死神××番


1 :一夜 :2007/10/07(日) 11:36:39 ID:o3teQ4uc

 初めまして……の方ばかりだと思います、一夜です。
 この作品は、以前連載広場で「クリスマス企画」に出させて頂いた作品です。ちょっと修正しつつ、連載ふうにしてみました。
 知っている方もいるかと思います……。
 でも、今回は『死神××番』という題名のように、話しは一つだけではありません。
 色々な死神たちがでてきて、話しを紡いでいきます。
 まずは、以前の作品、『死神87番』からスタートします。その後、今のところだと『死神66番』『死神99番』と、どんどん続く予定です。
 興味があったら、楽しみにしていて下さい。
 では、始めたいと思います。

 コレは、死ぬことが怖い、生きることが怖い、そんな死神達のおはなし。


2 :一夜 :2007/10/07(日) 11:38:50 ID:o3teQ4uc

死神87番〜今は二度と来ない〜

 死神87番。それが、ヤナの呼称だった。

 ヤナという呼び方は、87番だからだ。8(ヤ)7(ナ)番というわけだった。この呼び方で呼び始めたのは、同じ死神の女性で、ムロと言う名前を名乗っている。ムロは、死神の66番だ。

 死神は、ある特殊なケースで生まれてくる。
 死ぬ予定ではない人間が死にそうになった時、その魂が死神となる。意識のない身体に入ることが出来ない魂は、死神という仕事に縛り付けられるのだ。

 死神の仕事は一つ。魂をとることだった。
 死神には死期が迫っている人間を見分けることが出来るのだ。そして、死神はその人間の死ぬ瞬間、魂を奪う。その魂を自分に取り込むことで、そして其れを繰り返すことで死神にはあるチャンスが与えられるのだ。
 
 3つの選択。
 
 生き返ること。これは、自分の身体に魂が戻ることを指す。
 
 死ぬこと。その名の通り、生き返ることを望まず、そのまま魂を自分から放棄すること。
 
 そして、3つ目の選択が………死神になること。生き返ることを望まず、そして死ぬことも望まない。ただ、永遠に人の命を奪い続ける、そう言う存在になる。
 
 どれを選ぶかは、死神によって様々だ。
 しかし、この選択は確実にやってくる。避けられない選択。
 死神をやっている間、その死神は生きていた頃の記憶を全く持つことが出来ない。だから、生き返ることを恐れる死神は少なくなかった。
 だからといって、自分から魂を消すという選択も出来ない。だから、だから

「だから私は死神を選んだのよ」

 ムロはヤナにそう言った。
 死神は全員、真っ黒なマントをしている。それ以外には共通点がない。鎌なんて持っていない。それはヤナもムロも同様だった。
 ムロは、長い、猫っ毛ぎみな金髪を背中に垂らしながら、ヤナと歩く。

「ヤナは、もうすぐかな?」
「知らない」

 ヤナはそう言うと、ふっとドアのほうを見た。そして、そっちに歩いていく。

「いってらっしゃい」

 ムロはヤナに笑顔を見せた。ヤナはそれを見ると、頷いて一人で歩いていく。
 このドアの向こうに、死期の迫った人間がいるのだ。

 それが、ヤナの今回の………魂を奪う相手。


3 :一夜 :2007/10/08(月) 20:17:01 ID:o3teQ4uc

死神87番 死神と少女

 清潔感の漂う病室。

 風が、窓から吹いてくる。それがベットの上に開いてある本のページをめくっていく。
 ヤナは、その光景を見ているとふぅと溜息をつき、窓をそっと閉じた。そして、本に近くに置いてあった紙を挟む。
 ページが何処だったかは無茶苦茶になってしまったが、何処まで読んだかを知らないのだから、仕方がない。ヤナはそう思うと、ベッドの上で寝ている人物を見た。

 少女は静かに寝息を立てながら眠っている。風が少女の髪を揺らす。白い肌が、カーテンから漏れる太陽の光を映してよけいに白さを増していたが、頬は微かにピンク色だった。
 ヤナはその少女の顔をじっと見ていた。

 しばらく、静かな時間が流れた。やがて、少女の方がう〜んと言って寝返りをうつと、ゆっくりと目を開いた。
 そして目をぱちぱちと何度も瞬きをして、体を起こす。
 その病室は個室だった。ベッドは少女のものしか置いていない。少女は、背伸びをして、そしてふと誰もいない空間を見て、にっこりと笑った。

「おはよう、ヤナ」

 少女がそう言うと、ヤナは少女を見て軽く頷く。
 ヤナは、ソコにいた。
 少女は枕元に置いてあった本に手を伸ばすと、其れを読もうとページをめくる。髪の挟んでいたページを開き、しばらく読んでいた。が、ふと顔を上げると首を傾げる。

「ねぇ、これページが違うんだけど………」
「風」
「あ〜………なるほど」

 少女は何度か頷きながら、ページを逆戻りする。そして、再び本を読み始めた。
 静かな時間が病室に流れる。
 ヤナは備え付けてある椅子に座りながら、ぼーっと天井を眺めていた。
 やがて、少女の方が本を読み終えたらしく、パタンと本を閉じる。そして枕元日本を戻し、ヤナの方を見た。

「ね〜ヤナ。いっつも何処見てるの?」
「上」

 ヤナの答えはいつも短かった。基本的に、ヤナは会話を好んでいない。少女はそのことを知っていたが、あえて話しかけた。
「上には、なにかあるの?」
 その質問に、ヤナは少し黙って、やがて口を開き――

「天井」
「うん。だね」
 会話終了だった。

 少女は少しすねた顔になり、身体を倒してベッドに横になった。
 外から見える景色は、いつも一緒だった。それでも少女は外を見ることが好きだった。

「ヤナ………」

 少女に名前を呼ばれ、ヤナは少女を見る。
「ん?」
「屋上行きたいです」
「行けば」
「連れてって………」
「無理」
「分かってる」
「そう」
 そしてヤナは再び上を見る。

「ねぇヤナ………」
「なんだ」
 ヤナは今度は少女の方を見ずに答えた。

「いつも、来てくれてありがと………」

 その言葉に、ヤナはぴくりと身体を反応させ、少女の方を見たが、少女は目を閉じていた。眠ってしまうようだった。
 ヤナは少女が完全に眠ってしまうまで待ち、やがて少女の寝息が聞こえてくるとゆっくり立ち上がって、そっと窓から外へ出て行った。


4 :一夜 :2007/10/10(水) 21:20:23 ID:o3teQ4uc

死神87番 大垣友

少女の名前は大垣友(おおがきとも)という。小さい頃から病弱で、入退院を繰り返してきたが、小学校を卒業すると共に長期入院となり、以来入院生活を続けている。
 友には家族がいなかった。友が小さい頃、両親は二人とも事故で死んでしまい、兄弟がいなかったため一人で親戚の家に住むことになった。そして、それからしばらくして病気になってしまい、初めての入院をしたのだった。
 学校に行くよりも病院へ行く回数の方が多くなってしまった。
 たとえ学校に行ったところで、何故か体の具合がすぐに悪くなり、保健室で過ごすことがたびたびあった。

 友は一人だった。
 学校でも、家でも、そして病院でも………。

 そんなある日だった。
 ふと、誰か自分を見ているような気がした。
 目をゆっくり開けると、ソコには一人の少年が立っていた。自分と同じぐらいの年だった。

「誰?」

 この病室に訪ねてくる人は、看護師か医師ぐらいしかいない。親戚も忙しいため、めったに来られなかったからだ。小学校の時の友達、でもなさそうだった。
 少年は友と目が合うと、しばらく何も言わなかったが、やがてゆっくりと口を開いて言った。

「ヤナ」
「それって名前?」

 友の問いに、少年ヤナは頷く。聞いたことのない名前だった。しかし、それでも友は嬉しかった。

「お見舞い、来てくれたんだ」

 きっと覚えてないだけで、小学校の時の知り合いだろう。そう思い、友はヤナに笑いかけた。
 ヤナはその顔を見て、少し驚いた顔をした。が、すぐに無表情に戻り、そして備え付けに置いてあった椅子に座ると上を見た。
 何故かは分からないが、妙に気分が落ち着いてきた。ヤナがいる時、友はいつも穏やかな気持ちになれるのだった。ソレが何でかは分からない。

「ありがとう………」

 友はその日の最後に、そう言ったことを覚えている。
 そして、それから毎日友の病室にはヤナが来た。ヤナは友が眠っている間にいつも間にか来ていて、そして友が眠ってしまうと、いつの間にかいなくなっている。
 そんな生活が、4日間続いた。


5 :一夜 :2007/10/15(月) 20:06:01 ID:o3teQ4uc

死神87番 不在

「行くの?」

 ヤナが振り向くと、ソコにはムロがいた。ムロは黒いマントを肩から掛けているが、ヤナは掛けていない。友の所へ行く時は、ヤナはマントを外していく。
「行ってくる」
 そう言ってドアに手を掛けた時、ムロの手がヤナに重なった。
 ヤナがムロの顔を見ると、ムロは少し悲しそうな顔をしていた。

「なに?」
「何で………ヤナはそんなにあの子に構うの?普通は誰かを確かめに行ったら、あとは魂を奪う時以外は会いに行かないんだよ………」
「ソレ、決まってないじゃん」

 ヤナの言葉に、ムロは唇を噛み締めた。そして、そっと手を離す。ヤナはソレを確かめると、ドアを開いて中へ入っていき、そしてムロの鼻先で閉じた。
 そのドアを見つめながら、ムロはぽつりという。
「何でか知ってる、ヤナ?」
 ムロはヤナの手に重ねた自分の手を見つめる。

「ずっと一緒にいるとね、魂とるのが怖くなっちゃうんだよ………たとえ、死神は人間とは話せなくっても………」

 友は、死神のヤナを見つけてしまったのだった。
 ヤナが初めて友のもとへ行った時に、友がヤナの顔を見た。その時は寝惚けているのかと思ったが、友はヤナを見て言ったのだ。確かにヤナに。

『誰?』

 と………。それがたとえあり得ないことでも
 知っていたこと。少女には家族がいないということ。友達がいないということ。
 なにを思ったのか、ヤナは自分の名前を名乗った。それがどうなるのかはたいして考えてなかった。
 毎日行くようになった理由は、簡単なことだった。
 興味があった。
 何故かは分からないが、友に惹かれた。惹かれるようになった。

「アレ………」

 ヤナは思わず間の抜けた声を出してしまった。
 友が、いない。
 いつもいるはずのベッドは無人だった。そして窓は閉じられている。ベッドも綺麗に整えられている。友がいつもはベッドから出る時に履いていたと思われる、黄色のスリッパは消えていた。

「え?」

 辺りを見回す。友がいたという形跡が消えている。
 まるで、始めからこの部屋には誰もいなかったかのようになっている。
 友が部屋から出るのは特別な検診の時だけ。それ以外は病室から出ることは禁じられていた、はずだった。
 いない。どこにも、いない。

「っ………?!」

 その瞬間、今まで感じたことのない感情がヤナの中に生まれた。モヤモヤする。落ち着かない。友は何処だ?何処へ行ってしまった?
 ヤナは病室のドアから外へ出た。
 ヤナの姿は他の人間には見えない。だから、ヤナがどんなに友を探そうとしてもソレは無理だった。そうすることも出来なかった。

「友………?」

 ヤナの声は、誰にも聞こえなかった。

 友は、看護婦師と共に病室の前まで来ると、付き添いを断って一人で部屋へ入った。
 そして、中を見た時思わずクスリと笑ってしまった。

「ヤナ………」

 ヤナが、いつもの椅子の上に座っていた。
 待っててくれたんだ………。
 そっとヤナに近寄るが、ヤナは動かない。顔を覗いてみると、ヤナは寝ていた。
 少し驚き、そして少し笑って、そして少し涙を流した。

「友?」

 友の気配を感じたのか、ヤナが目を覚ました。

「おはよ、ヤナ」
「何処………いってた?」
「急に検査の時間が早まったの。ごめんね、心配した?看護士さんが部屋、掃除しといてくれたんだね」
 友がそう言って、チラリとヤナを見た。すると、ヤナの顔は心なしかすねた感じだった。
「あり?」
「別に、何とも思わなかった」
 唐突に言った。
 逆にソレがヤナの感情を表していて、ソレがとても幼くって………。
「あ、そう♪」

 友はベッドに戻った。
 ヤナはまだ不満そうな顔をしていた。
 そんなヤナを見て、友はそっと手を伸ばし、ヤナの手に触れようとした。ヤナは、反射的に少し手を引っ込めようとした・が、ソレをやめて友の手を受け入れた。
 友の手が、ヤナの手に触れる。その時、友のまぶたが落ちた。
 静かな寝息が聞こえる。
 ヤナは立ち上がる。
 振り向くと、友の手が誰も座ってない椅子の上に乗っていた。

「ありがと………」

 寝言だった。
 それでも、ヤナはどこか、本当にどこかが暖かい感じがした。


6 :一夜 :2007/10/16(火) 23:46:42 ID:o3teQ4uc

死神87番 未来と今

 次の日の昼下がり、ヤナは友に聞いた。ヤナから話しかけることはこれが初めてだった。

「友は、未来をみたいと思うか?」

「え?」

 友はヤナを見る。
「それって、どうゆう意味?」
「………分からない、けど未来を………みたいか?」
 友はその質問に、少し悩んだ。やがて、口を開く。

「ねぇ、ヤナ。未来って………なにかな?」
「ん?」
「だって………考えてみてよ。さっきの未来っていつ?今だよ。そして今の未来は………ほら、今!ね………。私はいつでも未来を見ているんだよ。未来を生きているんだよ。でもヤナ。私は思うんだ。今って………なにって」
「今?」
「うん。今っていつ?今って………なに?今はもう今じゃない。今って言った時はもう今じゃない。さっきの今はもう過去で、今の先はもう未来。今はいつ?何処にあるの?今はこの瞬間なんだって、いつ言える?」

