っていた。

高校生になって二ヶ月くらいまでは。


俺の平穏無事な高校ライフが途切れたのは、
そろそろ制服移行期間にもなろうかという、六月のある日のことであった。


2 :タオ◆VYcFomnD :2007/10/03(水) 18:58:37 ID:mmVcoiQc


その日俺は柄にもなく早起きをしてしまい、何となく家を出てきてしまい、
暇をもてあましていた。
学校にいったって誰もいない教室でHRを待つだけの無駄な時間を過ごすだけだ。

俺はこの時間をどう過ごすか、悩みあぐねた挙句、
最寄り駅を降りてすぐの、駐輪場の近くにあるコンビニに入り、
昼飯を物色がてら時間をつぶすことにした。

学校の近くのコンビニということもあり、
ラッシュの時はそれこそ年末総決算大バーゲンもかくやという混雑をみせるこのコンビニだが、
まだ通勤通学ラッシュの前ということもあり、店内は嵐の前の静けさといった平穏を見せていた。

お客は俺のほかにも、バス待ちと思しきサラリーマンが数名と、OL。
私服姿のにーちゃんが一人。
そして、グレイのブレザーに身を包んだ女子高生が一人。

『お』

なんとはなしに目にした色に、一瞬俺の思考が停止した。

あの制服は、俺の通う高校のすぐ隣にある、やはり高校の制服だ。
俺が気に留めた理由はそれではなく、
その高校がいまだ持って謎に包まれた存在であるからだった。

というのも。

隣り合わせた二つの高校。
当然のごとく、通学路や行きかえりの電車で鉢合わせすることも多いのにもかかわらず、俺の高校とその隣の高校同士での知り合いというのは一人もいない。

その理由の一つには、市立と私立という違いがあげられる。

平民の俺たち市立の高校生と違って、
私立に通う彼らは文字通りおぼっちゃんおじょうちゃんだ。
俺達が通勤ラッシュの狭いバスで、人にもまれて干物みたいになってる隣で、
彼らはスクールバスなんて優雅なもので登下校をしている。

コンビニでの買い物にしたって、俺達が少ない小遣いに眉をひそめながらそっとランチパックをレジにおく隣で、
彼らは一つ399円のカルビ丼弁当を無造作にかごに放り込んでいたりする。

偏差値はさておいて、そういう世界観の違いみたいなものが何となく、
交流を避けている要因の一つだ。

しかし、理由はそれだけでは、ナイ。

一番大きな理由は、その高校が一体何をしているのかわからないが、
『普通』の高校ではない、ということにあると思う。

たとえば、俺の友達で運動部に入っているやつは、朝練のためとても早くに登校するのだが、
その登校時間よりも早くに所定の位置でスクールバスを待っている彼らを目にすることが往々にしてあるという。

しかもそういう時の彼らはとてつもなく大きいスクールバッグを抱えている。
それこそ折り曲げた人がまるごと入りそうな大きさの黒い鞄に、
さらにサブバッグまで持っているものも少なくないのだとか。

あるいは、何だか知らないが大きな板のようなものを抱えてえっちらおっちら歩くものや、
ジュラルミン加工されていると思しきケースを提げて歩くもの。

ぶっちゃけていえば、『変』なのだ。
それこそ不気味と形容しても差し障りのないくらいに。

一体あの建物の中で、何が行われているのか。
予想不能も良いところだ。

その辺の奇行とも言える行動のせいで、
俺の周りでは少なくとも、『彼ら』と接触し、
親交を深めようと思っているものは一人もいない。
傍にあるのに無きがごとく。
そんな感じの異様なイメージが常に付き纏っているのが彼らであり、その高校であった。


3 :タオ◆VYcFomnD :2007/10/04(木) 18:45:13 ID:mmVco3WD


いつも遠くからちらちら見えているだけだった制服が間近にあることで、
俺の心は少しだけ緊張していた。

眉根をよせて新発売のチョコレートを見比べているのは、
俺と同い年くらいの女子だった。
犯罪レベルにまで短いミニスカートや、そろそろ流行おくれに感じるルーズソックス。
あるいはけばけばしいメイクや無造作にくくった奇抜な髪型…。
女子高生に多くあるそのような傾向は、私立だからなのか。
彼女からは全く感じられなかった。

襟の部分が黒のグレイのブレザーに、白いブラウス。
リボンタイは鮮やかな赤で、全体的にモノトーンのデザインの制服の中で、
まるで花のように彩りを添えている。
よく見るとチェックプリントのある黒いプリーツスカートは、
膝が見えるか見えないかくらいのつつましい長さで、白いハイソックスとの境界線が絶妙だ。
そして茶色のローファー。

もちろん顔にメイクのようなものは施しておらず、
素材で勝負、という感じの素朴な印象。
髪が淡い茶色に染まっているのが当世風といえばそうか。
校則でなのか、それとも彼女の趣味の問題なのか、
片手に下げたスクールバッグにはシンプルなつくりのストラップがひとつ下がるだけで、
キャラものの馬鹿でかいマスコット等はぶらさがっていない。

後ろの髪が短く、サイドの髪だけを肩ほどまでにのばしたヘアスタイルのその女子高生は、
まじまじ凝視している俺の視線にも気付かないのか、一心不乱にチョコを選別している。

喧しいクラスの女子しか知らない俺にとって、
彼女の物静かな雰囲気は思いのほか新鮮にうつった。
もちろん口を開けば違うのだろうが、それでも遠目で見るぶんのイメージに遜色はないだろう。

やがて彼女はひとつ、チョコレートを手に持ちレジにむかった。
自然と俺の足も彼女の傍に行く。

会計をすませ、そのまま出て行こうとした彼女のポケットから、何かがはらりと落ちた。

「あ」

とるに足らない小さな紙片。

ゴミとも取れるそんなものだったが、気がつけば俺はそれを手にし、
彼女に向かって叫んでいた。

「あのっ!…これ!」

「え?」

予想よりもハスキーな声で、彼女がゆっくりふり返る。

「これ、落としましたよ」

きっちり四角くたたまれた紙片は、メモ帳をやぶったもののようだ。
もちろん中身は見ていない。

「あ。…あぁ!」

俺と俺の手元を見比べ、事の次第を理解したと見るや、彼女の顔が見る見るうちに朱に染まっていく。

「え!?」

これには俺の方が驚いた。
まさか中身を見られたと誤解されたのだろうか。

「あの、俺、中身とか見てないから!全然。
だから、安心して―…」

いまやトマトのように真っ赤になった彼女を見て、俺の顔も赤くなる。

「あの、…ありがとうございます!」

まるでバネでもついているかのように勢いよく頭をさげ、彼女はばたばたと走っていってしまった。

一人取り残された俺の手元には、相変わらず紙片が握られたまま――…。

「…忘れ物、なんだけど」

いまや完璧に人波に消えた彼女の背中に、俺の呟きが届くことはなかった。


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