 友の言葉に、ヤナは顔をしかめる。

「ヤナ………。今はね、本当に儚いんだよ。いつも一瞬で消えてしまう。今と思った今は二度と来ない。今は………もう二度と、今として私たちのもとには訪れないんだ。だってさっきの今は今じゃなくって………ぁ〜難しいな、これ」

「なんとなく、分かるような気がするよ」
 
ヤナは言った。
 何となく、分かるような気がした。友の言葉を聞いていると、何となく分かるような。
 友は、窓の外を見た。そして、言葉を漏らす。

「だから………私は今を生きるって決めたの。この一瞬を生きるって………だから………」
 この角度からは、友の表情は伺えない。友も、ヤナの方を見ようとはしなかった。

「だから私、きっと死んでも後悔しない」

 ヤナは目を見開く。声を出してしまいそうだった。立ち上がってしまいそうだった。逃げ出してしまいそうだった。
 こんな事、聞きたいんじゃなかった。
 自分が何のために友と出会ったのかを忘れてしまいそうだった。
 自分は死神。
 友の魂を奪いに来た。
 友は死ぬ。
 ヤナとあってから一週間後、友は暗い病室の中で、一人で死んでしまうのだ。
 何でこんな事を聞いてしまったのだろうか?後悔しても遅かった。友が精一杯生きていることを知っても、ヤナにはなにも出来ないのだから。逆に、その友をヤナは奪うのだ。
「………ヤナ?」
 顔を上げる。そこには、笑顔の友がいた。その笑顔が優しくて、暖かくて………とても痛い。

 ヤナは立ち上がると、病室から出て行こうとした。
「帰る」
 そう言った。
「分かった。じゃあ、ヤナ………またね」
 ドアを、閉めた。
 そしてヤナの目の前にいたのはムロだった。


7 :一夜 :2007/10/21(日) 17:02:53 ID:o3teQ4uc

死神87番 願い事

ムロの顔は険しいものだった。

「ムロ………何で」
「ヤナ、あの子と話せたんだ」

 ムロの声には怒りが入っていた。そして、ムロはヤナの襟を掴むと壁に打ち付ける。ヤナは顔をしかませ、ムロの顔を見る。
「馬鹿じゃない?なに………考えてるのよ」
「なにが?」
「何がじゃないって………!!ヤナ………ずっと、ずっとあの子と仲良くしてたの?同情?それとも暇つぶしで………?!」
 ヤナはムロを振りほどく。

「そんなんじゃない」

「じゃあ何よ!これから魂取る人と仲良くしてどうしたいの?ヤナは………ホント………!」
 ムロは言葉につまりながらも、ヤナを睨みつける。
 ソレが当然だったからだ。死神は人と話せない。話さない。なぜなら死神にとって人とは魂を取るだけの存在だから。
「約束して。もう………あの子が死ぬ日まで会わないって。魂を取る時も、決して話さないって」
 ムロの声には半分以上命令的なものが入っていた。
 ヤナは、そんなムロを見てしばらく黙っていた。が、ゆっくりと歩き出すと、ムロから離れていった。

「っ――――!!!」

 言葉が喉に詰まる。
 が、ムロは両手を堅く握って、そして走っていってしまった。


ヤナは自分でも分からなかった。

 どうして自分があんなにもあの少女………友のことを思ってしまうのか。考えてしまうのか。
 始めは何とも思わなかった。ただ、ちょっとした興味で毎日通っていただけ。なのに、今では毎日友に会わなければ不安になってくる。何故?

 自分にとって、友は何なのだろう?
 そして、友にとってのヤナは………。

 そしてその日もヤナは病院へ行った。
 ヤナと友が出会ってから6日目だった。友が死ぬのは、明日だった。


 友は窓の外を見ていた。季節は冬。窓の外には雪が降っていた。
 窓を開くと、手を伸ばす。そして小さな雪が指先に触れると、それはすぐに溶けてしまった。友はしばらくの間、ずっと手を外へ伸ばして雪が手については溶けるのを見ていた。

「なに、してる?」

 友が振り向くと、ソコにはヤナがいた。

「雪………触ってるの」

 友はそう言うと手を戻し、窓を閉める。

「ねぇ、ヤナ」

 ヤナは友を見る。友は、ヤナの顔をじっと見つめて、そして口を開いた。

「屋上、行きたい」
「え?」

 それは、前にも友に言われた言葉だった。しかし、今の友の表情は前とは全く違っていた。まるで、そこに行かなければいけないような、泣きそうな顔。
 友は俯きながら、再び同じ言葉を言う。
 友は外出禁止だった。身体の免疫力が他の人よりも低いため、外に出て細菌を拾ってきた場合ソレが普通の人の倍以上の影響を身体にもたらす。
 そのことは友本人も知っているはずだった。だから、ずっと我慢していた。そして、時々ふざけ半分に外へ行きたいと言っていただけ。しかし、しかしだ。

「ヤナ、お願い………」

 友は俯いたまま、ヤナに頼む。ヤナはしばらく友を見つめていた。
 思うことは一つ。
 友は明日死んでしまう。
 だったら、だったら………――――

「行くか」


8 :一夜 :2007/11/03(土) 20:44:31 ID:mmVco4xF

死神87番 生きる意味

「行くか」

 ヤナはそう言うと、そっと友の手を取った。
 あり得ないことだった。死神は人に触れてはいけない。触れることすら出来ない。だから、ヤナは力を使った。
 ヤナに触れている間は、友の姿は誰にも見えない。友が病室からいなくなっても誰も気づかない。分からない。友をそうゆう存在にしてしまうということ。
 友は、初めて触れるヤナの手を見つめた。
 その手は力強いとは言えなかったが、友はヤナの手を強く握り返す。感触がある。肌が触れ合っている。熱を感じる。
 友は俯いたままだった。だから、ヤナには友の表情が分からない。ヤナは友の手を引いてドアを開ける。友は何も言わずにヤナに着いてきた。

「友………」

 屋上へ向かう階段の途中、ヤナが不意に口を開いた。
 友は顔を上げる。
「どうして、屋上へ行きたい?」
 

 友は、答えなかった。


 そして、屋上の扉を開けた時、ずっと黙っていた友が、ずっとヤナの後ろについてきていた友が、ずっと手を握っていたはずの友が、走り出した。

「友………!」

 屋上にはうっすらと雪が積もっている。その雪の上を、友の足跡が残っていく。そして続いていく。
 友は屋上の端っこ、フェンスの所までくると、ソレを昇りだした。そして乗り越える。
 ヤナには何も理解できなかった。
 そして、友はそのまま屋上から飛び降りようとした。

「っ………!?友!」

 ヤナはそこでやっと思考が追いつき、友を呼び止める。友はチラリとヤナの方を振り返った。
 ヤナが見た友の顔。それは、今まで見たとものどれでもなかった。
 友はスリッパを脱ぐ。素足が雪の上につくと、友の足の熱が雪を溶かす。

「何………考えてるんだよ」
「ヤナ、私ね」
 友が病室から出て、初めて口を開いた。 

「私すっごく恐がりなんだ。恥ずかしいぐらい恐がり。そして寂しがり屋。聞いて。私ずっと死にたかったんだよ。生きるの、辛かったんだよ」

 ソレは、友の思いだった。
 小さな自分。広い世界に取り残され、病気のため外にも出られない。許されない。友達もいない。家族もいない。
 生きていくことが怖かった。
 このまま生きていて、どうなってしまうのかが怖かった。
 死んでしまいたかった。
 この世界から逃げて、そしてみんなのいるところへ行きたい。ずっとそう思っていた。でも同時に、こうも思っていた。
 “普通の生活をしたい。今からでもいい。外に出て、遊びたい。たくさんの人と話して、そして知りたい。たくさん、色んな事”

「ねぇ、ヤナ。どうして私なの?どうして私がこんな思いしなくちゃいけないの?」
 ここで言葉を切った。どうして?どうして私は知ってしまったんだろう?

“ソノ”事を………。

「ヤナ、私は今日を生きる意味があるの?今を生きる意味があるの?」
 そう言い、振り向いた時。
 ヤナの手が友の手を掴んだ。

「っ――――!!!」

 とっさに振りほどこうとしたが、ヤナがもう片方の手で友をフェンス越しに押さえつける。そして友の顔をじっと見つめる。

『今日を生きる意味が、今を生きる意味があるの?』

 明日死ぬことになっている友に答える事が出来なかった。
 それは決まってしまったことだから。あらがえないことだから。自分の仕事だから。
 なのに、どうして自分は………こんなにもこの少女のことを気にとめていたのだろう?

「俺は………」

 ヤナは俯いた。
 今思っていることを口に出してしまって良いのだろうか?ヤナは悩んだ。しかし、気づいてしまったのだ。

 少女を、友を気にとめていた理由。

「俺は、友に生きていて欲しい。今日を、今を………」

やっと分かったんだ。

 初めてあって、そして話して。笑って、すねて、そして泣いている。そんな友に、自分は惹かれていた。

 きっと、好きになってしまったんだ。

 死神なのに、友に生きていて欲しいと思った。友といたいと思った。友がいないと不安だった。友といると楽しかった。

「ヤナ………」

 友はヤナの言葉を噛み締めた。
 初めて言われた、生きていて欲しいという言葉。とっくの昔になくしたと思っていた言葉。どこかへ行ってしまった言葉。

 生きる意味が分からなかった。
 そんな自分が、生きていて欲しいと言われた。

 友の目からたくさんの涙がこぼれる。そしてソレが下に積もる雪を溶かしていく。
 ヤナは友に言う。

「帰ろう、病室に」

 その言葉に、友は頷いた。


9 :一夜 :2007/11/09(金) 21:18:47 ID:m3knVnuA

死神87番 決意

 暗い部屋の中、友は一人きりになった。
 目を固く閉じても、見えるのは一つ。決心した。

 ヤナは黒いマントを着る。
 友の前でこの姿で言ったことは、初めて会いに行った時の一回きりだった。それ以来着ていなかった。
 ふと、後ろに気配を感じた。

「ムロ」

「行くんだ?」

 ムロはそう聞きながら、ヤナに一歩近寄る。ヤナは頷くと、ドアに手を掛ける。

「行く」

 ヤナのその言葉に、ムロは安心した顔になる。良かった。それだけだった。

「覚悟、決めたから。決心つけたから」

 ムロはその言葉にヤナの顔を見る。
 ヤナも、ムロを見ていた。

「っ?!」
 ヤナがムロの手を握っていた。思わず顔が赤くなるムロだが、そんなムロにヤナは言った。そして行ってしまった。
 ムロは閉じられたドアを見つめていた。

 どうゆう意味だろう?なんで、なんで………

“ありがとう”なの?


10 :一夜 :2007/12/05(水) 14:10:34 ID:m3knVnuA

死神87番 その瞬間

 初めて来た時と同じだった。部屋は暗くて、そして友が一人ベッドで寝ていた。
 ヤナはゆっくりと近寄る。そして、そっと友に手を伸ばした。その時、

「遅かったね、死神さん」

 友が言った。そして、ヤナと目が合う。

「知ってたんだ………」

 ヤナが聞くと、友は頷く。
 よく考えれば当然のことだった。友は小さい頃から入院をしている。そして死神が見えていたのなら、他の死神のことを見たことがあってもおかしくはない。そして死神が何をするのかを知っていても。
 友は知っていて自分を受け入れていたんだ。
 死ぬことを知っていて、昨日あんな事をしたんだ。

「ごめん」

 あんな事を言っておいて、生きていて欲しいと言っておいて………あの時の友はきっと本気で死のうとしていた。ソレを死神の自分が止めた。意味のないことだった。
 自分の身勝手な理由で友を止めたんだ。

「ごめん………」

 唇を噛み締める。
 そんなヤナに、友は笑いかける。

「そんなこと無い。私、とっても嬉しかったよ。ヤナにああやって言ってもらえて………」
「でも、友にそんなことを言う資格は無かった」
 ヤナの言葉に、友は首を振る。
「違う。死神だからって関係ない。ヤナがああ言ってくれたから、私は今日まで生きていこうと決めた。死ぬ、その瞬間まで今を生きようって。二度と訪れない今を生きるって」

 そして、ヤナの目を見る。

「ヤナ、死神は魂を取ったらどうするの?」
「………自分に取り込む」
「じゃあ、いいよ」

「え?」

「ヤナに取り込まれるのなら、死ぬことも怖くない。ね、ヤナ………」
 友はそう言いながら、ゆっくりと目を閉じていく。
 その時、友の体調に異変が起こった。
 赤い電気がつく。アラームが鳴る。電気器具に移っていた数字が下がっていく。
 友が死ぬ瞬間が来た。発作だ。

「っ!あっ!!」
 友は苦しそうに顔をゆがめた。が、ヤナを見ると――――笑った。最後の力を振り絞るかのように、笑いかけた。
 ヤナはそっと友に手を差し伸べる。
 友は、意識が遠くなっていく。大丈夫。ヤナがいる。その思いだけがある。
 ヤナの手は友の顔をそっと持ち上げた。
 うっすらとヤナの顔が見える。その顔がだんだんと近づいていく。
 
 何で?
 
 その時、自分の唇に何かが触れたのを友は感じた。
 
 あれ?ヤナ………泣いてるの?

 暗闇が、友に訪れた。


11 :一夜 :2007/12/22(土) 22:02:05 ID:ncPiWczA

死神87番 そして少女は

光が、感じられる。
ここが天国なんだ。そっか、本当にあったんだね?お母さんも、お父さんもこんな良いところにいたのなら安心だよ。きっと寂しくなかったよね。大丈夫。私も………

ゆっくりと目を開ける。
見えるのは見慣れた天井。白い壁。白いカーテン。

体を起こす。

ここは何処?どうして?

次第に頭がはっきりしてくる。

立ち上がって、ドアを開けた。その時、一人の白い服を着た女性に止められた。

「友ちゃん!まだ寝てなきゃ駄目よ」

 看護士さん。ここは病院。天国じゃない。自分は………

「あれ?私………死んでない?」

「もう、そんなこと言っちゃ駄目よ。確かに昨日の夜は危険だったけど、私たちが着た頃にはすっかりと落ち着いた様子だったんだから」
 看護士さんに連れられて、友は再びベッドに戻された。そして看護士さんは出て行った。
 言っている意味が分からなかった。

 生きている。死んでいない。どうして?

 昨夜のことを思い出す。
 そう。ヤナが来た。ヤナは私に近づいて、そして私は発作を起こした。その時………ヤナは………

「ヤナ………ヤナ!!!ヤナ、どこ?!」

 友はベッドから出る。そして部屋中を歩き回る。

「ヤナ、ヤナ………!!!」

「ヤナはいない」
「っ………!?」

 突然の声に、友は振り返る。ソコに立っていたのは黒いマントをした女性だった。

「ヤナがいないって?どうゆう事?」
「ヤナは、あなたが死ぬ瞬間に自分の持っていた魂を全てあなたにあげたの。覚えてないよね?」
 女性の声に友はびくりと体を震わせる。
「ヤナは………ヤナは何処なの?」
「死神はね。死ぬ予定じゃない人がなるの。その人に与えられたチャンスなの。魂がたまったら、その人はその魂と自分の元々あった魂を使って生き返れる。でも、ヤナはその魂を全てあなたにあげた」
「え………?」
「魂の亡くなった死神は、自分の魂だけで彷徨うものになる。ソレはやがて闇に飲まれて消えてしまうの。ヤナもじき消えるわ」

 友は何を言われているのかが理解できなかった。
 ただ分かることは、ヤナが友に命をくれたこと。そしてヤナが消えてしまうこと。

「ヤナが………消える?」

「そう」

「やだよ!そんなの………そんなのやだ!!!」
 友はその女性に飛びつく。が、女性はソレを避けて友を見る。
「いや?そんなのいやなの?」
「いやだよ!ヤナ………ヤナに会いたい!」

「どうして?」

「どうしてって………ヤナに会いたいから………お礼、言わなきゃ………」
「それだけ?」

「え?」

 友は女性の顔を見る。女性の顔には怒りが浮かんでいた。

「ヤナが、どうしてソコまでしてあんたなんかを助けたのか………!分からないの?あんたは何とも思わなかったの?」

「っ………!!」

 友は顔をゆがめる。
 何とも思わなかったはずがない。
 何にも感じなかったはずがない。
 ヤナと出会って、友は一人ではなくなった。生きていく希望をくれたヤナ。生きていて欲しいと言ってくれたヤナ。命をくれたヤナ。

 目が覚めた時、一番に会いたかった相手。それはヤナだった。ヤナに伝えたくって、ヤナに言いたくって。何を?

「私…………」
友はぎゅっと閉じる。まぶたの裏にはヤナの姿が浮かんでくる。
こんなに見ていた。こんなに会いたかった。

なんで?
決まってる。

「ヤナのこと好き………好きだから!!!会いたい、会いたいです!」


12 :一夜 :2007/12/27(木) 15:59:31 ID:mmVco4xF

死神87番 光の存在

 そう言った瞬間、友の身体がふわりと浮いた。
 顔を上げると、ソコにはさっきの表情とはうってかわって優しい顔をした女性が立っていた。女性は友の手を握ると、そっと下におろす。

「聞いて。あなたが必要なの」
 女性は言った。
「ヤナを、闇から連れ戻すのに必要なの。あなたが。ついてきて」
 女性が友の手を引っ張る。

 断る理由は、何処にもなかった。


 その扉を開けた時、全く同じ病室に来てしまったのかと思った。しかし、違った。その部屋には窓がない。狭い部屋の真ん中にベッドがあり、たくさんのコードがのびている。

 友はそのベッドに近づく。

 寝ているのは紛れもなく、“ヤナ”だった。

 やせ細ったからだ。
 体に繋がっているいくつものコード。
 固く閉じられたまぶた。
 それでも友にはすぐ分かった。

「ヤナ………!」

「今は生きているけど、もうすぐ魂が闇に飲まれて………ヤナは本当に死んでしまう」
 女性はそう言うと、友の背中を押した。
「いい?ヤナは今………とても暗いところにいるの。闇の中よ。ソコにいたらヤナは消えてしまう。あなたは、そんなところからヤナを連れ戻せる?」
 女性の言葉が病室に響く。

「私、行きます」
 友が言った。

「ヤナは私を助けてくれた。暗闇で一人きりだった私を、生きていけないぐらい悲しかった私を助けてくれた。次は私がヤナを助ける」
 友は言い終わると、女性を見る。女性は頷くと、言った。
「分かった。でも、これだけは聞いて。あなたと出会う前のヤナはね………生き返ることにも、死ぬことにも、死神になることにも興味はなかったと思う。何も考えていなかった。でもね、あなたがヤナと出会って変わったように、ヤナもあなたと出会って変わった。聞いて。闇は深い。道も分からない。死んだものが通る道。でも、ヤナには行くべき道を示してくれる光がないの」

「私が………私が光になる!!!」
 友が言った。
 女性は微笑む。

 そう。その言葉が聞きたかったのだ。

 死んでも、生きてもいないヤナ。何処へ行けばいいのかが分からず、苦しんでいた。そんなヤナの前に現れたのが友。ヤナにとっての光は、友だった。
「ありがとう………ヤナをお願い」
 女性がそういて瞬間、友の周りが真っ暗になった。


 暗い、暗い場所。
 何も見えない。上も下も分からない。道がない。
 こんな場所から見つけることが出来るのだろうか?いや、出来る。友には自信があった。女性が言っていた。
 ヤナにとっての光。そして道を指し示してあげる。

 大丈夫。見つけられる。だって………

「あ………!」

 友は駆けだした。そして止まる。
 淡い光だった。そう、友でなければ見つけられないような淡い光。
 でも、友にはしっかり見えた。

 なぜか。

 友にとっても光はヤナだから。

 友は光を、ヤナを抱きしめる。しかし、その腕にはあまり感触がない。魂が消えかけている。
「ヤナ………私だよ、友だよ。ヤナに会いたくてここまで来たの」
 友の声に気づいたのか、ヤナが振り向いた。が、それ以外に何の反応も示さなかった。
 友はよりいっそうヤナを抱きしめる。

「ヤナっ………!!!消えないで!一緒に行こう!お願い!」

「でも俺………」
 ヤナが口を開いた。

「生きている意味が分からない。未来が見えない。待っている現実が、怖い」

 ヤナの言葉に、友は唇をかんだ。
 辛いけれど、悲しいけれどソレが一週間まえの友そのものだったから。
 何で世界は自分ばかりをこんな目に遭わすのか。みんな幸せなのに自分ばかり不幸なのか。ずっとずっと思ってた。
 
 でも違った。

「ヤナ、私言ったよね、未来って何って。聞いて。未来はいつも見えないんだよ。だって、私たちは今を生きてるんだもん。一瞬でも、儚い今を。ヤナと出会う前の私も、いつか死んじゃう未来に怯えて、見えない今を怖がっていた。でもヤナ。それって私たちだけ?違うよね。未来は誰にも見えない。誰も知らないんだよ」

 友はさらに抱く力を強める。お願い、届いて。

「だからだと思うの。だから私たちは生きているのだと。未来は分からないものだから。だから今を生きなきゃならないんだって。だって………今があるから未来があるんだよ。今って、今って二度と訪れないの。だから今を大切に生きてるんだって」

 気づくと、ヤナの瞳はじっと友を見つめていた。
 その顔に友はそっと顔を近づけ、ヤナの唇の自分の唇を重ねた。

「ヤナ、大好きだよ。一緒に帰ろう。そして一緒に生きていこう」

 その時、友を何かが抱きしめる。
 ヤナだった。

「ヤナ………!!」
「友………、ありがとう。帰ろう」
 その言葉に、友は頷く。力強く。
 その瞬間、あたりが光に包まれる。


13 :一夜 :2008/01/03(木) 21:20:24 ID:mmVco4xF

死神87番 そして……

 ムロはヤナの手を握った。
 ヤナの手は力がない。しかし、ムロはずっと握っていた。

「ねぇ、ヤナ。気づいてた?私ヤナが好きだったって………」

 一人きりの病室。

 ヤナを見つけたムロ。
 そしてヤナを死神にしたのもムロ。

「気づいてないよね………。ヤナ、私のこと嫌いだったもんね………。でも、ヤナ」

 ムロは涙を流す。
「私だって………、ヤナが消えるのいやだよ………」

 だから力を使います。

 やっぱり生き返るのには魂が必要だから。
 死神になったのに難しい理由はありません。
 本当はこんな仕事いやでした。

 でも、でもね、ヤナ。

 あなたと一緒にいられたから。それだけが死神になることを選んだ理由なんだよ。
 あなたなら死神を選ぶと思った。そしてずっと居られると思った。
 でも、違うね。
 だから私は願います。

 あなたがずっと幸せでいられるように。

「ヤナ………。私のこと、忘れないでね………」

 出来ることならずっと…………

 あなたの隣にいたかった。
 あなたの光になりたかった。





 そっと目を開くと、白い天井が見えた。
ゆっくりと顔を横に向けると、一人の少女が眠っている。

「友………」

 名前を呼ぶと、少女はぴくりと体を動かして、こちらを見た。
 そして顔を上げると、暖かい笑顔を見せた。
 少女は体を起こすと、そっと抱きしめる。だから、抱きしめ返した。

 光が二人を包み込む。

「おはよう」
 少女が言った。
「おはよう、友」


    死神87番〜今は二度と訪れない〜 完


14 :一夜 :2008/01/07(月) 09:01:16 ID:PmQHQHW4

死神66番〜選択〜

  
 死神とは、死ぬはずではない人間がなるものだ。
 死ぬはずではない人間が、死にきれずに魂だけが彷徨っている。そんな魂が死神となる。
 死神は、とにかく死ぬ予定である人間のもとへ行き、その人間が死ぬ瞬間に魂を取り、そして自分へ取り込む。それを繰り返すのだ。
 繰り返すうち、死神にはあるチャンスが訪れる。

 一つ目は生き返ること。
 もとは死ぬ予定ではなかった死神の魂は、本来あるべき身体に戻ることを許される。当然戻れば寿命が来るまで人間として再び生活することが出来る。
 しかし、これには欠点がある。
 死神として存在している間、死神は自分が生きていたころの記憶をいっさい持つことが出来ないのだ。従って、生き返ってみると実は最悪の人生だった。なんて事もあり得る。ましてや生き返っても一生動けない身体だったとうこともあるのだ。
 生き返ってみないと分からない。ある意味一番勇気のいる選択だ。

 二つ目は死ぬこと。
 これは、生き返るというチャンスを捨てることだ。この場合はチャンスを捨てることで、死神という仕事からも解放され、生きていたころの身体も本当に死ぬことになる。
 そして何もないものとなるにのだ。
 一番恐ろしい選択だ。しかし、無謀な人生をやり直すよりはマシかもしれない。が、自分から自分の魂を放棄するという選択は恐ろしいことには変わりない。

 そして三つ目。それは死神でい続けること。
 生き返ることも望めない。死ぬことも望めない。そんな死神の選択が、これだ。
 永遠に他の人の魂を奪い続ける。そして、それを取り込む。その繰り返しだ。朝も、昼も夜もない世界で生きる。
 それが死神なのだった。


 ムロはふと感じた。それは、自分が死神となってから時々感じ続けていたもの。

「………イーナが、消えた」

 死神17番が消滅した。
 そう言えば彼女は以前、自分は死ぬことを選ぶと言っていた。彼女の選択の日がどうやら今日だったらしい。そして彼女はやはり死ぬことを選んだ、ようだった。
 死神同士ではあまり交流はない。
 その理由は、お互いに無駄な干渉をしたくないのだ。それは死神という複雑な立場をわきまえてのことだった。

 しかし、その中でもムロは異質だった。ムロは死神に進んで話しかけていたのだ。
 始めこそどの死神も嫌がっていたが、そのうち何人かの死神はムロと話しをするようになった。

 死神17番もその一人だった。

 彼女は長い栗色の髪に、真っ黒の瞳を持っていた。始めはそれが綺麗で、ムロは良くそう言っていた。しかし17番はそんなムロを見ると、逆にムロの金髪の方が綺麗だと言った。
 
ムロは、17番のことを“イーナ”と呼んでいた。17番だから、1(イー)7(ナ)。そして、ムロは自分のことをムロと名乗っている。それは、自分が死神66番だからだ。

 ムロはしばらくその場に固まっていた。
 イーナは最後、どんなことを思って消えてしまったのだろう?結局、イーナは最後まで死ぬという意志を曲げなかった。
 その選択が、正しいのかも分からない。
 ムロも分からない。分かろうとも思えなかった。

 その時だった。


15 :一夜 :2008/01/12(土) 19:57:49 ID:ncPiWczA

死神66番 66番と87番

「ムローーー!」

 遠くのほうから声がした。
 ムロは振り向き、そして手を振る。誰かは分かっている。自分のことを、こんなにも親しげにムロと呼ぶのは一人しかいないからだ。

「ヤナ、終わったんだ」

 ムロはヤナに駆け寄る。

 ヤナは、ムロよりも先に死神となった青年だった。栗色の髪に、すらりと高い背。そしていつも笑顔だ。
 ムロに一番始めに話しかけてきたのも、ヤナだったのだ。ヤナとはなしてみて、ムロは他の死神に興味を持ち始めたのだった。

 ヤナは死神87番。もとはと言えば、何か番号以外の呼び方が欲しいと言い出したのもヤナだった。それを初めて聞いた時は、ムロも………もっとも、このときの呼び名は『死神66番』だった。そう、死神66番はヤナのこと、『死神87番』を馬鹿だと思った。変な奴と思った。
 だから、初めて話しかけられた日に死神66番は死神87番に言った。


「あなた、何考えてるの?」

 今までにも他の死神に同じようなことを言われたのだろう、死神87番はそんな言葉に全くひるまなかった。
 予想の範囲だったと言わんばかりに死神66番の言葉を受け流すと、

「いいじゃん、何も考えて無くたって」

 そう言って死神87番は死神66番の背中をばんばんと叩く。
 それがこの関係の始まりだった。


 ヤナは「うぅん」と背伸びをしながら歩く。ムロはその隣を歩いていた。
 特に仕事がない時はホントに暇なのが死神。ヤナはそう言っていた。ヤナの着ている服装はTシャツにジーパン、そして黒いマント。そのTシャツだが、『さかなはさかな』と意味の分からない言葉がプリントされている。
 話すようになってから、あまりにも気になってしまったのでムロはヤナにTシャツのことを言った。

「それ、変じゃない?」

 ムロの言葉にヤナは苦笑混じりにTシャツを見た。

「うん、変だ」
「………思ってたんだ」
「うん」
「ヤナのセンスかと思った」

 基本的に、死神の服装は生きていた時最後の服装。それに黒いマントを羽織るだけなのだが、ムロはいったいどうゆう経緯なのか赤いパーティードレスを着ている。
 それでもヤナの『さかなはさかな』に比べれば可笑しくない。

「何処で売ってるんだろうね?もしかして案外知っているところかも!」
「知っている所って……記憶もないのにそんなアバウトなことよく言うね、ヤナは本当に」

 ムロは呆れた口調でヤナに行った。
 ヤナがそんなムロを見てハハハと笑うとふっと真面目な顔になった。

「どうしたの?」

 急な変化にムロは少し驚く。

「うん、ちょっと……考えた。一瞬」
「一瞬……?」
「そ、一瞬」
 ヤナはクスリと笑う。

「何を?」

「ん?」
 ヤナは聞き返した。

「何、考えてたの?」

 ムロは自分よりも高い所にあるヤナの目を見つめた。時々、ヤナはこんなふうに一瞬だけといって考えることがあった。いつもはぐらかされていた。

「教えて……くれない?」
 ムロは立ち止まる。隣を歩いていたヤナも思わず立ち止まったが、少しだけ悲しそうな顔をして一歩前に出た。

―――――やっぱり教えてはくれないか

そう思ってヤナの後を追いかけようとしたが、急にヤナが止まった。

「っ?!」

「俺、生き返ろうと思うんだ」

 唐突な宣言だった。

「え……?」
 ヤナは振り返る。そしてムロの目を見つめた。


16 :一夜 :2008/01/21(月) 14:01:25 ID:o3teQGkJ

死神66番 彼の選択

「生き返ろうって思ってた。あと少しだから………」
「嘘……本当?」
 ヤナは頷く。
 ムロはヤナの瞳を見て確信した。

(嘘じゃない)

 巫山戯ていないことはすぐ分かった。巫山戯ていない時と真面目な時のヤナの表情はすぐに見分けがつく。すぐに分かる。

 ずっと………見ていたから。

「そっか……決めたんだ」
 ムロはヤナから視線をそらした。
「うん、っていうか、たぶん始めから生き返る気満々だったんだって俺って」
 急に元気そうに話し出した。
 だから急に不安になった。
 
 私はまだ………なにも考えていない………。

「ムロ?大丈夫?」
「あ、ご免!」
 ぼーっとしていたことにヤナが気になって声をかけた。

「よし、じゃあ行こう!」

 楽しそうなヤナ。ヤナはいつもこうだった。きっと死神になる前も………そんな性格だったのかもしれない。こうゆう人間だったのかもしれない。でも、それは所詮『かもしれない』だ。

「ヤナ!」
「ん?」

 ムロはヤナを呼び止めた。

「ヤナは………ヤナは怖くないの?」

「へ?」

「生き返ること………。だって………もしかしたら、もう動けない体かもしれないんだよ?一生しゃべれないかもしれないんだよ?目も見えていないかもしれないし、家族だって……知ってる人、いないかもしれない」

「うん。ひょっとしたら死んだ方がマシって思うような待遇が待っているかもね」
 ムロの言葉の続きを、ヤナは言った。
 そんな風になって欲しいなんて思っていない。でも、そうなるかもしれない。

「でも、分かんないじゃん」
「―――――っ!」

 ムロはヤナを見つめる。
「確かに生き返ることは怖いよ。でも、俺ね………」
 ヤナはムロに視線を合わせる。

「そうゆうとこ、全部ひっくるめて受け入れることにしたんだ」

 そう言って笑うヤナは、とっても綺麗だった。惹かれていった。ずっと惹かれていた。

何に?
 そう………
 自分は、ヤナのそうゆうところに惹かれていたんだ。
 自分にはないところをしっかり持っている。
 自分があるって所に………。


「ところで……ムロは?ムロはどうしたい?」
「え?!私?」

 突然ふられたことにムロは焦る。しかしふぅと息を吐いて、シュンとした。

「まだ………決めてないよ。私、ヤナみたいにそんな勇気無いんだもん」
 そればかりか、そんな選択のことすら忘れていたかもしれない。

「私も………ヤナみたいにバシッと決めれたらいいのになぁ」

 ちょっとだけ励ましてもらいたくって、甘えるようにヤナを見た。しかしヤナはいつも通りの顔で『ふぅ〜ん』と相づちを打つだけだった。
 何となくそれがムッと来てムロはヤナに食いかかる。
「何かアドバイスぐらいくれたっていいじゃん。『ふぅ〜ん』って………」
 するとヤナは困ったような顔をした。
「アドバイスってお前………そればっかはムロが決めなくっちゃなぁ。俺は何も出来ないよ」

 当然の答えだった。

 怒るなんて、すねるなんて間違っている。ましてやアドバイスなんて。
「ごめんな」
 ヤナは困った顔のまま謝った。
「あ、こっちこそ無理言って………ごめん………」

 そしてヤナは用事だと言って行ってしまった。
 ムロは後ろ姿を見ながら思った。

 もし、ヤナに「こうすれば?」って言われたら私はどうしてたのだろう?

 従ってたのかな?
 もし………もしヤナに「一緒に――――――――」

「馬鹿みたい」

 ムロはヤナから目を反らした。
 私にとって、ヤナは………どうゆう存在?


17 :一夜 :2008/02/06(水) 08:35:13 ID:PmQHQiWG

死神66番 約束

 そして、それからしばらく経った。お互い忙しくなり、ヤナとムロはあまり顔を合わせれなくなった。

 ムロはずっと考えていた。

 自分はどうしたいのか?
 どうなりたいのかを………。

「ムロ――――――――!!!!」

 それは突然だった。
「や、ヤナ!なによ突然!っていうか久し振りだし!」
 久し振りにあったヤナの顔は、いつもの笑顔だった。しかし、いつもよりも嬉しそうな笑顔だった。
「ど、どうしたの?」

「聞いて!俺………次の魂で生き返れるんだ!」

 ヤナは嬉しそうに言った。
 しかし、ムロの心は瞬間に固まった。

「今から行くんだけど、一番最初にムロに言いたくって!あ、っていっても他のヤツに言ったって真面目に聞いてくれないけどね。でも、次なんだ!」
 ムロは表情を和らげる。
 嬉しそうなヤナの声。
 いつもだったらそれを聞くだけで、こっちも嬉しくなるのに……今は………
「絶対成功しなくっちゃ!よし!」

 駄目だ。

 笑わなくっちゃ………

 駄目。

 こんな時に気づくなんて。

「ムロ?」

 思っちゃ駄目。言わなくっちゃ駄目!

 喜ばなきゃ………だって………

「おめで………と………う」

 ヤナのこと、好きなんだから。

 そうゆう事だったんだ。

 だからヤナといると楽しいんだね。ヤナの言葉一つ一つに惹かれていったんだね。
 ずっと一緒にいたかったんだ。
 あの時、きっと私はアドバイスなんていって欲しかったんじゃない。
 言って欲しかっただけ。

「ムロ?!」

 涙が流れた。

「っ!!」

 駄目。耐えられない。
 逃げだそうとした瞬間、ムロの腕をヤナが掴んだ。
「や、離して!!」
 ムロは必死に振りほどこうとするがヤナはそのままもう片方の腕も掴む。
「待てってムロ!何で泣くんだよ!」
「離して!!!」
「やだ!」
「はなし――――――――…………」

 その瞬間、ムロ体をヤナは引き寄せた。
 そして肩を抱き抱える。

「――――――――ヤナ………」

「約束しよう。俺は生き返った後、ずっとムロを待ってる。だからムロも『生き返れ』」
 強い言葉。

「っ………」

「たとえ、たとえ名前が違っていても、たとえ姿が違っていても………」
 ヤナはムロの顔にそっと自分の顔を近づける。
 ムロは涙だらけの目だったが、しっかりとヤナを見つめた。そして、唇が重なる。

「必ず、見つけるよ。そして一緒に生きよう」

 そしてヤナは生き返った。


18 :一夜 :2008/02/19(火) 12:40:28 ID:ommLuDYn

死神66番 最後の仕事

「ん………あ〜っと!」

 ムロは背伸びをした。
 ヤナがいなくなってからムロはずっと一人だった。しかしそれでもムロは笑顔であり続けた。有り続けれた。ヤナの言葉があるから。
「さてっと、行きますか!」
 ムロは黒いマントを取り出すとそれを羽織る。
 気分は落ち着いていた。
 このマントを羽織るのも、これで最後だからだ。

 そう――――――とうとう、最後の魂となったのだ。

 決められた場所へ行き、そこで魂を奪う人間の情報が頭に流れ込んでくる。それを確認し、扉に入り人間を確認した後、一週間後に魂を奪う。
 これが魂を奪うまでの簡単な流れだ。
 もっとも、一週間前の確認なんて別にしなくても良いため、たいていの死神は一発本番で魂を奪いに行く。
 ムロもそうだった。
 むしろ、一週間前に会いに行く方が嫌だった。これからある意味『殺す』相手の確認なんて………好んで行きたくはなかったのだった。
 だから今回も行かなかった。そして、その日。初めて相手の情報を取りに行った。

 頭に流されていく情報。

 そして、その瞬間、

「――――――――嘘」

 目の前が、真っ白になった。

「や、嫌………とま、止まって。お願い。止まって………」

 流れ続ける情報。

 今回のターゲットの情報。

 男。
 日本人。
 栗色の髪。
 身長は高い。
 変なプリントの入った服を着ている。

「やだ、やだやだやだやだやだやだやだやだ」

 優しそうな笑顔。
 見たことある。
 今でもまぶたの裏に焼き付いているぐらい鮮明に覚えている。

「なんで、なんで………」

 ムロは膝をつく。涙が溢れてくる。
 
名前は清水太一。

そして、

「ヤナ…………!」

 ヤナだった。


19 :一夜 :2008/03/03(月) 09:15:06 ID:ncPiWczA

死神66番 現実

 清水太一 18歳 
 家族 父 清水浩平 45歳 母 亜紀 42歳 弟 光輝 15歳
 水難事故に遭い意識不明の重体。それ以後昏睡状態が続いていたが、奇跡的に目が覚める。それからは退院して高校に通う。

「………ヤナ」
 
 ムロは学校の屋上にいた。
 下の方には元気そうに笑っている清水太一がいた。友達と一緒に楽しそうに笑っていた。怪我の後かもしれない、首元に傷跡が見える。しかしそれ以外は全くの健康だ。

 何が原因で死ぬか。
 交通事故。
 彼は今日、脇見運転をしていたトラックに轢かれて死ぬ。その際誰かを守って死ぬようだが、その守った相手は生き残るそうだ。

 皮肉。

 何が皮肉すら分からない。
 ただ一つ、明らかなことは、ムロが魂を奪うということだけだった。

 見つめる。

 清水太一は校庭でサッカーをしている。授業でやっているらしく、時々巫山戯たように変なシュートをしている。
 いつも周りに誰かがいる。
 いつも周りに笑顔を振りまいている。
 目が痛くなってきた。ムロは痛い目を無理矢理開け、それでも清水太一を見つめていた。瞳から、涙がこぼれた。
 ムロはそれをぬぐうことが出来なかった。

 刻一刻と近づく死の時間。
 下校の時間だ。
 清水太一は一人で学校の校門から出て行く。そして家に向かって歩いていく。ムロはそれを屋根を飛び移りながら付けていく。
 
 あと少しだった。
 時間が迫る。
 そして、その時が来る。

「ッ………………!!!!」

 耐えられなかった。
 ムロは飛んだ。そして、やってはいけないことをしてしまった。

「ヤナ!!!」

 ムロは清水太一の体を押し倒した。実際は触れることが出来ない。力を使い、一時的に触れられるようにして清水太一を倒したのだ。
 その瞬間、時間がずれた。
 死の瞬間というモノは本当に瞬間なのだ。その瞬間を逃すと、それはもう死の瞬間ではなくなる。だからムロはその死の瞬間を回避させた。
 当然、やってはいけないことだ。重罪。分かっていてやった。
 でも!

「………私には出来ない。出来ないよ!!!」

 ムロは清水太一の隣に膝をつき、そしてうずくまる。
 出来るわけがない。

 愛しているのに。

 約束したのに。

 だから、生き返ると決めたのに。

「出来ない………ヤナ………」
「なんだ、今の………」

 清水太一は立ち上がり辺りを見回す。しかし周辺には何も見えない。突然何かにぶつかったような気がした、ぐらいだった。
 実際、清水太一の足下にはムロがいた。当然見えるはずがない。
「変なの」
 立ち去っていく。
 ムロはその後ろ姿を見つめる。
 彼の魂をとらなければならない。とらなければきっと、厳しい罰が与えられるだろう。しかし、それでも動くことが出来なかった。

「ヤナ………」

 涙ぐんだ目。もしかしたら、いや………実際もう二度と会えないだろう。
 もともと、生き返ったとしても死神の時の記憶は消去されるのだ。会えるわけがなかった。
 それでも、それでもムロが生き返ろうと思ったわけ。それはヤナの言葉。

『必ず見つけるよ。そして、一緒に生きよう』

 叶えられない言葉かもしれない。でも、生き返れば巡り会うかもしれない。そして愛し合えるのかもしれない。思い出すのかもしれない。

 そう思うことは罪なのですか?

 お願い。

 ヤナ…………気づいて。


20 :一夜 :2008/03/05(水) 20:42:05 ID:ncPiWczA

死神66番 絶望・痛み

 ムロは静かに涙を流した。遠くなる清水太一の背中。
 そして、ムロの希望は次の瞬間砕けた。

「太一ぃ〜〜〜〜!」

 明るい女の声だった。
 女といってもあどけなさが残る、まだまだ子どものような声。ムロは顔を上げた。其処に立っていたのは清水太一と同じくらいの年であろう女の子だった。
 その呼び子絵に気づいた清水太一は、嬉しそうに手を振りながら走っていく。

 ダレ、アレ?

「わりぃ、遅くなって!」

 清水太一はその女の子に謝った。女の子はクスクスと笑うと、「いいよ」と言って隣に並ぶ。

「こんなふうに待ち合わせなんかしなく立って……みんなに早く言っちゃえばいいのに」
「………うん」

 ナニ、ソレ

「恥ずかしい?私となんか」
 女の子は不安そうに清水太一を見た。すると清水太一は顔を真っ赤にして首を横に振り、そしてまっすぐ女の子を見る。

「そんなこと無いって」
「そう。じゃあ、手ぐらい握ってよ」

 女の子は清水太一に手を差し伸べる。

 ヤメテ

 一瞬ためらったように清水太一は手を見つめたが、そっと手を伸ばして女の子の手を握った。

「あは!」
 女の子は嬉しそうに笑う。

「これで私たち、どこから見ても正真正銘のカップルだね!どーどーと!」

「………こんなことしなくたって、俺は―――――――」

 ヤメテ

「お前のこと、好きだから」

 ピシ

 何かが割れる、音がした。
 思考が停止している。
 何をして良いのかが分からない。
 自分がどうしてここにいるのかが分からない。

 どうして……

 ムロは目の前で笑い合う二人を見る。

 ドウシテ…………?

「あ、兄貴!」
 その時声がした。
 ムロはそっちを向く。そこにいたのは確か情報にのっていた男の子。
 名前は………なんだったっけ?

 ムロはそっと手を伸ばした。
 
 そうだ。

 魂、とらなくちゃ…………。

 頭痛がする。
 酷くいたい。
 目の前の笑顔が、さらに痛い。

 涙が、止まらない。

 胸が……痛い。

 どうして?

 どうしてなの…………ヤナ?


21 :一夜 :2008/03/11(火) 09:06:05 ID:ncPiWczA

死神66番 私の選択

「う゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 何が起こっているの家すら分からない。
 その時、車が一台ムロの目の前を通り過ぎた。

 交通事故――――――――

 そのフレーズが頭に響いた。
 
 オコサナキャ
 コウツウジコ

 その瞬間車はスリップを起こして歩道に突っ込んでいく。
 その先にいたのは…………

「あ」

「太一――――――――!!!!」

 女の子の悲鳴が辺りに響いた。そして、破壊音が同時に起こる。
 ムロは呆然とそれを眺めていた。そして見てしまった。その瞬間を。

 車は突っ込んでいった。それは、清水太一の弟に。清水太一はいち早くそれに気づき、そして弟に覆い被さる。そこへ車は突っ込んでいった。

 違う。

 本当は、あの女の子をかばうはずだったのだ。事故のレベルが違う。
 本当は、一人死ねば終わる事故だったのだ。魂が、死んだ魂が多い。

 一つは清水太一のモノ。

 もう一つは――――――――弟のモノだ。

「嘘」

 ムロはその場から一歩も動けない。
 しかし、清水太一の魂はゆっくりとムロに近づいてきた。そして、ムロの目の前で止まる。

「嘘」

 ゆっくりと、ムロの中に入っていった。

「う………うそだぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 取り返しの着かないことだった。
 しかし、終わってしまったことだった。
 魂を通して、清水太一という人間の記憶が入ってきた。
いつも明るくて、クラスでも笑っていて。そして、あの女の子とであった。二人は短い時間だったが、確かに愛し合っていた。時間さえあればきっと………

「―――――――――――――――私」

 どうすればいいの?
 そうつぶやこうとした瞬間、

「ここ、どこ?」

 声がした。
 顔を上げる。
 そこにいたのはあの、弟だった。
 そう、彼がムロを見ていた。
「ど、どうし――――――――――――………!!!」
 死ぬはずではなかった魂、それが死神になる。
 清水太一は死ぬべきして死んだ。しかし、彼の弟は“死ぬはずではなかった魂”なのだ。
よって、彼は……………

「どうなってるんだ?俺………………だれ?」
「ッ…………!!」

 ムロは唇をかんだ。自分のせいだ。自分が死神にした。してしまったのだ。弟は、彼はムロを見つめて言った。
「あんた、誰?」
 その顔は無表情だった。しかし似ていた。

「私は…………」

 ムロは立ち上がる。そして彼の手を取った。

「私はムロ。死神66番」

 彼の手を引いていく。
 決めた。
 私は死神になります。
 死神になって、人の死を追い続けます。それが私の罰。そして償い。
「何処………行くんだ?」
 彼は聞いた。
 私は、この子と共にいきます。この子の選択の時まで。
「おい!死神ってどうゆう事だよ!66番って!」
 彼はムロに向かって叫んだ。
 ムロは出来るだけ、本当に頑張って笑顔を向けた。その笑顔に彼はビックリしたような顔を見せる。

「これから、君にはある選択の時まで死神をやってもらうんだよ。でも大丈夫。私がずっと側にいるから」

「選択?」

「そう。それまでは………ずっと一緒。よろしくね、死神87番。ヤナ………」

「ヤナ?」
「そう」

 ムロは頷く。

「君の………君の名前」

 だから、私は死神を選択しました。

    死神66番〜選択〜 完


22 :一夜 :2008/04/07(月) 00:27:41 ID:ommLziV4

特別なお話 死神87番・病室で

静かな病室で、少女は悪戦苦闘していた。
 少女の手には真っ赤なりんごと果物ナイフ。そしてその果物ナイフで現在りんごの皮むき中。
 それはそれはゆっくりとした手つきで剥かれていくりんご。
 ところどころに赤い皮を残しながらも、りんごはようやく半分顔を見せてきた。

 そんな少女を見守るベッドの少年。
 少年はりんごを目の高さに持ち上げて慎重に皮を剥いている少女をじいっと見ていた。

「変わろうか?」
「いい!よ‥‥大丈夫だもん」

 少女は強い口調でそういいながらも、とうとう手を滑らせてりんごを落とした。

「きゃん」
「っと」

 少年はそれを床に落ちる前にキャッチする。

「ほら、貸してみろよ」
「うう」
 
 果物ナイフを受け取った少年は、それは上手にりんごの皮を剥いていった。
 少女はそれを面白くなさそうに見ている。
 やがて剥き終わったりんごは皿の上に綺麗に切り分けられ、少年はそれを少女に差し出す。
 少女はその皿を怪訝そうな顔で見た。
「え‥‥なに?」
「なにって、友が食いたいから剥いたんだろ?」
 少年はさも当然のようにそういった。
「ち、違うよ!!私は‥‥光輝くんに食べて欲しくて」
「あ、ごめん」
 少女、友はうつむく。
 少年、光輝はりんごをつまんで口に放り込んだ。

 ここは病室。
 光輝はつい最近まで交通事故にあって意識不明の重態だった。
 しかし奇跡的に昏睡状態から回復し、そして意識を取り戻した。その時なぜか彼の元に居たのは見知らぬ少女、友だった。
 はじめは一切の面接禁止の部屋にどこから入ってきたのか、そして友が着ているパジャマから、どこかの入院患者だと思われたが、どこの入院患者なのかも分からず、結構騒がれた。
 しかし、あれから数週間。
 友はびょういんを退院した。そして光輝に会いに行った。
 光輝のほうも病状は良くなってきていて‥‥といっても、元から外傷のほうは直っていたため、今は検査の毎日なのだが、それでも退院は間近だった。

 あの奇妙な出会い。
 少女と死神の少年は、いまでは普通の生活を送ろうとしていた。
 友もそれを喜んでいた。
 ようやく、生きる意味をつかんだ。一緒に生きていこうと誓った。
 あの日。
 結局友は病室に急いで戻らなければいけなかった。でも、しっかりと約束したのだ。
 あの時

『ヤナっ‥‥私!』
『大丈夫だ。また会える。絶対に迎えにいく。それまで待っていろ』
『っ!』
『あと、な。俺の名前は光輝だ。思い出した。次からはそう呼んで』

 名前も分かり、結構あわただしいまま病室をあとにした友。
 その後、なんだかんだで友のほうが先に退院してしまったので、こうなったらと意気込んで再び光輝の病室に踏み込んだ。
 面接遮断はなくなっていて、普通の一般病室・とまではいかないが普通の一人部屋に光輝は移されていた。
 緊張しながらもそっとドアにノックをして、声を待つ。

『はい』

 聞こえた声は、あの夢のまま。

『こう、き』

 呼びなれない名前を口に出しながらドアを開ける。
 そしてその姿を見る。
 しかし

「でも友。なんで俺の名前は『くん』付けなんだ?」
「だって‥‥」

 友は光輝の姿を見た。
 友の年齢は現在14歳。中学2年生だ。
 しかし目の前に居る少年は現在17歳。たったの3歳さと思うが、この差は友にしたら結構大きい。しかも、見た目の変わっている。
 あの日は気づかなかったが、ぐんと大人びて見えた。

(死神の頃は同じぐらいだったのに)

 友は少し俯く。
 そんな友を見て、光輝はふうとため息をつくとともの手を握った。
「ひゃあ!」
 突然の感触に驚くとも。
 しかし、後期の顔を見てすぐに顔が真剣になる。
「光輝くん‥‥」
「なんでそんなに引いてるんだ?」
 どの言葉が急に胸を締め付ける。
「なんでそんなに怖がってるんだ?」
 そんなつもりは‥‥無かった。
「俺が‥‥」
 そんなこと

「嫌いになった?」
「そんなこと無い、よ!」

 友はぎゅっと光輝の手を握りかえす。
「そんなことない」
「そうか」
「ただ、ね」
 友はその手を両手で包み込む。
 それでも余ってしまう大きい手。
「光輝くんの方が、私にがっかりしてないか不安だったの」
 きっとがっかりしているだろう。
 自分はこんなにも大きいのに、私は子供。
 再びあったとき。あのドアを開けたとき。
 貴方はとても驚いた顔をしていた。
 私はそれを忘れることが出来ない。

「ごめんなさいっ」

「ばか」

 突然抱きしめられた。
 彼の大きい体にすっぽりと入ってしまう、少女の小さな体。細い腕。柔らかい髪。
 光輝はそれをそっと抱き寄せる。
 あの時、再び友と会ったとき。
 あまりにも小さな少女に、光輝は驚いたのだ。
 これが、友。
 自分の大切な存在。
 守らなければならない人。
 こんなにも小さい。
 こんなにもか弱い。
「びっくりしたのは‥‥友があまりにもちっさかったからだ。俺のほうが不安になった。俺は‥‥」
 光輝はそっと友の頬に手を添える。
「つりあわないんじゃないかって。大きすぎて逆にがっかりしなかった?」
 その言葉に、友は首を大きく横に振った。
「そんなこと無いよ!光輝くんこそ私なんかじゃつりあわないって思って」
「そんなこと無い」
「っ‥‥」
 近づく距離。
 そして
「ずっと好きだから」
 重なる唇。
 愛してる。

 暗い病室で始まった奇跡。
 一人ぼっちの少女と、一人ぼっちの死神。
 お互いに光を捜し求め、やっと見つけた存在。
 絶対に離さない。
 何があっても。

 私の光は−−−−−−−あなただから。


「友」
「光輝っ‥‥」

 話は再び始まる。
 次は、ここから。


    特別なお話・死神87番 病室で〜完〜


23 :一夜 :2009/02/26(木) 14:38:05 ID:ommLuDYm

死神99番 〜イレギュラー〜

 死神99番は、他の死神とは違う存在だった。
 ひとつ。彼女には生前の記憶があると言うこと。
 ひとつ。彼女は死んだ時の傷跡が残っていると言うこと。
 そして彼女は誰よりも小さかった。
 
 死神99番は、いつも通りの場所へ向かった。そこは、他の死神も寄りつかない場所。
 死神達の間では、『成れの果ての先』と呼ばれる場所。
 そこが死神99番の住みかだった。

「んっ……」

 死神99番は目を細める。眩しい光が、『成れの果ての先』から彼女を照らした。
 『成れの果ての先』は、名前以上に美しい場所だった。常に白い光に包まれていて、そして暖かい。死神99番はここが好きだった。
 そのまま『成れの果ての先』を進み、死神99番はある洞窟に入っていく。

「ただいま」

 死神99番は小さな声でそう言う。すると、微かに光が強くなった。そして、

{おかえり、ハク}

 まるで、水におちる雫のような澄んだ声が響き渡った。その声に反応するかのように、光が波紋を作る。
「ただいま」
 死神99番、ハクと呼ばれた少女はその声に答える。
「今日は?何かあった?誰か来た?」
{何もないし、誰も来ない。ハクこそ、しっかり魂取ってきたの?}
「うん」
 ハクは壁にもたれてそのままずるりと座る。
{お疲れね}
「うん……」

 ハクは、ふぅと息を吐くと目を閉じた。そして、そのまま小さな寝息を立てる。
 これも、死神99番が異例なことだった。
 死神は睡眠を必要とはしない。それなのに、ハクはそれをする。普通に疲れて、そして眠る。食べるということはしないが、それでも他の死神よりはずいぶんと人らしいのだった。

{おやすみ、ハク}

 声は響き渡る。

「おやすみ………………ムロ」

 ハクは、寝言のように答えた。
 やがて、洞窟の光も弱くなっていく。

 ハクの記憶。
 ハクがこうなった原因は、交通事故だ。
 事故当時の年齢は10才。死神はその当時の背格好でいるため、ハクも12才の姿のままだ。ハクは実際にもそうなのだが、自身でもたぶん自分は一番死神の中で小さいだろうと思っている。
 とにかく、その時ハクは母親と一緒にいた。
 横断歩道を、二人で渡っていたのだ。その時、曲がってきた車が脇見をしたため、二人の存在に気づかず跳ねてしまった。スピードは落としてあったためか。ハクと母親は目だった外傷はなかった。
 しかし、当たり所が悪く、ハクと母親は強く頭を打った。

 結果、ハクの母親は搬送先の病院で死亡。

 ハク自身も意識不明の昏睡状態が続いているという、重傷だった。そして、ハクはここにいた。

 その時の記憶をも携えて。


24 :一夜 :2009/03/03(火) 00:15:11 ID:mmVco4WH

死神99番 記憶

「ムロ……」

 ハクは洞窟の壁にほっぺを付ける。洞窟の静かな冷たさが、じんわりと感じられる。
{なぁに?}
 優しい女性の声が、周りに反響しながら聞こえてくる。
「どうして……私だけ、死んだ時の記憶があるのかな……」
 ハクは小さな声で言った。
{まだ死んで無いじゃない}
 当然のようにムロは答える。しかし、ハクは首を横に振った。
「一緒だよ。っていうか、私……絶対死ぬ方を選ぶもん」
{……そう}
 下手に止めない。
 ムロは静かにそう相づちを打つと、静かになった。ハクはごろりと寝ころび、洞窟の天井を見つめる。そして、首に掛かっている、小さな貝殻のネックレスをつまみ上げる。

「お母さん……」

 そのネックレスは、ハクが母親からもらった物だった。
 ハクの母親は、世に言うシングルマザーの一人だった。若くしてハクを産み、そして学校にも通わずハクのために働き、育て、そして生きてきた。
 このネックレスは、ハクの10才の誕生日の日に母親から譲り受けたのだった。
 ハクが貰うまで、それはずっとハクの母親の首にかけられていたし、譲り受けたその日からも、それはずっとハクの首にかけられていた。
 今となっては、たった一つの形見。

 記憶がある。

 母親と一緒に歩いた横断歩道。
 ハクの見つめる笑顔。
 そして、守ろうとする姿。
 激しい衝撃、そして痛み。
 一瞬にして、世界が変わった。

 気づけば、ハクは宙に浮いていたし、母親と自分が真下で倒れているのも分かった。
 どうして自分はこんなところにいるのだろう?
 救急車が、母親とハクを運んでいく。
 
 待って!
 
 ハクは追いかけた。
 母親を。
 しかし、母親の魂は、その救急車の中で消えてしまった。
 そしてハクは、その母親の魂を取りに来た死神に連れて行かれたのだ。死神として。

 これは、ハクがこの洞窟に来た時ムロに話した話しだった。
「記憶があるの」
 そう言ったハクは、すらすらと自分の死の状況を語って聞かせた。
 あり得なかった。
 あり得ないほど、目の前の少女が痛かった。

「これね」
 ハクが口を開く。
{ん?}
「このネックレス」
{お母さんのだったよね}
「そう」
 ハクは小さく頷いた。
「二枚貝で、このネックレスも本当は二つあるんだって」
 ハクの手の中にあるネックレス。
 手作りらしく、小さなピンク色の貝に、キリで開けたような穴。そこには銀色の細いチェーンが通してある。
「お母さんに聞いたんだ……。大切な人から貰ったって」
{大切な人……}

「お父さん」

 ハクの声が、洞窟に響く。
「お父さんのこと」
{……そう言ってた?}
 ムロが聞くと、ハクは首を横に振る。
「ううん、言ってないよ。でも……写真で見た。お母さんと、男の人が……同じネックレスして写っているの」
{………お父さんだと思う?}
「うん。だって……お母さん、私がいない時に……いつもその写真見て、名前言ってたんだ。それと、大好きって……」
 ハクは目をつむり、はぁと息を吐く。
 そしてネックレスをぎゅっと胸元で握った。

「大好きだったんだね、お父さんのこと」

 ハクはつぶやくようにそう言うと、「うんしょ」と言って起きあがる。
「でも、今はいない。そして、たとえ私が生き返ったって……待っていてくれる人はいないんだ」
 ハクの声は、静かに洞窟に響くが……その声は震えていた。
「待っていてくれる人がいないのに、生きたいなんて……思えないよ」

 死神99番が、他から違うと言うこと。
 それは、彼女には死んだ時の傷跡が残っていること。

 心の傷跡が……。


25 :一夜 :2009/03/05(木) 11:20:30 ID:mmVco4WH

死神99番 96番

「おい」

「うわっ」

 ハクが振り返ると、其処に立っていたのは一人の青年だった。
 名前は死神96番だ。
 ハクはちょっと警戒するように、身を縮める。しかし、死神96番のほうは、特にそんなことを気にするも無く、ハクに近寄る。

「な、なんですか」

 思わず声がうわずる。
 ハクは死神96番が苦手だった。それは、ハクを死神の世界まで連れてきた死神こそが、死神96番だから。そして、ハクに死神というものを教えたのも死神96番。
 死神96番はハクの方を見ると、そのままハクの来た方向を見る

「また、あっちへ行っていたのか」

「………そうだけど」
 ハクは小さな声で答える。

 死神96番はしばらくそっちの方向を見ていたが、すぐにハクに視線を戻す。

「あまり、行くな」

 突然そう言うと、死神96番はハクに背を向けた。
「な………なんで!」
 思わずハクは聞き返した。そっちの方向。ハクが来た方向。『成れの果ての先』の方向。
それは、ハクには無くてはならない場所だった。
「駄目なんですか……」
 突然のことに、思わず語調が強くなるが、すぐにその声は小さくなっていく。しかし、その声に反応して死神96番は振り向いた。

「成れの果ての先。あそこは、死神がいるべき場所ではないからだ」

「っ――――――――私は……」

「お前も、死神だ」
 ハクは死神96番を見た。

「誰が、なんと言おうと。俺が知っている」

 そう言うと、死神96番は行ってしまった。ハクを残して。
 ハクはきゅっと、胸の前で手を握る。

 分からなかった。

 母親の魂を取り込んだのは、彼、死神96番。
 イレギュラーな存在であるハクを受け入れてくれたのも、死神96番。
 彼が、どんな人なのかもよく分からない。
 ただ、気づいたとき。彼はハクの近くにいた。
 それだけ。
 ハクは、その場から遠ざかる死神96番を見ていた。


 ハクは、これから取り入れに行く魂の情報を取りに行った。
 普通、魂の情報は一週間前に取りに行き、そして本人の確認をしなければいけないことになっている。
 しかし、そんな決まり事を守る死神はほとんどいない。
 これから、殺しに行く……正確には違うのだが、そんな人間を確認に行きたくなんて無いからだ。

 そんな中、ハクは違った。

 毎回一週間前に確認に行き、そして相手を見て、時が来たら魂を回収するのだ。
 辛いことだった。
 その相手が、たとえ酷い人間だったとしても……ハクはその時が来た時、必ず涙を流した。そして、その人の思いを自分に刻みつけるのだった。
 何故そうするのか。
 それは、死神96番の教えだったからだ。
 死神になった当初、ハクは死神96番に死神のルールを教えられた。その際、彼は言った。
「必ず、相手の顔を見ろ」と。そして、一週間をかけて、これから自分が魂を取り込む相手を理解し、そして受け入れろとも。
 別に、従う必要なんて無い。しかし、ハクはそれ以来しっかりと一週間前の確認に行っていた。

 そして今回。
 ハクは目を閉じる。
 頭に流れてくる映像、そして情報に身を任せた。

 男
 年は33歳
 日本人
 黒い髪
 名前は日比野隆太
 死因は階段から落ちた時に頭をぶつけ、脳内出血を起こす。その後発見も遅れ、治療が間に合わず病院で死亡。

「うん」
 ハクは頷いた。そして、白いマントを手に取ると歩き出す。彼の元に。
 その時、入れ違いに死神96番とすれ違った。

「あ……」

 ハクは、今まで死神96番の働いているところを見たことがなかった。しかし、この場所に来たと言うことは、彼もこれから誰かの魂の情報を取りに来たのだ。
「…………」
 あの日とおなじように、死神96番の背中を見てハクは口をつぐんだ。


26 :一夜 :2009/03/16(月) 10:22:55 ID:mmVco4xe

死神99番 ネックレス

 美しい声の響く、『成れの果ての先』。ハクは行く前には必ずムロに報告をしていた。
「そうだ、ムロ」
{なに?}
「あのさ……死神96番って……知ってる?」
{………クロのことね}
「くろ?」
{うん、96。ク(9)ロ(6)ってね}
 ハクに、ハクという呼び名をつけたのはムロだ。
 なぜハクかというと、100より1、少ない。漢字で100を書くと百で、そこから1を引くということで、一番上の棒を取ると、白になるからだ。
{でもどうして?}
 ハクは少し俯いた。
「………なんでもない」
 そして、行ってしまった。


 日比野隆太はフリーターだった。しかし、毎日何個ものバイトを掛け持ちし、忙しい日々を送っていた。
 定職に就かずに生活していることには、一つの理由がある。
 病気の妹の面倒を見るためだった。
 隆太と妹には既に両親がいない。二人が二十歳になる前に離婚し、二人を引き取った母親の方は、新しくできた夫と共に生活。二人の子どもはその時に二人で暮らそうと、家を出て行った。仕送りもしばらくはあったが、しばらく経ってそれは止まり、連絡先に電話をしてみたが、そこは引っ越したあとだった。それ以来、隆太は大学を途中で止めてしまい、バイトをしだした。妹の高校の学費を稼ぐためだった。
 妹はそのおかげで無事に高校を卒業。そして小さな銀行で働くことになった。隆太もそれからは定職に就いた。しかし、それから5年後。妹が急に倒れた。原因は突発性の蜘蛛膜下出血。脳への影響は大きく、そのまま意識不明になり、今では病室でずっと眠り続けるだけの日々を過ごしてきた。
 隆太は妹の入院費を稼ぐため、仕事を辞めると稼ぎの良いバイトを見つけては何個も掛け持ちをし、そして稼いできた。
 それと同時に、妹の面倒を見るためには一定の、しかも一日に数回かの時間が必要だった。定職に就いていては、それが難しかったのだった。

 隆太はドアを開ける。
 清潔に掃除された小部屋の奥、そのベッドに、彼の妹である日比野加奈が眠っているっ
のだった。現在28歳の彼女は意識がなくなってから5年間―――一1度も目を覚ますこ
とが無かった。
 隆太はそっと、窓を開いて空気を入れ換える。
 風が、伸びた彼女の髪を揺らす。隆太はそれを優しい目で見つめると、窓をそっと閉め
た。
 体を拭き、棚の上の埃を払って隆太は備え付けの小さなパイプ椅子に座る。

 ハクは、そんな隆太の後ろに立っていた。

 優しい人だな―――――――ハクはそう感じながら隆太を見ている。そして、彼の妹で
ある加奈を見る。
 静かな眠り顔。穏やか。まるで、すぐに目を覚ましそうな顔。

「…………ごめんなさい」

 ハクは小さな声で謝った。
 私は、これからあなたの大切な人を奪ってしまいます。本当にごめんなさい。
 一週間前に会うことで辛いこと。それは、本人のことを知ってしまうからだけではない。
その人の大切な人のことまで知ってしまうことも、十分に辛いことだった。
 その人がどれだけ愛されていて、どれだけ必要とされていて、どれだけ愛しているか。
 ハクは、一週間前に来ると言うことは、そう言う想いまで全てを取り入れることだと思
っている。本当に、辛い。だから、ハクは必ず涙を流したのだった。そして謝るのだった。

「ごめんなさい」と。

 死神99番、ハクは、静かに日比野隆太の最後の一週間を、共に過ごしていた。


 5日目。


 その日、日本は雨だった。台風が接近しているとかで、広範囲で大降りしていた。
 ハクの情報では、この雨はあと3日続く。そして、隆太はこの雨の中、急いで階段を上
る。その時、水で滑りやすくなっていた階段で足を滑らせ―――――――
 
 ハクは空を見上げた。そして、心のはしっこで、雨が止まないかな?っと思った。
 そんなわけ、無いのに。

 隆太は急いで帰っていた。
 深夜のバイトが長引き、いつもよりも帰りが遅くなってしまったからだ。明け方近くに
やっと開放され、家に辿り着く。当然その後ろにはハクがいた。
 ハクは、ふわぁと欠伸をしながら隆太のアパートに入る。眠ることを必要とするハクは、
隆太が眠るこの時間がかなり貴重なのだ。彼と一緒に眠り、そしてすぐに目を覚ます。そ
ろそろ慣れてきたが、今日はさらに遅かったため、眠たくって仕方ない。
 隆太は、いつも疲れたために服を着替えずに寝てしまうが、この日は雨に濡れたため服
を脱ぐ。ハクはボーっとその様子を眺めていた。
 隆太が上の服を脱ぐ。

 そこまで、ハクは半分眠い中その様子を見ていた。しかし、服が脱ぎ終わった後。彼の
胸元に、一つの小さなピンクの欠片を見つけた。

「―――――――――――――え」

 急に、目がさえ渡る。

 彼の胸元で、そのピンクの欠片はぶら下がっていた。ちょうど、ハクの胸元にあるソレ
のように。

 そう。

 それは、ピンクの、ちいさな貝殻のネックレスだった。

 それは、ハクの胸元にあるソレと、よく似たものだった。

 ハクは固まったまま動けなかった。
 それを事実として認めたくなかった。

 いつも、写真を見ながら笑っていた母親の姿が目の前に広がる。
 名前を、呼んでいた。
 なんだったっけ?よく覚えていない。
 写真も、一回だけ見せてもらった。
 どんな顔、してたっけ?よく覚えていない。
 でも、覚えている。彼は――――――――――ピンクの貝殻のネックレスをしていた。ちょうど、隆太のような………。

「うそ………だ」

 ハクはその場に崩れる。そして、そのままぎゅっと自分のネックレスを掴む。
 まさか。

「うそだ」

 隆太は、既に服を着ている。隠すようにネックレスを服の中にしまうと、いつも通り目
覚ましを隣に置いて眠ってしまった。
 しかし、ハクは眠れなかった。
 そっと、隆太の寝顔を見る。疲れ切ったその顔に、ハクは小さな声をかける。

「お父さん……、なの?」


27 :一夜 :2009/03/31(火) 10:45:12 ID:o3teQGkJ

死神99番 間違った選択

{ハク……?!どうしたの?まだ……仕事、終わってないんじゃ}
 ムロのこえが、響き渡る。しかし、ハクはその場で倒れ込み、顔を隠して動こうとしな
かった。
{ハク?}
 ムロは心配そうに名前を呼ぶ。
 今まで、仕事の後にこうなることがあっても、仕事中にこうなることはなかった。それ
が、今回になっていきなり。
{もしかして、何か……ターゲットに、何かあったの?}
 ムロは、慎重に聞いた。
 しかし、やはりハクはピクリとも動かなかった。
 
 今まで……ハクは全てを覚えていると思っていた。
 しかし、こうやって考えてみると、忘れていることもあった。

 アノ写真のこと。

 写真の風景が、どうしても思い出せない。目をつむっても、母親の笑顔はたくさん出て
くるのに。一度きりしか見たこと無い、父親の写真。断片的にしか、思い出せない。

(………あの人は、私の………?)

 ハクはそう考え、しかし心の中で否定する。
(違う!そんなわけがない!だって……だって……?)

 だって?

 だってなに?

「ウソだ……」

 信じたくない。でも、思わずにはいられない。
 そうなんだ。
 彼が……彼が。


 そして運命の雨の日が来た。

 ハクはそっと屋根の上に舞い降りた。そして、ぐっと手を握る。
 彼が、隆太が帰ってきた。やはり疲れているようだ。隆太はこのあとしばらく休む。そしてその後に病院へと行くのだ。しかし、彼は忘れ物をして、急いで家に戻る。その時の階段。その時の登りで―――――――――――
 隆太が、ふとハクの方を向いた……ような気がした。
 実際は見えているはずがないのに。それでもハクはそれに答えるように笑いかけた。
 
 助ける。

 隆太は私が助ける……たとえこの身がどうなろうとも。この魂が消えようとも。
 決意を胸に、ハクは隆太の部屋に入ろうとした。
 その時、きゅうに腕を捕まれた。

「!!」

 いつの間にか隣に死神96番、クロがいた。
 クロは真っ黒なマントを身にまとい、ずっとそこにいたようにハクの隣に存在していた。
「な……なんですか!?」
 腕を振りほどこうとするが、クロの力が強いためにそれが出来ない。
「離して……」

「成れの果ての先にいった」
 クロが唐突に言葉を発した。

「………!」

「お前、やはり死神66番と交流していたようだな」
「そ……それって悪いこと?!私はただ……受け入れてくれる人を捜していて……」
「別に咎めない。だけど……話は聞いた」
「え……」
「死神66番……ムロから」
「ムロと?」

「お前を止めて欲しいと言われた」

 ハクは絶句する。
 やはり、ばれていた。
 隆太についての決心から、ムロはやけに自分の今の仕事について口出しをしてきた。そして今朝。
 ムロはとうとうこう言ってきたのだ。

{選択を……間違えないで}

 なにを言っているか分からない振りをした。
 でも、きっとムロは自分のしようとしていることが分かったのだ。だから……止めようとした。

「そんなこと……出来ない」
 ハクはギリッと奥歯をならす。
「私がなにをしようと、あなたには関係ないでしょ!引っ込んでいてよ!」
 そう言って腕を思いっきり振りほどいた。

 そしてクロに背を向ける。
「……ほっといて。ムロには関係ない……そう言っておいて」
 小さな声でそう伝えた。

 関係ない。
 ムロにはきっと分からない。分かるはずがない。

「ムロ……のなにを知っていて、お前がそんなことを言う?」
「え?」

 クロの言葉にハクは振り返った。
「俺があいつと出会った時……アイツはまだ死神だった」
「……!ムロが……死神?」
 クロは頷いた。
「アイツは……死神でありながら、最後の選択の時……やってはいけないことをしてしまいそうになった」
「……まさか」

「ターゲットを助けようとした」

「……ウソ」
「結局、アイツが暴走したせいでターゲットは死んだ。そしてアイツは死神でいることを選んだのだ」
「し、死んじゃったの?助けようとしたのに……しかも、暴走って?」
「詳しいことは知らない。しかし、その後はアイツも死神として普通に活動していた……。だが、やはりアイツはまたとんでもないことをしてしまった」
「?」
 ハクは首を傾げる。
 まさか……まさかムロにそんな過去があったなんて。
 しかもまだあるの?
「自身の力を使い、死神を……生き返らせた」
「……へ?」
「それしか聞いてない。それ以上はアイツも言わなかった。ただ、それをしたため、アイツは体を持てなくなった。我々死神が魂の成れの果てなら……ムロはさらにその先へとおちていったのだ。それが、『成れの果ての先』」

「っ……」

 涙がこぼれそうになった。しかし、ぐっと留める。
「そういうものだ。結局そんなの成功しない……ということだ。成功したとしても、その先にあるのは……」
「その先なんてなにも求めない!」
 思わず叫んだ。
 ムロの話。
 とても悲しいと思った。
 切ないと感じた。

 でも……でも!

「あの人を失ってまで、私はその先を求めない!結局消える存在。それなら……大切な人ぐらい守りたい!守りたいよ!!」
 そしてハクは屋根から飛び降りた。
 屋根の上に取り残されたクロは、苛立ち気味にガンッっと屋根を蹴ると、その場でうずくまった。
「くそ……」
 そうつぶやき、自分の胸元をぎゅっと握る。


28 :一夜 :2009/05/02(土) 07:10:29 ID:ommLuDYm

死神99番 記憶があった理由

「あの」

「……きたか」
 いつの間にか、クロの後ろに一人の女性が立っていた。
 女性は感情のない瞳をクロに向けると、辺りを見回す。
「ここ……何処ですか?」
「……知らなくて良い場所だ。で、さっきの件は……いいな?」
 その質問に女性は頷く。
「私の仕事じゃないけど。私も後一個で選択の時なんです。だから……別に速かれ遅かれ」
 そう言うと彼女は消えた。


 ハクは顔を上げた。そしてつぶやく。
「時間……だ」


 隆太は階段から落ちた。

 そして、その時に頭部を酷くぶつける。その後救急車で意識不明の重体で運ばれ緊急手術。しかしその夜……死ぬ。

 死の瞬間……。

 そこに私がいればいいのだ。そして彼から魂を引き取り自分に取り込む。
 でも私はそれをしない。

 助ける。

 助けるからね……

 ハクはそっとベッドに横たわっている隆太の頬に触れる。
 大丈夫だよ。ずっとついてる……

「お父さん……」

 その時が来た。
 ハクはそっと隆太の胸に手を添える。本来はこうやって魂を引き取らなければならない。今回はそれとは逆のことをしようとしている。
 ハクの今まで集めた魂を隆太に流し込む。
 成功するなんて保証はなかった。
 しかし……それでもやらずにはいられなかった。

「っう……!!」

 力が流れていくのが分かった。
 ハクの意識がだんだんと薄れていく。

 しかし―――――――――――――

「やめろ」
「なっ!!」

 ハクの体が宙に浮いた。そしてそのまま後方の壁に叩きつけられる。

「ぐっ!!」

 急いで体勢を立て直した。
 そこにいたのは真っ黒な死神。直前までハクを止めた死神。なにかとハクの周りによく見かける死神。

「クロっ………!」

 死神96番。クロだ。
 ハクは初めてその呼び方で彼を呼んだ。
 クロはそんなハクに驚きの目を向けたが、すぐに鋭い目つきに戻る。

「邪魔をするな!!!さっき言ったはずでしょ?!あなたには関係ないって……!!」
「ああ……言われた。でもお前……分かっているのか?こんなことして」
「どうなったって構わない!」

 ハクは叫んだ。

 涙が溢れ出す。

「お願い……通して!!邪魔しないで……。彼は……彼は……私のお父さんなの」
「―――――――――――――」
 言葉をなくすクロ。
 しかし、ハクは言葉を止めない。

「知っての通り、私には何故か生きていた頃の記憶があるの。何でか分からない。だけど
……彼は私のお父さん。そして、この世界に残るただ一人の家族」

 諦めていた。

 一緒に事故にあって死んでしまったお母さん。

 二人っきりで生活していた私は、たとえ生き返ったとしても一人になってしまう。

 だから死のうと思った。

 早く消えてしまいたいと思った。

 そんな時に初めて知った、もう一人の家族の存在。

 どうせ諦めていた命なら……

「私の命なんか入らない!お父さんを殺してまで生きたくなんか無い!!!」
 どうして私が死神になったのか、それが分かったような気がした。

「私……このために死神になったんだよ!この時のために記憶を残していたんだよ!」

「お……お前――――――――――」
 その時初めてハクはクロの顔を見た。
 クロは、今までに見たことのないような顔をしていた。
 それがどんな顔なのかはハクにはよく分からなかった。
 しかし、ハクにはチャンスだった。
ハクはその一瞬をついて、クロに思いっきり力をぶつけた。残っていた力。隆太を生き返らすための力以外を全てクロにぶつける。

「っ!!」

 クロの胸元にその一撃は当り、クロはその場に倒れ込んだ。

「あっ……」
 一瞬ハクはあまりの威力に身を引いた。だがすぐに顔を引き締めると、再び隆太の元まで行く。
 間に合え!
 隆太に手を伸ばした。
 死の瞬間までもう時間がない。

 しかしその手は再びクロに捕まれた。クロは後ろから抱き抱えるようにハクを止めた。

「―――――――っう!!」

 ハクの表情が絶望で崩れる。
 もう一度攻撃をしようと振り返る。

 そして、振り替えた先に……小さな貝のネックレスがあった。

「な……なんであなたがソレを……」

 信じられない。
 なにが起こったのか分からない。
 しかし、それは紛れもなく、ハクが母親からもらったネックレスと同じ物だった。
そんなハクをクロは優しく抱きしめた。

「俺が……俺がお前の本当の父親だから」
 クロが言った。


29 :一夜 :2009/05/05(火) 10:02:16 ID:mmVco4xF

死神99番 真実

「ごめん。俺はずっと知っていた。そのネックレスは、俺とサヤカが初めて旅行に行った時に二人で買った物だし……その後サヤカがお前に……イチカにネックレスをあげたのも」
 ハクは胸の当りがぎゅうっと締め付けられるような気になった。

 サヤカ。
 それはハクのお母さんの名前。

 イチカ。
 それは誰にも教えなかった……ハクの本当の名前。

 信じられない思いだった。しかし、クロは名前を知っていた。それが、絶対の証拠。
「なんで……なんで教えてくれなかったの……」
 ハクの声はとても小さく、震えていた。
「俺にはそんな資格がないから。お前も知っての通り……俺はサヤカの魂を奪った。サヤカを殺してしまったんだ」
「こ……殺してなんて……」
「そして、関係のないお前まで巻き込んだ。俺も……暴走したんだ」
「えっ……?」
 ハクはクロを見る。
「お前は……どうして自分に生きていた頃の記憶があるか知っているか?」
 その質問にハクは首を横に振った。
「死神は……魂を取り込んだ人物の記憶に触れることが出来る。ようするに、その人の過去に触れることが出来るんだ。でももし……その過去の中に自分がいたら?」
「そんなこと……」
「そうだ。起こらないように決まっている。死神は生前に関わりのある人物の魂を取り込むことはタブーだ。しかし、俺の時は違った。俺は……何かの間違いでサヤカの魂を当てられてしまったんだ」
 クロはその時を思い出すかのように顔をしかめる。
「俺はなにも知らずに事故を起こした。そして……サヤカの魂を取り込んでしまったんだ。何の考えもなく。子供を守ろうとしたサヤカの魂を。そして……思い出した」

 ハクは口元を押さえる。そして、クロを抱きしめた。

「すぐにでも消えてしまいたかった。俺はなにも知らずにサヤカを殺し、そして……お前まで死神にしてしまった」
「どうして……じゃあどうして私には記憶があるの?」
「……俺が……サヤカの魂をすぐにお前に半分やったからだ」
「……うそ」
「少なくとも、お前ぐらいの年のやつで死神をやっている子供を俺は見たことがなかった。大人の死神と違い、お前には色々な物が欠けて死神になっていたのだ。その内の一つが感情」
「感情……」

「俺は……その時誓ったんだ。絶対にお前を生き返らせると。魂を集めさせて、そして選択の時は……生き返ることを選ばせるって。しかし、このままだとお前はただの抜け殻の魂だった。だから……サヤカの魂を……記憶を渡すことにした。その時……父親に関する記憶だけは抜いて」

 これで分かった。

 はっきりとしない父親の姿。
 ぼんやりとしか見えない顔。

「生きている時の記憶さえあれば……お前はそれをたよりに感情を持つことが出来た。こうして、お前は死神になった」
「そうだったんだ……」
 ハクは目を細めた。
 そして、自分の胸元にある小さな貝殻のネックレスをそっと握る。

 その時、後ろに気配を感じ、ハクは振り向いた。


30 :一夜 :2009/05/05(火) 10:04:37 ID:mmVco4xF

死神99番 良かった……

隆太の枕元に一人の人物が立っていることに気づいた。
「っ……!だれ?」
 その影は振り返ると、
「死神……40番」
 それは、黒いマントを羽織った一人の女性。死神だった。月明かりのてらす病室。ハクはその女性の顔を見た。
 それは、知っている顔だった。

「っう……!!」
 
 思わず泣きそうになった。
 女性は、この一週間よく見た顔だ。しかし、その表情はいつも眠っていて分からなかった。でも、確かに愛されていた。
 たった一人の兄から。
 そこに、横たわっている人から、一身に。
 死神40番。
 ハクは知っている。彼女の生前の名前を。
「加奈……さん!!」
 日比野加奈。それが、この女性の名前だった。
 ハクのつぶやくその名前に、死神40番は首を傾げた。覚えているはずがない。そして、気づくはずがない。
「その人だ」
 クロは、ベッドに横たわっている隆太をさす。
「このひと、ですね」
 40番は静かにベッドに歩み寄る。

 ハクは驚いた。
「な、なにをさせるの?!」
「彼女はあと一つで選択の時を迎える。だから」
 クロのこの言葉に、ハクはさっき語られたばかりの、クロと母親のことを思い出す。
「そんなこと……駄目に決まってるじゃん!!このままじゃ……40番が……!!」
 
思い出す。
 そこで横たわっている人が、自分のたった一人の大切な兄であるということを。そして、自分が何をしたのかということを。

「酷い……!!止めて!!」
「いいんだ」

 クロはハクを押さえたまま、ことが終わるのを見守った。
 そして、それは事もなく遂行された。

 二人の目の前で、日比野隆太から魂が抜き取られ、それが死神40番の中へと入っていく。が、そこで異変が起こった。

「あっ……」

 死神40番の表情が、急に変わった。
 さっきまでの無表情なものからだんだんと、苦しそうな表情へと変わっていく。

「あ……うそ……そんな……」

 40番は手をベッドへと差しのばす。
 その手が、決して触れることが出来ない隆太の頬へと伸ばされた。徐々に生気の失せていく隆太。
 その時。
「加奈……?」
 そっと、その唇が開いた。そして焦点の合わない瞳が、けっして見ることのできない死神40番へと向けられる。
「お……お兄……ちゃん」
 死神40番は、涙を流しながらその瞳を見つめた。
 聞こえるはずがない。
 見えるはずがない。
 
なのに

 隆太は微笑んだ。そして、差しのばされた死神40番の、加奈の手を取ると、
「よかった、加奈で」
 そう言うと、隆太の手は力がなくなり、滑るように落ちていった。
 部屋中の機械類が、一斉に隆太の死を知らせた。

 鳴り続ける音の中、その時がきた。
 そう、死神誰もが等しくやってくる時。

 選択の時。

 白い光の中が、部屋を包み込む。
 その中心にいるのが、彼女。死神40番。日比野加奈。
加奈は、その光を見上げるように立ち上がった。そして、選択の言葉を口にする。

「私は……死を、選ぶ」

 ハクは、その場に座り込む。涙は止まらなかった。
「ご、ごめん、なさい」
 口から出るのは謝罪の言葉ばかり。
「私が……私が!!」
 普通に仕事をしていれば、加奈がこんな思いをすることはなかった。
 あんなにも大切に思っていた人の魂を自身に取り込むなんて事、しなくても良かった。
 それを言おうとしたが、加奈の顔を見て言葉が詰まった。
 もっと辛い顔をしているのかと思った。
 泣きじゃくっているのかと思った。
 しかし、そのどれでもなかった。

 加奈は微笑んでいた。

「違う」

 一言、そう言うと加奈はすでに動かない隆太を見つめ、そして自分の胸元に手を置く。
「これで良かった」
「っ……!!」
「このまま死神を続けること、私には耐えられなかった。だからって死ぬことも怖い。でも生き返ったあともどうなるのか……ずっと不安だったの」
 加奈は語る。
 この思いは、きっとどの死神も持っているだろう。
「もし、このまま生き返ることを選んだ時……。私はきっと一人っきりだった。私はそれに耐えられない。お兄ちゃんもそう。私たちはずっとお互いの存在だけを生き甲斐にしてきたから。ここで、どっちを犠牲にしても……待っているのはただの孤独。だから……いまは死ぬことが怖くない。そこにはお兄ちゃんが待っていてくれるから」
 笑っていた。
 死後の世界が存在するのかは分からない。
 しかし、加奈は思う。そこに、隆太はいる。最愛の家族が。
「ありがとう」
 加奈はハクとクロの方を見つめる。
 消えかけの加奈の胸元で、小さなネックレスが揺れた。それは、小さな片割れの貝殻。そして、もう片割れは、隆太の胸元にあったそれだろう。
「最期の最期に、会えて良かった」

 光の中、それに溶けていくように加奈は消えた。


31 :一夜 :2009/05/05(火) 10:08:07 ID:mmVco4xF

死神99番 待ってます

 静かな光が、二人を迎え入れた。
 そこは『成れの果ての先』。そして、澄んだ声が二人に語りかけた。

{おかえり}

「ムロ……私……」
 ハクは壁に触れる。光を放つが、それは冷たい質感を持つ。それでもハクは構わなかった。
「私、ね」
 その後ろには、クロがいた。クロはハクの肩に手を置くと、自分もハクのように壁に手を伸ばした。
 その行動に、ハクは少し驚いた。そして言う。
「……生きようと思うの」

 しばらくの沈黙が続いた。
 が、やがて光の波紋と共に声がする。

{きっと……覚えてないわ}

 静かな声だった。
「ムロ……」
 クロが口を開く。
{そうよ、覚えてないの。生き返った死神は……死神でいた時のことを忘れちゃうのよ。全部ね}
 吐き捨てるような言葉。
 どこまでも悲しい言葉。
 それはかつて、ムロが体験したこと。
{だから……}
「俺は生き返る」
 クロが宣言する。
{でも、きっと忘れる}
「そうだろう」
 即答した。ハクは、驚いてクロを見つめる。
「そして、きっと思い出す。サヤカのことを」
{……!!!}
「自分たちの子どもの存在を」
「お父さん……」
 クロは壁から手を放し、ハクを抱きしめた。ハクも、クロに手を回す。
「大丈夫だ。絶対に見つけるから。お前が……イチカが目覚めた時、俺はそこにいる。そしてイチカの手を握っている。生き返った時、イチカが一人じゃ無いように」
 力強く抱きしめた。
 放さない。
 一度は放してしまった存在。
 もう一度、離れる日はきっとそんなに遠くない。クロはそう感じていた。それはハクも同じ。
 でも、絶対に見つける。
 信じている。
「お父さん……!!」
 ハクはその腕にしがみついた。
 自分は、この腕に抱かれたことがあったのだろうか?ハクはそれすら覚えていなかった。でも、確信できる。
 サヤカは、きっとこの腕に抱かれていた。
 ようやく会うことが出来た。ハクとクロ。二つに分かれていたサヤカの魂が、二人のつながりを通して一つになるのを感じた。
 そして、思い出していく。
 あの日。


「海だ―――――――――!!!」
「沙也香、はしゃぎすぎ」

 一組の男女が、砂浜にいた。陽はもう傾きかけている。

「私、海に来たの初めてだもん。はしゃぐよ」
 彼女は嬉しそうに笑った。
「そっか。免許とって良かったな、俺。これからはいつでも連れてきてやるぞ」
 彼も嬉しそうに笑う。
「ふふ、道に迷い迷い?」
「だーーーー!!もう迷わないって」
 二人は笑いながら海に向かっていった。
 その時、彼女がしゃがみ込んだ。
「どうした?」
 彼が彼女の元まで行き、覗き込む。
「みて、綺麗」
 彼女の手には、小さな二枚貝の貝殻があった。
「これ、二人で分けようよ」
「げ、恥ずかしいな」
「いいじゃん。雑誌で見たんだよ。大切な人同士で一つの貝殻を分け合うと、元は一つだったものだから、絶対に離ればなれには……ならないって」

 陽にてらした貝殻が、輝いていた。


「うそ、うそ、うそ!!!」
 彼女は扉の前で叫んでいた。
 やがて、赤いランプが消える。
 そこから運び出される彼の瞳は、かたく閉じていた。一瞬立ちすくむが、すぐに駆け寄る彼女。
「やだ……やだよ、そんな……目を覚まして……」
 そんな彼女の元に、一組の夫婦がやってきた。
「あっ……」
 彼女は夫婦のほうを見る。
「残念だけど、もう目を覚まさないかもしれない」
 重い口取り。
「うそ!!だって私たち……まだ……」
「あの話は……無かったことにしましょう。幸い、まだ役所には提出していないでしょ」
「そんなの……!!」
 彼女の手には、一枚の紙があった。
「今日、出すはずだったの!!大丈夫、私待てるから……」
 しかし、夫婦は首を横に振った。
「あなたはまだ若いわ。きっとこの先……いい人に巡り会えるから。だからもう、この子のことは忘れて」
 そう言うと、夫婦は去っていった。
 面会謝絶の日が続き、しばらくして病院に連絡を取ってみると、彼は転院していた。そしてその行方は分からなくなった。


「あなたの名前はイチカよ」
 彼女の手の中には、一人の赤ん坊がいた。
「私の大切な人との子ども」
 慈しむ。そして、抱きしめる。
「あなたには教えてあげるわ。あの日、私は電話して教えてあげたの。妊娠したって。名前もね、前から決めてたのよ。イチカ。一華。なのに、ね……すぐ来るって言って……」
 赤ん坊の額に、涙がこぼれた。
「大丈夫。泣くのはもう……我慢する。いつか、あなたが大きくなったら……あなたのパパのこと、いっぱい教えてあげるからね。それまでは内緒よ。ね」
 彼女の胸元には、小さな貝殻のネックレスが光っていた。


「だあれ、その人」
「この人?ママの大切な人よ」
「あ、ママと同じのしてる」
「そうね。これ」
 彼女は胸元のネックレスを外した。
「大切な人なのよ。そして、これも。でも……いつか、一華にあげるから」


「ハッピーバースデー、一華」
 彼女は、そっとネックレスを外して少女にかけた。
「ありがとう、ママ!!」
 少女は嬉しそうに、ネックレスを見つめる。
「さあ、お出かけに行きますか。ね、一華。海に行こうか」
「海!?行く!!」
 二人は手をつないだ。
 横断歩道を渡る。そして、その時が訪れた。

 薄れていく意識の中、彼女はそれを見た。
 そして、静かに微笑みながら、彼に託した。

「ね、待ってたでしょ?あとはよろしくね……悠人……」


 死神99番〜イレギュラー〜 完 


novel plaza system
甘辛流小説家ギルドGAIA
produced by COLUN.